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生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

日本の貧困対策「周回遅れ」が伊勢志摩サミットで発覚

みわよしこ [フリーランス・ライター]
【第51回】 2016年6月3日
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先進諸国の貧困問題を置き去りに
伊勢志摩首脳宣言の内容

 「今回のG7伊勢志摩サミットでは、国際経済・景気・パナマ文書・シリア難民など、現在進行中の巨大な問題の数々が大きくクローズアップされました。もちろん、どれも重要な問題ですし、それらは『G7伊勢志摩首脳宣言』や附属文書に盛り込まれています。でも、『格差』が入っていないんです」(大西さん)

原文を確認してみると、男女間の「wage gap(賃金格差)」はあるのだが、「inequality(不平等・格差)」は全くない。「poverty(貧困)」は「なくさなくては」「減らさなくては」という文脈で出てくるが、32ページのうち、たった4ヵ所だ。「持続可能な開発目標(SDGs)」の「誰も置き去りにしない」「あらゆる形態の貧困に終止符を」「不平等と闘い」は、忘れられてしまっているかのようだ。

 「難民の貧困や、アフリカの問題などは言及があるんです。でも、先進諸国の貧困問題としては、男女間の賃金格差しかないんです。『おいおい、自分たちの足元を取り残すなよ』と思ってしまいました」(大西さん)

 貧困は解消したい。少なくとも、解消されたことにしたい。でも格差の解消、特に先進国である自国の中での格差の解消には、取り組みたくない。先進国首脳たちのそんな姿勢が、見たくないのに見えてくる。SDGsの目標10「国内および国家間の不平等を是正する」に照らして、私も「あらまあ」と言いたい。格差を解消せずに貧困だけを解消することはできない。パナマ文書問題は、「解消すべき格差が、具体的に見つかった」という問題でもある。そのパナマ文書が問題にされているのに、「格差」には触れられていないのだ。

 もちろん、「G7伊勢志摩首脳宣言」には、保健・女性など、SDGsに含まれている項目も含まれてはいる。完全にSDGsが無視されているわけではない。保健の問題もジェンダーギャップも重要な問題だ。でも、どうも釈然としない。

 「そもそも『すべての人々に』『誰も取り残さない』、そのために『包摂的に』『持続可能に』取り組むことが、SDGsの最も肝心なところなんです。でも、保健・女性といった、現在の日本政府が進める重点課題、つまり、『おいしい』ところだけ、つまみ食いされてしまっていますね」(大西さん)

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、1匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


生活保護のリアル~私たちの明日は? みわよしこ

生活保護当事者の増加、不正受給の社会問題化などをきっかけに生活保護制度自体の見直しが本格化している。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を紹介しながら、制度そのものの解説。生活保護と貧困と常に隣り合わせにある人々の「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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