くい不正報告書 元請けの責任が大きい
毎日新聞
建物のくい打ち施工データの改ざん問題で、原因調査と再発防止策の検討を進めていた国土交通省の有識者委員会が中間報告書をまとめた。
今回の問題を通じて浮き彫りになったのは、元請け会社の下に複数の下請け会社が入る構造の下で、施工の管理責任があいまいになっていることだった。報告書は、そうした建設業界の下請け構造にも言及した。 住まいの安全性は、一生の買い物をする国民にとって絶対条件だ。報告書は、建設業界の自主的な体質改善を求めた。業界一体となって信頼回復を急ぐべきだ。
横浜市のマンションが傾いたことに端を発した。くい打ち工事を担当していた下請けの旭化成建材の担当者が、くいを打ち込んだ際の地盤の強度を示す電流計などのデータを他から流用していた。元請けの三井住友建設の監督も不十分だった。
旭化成建材が過去10年に手がけたくい打ち工事3052件中360件でデータ流用が見つかった。他のくい打ち会社8社でもデータ流用が判明した。
建物の安全性については、横浜市のマンション以外、問題は指摘されていない。しかし、くい打ち業界に広く不正がはびこっていたのは深刻だ。報告書はデータ流用を軽くみる業界の風潮や企業風土を批判し、改善を求めた。
改めてクローズアップされるのは、元請け会社の責任の重さだ。工事全体の統括と施工管理は、元請け会社が行わなければならない。
建設業法では、下請け会社が法令に反しないよう指導し、問題があれば是正に努める義務を元請け会社に課している。下請け会社が是正しなければ、行政機関に速やかに通報しなければならない。
横浜市のマンションの事案で、三井住友建設は、法令上、専任で配置すべき主任技術者を下請け会社が配置していないのを認識しながら、是正指導も通報も行っていなかった。報告書が「責任を十分果たしていなかった」と批判したのは当然だ。
今回の問題を受け、日本建設業連合会は、自主的な指針案を作ってこのほど公表した。たとえば、くい打ち工事を下請け会社にさせた場合、元請け会社の技術者が即日、施工記録の報告を受け確認するという。
報告書も、業界の自主的な改善を求める内容にとどめた。だが、建築物の安全性については、過去に不正が繰り返されてきた経緯がある。
元請け、下請けによる総合生産型の構造には、元請けによる工期やコストの圧力がうまれやすく、不正が生じる余地がある。元請けを含め、不正に対しては罰則など規制の強化を国交省は検討すべきだろう。