米ゼロ金利終了 政策の正常化を着実に
米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)が、ついにゼロ金利政策を終了し、9年半ぶりとなる利上げに踏み切った。リーマン・ショック後の2008年末に導入された危機対応策を平時の政策へ戻す正常化の作業がようやく動き出す。
物価の面から見れば、非常にわかりにくい利上げとなった。FRBが重視する物価上昇率は、目標とする年2%を大幅に下回ったままだ。今回、予想値が明白に改善したというわけでもない。むしろ市場関係者の長期物価見通しが、下がっていることをFRBは認めている。
一方で、一時10%まで悪化した失業率は5%まで改善し、経済成長率も2%台だ。何より株価は史上最高値圏にありゼロ金利を必要とする危機的状況からはとうに脱している。
これ以上の正常化の遅れは、物価への効果が期待しにくい一方で、株や不動産のバブルを招く恐れがあった。FRBが利上げに踏み切ったのは当然だ。
問題は、未知の金利政策正常化がFRBのシナリオ通りに順調に進むか、である。
現段階でFRBは、来年4回の追加利上げを行う見通しというが、物価上昇率をはじめ、主要経済データが期待通りに改善しないかもしれない。株式や不動産の市場の過熱を防ぐうえで着々と正常化を進める必要があっても、利上げをちゅうちょせざるを得ない事態もあり得る。
久々の利上げが米国や世界の経済に与える影響も懸念されている。異例の政策が常態化する中、高い利回りを求めた資金が米国から新興国や資源の先物市場などになだれ込み、各所でバブル的な現象が起きた。
イエレン議長は記者会見で、今回の決定を過大視する必要がないと訴えたが、マネーの流れを大きく変え得る利上げなのである。
資金の流出に見舞われている新興国の中には、自国の通貨安により、ドルで借りた資金の返済が困難になる例も出てくるかもしれない。世界経済に占める比重が高まった新興国経済の動向は注視する必要がある。危機の芽にすばやく対応するため、先進国と新興国は情報を共有しなければならない。
それにしても、劇薬のような政策を導入すると、そこからの脱却がいかに困難でリスクを伴うものかということがわかった。量的緩和の段階的縮小を当時のFRB議長が示唆して以来、ゼロ金利が解除となるまで2年半以上を要した。インフレ目標に近づくのを待っていたらもっと時間がかかっていた。
日本では、ゼロ金利解除どころか大規模な量的緩和の縮小開始さえ兆しがない。米国の試練から学ぶべきことは多いはずだ。