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障害者虐待 通報者を守る仕組みを

 障害者への虐待が疑われる場合、それに気づいた人は市町村の窓口へ通報する義務がある。被害にあっても自ら声を上げられない人を救うため、障害者虐待防止法で定められている。ところが、同法に従って通報した職員が施設側から名誉毀損(きそん)で損害賠償を求められる例が、鹿児島市とさいたま市で相次いだ。

     これがまかり通ったら職員は萎縮して通報できなくなり、同法は骨抜きにされる。国は通報者を守る仕組みを早急に打ち立てるべきだ。

     鹿児島市の施設で勤務していた元職員は、女性障害者から「幹部職員にバインダーで頭をたたかれた」と聞いた。他の障害者に対する虐待の目撃証言が別の関係者からもあったため市へ通報した。施設側は「事実無根の中傷で名誉を毀損された」として110万円の損害賠償を求めて元職員を提訴した。

     さいたま市の施設では、上司の職員が撮影した障害者の裸の写真を無料通信アプリで送られた元女性職員が市に通報した。市は施設へ監査に入り、虐待を認定して改善勧告を出した。ところが、施設側は元女性職員に対して「テレビ局の取材も受け、他にも虐待があったと虚偽の説明をした」として672万円の損害賠償を請求する通知を送った。

     施設内虐待は通報件数に対する虐待認定率が14%で、家庭内虐待や職場内虐待の約40%と比べて著しく低い。密室化した施設では物証や目撃証言が得にくく、施設側が否定すると事実確認が難しいためだ。

     市町村の力不足や消極的な姿勢も指摘される。そのため、国による自治体職員研修では、警察庁科学捜査研究所の専門家や弁護士などを講師に、施設内虐待の調査スキルの向上に重点を置くようになった。

     内部告発する労働者を守るための公益通報者保護法は、通報内容を真実と信じる上で過失がないことを告発者に要求しているが、障害者虐待防止法は「虐待を受けたと思われる」だけで発見者に通報義務を課している。多くの虐待被害が潜在化しているため、通報者のハードルを低くして、少しでも疑いのある例を表に出すことが必要だからだ。

     障害者虐待防止法の施行後、多くの施設では虐待防止委員会などを設置し、予防や再発防止に取り組んでいる。通報者に対する賠償請求は同法の理念を踏みにじり、まじめに取り組んでいる他の施設の努力に泥を塗るような行為だ。

     もともと同法は通報した人が解雇などの不利な扱いを受けないよう規定している。国や自治体は施設側の行為が「口止め」「報復」と判断された場合は重い制裁を科すなど厳しく対処すべきだ。

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