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日印原子力協力 平和利用の保証がない

 世界2位の12億人超の人口を抱え、経済成長を続けるインドと、経済、安全保障の両面で関係を強化するのは重要なことだ。

     だが、唯一の被爆国である日本が、核拡散防止条約(NPT)体制のさらなる形骸化に手を貸すようなことがあってはならない。

     安倍晋三首相とインドのモディ首相が、日本からの原発関連機器の輸出を可能にする原子力協定を結ぶことについて原則合意した。

     NPTは核兵器の保有を米露英仏中の5カ国に限定し、他の国には原子力の平和利用のみを認めた条約だ。インドはNPTを「不平等条約」と批判し、加盟を拒んでいる。

     日本がNPT非加盟国と協定を結ぶのは初めてだ。平和利用に限定すると言っても、NPT体制の枠外にあって核武装を続けるインドへの原子力協力は、一線を越えかねない。

     肝心の平和利用をどう保証するかが、今回の協定では明確でない。

     インドは2008年、核実験モラトリアム(一時停止)の継続などの政策を表明した。安倍首相は、これを評価したうえで、日本からの協力について「平和目的に限定する内容を確保している」と強調した。

     だが、その根拠は乏しい。安倍首相はモディ首相に「インドが核実験を実施した場合は協力を停止する」と伝えたというが、協定に明記されるかはわからない。

     日本の資機材を使った原発から出る使用済み核燃料の再処理問題も、持ち越された。

     詳細が詰められないまま、見切り発車で合意したように見える。

     インドでは、21基の原発が運転中で、32年までに原発の発電能力を今の11倍弱に拡大する目標を掲げる。

     この原発市場への参入を狙って、08年に米国がインドと協定を締結してから、仏、露、カナダ、韓国などが相次いで協定を結んできた。

     日本も民主党政権下の10年、原発輸出を成長戦略の一環として位置づけ、協定交渉を始めた。日本と米仏の原子力企業の提携が進み、日本が協定を結ばないと影響を受ける米仏からは締結を促されてもいた。安倍政権としては、協力強化により、中国をけん制する思惑もあるだろう。

     政府は、原発ビジネス参入と中国けん制という現実的利益と、唯一の被爆国としての立場という二つの問題に、どう折り合いをつけるかで苦闘してきた。それを解くカギが平和利用の保証だというなら、あいまいな決着をすべきではない。

     核廃絶をリードすべき日本が、インドの核保有を黙認し、核拡散を助長することがあってはならない。そうなれば、日本の非核外交は傷つき、発言力は損なわれるだろう。

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