山岸涼子「六の宮の姫君」
ホラーではなかったが、臓腑が凍りつくような怖さを覚えた短編だ。
主人公の女の子には、異性として気になる先輩と、憧れの従姉がいる。
先輩とは、もしかして脈あり
従姉は、そろそろ結婚を考えるお年頃。アートなお仕事に励みながらお見合いを始める。
ところが、主人公から見てとても魅力的な従姉の見合いが成功しない。
外見に難があるのかと、年配者の意見に従い、個性的な衣装をやめてピンクの振袖をまとう従姉を見て、彼女らしくないと憮然とする主人公。
そして、そこまでしても話はなかなかまとまらない。
断ったり断られたりを繰り返すうち、従姉が気づいた真実。それが芥川龍之介「六宮の姫君」だった。
この「真実」が、あまりにも身につまされて、自分を見抜かれた気がして恐ろしくて仕方なかった。
私も同じだ、同じであるということはこのような結末を迎えるのか、それは絶対に避けたい!
人生観が漫画で変わる。
変える力を、この漫画は持っている。
…荒療治だが。「六宮の姫君」を読んだ主人公は、姫君に同情し、やりきれない気持ちになる。
零落の果てに乳母とかつての夫、僧侶に看取られながら死んでゆく姫君は、最期の瞬間に仏名を唱えようとせず、魂は成仏できずに浮き世をさ迷う。
僧侶は言う。あれは地獄も極楽も知らぬ哀れな魂なのだと。
姫君は救われぬまま、「六宮の姫君」の物語は終わる。
従姉は言う。
芥川は、生を生きない者は死をも死ねない、と描いたのだと。
そして、見合いの失敗の根本原因を主人公に語る。
とある男性と見合いした。
相手は、天文台勤務の星が好きな男だった。
自らも芸術に携わる従姉は、やや浮き世離れした職につく男に期待を抱いた。
見合いの席で振袖を着ていた従姉は、初めてのデートにジーンズを穿いていった。いつも着物じゃないんですね、と男。
男の趣味を考慮してプラネタリウムに行く二人。デートは決まってプラネタリウムだった。
ある時、外食先で鍋を食べた際、どんな順番でどの野菜を煮ればいいのか分からず戸惑う従姉を見て、男は破談を決めた。
話を聞いて主人公は憤る。
この御時世、働く女性が料理をしていないのは珍しくもないし、毎度振袖を着てくる女性がいるわけがない。
その男は世間を知らなさ過ぎる。
従姉が告げる。
私と彼は同じだったと。
二人とも好きなことしかしてこなかった。
すごく好きなことがある、というのは、すごく嫌いなことがある、ということ。すごく嫌いなことがある、ということは、許せないことがある、ということなのだと。
星しか見てこず、些細なことも許せない男を見て、従姉は自身がよく見えたのだと言った。
そして、これからは違う!と力強く宣言して、主人公を励ますのだった。
好きなこと、嫌いなことがある。
一切、人を許せなくなる。
それでは、六宮の姫君と同じなのだ。
受け身のまま、ただ嘆くだけで何も見ようとせずに流され悲惨な末期を迎えた姫君と。
結婚について、妥協を真剣に考えたきっかけは、この漫画だったような気がする。
本当に譲れない一線は、どこに引くべきなのか。
結婚相手に求めるものは何なのか。
…で、相手に関する考察はちゃんとやったのだが、自分を見つめるのを忘れておりました。
いやあ、旦那さんが変わった趣味&鷹揚な方で助かりました〜。
【関連する記事】