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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第7章 王都大波乱滞在記

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第113話 月夜の再会

ここ最近リアルが忙しくて、いつもより更新が遅れました。
申し訳ないです。

それと……あとがきで、重要なお知らせがあります。
面倒かもしれませんが、目を通していただければ幸いです。自分で言うのもなんですけど……たぶん、ホントに重要なので。

では、第113話、どうぞ。
 

 王都に帰ってきてから、明日で1週間になる夜。
 普通なら、全治数ヶ月とか以前に、二度とまともに歩けなくなってもおかしくないという怪我を負った僕の体は……もうほぼ完治していた。

 すでに、『ディアボロス』とのインファイトでついた傷のほとんどは、かさぶたも取れており、痕も残っていない。

 ヒビが入りまくってた左足は一昨日の朝起きた時には治ってたし、右腕の粉砕骨折も今朝には完治して、腕力・握力その他も完全に戻った。
 まあ、数日もベッドに寝てたせいで体がなまってるのは感じたけど。

 なのでここ2、3日は、リハビリ用に使われる運動場で体を動かしていた。

 一周400mのリレーコース的なのを4分ちょっとかけて10周したり、
 垂直に10m跳んで空中で3回転半決めて着地したり、
 最近上達したアルバに7倍重力かけてもらって筋トレしたり、

 ……お見舞いの人達含め、見てた全員が唖然としてたっけ。

 口々に『もう退院したら?』って言われて、実際僕もそれでいいと思ってダンテ兄さんに言ったら、検査結果出るまではとりあえず居ろって言われたので、暇だけどまだ入院してるだけだったりする。

 それも明日の朝1番で出る(と思う)し……実は、そこで退院するのを前提にした予定が明日に入ってるので、ほぼ間違いなくこの病室とは今日でおさらばだ。

 目に見えて回復したため、心配なくなったと判断して、エルクは3日目には泊り込みをやめた。なのでここ4日、僕は1人である。

 そんな生活の中で、ふと思った、というか、気付いたことがあった。

 いや、別に夜が怖いわけじゃないんだけど……いつも誰かと一緒に寝てたせいだろうか、たまに無性にさびしくなるというか何というか、物足りないというか……。

 ……洋館では母さんと、出てきてからはエルクと、同じ部屋&同じ布団で寝てたなあ、そういえば。寝る時隣に誰かいると安心するんだろうか、僕って。

 ……なんかキモいな。この歳で。

 でも実際、洋館で母さんに一緒に寝てもらってた時って……確かに、理由もなく安心するというか、ほっとして、落ち着いて寝られたような気がするんだよな……不安なことも忘れて、す――っと意識を……

 
 ……ん?
 待てよ?

 何だか……今一瞬、頭の中に違和感あったぞ?

 
 何かこう、母さんに抱きしめられて安心してる時のことを思い返そうとしたら……なぜか一瞬、頭の中で『躊躇った』。
 思い出すのをやめようとした。心の奥底に閉じ込めた、トラウマか何かみたいに。

 ……社会的に考えてキモいとかそのへんはともかく、普通に幸せな思い出のはずなのに……なんで?

 もう一度、さらにもう一度、と繰り返してみると……そのたびに何かズシッと、圧迫感みたいなものを感じる。勝手に心の中で不安になる。

 まるで、それを思い出すと、何かよくないことも一緒に思い出すからやめとけ、って本能に警告されてるような不安感が……。

 何でだ? 今まではこんなことなかったのに……。

 母さんに一緒に寝てもらってたことに関して、それと結びつくような、なおかつトラウマ感じるような出来事に心当たりなんかないし……そもそも、アレは母さんが自主的にくっついてきてただけだもんなあ。僕を励まそうとか、慰めようとかじゃなく、ただ単に愛情表現として。

 ……うん、なかった……はずだ。何も。理由なんて。

 ただ、僕も母さんが大好きだったから、抱きしめられて嬉しくなって安心してただけ。
 それ自体は間違いなく本当だ。安心したし、嬉しかった。

 だから……なかったはずだ。一緒に寝てもらって安心する『理由』なんて、その他には。

 ……やめよう、考えるの。頭がこんがらがる。

 何か最近、こんなのばっかりだな……僕。あの『悪夢』のことといい、今日のこの不安感のことといい……普段誰かと一緒に寝てるから、誰も隣にいないと倍増しで不安になるとかじゃないよな……?

 
 ……まあ、仮にそうだとしても、だ。

「……さびしくて退屈な夜でも、別に会いたくもない奴ってのは実際いるよなあ……」

 …………

 

「お前だよ、お前」

 

「やれやれ……あなたはどうしてこう、熟練の戦士でも気付かない私の隠遁を簡単に見破るのでしょうね?」

 

「知らないよそんなの。まだ成長・改良の余地があるって前向きにとらえてれば?」

「そう務めることにしてみましょう。それはそうと……お久しぶりですね」

 

 軽口と共に、窓から……たった感じ取った気配の主が入ってきた。

 ……あー、やっぱりコイツ(ウェスカー)だったか。

 
 ☆☆☆

 
「で、何か用? 暗殺とかに来たんなら勘弁してよ? まだ16年しか生きてなくて、やりたいことまだまだたくさんあるんだから」

「いや、違いますが……可能性を示唆している事態の割に余裕ですね」

「違う、って思ってたからね、殺気も敵意も感じないし」

「そうでしたか。しかし、手練の中にはそういったものを隠して近づいてくる者もいますので、注意は必要ですよ?」

「ご忠告どうも。で、結局何の用?」

 そんな緊張感の無い会話を交わしつつ、振って沸いた暇つぶしを僕は有効利用していた。

 相変わらず、表情からも態度からも本音その他を読み取りづらいウェスカーであるからして、早々にそれらを諦めて、自然体でいることにしました。

 今僕自分で言ったとおり、戦いになるような気配もないし。

「まあ、とりあえずこれをどうぞ。お見舞いということでこんなものを用意しました」

 と言うとウェスカー、手に持っていた大きめの紙袋――実はさっきから地味に気になってた――をこっちに差し出した。え、何、お土産?

 何だろうと、ちょっとだけわくわくしつつ紙袋を開けてみると……入っていたのは、何冊かの本だった。
 全部で……5冊。それも、普通の本じゃないように見える。

 いや、マジックアイテムっぽいとか、そういう意味じゃなくて……専門書とか、研究資料みたいな感じに見えるんだよね、雰囲気とかが。
 大学のオープンキャンパスに行った時に見た、超専門的な資料集とかに似てる。

 ……で、結局何なのかと思ってタイトルとか中拍子を見てみると……ん? これってもしかして……

「……亜人の……『古代種族』関連の本? っていうか、資料とか、論文か?」

「ええ。お仲間に『ケルビム族』の彼女がいらっしゃるでしょう? 古代の文献にもなかなかその存在や詳しい能力などが記されていない種族ですから、お勉強にや能力の修練に難儀なさってはいないかと思いまして、資料を集めてみました。お役に立てばと」

「……ちょっと意外だな、素直に嬉しいや。まあ、中身が事実ならだけど」

「ま、当然の懸念でしょうね。しかし、検証可能なものだけを拾っていただいても有用な資料になると思いますよ? ぜひご一読の上、役立ててください」

 ほー……そうなのか。まあ、鵜呑みにはしないけど。

 しかし、今言ったばっかだけどホント意外だな。
 てっきり、普通に社交辞令的な菓子折りとかか、でなきゃ何か皮肉混じりのもの持ってくるかと思ってたんだけど……普通に役に立つものだった。

 なんか、逆に勘ぐっちゃうというか、不気味というか……まてよ?
 たしかヤクザとかマフィアって、殺す相手、脅す相手に丁寧な贈り物をするって聞いたことがあるんだけど……もしかしてコレってその類か?

「違いますよ。本当に単純な善意です」

「心を読むな。……ホントに読んだりした? 『ケルビム』の特殊能力とかで」

「いえ、あなたの顔にあまりにもわかりやすく出てただけです。疑心暗鬼誘発用ならもっと形式張ったものにしてますよ、いつも」

 あ、一応普段はやってんのね、それも。誰にとは聞かんけど。

「ちなみに、都合上いずれ消えていただく相手には防犯用のマジックアイテムを贈らせていただいています」

「なるほど。……そしてそれを悠然と無視して自分は暗殺を遂行するわけか。防犯グッズが役に立たないくらいの技量で隠れて、さくっと」

「おや、お分かりになりますか?」

「なんとなくね。いい性格してるねホント」

 とりあえず、コレはありがたく貰っとこうか。

 3日前くらいから今日にかけて、訓練場で相手した訓練生の人達から届いた、けっこうな量のお土産の山の末端にとりあえず置く。

 その、テーブル一個丸々占領してもなおはみ出してる量のお土産を見て、ウェスカーも感心してる風な顔になってた。

 ……手合わせしたのなんて一回だけなのに、皆さん律儀だよなあ。

「さて、と。それでウェスカー? 用件まだ聞いてなかったよね? っていうか……」

 一拍、

 
「何の用件だか知らないけど、あの山で僕を見つけた時にそのことを話しにこなかったのは……空気読んでくれたと見ていいわけ?」

 
 あの日『狩場』で感じた、『何か』の気配。

 アレの正体が何なのか、ずっと気になってた。

 本当にかすかに、直感的に何か感じ取れる……ってくらいのものだったアレは、隠密能力が高いとはいえ、あの暗殺者集団の気配なんかじゃなかった。

 そして、『ディアボロス』の気配でもない。確かにアレは気配も独特だし、野生の能力的に隠密もこなすかけど……やはり違う、と思ってた。

 何よりも、『狩場』で感じた謎の気配は……一度僕が体験したことのあるものだった。
 そこに間違いなくいると思うんだけど、酷く気配も存在感も何もかも希薄で……途轍もなく功名に隠されてる、って感じだったのだ。

 さっき、通産3回目、その気配を感じたことでそれを思い出し、そして確信した。

 
 ……ああ、ウェスカーが幽霊船で隠れてた時に感じた気配と同じだ、と。

 
 こいつは多分、あの日、あの山にいた。
 どのくらいの距離の所にいたのかはわからないけど、僕の直感(?)がそれを感じた。

 何のようで来てたのかはわかんないけど、こいつは特に僕らに手を出したり、あったりすることもしなかった。

 ただし、

「……それと、あのハトみたいな魔物……多分召喚獣だと思うけど、アレを飛ばして僕をエルク達のところに案内したのも、お前?」

「ええ、よくお分かりで……あなたは方向感覚に乏しいと聞いていましたから、ちょっと手伝って差し上げようかと思いまして」

 と、あっさり認めるウェスカー。やっぱ、こいつだったのか。
 気配の正体も……あの時、僕を導いた、謎の鳥の主も。

 

 あの日あの時、
 『ダークジョーカー』と『レールガンストライク』でディアボロスを倒した――そういやまた生死確認してないな(汗)――僕が、エルク達のところに合流するまでに……実は、ワンクッションあったのだ。

 内容はいたって単純。『ダークジョーカー』の副作用の魔力混濁が酷くて、『サテライト』も『念話』も感じ取れず、完全に迷子になったのだ。

 さっさとエルク達に合流しなきゃいけないのに、運が悪いことに見事に位置取りが風上。匂いを感じ取ることもできず、どうしようと思ってた僕の前に……それは現れた。

 妙な存在感と、その小さな体から感じる少なくない魔力で……すぐに、普通の鳥じゃないってことはわかった。

 けど、なぜかそいつが『ついて来い』って言ってるような気がして、そして僕の直感もそれを正しいと言ってるような気がしたから……ついていった。

 そして、その過程でずっと……この山に来て最初に気付いた、あの得体の知れない気配が……ずっと影から、僕をまだ見ていることがわかった。

 それはつまり、その『以前にも感じたことがある謎の気配』の正体が、直前に僕が倒した――あ、また生死確認忘れた――ディアボロスじゃなかったということだ。

 それに加え、何だか違和感のあったその鳥が、その魔力の感じから、『召喚獣』だとわかった時……僕はその気配を以前、『幽霊船』で感じたのだと思い出した。
 同時に、見てる奴の正体もわかった。

 ……で、今さっき、それは間違いじゃなかったと確認できたわけだ。

「……やれやれ、厄介な奴に借りが出来ちゃったもんだね」

「おや、まあ自分が厄介な性格をしているというのは自他共に認めておりますが、わざわざ借りだと宣言していただけるのですか? 随分と律儀ですね」

「恩を仇で返すのはやるのもやられるのも嫌いだし、そうしないように親に教育されてるからね。……他人に借りを作ること自体嫌いだけどさ」

「ご心配なく。でしたらその借り、今ここで返していただくことにいたします」

「は?」

 ふいに告げられたそんな言葉に、きょとんとした顔になっているであろう僕。

 ウェスカーはそんな僕の目の前で、ぴっ、と右手の人差し指を立てて、

「何、簡単なことです。1つ、こちらの質問に答えていただきたい。そしてその後、出来れば私のお願いも聞いていただければと……ああ、ご安心を、無理難題はなるべく言いませんから」

「なるべく?」

「ええ、なるべく」

 ……さよかい。

 ため息をつきつつ、一応、聞くだけ聞いてみると伝える。

 するとウェスカーは、懐に手を入れ……何かを取り出し、こっちに差し出して見せた。
 ……って、あれ!? コレって……

「見覚えがありますよね?」

 ことっ、と、
 差し入れの土産が置かれていないテーブルの上に、その物体を置いて、ウェスカーはそう問いかけてきた。

「……ああ、もちろん。あの船からあんたが持ち出したやつでしょ?」

「そうですが、あなたはあれ以前にもこれを……いえ、これと同じものを見たことがあるはずだ。そして、これが何か……その正体も知っている。違いますか?」

 問いかけてくるウェスカーの顔は笑ってるけど……目が笑ってない。
 別に、責めるような視線は感じないけど……嘘を言ったら見抜かれそうなくらいには眼力ある、かな。

「……じゃ言わせて貰うけど、こんな危ないもん人里に持ち込まないでくれる?」

「ああご心配なく。すでに処置は終えていますから、付近の魔物が活性化する心配はありません。しかし……やはりご存知でしたか。『魔祖の棺』を」

 手のひらにも乗せられるサイズ、筆箱っぽい大きさと形の『棺』。

 その正体を僕が知っていたことを確認し、にやりと満足そうに笑うと、ウェスカーはそれを拾い、懐に戻した。

 ……って、あれ?
 今、変なこと言ってたな……処置?

 え、何、もしかしてあの、『魔祖の棺』の近くにいる魔物が活性化するあの呪いみたいな副作用なんとかしてある、っての? 母さんが人里からはなれた所でしか破壊の作業に当たれなかった理由で……幽霊船になったオルトヘイム号が魔窟と化した原因。

 それって……解除とか出来るもんなの?

「? おかしなことを聞きますね……てっきりあなたもその事実と方法を知っているのだと思っていたのですが、違いましたか?」

「いや、言ってることがさっぱりわかんないんだけど。ていうか、何でそう思った?」

「ふむ……それ単体を説明するよりも、私が訪ねてきた理由と用件をお話した方が早そうですね。その過程であなたの知りたいこともわかるでしょうし」

 そう言うとウェスカーは、懐からもう一度『棺』を出し、僕によく見えるように持つ。

「これの名前は『魔祖の棺』。古代文明の財宝を封印・保存した太古のマジックアイテムであり、破壊が不可能な程に強固な防御力を誇る。加えて、周囲の魔物を活性化させ、この箱が存在する場所を恐ろしく危険な領域に変えてしまう、呪いのごとき副作用がある」

 そこまで一気に言うと、ウェスカーはそこで切って間をおいた。

 その態度が、視線が、なんだか……『ここまではいいですか?』と確認するようなものに見えたので、とりあえずうなずいておいた。

 どうやらあたりだったらしく、ウェスカーは再び口を開くと……続いてこんなことを。

「では、この『魔祖の棺』……この世界に全部で7つ存在することはご存知ですか?」

「? いや、数までは知らんかったけど」

「なるほど……ではせっかくです。これが一体どういうものなのか、イチから説明して差し上げましょう」

 
 ☆☆☆

 
 『魔祖の棺』とは、太古のマジックアイテム。破壊不可能の、呪われた宝箱。

 いつの時代に、どこで、誰によって作られたのかは、全くの不明。

 今の段階で、このアイテムついてわかっていることは……先に述べたことを除けば……3つだけ。

 1つ目。世界に全部で7つ存在すること。

 2つ目。その全てが、容易には手に入らないような場所に隠されていること。

 3つ目。中に、古代の秘宝とも呼ぶべきマジックアイテムが眠っていること。

 この3つのうち、3つ目の理由については……少々裏があるらしい。

 別に嘘でもなんでもないんだけど、それらの封印されてるマジックアイテムってのが、いずれも、強力もしくは希少すぎて、歴史から葬られたものだそうだ。

 それらをめぐって国同士の争いが絶えなかったとか、発動すると恐ろしい災厄が人々を襲ったとか……そんな感じのバックグラウンドがあるとか。

「『棺』にはそれぞれシリアルナンバーが振られています。例えばこれは……ここに」

「え?」

 そう言ってウェスカーは、箱の側面の模様のうちの1つを指差した。
 するとそこには、確かに……

「『Ⅱ』……2?」

「そう。シリアルナンバー2です。そして……あなたが持っている、『ネクロノミコン』が入っていた箱にもあったはずですよ?」

 ……なるほど。そこまでお見通しか。今はベルトにしまってあるあの本が、『棺』のマジックアイテムだって。

 ……でも……

「? どうしました? 何やら考え込んでいるようですが……」

「……いや、あの箱にシリアルナンバーとか、あったかな、って」

 洋館時代、母さんに『魔祖の棺』は見せてもらったことはあるけど……その時見た箱に、数字らしきものなんてなかったはず。
 金の装飾とか、よくわからない文様とかがあちこちにあるだけで…………まてよ?

 そういや、箱の横っ腹に……

「……こんなマークはあったかも」

 そう言って、手近にあったメモ用紙に、記憶の中のそれを殴り書きして、ウェスカーに見せると……

「……『V』……ああ、『Ⅴ』。シリアルナンバー5ですか。なるほど。アルファベットかただの模様かと思って気付かなくても、仕方がありませんね」

「……まあ、箱の番号はいいとしてさ。もしかしてあんたの頼みって……」

「ん? ああいえ、ご心配なく。『ネクロノミコン』が欲しいわけではないんですよ。ああもちろん、もらえるものならほしいですが?」

「ダメ」

「でしょうね。……頼みとは他でもありません。『ネクロノミコン』を取り出した後の、いわば空箱になった『棺』と、その『鍵』を譲っていただきたいんですよ。無論、それなりの値段で買い取らせていただきますので」

「……はい?」

 空箱と……『鍵』?

「ええ。何に使うかは申せません……というか、私も聞かされていないんですがね。どうでしょう、最早硬いだけの無用の長物でしょうし、悪い取引では……「ちょ、ちょっと待って?」……はい?」

 えっと、うん、要求はわかった。けど……なんか1個、まだよくわかんないワードが入ってて、それに関して説明が欲しいんだけども。

「……鍵、って何?」

「は? 何って……『魔祖の棺』をあけるための『鍵』ですよ。あったでしょう? 同じシリアルナンバーの5……ああ、模様か『V』の字に見えたかもしれませんが、とにかくその模様の彫られた、『棺』と対になる『鍵』が」

 いわく、

 『魔祖の棺』の絶対防御は、無数の障壁魔法・防御魔法によるものだと、

 障壁の数は数万層、しかもその1つ1つが超強力な防御魔法によってさらに強固なものになっており、しかも壊しても時間がたてば再生すると、

 『魔祖の棺』を開ける方法はただ1つ、その棺と対になる『鍵』を使うことであると、

 『鍵』は『棺』とは全く別の場所に隠されており、それがそろわなければ絶対にあけて中身を取り出すことは出来ないと……と、このへんでウェスカーが僕の顔色がおかしいことに気付いた。

 そして、やはり察しがいい。この滝のような汗が、傷の痛みでなく心の痛みであることにも気付いたようだ。

「…………」

「…………」

「……あなたのお母様はつくづく規格外だという認識でよろしいのでしょうか?」

「うん。鍵なんて知りません」

「……そうですか。『棺』は?」

「……破壊したそうです」

「……そうですか」

 どうすんの、この空気。

 
 ☆☆☆

 
「……ないのなら仕方ありません。まあ、シリアルナンバー5が『ネクロノミコン』だということがわかっただけでもよしとしましょう」

 数分後、

 あの空気を半ば強引に振り切ったと思しきウェスカーは、懐から出した手帳になにやらさらさらと書き込みながら、そんなことを言っていた。

「……で、こういう場合どうなるの? 貸し1つ保留?」

「いえ、もう1つ頼みごとをします。それでチャラで結構。もうそろそろお分かりかとも思うのですが、我々は『魔祖の棺』を探して、集めています。そして今現在、我々の手元にある『棺』は……幽霊船から回収したものをあわせて、3つ」

「3つも?」

「ええ……といっても、内1つは鍵がなくて開けられていませんがね」

 そう言って、手帳のページをぱらぱらとめくり、さらさらと何か書きながら、

「まあそういうわけなんですよ。我々『ダモクレス財団』は今、『魔祖の棺』を収集しています。空き箱になったものも含めてね。ですので……もし冒険の中でそれを見つけるようなことがあれば、ぜひご連絡を。言い値で買い取りましょう」

 書き終えたかと思うと、びりっと破ってこっちに渡してきた。

「こちらを。私とコンタクトを取る方法を書いておきました」

「いいの? 僕にそんなもんわたして。一応僕、身内に軍関係者いるんだけど……呼び出して罠とかにかけて捕縛するかもしれないよ?」

「ご心配なく。会う前にきっちり事前調査を行って、罠なら出てきませんから」

「あっそ。で、そのなんとか財団ってのが、君らの組織名?」

「おや、てっきりお兄様から聞いているかと思いましたが、まだでしたか。まあ、そこそこ裏社会でも有名ですし、王都では最近我々を危険視する動きも膨らんできているという話ですから……近いうちには聞かされると思いますよ? 排除対象として」

 そんな普通に目ぇ付けられる存在なのかい。君らの『財団』とやらは。

「と、いうわけで取引の件、ご一考を。他にも、マジックアイテムの売却や、逆に購入・発注なども手広く取り扱っておりますので、よければごひいきに。ああもちろん、『棺』の対価として我々の保有する希少なアイテムとの交換なども出来ますので。要交渉ですが」

「ふーん……ま、期待しないで待ってて」

「ええ。では……見回りが来たようですので、本日はこのへんで。アデュー」

 そう言ってウェスカーは、お得意の『空間転移』でその場から消えた。

 その数秒後、カンテラを手に、この病院づとめの夜勤の看護師さんが僕の病室を覗き込んできた。

 寝たふりをしようかと思ったけど、物音を聞かれてたかもしれないので、狸寝入りでなく本を読んでたフリをしたら、『目を悪くしますよ?』って注意して去っていった。

 こういう手に出た方が、案外疑われにくいことってあるよね、と、机に無造作に置いておいた、ウェスカーのメモを取り……目を通す。

 奴にコンタクトを取るための、何だか複雑な手順の後に……こう書き添えてあった。

 

『繰り返しになりますが、あなたとは友好的でありたいものです。これは私の勘ですが、もしもあなたと私が戦うことになった場合、それは悲劇を呼ぶような気がするので』

 

 ……やれやれ、何のこっちゃ。

 

 
では、前書きに書いた『重要なお知らせ』です。

このたび、この小説『魔拳のデイドリーマー』が、株式会社アルファポリス様にて書籍化していただくことになりました。

趣味で好きなように書き始めたこの稚拙な長文が、まさかこうして世の中に出ることになるとは……今でもちょっと現実味がないです。

発売は春ごろを予定しているとのことですが、詳しいことはまだ未定だそうで……情報が入り次第、あとがきや活動報告でお知らせしたいと思います。

発売が近くなったら、書籍化該当部分をダイジェスト版に差し替えることになるとも思いますので、それも含めて。

ここまで来れたのも、応援して下さってきた読者の皆様のお力あってこそだと思っています。本当にありがとうございます。
今後もこれを励みに、いっそう精進していく所存です。

もし書店などで見かけましたら、気が向いたら手にとっていただければ幸いです。

長々と失礼しました。今後ともこの『魔拳のデイドリーマー』をよろしくお願いします。
+注意+
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