ボクが十代最後の歳を満喫していた頃のお話。当時ボクは2歳年上の彼女(N子)と半年前にバイト先で知り合いプリンスホテルの最上階のバーで酒を飲んでいた。時間は23時30分。あと30分もたせれば、クリアできる。
ボクはN子と品川の夜景を眺めながら、時間に気づかないフリをして酒を飲み続けていた。遠くに見えていた東京タワーの灯りがふっと消えた。
「いけない! もう終電なくなっちゃった! ハザマ君どうしよう!?」
「大丈夫、ここの部屋とってあるから」ボクはルームキーを見せた。
「えっ!私そんなつもりじゃ、ハザマ君はじめからそのつもりだったの!?」とN子が顔を赤らめる。ボクの胸はドキドキで破裂寸前だ。
ぐふっ。もちろん最初からそのつもりだった。八百屋のアルバイトで貯めたお金でボクは今日、N子の寝顔をゲットする!もう半年も前から計画していたのである。クリスマスはムリだったので12月26日を予約した。
エレベーターにのるとN子は頭をボクの肩にのせてきた。シャンプーのいい香りがする。頭がくらくらして理性が飛びそうになる。まてまてえぇぇ。おちつけ、ボク。この日のために、あらゆるサイト、書籍、仲間からでいろんな情報を得たではないか!大丈夫!
部屋に入るとN子は「かなり飲んだね。もう眠い・・・」といきなりベッドにダイビング。スカートからつきでた生足がなまめかしい。ボクは、ジャケットを空いている方のベッドに投げると、N子の上に覆い被さった。
流れていたBGMが、スローで官能的なものに変わった。
「ハザマ君……」濡れた瞳でみつめてくるN子がそっと目を閉じた。ボクはギンギン固くなったものがN子に見られないように注意しながら電気を暗くした。N子のつややかで長い黒髪を優しくなでながら、ボタンを押した。
「寝よっか。明日はディズニーランドだしね。もう、夜も遅いし」
「はぁぁぁぁ?」とN子はくわっと目を見開いた。こわっ!N子がいきなり怒り出した。「ハザマ君、あんた、なんのために部屋とったの?」
「え? クリスマスだからだよ。はい、プレゼント!」
ボクは、大晦日にやるアニメフェスのプレミアチケットをN子に渡す。
うつむいて肩を喜びにうちふるわせるN子にボクは言った。
「N子の大好きなプリキュアもやるYO!」
「こ・・・・・・、こ、このくそバカ野郎がぁぁ!」N子が叫びながら、ボクのおでこに頭突きをしてきた。画面の中でたくさんの星がくるくる回る。
「YOじゃねえんだよ! あんたはラッパーか? それともあたしのことばかにしてんのか? どっちなんだ、おいっ!」N子に胸ぐらをつかまれる。っこ、こえええ!
あれれ、おかしい、どこだ? どこでボクは選択肢を間違えたんだ?
あわてて、手に持っていたコントローラーのYボタンを押して、既読メッセージをスクロールする。わからない。どこだ?あわててロードする。
今度は、チケットではなく、ネックレスを選択したが、だめだった。このルートはどれを選んでもBADエンディングにしかならない。あきらめて、リセットボタンを押そうとした直前にN子はボクに言った。
「あのさ、ハザマ君。私はね、あなたを信じてたよ。いつかきっとこっちの世界に戻ってきてくれるって。でも、だめだったみたいだね、バイバイ」
N子は部屋から静かに出て行き、ボクは1人取り残された。
「やっぱり、クリスマスイブにホテルを予約できなかったのがミスだな」
ボクは、ベッドに横たわり、ケータイに映るN子の笑顔の待ち受け画面を消した。その後、ボクにクリスマスイベントが発生することはなかった。
「ゲームライター ホーサクっ」