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Y Combinatorが「ベーシック・インカム」の実験をまもなく開始
シリコンバレーのアクセラレーター、Y Combinatorは2016年1月、ベーシック・インカム(最低限所得保障制度)に関する研究の計画を発表しました。そして今、興味深い社会実験となる可能性を秘めた、この研究の輪郭が見えてきました。
いわゆる「ユニバーサル・ベーシック・インカム(普遍的基礎所得/UBI)」の支持派は、ごく基本的なニーズをまかなうのに足るお金を全員に与えるという考え方に賛成しています。そしてこの制度を、米国において(必ずではありませんが)多くの場合は社会的セーフティーネットとしての役割を果たしている現在の寄せ集め的な行政サービスに代えて導入すべきだと考えています。
その主張の根拠となっているのは、このやり方を導入すれば、現在のシステムよりも効率が良くなり、人々がより自由になるという考え方です。未来の世界では、現在は人間がしている仕事の多くをロボットがするようになり、その結果、失業率が大幅に上昇すると予想されています。シリコンバレーの多くの人は、そうした未来の世界では、こうした制度が有効な手段になると見ているのです。
オークランド市を選んだ理由は、所得格差が顕著だから
Y CombinatorのSam Altman社長は2016年1月、ブログで以下のように書きました。「テクノロジーが従来の人間の仕事を排除し続け、巨大な富が新たに形成されていくのに伴い、将来のどこかの時点で、この制度が何らかの形で、国家規模で導入されることになると確信しています」
このプロジェクトのリーダーとしてY Combinatorが選んだのは、Elizabeth Rhodes氏でした。同氏は先ごろ、ミシガン大学でソーシャルワークと政治学の博士号を取得しています。彼女が行った最新の研究は、ケニアのナイロビにあるスラム街における医療・教育に関する行政サービスに焦点を絞ったものでした。
Y Combinatorは、この実験を行う場所も決めたようです。カリフォルニア州オークランドです。Altman社長が先日投稿したブログによると、オークランドには今回のパイロット・プロジェクトに適した多くの利点があるそうです。まず、所得格差が顕著で、その意味では米国全体を体現しているという点。人口構成が多様性に富んでいるという点。そして、カリフォルニア州マウンテンビューに本社を構えるY Combinatorから近い位置にあるという点です。「私たちが現地に持つリソースや結びつきは、この研究を効果的に計画・実施する力になります。それにより、最高の研究成果を得られるものと期待しています」とAltman社長は書いています。
最後に、たぶんこれが一番重要なことですが、Y Combinatorには、このパイロット・プロジェクトで何を達成したいのかがわかっています。同社の狙いは、現金を給付する方法やデータを集める方法、サンプルを無作為に選ぶ方法を学ぶことにあります。実験参加者がそれぞれいくら受け取ることになるのかは明らかになっていません。
ベーシック・インカムを研究するのは、Y Combinatorが初めてではありません。また、現時点ではパイロット・プロジェクトが始まろうとしている段階にすぎないので、彼らの研究により、過去にカナダや米国、インドなどで行われた実験の結果とは異なる新たな知見が得られるかどうかも、まだわかりません。Altman社長は今回の長期研究の目的について、「ベーシック・インカムにより、人々の幸福や満足感、経済的健全性がどのように影響されるのか、人々がどのように時間を使うようになるのか」を評価することだと述べています。
こうした疑問の一部には、すでに答えが出ているようですが、すべてを答えたわけではありません。米国とカナダのマニトバで行われた研究では、UBIを給付されたほとんどの人に関して、労働時間の減少は見られませんでした。労働時間が減ったのは、主に幼い子供を持つ親と、働く必要がなければ学校で勉強に励んでいるであろうティーンエイジャーでした。つまり、少なくとも一部の社会的議論では、労働時間を減らしたほうが良いと言われている人たちです。
今回のY Combinatorの実験を非常に興味深いものにしているのは、予定されている5年間という期間です。5年にわたるベーシック・インカムにより、仕事やレジャーに対する受給者のアプローチは実際に変わるのでしょうか? それとも、その収入は一時的な「棚ぼた」と見なされるのでしょうか? 6年ほどしたら、またチャンネルを合わせることにしましょう。
Kimberly Weisul(原文/訳:阪本博希/ガリレオ)
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