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活字文化と税 「知」の普及妨げぬよう

 2017年4月に消費税率が10%に引き上げられる段階で導入する軽減税率の対象に、定期購読契約の新聞が含まれることになった。私たちが「あるべき消費税制度の参考になる」と主張してきた欧州では「知識への課税は抑える」との理念のもとで、新聞・書籍類に軽減税率を適用している。日本でも新聞を対象にしたのは妥当な考えである。

     ただし、書籍類について与党の協議では、いわゆる「有害図書」まで対象が広がる問題が指摘された。こうした出版物を除外できる仕組みが整うことなどを前提に、「引き続き検討する」となったが、国民の知る権利を守る役割は書籍類も同様である。軽減税率の対象とすべきであり、すみやかな対応を求めたい。

     活字文化がもたらす知識や情報は、自由に広くできるだけ安価に多くの人に届けられ、伝えられることが社会にとって望ましい。

     欧州各国は、こうした考えに基づいて消費税にあたる付加価値税の導入当初から、新聞・書籍類に標準税率よりも低い税率を適用してきた。新聞に対しては、税率ゼロの英国やデンマークなどをはじめ、13カ国が5%以下に抑えている。

     毎日新聞紙上で、学習院大学法学部の紙谷雅子教授(英米法)は、新聞や書籍類の役割について「文化を維持し民主主義が健全に機能するために不可欠だ」としたうえで、「新聞や出版物が安価に読める状況は必要である」と軽減税率の対象にする必要性を指摘した。

     権力におもねらず、多様な視点や価値観、論点を提供し、社会が極端な方向に流れるのを抑制する。それは新聞の重要な役割である。日本新聞協会は軽減税率の対象となったことを受けて、「民主主義、文化の発展のために今後も責務を果たしていく」とのコメントを出した。

     一方、雑誌を含む書籍類は、17年4月に向けての検討課題となった。出版業界の団体が「重要な知的インフラであり、知力、技術力、国際競争力の源でもある。国の未来を担う子どもたちにとって読書体験は人格形成の基本を構築する」と不満を表明したのは当然だろう。

     また技術の進展によって、知識と情報の普及を担う活字文化は、もはや紙媒体にとどまらない。電子媒体も生活に根をおろしている。

     欧州では水道代や医薬、衣料、子ども用品など食品以外の生活必需品に軽減税率を適用する国が少なくない。財政事情や社会保障の今後を考えれば、消費税率は10%にとどまらないだろう。持続的で安定した税財源とするためにも、与党は電子媒体を含めたこれらを対象とする方向で協議を続けるべきだ。

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