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第111話 滑って、滑って、大脱出
もしもヘリコプターか何かが、その山の上空を飛んでいたなら……テレビのニュース番組でも十分に使えそうな衝撃映像を撮影できていたことだろう。
何せ、それなりに大きな山の山肌の一部が、地震の揺れによって溶けたかのように崩れ、土砂崩れとなる瞬間が見えたのだから。
原因不明の大きなゆれにより、砂も、土も、岩も、全てが地表をすべるように、徐々に動き出していく。その上に生えている、草や木ごと。
それらが立ったまま流れ、まるで地面そのものが移動しているように見えるものもあれば……壮絶な勢いの土砂のミキサーの中で、跡形もなく破砕され、粉々になってしまったものもあった。
そして、
その後者のようなことにならないように、一路、エルク達は、土砂崩れが起こる区間を避けるようにして必死で走り、逃げていた。
『サテライト』により、目に見えない部分も含めた地形を把握し、土砂崩れの危険がある場所を察知できるエルクの指示通りに。
それにさらに、ミュウの占い……『未来予知』を組み合わせ、危険な場所を避け、少しでも安全な場所を探して、一行は走った。
怪我をしている者がほとんどだったが、その痛みを必死でこらえて。
止まれば、その先には死が待っているとわかっていたがゆえに。
十数分ほども必死で走った後、一行はとりあえず、崩れている場所からだいぶ離れた高台の位置まで来て、ひとまず休憩を取っていた。
ザヴァルによれば、大きな岩盤があるために地震にも強いらしいここは、実際に『サテライトで』調べてみても、かなり頑丈そうだと見て取れる場所だった。
とはいえ本当なら、別に休んだりせずこのまま一気に大回りに下山してしまいたい所なのだが、さすがにこれ以上走り続けるのはスタミナ的に厳しい者が多かった。
それに……もう1つ、特大の懸念もあった。
大至急移動しなければならなかったために、やむなく後回しにしたことではあったが……絶対に無視して逃げることなど出来ない事項が。
「エルクちゃん、ミナト君まだ見つからない!?」
「ダメ、いない! 念話にも全然応答ないし……」
ザリーの問いかけにエルクが、焦りと悲痛さがにじみ出て、悲鳴にすら聞こえる声で返した。頭の中に展開されている『サテライト』の地図に、いつも隣にいた彼の反応を必死で探しながら。
「最大出力で探してるのに、全く反応が無い……あーもう、急いでるのに!」
「ちょっと、それってまるで……ミナト君が……」
「バカ言わないで、殺したって死なないわよあのバカは! 原因はわかってる……戦いの最中、『サテライト』からいきなりミナトの反応が、不自然にぶれて消えたから。多分あいつ『ダークジョーカー』使ったんだわ、それも、相当な出力で」
「……と、言いますと?」
「高出力でアレ使うと、ミナトとその周囲の魔力が歪んで『サテライト』に映りづらくなるのよ……解除後もしばらく続くし。それ見越して最近改良進めてたんだけど……あーもう、完成させとけばよかった!」
「同感ですが……ないものねだりをしても仕方ありません。しかし気になるのは……念話にも出ず、ミナトさんの方から何らかの音沙汰も無い、というところでしょうか」
と、内心は心配しているようだが……務めて冷静にしているナナは言った。
「仮にまだ『ディアボロス亜種』と戦闘中だとしても、念話で何か一言返すくらいは出来るはずです。それにミナトさんは方向音痴ですが、『サテライト』の範囲内でなら、頭の中の地図に従って動き、私達に合流することは可能なはずです。どちらもないとなると……」
『邪香猫』メンバーは、エルクの『サテライト』による位置情報の把握を、脳内で共有することが出来る。その範囲内にいる限りは、だが。
このため、自他共に認める方向音痴のミナトでも、その脳内地図でなら『自分から見てどっちに行けば誰に会える』程度のことはわかる。
ゆえに合流だけなら、1人でも迷うことなく可能なのだ。
地形や魔物など、その都度前に立ちはだかる障害は、力技で何とかできるので。
そして『サテライト』の範囲内でなら、『邪香猫』メンバーは、相互に念話を使える。
エルクやシェリーなど、自力で使えるものから話しかけてもらわなくとも……ミナトやザリーなど、念話を自分では使えない者でも、アウトプットで使えるのだ。
そのどちらも、ミナトから来ないというこの状況。
ナナが立てた、考えられる仮説は3つ。
その1。単純に、戦いの中で『サテライト』の範囲内から出てしまったため。
その2。『ダークジョーカー』の副作用である魔力混濁により、『サテライト』だけでなく『念話』も感知できない状態であるため。
その3。それらすらも出来ないほどの重傷を負って動けない、もしくは意識不明。あるいはすでに……という3つだった。
口に出すどころか、想像するのもはばかられる嫌な可能性が、しかしどうしても浮かんできてしまう……
そんな認識が、全員の中に共通してあったために、どうしてもその場の空気が重くなっていた……その時、
―――ゴゴ……ゴゴゴ……
「「「―――!!?」」」
彼女達の真下の地面から……そんな低い音が伝わってくるのが感じられた。
頑丈な岩盤の上であるにも関わらず、かなり大きな揺れと共に。
驚くと共に、かなり不吉な予感がしたエルクが『サテライト』で見てみると……そこには、さらに彼女を驚かせる地形情報が映し出されていた。
ザヴァルの言っていた通り、エルク達のいるここは、かなり頑丈な岩盤の上だ。
たとえ地震が起ころうと、かなり揺れが大きくともびくともしないほどの。
しかし、
その周囲の地面は……別だったのだ。
例えば……想像していただこう。
現代日本の、一般的な住宅。その四方の壁の内の1つを、どんな大規模な爆発にも耐える、核シェルターのような強固な壁にしたとする。
その壁に向けて、何発ものミサイルを撃ち込んだ。途轍もない衝撃が次々と襲い掛かるが、その壁はびくともしなかった。
……さあ果たしてこの住宅、問題なく立っていられるだろうか?
当然、答えは否である。
そのシェルター素材の壁が無事でも、他の壁が一般基準であれば……衝撃に耐えきれず簡単に崩れるか、壁の材質が違うせいで剥がれるかしてしまう。
いや、余波だけで普通の壁など崩れてしまってもおかしくない。
山肌が広範囲にわたってただの土砂になって崩れてしまうような規模の地震である。
1枚の頑強な岩盤が無事でも、同じように振動にさらされ続けているその周囲の地面は……無事ではいられなかったのだ。
エルク達の脳裏にある『サテライト』の映像では……自分たちが乗っている岩盤の周囲の地面が、同時多発的に崩れようとしていた。
このままだと、数分後には岩盤周囲の地面がいっせいに崩れる。
運がよければ、岩盤はその土砂の奔流にバランスを保ってうまく乗り、そり滑りか何かの要領で、ふもとまでエルク達を運ぶだろう。
ただし……山麓に到達した時、その膨大な運動エネルギーで岩盤に相当な衝撃が叩き込まれるだろうが。
そして運が悪ければ……岩盤ごと飲まれるだけ、だ。
ここから逃げようにも、見る限りかなり広い範囲で崩壊の予兆が見られる。
今すぐ岩盤の上から逃げて、今現在崩れる気配が無い場所を全員全力で目指したとしても……果たして間に合うかどうか怪しい。
それに、仮に間に合ったとしても、振動が、崩壊が伝播して、避難先もまた崩れるような事態になりかねないのだ。
説明の時間すら最早惜しかったので、エルクはザヴァルとメルディアナの2人の脳内にも、同様に『サテライト』の地図を投影した。
2人の手を握り、直接接触で魔力リンクを作り、映し出す……という方法で。
これは、『マジックサテライト』という魔法の性質に起因する。
この魔法の情報共有は、どういうわけか、『邪香猫』メンバー以外には、一部例外を除いて、遠隔では上手く伝わらないのである。
ごく最近の検証で判明したことだった。まあ、仲間以外に『サテライト』を使うことなどほぼ無いため、無理は無いが。
『邪香猫』以外では、何かと縁のあるスウラや、幽霊船の一件で協力したシェーン、それに、最近知り合ったばかりのギーナなどは、遠隔でもほとんど問題なく『サテライト』の映像を見ることが出来た。
というかギーナは実際に、ミナトと組んでいる間……頭の中で『サテライト』の映像を見ながら動いていたのであるし。
しかし、同じことをノエルや、先日王都で再会したダンテなどにやると……どうも上手く行かないのだ。『オープンチャンネル念話』などの一部の機能は別だが、映像は上手く見られない。
この現象が一体何を基準に起こっているのかなどは、ただいま検証中なのであるが……それはまた別の機会に掘り下げるべきこと。
頭の中に浮かんだ『サテライト』の情報により、驚きながらも今の状況を理解した2人は……焦りと困惑をその顔に浮かべた。
エルクが握っている手にも、しっとりと手汗が浮かぶ。
さすがの理解力である。どうやら……ほぼ八方塞であるという状態を一瞬で飲み込んだようだった。
もっとも……だからといってすんなり受け入れられるような事態ではないが。
「……何か手は無いか、ザヴァル?」
「……申し訳ありません、殿下。私の体が万全であれば、殿下お1人くらいならば、抱えて全速力で危険区域を脱出することも出来たかもしれませんが……」
「……また、ない物ねだりだな。そもそも、ここまで全力で戦ってくれた皆を見捨てるという時点で、選びたくない選択肢ではあるが」
「ご立派です。しかし今は何よりも、生き残ることを考えなければなりますまい……エルク殿、他の皆様も、何か妙案があればぜひとも賜りたい」
エルクたち『邪香猫』メンバーや、部下である騎士団員達を見渡してそうたずねるが……芳しい反応は返ってこない。
広範囲で、破壊力も尋常ではない土石流から逃れようというのだ。全力状態のザヴァルでも、王女1人助けられるかどうかという難題……無理もない。
逃げるにしても、移動手段が思い浮かばない。一流と言っていい冒険者がそろっている『邪香猫』チームでも、全力で動いても危険範囲から脱出できるかどうか微妙なのだ。
かといって、この場にとどまって何らかの手段で土砂崩れをしのぐのも不可能。
あの規模の破壊では、たとえミュウの『アーマードクラム』の貝殻の中に閉じこもっても耐えられるかどうかは微妙である。高確率で『召喚獣』の限界ダメージを超え、『アーマードクラム』が消滅し、そのまま中の人間もお陀仏だろう。
陸路がダメなら空は、ともザヴァルの考えは及んだ。
今現在上空を飛んでいる、鳥型の魔物……アルバを見上げて。
アルバの、見た目に似合わないハイスペックさ加減は、ザヴァルも先ほどまでの戦いで目にしている。何らかの魔法で、もしくは直接つかんで飛ぶなりなんなりして、王女をここから連れ出してはもらえないだろうか、と。
しかし、もし魔法で高速移動や瞬間が可能なら……わざわざ走らなくともすでにやっているだろう、と思い至る。自分達全員を逃がすために。
すると、上を見上げているザヴァルを見て、エルクはザヴァルが考えていることを悟ったらしく……しかし、首を横に振った。
「アルバは浮遊魔法も使えるけど、さすがにこの人数を山のふもとまで、土砂崩れの被害が無い高さまで浮かせて運ぶのは無理よ」
「……人数が少なくなっても無理か? 我ら騎士団は、王女のために命を捨てる覚悟はできている。見捨てて行ってくれても……」
「仮に王女様だけを運ぶように命令して、私達も見捨てるように言っても無理よ。そもそもアルバの浮遊魔法は、瞬間的にならともかく継続的に浮かべるなら、最大でも地上から1~2mくらいしか浮かべられないもの」
「……土砂崩れの影響を受けない高さにまでは無理と言うことか……」
ギリ、と音を立て、奥歯をかみ締めるザヴァル。
使命を帯びておきながら、それを全うできずに王女の命を危険にさらしてしまっているという事実が、彼を責め立てていた。
エルクの『サテライト』の裏づけがあったとはいえ、この岩盤の上なら安全だからと進言してしまったのが自分であるということも手伝っている。
それでも諦めず、何とかして彼女を助ける方法を必死に模索するザヴァルは……
ふと……誰かに見られているような視線を感じた。
顔を上げてみてみると……その先にいたのは、一羽の鳥だった。
白い羽毛に、血のように真っ赤な目。
ぱっと見ると清潔感漂う、純白のハトのような鳥だが……こちらをじっと見つめるその姿が、ザヴァルには酷く不気味なものに思えた。
近くの木の枝に止まっているその鳥は、自分達の方を見たまま、身じろぎ一つしない。一瞬、置物か何かと勘違いしそうになったほど、見事に動かない。
そもそも、この地震と土砂崩れのせいで、森にすむ鳥の類は残らず飛んで逃げ去ってしまったものと思っていた。
魔物の一種かもしれないが……とはいえ、この事態に動物など気にしている場合でもない。そう思ったその時、
――ザザザザザ……!
「「「……!?」」」
そんな音が、どこかから聞こえてきた。
ザヴァルだけではなく……そこにいるほとんど全員の耳に。
まるで、何かが地面をすべっているような音だ。しかも、どんどんこっちに近づいてきている。
そしてそのうちの何人かは、その音が……山の上のほうから聞こえてきていて、一直線にこちらを目指しているようだ、ということにも気がついた。
その方向を見た『何人か』は……そこに、見た。
倒木をボード代わりにし、それに乗ってスノーボードか何かの要領で、山肌を『ザザザザザ……』と豪快に滑ってこっちに向かってきている、ミナトの姿を。
「おーい、みんなー、無事――!?」
「「「ミナト(君)(さん)(お兄さん!?)」」」
各々好きな呼び方で、様々な感情をこめて名前を呼ばれたその少年は、高速で滑りながら、エルクたちがいる場所の脇を通過する軌道で降りてきて……
通り過ぎる直前に跳躍し、彼女達の前に降り立……
……とうとして、上手く着地できずにずでん、とすっころんだ。
☆☆☆
あたたた……あー、やっぱ怪我人がかっこつけるもんじゃないな。
いつもなら出来たと思うけど、さすがにこの状態じゃ無理か。
「み、ミナト!? ちょっ、あんた大丈夫……ッ!? どうしたのその怪我!?」
と、
いつものように、てっきり上手く着地するもんだと思ってたら予想外のバカをさらした僕のところに駆け寄ってきたエルクは……僕の右腕と左足の状態を見て、度肝を抜かれたような声で驚いていた。
まあ、無理もない。
何せ僕の右腕と左足、ベルトに『収納』してた包帯で縛って応急手当してあるとはいえ……今さっき止血できたばっかりで、かなり血で真っ赤だし。
『ディアボロス』にやられた左足もそうだけど……『レールガンストライク』の反動で、右腕も拳握れないくらいイっちゃってるし。
と、いうことを説明したら、
「あ、あんたそれ……大丈夫じゃないでしょ絶対!? 間違いなく、今までで最悪の重傷じゃない! けろっとしてるけど……痛くないの?」
「ん? ああ……まあ、一応大丈夫。動く時に痛くて気が散るから、『ダークジョーカー』の肉体操作能力で、痛覚遮断してる。もう『ダークジョーカー』自体は切れちゃったけど、あと30分くらいは痛くないはず」
「なるほど、ね……大丈夫そうに見えて大丈夫じゃない、って勝手に解釈させてもらうわ」
あ、そう。
まあでも、その解釈で間違ってないけどね。
結論から言えば僕は今、見た目どおりの重傷。『ダークジョーカー』の副作用も手伝って、多分、今の僕よりシェリーさんやナナさんの方が強いし。
それはそれとして、『ディアボロス』は撃破したものの、今現在僕がちょっと戦力に数えられないとわかってもらった所で……今度はエルクたちから説明を貰う。
『ダークジョーカー』後の魔力混濁のせいで、『サテライト』も『念話』も感じ取れなくなっていた僕は、エルクから手を握ってもらって直接接触で地図を読み取ったわけだけども……なるほど、なかなかの修羅場だ。
山が崩れそうになってるのは、ここ来る途中で色々見て知ってたけど……ここまでギリギリだったのか。まさに絶体絶命、ってわけだ。
……が、
この状況……どうにかなる手がないわけでもない。
……ちょっと、いやかなりきついけど。
と、それを話そうとした所で……
――ずずん、と、
座っている地面の下から……かなりの揺れ。
同時に……おそらくは、ザヴァルさんが『大丈夫』と評したらしい岩盤そのものが。ぐらぐらと揺れ出し……周囲の地面が土砂になって崩れ始めた。
はっとして上を見れば……バランスを崩しかけているこの岩盤に向かって、大量の土砂が崩れてこようとしているのがよく見えた。
このままだと十中八九、この岩盤ごと土砂崩れに巻き込まれて全員あの世行きだろう、アルバ以外。それはごめんこうむりたいもんである。
……うん、説明してる暇ないらしい。
なので、
「ミュウちゃん、アレ出して」
「はい? アレって……あ、アレですか?」
「そう、アレ」
ぽん、と、
ミュウちゃんの肩に手を置き……そこから魔力を送り込む。
それを片っ端から使い、ミュウちゃん……魔法を練り上げていく。
さすがミュウちゃんだ、たったあれだけの会話で意味を察した。
そしてワンテンポ遅れて、エルクたちもその意味を理解したらしい。
「……っ! ちょ、ミナト!? まさか『アレ』って……」
「そう、アレ。この状況何とかするにはアレしかないでしょ」
「いや、そうかもしれないけど……あんなもん使ったら……あんた、大丈夫なの!? ただでさえ重傷な上に、あの黒いのと戦って、傷も負って、『ダークジョーカー』まで使って……魔力相当消耗してるでしょ!?」
「大丈夫だって。ま、さすがにすっからかんになったら多分気絶するから、後のこと全部任せる事態になるかもしんないけど……」
「自己治癒の促進にも魔力とか要るでしょうが! 使い切っちゃったらあんた……」
「だからってここでケチったら全滅するでしょーが……っと、そろそろ準備よさげ?」
「はい、もう10秒くらいですねー」
と、ミュウちゃん。よし、ナイス。
後ろを確認。土砂崩れ迫ってきております。
けど、これなら多分間に合う。よし、やっぱ決断は迅速に、だね。
次の瞬間、
ミュウちゃんの足元から、見覚えのある巨大魔法陣が現れ……ると同時に、もう本格的に時間ないので、僕は振り向いて声を張った。
「はい皆さーん、ここにいると死ぬので、今から全員で逃げまーす。見てくれはアレですが、機能性は一応保障しますので乗ってくださーい!」
誰かが『何に』と聞くよりも早く、
巨大魔法陣から……それが姿を現した。
ミュウちゃんの扱える、最大の『召喚獣』……『幽霊船・オルトヘイム号』が。
「「「!!?」」」
まあ、そりゃ驚くだろう。うん。
しかし、そんな暇も惜しいので『ホラ乗った乗ったー!!』再度叫ぶ。
空中に現れたオルトヘイム号は、魔法陣から完全にその姿を現すと……ずしん、とドデカい音と衝撃と共に、今正に崩れている最中の地面に着地。
そこに、僕ら一同……急いで乗り込む。
まず僕ら『邪香猫』が。
そして困惑のためだろう、ワンテンポ遅れて王女様や、ザヴァルさん以下騎士団員の皆さん、ギーナちゃんたち訓練生も。
そして、
僕ら全員を上手いこと乗せて……オルトヘイム号は、勢いよく、土砂崩れに乗って山を下り始めた。海の上で、海流に乗って進むかのように。
しかしながら、ここは地上。当然、揺れやら何やらとんでもない。
が、そのもともとの頑丈さに加え……『幽霊船』になったことで色々と補正がかかっているらしい。
船底は土砂やら何やらで瞬く間に傷だらけになるが、壊れはしなかった。
木も、岩も、そしておそらくは魔物も、
何もかもを轢いて粉砕しながら、どんどん速くなりつつ進む。
「ほぉ……これは珍しい体験ができたものだ! まさか陸の上で船に乗れるとは! ザヴァル、老骨のお前でもさすがに初めての体験では無いか?」
「全くです殿下、しかし願わくば口をお閉じ下さいませ! この揺れですゆえ、舌を噛んでしまいます! それと、手すりをつかんだその手、決して放しませぬよう!」
「わかっている! だがどの道、お前がこうして支えてくれているのであれば安心だ!」
「もったいないお言葉です!」
と、王女様と、その王女様を後ろから抱えるようにして支えているザヴァルさん。揺れとか色んなものから、体張って守ろうとしている様子である。
……この揺れと、色んなものを轢く轟音の中なので、会話を成立させようとして自然に大声になっているけども……仕方ないといえるだろう。
何かしらに捕まって乗っている僕らの目の前で、けっこうな速さで景色が前から後ろへ抜けていく。
そして、
大して高くも無い山だったからだろう。早くもふもとが見えてきた。
するとエルクが、
「ねえ、ミナト?」
「何?」
「ふもと見えてきたけど……止まんなくていいの!? てかこれ、どうやって止まんの?」
………………
「ごめん、考えてなかった!!」
「「「おい!!!?」」」
ほとんど全員の声がそろって、もっともなツッコミが飛んできた……と思ったら、
直後に、上書きするようにザヴァルさんの声が響いた。
「いや、下手に止まるのは逆に危険だミナト殿! むしろこのスピードのままいけるところまで行ってくれ! 土砂崩れに追いつかれてはかなわんからな!」
「なるほど……了解!」
と、いうわけなので怪我の功名的に行けるところまで行く。
距離を稼ぐため、なるべく障害物が無いコースを選んでの滑走。
船首付近に立っている王女様が、なんかノリノリで指揮とってたり……
「前方に木立と岩場だ、面舵いっぱァ――い!!」
「了解、面舵いっぱァ――……面舵ってどっちですか――!?」
「「「右ィ――!!」」」
すいません、バカで。
こんなやり取りがちょこちょこ続きつつ……どうにか土砂崩れに追いつかれることもなく、山を下り、とりあえずの安全圏まで来ることが出来た所で……オルトヘイム号は止まり、
そこで、とうとう精神力やら何やら色々限界に来た僕は……目の前でホッとしてるえるくに『じゃ、あとよろしく』と言い残し、意識を手放した。
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