16年度予算案 税収増で規律が緩んだ
毎日新聞
政府は2016年度予算案を閣議決定した。財政健全化計画の初年度だが、一般会計総額は96・7兆円と過去最大を更新した。
来年の参院選を意識して、歳出の切り込みはほぼ手つかずだ。税収を25年ぶりの高水準と見込んでおり、税収増を背景に財政規律が一段と緩んだとみられても仕方がない。
税収が増えるのは、円安で好調な企業業績に伴って法人税収などが伸びるためだ。歳入の国債依存度は35%台と8年ぶりの低水準になる。政府は「健全化計画の初年度にふさわしい予算」と強調する。
しかし、国債の新規発行額は34兆円台と巨額だ。800兆円を超す国債発行残高もさらに膨らみ、「借金漬け」は変わらない。
一般会計の3割超を占める社会保障費は15年度当初予算比4400億円増とした。診療報酬をマイナス改定し、財政健全化計画(年5000億円増)の枠内には収めた。
だが、健全化計画自体が裕福な高齢者の医療費負担増など痛みを伴う歳出改革を先送りしている。計画を守ったと胸を張れるものではない。
公共事業費は、第2次安倍晋三政権が発足してから4年連続で増加した。与党の要望に応えた形だ。
防衛費も4年連続で増え、5兆円を突破した。安全保障を重視する政権の姿勢を反映したものだが、優遇ぶりが目立つ。
政府は予算編成の基本方針を「歳出全般を聖域なく見直す」としていた。しかし、主要経費で大きく削減できたのは、地方税収の伸びを背景とした地方交付税交付金だけだ。
看板の「1億総活躍社会」関連は約2・4兆円を計上した。だが、工場の省エネ補助金といった旧来型の施策も含まれる。子育て支援にもっと重点的に振り向けるなど大胆に組み替える発想は乏しかった。
また、15年度補正予算案と合わせた歳出規模は約100兆円に上る。
補正には低所得の年金受給者向け給付金3600億円や公共事業費6000億円を計上した。抜け道のように補正を膨らませ、当初予算を健全に見せる手法は適切ではない。
健全化計画の目標は基礎的財政収支(プライマリーバランス)を20年度に黒字化することだ。だが、内閣府の試算では、名目3%、実質2%という高成長で税収が増えても、20年度に約6兆円の赤字が残る。
アベノミクスが軌道に乗らない中、景気に左右される税収をあてにした健全化計画は危うい。実現には歳出効率化が欠かせない。
政府は17年4月に消費税率を10%に引き上げる予定だ。国民に増税を求めるなら、歳出の無駄を徹底的に見直すのが政府の役割だ。