高齢者の移住 地域に溶け込んだ形で
東京など大都市圏に住む高齢者の地方移住を推進する構想が動き出している。政府の有識者会議は自治体と民間が連携して移住者を受け入れるまちづくりに向け、法整備や政策面での支援を提言した。
「老後は地方で」というライフスタイルを広げることは首都圏の医療・介護不足と、今後余力が生じる地方のギャップを是正する点からも有益だ。政府は施設整備などの開発主導に走らず、現実的で細やかな移住支援をこころがけるべきだ。
東京圏などから移り住み、医療や介護が必要になってからも暮らし続けるまちづくりを政府は「生涯活躍のまち(日本版CCRC)」構想として、地方創生の重点目標に位置づけている。提言では厚生年金で老後を暮らす50代以上の人を主な対象に設定した。移住先のまちづくりについて、改修した空き家などを活用して地域に溶け込んで生活できるよう支援する方式と、見守りなどサービス機能がついた高齢者向け住宅(サ高住)の拠点を区域内で集中整備する方式の二つのパターンを示した。
東京都と千葉、神奈川、埼玉3県は2025年までに75歳以上の高齢者が175万人増える。一方で高齢化がピークを越す地方も医療、介護体制の維持を迫られている。
毎日新聞の調査によると全国で15の自治体が3500人程度の高齢者の受け入れをすでに検討しており、金沢市では移住者が学生らと共に住むまちづくりが成功例として注目されている。東京より家賃や物価が安い地方で「第二の人生」を検討する人は今後、少なくあるまい。
ただ、実際に移住するにはさまざまなハードルがある。たとえば健康で移住する人の多くは何らかの形で就労を希望するとみられる。どうやって、雇用を確保するのか。
移住した高齢者だけが集まって住むような拠点を整備しても持続できず、地域から孤立するおそれもある。とりわけ、遠隔地域の場合は綿密なニーズの把握が欠かせない。地元住民と隣り合った住宅の整備や、故郷へのUターン組にターゲットを設定するなどの工夫も求められよう。
鹿児島県伊仙町は賃貸住宅を借り上げて移住者に安く貸し、地域ぐるみで介護なども支援していく構想を描く。あらかじめ雇用を想定し職種を指定して「人の誘致」に取り組む自治体もある。地域に溶け込めるよう、多様なアプローチが必要だ。
政府は近くモデル地域を指定し、自治体のプランづくりを後押しする。政府調査では263自治体が検討を表明するなど関心は高いが、移住に伴い社会保障費が増える懸念も自治体にある。地方負担が増えない仕組みの検討を政府は急ぐべきだ。