ゆうちょ限度額 政治の思惑で動かすな
毎日新聞
ゆうちょ銀行への預け入れ限度額が、現行の1000万円から1300万円に引き上げられることになった。かんぽ生命保険の加入限度額も1300万円から2000万円に上がる。自民党の引き上げ提言を受け、政府の郵政民営化委員会が意見をまとめた。政令改正を経て来年4月から実施される見通しだ。
全国の郵便局網を支持基盤とする自民党が6月に提言したのは、ゆうちょ銀の限度額を「今年9月末までに2000万円、2年後までに3000万円」とするものだ。競争上、不利になる金融業界が猛反発し、引き上げ幅は圧縮された。
とはいえ、郵政民営化の精神にも「当面は限度額を引き上げない」とした2012年の国会決議にも反する転換だ。政府は再引き上げも視野に入れており、一段とゆうちょ銀の肥大化が進みかねない。
一般の銀行にはない限度額がゆうちょ銀に設定されているのは、国が大株主であるためだ。「暗黙の政府保証がある」とみなされ、預け先として他の金融機関より優位に立つ可能性がある。
ゆうちょ銀は今年、かんぽ生命や親会社の日本郵政とともに、東京証券取引所に上場したが、最終的に国による株保有がゼロになるのがいつなのか、定まっていない。完全民営化に合わせて、ゆうちょ銀への制限を外すのが筋ではないか。
ゆうちょ銀はすでに世界に類をみない資金量を抱え、これ以上規模が拡大しても運用に苦労するばかりだ。地域金融機関からゆうちょ銀へ資金が移動すれば、本来、地元経済の役に立てたはずの資金が、国債などで運用されることになる。地方経済の活性化に水を差しかねない。
ではなぜ今、25年ぶり(かんぽ生命は30年ぶり)の引き上げなのか。
全国に張りめぐらせた約2万4000カ所の郵便局は自民党の重要な集票マシンだ。ゆうちょ銀の窓口となる郵便局は、預かる金額が増えるほど、ゆうちょ銀から受け取る手数料が増える。来年の参院選を視野に入れた、郵便局優遇策と受け取られても仕方がない。
一方、結果的に引き上げ幅が300万円へ圧縮された経緯もはっきりしない。銀行業界では、大手が自民党への政治献金を18年ぶりに再開するというが、今回の限度額論議に影響を及ぼしたことはないのか。
それにしても、郵政民営化の原点はどこへ行ったのかと問わずにいられない。肥大化した官業を大幅に縮小、または廃止して、私たちのお金がより有効に活用されることを目指していたはずだ。その時々の政治の思惑で上場企業の枠組みが変えられるようなことがあってはならない。