【早稲田大学 政治経済学部】自由放任が学生を生かす
「こんな人を採用して、本当にいいんですか!」
まるで、外資系企業の取締役会のような緊張感。昔なら教授紹介で「シャンシャン承認」されていた人事案も、いまは「ガチ」の議論なしには成立しない。私立文系の最高峰、早稲田大学政治経済学部の教授会の話だ。
自由放任な教育方針とバンカラな校風で、右下に挙げたファーストリテイリングの柳井正社長、橋下徹前大阪市長など、政官財の各界に個性の強い卒業生が輩出してきた。スクープを連発する週刊文春の新谷学編集長、サッカー日本代表の岡田武史元監督もここで学んだ。
卒業生の活躍の一方で、長く「学生一流、校舎二流、教員三流」と言われてきたが、早稲田は2004年、政経学部に国際政治経済学科を新設し、「政治と経済の融合」「伝統学部の国際化」を託す。
人事制度の改革にも乗り出し、3年ほど前からは教員の採用を完全公募に移行。公式サイトには「『政治思想』担当教員採用応募要領」「『経済史』担当教員採用応募要領」などの文字が並び、冒頭のような議論を経て力量本位で選考した結果、
「政経の雰囲気が変わりました」(教務担当教授)
●属性よりも人間性を
中南米やロシア、中国などを母国とする外国人教員が増え、女子学生や留学生も増えた。男子学生のイメージが強い政経だが、国際政治経済学科ではいま、女子学生比率が4割に上るという。
「二流」と言われた政経のホーム「3号館」も14年に建て替えられ、太陽エネルギーを利用した空調や発電システムを備えた、14階建てに生まれ変わった。
キャンパスを訪ねると、感じのいい笑顔の学生たちは振る舞いもスマート。さわやかな風貌の4年の男子学生(22)は、
「就職活動で、慶應の学生に間違われることも多いんですよ」
などと言う。だが、よくよく話を聞くと、「自由放任」や「バンカラ」が顔を出す。彼は今年1月、1年間の留学から帰国。就職活動にはぎりぎりのタイミングだったが、外資系を中心にすでに数社の内定を獲得している。卒業生がたくさんいますしね、と言いかけると、
「卒業生人脈には一切、頼りませんでした。早稲田の政経という『属性』より、人間性や自分が出した結果で信頼を得たい。内定がゴールだとは思っていません」
●行動した人だけに果実
教育関連大手に勤めるOB(40)は、政経で学んだことで、
「既存のルールに従う以外にも道はあると気づいた」
と話す。同級生には大学そっちのけで音楽レーベルを立ち上げて海外で作品を売るルートを模索した人や、黎明期のウェブに注目して、楽勝科目をまとめた同人誌を閲覧できるようにした人がいた。在学中に何をするかは、それぞれの判断。まさに「自由放任」なのだが、自分の判断で未来が決まるという過酷な現実が待っている。
金融大手勤務のOB(30)は、他部署から持ち込まれた案件がたらいまわしになりそうなとき、「私が取りまとめるということでいいですか」と手を挙げて処理することにしているという。
「自分がやらなきゃ仕方がないと思ったら腹をくくる」
が信条。政経時代に「文句を言うだけでは何も解決しない」こと、行動した人だけが果実を得ることを体験的に学んだからだ。須賀晃一学部長は言う。
「自由放任といっても、最低限のことは身につけないと卒業はできません」
でも、と続けた。
「建学の精神である『学問の独立』は何が変わっても受け継がれている。大切にしているのは、あらゆる支配からの独立であり精神の独立。自由だが責任は自分にある。粗削りであっても学生に任せたほうが、活動の幅は確実に広がります」
(編集部・鎌田倫子)
【基礎DATA】
所在地:東京都新宿区
開設:1882年
定員:900人
初年度納付金:131万5500~131万9500円
就職先:みずほフィナンシャルグループ、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、富士通、三井住友信託銀行、東京都、NHK、国家公務員総合職ほか
著名な卒業生:岡田武史(元サッカー日本代表監督)、野田佳彦(元総理大臣)、橋下徹(前大阪市長・弁護士)、羽鳥慎一(アナウンサー)、柳井正(ファーストリテイリング社長)
※基礎データはすべて、『2017年版大学ランキング』、各大学の公式サイトなどから
※AERA 2016年6月6日号
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