新国立競技場 やっと出発点に立てた
整備計画が白紙撤回された新国立競技場が明治神宮外苑という緑豊かな周辺環境に配慮した「木と緑のスタジアム」として整備されることになった。迷走した競技場建設は2020年東京五輪・パラリンピックに向け、ようやく出発点に立った。
コスト削減と工期短縮に重点を置いた審査を経て採用されたのは歌舞伎座を設計したことでも知られる建築家の隈研吾氏と大成建設、梓設計のグループが提出した設計・施工案だ。観客の見やすさを重視した3層構造のスタンドで、屋根は木材と鉄骨を組み合わせた。ひさしは法隆寺の五重塔の垂木を想起させるなど「日本らしさ」をちりばめたデザインになっている。風致地区に指定されている神宮外苑にふさわしいスタジアムとなることを期待したい。
総工費は1490億円。来年12月に着工し、19年11月末の完成を目指す。翌年の本番を想定したテストイベントなどを実施するために、これ以上の遅れは許されない。国民の信頼と信用を取り戻すためにも進行状況を定期的に公表してほしい。
2500億円を超える巨額な費用が批判を浴びた旧計画の策定には、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が設置した有識者会議の意向が強く反映された。元首相を含む政治家や競技団体のトップらが顔をそろえた会議は利益代表者でもある彼らの陳情の場と化した。その結果、芝生の育成など数多くの問題点を抱え、維持管理にも膨大な費用を要する巨大箱物となった。
今回の審査にあたってJSCは建築の専門家らによる技術提案等審査委員会を発足させ、9項目を6段階で評価して数値化した。スポーツ関係者との意見交換会、ホームページに寄せられた国民の声も参考にしてJSCが選定した。旧計画の反省と教訓を踏まえ、透明性と公平性の確保に努めたことは当然と言える。
スタジアムの高さは旧国立が約30メートルだったのに対し、旧計画は当初、2倍超の75メートルにも達し、建築家らは「地上からは巨大なコンクリートの塊にしか見えない」と批判した。隈氏案は49・2メートルで、威圧感を軽減したことは評価できる。
しかし、旧計画同様、財源確保には不安が残る。周辺整備を含めた1581億円のうち国が半分の791億円を負担し、スポーツ振興くじ(toto)と東京都で395億円ずつを賄う予定だが、売り上げが毎年変動するtotoへの依存度が高いことを危惧する。しかも物価の上昇や人件費の高騰などによって総工費が上振れするのは避けられない。
1490億円が巨額であることに変わりはなく、コスト意識を持って計画を進めなければならない。