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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第7章 王都大波乱滞在記

40/197

第98-100話 謎の悪夢と波乱匂わす王都

今回から第7章です。
どうぞ。


暗い森。

血の匂い。

全身を走る激痛と、手足を縛る倦怠感。

そして、
互いに血まみれで相対する、僕と母さん。

滝のような汗を流し、肩で息をする2人。
どう見ても、殺し合いの最中。

……だから、何なんだよ……コレ……


☆☆☆


「なんか最近よくうなされてると思ったら、またその夢だったの?」

ウォルカは『バミューダ亭』。食堂にて朝食の席。

6人掛けのテーブルで、『邪香猫』みんなそろってのぶれっくふぁーすとの最中である。

接客兼厨房見習いのターニャちゃんの、最近腕が上がってきたことがわかるハンバーグステーキをせっせと口に運びつつ、エルクに愚痴を聞いてもらっていた。

「あいかわらず、悪夢見た割に朝から平然とヘビーなもん食べてるわねあんた」

「何言ってんの、朝食は一日の原動力なんだからきっちり食べるもんでしょ。寝起きだろうと、いや寝起きだからこそ僕の場合肉汁たっぷりのハンバーグは美味しそうに見える」

「あっそ。で、何だっけ? ここんとこ頻繁に見るようになったんだっけか、その夢」

そうそう、そうなんだよ。


初めてあの夢を見たのは、もう結構前……そうだ、『花の谷』でだ。
『ディアボロス』やら『トロピカルタイラント』と、軽く死闘繰り広げた後、しばらく経った後の晩だ。

あの、わけのわからない……しかし、何だか妙に現実味のある夢を見たのは。

暗い森の中で、おそらくは僕と母さんが戦って、双方血まみれのボロボロになって肩で息をしているという光景。

……いや、ホント何なんだろう。全くわけがわからん。

夢って確か、人間の深層心理が出てくるもんじゃなかったっけ? すごく好きなことの具象とか、心の奥底の願望とか、理想の自分とか……
それか、過去の記憶を夢に見るケースもある、って聞いたこともあるけど……

でも、どっちも当てはまらないよなあ、この夢。

まあ、別にそんなパターンが絶対だって思ってるわけでもないし、それはいいんだけどね。僕別に夢の専門家じゃないし、本格的に調べたことがあるわけでもないし。


けど、
さすがに、ここんとこしょっちゅう、しかも全く同じ夢を見るとなると……気になる。


夢の内容は、さっき言ったとおりで毎回同じ。

そしてこれも繰り返しだが、初めてこの夢を見たのは『花の谷』で。もう4ヶ月以上前だ。その時はその1回きりで、それ以降見ることはなかった。
だから正直、その夢を見た事実すら忘れかけていた。

けど、ちょうど3週間くらい前から……そう、『チャウラ』で幽霊船騒動を解決した、その頃からだ。

アクィラ姉さんが尋ねてきてから、2週間弱チャウラで過ごし、ウォルカに戻って1週間ほど経って今に至るわけだけど、この3週間ちょっとで僕は、もうそろそろ両手の指に余るほどの回数、あの悪夢を見た。

実質、2~3日に1回のペース。さすがに気になるってもんだ。

ため息をつきつつも、ターニャちゃんにハンバーグのおかわりを注文していると、横でトーストとベーコンエッグで軽く朝食を済ませているザリーが会話に参加してきた。

「んー、確かにそれは気になるね。シェリーさんじゃあるまいし、ミナト君に限って、深層心理でそんな戦いを望んでるなんてことはないだろうし……」

「ちょっとそれどーいう意味よー? まるで私が戦うことしか頭にないみたいじゃない」

「えっ、違ったんですか?」

「ナナさん、そういうことは思ってても言わないものですよー。それはそれとして、お兄さんにはそういう夢を見る心当たりは無いんですよね?」

と、ミュウちゃん。

そりゃないよ。断言できる。

あんな凄惨な状態になるまでの母さんとの殺し合いなんて、断じて僕は、表層意識だろうが深層心理だろうが微塵も望んじゃいない。
ちょっと恥ずかしいこと言うけど、僕は母さんが大好きだから。

……てか、あんな風になる母さんってのも、そもそも想像できないけど。
母さん、超強いし。

いやそれ言ったら、そもそもあの夢自体現実味ないよな……。僕がいくら頑張った所で、あんな風に母さんを追い込めるはず無いし。
逆に母さんなら、片手間ででも僕をあんな感じまで追い込めるだろうけど。

「ふーむ……それだと、過去の記憶のフラッシュバックという可能性も?」

「ないね、ありえない。11年間母さんには稽古付けてもらったけど、僕の攻撃じゃ母さんにろくに怪我もさせらんなかったから」

「……Aランクの魔物を余裕で殴り殺せる拳でですか?」

「うん」

母さんとの訓練での、母さんの一番大きな怪我は、(当事の)最大出力の『ダークジョーカー』+『ダークネスキック』で、ガードした母さんの腕にちっちゃなアザ1つ、だ。
そのアザも、その日の夕食の時には消えていた。

『トロン』でノエル姉さんに僕の一番厄介な所は『頑丈さ』だって指摘されたけど、絶対母さんの方がうたれ強いだろうと思う。

身体強化は使ってるって言ってたけど、あの人なら『ディアボロス』の攻撃を普通に生身で受けとめられても不思議じゃないし。

「話を戻しますけど……でも、そんなに気にする必要もないんじゃないですか? 縁起が悪いとはいえ、たかが夢でしょう?」

「そうそう。ていうかむしろ、誰かに殺されたり、殺されそうになる夢って逆に縁起がいいって聞くよ?」

と、ナナさんとザリー。
まあ……確かに、そんなに気にしても仕方ないのかなあ?

「ていうか、深層心理でも過去の記憶でもないとしたら何があるってのよ? 理由」

「そうですね……ないと思いますけど、呪い、とか? 誰かが遠隔で、ミナトさんを精神攻撃して弱らせようとしてる……的な」

「え、マジ?」

「いえ、それはないと思いますよー?」

ちょっとぎょっとした直後に、ミュウちゃんから入る反対意見。

「そういう呪いが存在するのかどうかはともかく……そういうものにお兄さんが影響を受けるとはそもそも考えにくいですからねー」

「? そりゃ何でまた?」

「お兄さんが『夢魔』だからです。『夢魔』は、催眠や幻惑、魅了といった精神系の攻撃に対して、全種族中最強の耐性を持つ種族ですから。仮に呪われたとしても、きっちり効くようなことはそう無いと思います」

へー。あーでも、そういや前に母さんがチラッと言ってたような気もするな。

でもそうなると……結局理由はわからずじまい、か。
あー……陰鬱だな。悪夢におびえて過ごすなんて、僕らしくもない。

「ていうか、『夢魔』が悪夢に悩まされるってのもどうなのかしらね。むしろ『夢魔』なんだから、自分の夢くらい操れそうなもんだけど」

「母さんは出来るらしいんだけどねー、僕は出来ないんだよ。多分、放出系じゃないけど、魔力感応性が関連してるんだと思う」

「ふーん…………!」

と、シェリーさん、何か思いついたような顔に。
そして、にやりと邪悪な笑みを顔に浮かべる。え、何?

おもむろに自分の席を立つと、まだ食事中の僕の隣に来て、よりそうように僕に身を預けて体重をかけて……ちょっとちょっと!?

「ねえ、それならさあ……私から1つ提案なんだけど、夢もみないくらいにぐっすり眠れるように、寝る前にちょっと激しい運動してみるってのはどう? それならほら、私も喜んで協力させてもらうからさ♪」

「あんたは結局そこに行き着くのね……いい加減パターン化してるわよ、シェリー」

「だってしょうがないじゃない。そろそろ出会って半年も経とうって時期なのに、ミナト君一向に手出してくれないんだもーん。いくら私がミナト君の立場とか色々尊重してるって言っても、我慢にも限度ってもんがあるんだけどー」

ぶーたれるシェリーさん。朝から食堂で堂々と何言ってんだこの人は。

ただ、何か最近この言葉がただの冗談じゃないような気配がしてきてるんだよな……。

ナナさんが僕らの仲間に加わったあたりから、じとっと視線感じるようになったり……若干だけど、スキンシップが前より過激になったり……。

もともとシェリーさんが、一応本気で僕に好意的に接してくれてるのはわかってたんだけど、さすがに夜の相手云々かんぬんってのは、社交辞令とか、『もしその気があるなら』とかいうレベルの話だと思ってた。

けど最近、言うなれば、なんだかしびれ切らしかけてる、って感じの視線がそれに混じって感じられたり、会話の中でなぜか『甲斐性』とかなんとかってセリフをよく聞くようになったり……変化を感じる。

……一度、きっちり話す必要がある……かも? うやむやな中で間違いが起こる前に。

「でもまあ確かに、『夢魔』って割にはそーゆーことに無関心ですよね、ミナトさん。エルクちゃんとは唯一仲良くやってるみたいですけど」

「ですねー。亜人の中の『お色気担当』って感じ微塵もしないです。まあ、男だからかもしれないですが……正直ちょっと拍子抜けでしたね。こんな美人のお仲間が3人もいて一緒に旅をなさってるわけですから、てっきりお手つきかと思ったら違いましたし」

「好き勝手言わないでよ、そこの2人……そもそも僕自身『夢魔』の力についてはよくわかんないことの方が多いんだから」

才能の問題で、てんで固有技能使いこなせないし。

『夢魔』の固有技能で一番代表的なのといえば、異性を誘惑して自分の虜にし、意のままに操るための『魅了』とか、他人の夢に干渉したりする『夢の操作』なんかがあるけど……僕、どれもまともに使えたためしないんだよなあ。

やっぱ『雄』だと上手く発動しないんだろうか? まあ、別に『魅了』なんて能力、用途も思いつかないし使いたいとも思わないから、要らないけど。

でも、今はやっぱり『夢の操作』は使いたいな~……あんまり夢とか見ない方だから気にならなかったけど、今みたく悪夢とか見るようになっちゃった時に便利そうだし……。

まあでも、それは後で考えよう。

今日は……大事な用事がある。

「それはそうと、これから待ち合わせなんだから、遅れないようにしないとね」

「そうね。まだ時間はあるけど……相手が相手だし。待たせちゃいけないわ」

そう言って、残りの朝食を片付けにかかる僕ら。

そう。これから、待ち合わせなのだ。あの人と。

そして同時に、今日は……いよいよ、王都に行く日だ。


☆☆☆


朝食終了後、各自部屋で荷物の最終確認。
その後、みんな一緒に、町外れの空き地へ。

そこで待っていたのは、

「や。久しぶりだね、ミナト君。エルクちゃんたちも、元気そうで何よりだよ」

「そちらこそお元気そうですね、アイリーンさん」

久方ぶりに会う、この人。
冒険者ギルドの頭目、アイリーン・ジェミーナさんである。

そしてその後ろには、『伏せ』の姿勢で行儀よく待ってる、『ダークドラゴン』のデルタもいた。

アイリーンさん、なんと僕ら同様王都に用事があるらしく、全員まとめて送っていってくれるというのだ。デルタに載せて。

ちょっと、いやかなり恐縮だけども、僕らとしては都合がいいので、お言葉に甘えさせてもらうことにして……今日こうして、待ち合わせをする形になったわけである。

見るとアイリーンさんは、いつもの法衣みたいな服ではなく、膝上丈のミニスカートにセーラー服みたいな上という、コスプレちっくな、しかし動きやすそうな服を着ていた。
さらにその上に、灰色の外套を羽織っている。

これが彼女のよそ行きルックなのかはわかんないけど、穏やかそうに見えて意外と活動的だったりするらしいアイリーンさんには似合ってるのかもしれない。

「準備……は、出来てるからここに来たんだろうね。じゃ、さっそく行こうか諸君」

そう言うとアイリーンさんは、ふわりと浮き上がってデルタに乗った。
跳んだんじゃなく、浮いた。……浮遊魔法か。予備動作も何もなしに……相変わらずすごいなこの人。

それに続いて、僕らも『よろしくお願いしまーす』と一声かけて、デルタの背中に乗せてもらう。

黒い鱗は、まあ予想通り硬かったけど、表面は滑らかでゴツゴツはしていなかったので、乗ってみた感じ何か具合が悪いとか、そう言う事はなかった。

しかもさらにありがたいことに、

「さて、と。じゃ、そろそろ飛ぶよ。その辺適当に座って。まあ、立っててもいいけど、風圧すごいからね。一応、デルタの魔力で背中に力場が出来てるから落ちたりすることは無いけど、酔わないように、胡坐か体育座りあたりでじっとしてることを勧めるよ」

直後、

大きく羽ばたいたデルタが飛翔し……そのさらに数秒後、

アイリーンさんが軽い感じで言ったその言葉が、誇張でもなんでもなく……というかむしろかなり現実とギャップのある忠告だったと、僕らは知る。


☆☆☆


……いやー……

「すんごい速さですねー……何kmくらい出てるんですかコレ?」

「ざっとまあ……時速300kmちょっと、ってとこかね」

「うぉおう、新幹線並み……」

「うん? シンカンセン?」

「あ、いえ、何でもないです。けどこのスピードなら、王都にも結構すぐついちゃうんじゃないですか?」

「まあ、2時間はかからないと思うよ。本気出せばもっと早くつくけど」

「え、もっと速くなるんですか?」

「本気で飛べばこの3倍くらい出るんだよ、こいつ。いつもボクはその速さで飛んでるんだけど、今回は君たちも一緒に乗ってるからね。ちょっと風圧が洒落にならないレベルになるから、今日はゆっくりだ。まあ……ミナト君ならひょっとしたら大丈夫かもだけど」

「あー、なるほど……配慮ありがとうございます」


「そこ、何で普通に話せてるのよ……!?」


と、
この凄まじい風圧のせいでけっこうギリギリな感じのエルクの、絞り出すような声が耳に届いた。

一応、デルタの背中の『力場』のおかげで、落ちることは無いけどもね。

例えば、高速で飛ぶジェット機の上に、操縦席の中でなく、外に乗っていたとしよう。

そこでジャンプなんかしようもんなら、即座にそこに置き去りにされて機体は飛び去っていく。しなくても、きちんとしがみついてないと普通に振り落とされる。

けどデルタの上は、この『力場』のおかげで、そういう何かこう……運動エネルギー的な理由で振り落とされることがない。なので、この鱗すべすべなつかまる所がろくにない背中でも、エルクたちも落ちずに乗っていられる。

ただしさっき言ったように、風までは完全には防げないので、時速300kmの空気の爆弾は情け容赦なく体に叩きつけられてくるんだけども。

その視線の先で、僕とアイリーンさんは、普通にデルタの背中に立って話している。
んでもって、手には鳥かご。中にはアルバ。

さすがは時速300km、確かにけっこうなGと風圧である。普通の人じゃ、立ってるなんてまず無理だし、『力場』があっても乗ってるだけでかなりしんどいだろう。

しかもこの3倍って……つまりはほぼ音速か。いつもそれに乗って移動してるって、すごいなアイリーンさん。
『花の谷』の時、王都までウィル兄さんを余裕で迎えに行ってこれたわけだよ。

でもまあ、この3倍ね……そのくらいなら、一応僕も何とか耐えられそうかも。
さすがに立ってるのは厳しそうだから、座るか立て膝になると思うけど。

ただ、僕から見て後ろで踏ん張ってるみんなが無理そうだから、素直にアイリーンさんの配慮に甘えたまま王都を目指すとしよう。

ザリーとエルクは伏せに近い姿勢で座ってる。風の抵抗を少しでも減らすために。

ナナさんとシェリーさんは、そこそこ平気そうだけど、それでも立て膝。風の抵抗はそれなりにきついようで、体制を崩さないように気を配ってるっぽいかな。

そして、ミュウちゃんは……

「……上手い場所見つけたね、ミュウちゃん」

「ええ。力場のおかげで、厳しいのは風だけですから」

やっぱこの子賢い。猫モードになって、僕の背中にくっついている。
体が小さくなっているので、風除けも完璧。策士だ。

その様子を、横のアイリーンさんがほほえましげに、しかし興味深げに見てくるのに気付いた。

「んー……しかし、珍しいねえ。『ケルビム』か、僕も見るのは久しぶりだよ」

「あ、見たことあるんですか?」

「うん。最後に見たのは、160年ちょっと前かな……その時は敵だったから、跡形もなく消し飛ばしちゃったんだけど」

「……サラッとすごいこと言いますね」

「そう? ちなみにやったの、君のお母さんなんだけど」

「…………」

何て返したらいいのやら。

「ほうほう……お尋ねしたいのですが、ギルドマスターさん。その、ミナトさんのご母堂に消し飛ばされた人以外に、『ケルビム』の知り合いっておられますかね?」

「んー、残念だけどいないなあ。何せ『ケルビム』って言えば、『エクシア』や『スローン』、『アーク』並みの超激レア古代種族だから」

「そうですか……」

ちょっとだけ残念そうなミュウちゃん。
顔の広いアイリーンさんなら、レア種族でも知り合いがいるかも……っていう可能性は僕もちょっと考えたけどさすがに限度はあったらしい。

個人的には、今の会話で出てきた『エクシア』『スローン』『アーク』ってのも気になったんだけど、聞くの後にしといた方がいいかな?

特に『エクシア族』。だいぶ前から出てきてるだけに、いいかげん詳しいこと知りたい。
思い出したときに、『ネクロノミコン』でも調べてみたけど……今んとこそれらしき記述は見つけられてないし。


そのままさらに数十分。
雑談なんかしつつ到着を待つ。

なんとなく、アイリーンさんの用事が何なのか、とかも聞いてみたけど、完全プライベートな用事な上、王都にいる間に僕らと関わるようなこともないだろうとのことで、教えてはもらえなかった。

まあ、別にいいけど。関係ないこと聞いても仕方ないし。

すると、アイリーンさんがふと思い出したように、こんなことを聞いてきた。

「あ、そうだミナト君、ボクからもちょっと聞きたいことがあったんだけど……いいかな?」

「? 何ですか?」

「うん。実はこないだ、超久しぶりに、昔の仲間……テレサが訪ねてきてね」


その時、こんな会話が交わされたらしい。


☆☆☆


『そういえば、アイリーン? ミナト君のことで、ちょっと気になってることがあるんだけど……いいかしら?』

『? 彼がどうかした?』

『こないだ会って話した、っていうのは今言ったでしょ? その時に思ったんだけど……』

『?』



『何でか私、彼と初めて会った気がしなかったのよね……』



『! ……それだけ、彼がリリンに似てた、ってことかい? 彼も、あいつに負けず劣らずの問題児だからね、ある意味』

『いえ、多分そうじゃないわ。リリンに似てる所は否定しないけど……もっとこう、前に1度会ったことがあるような……そんな感じがしたの。なんとなく、だけどね』

『……ふぅん……やっぱり、君もそう感じたか……』

『えっ!?』


☆☆☆


「テレサさんも、僕に見覚えが?」

「うん、前に会ったことがあるような気がする、ってさ。で、ボクも君に以前、同じこと聞いたことがあるの覚えてる?」

「はい、そりゃもう」

そうそう、始めてアイリーンさんに会った、あの日だ。

それまで、母さんとの訓練以外で『樹海』の外に出たこともなかったし、出ても戦ったり狩ったりの毎日だったんだ。その時も返答は同じように返したけど……『前に会ったことがある』なんてこと、ないと思うんだけど……。

これも繰り返しだけど、アイリーンさんもテレサさんも、とんでもなく美人だ。一度見たら、向こう半世紀忘れないかもと思うくらいには。

第一、僕の外出はいつも母さんが一緒だった。その時あってたんなら、当然母さんにもあってるはずだし、僕に対しても、母さんが紹介を入れてくれてるだろう。

「……というわけで、やっぱり勘違い……だと思うんですが……」

「んー……ボクも、最初に君にそういわれた時はそうかもと思ったんだけど……テレサも同じように感じてるとなると、気になってね……。でも、君自身はやっぱり心当たりは……」

「ない、です」

「そっか……うーん……」

顎に手を添えて悩むアイリーンさん。

……なんか、僕まで気になってきたな……どういう事なんだろう? アイリーンさんに続き、テレサさんまで、僕に以前会ったことがある気がする、だなんて……?

一緒になって考えはしたけども、結局答えは出ないまま時間だけが過ぎていき……数十分後、地平線のかなたに、目的地がついに見えてきた。



あ、ちなみに、

僕がアルバを入れて持ってる鳥かごは、AAAへの昇進祝いにアイリーンさんがくれたマジックアイテムだ。超上級の魔法障壁並みに強力な防御力や、劣悪な環境からの保護能力も兼ね備えている。防風とか、防塵とか。

なので、多分この空の旅、一番快適に過ごしたのはこいつだろう。


☆☆☆


2時間弱、か。
すごいな……数百キロあって、悪路や危険区域もあるから、馬車とかで行くと3、4日普通にかかるって聞いてたのに。

早馬を潰す気で走っても、丸一日はかかる距離。

それを、ちょっと遠出するくらいの手軽さで……さすが時速300kmオーバー。

ただ、その分ちとヘビーな移動だったらしいな。それこそ、馬や馬車より。

王都近郊に着陸したデルタは、行く時と同じように『伏せ』に。僕らが降りやすいようにしてくれてる。

そしてその背中では、僕とアイリーンさん以外のメンバーが、2時間弱のフライトで体力を使い果たしてへばっていた。

エルクとザリーはダウン寸前。ナナさんとシェリーさんはいくらか余裕がありそうだけど、それでも、疲労感は見た目からもかなり感じられる。
一番ましなのは、僕に捕まってた策略家・ミュウちゃん(猫モード)だけども、それでも僕の肩に乗っかってくてっとしてる。

もう片方の肩にはアルバが乗ってる。籠はアルバを出した後、折りたたんでベルトに収納した。

「いや~、みんな見事にへばってるねえ。自力で動けそうなのは、ミナト君以外だと……武闘派の2人くらいかな?」

「いや、仕方ないんじゃないですか? 風圧のストレスとかバカに出来ないでしょうし。自分で言うのもなんですけど、僕とかアイリーンさんは特別ですよ、良くも悪くも」

「お、ちょっとは自分の異常性ってもんを正しく理解できるようになってきたみたいだね? 感心、感心」

「……どうも。それはそうと、どうします? 一旦休憩入れますか?」

他のメンバー、かなり疲労がたまってて、歩くのもけっこうしんどそうだけど。

デルタは、きっちり躾けられてるとはいえ、Sランクの魔物。
ていうか、黒い鱗のこの巨体。見た目からして威圧感尋常じゃない。なので、町の近くまでは乗っていけないのだ。それなりに遠くで降りて、自力で行かないと。

けど、騒ぎにならないこの位置から『王都』まで2km弱くらいあるし、この状態で歩いていくのはちょっと大変かな?

距離としては大したことないけど、大部分が特に整備されてない悪路な上、魔物だって出るし。
さっさと整備された道に出れば、大丈夫だから、無理して行けないこともないけど……。

あ、それとも……アイリーンさん『転移』とか使えればそれでも……いやいや、何でも彼女に頼る方向で考えちゃダメだって。

するとアイリーンさん、大体僕がなに考えてるかわかったのか、

「大丈夫だよミナト君、もうすぐここに迎えが来ることになって……お、来た来た」

「え?」

言いかけたまま、アイリーンさんが振り向く。
思わず僕も目で追った、その視線の先には……丘の向こうからこっちに向かってやってくる、馬車数台からなる馬車隊が……ん? 馬()隊? なんか違うな。

引っ張ってるのは……馬じゃない。トカゲ? いやむしろ、竜?

なんか……ブラキオサウルスみたいな、首長竜みたいなのが馬車を引っ張ってきてる。いや、竜が引っ張ってるんだから馬車じゃなく……竜車?

大きさは馬より2回り大きいくらいだけど、見た目かなりパワフルな動きでこっち来るな……初見で何も事情知らなかったら、思わず逃げ出しそうなビジュアルだ。

けど、アイリーンさんがニコニコ笑ってる所を見ると、あれが『迎え』なんだろう。

それによく見ると、先頭の馬車の御者台に、見覚えのある人物が……って、あれ?

(……なんで、スウラさんがここに?)

何か最近、よく会いすぎじゃない?


☆☆☆


軽くグロッキーになったエルク達を馬車で回収。
そのままスウラさん達に、王都目指して『竜車』(やっぱりこういう名前だった)で送ってもらえることに。

この方々、僕らがここに来るって事前にアイリーンさんに知らされて、迎えに来た王都の警備隊の派遣部隊だそうだ。サービスいいなあ。

アイリーンさんが手配したわけじゃなく、用意そのものは軍の上層部らしいけど。おそらくは僕んとこの長男か長女だろう。

ご丁寧にも、ダウンして横になりたい人用に、寝台設備月のと普通のものの2種類を2台ずつ派遣してくれていた。感謝。

で、エルクたちをwith寝台設備の馬車に寝かせて、僕はアイリーンさんと普通設備の馬車に乗っているんだけども……1つ気になることが。

一緒に乗っているのは、御者の人と、スウラさんと……もう1人。
おそらく僕と年齢も近そうな、少女、と言っていい感じの若い女の子兵士が一緒だ。

僕と向かい合わせになるように座っているその子は、中々に特徴的な容姿をしていた。

短めの灰色の髪に、シェリーさんほどじゃないけど若干色黒の肌。
美少女と言っていい整った顔立ちで、若干つりあがった目じりと眉毛が、気が強そうな印象を形作っている。なんか見た目、真面目そうである。

ただ彼女……なんだか傍目からでもわかるくらいにガチガチに緊張している。背筋すんごいピンッと伸びてるし、顔には滝のように汗が流れ、口は真一文字。肩に力入りすぎて、肩パッド入れてるみたいになってる。
おまけに、小刻みに震えていると来た。

……えっと、見てるこっちが緊張しそうなんだけど、何なのこの子?

「……あの、スウラさん?」

「ん、何かな、ミナト殿」

「えっと、こちらは……? 自己紹介まだですよね?」

「ああ、すまん。数週間前から私が王都に呼ばれて、研修に参加しているというのは話したと思うが……」

と、スウラさん。
そう、どうやらスウラさん、王都で行われている『研修』とやらに参加しているらしい。

いわゆる『役職研修』って奴だろう。スウラさん最近出世したから、その役職の人の仕事のノウハウや心構えなんかをきちんと学ばせる目的で開かれる奴。
確かスウラさん、『中隊長』&『大尉』になったんだもんね。

で、その研修の一環として、王都の訓練生のチームを率いて部隊統率の訓練をしてるらしいんだけど、その中でも特にスウラさんが注目してるのが、彼女だという。

そこまで話すと、スウラさんは彼女を促して、僕らに自己紹介させた。

……肩を軽く小突かれただけで飛び上がりそうになってたから、ちょっと大丈夫なんだろうかと思って見てたけど、どうにか息を整えて、一言一言はっきりと自己紹介を始める。


「ぎ、ギーナ・シュガークであります。年齢は16。スウラ大尉の下でご指導ご鞭撻いただいております。階級は上級兵で……若輩者ですが、精一杯任務に当たらせていただきますので、よろしくお願いします!」


やっぱり緊張MAXのまま、そう元気に(必死に大きな声を出そうと努力した風にも見えるような?)自己紹介した少女兵士……もとい、ギーナちゃん。

任務だからか、はたまた超のつく要人(冒険者ギルドのギルドマスター)が目の前にいるからかはわからないけど。

一種の職業病なのか、竜車の中だっていうのに直立不動の姿勢で立ち上がった彼女は、背丈も僕と同じくらいだった。

そして、体つきが……がっしりしてるわけじゃないけど、しっかり筋肉ついてる。しかし引き締まってる筋肉だからやせてるように見えるそれだ。

こういうの、何て言うんだろう? 女性としてのかわいらしさや適度な体の丸みを失わずにきちんと鍛え上げられてるっていうか……。
僕の主観だけど、接近戦で戦うのにかなり理想的な鍛えられ方の体、って感じがするな。

と、いつの間にかじろじろ見ちゃってたのか、ギーナちゃん、『あ、あの…?』と、ちょっと戸惑い気味になってた。あ、こりゃ失礼。

それに気付いたかどうかはわからないけど、自己紹介が終わったと判断したスウラさんが彼女を座らせて落ち着かせながら、僕らに補足説明。

「実戦・座学ともに優秀な秀才なのだが……見ての通り、生真面目で緊張しがちな部分があってな。とにかく経験を積ませるという目的で、色々な任務に参加させている所だ。もっとも今回の場合、相応の人材を用意すべき任務であるがゆえに、どの道彼女は適任と言っていい人材だよ」

「そ、そんなっ!? わ、私などまだまだで……むしろ、任務とはいえ、世界最高峰の魔法使いと名高いアイリーン様にお目にかかることが出来て光栄で……」

「あー、いいからいいからそういうの。ボク別に軍人じゃないし、君の上司でもなんでもないんだから。昔ちょっとやんちゃしたことで有名になったただの年寄りだから」

相変わらず砕けた感じのアイリーンさん。自己評価絶対間違ってるけど。

もっともギーナちゃんはギーナちゃんで、その対応にすら恐縮してるけど。

「……まあ、この通りだ。堅いところがあるのは否定できないが、私としては、いずれ化ける逸材だと思っているよ。本人にも、きちんと自覚と自信を持って日々の鍛錬と任務とに励むよう、指導している所だ」

「そ、そんな……大尉、私などそんなことは全く……」

「この通り、自分を過小評価する、やや小心者というか、慎重すぎるところが難点だが」

「あぅ……」

なるほど、ね。
実力云々はともかく、いまスウラさんが一番かわいがってる生徒ってわけだね。

「ミナト殿はこれから数日の間、王都に滞在されるとのことだが……その間の雑事やトラブルの処理、軍関係の諸用等が我々の仕事でな。そういうわけで、またこれからしばらく、よろしく頼む。ギーナや、他の部下ともども、な」

「よ、よろしくお願いします!」

「あ、うん……こちらこそ、どうぞよろしく」

「ふふっ、いいねぇ、前途有望な若者達っていうのは……」

アイリーンさんがそんな言葉をつぶやくのと、御者の人から『間もなく到着です』って声が聞こえたのが、ほぼ同時だった。

いよいよか……王都!


☆☆☆


結局、送ってもらった宿についても復活しなかったエルク達。
今日はこのまま休むとのこと。あらかじめとってあった部屋に入り、そのままベッドに倒れこんだのが3人と、殊勝にも資料に目を通し始めたのが2人。

ちなみに前者はエルク、シェリーさん、ミュウちゃんの3人。僕を風除けに使ってたミュウちゃんは一番ましだったけど、もともとの体力がこの中で一番無い。僕らと一緒にやってる『特訓』で前よりかなりついてるけど、それでも足りなかったようだ。

そして後者がザリーとナナさんであり、資料ってのは軍の人達から提出された、この王都滞在中の僕らの簡単なスケジュール表その他である。

ザリーは情報屋としての意地であり、ナナさんはもともと強行軍による疲労には慣れてるらしい。
……ザリーより体力あるはずのシェリーさんが速攻寝たのは……まあ、うん。

実際この中で一番持久力や回復力に優れているのはナナさんだしなあ。軍属の時に、回復力を鍛える訓練でもされたんだろうか。……されてそうだな。

軍人なら、任務次第で強行軍になったりすることも当然あるだろう。その時のために、いつでも動けるような体作りを普段から心がけた指導方針であってもおかしくない。

というか、当然そうであると思われる。何せ、僕がそうだったし。

母さんの訓練メニューには、見事にそれが組み込まれていた。

母さんは僕を、ちょっとやそっとの障害で実力を出せなくなったりなんてしないように育てた。それこそ、多少の疲労なんて感じる間もなく回復するくらいに。
休憩方法と体作り、その両面からだ。

母さんのその指導方法が、僕だけに対して行われたものだとは考えづらい。事実『トロン』での姉さんの修行でも、それにあたる内容が含まれてた。

つまり姉さんは、母さんからその指導方法で育てられた。
ということは……だ。ドレーク兄さんだってそうかもしれない。いや、きっとそうだろう。

だとすれば、そのドレーク兄さんに鍛え上げられたナナさんがその技能を身につけているのも当然……か。それでこの中で一番持久力あるんだな。

「それでミナト君、君これからどうするの? ちなみにボクは、これからちょっとした用事があって出かけるんだけど」

「そうですね……宿でじっとしてるのも暇だな。王都見て回りたいですね」

「それもいいかもね、ウォルカとはまた違った感じで発展してる、にぎやかで楽しい町だから。でもミナト君方向音痴じゃなかった? 大丈夫かい?」

「あ、でしたら私がついていきましょうか?」

と、ナナさんが資料から目を上げて提案。え、いいの?

「はい、私ならこの町はむしろウォルカより知ってますし。おいしいお店とかご案内もできますよ?」

「それは嬉しいけど……疲れてるんじゃない?」

「いえいえ、もう大方回復しました。それに、久々に町を見て回りたいですし、その方がかえって楽しくて気分転換にもなります」

そう言うナナさんの表情は、どこか晴れやかに見えた。
……意外とホントに楽しみなのかな、王都歩くの? まあ、彼女にしてみれば地元みたいなもんだろうしな……僕らからすれば初めて来る、この全く未知な場所も。

だったら彼女も言ってるとおり、お言葉に甘えた方が、彼女の気分転換にもなっていいんだろうか、もしかして。

「なら……頼んじゃおっかな、そんなに遠くまでいくつもりも無いし」

「む、出かけるのかミナト殿? なら、軍からも誰かつけないといけないな」

と、スウラさん。え、何で?

案内役なら、たった今ナナさんが引き受けてくれた所だし……護衛役は正直言って要らないんだけど。どう考えても僕らの方が強いから。

が、そんなことはスウラさんもわかっていた様子で、

「それは百も承知だが……我々はミナト殿らの案内と警護が任務だからな。形式的にでも1人か2人は……ふむ、ギーナ?」

「は、はいっ!?」

と、すんごいびっくりした様子で裏返った声を上げたのは、竜車の中で会ったギーナちゃんだった。おお、驚いてる驚いてる。いきなり振られたもんだから。

スウラさん、ちょいちょい、と手招きして彼女を近くまで連れてくると、

「ミナト殿、彼女を連れて行ってもらうわけにはいかないか? 今言ったように、われわれが一緒にいて警護している、という事実が形だけでも必要でな……ギーナは階級こそ上級兵だが、戦闘力はすでに尉官ランクだ、よほどの相手でも出ない限り足手まといにはならないだろうし、それに……」

「それに?」

「こう言っては何だが……つれて歩くなら、男よりかわいらしい女子の方がいいだろう?」

そりゃまあ、どっちかって言えばね?

ただそのギーナちゃんはと言うと、いきなり抜擢されて驚いて青い顔したり、褒められて嬉しそうにしたり、けどやっぱり戸惑ったり、照れて赤くなったり、さっきから目まぐるしく顔色が変わっている。

……大丈夫かな? なんか、相談もなくこんなことに推薦しちゃって……いや、相談できる状態かってきかれても微妙ではあるけど。

ちらっとナナさんに視線を向けると、微妙な視線が帰ってきた。

受けても問題なさそうではあるけど……別な部分に問題があるとか、そんな感じ?
……その問題ってのは、目の前にいるこの娘の精神状態だろうか?

どうもスウラさんが言ったとおり、極度の上がり症らしいな。
見た感じ、僕らのことも結構な重要人物・VIPとして聞かされてるっぽいし……そうでなくても、軍に入った時期によっては、現役時代のナナさん(超エリート)を目にしている可能性もある。

それならコレも無理ないのかも、とは思うけど……大丈夫なの? 一緒に連れてって。

「問題ないさ。何だかんだで切り替えはきっちり出来る性格だからな。そういうわけだがギーナ、頼めるか?」

「はっ! 不肖ながら、せ、精一杯務めさせていただきます!」

「あ、うん……じゃあ、よろしく」

務めるっつっても、特に何も出番ないと思うけど。


☆☆☆


王都『ネフリム』。
この国最大の都市であり、『ウォルカ』をも凌駕する規模の人口と物資・貨幣の流通量を誇る。

その話に聞いてた通り、マジで大きな町だ。
出てる店の種類も、ウォルカと同等かそれ以上に多い。品揃えも実に多彩だ。

活気で『ウォルカ』が負けてるわけじゃないと思うけど、やっぱ人も物資も、量があるってのは違いが出てくるもんなんだねえ。

企業もかなり違う種類のものが出店してきているせいか、ウォルカでは見られなかった商品なんかもいろいろとそろってるように見える。

見たことのない武器に防具、マジックアイテムに薬品……食材なんかも。中心都市だけあって、色々な所から品物が集まるらしいな。

そしてやっぱりというか、顔が広いマルラス商会。
ここにもきっちり支店が建ってるらしい。

やっぱりザリーや姉さん本人の言ってた通り、大きな都市にはだいたい支店や営業所を構えているようだ。

……っていうか、それよかむしろ王都に本店とか構える方が大企業っぽい気がするな?

今までは、『ウォルカ』以外にほぼ大都市を知らないといってよかった状態だから、あんまし気にならなかったけど……姉さんってなんで、国の中心と言っていいこの『王都』じゃなく、『ウォルカ』に本店置いたんだろう?

てかそもそも、冒険者ギルド本部みたいな重要施設って、本来『王都』……王様のお膝元にあるもんなんじゃないのかな? まあ、僕の勝手なイメージかもだけど。

……と、いうようなことを、買い食いしたハンバーガー(っぽい食べ物)を食べながら思いついたので聞いてみた。

すると、隣を歩いているナナさんが、

「ああ、それはですね……冒険者ギルドの世間的な中立性を重視してのことなんですよ」

「中立性、ってーと?」

「冒険者ギルドっていうのは、この『ネスティア王国』のみならず、世界中に存在し、それらの全ては国ごとでは無い同一の組織です。同時に、どの国家にも属さず、敵対もしない、完全な中立を保った存在としてその地位を確立しています」

「ああ、国際的かつ独立した組織ってわけね? ……そういや、ギルドカードの恩恵ってギルド承認してる国ならどこの国でも変わらず受けられるって聞いたっけ」

「それもひとえに、ギルドのその力の大きさと中立性によるものです。どこにも属さず、誰をひいきすることもしない、ギルドの絶対方針なんです」

なるほど……あ、もしかして、

「そういうことです。この『王都』と『ギルド本部』が別々の都市に存在するのは、権力の集中や、『王都』の貴族や官僚によるギルドへの権力干渉を防止する意味なんです」

そういうことか。

王様のお膝元ともなれば、貴族に国の役人・重役、その他もろもろ偉い人が大勢いる。

同じようにギルド本部といえば、ギルド内外の権力者が足を運ぶもしくは内部で勤務する、同じく権力の巣窟。

そして、権力と金はある方にある方に集まり、惹かれあうものだ。
いくらギルドが内通・癒着の厳禁を絶対方針として掲げていても、完全にそれを防ぎきれるわけじゃない。『権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する』なんて言葉もあるくらいだ。

立場上、そして存在意義からして絶対に中立でなければならない冒険者ギルド。国そのものともいえる巨大な権力のそばに置いておくのはダメ、ってことだろうか。

「支部なら問題ないんですが、ウォルカにあるのはギルドの『本部』ですからね。世界中に散らばっている冒険者ギルドの総本山が、1つの権力に肩入れする可能性がある位置に置いておかれるのは、対外的にもまずいんです」

「そもそも、この『ネスティア王国』にギルドの本部が置かれているという状況そのものにすら、一時期は議論が持ち上がったと聞いています」

と、ギーナちゃんの補足。

さっきまでガッチガチだった彼女だけど――いや、今もかなり緊張してるんだけど――一緒に歩くうちに、僕らに対してそう過度な緊張感は必要ないと徐々にわかってきたようだ。

もっとも、賓客であることに変わりは無いってことで、そこは今も変わらずきっちり意識なさってるけども。

「冒険者ギルドの『本部』があるとなれば、中立とはいえその国は確実に頭1つ抜け出た国力を約束されますから。特に約200年弱前、『女楼蜘蛛』という超巨大戦力が在籍していた時期は、その権益をめぐり様々な国が火花を散らしていたそうです」

けどこんな風に、会話の合間合間に割り込んで来れる位にはその緊張感も取れている。

そのおかげで、彼女について色々なことがわかった。

あがり症というより、真面目。超がつくほど。
実直で、かなり責任感とか使命感が強い。多分、曲がったことが大嫌いなタイプ。

そのせいで、任務を確実に、きちんとこなそうとして……しかしやっぱり緊張、って感じかな。

そして勉強家でもあるみたいだ。もう一世紀以上前のことを、こんなにも詳しく調べてきっちり記憶している上、丁寧に説明までしてくれるとはありがたい。

しかし国同士がギルドの誘致を欠けて火花をねえ……まあ、当然か。母さんクラス×6なんて超巨大戦力、どこの国も欲しがるに決まってる。
……制御できるかは別として、だけどね。

国同士の戦争に参加要請した所で、自由が主義信条のあの人達だ。受諾なんてしてもらえるわけが無いし、むしろ喧嘩両成敗でどっちも潰される可能性のほうが高い。

恫喝なんてしようもんなら……考えたくもないな。

「もっとも、議論は終始平行線をたどり、結局最初にギルド本部か建立された『ウォルカ』から移動等することなく現在に至ります。ただ、ですね……その話し合い、ある時突如として終わりを迎え、以後ほぼ全くされなくなったんです」

「? そりゃまたどうして?」

「正確な情報は未だに不明なんですが……こんな逸話が残っていまして」

逸話?

「はい。実は当事、国同士の話し合いとは別に、各国はそれぞれ裏で『女楼蜘蛛』にアプローチをかけていたそうなんです。専属契約の締結や、自国の貴族との婚姻、爵位の進呈など……まあ全て断られていたそうですが、かなり執拗だったようで」

「……で?」

「……それに業を煮やしたのか、ある時その『女楼蜘蛛』のリーダーだという女性が、ぽつりとつぶやいたそうなんです。それが各国首脳の耳に入った途端、ぱったりと」

「……なんて言ったの? その人」

どうしよう、嫌な予感しかしない。

「はあ……その、あくまで噂ですし、どこまで本気だったのかも定かでは無いんですが……。当事、このネスティアを含めた主要な大国6カ国が、何度もこの問題について、おのおのスケジュールを調整しつつ話し合いを進めているということを話に挙げて……」



『そんだけ多いと予定あわせるのも大変でしょ? 会議一つのためにさー……ちょっと数減らしてあげよっか? 半分くらいに』



「……それを聞いて、震え上がって以後関わるのをやめたと……」

……うちの母がすいません。

まあ冗談だと思いますけどね、と言っているギーナちゃんだが、あの人ならやってもおかしくない。主要5カ国か4カ国くらいにしていてもおかしくない。
……手を引いた各国首脳の諸君、賢明な判断だ。

僕の、ギーナちゃんとは反対側を歩いているナナさん、僕の顔色を見てなんとなく察したらしく、その顔に乾いた笑みを貼り付けていた。

「その後、『女楼蜘蛛』が解散してメンバーの大部分が引退してから、しばらくしてまた議論が再開されるようになったんですが、その更に後、現ギルドマスターであるアイリーン様が就任なさってからは、『時間と金のムダ。本部移すつもりないから。そんなに危険視するんなら、いっそ潰してみる? ケンカなら買うけど』との一声でまた黙ったと」

「……あの人達はホントにもう……」

なんで徹頭徹尾ケンカ腰なんだよ……理念一致しすぎだろ……。そういう連中の集合体だって、一番最初に説明されたけどさあ!

けどまあそのおかげで、さしたる動乱もなく落ちついたってんだから、まあよしとしようか。

と、その時、

僕、ギーナちゃん、そしてナナさんの順番で……通りの向こうで起こっている異変に気付いた。

「……ケンカ、じゃないですね……」

「うん。見た感じ……クレーマーかな、悪質な類の」

がつんっ、と、
カフェテラスの椅子とテーブルを蹴飛ばした、人相の悪い男3人が、頭を下げるウェイトレスさんに向かって怒鳴り散らしている。

聞いていると……悪口と率直な感情主体の、対して中身のないクレームだけども。

えーと何々? 料理に虫が入ってたから責任者呼べだの、金は払えないだの、慰謝料よこせだの……わあ、見事な小物。

どこにでもいるんだなあ、ああいう三流以下の小悪党。

……さて、それはそうと、
どうやら僕の右隣にいる正義感溢れる女の子が、生きたそうにしているのが目の端に映った。

……うん、いつかの正義バカと違って、この場合コレが彼女の仕事なわけだからね。
今回は別に呆れも何もないよ。

「あの、ミナトさん、ナナさん……「いいよ、行っといで?」え?」

「行きたいんでしょ? 仲裁。仕事だもんね」

「私達は構いませんから、どうぞ?」

「あ、ありがとうございます! では、お言葉に甘えて……おい、そこのお前達!」

「あぁ? げっ、警備兵……って、何だ女かよ?」

「引っ込んでろよ、あんたにゃ関係ねえだろうがよ!」

吐き捨てるように、凄みを利かせて恫喝込みで言い放ったクレーマー2人。

しかしギーナちゃん、ひるむ様子全くなし。逃げも隠れもせず、ずんずんと歩いていく。

「……その顔、覚えているぞ? 以前から問題になっている、言いがかりに等しい悪質なクレームを吹っかけて無銭飲食を行う常習犯……」

「あぁ!? 言いがかりはそっちだろ。俺達はただ、店側に誠意を求めてるだけですけどー?」

「横から入ってきてうるせえんだよ、女の癖にいちいちよぉ! それとも何か? おめえが店の連中の代わりに責任取ってくれんのか? げひゃひゃひゃ!」

「……お望みとあらば、そうしてやるが?」

「おっ、マジかよ? へへへ……なんだ、意外と話のわかるあだだだだだ!?」

と、
下卑た笑みと共に、ギーナちゃんの体に手を伸ばそうとした男Aが……一瞬でその手を絡め取られて関節を極められた。おぉ、疾い、それに鮮やかな手際だ。

横を見ると、ナナさんも感心していた。

「なっ……て、てめ、何しやが……!」

「責任を取ってほしいのだろう? 確かに、お前達のような問題人物を対処・逮捕せずに放置していた結果、今日のような騒ぎに結びついたのはひとえに我々警備隊の責任だ……その責任を取ってきっちり全員現行犯逮捕してやる」

「……っ……ふざけんな!」

「てめっ……ダチを放しやがれ!!」

そう息巻いて突っ込んでくるB。

ギーナちゃんはAを突き飛ばし、同時に足を払ってこけさせると……殴りかかってきたBの拳を、ぱしっと片手で受け止めた。

そしてそのまま、パンチの勢いを利用し、腕をひねりながら投げ飛ばす。
その際、飛ぶ直前にもう片方の腕で肘を叩き込んだ。

空中で気絶した不良Bは、店の隅、ちょうど誰もいないところに落下してそのまま動かなくなった。

その背後から迫る残り1人(Cでいいな)。おそらくは気配だけで悟って耐性を低くしその拳をよけると、振り向きざまにCの顎に打ち上げるハイキックを叩き込む。

おそらくその一撃で即気絶したであろうCは、器用にも垂直に飛んで垂直に落ちてきて、その場に崩れ落ちた。

おぉ……お見事。この数秒で2人無力化した。

しかも器用にも、周囲の人はおろか、店の備品一つにもかすらせずに、迷惑全くかからないようにしとめている。気配りも完璧か。

「……くそっ!」

と、

最初にすっ転がされたAが起き上がり、闘争を開始する……前に、ガシッとその服の襟をギーナちゃんにつかまれた。

……と思ったら……あ、上着脱ぎ捨てた。

「なっ!? きさ……ま、待て!」

「うるせえ誰が待つか! どけおまえらぁ!!」

一瞬の隙を、不意をついて逃げ出そうとしたAは……物騒にも懐からナイフなんか取り出し、迷惑にもこっちに向かって走ってくる。

その向こうでは『あぁっ!!』てな表情して焦ってるギーナちゃん。
もしかして、意外と詰めが甘いというか、ドジッ子な一面あったりするんだろうか?

それはそうと、ああいう娘ってこのパターンで怪我人が出たりすると罪悪感をご丁寧にも10割増しにして背負い込むことがあるからなー。
逃げられても後味悪いし、仕留めるか。

首筋よりはみぞおちの方が狙いやすいかな……と思ったら、その瞬間、


ゆらり、と、

横から……ロングコートを身にまとった背の高い影が現れ、僕とA(走ってくる)との間に割り込んだ。え、何!?

そんなことに構わず突っ込んでくるAだけども、次の瞬間、

「オラァどけごはっ!?」

――どごっ、と、

その人が、腰に刺していた剣の柄で、Aのみぞおちを一撃。

そしてAの体が、ふわっ。

体が宙に浮くほどの衝撃を叩き込まれたAは、一撃でキレイに気絶してその場に崩れ落ちた。おー……お見事。

刹那の出来事に、少しの間驚いてあっけに取られていた、僕ら含めその場にいた面々。
だけども一瞬後、はっとしたようにギーナちゃんがこっちに駆け寄ってくる……前に、その謎の人物がこっちを振り返った。

「……おせっかいでしたかな?」

「え? ああ、いやそんな。お見事でした」

振り返ったその人は……壮年の男性だった。

年齢は、40~50台ってとこだろうか? もしかしたらもっとかもしれないけど、結構若く見える。
体も結構がっしりしてるし、かなり鍛えられてる感じかも。

かなり整った、イケメンやハンサムというよりはダンディズムという表現が似合う顔。目つきは鋭く、なんか威圧感通り越した覇気みたいなものすら感じられる。髭はなし。
帽子が大きくて髪型まではわからないけど……かなり短髪っぽいな。

かなり長い丈の黒いコートを着込んでいるその男性は、僕とナナさんに一礼すると今度は駆け寄ってきたギーナちゃんに向き直る。

「見たところ……警備隊のようだね、お勤めご苦労さま」

「えっ!? あ、いえ、その……ど、どなたか存じませんが、ご協力感謝します。自分の不始末で、危うく一般の方に迷惑がかかる所でしたので!」

ギーナちゃん、直立不動で敬礼。

「何、誰にでも失敗はある。立場上、気にするなという言葉をかけるわけにはいかないが、二度同じ失敗をしないよう心がければよいだけのことでしょう」

なんか、若干偉そうなダンディ(仮)のお言葉。

けど、不思議といやみに聞こえない。まるで、校長先生に道徳倫理を説かれてるみたいに見えるっていうか……なんか不思議な感覚だ。

カリスマ、っていうのかな? 何だろこの人。

てか、少なくとも一般人じゃないのは確かだ。ギーナちゃんに対して偉そうな言動してるってことは、それなりの地位と考えていいんだろうし……と、僕が思考をめぐらせていると、


「お、何だもうお前来てたのか? ミナト」


背後から、いきなりそんな声が。

振り返ると、そこには……見覚えのある顔と筋肉が立っていた。

「え? ダンテ兄さん?」

「おぅ、久しぶり。元気してたか? ……ってか今微妙に失礼なこと考えなかったか?」

「キノセイダヨ」

相変わらずの筋肉と白衣でそこに立っている、キャドリーユ家4男、ダンテ兄さんがそこにいた。
うん、こっちはこっちでダンディだ。

ちょっと髪の毛が伸びたかな? 最後に会ったときより、ほんのちょっと。
髭もやや伸び気味のような……なんて感想を僕が抱いていると、ダンテ兄さん、『ちょっと悪い』と一声かけて僕の横を抜けると、

さっき見事な一撃で悪漢を叩きのめしたダンディ(仮)の所へ行き、

「困りますよネルソン卿、自分一応あなたの護衛なんですから、勝手に飛び出していかないでもらいたいんですけど」

「これはすまない、ダンテ殿。しかし、警備兵とはいえ、このようにかわいらしい少女が孤軍奮闘しているそばで何もしないというのも、何だか収まりが悪くてね。それに、私の行きつけの喫茶店でもあったから、ついムキになってしまった」

「いわ、わかっていただければいいんですが……」

……? 知り合い?
てか、『卿』なんて呼び方してるってことは……もしかして、貴族か?

すると、僕の疑問と好奇心の入り混じった視線に気付いたそのダンディ……もとい、ネルソン卿は、体ごと再びこっちに向き直ると、

「おっと、失礼、挨拶もそぞろになってしまったね。私はレオナルド・ネルソン。しがない子爵家の三男坊だ、以後、お見知りおきを」

そう言って、帽子を取って頭を下げた。
優雅、と言っていい動作だ。

そしてそれにより、この人……レオナルド・ネルソンさんの名前と、もう1つ、わかったことがある。



……坊主頭か。珍しいな。


☆☆☆


名前はレオナルド・ネルソン。子爵家の三男で、自身も男爵位を持つ貴族。

長男と次男が上にいるため、特に家業を任されたりもしてないらしく、こうしてぶらぶら町を歩いて食べ歩きしたりするのが趣味なんだとか。

……意外とけっこう庶民的な趣味もってるんだな。

貴族ってくらいだから、なんか毎夜毎晩パーティ開いたり遊郭で女遊びに興じたりとか、そういう生活送ってるのかなとか思ってたんだけど。

と、思ったら、ダンテ兄さんいわく、そういう貴族もちゃんと(?)いるんだそうだ。
こちらのレオナルドさんは、貴族の中でも庶民派と言っていい人で、言ってみればこの人が特別なのだとのこと。

そしてダンテ兄さんは、この人の家とは何かと付き合いがあるそうで……今回みたいにお互い暇な日は、護衛を頼まれたりするのだという。

もっとも、それなりに腕に自身があるらしいレオナルドさんは、護衛なんて要らないってたびたび言ってるらしいんだけど、そこは貴族なんだからきっちりしないと、ってことで家の方から言われてるんだそうだ。

そして、
もう1人……ダンテ兄さんの他に、レオナルドさんの護衛としてついている人がいた。

『お暇なら一緒にどうです?』というレオナルドさんの誘いに乗り、一緒に歩くことになった僕ら。
そのグループ総勢6人の、一番前を歩いている女の子がいた。

……いや、女の子って言っても、見た目は『女の子』でも、その中身は僕より断然年上であり……っていうか、

僕の『姉』なんだけども。

「……? 何だおいミナト? あたしの顔に何かついてるか?」

「え? いや、その……何でも」

僕の視線に気付いて、振り返るなりそんなことを言うこの子。
繰り返すが、僕の姉……キャドリーユ家の『次女』である。

名前は、キーラ・テイラス。

色黒の肌に、セミロングの金髪、そして、顔も体もどう見ても小学生くらいにしか見えない幼児体型が特徴である。ランドセルとか背負ってたら完璧だろうコレ。

直感的に僕が何か失礼なことを考えていると悟ったのだろうか? ジト目に口を尖らせて、完璧なまでに小学生的な『ムカッ』とした表情である。
そして残念なことに、凄みは微塵もないのだった。むしろかわいい。

「ホントかぁ? 何か失礼なこととか考えてないだろーなー?」

そして、何か微妙に口が悪いみたいだこの子。

「いや、ただほら、ちょっと気になっただけだよ。キーラ姉さんも、ダンテ兄さんと同じ『ドワーフ族』なのに、何だか随分雰囲気違うんだな、と思って」

「? どーいうことだよ?」

「前に読んだ本で、『ドワーフ族』って色黒で背が低い種族だって書いてあったからさ。キーラ姉さんは正にそんな感じだけど、ダンテ兄さんは……まあ、これはむしろ初めて会った時に思ったんだけど……あんな感じだし」

これはごまかしのため……でもあるけど、ホントに僕が気になってたところだ。

僕が前世でよく触れたファンタジーの世界で、『ドワーフ』といえば背が低くて力もち。それでいて手先が器用な工芸・鍛冶の専門家、っていうイメージだった。

実際、キーラ姉さんはそんな感じだし、手先も器用らしい。

そして護衛として戦うために持ってる武器は、背中に背負った巨大な斧。
自分の身長くらいありそうな、どう見ても10kgや20kgじゃない重さの戦斧だ。

それを背負いながら、重さを感じていないかのような軽やかな足取りで歩いている。

おまけに職業を聞いてみると、『料理人』とのこと。
器用さ……と関係あるかどうかはわからないけど、大したもんである。

それに対してダンテ兄さんは、手先の器用さ(医者だし)は共通してるものの、ガチムチと言っていい筋肉質ボディ、180はあろう高身長と、だいぶ違う。

いや、キーラ姉さんがこのマッスルボディ持ってたらそれはそれで怖いんだけど、これって個体差の範囲なのかな?

すると、『あーそういうことな』と一応納得し、僕の失礼な脳内言語についてはひとまず流してくれたらしいキーラ姉さんの説明が入った。

「まあ、おおむねその認識で間違ってねーよ? もともとドワーフ族は、あたしみたいな体型のやつらがほとんどの種族だし。ダンテのあの体格は、混血の結果だな簡単に言えば」

「混血?」

「そ。長い年月と歴史の中じゃ、ドワーフ族の中にも外部から多種族の嫁や婿をとった事例もあるんだよ。その時の血が色濃く出ると、こんな感じになることがあるわけだ」

「こんな感じとは何だ、姉貴」

ため息混じりに返すダンテ兄さん。なるほど、そういうことなのか。
ダンテ兄さんのこのマッスルバディは、多種族の遺伝子によって身長にボーナス補正がついた結果である、と。

すると、傍からそれを見ていた2人の護衛対象、レオナルドさんがおかしそうに笑っていた。

「相変わらず仲がいいようだな、ダンテ、キーラ」

「あ、すんません、騒がしくしちまいまして」

「構わんさ、仲のいい兄弟姉妹というのは、見ていてほほえましいものだからな」

そう言って笑うレオナルドさん。
やっぱこの人、けっこうフランクだな。貴族だからって威張り散らすような感じも全然ないし、さっきからの露店その他に対しての態度を見る限り、むしろ寛容?
普通に世間話とかしながら買い食いしてるし。

事前にナナさんから聞いてた『貴族』像とはかなり違うけど、まあ、人格者である分にはいいことだし、別に気にするようなことでもない……かな。

そして社交性もあるっぽいな、初対面である僕にも、積極的に話しかけてくる。それでいてしつこいとかうっとうしい感じもしない。

人付き合いが上手い人なのかな、レオナルドさんて。

「レオナルドさんて、よく散歩とかするんですか?」

「ああ。家の中にいると体はなまるし、暇で仕方がない。こうして大通りを歩いて、町の活気に触れながら買い食いしたりするのが楽しみでな。もっとも……仕事も忙しく、中々外に出られないのだが」

「そうなんですか……」

……あれ? さっき、三男だから家業とかにもノータッチだし、暇で時間ある、みたいなこと言ってなかったっけ?

三男といっても、やっぱり仕事そのものはあるのかな? 程度の問題だって、単に基準の違いってもんがあるのかもしれないし。

すると今後は、レオナルドさんの方から僕に聞いてきた。

「ミナト殿から見て、この町……いや、この国はどうだ?」

「はい?」

「率直な感想を聞かせてほしい。どのような印象を受けた?」

……いきなり何だろ?
貴族だけあって、印象や評判みたいなのも気にするのかな?

いやまあ、感想くらいなら別にいいけど……

「まだペーペーなんで、ここ以外にはウォルカくらいしか大都市も知らないんですが……それでもいいですか? 偏見混じりかねませんけど」

「もちろん構わんさ。そういったケースの人の立場の意見としていただこう」

「そうですね……単純ですけど、やっぱり物流の多さと多彩さにまずびっくりしました。まあ当たり前なんですけど、ウォルカや他の町とはまた違ってて。それに……」

「それに?」

「なんだか、ウォルカとはまた違った感じのにぎやかさというか、発展具合というか……上手く言えないんですけど、そんな感じもしました」

繰り返しになるが、ウォルカだって十分栄えていた大きな町だった。

何せ、冒険者ギルドの『本部』がある=低ランクから高ランクまで、何千何万人もの冒険者がその町を訪れる。町に住んでいる者もいれば任務で立ち寄っただけの者もいる。最近はじめの一歩を踏み出した初心者もいれば、何十年も経験を積んだ老練までいる。

それら冒険者が、冒険の準備やひと時の娯楽のために町で金を使う。
武器や防具はもちろん、回復薬ポーションや携行可能食料もかなりのハイペースで売れるし、危険区域で取れる鉱石なんかや魔物の素材もかなりの量流通する。

そしてそこでビジネスチャンスをモノにしようと数多の商人・商会が町に旗を掲げ、ある者は成功し、ある者は失敗し淘汰される。
その結果、より優秀な商人・商会が町には残り、高品質な品物が出回る。

そんな、冒険者でもない部分まで弱肉強食が徹底した町だ。やや強引さが否めないとはいえ、そりゃ成長・反映するってもんだろう。

おまけに、その町で『ギルドマスター』……事実上の町のボスの座にいるのは、あのアイリーンさんである。実力はもちろん、実績もカリスマも他に類を見ない超指導者。そんなビッグネームがいるとなれば、箔がつくどころじゃないだろう。一部じゃ、王様よりアイリーンさんを重要視・神格視してる人達もいるみたいだし。

けどこの王都は、それとはまた違った背景を持ち、そしてそれを武器に大きくなった町だと言えるだろう。

国の指導者『国王』が座し、行政の中心であるこの町には、その縁で集まってきた、また別なにぎやかさというものがある。国の中心……権力も財も否応無しに集中する場所だから、こちらも必然的に成長するってもんだ。

『ウォルカ』とはまた違った発展都市。

『ウォルカ』が、ギルド本部やアイリーンさんの存在と言う『武勇』によって人が、物が集まった大都市とするなら、『ネフリム』は国王や貴族、行政府なんかの『権力』に付随する色んなものが集まった大都市といえるかもしれない。

たぶん、にぎやかさの種類が違う、ってとこじゃないかと思う。そんな感じが、なんとなくこの都市の空気から感じ取れた。

もっとも、それを性格に論舌で表現できるほど、僕の語彙力はないんだけど。

それを意識してあらためて見回してみると、なんか微妙に並んでる店の種類も違っている……ような気がする。

冒険者の町である『ウォルカ』には数多くあった武器屋や防具屋、雑貨屋なんかがあまり多くない。というか、小さな規模の商店というものがそもそも少ない。

代わりに、『ウォルカ』にはあまりなかった店が多くあった。劇場や賭場なんかの娯楽系施設もそうだし、上品な感じの飲食店も多数。

また、さっきも言った通り小さな規模の商店はほとんどなく、代わりにコンビニ2・3件分はあろうかっていう規模の大きな店が当たり前に存在する。それも、かなり風格があるというか……老舗って感じがする店が。
もっと大きな店もある。スーパーマーケット級の店が。

さすがに複合ショッピングモール級の店はなかったけど、それでもどこもかしこも偉い規模の店が普通にあった。

……ここまでの規模だと集客率もすごそうだし、常連を相当な数確保してると思う。

というかここまでとなると、さすがに色々と違いすぎて、『ウォルカ』で起こるような淘汰合戦が成立し無さそうだよな……。小さな店が出来た所で、よっぽどの商売戦略か目玉商品でもなきゃ、相手にもされない感じだ。

これってひょっとして、権力・権威を重視する傾向が強い町だからとかだろうか。顧客も固定気味、下手したら世襲気味で代々ごひいきになさってたり……ありそうだ。

それって……うーん、どうなんだろう?

この町が発展してきたプロセスを考えれば自然かもだけど、停滞を誘発するような構造になってそうな気もするな。昔からの老舗だけが現状維持でどかっと君臨してて、『ウォルカ』であるような商人同士の熾烈な生存競争がないと思われる。

老舗のプライドもあるだろうし、全くないっていうわけじゃないと思うけど……言ってみれば食うか食われるかの戦場で切磋琢磨しながら顧客獲得に励んでいるウォルカと違って、成長力に乏しそうな……とか感じるのは僕の偏見だろうか?

それに、大企業レベルの商会だけがあるとなると、小さな商会・商人の競争力も圧倒的に足りなくて進出が難しいし……なんか談合とかも所々起こってそうだし……

……と、気がついたらガラにもなく評論家じみたことを長々としゃべってたらしい。
やべ、レオナルドさん達置いてけぼりにしてたかな?

しかしレオナルドさん、特に気にした様子無し。

「……いやあ、これは驚いた。その年で随分と深い考えを持っている。物事を客観的かつ正確に捉えることが出来ているし、考察も興味深いものだ」

「いや、そんな……ただの率直な感想ですよ」

「謙遜などいらんさ。ふむ……なるほど、聞いていたよりもだいぶ博識な部分もあるようだ」

「はい?」

聞いていた……ってーと? もしかして、ダンテ兄さんあたりからかな?

「ん? ああ、そんな所だ。弟自慢を少々な」

……なんだか、間とか色々微妙に気になる反応をレオナルド氏に見た、その時、

「「「――ん?」」」

僕ら全員が、ほぼ同時に『その気配』に気付き、わき道の方に視線を向ける。

大通りからそれ、裏通りにつながっているらしい道から……見た目は一般人だけど、何だか動きとか雰囲気とか、何だか明らかに一般人じゃ無さそうな1人の男が出てきて……こっちに向かって走ってきた。

思わず身構える僕らだけど、それを兄さんが手で制した。

「?」

僕とナナさんが頭に『?』を浮かべている間にその男はこっちに来て、なぜかレオナルド氏の所へ。
そして、何事か耳打ちする。

その際、一瞬レオナルド氏の眉がひそめられたかと思うと……こっちを振り向き、

「……すまないが、少し寄り道したい。構わないか?」

「「「……?」」」


☆☆☆


ウォルカ同様、王都といえど、清潔できらびやかな面だけであるというわけではない。
裏通りに入れば、やはり貧民街スラムなど、あまり好ましく思えない部分も当然ある。外見的にも、内面的にも。

その1つが、裏通りをかなり奥に行ったところにあった。

日の当たりも悪く、敷地面積もかなり制限されているところに、無理矢理立てられたような屋敷だ。大きく立派ではあるが、激しく場違いである。

もっとも、それに文句をつける……つけられるような輩も、ここにはいないのだが。

この屋敷を立てたのは、王都のある高名な貴族。
裏社会に通じるその貴族……シルドル家が、人目を気にして表立っては出来ないような談合などを行うために構えた、闇の拠点である。

主に違法な薬物や奴隷の取引、他の貴族や官僚を貶めるための策略を練り、実行するときなどに使われる屋敷だ。

そこで、今日もまた……その屋敷の主による、清楚かつ荘厳な王都のイメージからはかけ離れた、下劣な内容の談合が交わされていた。

屋敷の一室。応接室と呼べるのであろう、やわらかそうなソファや高価そうな調度品が、まるで自慢でもするかのようにあからさまにいくつも配置された部屋。

そこに、バスローブを着てソファにどっかと腰掛けている、いかつい顔の壮年の男。
高そうなワインを、これまた高そうなワイングラスについであおっていた。

しかし、風呂上りの一杯を楽しんでいる、という雰囲気ではない。

その眉間にはしわがより、手元の何らかの書類を覗き込んで不機嫌そうにうめいていた。

その男……シルドル子爵に、おそるおそる、といった感じで、つまみの置かれたテーブルを挟んで、対面する位置でソファに座っている、中年の男が口を開いた。

「今月の収益はこれほどになります」

「……ちっ、これだけか? また前月を大きく下回っているではないか」

「はっ、も、申し訳ありません……資金繰りや値段の交渉は上手くやったのですが、取引の規模や数自体が減ってきておりまして……」

「最近幅を利かせてきた、例の新入り連中のせいか……くそっ、忌々しい。先の一件で、表の方でもやりづらくなってきた所だというに……」

面白く無さそうに、グラスのワインの残りを一気にあおる。
すかさず、後ろに控えていた侍女がワインを継ぎ足す。

くそっ、と悪態をついた拍子に、口の中に僅かに残っていたワインや、口の傍についていた食べ残しのようなものがテーブルや床に飛んだ。

その脳裏には、約1ヶ月前の『表』でのとある失敗が思い出されていた。

『カーンネール海賊団』。海軍や商船保有の商人など、海に関わる者仕事を持つ者なら、誰もが知っている悪のビッグネーム。

それを討伐したという名誉欲しさに、その『英断』と、その際の手柄も責任も全て自分に降りかかるようにした細工。

それがしかし、最悪の形で自分に帰ってくることとなった特大の失敗を、シルドル子爵は思い返していた。

『黒獅子』ことミナトによるその大失敗を始めとして、最近、シルドル子爵の身にはろくなことが起こっていなかった。

随分前から続けている裏取引の業績はここの所悪化の一途をたどり、収益は今言っとおり、順調だった頃から程遠いことになってしまっている。

それに伴って自分から離反するものも多くなった。
その中には置き土産とばかりに、自分の裏の顔を各所で暴露したり、情報屋に売ったりする輩も出てきていて、その始末に追われている。

そして最近は、それに追い討ちをかけるように、それらの情報から自分を怪しむ官庁からの捜査員その他への対応も忙しい。
賄賂が通じる者、通じない者を見極める作業も含めて。

「ちっ……ふざけおって。今日も傘下の店に立ち入り検査があったのだぞ、どの稼業も、ますますやりづらくなっていく!」

 つまみのピーナッツ(のような豆)をぼりぼりとほおばりながら、子爵は忌々しそうにする。

「この前も軍の査問委員会に呼ばれたと思えば、『チャウラ』での一件を理由に資格を2つも剥奪された上に、海軍監査顧問を暫定といえ解任された! 忌々しい……失敗の1つや2つ、今まで私が成し遂げてきた功績に比べれば些細なものだというのに!」

「最近では、裏社会での動きがなにやら活発化している兆しがあるとの理由で、軍や政庁内外の規範を、騎士団のドレーク総帥が率先して引き締めにかかっています。今以上にやりにくくなる可能性を否定できませんね……」

「全くもって忌々しい! 暴れるしか脳のない軍部のサル共が……我々のような優秀な文官がいるからこそ国が回っているのだという事が奴らにはわかっていない! 全く、あのようなクズ共に必要以上に力を持たせて、陛下は何をお考えなのやら……」



『それが知りたければ教えてやろう』



「「――っ!?」」

突如、部屋に響いたそんな声。
必然、子爵やその部下の男、部屋にいた侍女までも全員、驚愕に目を見開く。今のは何だ、と。

一拍遅れて立ち上がった彼らは、困惑する侍女を部屋に残し、もたつきながら、窓を開けて外……広い庭に出た。
声は部屋に響いたが、部屋の外から聞こえたような気がしたがゆえに。

そして、急に動いたとはいえたったそれだけの運動で息が荒くなったシルドル子爵は、庭に目を向けてまた驚愕した。腰を抜かして、崩れ落ちそうになるほどに。


「もっとも、落胆と失望、それ以外に特に思うところなどありはしないがな」


なんとも堂々とした態度で、庭のど真ん中に仁王立ちしている、壮年の男。

しかし、子爵のようにでっぷりとした中年太りでも、部下の男のようにくたびれた様子など微塵もない……全身から威厳を感じる、全く別者のたたずまい。

周りには、3人の若い男女と、若くはないがふけてもいない男1人を従えている。護衛にも見えるその4人もまた、年齢的な要素は無いとはいえ、隙のないたたずまいだった。

しかし、
子爵が腰を抜かしそうになるほど驚いたのは……侵入者がいたからではない。

その侵入者が強そうな手下を従えていたことでも、全く気付かれずに邸内に侵入していたからでも、その侵入者が予想外に『イケメン』と『美少女』と『ダンディ』ぞろいだったからでもない。

……その侵入者が、ありえない人物、
子爵自身もよく知っている、そしてだからこそ、こんな所にいるはずのない人物だったからだ。



「へ……陛下……!? 国王陛下……なぜ、なぜここにっ!?」



そして、

(……マジで?)

その従者(仮)の中に、必死で顔に出さないようにしていたものの、十分驚いて面食らっている人物もいた。


☆☆☆


……いや、びっくらこいた。
王様って。まさかの国王陛下って。何この超展開?

ちらっと隣を見ると……あー、ナナさんも固まってるよ。当然だけど。


ナナさんやアクィラ姉さんから聞いて知っていた。
ネスティア王国国王……名前は、『アーバレオン・ネストラクタス』。

世間での評判なんかも足して考えても、いわゆる名君のようだ。誠実だとか、義に厚いとか、正義感が強いとか、国民にも大人気。悪い評判は聞かなかった。

だから、実際に会うことが決まってからも、緊張はしたけど、そこまで不安になることなくこの王都まで来れたんだけど……そんな噂の中に、1つだけ、気になる者があった。

噂というか、異名なんだけど、


『暴王』


そんな異名が、一部で囁かれていたのである。

聞いた感じ、いいイメージのわかない、なんか『暴君』とかにつながりそうなイメージの異名なんだけど……それがどういう意味かわかんなかった。

でも、その名前を聞いたの一部でだけだったし、おおむね評判はいい。姉さんからいい人だって確認も取れてたから、何かの間違いかあらぬ噂の類だろうと思ってたんだけど……その理由が、というか由来が、今わかった気がする。

僕の目の前で繰り広げられてる、この光景が何よりの答えだ。


「己の権力を乱用して私服を肥やすその所業、不届き千万! 潔く縛につけ!」

「え、ええい黙れ黙れっ! こ、こんな所に国王へいかがいらっしゃるはずがない! 騙されんぞこの偽者め!」

「し、しかしシルドル様! つ、つれているあの従者達、陛下が故意にしてらっしゃるダンテ医師と、その姉のキーラ殿では? こ、これはもしや……」

「うるさい黙っていろ! 大方、軍部のサル度もが私を恫喝するために雇った、顔が似ているだけの別人だ! おい者共、侵入者だ! こいつらを殺せっ!」

「……哀れな……」


……うん、よぉぉぉくわかった。
『暴王』って、『暴君』や『乱暴』、『暴虐』の『暴』じゃない。


……『暴れん坊』の『暴』だったんだ。


(……この人、ホントに王様なんだよね?)

(ホントに王様だ。……困った悪癖があるがな)

(それが、これ?)

(元騎士団所属の婿養子でな? その時から現場主義がずっと続いてるらしいんだわ……おまけに当事からのAAランクの実力がきっちり健在だから、余計扱いに困る)

なんちゅう国王様だ。

聞けば、悪徳業者や盗賊団の討伐なんかに一緒に行こうとして、騎士団に止められるってのが日常茶飯事らしい。

言えばきっちり言う事聞いて諦めてくれるし、注意すれば無茶もしなくなるからそこはまだいいんだけど……今回みたいに、お忍びで城下町を回ってたりする時に、密偵から情報が入ると、これ幸いと護衛引き連れて自ら率先して叩きに行くらしい。

そういや今回も、『手をこまねいていてはせっかくの証拠が逃げてしまうだろう!』とか言って強行してたな。

大昔のマケドニアとか戦国時代とかには、自ら先陣切って戦いに行く王様ってのもいたって聞いてるけど、そういう具合なんだろうか? そういうの、配下の人からしたら気苦労が増えるだけだよね? いくら強くても。

(それ俺も昔聞いたんだけどな……『それはすまないと思う。しかしはあえてやめない』とのすンばらしいお言葉を頂いた……あの時は思わずお袋とかぶったよ)

……苦労かけてるのも常識はずれなのもわかった上でやりたいようにやるってか。

(てかナナさん、一応元『王族直属騎士団』だったのに、気付かなかったの? 坊主頭なんていうわかりやすい特徴まであって……あ、もしかして何かの魔法?)

(認識阻害。それも、人物特定をあいまいにするタイプの)

……なんだろう、ここ本来、普通に接してた人がまさかの王様だったって理由でビビるべき場面なんだろうけど、脳が緊張することそのものを放棄しつつある。

レオナルド氏……もとい、アーバレオン陛下のあの性格なら、多分普通に接しても気にしないんじゃないかとすら思える。
や、一応敬語とかきちんと使うけどね? 今後も。

さて、三下共もぞろぞろ出てきたし――『出会え出会え』状態である――そろそろ時代劇よろしく、殺陣っぽいのが始まる頃だろう。

王様に怪我なんてされちゃ困るし、きちんと参戦しますか。

しっかしまあ、王都初日からぶっ飛んだ1日になったなあ……



ちなみにこの後の展開は、まさに時代劇よろしく僕らが無双するだけの展開になったので割愛。

王様、腰の剣で戦ってたんだけどAAランクだけあってホントに強かった、とだけ言っておく。主犯格数人だけは、きっちり生け捕りにして。
……護衛、いらなくない?



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