印南敦史 - アイデア発想術,スタディ,仕事術,働き方,書評 06:30 AM
日本人も見習うべきかもしれない、イギリス人の「割り切り方」
『イギリス人の、割り切ってシンプルな働き方 "短く働く"のに、"なぜか成果を出せる"人たち』(山嵜一也著、KADOKAWA)の著者は、日本の大学院で建築設計を学んだのち、2001に渡英。以来10数年にわたり、ロンドンの住宅の改修や、橋、音楽堂などさまざまな建築の設計に携わってきたという人物。
そんな経験を積み重ねてきた結果、「成熟国の先輩」であるイギリスには、日本人が学ぶべき(取り入れることのできる)多くの生き方・働き方があると実感したのだそうです。つまり本書には、イギリスで働き、生活していた著者が、そこで暮らす人の様子を紹介しながら、「日本人が学べること」がまとめられているわけです。
いろいろな経験をしました。さまざまなタイプのイギリス人にも会いました。
そこで見えてきたのは、「成熟国に暮らす人たちの知恵」です。(中略)
イギリス人は一様に、"肩の力を抜いて働いている"ということがあります。言い方を替えれば、「無理な成長は目指していない」のではないかということです。
(「はじめにーー『割り切って』考えるから、ストレスなく働ける」より)
割り切って、「無理なこと」を無理してやらないからこそ、持続的に、効率よく、淡々と成果を上げることができているということなのかもしれません。事実、イギリスにおける「総労働時間」は日本より低いのに、「労働生産性」は日本より高いというデータもあるのだといいます。
だとしたらそこには、私たちが学ぶべきことがありそうです。でも、そもそも「割り切る」とはどういうことなのでしょうか? 1章「イギリス人のシンプルな『働き方』----割り切る」から、そのことに関するいくつかの要点を引き出してみましょう。
これ"で"いいと考える
もちろん、イギリス人のすべてをひとまとめにすることはできないでしょう。しかしそれでも、著者がイギリスで12年間生活して感じたことをもとに考えてみると、イギリス人の国民性には、ある種の共通点があるのだそうです。そして、その根底にあるのは、「"これでいい"という考え方ができる」ということ。
「これでいい」という言葉には、どこか妥協したような、なにかを諦めたようなニュアンスがあります。が、イギリス人に共通する「これでいい」という考え方には、ネガティブな面は決してないというのです。
「これ"で"いい」という言葉には、二つの重要な考え方が含まれているように思います。
それは、つまり、
(1)本来の目的に立つことで、不必要なことをやらない判断をする
(2)決まったことをこなす感覚ではなく、常に目的から逆算して最善の手段をとる
(20ページより)
これがイギリス人の、「割り切ることで、ストレスなく、淡々と仕事をする」という特徴と密接に関わっているということ。そして、それがわかるからこそ、私たち日本人は、あまりに「決めたことを、決めたとおりに実行すること」にこだわりすぎるきらいがあると著者は指摘しています
とはいえ当然の事ながら、「一度決めたことを守る」というのは、まっとうな考え方です。しかし「完璧さ」を目指したことによって、不要な手段をとらなくてはならなくなるとしたら、それはムダだということ。また、「変更しないこと」でラクをしようと考える人がいることも事実ではあるでしょう。
しかしイギリス人は、「いつでも変更していい」という考え方のほうがストレスが少なく、長い目で見ればいい結果が生まれることを知っているというのです。たしかに「無理が生じているのに変わらない、変われない、余裕のない社会」で生活するとしたら、それは息苦しいかもしれません。ならば割り切って、"柔軟な変更"をすることもひとつの選択肢であるということです。(18ページより)
割り切って働く
「無理はしない」という考え方は、日本にいるとなかなかしにくいかもしれません、「国民性や、社会の仕組みが違うから仕方ないじゃないか」と思われるかもしれません。とはいえ、ロンドンにいると、そんな考えを個人個人が自分の判断のもとに、簡単に(きちんと)実行していることが多いことに気付きます。(25ページより)
いってみれば「無理」とは、「普通」の範囲から少しはみ出した部分。そのはみ出した部分を、スッキリと切り取ってしまうのがイギリス人なのかもしれないと著者はいいます。つまり、そのように「無理を切り取る」ことが、「割り切る」ことにつながっているということです。
さて、「割り切った判断」について、ここで興味深い例が挙げられています。それは、冬に風邪をひいたときのエピソード。そのとき著者は「咳が出る程度ならがんばれる」という日本人的な判断をし、静かなフロアに咳の音を響かせていたそうなのです。「体調が悪いのだから、休む」という割り切った考え方ができなかったということ。
すると他のチームのリーダーがやってきて、「咳が止まらないのなら家にいたほうがいい」と告げたといいます。つまり、「これくらいなら大丈夫だろう」と思っていた咳が、周囲に不快な思いをさせていたわけです。だから、そういわれて初めて、著者は「がんばって出社して働いていることで、逆に同僚たちに迷惑をかけている」ことに気づいたのだそうです。
ちなみにイギリスでは日本のように、マスクを着用してまで出社する人や、街を歩く人はまず見かけないのだといいます(そもそも、マスクを使用する習慣がないのだとか)。そして、「咳が出るときには、まわりに迷惑をかけないように出社しない、出歩かない、という暗黙のルールがあったのだそうです。(24ページより)
確実に休みを取る
イギリス人の特徴的な働き方のひとつが、有給休暇の取得に対する考え方。イギリスの企業では新人であっても、だいたい1年間に20日前後の有給休暇が与えられるのだといいます。ただしイギリスには国民の祝日が少ないので、日本の一般的な休日数とくらべると、だいたい同じくらいか、日本のほうが多いくらい。いずれにしても有給は、みな淡々と取得しているのだそうです。
ある日、上司との打ち合わせをセッティングしようとしたところ、スケジュールを確認しても上司に空き時間はほとんどなし。そして、その数日後の予定欄には3週間にわたり、「on holiday(休暇中)」の文字が延々と並んでいたのだとか。そのため結果的には現場のそれぞれのチームが、彼の休暇前にさまざまな決済を取るため行列をつくることになったのだそうです。
そのとき、限られた時間のなかで数々の決定を下していかなければならない上司の横顔は、憔悴しきっていたといいます。そうなるであろうことは本人もわかっていたのでしょうが、つまりは3週間の有給を取るため死に物狂いになっていたということ。
上司が長期休暇を取ろうとすると、このようにさまざまなしわ寄せが発生するもの。しかし、彼のようなトップが長い休みを確実に取っていると、著者をはじめとする下で働いている人たちも、長期の有給休暇を取得しやすくなったといいます。
長期休暇に関しては、また違った体験も紹介されています。イギリスで働きはじめて日が浅いころ、著者は長期休暇の申請にためらっていたことがあったというのです。そこで、「来年のこのころ、日本に2週間ほど帰るのはアリだと思う?」と年上の同僚に伝えると、返ってきたのは次のような答え。
「休暇はとってしまえば良いんだよ。日にちが決まったら、あとは君の休暇のタイミングがどんなに忙しい時期にぶつかったとしても、チームとしてカバーするように動くんだし(後略)」(38ページより)
著者は、この考え方に深く納得したのだと当時を振り返っています。そしてイギリス流の有給休暇取得に対する考え方として、それ以降のひとつの指針になっているのだといいます。(36ページより)
これらのエピソードからも明らかなとおり、イギリス人にとっての常識は、私たちのそれとはずいぶん異なるようです。かといって、ここで紹介されている考え方のすべてが、そのままのかたちで日本のビジネス現場に応用できるわけではないでしょう。しかし、人間としての本質的な生き方を考えなおしてみるにあたっては、大きな参考になると思います。
(印南敦史)
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