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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第7章 王都大波乱滞在記

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第108話 黒と黒の再会

 

 異変には、すぐに気付いた。なぜなら、

『ミナト! 皆! 急いで戻ってきて! ディア――――(プツン)』

「……っ!? ちょ、エルク? まさか…………っ!! 『サテライト』まで切れた!?」

 念話にまで反映された、明らかに焦っているエルクの声。悲鳴に近かった。
 さらにその声が、何かを言い切る前に……『マジックサテライト』がいきなり切れた。

 頭の中に表示されてた、周囲の敵やらなにやらの位置情報がフッと消えたことに……嫌な予感しかしない。

 エルクかアルバ、もしくはその両方に何かあって……『サテライト』の維持すらも困難になったと考えるのが自然。

 そしてそれは、おそらく……今目の前に広がってる、この惨劇の犯人だ。

 おそらく、最近まで人だったであろう、
 しかし今となっては、ただの肉塊というか、肉片というか……なんて言って表現したらいいんだコレは?

 血溜りの中に、臓器だかなんだかわからない肉の塊が散乱してるグロい光景、としか言いようが……あ、よく見るとだいぶ離れた位置に胴体とか足とかが転がってた。

 まあ、猟奇殺人現場でもここまでじゃないだろ、ってくらいの酷いバラバラ死体が散乱してると言っておこう。

 鋭い爪か何かと、圧倒的な腕力によって蹂躙されてしまったと思しき『元・人』は、へばりついてる布切れ(元・服)から推察するに、おそらく、さっきまで掃除してた暗殺者集団の一味だろう。やっぱ12人だけじゃなかったか。

 しかも、よく見ると層じゃない布(元・服)も混じってるし……『ネスティア王国』の紋章が入ったエンブレム(破損済み)も血溜りの中にある。

 ……暗殺者だけじゃなく、影からの護衛とやらもこの中にまじってんのか。
 もしかして、両者が戦ってるところに、この惨劇の犯人が乱入したのかな?

 ……そして、

 血の匂いの中に漂う、記憶に鮮烈に残っているその『匂い』に……敵の正体を確信すると共に、危機感とか焦りとか意地とか、色んなものが湧き上がってきて……

 
「あんの……トカゲがぁぁぁああああっ!!!」

 
 魔力全開、フルスピードで僕は地面を蹴った。

 
 ☆☆☆

 
「ぬううぅぅぅん!!」

 ――ガアアァァアアッ!!

 空竹割りの要領で振り下ろされる、ザヴァルの剛剣。

 ほとんどの魔物は、この一撃で葬ることが出来てしまう脅威の威力の剣はしかし、ディアボロスの黒い鱗によって簡単に阻まれてしまう。

 衝撃もろくに通っていない様子のディアボロスは、お返しとばかりに腕を振るい、無防備な横腹を爪で引き裂こうとする。

 しかしザヴァルはそれを、手首をひねって剣で受け止めると、そのまま腕にそってスライドさせるように剣を動かし、横一文字の太刀筋でディアボロスの胸を斬りつける。

 しかしやはり、

「効かんか……なんと堅牢な!」

 ギャリン、と耳障りかつ無慈悲な音を立てて、傷一つ付けられずにザヴァルの剣ははじかれた。

 それでも、威力に多少押されたディアボロスは、体制を崩すことを嫌ったのか、自らバックジャンプで引いた。

 そしてそのまま数mほど距離が開き、にらみ合いに。

 しばし息をつく暇が出来たわけだが……ザヴァルの心中には、微塵も安心感など無い。
 何せ、今ここで戦えているのは……彼1人なのだから。

 連携を組んで共に『ディアボロス』に挑んだ、いずれもAランクを超える実力の騎士達は……全員がほぼ一撃で叩きのめされ、周囲に転がっている。

 強力な防御力を誇るマジックアイテムである鎧(直属騎士団専用の装備)のお陰か、死人はいないが……無事なものも1人もいない。

 鎧は無残にへこみ、切り裂かれ、砕け……その向こうの骨や内臓が深刻なダメージを受けている者が何人もいた。
 放っておけば間違いなく死ぬレベルの怪我人も数名いる。

 Aランクの実力を誇る部下達を一蹴し、AAAランクの実力を持つザヴァル自身も防戦一方と言っていい、圧倒的な戦闘力に……ザヴァルは、
 そして、守られている王女・メルディアナは……不安や焦りを隠しきれなかった。

 その王女の両隣には、エルクとミュウが立ち……可能な限り強力な魔法の障壁を張り、飛礫などの戦いの余波からメルディアナを守っていた。
 『サテライト』を展開する余裕もないほどに、全霊を注ぎ込んで。

 先ほどの咆哮……それは、以前にもエルクは経験したことがあったそれだ。

 ミナトとの戦いの中でディアボロスが発した、超広域に届き、凄まじい音量と高周波で敵の脳を揺らす、咆哮攻撃。

 以前よりも強力になっていたそれを間近で、何の備えも無しに受けてしまった結果……割れるような頭の痛みで、エルクの集中は途切れ、『サテライト』は破られた。

 しかも頭痛それは今も持続しており、再構築が出来ない。こうしてミュウに助けられながら、風の障壁を張ってメルディアナを守るので精一杯なのだ。

 その障壁も……ディアボロスが標的を彼女達に変更し、本気で破壊しに来た場合……どれだけ耐えられるか。
 だからこそ、1人になってもザヴァルはひるまず、果敢に剣を振るうのだ。

 ……それも、そう長くは続かなそうだと、本人が悟っていたが。

「殿下……お話がございます」

「何だ、ザヴァル? 突破口が見えた、というわけでは無さそうだが」

「はっ……残念ながら。ごらんいただけているかと思いますが、戦況は芳しくなく……隙を見つけて、ここから離脱していただきたく思います」

「……聞きたくはなかったぞ、ザヴァル。お前の口から……そのような言葉は」

「身に余るお言葉。しかし、私ももうこの通り老いぼれですゆえ……期待に応えられぬこと、恥ずかしく思う次第ですが、どうかご決断いただければと」

 視線をディアボロスからはずさず、淡々と、しかしはっきりとした意思をこめて本気で言うザヴァルの言葉に、メルディアナは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 当然だろう……自分が命を張って足止めするから、その隙に逃げろ、と言われているのだから。

 小さい頃から、ずっと自分を守ってきた男が、何が起こっても、この男がいれば大丈夫だと思えるほどに信頼しているこの老将が……自分の前からいなくなろうとしているのだから。

「お逃げを、殿下。この老いぼれでも、多少の時間稼ぎは出来ましょう……直ちにここを離れ、ミナト殿らと合流なさいませ。城に戻るまで、お守りいただけましょう」

「……っ……ザヴァル、私は……!」

「お早く!」

 言葉をさえぎられたメルディアナは、ぐっ、と下唇を噛み……おそらく初めて、エルクたちの前で、迷うような仕草を見せた。

 しかしそれでも、背を向けるザヴァルが振り返ることはなく……代わりにその背中が雄弁に語る。逃げろ、と。
 あなたは、ここで死んではならないのだ、と。

 それを頭で理解しつつも、やはり冷に徹することは楽では無い様子のメルディアナだが、取れる選択肢が最早無いことも、聡明な彼女ゆえにわかっていた。

 他の選択肢ももちろん考えたのだ。ザヴァル達と共に生き残るために。
 しかしどれも不確かであり……王女である自分が、命をかけて選択することができるものではなかったのだ。

 自らも参戦し、共に戦う―――論外。
 C程度の力しかない自身が加わった所で何もできない。相手はAランクの騎士達を、小虫を追い払うかのように一蹴しているというのに。

 ザヴァルと共に、撤退戦に入って逃げ切る―――不可能。
 それが出来るほどザヴァルの体力は残っていない。何もかもが足りない。

 ミナト達が戻るまで持たせて、加勢してもらって戦う―――不安要素大。
 彼らが凄腕の冒険者だというのは聞いているが……AやAAではやはり期待はかけられない。繰り返しになるが、AAA級のザヴァルでさえ押されているのだ。

 唯一期待できるとすれば、ランクで実際にAAAの評価を持っており、資料によれば過去にこの黒いディアボロスと交戦し、退けているミナトであるが……それでもやはり過度な期待は出来ないと判断するべきだ、とメルディアナは考えた。

 前回勝てたからと言って、また勝てるとは限らない。一度ディアボロスを退けた戦士や冒険者が、次に合間見えた時、力及ばず命を落としたという例もあるのだから。

 目の前の黒い龍が、その時よりも成長して強くなった結果、こうしてザヴァルが押されているのかもしれないのだ。

 期待できる戦力があるならば、一か八かの賭けで戦場に赴かせるのではなく……この山から王都まで無事に帰るために使うべきだ、という結論に至ってしまう。

 何度週巡しても結論は同じだということを思い知り、奥歯をかみ締めて悔しさを押し殺すメルディアナの目の前で……再び戦局が動いた。

 ディアボロスが地面を蹴り、尾を大きく振って勢いをつけ、ザヴァルに飛び掛ったのだ。

「殿下、お行きくださいッ!!」

 それを遺言にするつもりでザヴァルは声を張ると、剣を構えて防御に徹する姿勢を取る。
 勝つことは出来なくとも、なるべく時間を稼げるようにと。

 その覚悟をムダにすることはできないと、こちらはこちらで覚悟を決めたメルディアナが、守ってくれているエルクとミュウに、共に逃げてくれるよう頼もうとしたその時、

 
 視界の端に、構えた剣ごと爪のなぎ払いを受け、鮮血を噴き出すザヴァルが見えた。

 
「「「――!!?」」」

 
 思わず振り向いたメルディアナが見たのは、何も存在しないかのように容易く鎧を、その内側の肉と一緒に切り裂かれ、驚いた表情のまま仰向けに倒れるザヴァルの姿。

 先ほどまでは手がしびれこそすれ、問題なくディアボロスの剛撃を受け止めていた剣は……刺身のように斬り下ろされ、ただの金属片となってしまっていた。

 そして、それをやったと思しきディアボロスの爪は……琥珀色に光っていた。
 陽光を反射してきらめいていたとかではなく、実際に光っていたのだ。まるで、騎士達が戦いの中で使う、魔力を帯びた剣のように。

 驚きに硬直する少女達だが、事態はその間にも容赦なく進む。

 倒れこんだザヴァル。しかし、重傷だが息はある。

 そこにトドメの一撃を叩き込もうと、ディアボロスが腕を振りかぶり……今正にその命が潰えようとした……

 
 ……その時、

 

「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁあああああ!!!」

 

 ギュン、と、

 黒い彗星のごとき勢いで飛来したミナトのラリアットが、ディアボロスの体を『く』の字に曲げて吹き飛ばした。

 
 ☆☆☆

 
 間一髪、と言っていいんだろう。

 ザヴァルさんに鋭い爪を振り下ろそうとしていた、見覚えのありすぎる黒トカゲ……『ディアボロス亜種』にラリアットを一撃。
 その場から掻っ攫い、30mほど水平にふっ飛ばした。

 ……いや、30m程度じゃ全然安心できないんだけどね、コイツと戦う場合。余裕で巻き込まれるから。

 なので大至急念話で、ここから離れるようにエルク経由で全員に……と思ったけど、どうもエルク念話使えないっぽい。

 僕の予想だけど、エルクからの念話が『サテライト』ごと途切れた時、ディアボロスの超大声がめっちゃはっきり聞こえたから……アレが多分、『花の谷』で戦ったときにも食らった、吼えてダメージくらわす音波攻撃だったんだと思う。

 それを近距離で食らった結果、エルクはしばらく魔法が上手く使えないくらいに脳を揺らされた、ってわけか。

 この、騎士の皆さんが瀕死状態で倒れてて、キザ男と愉快な仲間たちに関しては、上下に別れて色々撒き散らして全員死んでるこの惨状も、その雄叫びと関係あるんだろうか?

 ……どうでもいいか。やることは変わらないんだ。

 ところで、それとは別に気になってることがあるんだけども……

「ふぃー……久しぶりだな黒トカゲ。……イメチェンした?」

 
 何か……微妙に変わってない、コイツ?

 
 いや、体が黒い鱗に覆われてて、2本足で立ってる人間恐竜、って所は同じなんだけど……細部が違ってるような気がする。ていうか、確実に違う。

 『花の谷』で戦ったときのコイツは……今言った特徴に加えて、体長2m、琥珀色の長い爪、同じ色の1本角、長くて鞭のようにしなる、先端が鋭く尖ってる尻尾――とまあ、この程度で語りつくせるビジュアルだったはず。

 けど、何だか今目の前にいるコイツは……細部がゴージャスになってるような?

 まず、角。長くなってるのに加えて、反りが入ってるように見える。前は、サイっぽい位置と形で生えてたけど……今は、サイとカブトムシ足して2で割ったみたいな形だ。

 爪も若干長くなってるし、尻尾も長く、先端がもっと鋭くなってるような気が。

 それらに加えてもっとあからさまというか、明らかに違うのが……背中。
 前は、別に背中には何もなかったはずなのに……なんか生えてる。

 ステゴサウルスとかの背中にありそうな、ギザギザというか、突起物というか。
 しかも角ばってるわけじゃなく、爪と同じくらい鋭い。触れたら切れそうだ。

 爪や角と同じく琥珀色のそれが……首の付け根辺りから、尻尾の半分くらいまでびっしりと。なかなかに凶悪なビジュアルである。

 そして最後に、明らかに生物としておかしいオプションが、体の各所についてる。ギザギザほど目立ってはないものの……こういう成長ってするもんなの? って感じのが。

 単純に、腕と足、上あごから延髄あたり、そして胸周辺から肩甲骨あたりにかけて鱗が厚く、他より頑丈そうになってるだけなんだけど……まるで、攻撃に使う主要な部分と、急所となる部分を保護するかのように発達している。

 重厚になり、何層にも重なっただけの鱗(多分)なのはわかってるんだけど……部分鎧とか、プロテクターっぽく見えなくもないのである。

 何なのコイツ……戦闘に適した形に体を成長させる遺伝子でも持ってんだろうか?

 それと……前回の戦闘で、コイツが戦いに使ってた部分や、僕が主に攻撃を叩き込んでコイツに重傷を負わせた部分とほぼ一致するのは……偶然、か?

 ……やめよう。答えの出ない推測に費やす時間は、もともと無い。
 体勢を立て直した『ディアボロス』が……真正面からガン飛ばして来てるんだから。

 見た目も目つきも凶悪だけど、目からは怒りや狂気のようなものが感じられないのが地味に不思議である。代わりに感じられるのは、確かな知性。

 まるで……いや、実際そうなのかもしれないけど、
 また僕に出会えて、戦えることに……リベンジの機会がめぐってきたことに、コイツが嬉しがってるようにすら見える。

 だとしたら……本格的にこいつはどんだけ知能が高いんだ。学習能力も高かったし……アルバみたく、人語とか理解できるんじゃないか?

「……ま、だとしたらそれはそれで都合がいい部分もあるけどね……」

 ぽきぽき、と指の関節を鳴らしつつ、黒トカゲとガンのくれあい。

 『武士道精神』なんて奇特なもんを持ち合わせてる(と思われる)こいつのことだ……こうやって、こっちも真正面から向き合ってやれば、余所につっかかることもないだろう。

 ……そんな打算的なこと無しでも、コイツから目を離すなんて危なくてできないけど。

 そしてどうやら、向こうは完全に戦る気になったらしい。
 姿勢を低くして……いつでも飛びかかれる構えに。

 なので、こっちもいきなり全回で臨戦態勢。
 体中に闇魔力を充填する。もれ出た魔力がオーラっぽくなって見えるほどに。

 初見である王女様とザヴァルさんは、その光景と、感じ取れるであろう凄まじい魔力に驚きを隠せない様子だけど……こういう光景を前にも見ているエルクは、逆にちょっと安心したような顔になっていた。

 ……っとと、ちょうどいい。言うことあったんだっけ。

「エルク、ミュウちゃん、あとメルディアナ王女とザヴァルさんも、聞いてください」

「? 何だ?」

「今からここに、大量の魔物が集まってくるので……もうすぐ合流するであろう、シェリーさん達と協力して撃退してください。自分はこの通り、動けそうにないので」

「……!? どういう意味だ?」

「暗殺者連中にしてやられました。あいつら懐に、失敗した時用のトラップ仕込んでたみたいなんです」

 それに気付いたのは、さっき、『ディアボロス』がやったと思しき、複数の惨殺死体を目にした時だった。

 血のにおいが濃すぎて、しかもディアボロスのにおいも混じってて強烈だったもんだから気づくのが遅れたんだけど、それらに混じって、以前にも嗅いだ覚えのある甘い匂いが漂っていることに気付いた。

 『ブラッドメイプル』の匂いが。

 探してみると、ちだまりの中に……匂い袋みたいなのが落ちてるのを見つけたので、拾って嗅いでみると、案の定匂いはそこから来ていた。

 しかも、『ブラッドメイプル』とは微妙に違う匂いで……嗅いだ感じから察するに、どうやら精神興奮作用のある薬が混ぜ込まれているらしかった。

 そこで僕は、以前本で読んだ、『魔寄せ』というものについて思い出した。

 簡単に言うと、魔物を呼び寄せるための薬とか魔法のことをそう呼ぶらしい。

 本来、クエストや狩りの時に獲物を呼び寄せるために使うんだけど……やはり悪用されたりもするらしい。コレを使って集めた魔物を使って騒ぎを起こしたり、人を襲わせるような使い方も出来てしまうからだ。

 そこまで思い出して、思い至った。
 もしかしてこの連中は、こいつを使って王女様を襲わせるつもりだったか……もしくは、失敗した時の保険としてこいつを持っていたんじゃないかと。

 そして、殺された拍子に見事にコレは作動してしまい……今現在、魔物を呼び寄せ、しかも興奮させる薬まで一緒に撒き散らしている。

 ……つまり、だ。

 あの時の……『真紅の森』での一件の再現が、起ころうとしている。
 しかも今度は、ディアボロスという、とんでもないゲストを一緒にお迎えした状態で。

 ……言葉にするとあらためてやばいのがわかるな……数分後にはここはある種の修羅場というか、地獄絵図になるだろう。
 もっともその頃になれば、多分他のメンバーも戻ってくるだろうけど。

 ……とまあ、そんなことを簡潔に説明すると、王女様は緊張感により一層険しい顔になり、ザヴァルさんは悔しそうにギリ、と歯をかみ締めていた。

「……なるほどな。正に絶体絶命、ということか」

「そういうことです。……エルク、回復にどれくらいかかりそう?」

「大丈夫、だいぶもうマシ。あんまり細かかったり、逆に大規模な魔法の制御とかは無理だけど……戦闘に使うくらいなら何とかなりそう。『サテライト』は……厳しいかも。念話と他の魔法の並行使用もちょっと……」

「十分。むしろ、コイツの相手してる最中に念話する余裕ない。最初に『邪香猫』全員にざっと今の話伝えたら……とりあえず死人が出ないようにだけ頑張ってくれれば」

「わかった……やってみる」

「私も、微力ながら支援させていただきますねー……と、そういうわけですので王女殿下、頼りない護衛で申し訳ないのですが、精一杯努めさせていただきますー」

 そう、やや自虐気味に言うミュウちゃんの周囲には……早くも『召喚術』によって呼び出していた『召喚獣』たちがずらりと。

 頼もしさこそあれ、頼りなさなんてものはあまり感じられないビジュアルの3種類の魔物……『ネクロフィッシュ』『スクウィード』『アーマードクラム』が彼女を囲んでいた。

「……ああ。だが、いざとなったら捨てて逃げてくれて構わんぞ? 『狩り』の最中に起こった事故については、その結果私がどうなろうと、その場にいた者に責任が及ばないようにと、いつも事前に取り計らっているからな。幸い、優秀なスペアもいるし」

 この状況下でも、凛として、堂々としてそのたたずまいを崩さない王女様は立派なもんである。

 にしても、『スペア』ね……おそらく、脳裏にはピンク髪の妹王女の顔が浮かんでるんだろうけども……その彼女に色々と背負わせるような事態にならないよう、みんなには頑張ってほしいもんである。僕も頑張るので。

「よし、2人とも任せた! あ、でも出来れば場所変えてくれると助かる」

「あんたらから離れろ、ってこと?」

「それもあるけど……そこでR15な死体になってる皆さんの血がちょっとね。こんだけ強い血の匂いだと、魔物が寄ってくる呼び水になりかねないし、無事な人集めてここから離れてほしいわけで」

「了解ですー」

 言うなりミュウちゃん、イカの10本足を操り、騎士の皆さん(気絶中)を拾い上げていく。やっぱ器用である。

 しかし、唯一意識があるザヴァルさんは、にゅっと伸びてきたイカ足を手で制しており、自分で立ち上がっていた。

 胸には……おそらく『ディアボロス』の爪でできたんであろう、決して小さくない傷を手で押さえつつも、その目には相変わらずの力強い光がある。
 その根源が、騎士としてのプライドなのか、王家への忠誠心かは……わからんけど。

 背中から予備と思しき剣を抜き、手に構えるその様子からは……まだ自分は戦える、という意思が伝わってくるようだった。

「……無様な所を見せてしまったな、ミナト殿。ここから挽回してみせる、と言いたいところだが……どうもこの老体では、もっと別の道を選ばざるをえんようだ……」

 そう言って、一瞬だけ悔しそうな、つらそうな、やや弱弱しい表情を浮かべた後に……胸に傷を刻み込んだ張本人であるディアボロスを睨みつける。

「……結構ですよ、ご無理なさらず。それにご心配なく……僕の仲間は強いです」

 2分後にはシェリーさん達が合流し、5分後には魔物たちが集まってくるだろう。

 数は問題かもしれないが、この付近の魔物なら……『狩場』基準としてだいたいCとかそこらだろう、強さならうちのメンバーに負けはない。
 というか、負傷してるとはいえ、ザヴァルさんでも負けないだろう。AAA級だし。

 それでも、何か不測の事態が起こる可能性は考えられるわけだし……早めに僕も防御組に加わった方がいいだろう。

 
 とりあえず、無理しないようにだけ注意してもらうとして……さて、と。

 
「…………じゃ、戦るか」

 
 物騒な音を喉から出して唸るこいつを、さっさと片付けようか。

 ちょっと気取って、くい、と顎でしゃくって向こうを指し、ディアボロスにサインを送る。『場所変えるぞ』という意思をこめて。

 当然返答はないので、サイドステップ気味に横に跳ねながら――反転されてもすぐエルク達を守れる位置取りで――その場から動くと、それに従うようにしてディアボロスも走り、同じ方向へ進んでくれる。

 ……やっぱ頭いいな、こいつ。

 無関係(ってわけでもないんだけど)の者を巻き込むのは気が引けるのか、はたまた前回の勝者である僕に敬意を表してるのかはわからない。
 けれども、どっちかと言えば好都合なのでこの際そのへんは気にせずいく。

 

 ……あ、そうだ。コイツにも指示しないと。忘れるとこだった。

「アルバ、全力でエルク達を援護。あと、出来れば負傷者全員に回復魔法とバリア。あのへんで2分割されてんのは、もう死体だからほっといていい。敵に関しては……加減しなくていいから、片っ端から消し飛ばせ」

 ――ぴーっ!

 よし、これで今度こそOK。

 こころおきなく、こいつのリベンジマッチを受けて立つとしましょーか……別に受けたくもないんだけども!

 
 
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