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産経記者の裁判 無罪でも釈然としない

 朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を毀損(きそん)した罪で在宅起訴された産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長に無罪判決が出た。「言論の自由」を認めた当然の結論だが、釈然としない点も多い。

     裁判長は判決の言い渡しに先だち、日韓関係を考慮して善処するよう韓国外務省から要請されたことを明らかにした。この要請が判決に影響を与えたとしたら行政による司法への介入になってしまう。三権分立を基軸とする民主国家では、あってはならないことだ。

     そもそも市民団体の告発に基づいてなされた起訴自体が不当だった。

     加藤記者は昨年4月に起きた客船セウォル号沈没事故に関連するコラムを電子版に書いた。朴大統領が事故直後に姿を見せなかった「空白の7時間」に関するさまざまなうわさがあるという内容だ。加藤記者は韓国紙・朝鮮日報のコラムを引用し、「朴大統領と男性の関係に関するもの」という見方を付け加えた。

     今年3月の公判で裁判長は「うわさ」の真実性を否定する見解を示した。加藤記者も産経新聞で発表した手記で「(裁判長の)見解に異を唱えるつもりはない」と表明した。

     事実確認を怠り風評を安易に書いたことは批判されても仕方がない。「うわさ」と断りさえすれば何を書いてもいいわけではない。

     それでも、批判的な記事を書いた記者に刑事罰を科そうとするのは、権力の監視という言論の役割を封殺しようとするものだ。言論・報道の自由を最大限に尊重しなければならない民主主義の原則にもとる。

     韓国では、大統領や政府高官の名誉を毀損したという告訴・告発が目立つ。朴大統領を中傷するビラを作って起訴されたり、青瓦台(大統領府)高官の疑惑を報じた韓国メディアの記者が告訴されたりした事例まである。しかも、結局は不起訴や無罪となることが少なくない。無理をして法的措置に訴え、批判を封じようとしているとしか見えない。

     国際人権規約に関する国連の委員会は先月、政府批判に名誉毀損罪を適用して重い刑を科すことが韓国で増えていると懸念する報告書を公表した。加藤記者の訴追は、日本記者クラブや国際新聞編集者協会(IPI)なども批判してきた。

     韓国の人々は、自分たちの力で1987年に民主化を成し遂げたことを誇りにしている。「表現の自由」や「司法の独立」はその成果として実現したはずだ。

     外国人記者の訴追という今回の事件は国際的な関心を集めた。無理のある起訴を強行した結果は、韓国の国際的なイメージを傷つけただけだ。検察は控訴せず、判決を受け入れるべきである。

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