高層ビルと地震 長周期のこわさ認識を
場所によっては超高層ビル最上階の揺れ幅が6メートルにも及ぶ可能性があるという。内閣府がまとめた南海トラフの巨大地震による長周期地震動の影響は想像以上に大きい。地盤の特徴と超高層ビルの多さを考えると、大阪、名古屋、東京の3大都市圏で被害が広がる恐れがある。
こうした地震動の影響は東日本大震災で注目されるようになったが、過去のデータが少なく、まとまった予測はなされてこなかった。今回は南海トラフに限った予測だが、相模トラフなど別の場所で起きる大地震にも警戒が必要だ。
この報告を機に、長周期地震動の危険性を全国的に再認識し、事前の防災対策を怠らないようにしたい。
大きな地震が起きると、建物をカタカタと揺らす短周期の地震動だけでなく、揺れが1往復するのに数秒以上かかる長周期の地震動も発生する。中でも、周期が2〜10秒程度の地震動が発生すると、共振によって超高層ビルや石油タンクなどが大きく揺れ、被害を及ぼす恐れがある。
このような長周期地震動は遠く離れた場所にも影響を及ぼすのが特徴だ。東日本大震災の時には震源から約770キロも離れた大阪府の咲洲(さきしま)庁舎(地上55階・地下3階建て)が最大で横に2・7メートル、約10分間揺れ、壁や天井が壊れる被害が出た。
軟らかい地盤の堆積(たいせき)層の上に高層ビルが建ち並ぶ関東平野や大阪平野は特に要注意だ。今回の予測でも超高層ビルの最上階の揺れ幅は大阪市の埋め立て地で最大約6メートル、東京23区や名古屋市でも最大約3メートルに達した。東京、大阪以外でも、立って歩けず、はわなければいられない揺れに襲われる地域は全国の都市に広がる。限られた地域の問題ではなく、影響を受ける人数も多い。
長周期地震動の危険性としてまず考えなくてはならないのは、家具や電化製品、事務机などが転倒したり、飛んできたりする恐れがあることだ。ぶつかって負傷しないよう、固定しておく必要がある。
人々がエレベーターの中に閉じ込められたり、高層ビルの上層階に取り残されたりする恐れも大きく、その対策も考えておかなくてはならない。石油の大型タンクには火災の危険性があり、対応策が急がれる。
報告では長周期地震動によるビル倒壊の恐れはないというが、数多い高層ビルの耐震性の実態にはよくわからない部分がある。老朽化した超高層ビルの危険性診断は怠らないようにしたい。リスクに応じた制振・免震装置の追加設置も重要だ。改修の責任は基本的にビルの所有者にあるが、設計段階の統一基準を決める必要もあるだろう。国土交通省は基準作りも早急に進めてほしい。