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第112話 ラブコメ日和な病室
「……以上で、今回の件にかかる報告は全てでございます、陛下」
「そうか……激戦だったようだな、ご苦労だった、ザヴァル」
時は、かの死線から2日後。
場所は、玉座の間。
ネスティア王国の国王・アーバレオンの眼前で、直属騎士団4番隊隊長・ザヴァルは、片膝をついて頭を垂れていた。
『狩場』でのイレギュラーな戦いの顛末と、自らの失態の報告のために。
「もったいなきお言葉……しかし、この老いぼれの力不足ゆえに、メルディアナ殿下を危険にさらしてしまったのは事実。処分はいかようにも……」
「……そうだな、確かに、不問というわけにはいかんかもしれん。だが、結果としてメルディアナは助かっており、お前達は全力を尽くしてくれた。私個人の意見になるが、お前と部下達を責めるつもりは無い。これからもよろしく頼む。下がれ」
「……ははっ……!」
その言葉に、より一層深く頭を下げると、ザヴァルは玉座の間を後にした。
後に残されたのは、玉座に座る国王アーバレオンと、扉から玉座への赤絨毯の両側に立つ数人の騎士、そして、玉座の両側で王の守護を担っている2名……ドレークとアクィラだけであった。
バタン、と音を立てて大きな扉が閉じられるのを見届けて……王は口を開いた。
「お前達の弟には、大恩ができてしまったな、ドレーク、アクィラ。無論、後で私直々に会うつもりでいるが、お前達からも褒めてやっておいてくれ」
「「はっ」」
会釈と共に、両名は返事を返す。
それを見て王は頷くと、続けて言った。
「さて、ついてはミナト・キャドリーユらには、それ相応の褒美を取らせたいと思うのだが……弟が貰って喜ぶようなものに心当たりはあるか? 話を聴く限り、いささか独特な価値観を持っているようだが……」
「確かに……あの子は、地位などには興味はないようでしたね。普通こういう場合なら、勲章や土地、爵位や官職などを与えるものですが……」
「弟君ならば、興味などもたん、か?」
「おそらくは。先日それとなく聞いてみましたが、自由な冒険者という身の上が気に入っている様子ですし、地位は権力だけでなく責任や義務などを伴うことを理解しています。その上で嫌がっているのでしょう。特に爵位などは、国に対して明確に仕える義務が発生する上、貴族同士のしがらみにも関わらなければならなくなりますので」
「もっとも……基本的にもらえるものは貰っておく主義のようですし、そういった堅苦しいオプションを伴わないものであれば、喜ぶのではないでしょうか?」
それを聞いて、王はしかし……困るどころか、なぜかおかしそうに笑っていた。
「そうか……ふっ、なるほど。それは確かに、『母親似』だな。よし、なら彼には、褒賞金と名誉勲章にしよう。それとドレーク、城の保管庫から、彼ら『邪香猫』に有用そうなマジックアイテムか何かを、いくつか見繕ってくれ。それも進呈しよう」
「よろしいので?」
「彼らは冒険者……ならば、そういったものに需要もあるだろう。いつか持つにふさわしい者が騎士団に現れた時に渡すなどと言って、長年死蔵しているものが多数あるはずだ。ならば、使える者に使ってもらえる方が、武器も素材も喜ぶ」
「かしこまりました。では、そのように……」
そう言ってドレークが会釈すると、王は謁見の終了を宣言。
参集していた騎士達は解散し、王はドレークとアクィラに両脇を守られながら、謁見の間を後にした。
謁見用の堅苦しい服装から、普段着への着替えのため、自室へと戻る途中で、
「しかし、本当なら娘を救ってくれた大恩、こちらから出向いて礼を言いたいところだがな……やれやれ、一国の王という地位も、よいことばかりではないな。世間体を気にして、人として重んじるべき礼節に蓋をせねばならんとは」
「陛下。陛下のそういう所は庶民的で人気もある所ですが、貴族達の耳に入ると文句が飛んできそうな発言はお控えくださいね? 弟をよく思っていただけるのは嬉しいですが、この国の頂点に立っておられる以上、そういうものだと納得していただきませんと」
と、アクィラ。
敬語は使っているものの、まるで、先輩のお姉さんが後輩を諭すような言い方になっている。聞く者がきけば無礼ととられかねないものだが……王に気にした様子は微塵もなかった。
……というか、ある意味では実際そうであるがゆえに。
「わかっているさ、ただ、昔からの体に染み付いた感覚というものは簡単には抜けんのだよ。騎士時代、恩を受けた相手には最大限の礼節を持って接するように……というのは、他ならぬドレーク、お前から教わったことだからな。お前の部下だった時代に」
「……その際、自分と相手の身分の差をよく理解したうえで言葉や対応を選ぶことの重要さも、説明させていただいたと思いますが」
30年ほど前まで、部下として鍛えていた現・君主に、そう茶化すように言われても、真面目そうな表情を変えずにそう返すドレーク。
「ははっ、そうだったな、これは一本取られた。ドレーク、アクィラ、やはりお前達には、いつになっても私は頭が上がらんようだ」
「こぉら、そういうところですよ国王陛下」
と、かつてはどちらも自分の上司だった、年の差にして1世紀分近くある2人を相手に、国の頂点と各部門の極官の間の会話とは思えないほどアットホームな空気を醸し出しながら、3人は廊下を歩いていった。
王に近い衛兵や侍女だけが見ることの出来る、この城の隠れた名物であったりする。
……そしてその頃、その話題に上っていた『弟』はというと、
☆☆☆
「……ええと、ダンテさん? 今、何て?」
「……おぅ」
ここは、王城近くにある国立病院。
その入院用病棟の一室。
そこで……僕の目の前で、ジト目のエルクと困ったような顔をしたダンテ兄さん(白衣)が、対面する形でそれぞれ椅子に座っている。
エルクの後ろには、他の『邪香猫』メンバーもいる。エルク以外は立ってるけど。
そして、その光景を見渡せる位置で僕は、入院患者用のベッドに横になり、上体を起こした状態で……困っていた。
何でって? 目の前の2人を中心に部屋中に渦巻いている空気が邪魔だから。
「……今、何て言いました?」
「えっと……だから、うちの弟が完治するのに大体……1週間くらいだ、って言いました、はい」
なんか敬語混じってるダンテ兄さんの口調は、こころなしか気まずそうである。
一方のエルクは、いつも僕にツッコミをくりだす寸前みたいな空気に。
……まあ、今の会話の内容じゃ、無理ないかもだけど。
「ミナト、すんごい重傷だったんですよね? 全身傷だらけでしたよね? 足、何十針も縫ったんですよね? 腕、粉砕骨折してたんですよね? 魔力混濁のせいで治癒するの普通より時間かかりそうだったんですよね? そしてそれ聞いたの昨日ですよね?」
「はい、全部昨日言いました」
「……しかもその後、全治2ヶ月前後、機能回復のためにその後もしばらくリハビリが必要なレベルの怪我だ、って言ってませんでした?」
「……言いました」
「1ヶ月と3週間分、昨日一日で回復したとでもおっしゃるんでしょうか?」
「いや、そういうわけでなく……単に回復速度が常人の数百倍なだけです。ちなみに一週間後、リハビリが必要ないくらいに完全に治癒するものと思われます」
「……頭には特に怪我ありませんでしたよね? 一発こいつ殴っといてもいいですか?」
「どうぞ」
「いや、その会話はおかしい」
待ちなさい。病室備え付けの灰皿(大理石)を持ち上げるのをやめなさいエルク。
なんかやり場の無い感情がわきあがってるのはわかるけど、やめなさい。怪我人だから僕、今。
僕がこの病院にかつぎこまれたのは、一昨日の夜遅くである。
『ディアボロス亜種』の撃退後、『オルトヘイム号』で山を滑り降りたところで意識が落ちた僕は、その後、気を失ったまま王都まで運ばれた。
騎士団のみなさんが、付近の村から馬車を借りてきてくれたそうだ。それに乗って、最高速度で飛ばしてきてくれたらしい。
しかも移動中ずっと、騎士団や訓練生の中で魔法使える人たちが総出で、治癒魔法で状態が悪化しないようにしてくれてたとか。感謝感謝である。
その数時間後に王都に到着し、僕はすぐに病院に担ぎ込まれて……そこがダンテ兄さんの勤める病院だった。
重傷者多数の僕らの中でも、僕とザヴァルさんはすぐさま手術。
……って言っても、麻酔かけて腹切るとかじゃなく、縫ったり、傷口の異物取り除いたりとかそのへんだったらしいけど。
ちなみに、僕を担当したのはダンテ兄さんだったそうな。偶然?
なおその際、軽傷のエルク達は別室で手当てされ、僕の手術が終わるのを待ってたらしいけど……その時王女様も一緒だったらしい。
『時間も遅いので帰ってお休みください』って関係者とか全員口々に言ったらしいんだけど、『この私のために命を張ってくれた二人を放って悠々と家路に着くような恥さらしな真似をしろと言うのか!?』と、本気の怒気と威圧感と共に言われ、全員黙ったそうだ。
何も出来ることがなくても、せめて2人とも無事に助かる所を見届けてから出なければ帰る気は無いと、頑としてそこを動かなかったらしい。
結局、手術が終わり、病室に運ばれる僕らの無事をしっかりと見届けた後で……迎えに来た騎士団の人達と共に帰ったらしい。
手術後も色々と適切に処理が行われ……全部終わって病室のベッドに寝かされた段階で、エルク達に詳しく説明がされたそうだ。
それによると僕は、
右腕・右拳粉砕骨折、筋肉断裂。
左足、脛部分に100針以上縫う裂傷。膝から下全体の骨にヒビ。
その他、全身各所に打撲、裂傷、擦過傷、内出血等……大小合わせて35箇所。
トドメとばかりに、体内魔力の混濁による治癒能力低下。
魔法がある世界なんだから、そのくらいの傷なんとでもなるんじゃないの、って一瞬思うけども、そんなに単純でもないそうで。
いわゆる『回復魔法』や『回復薬』っていうのは、軽い怪我や病気、少しの疲労くらいならなんとかなるものなんだけども……怪我や病気があまりに大きくなると、どうしても治癒には時間がかかるらしい。
理由は2つ。
1つは、そもそも『回復魔法』は、本人が持っている本来の回復力を後押しする形で治癒を促すものであるから。
あんまり重傷だったり、病人や老人など、対象者の回復力そのものが低い場合は効果は薄いし、そもそも魔法の補助があるといっても、回復には自分の体力使うわけだから負担も大きくなる。
外科的な措置もあわせて、適量使っていった方が効率的というわけだ。
そしてもう1つ。
何でもかんでも、回復速度を上げて強制的に治癒させればいいってもんでもないから。
例えば、骨折。
魔法を使わない普通の治療でさえ、骨が正しく形成されるように気を使う。骨がずれたりした状態で、変な形でくっついたりしないように。
魔法で回復を促して速く治った所で、骨が途中で曲がった状態でくっつきました、なんてことになっちゃ大変である。
とまあ、こういう理由から……強力な回復魔法があればどんな怪我でもすぐ治りますよかったね、っていう世界ではないわけで……しかも僕の場合、その魔力そのものに混濁があり、回復にも影響する状態だった。
それらを見据えてダンテ兄さんは、全治2ヶ月の判断を下したわけだけど……
その予想が、その判断から30時間と少し経過した今現在、見事に粉々になっているわけでありました。
姉さんの『パス』によって魔力混濁が超高速で回復した僕の体が、本来の治癒能力を発揮し始めたことによって。
傷はふさがり、骨はくっつく。化膿はおさまり、体内の雑菌は死滅。
負傷してからそろそろ丸2日が経とうとしている今現在、僕の体の傷は、腕と足以外はほぼふさがっていて……もうすでにかさぶたが取れたものもある。
結果、今日あらためて診断しなおした結果……『この分なら1週間で退院できる』という診断結果を頂いたわけである。
そして結局殴られました。理不尽だ。
ただし、灰皿じゃなくてチョップだったから許す。心配かけたのはホントだしね。
☆☆☆
「しっかしまあ、相変わらずあんたの体は規格外ね……」
と、病室のベッドの横に座って、リンゴをむいてくれてるエルク。
何だか疲れた目をしている。原因は明白だけど。
ただ、他の4人よりはマシな感じがしたのは……そこはさすがに、僕の仲間の中でも最古参ということなんだろう。
何だかんだで、こうして受け入れてるし。
エルクをはじめ、僕以外の『邪香猫』メンバー5人は、入院はしていない。そこまでの重傷を負った者がいないからだ。
今はみんな町に出て、必要なものを買ったり、部屋で休んだり、思い思いの過ごし方をしているらしい。
エルクはこうして、僕の隣にいてくれてるわけだけども。
個人的には、うん、めっちゃ嬉しいです。
入院中に女の子がお見舞いに来てくれて、フルーツを剥いてくれるとか、思春期男子としては憧れのシチュエーションの1つなので。
……あとは、その剥いたフルーツをエルクが自分で食べてなければ100点なんだけど。
「……? 食べる?」
しゃくしゃく、と快音を響かせながら、皮を剥いて切ったリンゴを食べ……僕の視線に気付いてそう言ってくるエルク。
いや、食べるも何もそれ……僕に来たお見舞いじゃないの? 誰からか知らないけど。
「いや、あんたはどっちかって言うと丸齧りとか好きそうな感じだし。食べたけりゃもう1コ剥くわよ?」
「じゃそれ最初から自分が食べるため100%で剥いたんかい。あと、僕どっちかっていうと丸齧りあんまり好きじゃないから」
「そうなの? 意外ね。じゃ待ってて、もう1コ……あ、リンゴないから梨でいい?」
「なくなったのはエルクが食べたからじゃ……ま、いいや。僕どっちかっていうと梨のほうが好きだし」
「そりゃよかった? あ、私も1切れもらっていい?」
「……よく食べるね」
繰り返しになるけど、僕のお見舞いじゃ……ま、別にいいけど。
「これくらいいいでしょ? 朝から何も食べてなくてお腹すいてるんだから」
え、そうなの?
あ、そういえば……今朝、なんか目が覚めたらエルクがすでにベッドの横にいてくれてて、そのあとザリーたちも来て、ダンテ兄さんも来て……説明始まったんだっけ。
てっきり朝ごはん食べてから来たもんだとばっかり思ってたから、その後普通に僕病院の朝食食べちゃったよ。空腹のエルクの目の前で、悪いことしたかな?
ていうか、朝ごはんくらい食べてからお見舞いにくればよかったのに……
「いや、食べてから来るっていうか……昨日の夜からずっとここにいたからさ。持ち込んだ夜食食べてそれっきりなのよ」
「……は?」
今、何言ったこの娘?
昨日の夜からずっと、って……まさか昨日泊まったのここに!?
で、でもだって、昨日の夜……晩御飯食べたすぐ後、ザリー達と一緒にエルクも帰ったんじゃなかった? 疲れてたから、その後すぐ僕寝たし……。
「ああ、アレ? トイレ行って、外の露店で夜食買ってきただけよ。まあ、戻ったらあんたもう寝てたけどね」
「それからずっとここに居たの!? 全然気付かなかった……っていうか、何で!?」
「んー……なんかこのまま帰っても寝付ける気、しなかったし。だったら、あんた見てた方が心配もまぎれていいかなって思っただけよ」
それでエルク2日連続徹夜したの!? 確か最初の日も、帰ってきた時にはすでに夜でそれから治療入って、気付いたら朝だって言ってたし!
え、もしかしてその間ずっと僕のそばにいてくれたのかこの娘は!?
「あー……なんか、ごめムグッ?」
「謝らなくてよろしい。私が勝手にやったんだから」
言ってる途中で、剥き終えた梨を1切れ僕の口に押し込むエルク。
イタズラっぽい笑みの浮かんでいるその顔には……よく見ると、目の下に僅かにクマが出来ていた。
睡眠不足は美容の大敵だろうに……今言わなくていいって言われたばっかりだけど、やっぱ申し訳ない。
「とりあえず、一晩中隣に私がいても気付かないくらいにはあんた疲労してるんだから、大人しく寝てなさい大怪我人」
「ははは……反論できないね、ここまできたらもう、大人しくそうするよ」
「そうそう、それがいい。何せ寝てる間に、寝汗拭いてあげても、寝返りでずれた布団直してあげても、ほっぺたにこっそりキスしても起きなかったんだから昨日は」
「はいはい……はぁっ!? ちょ、え、今何て言った!?」
前2つはいいとして……ちょ、き、キキキキ、え!? それマジ!? 寝てる間に人に何してんのエルク!? てか、ホントにしたの!?
「冗談よ」
「…………」
「何よ、その目は」
……ホント、いい性格するようになったな、この娘。
いや、残念なような安心したような……やっぱ残念だな。
「あ、でも冗談なのは最後の1つだけ。前の2つはやったわよ?」
「あ、そうなの? ありがと」
若干慌てる内容の冗談だったけど……蓋を開けてみれば、やっぱり普通に嬉しい。
彼女自身も疲れてるだろうに、僕が寝てる間中ずっと気にかけてくれてて、寝汗の始末もしてくれて、布団のかけなおしもしてくれて……。
それに彼女、性格もよくて気楽に話せて、容姿も好みで、よく気が利くし努力家で向上心もあって色んな分野に才能溢れる感じで……
「……今度は何の目よ?」
「いや、本格的にエルクが嫁に欲しくなって」
「あっそ。ま、私は別にいいけど……あ、でもあんたと結婚すると、新婚旅行って称して未開の危険区連れて行かれそうで怖いわね。結婚指輪もとんでもないマジックアイテムとかどこかから引っ張り出して来そう」
「あらためてエルクの中で僕ってどんな認識なのさ……せいぜい結納品に超特別性のオリジナル魔法10個くらい用意する程度だよ。あ、でも指輪はいいアイデアだねそれ」
「十分アウトよアホ」
「…………」
「…………」
「……こういう会話平気でするから、シェリーさんに『長年連れ添った夫婦か!』とか言われるんだと思わない?」
「思う」
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