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第115話 危険な女
今回より第8章『トライアングル・デスペラード』始まります。
新キャラも出てくる第115話、どうぞ。
「はぁああああーっ!!」
「おっ……と!」
王都『ネフリム』滞在最終日。
場所は、早朝の『訓練所』。
場面としては、騎士団の『特別訓練生』の朝練の場。
そこに僕は招待されて……今、ギーナちゃんと試合をしているところだ。
それも……『エクシア族』の能力『全身金属化』を発動させている、本気モードのギーナちゃんと。
ぶぉん、と、豪快な音と共に迫ってくる、ギーナちゃんの蹴り。
魔力で強化されている上、能力発動で身体能力を大幅アップさせてあるそれは……石柱くらいなら一撃で粉々間違いなしの威力を伴って、僕の首を狙う。
それを僕は腕でガード。
手甲がないので、素手でやってるんだけども……うん、中々響くな。
それも織り込み済みだったらしいギーナちゃんは、空中で体をひねり、すぐさま体勢を立て直すと……キレイな弧を描いた飛び蹴りにつなぐ。
そんな彼女の様子を、同期の『訓練生』達は、感心と尊敬、それに……少しの戸惑いが混じった目で見ていた。
無理もない。今のギーナちゃんは……今まで隠していた『能力』を普通に、公然と使い……全身ぎんぎらぎんの状態で戦っているわけだから。
あの一件の後、色々吹っ切ったらしいギーナちゃんは、訓練の中でも普通にその能力を使うようになったそうだ。
当然、訓練生達の間に戸惑いはあった。
自分達とは明らかに異質。全身を金属にして大幅に戦闘力を上げるなんていう、理解不能の能力を持つ彼女に対して、抱く感情は様々だろう。
もしかしたら、決していいとは言えない感情を抱く者もいるかもしれない。
けど、ギーナちゃんはそれも覚悟の上で、自分の全てを隠さずにさらけ出し……それでいてなお、自分らしく真っ直ぐ歩んでいくことを選んだ。
素直に、そういうところは応援したいと思う。
スウラさんに聞いたけど、何だかんだで『訓練生』も『騎士団』もいいやつだし、中身で人を見てくれる奴が多いから、何とかなるだろう、とのこと。
同じベンチの端のほうに座って、全くの自然体で観戦している我が『邪香猫』の仲間たちのように、おおらかな心を持ってくれるだろう。きっと。
さすがに、普通に全身から発火したり放電したり葉緑素を作ったりする人間を見慣れている彼らの精神は強靭だ。今更全身金属人間ごとき、『へー、そう』で終わりである。
種族特性、っていう明確な理由がちゃんとあるんだから、なおさらに。
ぜひ、彼女には健やかな成長を遂げて欲しいもんである。……同い年だけど。
☆☆☆
『ありがとうございました!』と、
およそ15分ほどにわたる、彼女と僕の組み手の後、すがすがしい表情の彼女に、元気よくそう言われた。
結果を見れば、こないだと同じく僕の完全勝利だけども……その戦いの中で、貪欲に強くなろうとする彼女の意思を感じとれる。
この分なら……色々と吹っ切ったっていう精神面のブーストもあるし、結構なスピードで成長していくんじゃなかろうか。
『おつかれさん』と声をかけながらエルクが渡してくれたタオルで、今しがたかいた汗の始末をしていると、
「ふむ……見事だな、2人とも」
ぱちぱちぱち、という拍手とともに、観客席の方からそんな声が。
聞き覚えのある声に、僕とギーナちゃんが同時に振り向くと、そこには予想通りの顔が。
どっから持ってきたのかはなはだ疑問ではあるが、ポップコーンらしきお菓子をほおばりながら、僕らの組み手を見物していたらしいメルディアナ王女がそこに。
しかも隣には、居心地の悪そうというか、気まずそうな顔をしたレナリア王女も。
「……朝ごはんの前にお菓子はよくないですよ?」
「問題ない。オードブル代わりだ」
言いながら、すたすたとこっちに歩いてくる王女様(姉)。
あわてて妹の方も追いかけてくるけども、先に僕らのところに来たメルディアナ王女は、いつものようにこう切り出した。
「ふむ。両名とも、将来が実に楽しみな逸材と言っていい。しかし、内1人についてはこの先の成長というものを見られないのが私は残念でならない……ならないわけだがミナト、今からでも考え直すつもりは無いか?」
「もうこのやり取り24回目ですよ、王女様……何度も申し上げてますけど、自分は宮仕えは遠慮させていただきたいとですね……」
きっちり断ってるんだから、無理な勧誘はいい加減やめて欲しいんだけど。
貴族より誰より熱心だよ、この王女様。
っていうか、王女様が熱心すぎるおかげで貴族からの勧誘が来ないのか……?
「そうは言うが、諦め切れんのだから仕方なかろう。ザヴァル以上の戦闘力を確実に保有している貴様をみすみす逃がすなど、男で言えば据え膳どーたらのようなものだろう?」
「いや、僕据え膳出されても、他に好きな子がいる限りは放っぽりますよ?」
「じゃ、アレだ。上目遣いで潤んだ目で見てくるエルク・カークスの据え膳だ」
「それは我慢できないですね」
「だろう?」
「だから朝っぱらから、それも兵士達の前で低次元な会話を平然と展開しないで下さいお姉さま! ミナト・キャドリーユ、お前もだ! 先の一件は感謝しているが、この姉は甘やかすとすぐ調子に……いや、誰も何もしなくても勝手に加速するんだ! あとエルク・カークス、うちの姉が本当にすまん」
うん、身にしみて実感しております。
こんな感じのやり取りが(レナリア王女が参戦することは稀だったけども)ここ数日続いていたけども、根気よく断り続けた結果、今日の日という時間切れに持ち込めたのであった。ほっ。
そのことを心底残念がってた王女様(姉)は、しまいにはこんなことまで言い始めた。
いやまあ、冗談だとは思うんだけども。
「やれやれ……せめてお前が公爵位くらい持っていたら、レナリアあたりとの縁談でも持ち出してとどめる手もあったのだが……」
「とうとう何を言い出すんですかお姉さま!? というかなぜ私!?」
天気の話でもするかのように政略結婚――いや、政治じゃなく戦力についての結婚だから……『戦』略結婚か?――の話まで持ち出し、しかも生贄に自分の名前が挙がっていることに愕然とするレナリア王女。
……いや、ホントに何を言い出すんだこの人は。
「仕方がなかろう、私は第一王女だぞ? 私と結婚したら、自動的にこやつは次の王になってしまうだろうが。だったら」
「だからって順番下げればいいってもんでもないでしょう! というかなんでそうあっさり身内まで交渉カードとして切ろうとしてるんですか! というか私の意志は!?」
「王族として生まれたからには望まぬ結婚に身をゆだねなければならん運命が待っていることくらい自覚し覚悟しておくべきではないのか?」
「正論ですけど王族どころか1人の淑女としての自覚が0のお姉さまにだけは言われたくないです!」
「違うぞレナリア。自覚した上で好きにしているのだ」
「なお悪いわ!!」
飛び交うボケとツッコミ。
僕ら、絶賛放置。
「……何だか私、あの第三王女様とは仲良くなれそうな気がするわ」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味」
ひとしきり口喧嘩……というか、ボケとツッコミの応酬を終えたメルディアナ王女は、ふと、何かを思い出したような顔をして、肩で息をしているレナリア王女を放置して、すたすたとこっちに歩いてきた。
歩きながら、手に持っていたポーチから、サンタクロースが持ってそうな大きな白い袋――ポーチは収納アイテム確定である――を取り出し、こっちに差し出してきた。
「えーと……何でしょうかコレ?」
「先の件の追加の報酬だ。選ぶのに時間がかかってな、遅くなってすまん」
聞けば……あの『ディアボロス』の一件の報酬は、玉座のまで授与された報奨金と勲章だけじゃなかったらしい。あの場では渡さなかったけど。
なんでも、城の倉庫に死蔵されてるマジックアイテムなんかのうち、有用そうないくつかを見繕って進呈してくれるというのだ。
寝耳に水だけど、非常にありがたい話なので素直に貰っておくことに。
丁重にお礼を言い、『今なら騎士団への入隊を確約してくれればもう2つ3つ云々』っていう勧誘を丁重に断って……しつこいなホントに。
で、気になったのでその場で、せっかくなのでザリーたちも全員近くに呼んで開けさせてもらうと……これがまた、中々に強力かつレアなマジックアイテム達だった。
投げても勝手に手元に戻ってくる魔法の投げナイフとか、
今僕らが使ってるものより大容量な上、タンクを切り替えて複数の種類の飲み物を入れておける魔法の水筒とか、
薬効のある草木から作られた、巻いておくだけで治癒が促進する魔法の包帯(しかも洗って再利用可能)とか、
あと、豪華な箱に入った2つの指輪。
『アリアドネの指輪』というらしいコレは、2つで1組のマジックアイテムで、1つを指にはめて魔力を流すと、もう1つとの間に、装着者にしか見えない光のラインが、障害物を無視して直線で浮かび上がり、その場所を知ることが出来るらしい。
また変り種だな、と思いながら眺めてたら、エルクが、
「コレはあんたが装着することに決定ね」
「え、何で?」
「迷子防止。もう1つは私が持つわ」
…………
気を取り直して、
最後に袋から出てきたのは……同じような金属の塊が3つほど。
鋳塊ってやつだろうか。加工に使うためにまとめて固めてあるやつ。
けど……3つとも、何の金属なのかがわからない。
メタリックカラーの金属のインゴットが1つに、それより若干くすんだ……というか、光沢が弱く、若干黒っぽい銀色のが1つ。そして、見事な輝きの金色のが1つだ。
大きさは、前2つが人の頭くらいで、残る金色のが、2回りほど小さいサイズ。
特にこの、金色のインゴット……ただの物体とは思えないくらいの存在感と、魔力的になんだか普通じゃない感じが漂ってくるんだけど……もしかして、すごい金属だったり?
「わかるか? オリハルコンだ」
「「「お゛……っ!!?」」」
その場にいた全員の声がキレイにそろった。
ちょ……今なんて!? お、オリハルコン!?
あの、ゲームとかでもおなじみの伝説の金属!? え、マジで!?
いや、この世界での価値とかはあんまり聞いたことないけど……周りの反応を見る限り、一応僕が想像してる感じで当たってるっぽい。
もしかしなくても、とんでもない宝物なんじゃ!?
しかも王女様、たて続けに、
「そっちの銀色のがミスリル、黒っぽい方がアダマンタイトだ。ミスリルはともかく、後の2つは最早加工技術が失われていることもあって、王国お抱えの技師でも扱いきれなくてな、もてあましていた。持って行ってくれていいそうだ」
「「「…………」」」
もう、驚きすぎて驚き方がわかりません。
その後、王女様2人に別れを告げ、
ギーナちゃん含む、訓練生の皆さんにも感謝されながらお別れを言い、
ギーナちゃんからは、『次に会う時までにもっと強くなっておきます!』っていう、向上心溢れる宣言を聞いた後……僕らは王城を後にした。
そして、アイリーンさんのデルタに載せてもらい……一路、次の目的地である『暗黒山脈』を目指し、僕らは飛び立った。
☆☆☆
『暗黒山脈』
名前からして物騒な感じがするその場所であるが……本当に物騒である。
何せ、僕が生まれ育った『グラドエルの樹海』と同じ、危険度AAの危険区域だ。
『樹海』とはまた違った、しかし同じくらい強い魔物たちが跋扈しているという。
こないだ狩場で出てきたらしい『グリジェルベア』や『ビッグフット』に加え、単眼の巨人『サイクロプス』、強力かつ多彩な魔術を使いこなすアンデッド『リッチ』、地上での生活に適した進化を遂げた巨大ワニ『グランドアリゲーター』などなど。
精兵を揃えた軍隊でも、気を抜けば簡単に全滅するような危険度の魔物たちが、そこらじゅうにうじゃうじゃいるらしい。
僕はともかく、エルクたちには明らかに荷が重過ぎる土地なので、こうして空路で運んでもらえるのは本当にありがたい。
現在飛行中。
デルタの背中で、王都来た時と大体同じような感じになってるんだけど……そんな道中、アイリーンさんに何の気なしに聞いてみた。
「どんな人なんですか? その、僕の体を解析できそうな昔のお仲間って」
「お、気になるかい?」
「そりゃ……まあ」
昨日アイリーンさん言ってたしなあ、『ある意味母さんより危険』だって。
アイリーンさんが言いよどんで、あの母より『危険』なんて言うような人だ。それがどういう意味にせよ、会うに当たって緊張するってもんだ。
その母に育てられ、自分としても十分異常だって自覚のある僕が言うのもなんだけど……一体どんな人なんだろうか、本当に気になる。
前情報いかんでは、それなりの態度で、失礼のないように接しなきゃいけないと思うし。
もっとも……これもアイリーンさんが言ってたことだけど、『自分勝手な集団』こと『女楼蜘蛛』の元メンバーでもあるわけだから、変に格式ばってたりすることはない……と、思うけど。
そんな僕の心中を知ってか知らずか、アイリーンさんは虚空を眺めて『うーん』と悩むそぶりを見せ、
「一言で言うなら……天才魔法学者、かな」
「天才……魔法学者?」
アイリーンさんはそのまま、昔を思い出すようにしながら、詳しく説明してくれた。
これから会いに行く人は、『女楼蜘蛛』時代の仲間だった元冒険者であり……天才的な頭脳と技術力を併せ持った学者・研究者の類らしい。
曰く、その人は、魔法学のみならず、医学、化学、工学、薬学、生物学など、多彩な学問を修めており、しかもその全てにおいて天才的な能力を発揮。
各分野の研究を大きく前進させ、解決不可能といわれた難題をいくつも解決し、学術的にも多大な貢献をしてみせたその人は……『女楼蜘蛛』全盛期において、戦力としてのみならず、各国の研究機関がこぞってその頭脳の恩恵に授かろうと躍起になった。
おまけに、母さん達同様、戦闘能力もきっちり規格外。
『天は人に二物を与えず』という言葉を全否定している、ある意味で母さん以上の化け物だったそうだ。
……が、
やはりそこは『女楼蜘蛛』。
世の中に貢献するだけのすっごくいい人、ってわけじゃあ全然なくて……むしろ、その人が抱えていた問題の方が大きく、深刻だった。
何を隠そうそれこそが、アイリーンさんをして『母さんより危険』と言わしめた理由。
その人……いわゆる『マッドサイエンティスト』だったのだ。
己の知識と探究心、好奇心のみを最優先にして行動・研究を進め……モラルとか、倫理的にNGとか、そういうの一切合切を無視して自分のやりたいようにやる、研究狂。
一旦欲望に火がつくと、それを満たすまでとことん暴走する性格だったという。
学術分野においてよく言われるのは、『過ぎたるはなお及ばざるが如し』。
ダイナマイトや核兵器に代表されるように、よかれと思って作り上げた技術が悲惨な現実を産むことになることが多々ある業界。研究者に必要とされるのは、きちんとしたモラルや、それに沿った自重というもの。
そしてそれは、この異世界でも変わらない。
しかしその人は、そんなもの知るかとばかりに、欲望のまま探求を続け……いくつもの新しい魔法やマジックアイテム、さらには人工生命体までも作り上げ……中には、使い方次第で未曾有の大災害の原因にもなりかねないものもあったとか。
加えて、彼女にはその研究成果を世のため人のために使おうという気など微塵もなく、自分が使うためだったり、気に入った奴にだけ気まぐれで与えたりする傾向があったため、余計に多方面から危険視される存在だった。
注意・反発があっても無視し、邪魔者は実力で排除し、生涯にわたって研究を続け……今のその人は、人里から隔絶され、邪魔する者のいない『暗黒山脈』の邸宅で、欲望のままに研究を続けているという。
と、アイリーンさんがそこまで言ったところで……僕の斜め後ろで暴風に耐えながら話を聞いていたエルクが、ぽつりと言った。
「……なんか、ミナトみたいですね、その人」
「「え?」」
僕とアイリーンさんの声がそろった。
え、どういう意味それ?
「だってほら、戦闘能力はともかくとしても、自重しないで色々考えては実践するとか、考え方が人よりぶっ飛んでるとか、周囲への物的・精神的な迷惑無視してる所とか……」
そんなことをつらつらと、ため息混じりに並べていくエルク。
そしたら、隣でアイリーンさんまで、
「あー……確かに、言われて見ればそうかもしんないね。うん、もしかしたらミナト君……リリンよりも、クローナの方に似てるっていうか、近いかもしれない。色々と」
「マッド……って意味でですか?」
「聞く限り、自重って言葉を知らないもんね、君」
とのこと。酷い言われ方だな。
確かに僕、欲望と好奇心に忠実に色々とやらかすけど……別に、他人への迷惑を考えてないわけじゃないんだからさ。
ただ、考えた上であえて無視してるだけで。
「なお悪いわ」
「あいたっ」
暴風にもかかわらずきっちり飛んでくるエルクの手刀。
すると、そんな僕らの様子を見てほほえましげに笑っていたアイリーンさんが、『お』と何かに気付いたように下を見下ろし、
「ほら、見えたよミナト君。クローナの家が」
「え?」
そんな声が聞こえたと同時に……デルタが急激に減速してきたのが感じられた。
どうやら、もう目的地周辺(の上空)のようだ。
下を見ると、そこには……家っていうか、城があった。
巨大な湖の真ん中の、橋もかかっていない島に、存在感たっぷりに構えられた城が。
ただし、『ネフリム』で見たような、王様とかが住んでそうな城じゃなく……吸血鬼あたりが住んでそうな、なんだかダークな雰囲気漂う城なんだけども。
周りに『ギャアギャア』って声上げて飛び回るカラスとかいるし。おどろおどろしさ更にUPである。
「ていうか、実際彼女、吸血鬼族だしね」
「え、そうなんですか?」
「うん。そっか、言ってなかったっけ。怒らせると怖いから、そこだけ気をつけて」
なんてことをさらりと言うアイリーンさんは、デルタに指示し、城の門の前に着陸させた。
その際、湖の中に、こちらの様子をうかがうかのようにして睨みながらとぐろ巻いてる、巨大な蛇……っていうか、ぶっちゃけ龍みたいな魔物が見えたんだけど……
「大丈夫大丈夫。アレ、クローナのペットだから。僕と一緒にいれば襲ってこないよ」
「そ、そうですか……ちなみに、何て魔物です?」
「『リヴァイアサン』。ランク測定不能」
聞かなきゃよかった。
そんな僕らの会話を聞いて唖然としてるみんなを引きつれ、堂々と門から入り……ドアについてるノッカーを『コンコン』と鳴らして、中にいる旧友を呼ぶアイリーンさん。
すると、少し時間を置いて……ドアの向こうから、ぺたぺたという足音が聞こえると共に、人の気配がこっちに近づいてくるのが感じられた。
この扉の向こうに、『伝説』の1人にして、母さん以上の危険人物とまで言われた女性がいる……そんな思いが僕ら全員の心に共通して生まれ、緊張感が漂う中、
ギィィィ……と、重厚な音と共に扉が開き、その向こうから……
どうやら寝起きらしい、眠そうな目をした……少々目つきの悪い、セミロングの青紫色の髪の女性が現れた。
…………全裸に白衣を一枚着ただけという、とんでもない姿で。
「「「……!!?」」」
「あ゛~……何だよアイリーン。こんな朝っぱらから押しかけやがって……」
「朝じゃなくてもう昼前だぜ、クローナ。相変わらず生活リズム滅茶苦茶だな」
ちょっとアイリーンさん!? 服装に関してはスルーですか!?
てか、この人……クローナさんだっけ!? 何平然とそんなカッコで外に、っていうか人前に出てきてんの!?
知り合いのアイリーンさんだけならともかく、僕らもいるのに……そしてそれに気付いてるはずなのに、隠すそぶりとか、恥らう気配とか一切ないし! 何この人!? 痴女!?
白衣は袖を通して着ただけで、前のボタンも何も止められてないから、上も下も何もかも丸見えなんだけど!?
「しかも何か知らねーが大所帯で……お?」
と、戸惑っていると……その全裸白衣のクローナさんの視線が、じろり、とこっちを向き……何かに気付いたように、眠そうな目が一瞬だけ大きくなった。
そして、そのままずんずんとこっちに歩いて来て……ってだから前隠してって前!!
しかも僕の目の前に来て、なぜか下から僕の顔覗き込んでくる――身長、160弱くらいかな?――もんだからますます色々見えるっていうか……
「ん~、お前……」
「あ、あの……、く、クローナさん!? ちょ、ふ、服を、その……」
僕が目のやり場に困って、おそらくは顔を真っ赤にして戸惑っていた……次の瞬間、
「……あぁ! 誰かと思ったらお前、リリンのとこのガキじゃねーか。見ねーうちにでかくなったな、おい」
「「「…………え?」」」
僕の眼前で、納得したような顔になっているクローナさん以外の、全員の声がそろった。
(この人…………僕のこと、知ってる?)
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