南シナ海の緊張はいつか重大な危機に陥りかねない。日米中などの防衛当局幹部がシンガポールに集ったアジア安全保障会議は、そんな印象を強めた。

 米中高官の演説などの発言は互いへの非難に終始し、深刻な対立ぶりを浮き彫りにした。

 中国による海域での拠点作りについてカーター米国防長官は「かつてない拡張的な行動」と批判。中国軍の孫建国・連合参謀部副参謀長は「少数の国が混乱を起こすのを座視しない」と米の介入への反論を掲げた。

 明白なのは、いまの南シナ海問題の原因は中国にあるということだ。いくら既成事実を積み重ねても、一方的な現状変更の正当化はできない。国際社会のその認識を、中国の習近平(シーチンピン)政権は軽視するべきではない。

 中国がいう南シナ海での「歴史的権利」は、海域全体を自国の内海と言っているに等しい。岩礁を埋め立てて滑走路を建設するような行動は、中国が唱える平和的な解決に反している。

 最近は、フィリピン・ルソン島西方のスカボロー礁(黄岩島)でも、中国による拠点化の兆しがある。4年前に中国とフィリピンがにらみ合った末、中国が実効支配した環礁だ。

 パラセル(西沙)、スプラトリー(南沙)諸島とあわせ、中国軍が南シナ海の要衝を制することになりかねない。カーター長官が対中非難のトーンを上げたのは、このためだ。

 スカボロー礁問題を機にフィリピン政府は、オランダにある常設仲裁裁判所に仲裁手続きを求めた。その結論が近く出るが、孫副参謀長はどんな判断も受け入れない旨を明言した。

 この仲裁は、中国も締約国に含む国連海洋法条約に基づく手続きだ。紛争を平和的に解決するための国際ルールを拒絶すれば、中国は「法の支配」の原則に背を向けることになる。

 国際秩序に挑む中国の利己的な動きが強まれば、カーター長官が指摘したとおり、中国自らが孤立の道をたどる。それは軍事的にも経済的にも、世界がいっそう不安定化の難局に陥ることを意味する。

 先月は中国の戦闘機が米偵察機に15メートルまで異常接近したと伝えられる。いつでも不慮の衝突がおきる恐れがぬぐえない。

 米中両政府はきょうまで、戦略・経済対話で広く懸案を話しあう。中国を説得し、南シナ海の安定化を探る作業は、米国だけでなく関係国すべての工夫と努力が試される難題だ。

 日本も地域の信頼醸成を後押しする創意の外交をもっと発揮できないものだろうか。