世界から取り残されそうな
日本の動きは?
貧困問題・生活保護問題の取材を本格的に開始してから、ちょうど満5年になる私は、この5年間で、
「日本政府は、貧困問題なんて、ましてや声を出せない貧困の子どもなんて、どうでもいいんだ」
と確信するようになった。この5年間で、社会保障・社会福祉は全面的に後退している。「子どもの貧困対策」「障害者の雇用促進」「女性活躍」といった耳当たりのよい言葉が一つあれば、その数倍~数十倍、貧困・排除・差別を推進したり放置したりする政策の動きがある。この状況で、「日本政府は、貧困問題に取り組み、貧困と表裏一体の格差にも取り組む可能性がある」と信じるのは難しい。
「でも、今後の国際社会のありかたは、『持続可能な開発目標(SDGs)』でかなり変わるでしょう。2030年、目標を達成するために、各国、もう動き始めていますから。韓国は、とても積極的です。ドイツも、具体的な計画を立てていますし、コロンビアは進捗状況を示したりしています。『取り残されちゃうぞ、日本』と危機感を覚えています。日本のメディアにも、外務省にも政府にも、危機感を持ってほしいです。2030年、達成できてなくてはならないんですから」(大西さん)
もちろん、政府が「やる気ありません」と明言しているわけではない。2016年5月20日には「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が設置され、各省庁による会合も持たれている。しかし議事録には和泉洋人総理補佐官の発言として、
「今後、国内実施と国際協力の両面で率先して取り組んでいくべく、我が国の内外の取組を省庁横断的に総括し、優先課題を特定した上で、「SDGs実施指針」の策定を進めていきたいと考えております」(※太字は筆者による)
とある。「優先課題を特定した上で」は「つまみ食いして」の婉曲表現なのであろうか? ちなみに、SDGsのポリシー「誰も置き去りにしないことを確保しながら、あらゆる形態の貧困に終止符を打ち、不平等と闘い」を実現するにあたって、最も重要な役割を担っているのは厚生労働省であるはずだ。会合には、厚生労働省からの出席者もいたのだが、発言はなかった。
「『G7伊勢志摩首脳宣言』には、先進国内、日本国内の貧困と社会保障に関して、あまりにも言及がありません。これは、政府の優先順位の低さであり、日本国民の関心の低さの現れでしょう。でも、このままでは、日本社会の持続可能性がありません」(大西さん)
高齢化と社会保障費増大は、日本社会の危機の象徴とされてきている。2016年6月1日、生活保護世帯のうち高齢者世帯が初めて50%を超えたことが報道された(日経新聞記事など)。
「社会保障の『ホームチェンジ』が必要なんだと思います。たとえば、生活保護世帯の約75%、うち高齢者世帯では90%が単身世帯なのに、未だに生活保護基準は『標準世帯(33歳男・29歳女・4歳児)』を前提に検討されています。このような、長年使われてきている前提、委員会・審議会で検討する現在の形式なども含めて、大きな議論が必要だと思います」(大西さん)