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2016-06-05

ちゃんとした恋愛映画〜『デッドプール』(ネタバレあり)

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 『デッドプール』を見てきた。

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 話はたいへん単純な復讐劇で、悪党のせいでアイデンティティと愛を失った男が復讐を遂げるというものである主人公ウェイド(ライアン・レイノルズ)は恋人ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)と幸せ暮らしていたが、ある日突然ガンが発覚。治療のため怪しい人体実験に参加するが、このせいで皮膚がただれた不死身の超人になってしまう。ウェイドはデッドプールという変名復讐邁進するが、変わり果てた姿になってしまったためヴァネッサに再会したら拒絶されるのではと不安に思っており、自分が死んだと信じているヴァネッサの前に姿を現すことをためらい続ける。ところがヴァネッサが敵であるフランシス誘拐され…

 ところが、この単純な復讐譚を時系列をバラバラにして、さら独白、傍白、第四の壁突破(これ全部違うので注意)などいろいろなテクニックを使って撮影しているので、話がものすごくシンプルなわりに見た目がけっこう複雑になっている。作りをいじくりすぎたせいで「この場面はいらないんじゃないか」と思うようなところも無いわけでは無いのだが(冒頭でフランシス取引する場面とかって必要?)、ただそんなに見てわけがからなくなるような話では全く無い。オフビートジョークもいっぱいあるが、まあ笑えるのとそうでもないのと両方ある。ジョークについては、字幕はけっこうローカライズされていたな(台詞で『フォールティ・タワーズ』のバジルフォーティの話をしているところが「Mr. ビーン」になってた)。

 下ネタが満載であるせいで一見バカな感じもするが、恋愛映画としては相当きちんとした作品である。ヴァネッサと出会ってからウェイドが病気になるまではロマンティクコメディかと思うような作りだ。いろいろ笑えるセックスシーンなどもあるのだが、どれも恋人同士の関係性と性格を示すための演出で、よくある必然性のないサービスカットではない。

 おそらくヴァネッサがこの手の映画に出てくる女性としては非常に奥行きのあるキャラクターなのがこの映画の勝因のひとつである。ヴァネッサはストリップクラブで働いていてたまに娼婦もしているらしいのだが、アメリカ映画に出てくる娼婦にしてはステレオタイプ描写が無く、かなりリアリティのある人物だ。アメリカ映画娼婦ストリッパーというとやたら色っぽく、酸いも甘いも嚙み分けた苦労人で、疲れた男の癒しを与え…みたいなかわり映えのしない描写が多く、やたら娼婦特別視したがるみたいな感じで辟易するのだが、ヴァネッサについては娼婦であることに過剰な意味けがない。セクシーだが若干オタクなノリとからっとしたユーモアセンスがあり、まあ傭兵のウェイドの彼女なんで普通人というわけではないのだが、欠点があるが基本的には善良かつ誠実で人間味に溢れた若い女性として描かれている。非常に苦労人ではあるのだがそのあたりの表現あんまりわざとらしくないし、自分仕事に引け目も感じていない。ウェイドのほうもヴァネッサに一目惚れ娼婦だとか全然気にしていない。一方でヴァネッサが売春していたのをあてこするのは悪役で、これだけ下ネタ満載なのに、マトモな大人はそういうことについて悪口はいわないものだというようなほのめかしがされていて、そのへんがずいぶんちゃんとしている。最後誘拐されてデッドプールに助けてもらうので、まあ結局ヴァネッサは古典的さらわれたお姫様になってしまうのだが、ここも少々ひねりがある。ヴァネッサが悪役に殺されそうになったデッドプールを助ける見せ場があるし、さらに救出劇終了後はいものペースでウェイドとケンカをしていて、弱々しいとらわれのお姫様ではない。ベクデルテストパスしないのが残念だが、他にもいつもぶーたれてるネガソニックとか、大家のアル婆ちゃんとか、セクシー担当じゃない女性キャラがけっこう立っているのは嬉しいところだ。

 あと、ウェイド/デッドプールの話については、ガンになって怪しい人体実験にすがる…というところがアメリカ的なのだろうなーと思った。ロクに保険福祉もないアメリカでは、『ブレイキング・バッド』や『デッドプール』みたいに病人ヤバい金儲けやヤバい治療法に頼るというストーリーがけっこう心情的に理解しやすいのだろうと思う。