「航空券、宿泊施設、貸切バスなどの仕入れ環境が様変わりした。難しさを感じている」――。旅行業界最大手、JTBの高橋広行社長は決算会見でそう語った。
未上場企業で旅行業界最大手・JTBが5月27日、2016年3月期決算を発表した。売上高は1兆3437億円(前期比1.5%増)で過去最高、営業利益は161億円(同45.1%増)と大幅な増益で着地した。ただし、期初に想定していた営業利益200億円の水準からは、かなり下回っている。
■ 前期は北陸新幹線やUSJが牽引
業績を牽引したのは国内旅行事業の伸びだ。特にパッケージツアー「エースJTB」は過去最高の販売金額となった。
2015年3月に開業した北陸新幹線のキャンペーン、絶好調のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)向け「エリア入場確約」や「アーリー・パークイン」、さらに沖縄向けのツアー商品などの販売が牽引。粗利ベースでは133億円の増益だ。
グループで力を入れている海外からの訪日旅行も好調だった。JTBは、訪日外国人観光客(インバウンド)向けの専用サイト「JAPANiCAN(ジャパニカン)」などで、宿泊施設や観光情報などの発信を積極化している。
日本への送り出し国であるアジア各国に事務所を設けたり、日本の空港や観光地にインフォメーションセンターを置き、送り出し国と日本での受け入れの両輪で、対策を進めている。同部門の売上高は668億円(前期比約40%増)となり、粗利ベースでは54億円の増益要因となった。
一方で、業績予想の未達となった要因は、海外旅行の不振だ。パリやブリュッセルで相次ぐテロの影響によって、採算のいい欧州向けのツアーが低迷。個人・法人ともに前年割れとなり、粗利ベースでは100億円近い減益要因となっている。
今2017年3月期の見通しについては、売上高1兆3800億円(前期比2.7%増)、営業利益200億円(同23.9%増)を見込むとしている。海外旅行の落ち込みが一巡することで、大幅な増益となる見通しだ。
JTBは決算と同時に、「躍進2018計画」という中期経営計画を発表した。重点強化テーマとして、①訪日インバウンド、②仕入改革、③事業開発という、3点をあげている。さらに最終年度の2019年3月期には売上高1兆3940億円、営業利益345億円を目指す計画も掲げた。
■ 仕入れ改革が最大のテーマ
そのなかで、高橋社長が厳しい口調で語ったのが、②の仕入改革というテーマだ。インバウンドの急増で、東京・大阪・京都といったゴールデンルート沿いのホテルの予約が獲りづらくなっていることに加え、航空券や貸切バスも押さえることが難しくなっている。
さらに、日本人の海外旅行客が3年連続で減ったことも、「(仕入れへの)プレゼンスが下がっている」(高橋社長)と、危機感を募らせる。旅行会社はパッケージツアーの主催にあわせて、ホテルや航空会社に対して、一定量を予約枠として押さえている。海外旅行をする日本人が減れば、その分だけ予約枠も減らされる。
高橋社長が「仕入れを制するものが営業を制する」と現場に檄を飛ばすのは、予約枠が減れば、商品企画にも影響し、最終的には売上高に響いてくるからである。
そのため、こうした「予約枠の買い取り、チャーター便の運行に加えて、資本業務提携など、リスクを取った仕入れをしていく」(高橋社長)方針だ。
売上高で1兆円を超えるJTBだが、営業利益率はほんの1.2%に過ぎない。インバウンドをめぐっては海外の旅行会社との顧客獲得競争に加えて、エクスペディアなど巨大なオンライン予約サイトも台頭している。厳しい競争を勝ち抜くために、他社との差別化に磨きをかけ、一層収益性を引き上げることが課題といえそうだ。
松浦 大
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