先進諸国の貧困問題を置き去りに
伊勢志摩首脳宣言の内容
「今回のG7伊勢志摩サミットでは、国際経済・景気・パナマ文書・シリア難民など、現在進行中の巨大な問題の数々が大きくクローズアップされました。もちろん、どれも重要な問題ですし、それらは『G7伊勢志摩首脳宣言』や附属文書に盛り込まれています。でも、『格差』が入っていないんです」(大西さん)
原文を確認してみると、男女間の「wage gap(賃金格差)」はあるのだが、「inequality(不平等・格差)」は全くない。「poverty(貧困)」は「なくさなくては」「減らさなくては」という文脈で出てくるが、32ページのうち、たった4ヵ所だ。「持続可能な開発目標(SDGs)」の「誰も置き去りにしない」「あらゆる形態の貧困に終止符を」「不平等と闘い」は、忘れられてしまっているかのようだ。
「難民の貧困や、アフリカの問題などは言及があるんです。でも、先進諸国の貧困問題としては、男女間の賃金格差しかないんです。『おいおい、自分たちの足元を取り残すなよ』と思ってしまいました」(大西さん)
貧困は解消したい。少なくとも、解消されたことにしたい。でも格差の解消、特に先進国である自国の中での格差の解消には、取り組みたくない。先進国首脳たちのそんな姿勢が、見たくないのに見えてくる。SDGsの目標10「国内および国家間の不平等を是正する」に照らして、私も「あらまあ」と言いたい。格差を解消せずに貧困だけを解消することはできない。パナマ文書問題は、「解消すべき格差が、具体的に見つかった」という問題でもある。そのパナマ文書が問題にされているのに、「格差」には触れられていないのだ。
もちろん、「G7伊勢志摩首脳宣言」には、保健・女性など、SDGsに含まれている項目も含まれてはいる。完全にSDGsが無視されているわけではない。保健の問題もジェンダーギャップも重要な問題だ。でも、どうも釈然としない。
「そもそも『すべての人々に』『誰も取り残さない』、そのために『包摂的に』『持続可能に』取り組むことが、SDGsの最も肝心なところなんです。でも、保健・女性といった、現在の日本政府が進める重点課題、つまり、『おいしい』ところだけ、つまみ食いされてしまっていますね」(大西さん)