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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第6章 幽霊船と大海賊の秘宝

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第97話 『邪香猫』の船出

今回が第6章の最終話になります。

感想は時間見つけて返信するつもりです。
ご容赦ください。

では、第97話、どうぞ。
 

 『幽霊船』騒動が収束してから、今日で2週間。
 予定を大幅に伸ばして、僕らはこの『チャウラ』に滞在していた。

 騒動のせいで一時取るのが中断された『蒼海鉱石』を取り尽くすため……ってのもあるけど、それともう1つ。

 
 姉さんの説得により、一応『お試し』ではあるけれど、新たに僕らのチームに加わることになったミュウちゃんの身支度その他をすませるために、時間が必要だったからだ。

 
 町外への知名度はそれほどでもないものの、『マリアナ亭』の看板娘と言ってもいいミュウちゃんであるため、この店を、この町を出るということに残念がる人も多かった。

 けど、そこは何というか、娘を送り出す親の心境であったらしい。かわいい子には旅をさせよ的な思考を経て、送り出すことに決めたようだった。

 その際、『娘をよろしく頼む』だとか『うちの子を泣かせたら承知しないぞ』みたいなことを、結構な人数の漁師・海女さんたちに言われた。ミュウちゃん、愛されてるなあ。

 そんなわけで、かなり長めに準備期間をとって僕らは準備することにしたので、通算で1ヶ月ほどもここに滞在していたわけだ。

 
 ……そして、

 その間僕は、ただミュウちゃんを待って時間を潰していたわけではない。

 色々と……好きなように動かせていただいた。

 ……この1ヶ月弱の間に見聞きした色々なことは……僕の知的好奇心を刺激してしょうがなかったんだよ……ふっふっふ……。

 
 ☆☆☆

 
 そして、
 いよいよ『ウォルカ』への帰還を明日に控えたある日のこと。

 いつも通り、エルクたちと一緒に僕らが行っている『特訓』の場に……数日前から、ミュウちゃんも参加している。

 といっても、ミュウちゃんは本人の希望通り、基本的な&まともな魔法の訓練を行っており、僕の『非常識魔法』(命名・エルク)の練習はしてない。
 してないけど、隣で見てる。見学してる。

 そして、

「……えーとですね」

「……何?」

「エルクさんが、私とお兄さんを引き合わせたくないと思ってた理由が、コレを見るとよーくわかる気がします。……手遅れですけど」

「ね、言った通りだったでしょ? ……手遅れよ」

 その特訓を見て、こころなしか遠い目をしながらのミュウちゃんと、全身から『だから言ったのに……』的な空気を漂わせているエルクとの会話である。

 その視線の先には、

 
「『ドライカーペット』!!」

 ザリーが細かい大量の熱砂を地面に噴き付け、それに水を吸い取らせて草を枯らし、水溜りを干上がらせ、その範囲内の地面を一瞬で晴れた日の学校のグラウンドのように乾燥させる砂魔法を放ち、

 
「『イグナイトローズ』!!」

 シェリーさんが木偶人形(マルラス商会提供)を炎を帯びた剣で真っ二つにした……次の瞬間、斬撃の瞬間に刃からはがれた何枚もの魔力の層が爆発的に発火し、切り口からまるでバラの花のように爆ぜ、粉々にして焼き尽くす……という技を華麗に決め、

 
「『フルバースト・シュート』!!」

 ナナさんが『ワルサー』から大威力の魔力弾を放ち……それを、前方に5枚ほど並べて発現させた魔法陣を打ち抜くように通過させ、そのたびに魔力と威力を増し、最終的にできたとんでもない威力の魔力弾が、的の木偶人形を周りの地面ごと吹き飛ばし、

 
「……さよなら、普通の冒険者人生」

 エルクが何かを諦めたかのように、切なげにつぶやいた言葉は、朝のさわやかな空気に溶けて消えた。

 

 とまあ、こんな風に、僕らチームメンバーの魔改造はすこぶる順調です。

 こないだ、『蒼海鉱石』の品質チェックがてら様子見に来た姉さんが、これと似たような光景を見て、『ちょっと目ぇ離した隙に……ナナは何しとったんや!』って、かすれた声で言いながら膝から崩れ落ちてたことからも、それがわかります。

 いや、もうね。この非常識魔法の特訓……王都の兄さん達から警戒されるレベルにすでになっちゃってんだから、どうせなら開き直っていけるとこまでいっちゃおうと思って。

 近いうち、ミュウちゃんもたぶんここに加わります。そこんとこよろしく。

 
「しかし、ゆくゆくは私もああなるのかと思うとなんとも……お兄さん? 何してるんですか?」

 と、
 遠い目で『特訓』を見ていたミュウちゃんだが、ふと、僕が手に持ってみているものに気付いたらしい。

 隣のエルクも一緒になって、僕の手元を見て……そして一瞬後、納得したような表情になる。
 僕が持っているものが何かと、それを持って僕が何を考えてるか、を理解して。

 先に言っておくと、ネタ帳という名の魔改造ノートではない。
 持ってるのは、2つ。

 1つは、この国『ネスティア王国』の地図。
 王都『ネフリム』に、冒険者ギルド本部がある大都市『ウォルカ』、今いる『チャウラ』や、今まで言ったことがある『ミネット』や『トロン』、さらには『真紅の森』や『花の谷』などの地名まできっちり示された丁寧な地図。

 もう1つは……数日前にスウラさんから貰った、軍に届いた、最近の船舶襲撃事件の報告書。原本じゃなく写しだけど。

 その2つを見て、エルクは僕が眉間にしわを寄せている理由を……数日前、自分も一緒に行った『検分』の記憶と結び付けて、きっちり理解した。

「……ミナト。やっぱ、気になる?」

「そりゃあね。もうたぶんこの辺にいないってのはわかってるけど……それでも、さ」

 ぱらぱらと資料をめくる僕は、コレを渡されてから幾度となく読んだ、報告書の中の一節に、再度目を通す。

 それがあるのは、スウラさんが『幽霊船は複数いる』と推測するきっかけになった、ここ最近の船舶の襲撃状況を纏めた報告部分。

 そのうちの『5つ目』、魔物の襲撃が示唆される件だ。

 ところで、どういう方法でやったのかしらないが、僕の手の中の『写し』は、まるでコピー機にかけたみたいに、原本であろう書類を見事に『そのまま』コピーしてあった。文字の形や、筆圧の強弱、インクの種類によるものであろう、微妙な色の濃淡まで全部。

 それゆえに、僕が注目しているその一節が、後から書き足されたものであろうことも、その筆跡やインクの濃さなんかからよくわかった。

 ただし、僕が問題にしたいのは、書き足されたということではなく……その内容だ。

 『5番目』の文面に続ける形で書かれたその内容というのは、

 

『追記。
 乗組員は全滅していたが、捕虜と思しき数名の女性が生存していたため、落ち着いてから話を聴くことに成功。
 襲撃は夜間だったためよく見えなかったとのことだが、襲撃者は黒い大柄な体に、黄色または金色の刃物のようなもので海賊達を切り刻んでいたとのこと。
 唸り声が聞こえたとの証言や、噛みつき痕などが死体や船内の損壊部分に認められたこと、また、尻尾の映えたトカゲのように見えたなどの証言もあることから、やはり襲撃は魔物の類によるものではないかと考えられる』

 

 ……トカゲ。
 黒い、大きなトカゲ。人間と間違うくらいだから、2足歩行。
 黄色または金色の刃物……おそらくは、爪。

 この内容から、僕の頭に浮かぶのは1つだけ。

 そして、
 それに関連してもう1つ……最近、決定的にこの予想を裏付けるものにも出会っていた。

 あの晩……そう、アクィラ姉さんがたずねて来た、そして色々と話した晩だ。
 帰り際にアクィラ姉さんに、さりげなく、しかしとんでもなく気になる話を聴かされたのだ。とんでもない懸念事項を。

 
 最近、『ある魔物』の目撃情報が、この近くで上がったと。

 そして、ここに来る途中、その魔物が一時期住処にしていたかもしれない洞窟を見つけたから、見に行ってみてはどうか、と。

 それを聞いた僕は、翌朝早くに、姉さんから聞いたその海岸沿いに行って大部町から離れた所にある洞窟に行ってみた。

 おそらく、随分まえに引き払った上、海からの潮風が吹き付けるからだろう。
 その洞窟に残っていた『匂い』は、酷く希薄なものだった。

 しかし、間違えようもないものだった。

 そしてその日、スウラさんから『写し』を貰い、この記述を確認して……僕の中で立てられていた『嫌な予感』は、確信となった。まあ、洞窟見た時点で確信してたけど。

 
「……やっぱ生きてたか……あのトカゲ」

 
 『ディアボロス亜種』。

 忘れもしない、『花の谷』で戦った、推定AAAの怪物。洋館を出て最初の、超のつく『強敵』と呼べる存在だった魔物だ。

 最終的には勝ったし、『ダークジョーカー』を発動してからはけっこう一方的な戦いが出来たとはいえ……そこまではほぼ互角だった。

 大型の魔物も、打撃点を選べば一撃で殺せる僕の拳を受けて、平然と立ち上がるわ反撃してくるわ、

 剣も刺さらない僕の体でも、直撃したらタダじゃすまないであろう威力の攻撃を平然と、しかも機械みたいな精密さと共に繰り出すわ、

 フェイントなんてものを使い、さらには戦いの最中に僕が使った格闘技能を即座に学習して体得できるような知能があるわで……とにかくとんでもない敵だった。

 何度かヒヤッとした瞬間もあったし、油断して戦えるような魔物では絶対になかったことは確かだ。

 そんな怪物が、この近くで最近目撃されたという情報。

 そして、姉さんに聞いた洞窟。
 そこには……まぎれもなく、あのトカゲの匂いが残っていた。

 おそらく、スウラさんの資料の最後の襲撃報告……約2ヶ月前(今から2ヶ月前=僕らがこの『チャウラ』に来るさらに1ヶ月前ってとこだ)に起こったと目される『5件目』は、こいつによるものだろう。

 僕との戦いに敗れたあのトカゲは、川に流されて沿岸部まで来た。
 そこで傷を癒してから、移動を開始。

 地図を見るに、あの『花の谷』を流れる川の河口は、ここからかなり東にある。
 そこから移動してきて、ディアボロスはここに住み着いた。

 船を襲撃したのは、その滞在中だろう。海の散歩中に見つけて、興味本位で乗り込んだら攻撃されたので、遠慮なく全滅させた……とかかな?
 乗組員がアンデッドにならなかったのも、こいつに殺られただからだろう。

 そして、この地を去った。
 ひととおり暴れて気が済んだからか、ただ単に飽きたからかは、わかんないけど。

 ……洞窟のにおいの風化具合や、姉さんに聞いた目撃情報の分布からして、おそらくここを去ってから1ヶ月ちょいってとこだろう。
 ニアミスしてたのか……僕ら。あの化け物と。おっそろしいな……。

 で、僕は地図片手に、あの化け物があのあとどこに行ったのかとか考えてたんだけど……行動パターンもわかんないのにそんなことわかるわけもない。

 ただ、アイリーンさんの話がただしければ、『花の谷』方面に戻ることはおそらくないだろうと思われるけども……いや、そんな正確な地理や方向感覚があるとも限らないし……

 そもそも、どこに現れた所で厄介なことになるのは変わりないし……もしまた僕らの目の前に現れたなら、その時は……戦闘は避けられないだろう。

「そうなったら厄介よね……ミナト、何とかできそう?」

「まあ……たぶん」

 ノエル姉さんの修行で、あの時よりも僕は強くなった。
 けど、油断なんてもんは絶対に出来ない。

 忘れちゃあだめだ。あの時戦ったあいつが……まだ子供だったってことを。

 野性の中で生きる動物の成長速度ってのはとんでもない。人間みたく、1から10まで親の保護がないと生きていけないなんてことはない上に、凄まじい速さで肉体は強靭になり、知能も高くなっていく。

 ましてやあいつは魔物、そして『龍族』なんていうとんでもない種族なのだ。その成長速度は正直、予想するのも難しい。てか無理。

「っていうか、成長してなくてもあれ、推定AAAでしょ? どっちみちミナト以外に相手できないのよね……」

「まあ、遭遇したらその時は僕が相手するつもりだけどさ」

 できれば、出会いたくなんかないけどもね。

 

 そのあとしばらく『訓練』が続けられ、
 それを中断して休憩していると、

「そういえばさ、ミナト君」

「うん?」

「昨日の夜……シェーンちゃんとミュウちゃんと一緒に出かけてたよね? あれ、どこ行ってたの?」

 ふと、ザリーが思い出したように言った。

「ああ、言ってなかったね、そういや」

 その会話が聞こえたのか、汗の始末をしていた他のメンバーも興味ありげに集まってくる。特に、シェリーさん。

「え、何々? もしかして逢引? 私達というものがありながら」

「あんたの思考はすぐそれか。……で、どこ行ってたの?」

「んー、ちょっと海まで……ミュウちゃんを甘やかしに」

「「「は?」」」

 その瞬間、眉間にしわを寄せた彼女……エルクは、おそらく悟ったのだろう。
 『あ、コイツ早速何かやらかしたんじゃね?』と。

 ……結論を言おう、あたりである。

 
 ☆☆☆

 
 『召喚術』。
 ミュウちゃんの使える数種類の魔法のうちの1つであり……今現在、僕が最も興味をそそられる不思議魔法である。

 事前に『ネクロノミコン』で予習した所、その概要はこんな感じ。

 召喚術ってのは、契約によって魔物や精霊を使役して戦わせたり移動用に使ったりする、行使そのものに特殊な才能が必要な、極めて特殊かつレアな魔法。

 そして、その『契約』には、2通りやり方がある。

 1つは、瀕死状態もしくは死んで間もない魔物に、魔力を与えたり、後者の場合は魔力で仮の魂を作るなどの方法で蘇生させ、自分の下僕として使役する。

 知能の低い魔物を使役する時や、ただ単に戦闘用の下僕として魔物と契約する時によく用いられる方法である他、偶然死にかけの魔物を見つけた時とかにも使える。

 欠点としては、もともとの魔物のポテンシャルにもよるけども、知能を高く保つことが難しく、複雑な作戦を理解できない。

 そしてもう1つは、魔物や精霊に了承を得た上で、協力関係ってことで結ぶ、友好的な契約。

 ある程度の高さの知能を持つ魔物にしか使えないものの、戦闘用にせよその他にせよ、1つ目の方法に比べて高い知能を保持したままで使役できるため、複雑な作戦行動を指示したりもできる。

 欠点としては、知能の高さや自我を保ったままであるがゆえに、1つ目ほど絶対服従させられないってことだ。
 実質、仲良くして言う事聞いてもらうしかない。

 どちらも一長一短。使い勝手の良さの種類が違う。

 さて、何で僕が今、このタイミングでこんなことを言い出したかと言うと……さっき僕が言った、ミュウちゃんを『甘やかしてきた』という発言の内容である。
 そして、エルクの予想というか懸念どおり、『やりすぎた』。

 ミュウちゃんが使える『召喚獣』は、2種類。

 1つは、ウェスカーと会ったあの晩見た、小鳥型の魔物。全部で4匹。
 で、もう1つは犬型の魔物。中型犬くらいの大きさのを1匹。

 小鳥は、たまたま見つけた死にかけの魔物を、犬型はシェーンがしとめた直後のを『契約』して召喚獣にしたらしい。どちらも1つ目の、絶対服従タイプの方法で。

 そんなミュウちゃんを、昨日一昨日と僕は連れ出して……思いっきり『甘やかした』のである。

 ……そういや、前にエルクに言われたことあったっけな。自作の、すごいレベル(エルク談)の魔法を、仲間とはいえ他人(自分)にぽんぽん譲り渡すのはどうなのか、と。

 まあ、その後すぐに僕が面白がってるだけだと理解されて脱力されたわけだけど……その時にエルクが、僕に対して述べた評価が、次のようなもの。

 
『敵に厳しく、他人に適当。味方に優しく、身内に甘い』

 
 うん、まさに至言だと思う。

 そしてその例に漏れず、今回僕がミュウちゃんを甘やかした結果どうなったかと言うと、

 
「えーと、『ネクロフィッシュ』に『スクゥィード』、それに『アーマードクラム』……こいつらをどうしたって?」

「えっと、ちょっくら海に行ってハントして、召喚獣としてプレゼントしました」

「あんた……」

 額に手を添えて呆れるエルク。

 彼女、および、僕らチーム全員の目の前には……新たに契約したそれた3種類(いずれも絶対従属型の『契約』)の召喚獣を従えたミュウちゃんが。

 彼女の右隣には、大きさ3mにもなろうかという巨大な2枚貝。おおまかに見て形状は楕円形で、見た目一発途轍もない強度・硬度だと思える甲殻。

 名前は『アーマードクラム』。見た目どおり貝の魔物で、移動は酷く鈍重だけども、土石流にさらされても割れない・砕けない殻を持つ鉄壁の魔物。
 ……いや、ホント硬かった、うん。てか『Clam(クラム)』って……ハマグリ?

 左斜め後ろには、それより巨大なイカの魔物。

 名前は『スクゥィード』。大きさは5mにもなり、触手は伸縮性がある。
 ……いや、厄介だった。リーチが長くて。こいつ長い手足10本もある上に、イカ墨に魔力混ぜ込んだ魔力の砲弾飛ばしてくるから。

 そして、右左と言わずその周囲には、骨だけの体の魚がふよふよと数匹浮いている。
 大きさは、アロワナくらい。言ってみれば、魚型の魔物のスケルトン、って感じのが、ふよふよと。その口元から、凶悪に鋭い牙を何本も除かせて。

 名前は『ネクロフィッシュ』。瘴気に当てられたとかの理由で、死んだ肉食魚の魔物がアンデッド化した存在。凶暴・雑食で何でも食べる上、水中に限らず空中でも泳げる。

「……こいつらを、仲間になった記念にプレゼントしたわけね……ミュウに。あんた」

「うん。あの、ほら。自衛手段は多いほうがいいしさ。安全面からしても」

「うそつけ。面白くなって調子に乗ったんでしょどーせ」

「えっと……ちなみに補足しますと、3種類ともランクBの魔物ですね。たぶん、このあたりの海域で見られる魔物のうちでトップクラスの危険度じゃないかと。『ネクロフィッシュ』だけはこのあたりには出ないはずですので……たぶん……」

「『幽霊船』の副産物、ってとこか……」

 今までよりも数段強力かつ殺傷力抜群の『召喚獣』たちを前に、唖然として固まるエルクたち。ぼそぼそと交わされる会話には熱がこもっていないのが哀れだ。

 まあ、僕のせいなんだけど。

 理由は今言ったとおり。
 冒険者である僕らに『仲間』としてついてくる以上、危険なことも色々あるだろう。

 そんな時に、きっちり自分の身を守れるようにする……っていう目的で、エルクやザリー、シェリーさんやナナさんは『特訓』を重ねて実力をつけ、オリジナル魔法でパワーアップしてるわけだけども、ミュウちゃんにもそれが必要だ。

 もちろん、地道な訓練もこの先続けていくことで魔法を基礎的な部分から理解し、地力を高め、オリジナル魔法も進呈するつもりである。
 兄さん達に睨まれようとも。もう割り切ったっていうか、開き直った。

 しかし、そうなるまで当面の力不足をどうにかしなきゃな……という問題があった。

 模擬戦を交えて検証したところ、ミュウちゃんは意外にも体力はあった。持久力も瞬発力も、下手な成人男性よりは上ってレベル。体小さいから身軽だし。

 けど、冒険者としてやっていくには不安が多々あった。魔法も多少使えるけど、実践レベルには悪いけど程遠い。初期のエルク以下だ。

 なので、実力をつけるまでの間、いざって時に備えるため、僕からプレゼントさせてもらったのだ。この辺で手に入る、強力かつ使い勝手のよさそうな魔物を。

 で、選んだのが……攻撃役の浮遊する肉食アンデッド魚『ネクロフィッシュ』、防御力抜群の壁役『アーマードクラム』、中・遠距離もおまかせの攻防一体の援護係『スクウィード』の3種類、ってわけ。ちなみに『ネクロフィッシュ』は4体契約した。

 もちろん、最終的にはミュウちゃんも、こいつらがほぼ必要なくなるレベルまで強くなると思うけど。
 あてずっぽうじゃなく、ホントにそう思う。

 あれからさらに『ネクロノミコン』で調べた結果わかったんだけど、『ケルビム族』は本当に優秀な種族であり、魔法が優秀な変わりに肉体的にひ弱、なんて弱点もない。

 人間なんかと同様、鍛えた分だけ強くなるし、魔力適正は最強ランクだ。前途有望この上ない感じだろう。

 そして余談だけども、東洋の国に渡った『ケルビム』は、その特異というか独特・神秘的とも言える魔法により、『呪術師』や『巫女』、挙句は『仙人』なんて呼ばれてたりもしたんだそうだ。

 このロリ仙人……もとい、ちっちゃな新メンバーが、これからどういう風に成長していくのかなんて想像もできないけども、とにかく楽しみである。

 

 ……ところで、
 実はもう1つ、ミュウちゃんにプレゼントした『召喚獣』がいる。

 ただこいつは、ミュウちゃんの護衛用ではなく……僕の完全な興味本位だ。
 ミュウちゃんに頼み込んで契約してもらった感じ。

 その契約した魔物がちょっと問題ある感じであり……実は、こっちの方がさっきの3種類よりよっぽどエルク達に怒られるんじゃないか、と恐々としているのである。

 そのことを話したら、エルク達はさらに不安そうな顔になりつつも、確認しないわけにはいかないので、覚悟を決めてミュウちゃんに『召喚』するように頼む。

 その際、僕はミュウちゃんと手をつなぎ……『他者強化』の応用でミュウちゃんに魔力を分け与える。大量に。

 実はこの魔物、ミュウちゃんは、契約できたはいいけど……いざ呼び出すとなると、ミュウちゃん単体の魔力じゃ呼び出せないのだ。魔力不足で。
 なので、こうして魔力だけは多い僕が協力しないといけない。

 なんじゃそりゃ、って話になるんだけども……おそらく、彼女1人で『コレ』を呼び出すようなシチュエーションはそうそうないと思うので、まあいいとしよう。とりあえず。

 ……そして、
 その『魔物』が……僕の魔力も大量に使ってミュウちゃんが作り出した、『召喚術』の魔法陣の中から、その姿を徐々に現していく。

 直径100mほどにもなろうかという魔法陣からにじみ出たそれは……

 
「……ミナト」

「何?」

「これなの? 契約した『魔物』って」

「うん。一応分類は『魔物』だからね」

「……そういや、そうだったわね」

「『契約』しとくと便利でしょ? 戦力にはならないけど、足代わりにもなるかもしれないし、野宿の必要も多分なくなるし、あと……なんとなくかっこいいし」

「なるほど、確かにそうね。あんたのセンスが多分に反映される『かっこいい』って評価についてのコメントは避けるけど、居住空間としてはまあ、一部環境さえ何とかすれば何とかなるし、使いどころを選べば移動手段としても相当優秀かも知れないわ。でも……」

 そこで、エルクは一拍置いて……

「……だからって……」

 額に青筋浮かべて……

 

「だからって『幽霊船』そのものと契約して使役させるバカがあるかぁぁあああ!!!」

 

 沈没地点まで行って、一応魔物として『瀕死』状態認定されてた『オルトヘイム号』とミュウちゃんに契約してもらった結果、大量の魔力の消費によって呼び出せるようになった『召喚獣・オルトヘイム号』を視界の端に捕らえながら……エルク渾身の鉄拳ツッコミで僕は宙を舞った。

 あ、ちなみに、相続権とか持ってそうなシェーンの許可は、一応取ってある。
 あと、中にあった人骨その他は、シェーンとミュウちゃんと一緒にきちんと埋葬して弔いました。シェーンの希望で、海がよく見える丘に。

 
 ☆☆☆

 
 そして、
 ひとしきりエルクに怒られ、ミュウちゃんともども『むやみに呼び出さないように!』と釘を刺された所で……僕らは、『チャウラ』の町を出る前に、冒険者ギルドに寄った。

 依頼完了の報告をするため……ではない。
 それはすでに、一応の期限だった『2週間』の時点で済ませてあるから。

 今日僕らがここに来たのは、今までしようしようといいつつも、何かと忙しかったり忘れてたりしたためにしてこなかった……『チーム登録』のためである。

 ちょうど新メンバー(暫定)も入ったところなので、忘れないうちにやっちゃおう、ってことで、メンバー全員でここに来たのだ。

 受付のお姉さんに事情を説明し、『チーム登録』の申込用紙を貰う。
 そしてそこに、必要事項を記入。……つっても、3つしかないけど。

 まずは、メンバー全員の名前、ね。

 冒険者じゃないけど外部の協力者ってことで、ナナさんとミュウちゃんのを加えて、きっちり6人分、と。

 なお、一番上の『リーダー』っていう欄には、だいぶ前に僕に決まったため、僕の名前を書き込んでおく。

 次、どんな依頼を専門に受けるかは……特に決まってないから書かなくていいな。

 そして最後の記入欄。
 それは『チーム名』。これが一番迷った。決めるの大変だった。

 どんな名前がいいか、ってことでここ1ヶ月くらいずっと考えてたんだけど、いいの浮かばないし……候補として皆から出してもらいはしたけど、皆それぞれセンス違うし、ぜんぜん決まらなかった。

 エルクやザリーは、無難な感じの名前を提案するし……シェリーさんは遊び心満点のものを。ナナさんは軍属時代の感覚が抜けないのか堅苦しい感じになるし、僕はそういうのよくわかんないから上手く考えられない。

 結局そのまま次の仕事……『蒼海鉱石』の一件が来ちゃって、中断したままだったんだけど、こないだからまた考え始めた。

 しかし前世で、ゲームで使う主人公キャラの名前決めるのに最長30分くらいかかってた僕の優柔不断さはハンパじゃなく、全然決まらない。

 そんなある日のことだった。
 僕が、僕ら6人の『共通点』に気付いたのは。

 最初から、名前を決める手段として、メンバーの『共通点』を探すっていうのは考えてたんだけど、てんで見つからなかった。

 種族も戦闘スタイルもてんでバラバラ、使う魔法の系統や性格、趣味思考に得意分野も然り。

 が、何気ない雑談の中で、それは発覚したのである。

 

 きっかけは、エルクが最近、冒険者達の間で、身軽に動いて思いもかけない攻撃を鋭く繰り出すことから、『山猫』と呼ばれ始めた……って話を、ザリーに聞いたこと。

 なるほど、たしかにそんな感じかも、と思った。

 エルク、魔法を使えるようになったとはいえ、今も依然として身軽さを武器にした戦闘スタイルだし……最近きっちり鍛えられた足腰や体幹を生かして、足場がよかろうが悪かろうが楽勝で立ち回る。まさに、猫って感じかもしれない。

 と、そこで僕は気付いた。

 

(なんかうちのメンバー……『猫』関係の呼び名多い気がするな……)

 

 僕が『黒獅子』。
 シェリーさんが『赤虎』。
 エルクが『山猫』。
 ナナさんが『忠猫ちゅうびょう

 そして、ちょっと面白半分でザリーに聞いてみたら、その見た目に似合わない慎重さと狡猾さから、一時期『砂塵』と同時に『鬣犬(ハイエナ)』なんて呼ばれてたこともあったとか。

 ……漢字だと『犬』って字書くけど、ハイエナってネコ系です。

 情報とか手柄を横取りしたみたいなイメージがわく名前だけど、実際には機を見るに敏、ってことだろうと思う。タイミングを見計らって適切迅速に動くのが得意な奴だから。

 それと、あの晩ウェスカーから思いがけず聞いた、ナナさんの『忠猫』。
 あの後、ナナさんに意味を聞いた。

 曰く、男社会の軍において、任務には忠実ながらも、臨機応変で柔軟な対応を得意とし、任務を成功させるところを、男が『忠犬』と比喩されるのに対して、『忠猫ちゅうびょう』。犬って言うより猫って印象だったそうな。

 そして、ミュウちゃんにいたっては……普通に、っていうか実際に猫に変身するし、よく町の人に『日向ぼっこしてうとうとしてる猫っぽい』って言われてたとか。

 とまあ、『黒獅子』『山猫』『鬣犬ハイエナ』『赤虎』『忠猫』『猫(変身)』……見事に猫系で共通点。

 それをもとに、インスピレーションで僕が考えたチーム名は……おおむね好印象といった感じで皆に受け入れられたので、これに決定した。

 ちなみにこの名前の由来は、『猫』共通点のほかに、以前、宿屋のターニャちゃん――名前出すのすごく久しぶりな気が――に言われた、

『ミナトさん達ってさ、優しいのは知ってるんだけど……なんだか独特っていうか、危険な雰囲気とか、匂いっていうの? そういうのするよね。まあ、それがいいんだけど』

 ……っていう感想がある。

 エルクがそれを聞いて、『ま、こいつから危険人物の匂いがするってのは否定できないわね……』って言ってたのを思い出して、ちょっと参考にしてみようと思った。

 ……あとは、

 ちょっとだけ、母さんの昔のチーム『女楼蜘蛛』に、語感とか似せてみたかったから……っていうのも一応あるけど、ね。

 

 チーム名『邪香猫ジャコウネコ
 メンバー:6名

 リーダー:ミナト・キャドリーユ
 副 〃 :エルク・カークス
 メンバー:シェリー・サクソン
   〃  :ザリー・トランター
   〃  :ナナ・シェリンクス
   〃  :ミュウ・ティック

 

 ……さて、
 正式にチームにもなったし……うん、これからも、今までどおりに頑張るとしよう。

 
 
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