ワタミ和解 ブラック企業の一掃を
過酷な長時間労働で従業員を使いつぶす「ブラック企業」は一掃されるべきだ。居酒屋大手「和民」で働いていた女性の過労自殺をめぐる訴訟の和解をその弾みとしたい。
運営会社のワタミと元社長の渡辺美樹参院議員は業務に起因する自殺と認めて遺族に謝罪し、1億3365万円の賠償金を支払い、労働時間の把握などの再発防止策を取る、というのが和解の内容だ。
さらに、原告以外の社員にも未払い賃金や天引きがあったと認め、1人当たり約2万5000円、総額約4500万円を支払うことも合意した。遺族側の意向を全面的に受け入れ、ワタミに実質的な懲罰を科す画期的な和解と言える。
自殺した女性は2008年4月に入社してから飲食店で連日未明まで勤務し、1カ月の残業時間は141時間に上った。国の過労死認定ライン(月80時間)を大幅に超える異常な長時間労働だ。
和解条項には、タイムカードを打刻した後に働かせることがないよう労働時間を厳格に管理したうえ、研修会なども労働時間に含めて記録するなど、具体的な再発防止策が盛り込まれた。ワタミに限らず、長時間労働による過労死や自殺を防止するための基本ルールにすべきだ。
もともと勤務時間の上限は週40時間と労働基準法で決まっており、残業代はこれを守らせるための懲罰的な金銭補償だ。
ただ、労使協定を結べばほとんど無制限で残業が許されるため、リーマン・ショック後、人件費を抑えて長時間労働をさせ、さまざまな名目で残業代を削るブラック企業が横行するようになった。正社員を減らし、賃金の低い非正規社員で代替するため、少ない正社員にますます仕事がのし掛かる構造となった。
当初、ワタミは裁判で責任を認めず争ってきたが、「24時間死ぬまで働け」という渡辺元社長の経営方針への批判から従業員が集まらず、客離れを招いて経営が悪化した。その結果、渡辺氏個人の責任も認める和解へと追い込まれた。ブラック企業は存続できないことを示した意義は大きい。
うつなどで労災認定された人は昨年度497人、自殺や自殺未遂は99人でいずれも過去最多となった。今年10月時点でも、賃金不払いの残業をした社員は35%、男性正社員の1割は月80時間を超える残業をしたとの調査結果がある。
非正規雇用の増大を招く国の政策が背景にあり、労働基準監督署が指導や取り締まりを十分に行ってこなかった結果でもある。国は事態を深刻に受け止め、ブラック企業の根絶に向け、労働時間規制や会社への指導を強化する必要がある。