温暖化対策パリ協定 地球規模で合意実行を
人類の未来を守るために、国際社会が歴史的な合意にたどり着いた。
パリで開かれていた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は、2020年以降の温室効果ガス排出削減の新枠組みを定めた「パリ協定」を採択し、閉幕した。地球温暖化を食い止めるにはまだ不十分だが、2大排出国の米国や中国を含むすべての国が参加する合意となったことを歓迎する。化石燃料に依存する現代文明からの転換点となることを期待したい。
すべての国参加に意義
パリ協定では、気候変動枠組み条約に加盟する196カ国・地域すべてが、各国の状況に応じて自主的削減目標を策定し、国内対策を実施することを義務づけた。温暖化の悪影響を避けるため、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えることを目的に明記し、1・5度未満に収まるよう努力することを併記した。
世界全体の温室効果ガス排出量をできるだけ早く頭打ちにし、今世紀後半には実質ゼロにすることも掲げた。各国は国連に提出した削減目標を5年ごとに見直し、世界全体の進捗(しんちょく)状況を検証する義務を負う。
こうした規定により、ひとまずは、世界全体で温暖化対策に取り組む道筋ができたといえる。
1997年採択の京都議定書は、先進国にのみ温室効果ガスの排出削減を義務づけた。「温暖化の責任は先進国にある」とする途上国の主張を反映した結果だが、米国は経済を損なうとして途中から離脱した。
一方で、中国やインドなどの排出は急拡大し、議定書は実効性を失っていた。
しかし、温暖化の脅威は人類にとって共通の課題であり、特定の国の努力だけでは解決できない。京都議定書で見られた、先進国と途上国で取り組みを分ける単純な二分論を排し、全員参加型の枠組みとなった点にパリ協定最大の意義がある。
パリで起きた同時多発テロは温暖化対策でも世界の団結を促した。オランド仏大統領が「テロとの戦いと温暖化との戦いを分けることはできない」と訴えた通り、温暖化がもたらす異常気象や自然災害は貧困層を直撃する。それが難民や紛争発生につながり、テロの温床となる。そうした認識を世界が共有できた。
途上国の参加を促すため、先進国も譲歩した。温暖化の被害軽減に向けた世界目標を設定することを約束し、先進国から途上国への資金支援義務化も協定に盛り込んだ。
最後までもめたのは、資金支援の規模だった。先進国は、途上国が求める具体的な金額の設定には反対した。将来の財政支出を縛られることを嫌ったためだ。結局、数値目標はパリ協定に盛り込まず、法的拘束力のない別の文書に「年1000億ドルを下限に、新しい数値目標を25年までに設定する」ことを書き込んだ。
議長国フランスの巧みな折衷案だったが、支援が滞れば途上国が反発することは確実で、先進国の今後の対応が問われる。中国など一定の経済力を持つ新興国も、支援への積極的な貢献が必要だ。
COP21期間中、世界の主要企業のリーダーたちは、こぞって自社の大胆な排出削減計画を表明した。パリ協定採択を契機に、多くの世界企業が、脱炭素社会への移行へ向けた活動へとかじを切るはずだ。
日本は再エネ拡大急げ
残念なのは、米国や中国への配慮で、各国が掲げる削減目標の達成自体は義務化されなかったことだ。
米議会は温暖化対策に消極的な野党・共和党優位で、オバマ米大統領は、議会に諮らず批准できる緩い内容を探った。いまだに、途上国の立場を強調する中国も義務化には反対だった。
180を超す国・地域が国連に削減目標を提出したが、国際機関の分析では、各国が約束を守っても「2度」目標は達成できない。各国が連携し、地球規模で削減目標を高めていかなければ、温暖化の危機は回避できない。特に米中の責任は重い。
当面は、協定を早期に発効させ、削減目標の達成状況を5年ごとに検証する制度を効果的に運用していくべきだ。
日本政府は、温室効果ガスの排出量を30年までに13年比で26%削減する目標を国連に提出した。安倍晋三首相はCOP21で、目標の着実な実施や途上国への資金支援の拡大などを約束した。政府は今後、パリ協定批准に向けて、削減目標達成の具体策を示す地球温暖化対策計画を新たに策定する。
化石燃料に依存しないエネルギーシステムの構築は、日本にとっても技術開発のチャンスであり、経済面からも環境面からも重要だ。
対策計画の策定に際しては、パリ協定が掲げた「今世紀後半の排出量実質ゼロ」に沿い、脱炭素化を見据えた長期的な視点での対策が求められる。国内対策を強化してこそ、国際交渉での発言力も増す。
まずは、再生可能エネルギーと省エネの一層の拡大に力を注ぐべきだ。安倍政権は、原発再稼働路線を進めているが、脱原発依存と環境対策の両立を図ることが、福島第1原発事故を経験した国としての責務である。