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第110話 逆襲のディアボロス
「――! 何か今、新しいおもちゃが手に入りそうな予感がビビッと……」
……って、んなこと言ってる場合じゃないって。何を言ってんだ僕は?
集中、集中。余所見してて勝てる相手じゃないぞ、死ぬぞ。
――ガァァァアアアアッ!!
開幕一番、『花の谷』で不意打ち気味に繰り出された、あの咆哮。
超高音+大音量で脳を揺らす厄介な技で、僕もコレのせいでいいのを食らっちゃったわけだけども……それだけに、対策はしてある。
いつコレが来てもいいように……僕は耳の内外に、高密度の『水』と『風』の魔粒子を充填し、『音』によるダメージを抑える魔力の耳栓を作ってある。
しかも、普通の音は通すけど、ある程度以上の音量や音域の音は防御してダメージを減らす、っていう都合のいい設定の魔法だ。
調整にけっこう苦労したし時間かかったけど、いい魔法が出来たと思ってる。
実際、今の咆哮でも僕の脳はほとんど揺れず……こうして全くひるまずに突っ込んでいけているわけだから。
しかし、向こうもそれに驚いたりしてひるむ様子はなかった。
ひるめばラッキー、くらいの認識だったんだろうか。きっちり隙も油断もなく構えていて、僕が放った先制のストレートパンチは、危なげなく受け流される。
……僕だから驚かないけど、魔物が『受け流す』なんて技能持ってるのって普通に考えたら脅威だよなあ……。
お返しとばかりに斜め上から振り下ろされる爪。
食らうのはごめんなので、僕ももう片方の手でそれをはじく。
同時に踏み込み、すり抜けるようにして奴の横に回りこみ……と、ここでコイツの3本目の腕が唸る。
普通なら絶対回避不可能な速さで振るわれた尻尾は……とっさにしゃがんだ僕の頭上、一瞬前まで首があったところを、矢のような速さで通過した。
お、ちょうどいい。
しなって元に戻ろうとしたそれをキャッチ。
飛び退きながら、戻ろうとする尻尾を力任せに引っ張って……そのままハンマー投げか何かの要領で、自分も回転しながら振り回す。
「おぉぉぉぉぉおおお――――らっしゃあああ!!!」
遠心力で外側に引っ張られ、ぴんと尻尾が伸びたくらい所で、これまた力任せに、振りまわす方向を変更。
速度を保ったまま、地面に叩きつける。人間、いや魔物にやっても真っ赤な花が咲くくらいの運動エネルギーと共に。
が……こいつはやはり規格外だった。
衝突直前、ディアボロスが片腕を地面について体を支えたことにより、轟音はしたものの『叩きつける』という結果には至らず、防がれてしまったのだ。
しかもその腕にも、別に損傷があるようには見えない。なんて腕力と頑丈さだ。
すると、片足で逆立ちしている状態のそいつが、すぅっ、と息を吸ったのが聞こえた。
また咆哮か、と身構えた次の瞬間、
――ガゥゥアアアッ!!
(いっ!?)
どんっ、と、
ディアボロスが吼えたのと同時に……僕の体に、トラックが衝突してきたようなとんでもない衝撃がぶつかってきた。
ディアボロスの尻尾から手が離れ、そのまま数m弾き飛ばされる。
倒れそうになったけども、どうにかバランスを保って踏みとどまった。
見ると、ディアボロスは逆立ちから、いつもの爪を構えた野生なファイティングポーズに戻っており、またいつでも飛びかかれる姿勢だった。
いや、それはいいんだけど……今の何だ?
いきなり何かが飛んできて、ふっ飛ばされたんだけど……遠距離系の攻撃か? こいつの?
……『花の谷』で戦った時は、んな攻撃もってなかったはずだけど……
てか、何が飛んできたんだ?
僕の動体視力でも、何も見えなかった。だとすると、見えない何かが飛んできた、と考えるのがいいんだと思うけど……魔力は感じなかったから、魔力弾とかを飛ばしてきたわけじゃないだろう。
熱も冷気も、電気なんかも感じなかったし、それどころか……何かが高速で動く時特有の、空気を切り裂くような音もなかった。
反応できないくらいの速さで……『飛んできた』はずなのに。
(ただ、あいつが吼えたとたんに…………『吼 え た』?)
その瞬間、僕は今の攻撃の正体がわかった気がした。
まさか……また『音』か?
今のもしかして、咆哮で放った音の衝撃波か!?
魔力も何も感じなかったのは、魔力なんてこめられてない、純粋な衝撃波だから。
空を切る音がしなかったのは、空気を『震わせ』て飛んできたから。振動が空気を伝ってきた形だから、別に切ってないんだ。
当然、そんなもんが目に見えるはずも無い。
……おっそろしいな、こいつの成長速度。
野生の獣や魔物の成長は、総じて人間の数倍から数十倍の速さ。
そんなもんは前世でもそうだったし、別に驚く所でもない。
けどさすがに、ここまで急激かつ、別なジャンルにまで手を伸ばした戦闘能力の上昇は……驚いてもいいよね?
……しかも、
何か、また妙な現象が目の前で起こってるし……
これも、『花の谷』で戦った時には無かった。
琥珀色の爪が、角が、同色の光をまとい……見た目一発『魔力纏ってます』的な不吉極まりないビジュアルになるような現象は。
……そういや、ザヴァルさんが殺されそうになってた時……足元に、バラバラになった剣(の残骸)が落ちてたっけ。……コレか、原因。
こころなしか、爪そのものも煌めいているようにも見える。ビジュアル的には、かなり凶悪で……それでいて、見た目に見合った威力があるんだろう。
当然ただの鉄なんかじゃないであろう、『直属騎士団』隊長の武器を容易く斬り下ろすくらいだ。
……果たして、僕のこの手甲と脚甲でも受けきれるかどうか……。
……なんてことを考えてる暇はないな。
そして当然……様子見なんかしてる余裕も。
「――ダークジョーカー……!」
出し惜しみは……なしだ。
☆☆☆
「時に、ザヴァル」
「は……何でしょう、殿下」
暗殺者たちが持っていたトラップの効力が峠を越えたのか、徐々に襲いくる魔物が少なくなっている中で……メルディアナ王女は、ザヴァルにたずねる。
「ミナトだが……勝てると思うか? お前でも勝てなかった、あの黒い龍に」
「……どうでしょうな。どちらの底も見えませんでしたので……何とも言えませぬ」
苦々しげに、しかしきっぱりとそういいきるザヴァル。
思わずちらりと、その1人と1匹が消えていった方角を見る。
相当遠くに行って戦っているのだろう、戦闘音などは聞こえてこず、魔力の余波なども感じられない。
「ですが……楽な戦いではないことは確かでしょうな。私は自分を弱いとは思っておりません。老いさらばえても、『直属』の隊長を任せられる身……日々の鍛錬は欠かしてはおりませぬし、見合った実力も持っているつもりでございます」
スピード、パワー、鱗や爪の強度に、動きの精密さ。
どれをとっても異常という他ないその実力を、戦いを思い出し……ザヴァルの額に一筋の汗が流れる。
「その貴様を、あの龍は戦闘不能寸前にまで追い込んだ。……たしか貴様の実力はランクにしてAAA級だったと思うが……となると奴はそれ以上か」
「S以上は確実かと……最早生ける災害ですな。しかも奴は、まだ本気ではなかった」
「……彼女達は、奴の……ミナトのことを信じているようだが……最悪の事態も想定しなければならんかも知れんな」
と、苦々しげに王女が言った……その時、
「……ん? 地震……か?」
座っている貝殻越しに……何やら地面が揺れたような感触を感じ、王女はつぶやいた。
☆☆☆
「おおぉぉおォりゃぁあああァァァああ!!!」
『ガァルルルァァァアアァァアアアアア!!!』
魔力で出来た黒い角と尻尾、そして翼を生やし、最強形態『ダークジョーカー』となった僕。
魔力を爪と角に、そしてそれだけでなく尾にまでも宿し、さらに凶悪な攻撃能力を発揮しているディアボロス。
戦いは、佳境を迎えていた。
目にも留まらぬ速さで飛び交う攻撃は、どれも一撃必殺級。多分だけど……きちんと訓練を受けた兵士でも、見切るどころか、何が起こってるのかわからないんじゃなかろうか。
自画自賛入っちゃうけど……残像見えるくらいの速さで、拳とか爪とか蹴りとか尻尾とか飛び交ってるし。特に意図してないのに衝撃波とか飛び出る勢いだし。
僕の『闇』の拳をディアボロスがかわし、魔力を帯びた角を突き出す。
しかしそれを僕は回避。飛び込んできたディアボロスに肘を叩き込む。
命中した部分の鱗にヒビが入って砕けるが、それにも構わず、今度はディアボロスが至近距離で膝蹴り。僕のみぞおちに命中。めり込むようにキレイに入り、息が詰まる。
骨は無事だが、一気に肺の中の空気が抜けたせいで、体勢が崩れかけ……そこに、ディアボロスの追撃の爪が襲いかかってくる。
が、とっさに僕は不安定な姿勢を逆に利用し、振り抜かれそうになる腕をつかみ……巴投げの要領で後ろに投げ飛ばす。投げ飛ばしながら、バック転の要領で体勢を立て直す。
そしてそのまま、まだ空中にいるディアボロスの延髄にとび蹴りを入れた。
しかし、体重が十分に乗っていなかったからか、はたまた単に肉体が強靭だったからか……ディアボロスは急所であるはずのそこへの一撃にも耐え、体制をほとんど崩すことなく着地した。
そして、今度はこちらからだ、とばかりに地面を蹴ると、再度角を構えて僕の心臓めがけて突撃してくる。
2度続けてキツいのを食らうのはさすがに危ないので、今度は僕は、さっきよりも大きく横に動き、横をすり抜けるような形をとる。
ただ避けるだけじゃ何となくもったいない+タイミング的にちょうどよさそうな気がしたので、すれ違いざまに膝蹴りを繰り出すが、ディアボロスはその場で跳び跳ねて回避。
そのまま体をひねり、大きくしなった尻尾で僕の首を狩りにくる。
けど僕がそれをしゃがんで避けると、さらに尾を振ってその反動で空中で体制を整え……着地した瞬間に襲いかかってきた。
避けられることまで予想済みだったらしい、ホント厄介だなこの知能の高さ!
頭を食いちぎるコースで迫り来る大顎。
体勢上、回避が難しいので……その牙が体に届く直前で顎を蹴り上げるため、足に力を入れる。
しかし、その一歩手前で……ディアボロスは急に口を閉じ、飛び込むような動きで跳躍した。
「!?」
驚く僕の目の前で、今度はこの黒トカゲ、予想外にも程がある攻撃に出た。
黒い体を空中で丸めると……なんと、そのまま縦方向に高速で回転し始めた。
しかも、背中の琥珀色の突起が……爪や角と同じように、魔力の光を帯びていた。
(……っ、アレはまずい!!)
くり出しそうになっていた足をすんでの所でとめ、顔の前で腕をクロスさせて防御の構えを取る。
次の瞬間、背中の突起を使ったディアボロスの回転体当たり――電動ノコギリを思わせる――が、ガガガガガガッ、と耳障りな音を立てて僕の腕に当たる。
その瞬間、僕は見た。
今まで、どんな攻撃を受けても傷一つつかなかった、『ジョーカーメタル』の手甲が……ディアボロスの、魔力を纏った猛攻を受けて、僅かだが……欠けるのを。
「……っ!!」
本当に電動のモーターで回転が加えられているわけではないその回転攻撃は、ほんの数秒で終わり……それと同時にディアボロスは、尻尾でけん制しながら飛び退る。
(……やっぱ、あの光付きの爪や角は危険だ……手甲でも受け止めきれるか怪しい!)
ろくに考える暇も与えられず、再び突っ込んでくるディアボロス。今度は爪を、貫手の要領で構え……迷いなく、一直線に心臓を狙ってきていた。
が、しかし飛び込む直前、尻尾を大きく振った反動で体勢と軌道を変え、反対側の手で斜め上から斬り下ろすような一撃を放つ。
しかし、僕には今度は……体の後ろで尻尾がしなるのが見えていた。
『花の谷』でも見たこいつのフェイント攻撃。忘れたくても忘れられないそれを……しかしそれゆえに僕は看破し、前に踏み込んですれ違うように回避。
そしてすれ違いざまに……僕のとっておきでもある、強烈なお返しを叩き込んだ。
「『エレキャリバー』――ァ!!」
電撃を、威力を拡散させず、手刀1本のみに絞って放たれた『エレキャリバー』。
ディアボロスの肉体強度ゆえか、切り刻むとまでは行かなかったものの、体重の乗った手刀の威力も合わさり、その脇腹に大きな裂傷を刻み込み、その内側には火傷を作った。
しかしやはりというか、肉体強度も鱗の頑丈さも規格外なコイツだ。普通の魔物なら霧状になるくらい木っ端微塵にできるこの技も……切り傷程度で済んじゃうとは。
それでもこの、肉を断ち切り同時に焼くという、奴からすれば未知の一撃は……奴を驚かせ困惑させ、硬直させることに成功していた。
知能が高いがゆえの弊害、ってとこだろうか。その一瞬の隙を見逃さず、僕は拳を握り……ディアボロスが反応するより早く、その顔面に全力の拳を叩き込んだ。
大きくのけぞるディアボロスの牙は……あたった部分の数本が砕け折れ、重厚な鱗も砕けていた。その下から血がにじむ。
そこから反撃すべく、上からの頭突きの要領で振り下ろされる角を……避けきれずに僕は手甲ではじく。
ガリッ、と、また少し手甲が削れた音がした。
飛び退って距離をとった僕の耳に届いたのは、聞き覚えのある、すぅっ、という呼吸音。
見ると案の定、ディアボロスが息を吸い込み……衝撃波を放とうとしていた。
が、
それよりも早く、意趣返しの意味もこめて僕の口から発射された『ドラゴンブレス』の輝く炎が――『火』と『光』の魔力からなる、目くらましも期待できる光量だ――ディアボロスの顔面を捉えた。
ボゥン、という破裂音と共に、狙い通りひるんでくれたので、
「らぁぁぁああああ――っ!!!」
ボディブロー、ストレートパンチ、肘鉄、回し蹴り、さらには『エレキャリバー』の手刀を、立て続けに叩き込む。
チャンスと見て一気に攻勢に出た僕の猛攻により、ディアボロスの体に瞬く間に傷が増えていく。
同時に……それに比例してだろうか、若干動きが鈍くなったようにも感じた。
そのことで、今が勝負所と見た僕は……『エレキャリバー』を展開し、超威力に電撃と斬撃を上乗せした拳を雨あられと降り注がせた。
距離をとり、時間を空ければ回復され、体制を整えられてしまう。
そうなっては振り出しに戻る……だから、インファイトで一気に決めるつもりで行く!
反撃のためにディアボロスが繰り出してくる爪や蹴りを、一瞬早く拳を放って打ち落とすか、軌道を見切ってかわしてカウンターを入れる。
攻撃で防御し、回避とセットで攻撃、それ以外は全て嵐のような勢いで攻撃。
総弾数3桁になろうかという(いや別に数えてないけど。感覚)拳を叩き込まれ、次第に動きが鈍くなっていくディアボロス。
しかしもちろん、向こうもただ殴られるばかりじゃない。隙を突いたり、無理矢理ねじ込むような形で反撃してくる。
僕も、全ての攻撃を叩き落し、かわし、防げたわけではない。僕の体にも、大小の傷がいくつも刻まれていったが、それでもひるまず攻撃は続けた。
体中が熱くなり、熱を帯びていく。気分の問題か、動きすぎて体温が上がってるのか……体中に傷が出来てそれが熱を持ってるのか……多分それ全部だな。
そして、
その意地が身を結んだか……僕の目の前で、ぐらり、とその黒い体が後ろによろけた。
そのせいで拳が1発空を切ってしまったが、ここに来て特大の隙を見つけた僕にしてみれば大した問題ではなかった。
すぐさま左足を大きく踏み込み、右拳に全力でエネルギーを充填。
勝負を決めるような威力の一撃を打ち出そうとした……その瞬間。
左側面から、目にも留まらぬ速度で振るわれた黒い尻尾が……踏み込んだ僕の左足に直撃した。
「…………っ!?」
何が起こったか、どういうことなのか、
それを理解するのに……数秒かかるかと思ったが、結果的には一瞬ですんだ。
人が死ぬ直前とかによくある、あの、時間がスローになって感じられて、思考だけが超加速される……っていう、あの不思議現象のおかげで。
とりあえず確かなことは2つ。
1つは……今、僕は完全に騙され、誘いに乗っかってしまったこと。
今までの戦いには、それは1つもなかった。
ディアボロスの攻撃は、フェイントを除けば全て、僕を殺すつもりで放たれたものであり……しかし、インファイトで僕はそれを叩き落しながら戦ってきた。
しかし、最後の一瞬……コイツは動きに『誘い』を入れた。
ぐらり、とわざとよろけたような動きを入れて……僕の大振りの攻撃を狙った。
もっとも、ホントのホントに一瞬のことだったから、常人なら、それが『誘い』だってこと以前に、そんな『よろけ』にすら気付けないくらいの小さなものだった。
しかし、極限まで緊張感を高め、集中した戦いの中にいた僕とこいつの間だったからこそ、それは成立し……まんまと僕は引っかかってしまったのだ。
それをこいつが理解してやったのかは知らないけど、少なくとも、劣勢な状況を覆すために、一か八かの大芝居に打って出ることを決めたことは確かだ。
そしてそれは、成功した。
確かなこと……もう1つ。
左足が、完全に死んだ。
感触からして……膝関節は普通に砕けてる。
その下の、膝から足首にかけての骨が……折れてはいなそうだけど、どぎついヒビが入ってるっぽい。動いたら折れるかもだし……実質折れてるって言っていいかも。
あんだけ頑丈な脚甲がバキンと割れて、そこから鋭利な尻尾か足に直撃したせいで、膝からふくらはぎあたりまでザックリいってるし……使い物にならないな、もう。
そして、何だか意外にも冷静な自分に驚いたところで……不思議タイムが終わった。
僕の体は、力の入らない左足から崩れ落ち、その隙にディアボロスが飛び退る。
しかし、そのまま距離をとって様子をうかがったりはせず……ある程度の距離にまで下がると、体勢を低くして足に力をこめ始めた。
そしてその角に、今日一番じゃないかってくらいに大量の魔力を集中させていた。
次に何が来るか、大体わかる。
あそこから一気に走って、跳んで、突っ込んできて……僕の心臓を角で串刺しにするんだろう。いや、頭かな? 首かも。
……どれでも同じか。どこに飛んでこようが……食らったら死ぬ。
『ダークジョーカー』発動中の今の防御力でも、ひとたまりもないだろう。
このままだと、2秒後には僕は……体の中にディアボロスの角という異物の感触を感じながら、生まれてきてからの出来事を走馬灯のように見返すことになると思う。
頭とかに来たら、即死してそんなヒマないかもだけど。
その際、前世の分まで走馬灯が見られるかどうかちょっと興味あるけど……はっきり言って、そんなことになるのはごめんこうむりたいわけで。
まだ、この世界に生まれて16年だ。
まだまだ生き足りない。やりたいことがたくさんある。
……そのうちいくつかは、やったらエルクに怒られそうなことだけど……ともかく、
走馬灯も、体に異物が刺さる感触も、やり残したことを思い返す悔しさも、前世で全部経験済みなので、今更もう一度なんてのは絶対に遠慮したい。
なので、多少、いやかなり厳しい状況だけど、諦めないことにした。
幸い、一応手はある。……手っていうか、ただの力技なんだけど。
しかも、未完成っていうか、開発途中の技だし、反動とか副作用も尋常じゃ……って、ごちゃごちゃ言ってる暇もないんだった。
『ダークジョーカー』によって、僕の背中に生えている翼。
打撃攻撃の威力を高めるための魔力のギア。
それを……左側の翼だけ消し、右側にその分の魔力を集中させる。
そして右手を引き、構える。
足もしっかり踏ん張って――左足に激痛。しかし無視――右手で、威力のあるストレートパンチを繰り出せるような構えを取る。
それと同時に、右手に『雷』と『土』の魔力を集中させ……それを練り合わせて、ある術式を組んでいく。
『雷』と『土』の魔力の混合で出来る魔法は、今のところ2つ僕は知ってる。
1つは、重力。
そしてもう1つは……磁力だ。
そして今回使うのは、後者。
これ失敗したら死ぬわけであるからして、僕の頭は、人生最高の集中力をこの技のために発揮してくれている。
それによって明確に浮かぶ、技の成功のイメージ。
それを信じて、僕は思いっきり拳を握る。
こめられた雷と磁力、そしてそれらからなる術の手ごたえを確認して、
……そして、
ディアボロスが地を蹴ると同時に、僕も一気に前に踏み出し、その拳を突き出し……
「『レールガンストライク』!!!」
ナナさんに『超電磁銃』を撃たせようと色々思案している中でできた、いうなれば副産物的な技、
帯電し、一瞬にして音速の数倍にまで加速した僕の拳が……空中で、ディアボロスの角と激突し、
僕の右手を覆っていた手甲が、角の威力と、技の反動も合わさった衝撃に耐え切れずに砕け、割れる。
ディアボロスの角も、僕の拳の威力に耐えきれず、砕け、折れる。
そして、僕の拳とディアボロスの頭の直接対決となった競り合いは、一瞬にも満たない僅かな時間の拮抗の後、
ディアボロスの鱗が、牙が、そして頭蓋骨までもが砕ける感触が伝わってきて……僕の拳がめいっぱい振りぬかれる形で、決着がついた。
☆☆☆
その頃、
「やれやれ……一難去ってまた一難、か?」
額に手を当てて、疲れたように言うメルディアナ王女がいた。
彼女の目の前には、ほぼ全ての魔物を駆逐しきった騎士団員たちと『邪香猫』メンバーが、残り少ない魔物の掃討に動いている光景があった。
そろそろ暗殺者たちが持っていた薬の効き目も切れてきたらしい。先ほどから魔物は徐々に集まらなくなってきていた。
今いる魔物さえ倒してしまえば、実質終わりであろうかとも思える状況である。
加えて、その中に混ざっていた強力な魔物との戦いも、すでに決着済みだ。
Aランクの2匹……『グリジェルベア』と『ビッグフット』。
能力を発動したギーナが足止めしていたこの2匹は、周囲の敵を掃除し終えて合流したザリーと、敵が少なくなり、部下も復活し自身も痛みが引いてきたことで動く余裕が出来たザヴァルの加勢によって撃破されている。
どちらもザリーが砂で動きを止めた後……『ビッグフット』はギーナの全体重を乗せた踵落としで延髄を砕いての、『グリジェルベア』の方は、ザヴァルの剣の一撃で首を飛ばしての、それぞれ決着だった。
そして『ガルーダ』については、飛行軌道を読んだナナの魔力弾丸で翼に大きな風穴を開けて撃ち落とした所で、待ち構えていたシェリーがノエル直伝の超高熱の剣で撫で斬りに。焼けた傷口からは血の一滴も流れ出ず、もの言わぬ屍となった。
ここまでくれば、最早命の危険と呼べるようなものはほぼ全て取り除かれたといってよかった。少なくとも……押し寄せる魔物に関しては。
にも関わらず、メルディアナ王城の顔色は優れない。それどころか、眉間にしわを寄せ、先ほどまでよりも何やら不安そうにしている。
その理由は、魔物ではない。
先ほどから、座っている貝殻を介して微妙に伝わってくる……『揺れ』だ。
さきほどから何度か感じられるそれはしかも、徐々に長く、大きくなってきているように感じられた。
戦っている時はそんなことに神経を向ける余裕のなかった者たちも、規模自体が大きくなり始めていたことも手伝って、そろそろ気付き始めたようだ。
そしてさらには、
――ピィーッ!! ピィーッ!! ピィーッ!! ピィーッ!!
と、
今も、障壁を展開して自分を守ってくれているアルバが、先ほどからしきりに、やかましいほどに哭いていることも……不安を増大させる。
大災害の直前、動物や魔物が異常行動を起こすことがある、という話は、ミナトの前世のみならずこの世界にも存在する。
どんどん嫌な予感が大きくなる王女。
そこに止めを刺したのは……
さすがに地震が頻発するこの事態が気になったため、『マジッサテライト』の機能の1つによって、その原因の確認を試みた……エルクだった。
「……っ!? こ、これって……」
『マジックサテライト』には、複数の機能がある。
範囲内にいる味方との、念話の効率化。
視覚・聴覚情報の共有。
対象を指定しての探索・策敵など。
そして、探索系の能力には、さらに細かい『チャンネル』が存在する。
範囲内の人間の存在を探知する『チャンネル』や、魔物を探知する『チャンネル』、建造物の構造を把握する『チャンネル』や、魔力のありかや寡多を見極める『チャンネル』。
そして今回エルクが使ったのは、周囲の地形などを把握する『チャンネル』である。
ミナトが思いつき、なんとなくで理論をくみ上げ、エルクに話したらなんとなく出来てしまったという、王都の魔法研究者が聞いたら泣き崩れること間違いなしなプロセスで完成したその『チャンネル』。
……彼ら2人が異常なのであり、勤勉な研究者各位は何も悪くないことを断っておこう。
それによって、自分たちが今立っている山の『状態』を把握したエルクは……一瞬にして顔を青ざめさせ、わなわなと震えだした。
「……れる」
「え、何? エルクちゃん?」
震えながらだったためだろう、音量が小さく、聞き取れなかったものの……エルクが何かを言ったのは聞こえたシェリーがそう聞き返した。
すると今度は、体の震えと、滝のような汗を隠そうともしないエルクは……半ばやけになったように、大声で言った。
本人にそのつもりがあったのかはわからないが……その場にいた全員に聞こえる音量で。
「この山、崩れる! 地震のせいで! 早く逃げないと、土砂崩れが……」
最悪のタイミングで……地響きが当たり一面から聞こえ出した。
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