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第96話 『夢魔』
魔法大臣。
王国魔法部門のトップ。
魔法関連における膨大な知識と、他の追随を許さない卓越した魔法技能、そしてその証明となる数々の偉大な功績を残した者のみが座ることの出来る、頂点の椅子。
代々、1人で1軍に匹敵する超実力者がなるとされているその職だが、今代のその人は歴史上最高の実力を誇ると言われ、騎士団総帥、王国軍元帥とならび、王国最大戦力と称されるその人は……
「んー……面影はまあ、あるといえばありますけど……あんまり似てないですね、お母様には」
超至近距離で僕の顔を覗き込んでるんですが何この状況?
☆☆☆
アクィラ・ヨーウィー。
通称『燻天のアクィラ』。
ネスティア王国魔法大臣にして、魔法部門最高戦力。
確かに、ノエル姉さん達と同じ……しかし、奥深さでいえば姉さん達さえ超えかねない、実力者特有の圧力というか、存在感みたいなものは感じる。
……しかし、さっきからの印象が全て台無しにしているのである。
人んち(宿だけど)に来るなり居眠りするわ、自己紹介もそぞろに世間話始めるわ、何の前触れもなく唐突に観察始めるわ、挙句に報告書にあったメンバー確認して、さらにそこに『ケルビム族』が加わってるの見て謎の爆笑始めるわ……。
その姉さんなんだけども、何やら僕に用事があって来たらしいんだけど……それそっちのけで雑談を続けるうち、ミュウちゃんに気付いて、
そのミュウちゃんを、パッと見で僕らの新しい仲間だと思った姉さんに対し、ミュウちゃん自身が、さっき僕にも言ったようなやや自虐的な否定を述べたところ、意外そうな顔をしていた。
「そうなんですか? 仲もよいようですし、てっきり新しいお仲間かと」
「そうだったら嬉しいんだけどね」
「そうなれたら嬉しいのですがね」
「……意見が一致しているのにそうならないのがまず不思議ですね」
「というか、珍しいね。ミナト君が積極的に歓迎したがるなんてさ」
と、ザリー。ああ、確かにそうかも。
今までの仲間……ザリーもシェリーさんもナナさんも、いつのまにか仲良くなってて、そして向こうからアプローチしてきて……って感じだったから。
断る理由も無いし、僕も嬉しいから、受け入れて仲間に……って。
けど言われて見れば、今回はなんだか逆っぽくも見える。
ミュウちゃんはむしろ遠慮したいって言ってるけど、僕が乗り気で、むしろ積極的に勧誘してる……って感じ。
感覚としては……うーん……
町にいたときから通して仲良く話して、大一番の決戦では、力を合わせた術を使って、アイデアも出しあって共闘して……なんかもう、半分仲間みたく思ってたのかも。
けど別に、そのまま自然解散的に別れるなら、僕も何も言わずに別れたと思うんだけど……その後ちょっと詳しく話して、ミュウちゃん自身、冒険者に……もっと言えば、僕らの仲間になることに前向きなことを知って、ちょっと欲が出たのかもしれない。
なかなか気を許せる人が多くない、この業界。気が合う友達ってのは貴重だし……できれば一緒にいて、いつも一緒に笑っていたい、と、最近よく思う。
一方的な感情ならともかく、向こうも多少なりそう思ってくれてるなら、なおさら。
それに、ミュウちゃんは鍛えれば、そんな自分で卑下することもないくらいにきちんと実力つけるだろう、ってなんとなくだけど思ったのも、正真正銘の本音だし。
それらが、彼女と別れることに抵抗を持たせてたのかも。無意識で。
きっちり思い返して考えてみないと、全然わからない事柄だったな……きっかけをもらえてよかった。
……っていう内容の、僕の心の声は……どうやらまた微妙に口に出てたらしい。
はっと気がつけば、周囲から集まる様々な視線。
何だか面白いおもちゃでも見つけたかのような、ザリーとシェリーさんの、
何やらほほえましいものでも見るかのような、ナナさんや姉さんの、
嬉しそうだけど、ちょっとだけ気恥ずかしそうな、ミュウちゃんの、
そして……『やれやれ、しょうがないわねコイツは』とでも言いたげな、エルクの、
それぞれ何か言いたそうな、というか目で十分雄弁に語ってそうな視線だった。
「ふぅん……ミナト君初めて会った頃より、もしかして積極的になった、かな?」
「みたいね……ふふっ、でもやっぱり、ミナト君くらい優秀な男はそのくらいがちょうどいいわよね。もうちょっと欲張ってがっついてもいいくらいよ」
「すぐそういう、甲斐性とかに結びつけるのはどうかと思いますが……まあ、親しい人に、無用な遠慮をしなくなってきてるのは嬉しいですね、私としても」
「それぞれ好き勝手言ってくれるなーもー……エルクも同じ感じ?」
「んー……私は別に、驚きも喜びもしないわよ。あんたが、他人に迷惑かからない程度に思いつきの欲望に忠実だってことは、もともと知ってたしね」
そしてエルク、チラッと横目にミュウちゃんを見て、
「あんたがこの子……ミュウを仲間にしたいって思ったんなら、ちゃんと理由もあることなんでしょ。変な言い回しだけど、あんたの『思いつき』は、単なる『気まぐれ』とは違うから。少なくとも、私達とこの子、どっちかに迷惑になるとかいうものじゃないはず」
「あ、それには僕も同感だね。ミナト君、仲良くする人をきちんと選ぶし……その時に、そのへん特に重要視するから」
「確かに。相手がいくらかわいくても、真面目で一生懸命でも、私達にとって有益でない相手とは付き合いませんし……そもそも、付き合いたいと思うほど好きになりませんよね。真面目なもので、その逆もしかり……って感じですし」
「そゆこと。結局のところこいつは、単純な思いつきで行動してるように見えて、実はけっこう打算的な部分も持ってるのよ。そのミナトのお眼鏡に適ったんなら、ミュウと私たちがこれからも付き合ってくのは、私達にとって、決して損じゃないと私は思うわ」
そう、ナナさんとザリーの援護射撃も一部受けて、
エルクはミュウちゃんの目を見て、きっぱりそう言い切った。
最後に、『もちろん、押し付ける気は全然ないけど』と、きちんと付け足して。
そんな、自信たっぷりの宣言に、ミュウちゃんはしばし唖然としてた。
が、少しだけ時間をかけてその言葉を咀嚼し飲み込んだ後……ゆっくりと周りを、
自分に視線を向ける、仲良くなった僕らチームのメンバーを見渡す。
さっきと同じく多種多様な視線を感じたであろう彼女は、ちょっと困ったような、悩んでいるような表情を浮かべて、
「そこまで……」
「うん?」
「そこまで言われると……なんというか、私もちょっと、欲に負けそうになってしまいます……」
おっ、揺らいでる?
「困りました……ここまで言っていただけるのであれば、本音としては首を縦に振りたいのですが……仲間になっても、足を引っ張るだけだというのは目に見えていますし……」
「『今は』でしょ? それ。だったら、これから訓練でも何でもして、そうならないようにしていけばいいじゃない。ミュウちゃん才能あるし、きっと出来ると思うよ?」
「……それも、打算的な『思いつき』ですか?」
「多分ね。エルク風に言うなら、だけど」
「私も実際そんな感じだったしね。信じられる? 私実は、5ヶ月前までEランクだったのよ? こいつに見込まれた上で関わっちゃったせいで、こうなっちゃったけどね」
と、今度はエルクが、自分を指差して笑いながら、自虐(?)ネタでミュウちゃんに語りかけ……驚愕の事実を聞いたミュウちゃんは、いつも半開きの目を4分の3開きくらいにして驚いていた。
が、そこでエルクは……ふいに何か思いついたような表情になった後、唐突にこっちにジト目を向けてじろりと睨み、
「ただまあ、不安要素があるとすれば……それもミナトなんだけど、ね」
「? っていうと?」
「聴いた話じゃ、ミュウちゃんって亜人の古代種なんでしょ? それも、特殊な魔法をいくつも使いこなせるような……そんなのを目の当たりにして、こいつが果たしてその好奇心を暴走させないように我慢できるか、ってことよ」
「え? いや、割と我慢するつもりなかったけど」
「ないんかいっ!!!」
びしっ、と、
いい角度で、彼女の手刀の一撃が僕の脳天に直撃した。
うん、いつも通り。そして予想通りだ。
「……あのー……?」
「ったくやっぱりかコイツは……あー、ミュウちゃん? さっきはああ言っといてなんだけどさ、ちょっと待って。事前にこのバカに念入りに言い聞かせとかないと、入ってすぐさまこいつの毒牙にかかっちゃう可能性が非常に高いわ」
「おや? お兄さんもしかして……割と肉食系で? 身内には遠慮ないとか?」
「いや、いっそそうだったら、まだやんちゃとか健全とかいうセリフで説明できる分よかったかもしれないんだけど……」
「……???」
ちょっと意味がわからないっぽいミュウちゃんが首をかしげ、それ以外のチームメンバー全員が『あー……』って感じの顔になる。
……クリーム子猫モードで『特訓』でも見に来てたら、この意味わかったかもね。
そしてアクィラ姉さんは、おそらくノエル姉さんかブルース兄さんあたりから軽く僕の発明癖を聞いてたのか、『あらあら』みたいな顔。
特に呆れも危険視もしてないっぽいな。実力差から来る余裕が理由か……それとも何も考えてないか……
まあもっとも……エルクの懸念はもっともなんだけどね。自分で言うのもなんだけど。
実際僕がミュウちゃんを仲間にして一緒にいたい理由の一つは、彼女ら『ケルビム族』が使う異質な魔法技能の数々である。ちょっと気に入らないけど、さっきウェスカーに詳しい話を聴いてから、よりいっそう興味が増した。
普通の魔法使いでも似たようなことができる『金縛り』に『浄化』なんてものもあれば、他に類を見ない特異さの『未来予知』や『変身』、
果ては、なんかもう色々と試したいことが今から多すぎる『召喚術』なんてものまで……いかん、エルクの言うとおり、自分を抑える自信が今もうすでに無い。
ミュウちゃん自身と一緒に、学術的にも謎が多いらしいその技能を磨き上げ、鍛え上げ、研ぎ澄ましていく……ああなんて魅力的で有意義な時間になりそうな予感!
「ちょっとあんたすでに目が危ない! あの、アクィラさん? いらしていただいて早々に申し訳ないんですけど、お姉さんとしてこいつ叱っていただけませんか? 私達じゃ何言っても暖簾に腕押しなんです!」
と、早くも僕の心のうちを察知した我が嫁が、おそらくこの中で一番僕を止められる可能性があるであろう、一番上の姉に懇願するも、
「あらあら、ごめんなさいねエルクさん、うちの弟が。ミナト? あなたの性格はブルースから聞いていますから、彼女の能力に興味を示してやる気が出るのは仕方ないでしょうが、やりすぎて周りを困らせてはいけませんよ?」
「わかってるよ姉さん。ところでさ、召喚術ってたしか、死にかけの魔物とか精霊に何かして『契約』ってやつやると使えるようになるんだよね? 姉さんわかる? あと、この近くに強そうだったり、面白そうな魔物が出る所とか知らない?」
「舌の根も乾かないうちにあんたわ!!」
「『召喚術』ですか? それなら、私に聞かずとも、あなたが持ってる『ネクロノミコン』にも詳しいことが書いてあるかと思いますよ? それと面白い魔物なら、ここから東に30kmほど行った所に、最近たしか……」
「アクィラさんも! え、何普通に答えて火に油注ごうとしてるんですか!? こいつにそういう情報教えると危ないから止め……」
「そっか、そんなのもいるんだ(ガリガリガリ!)。じゃあやっぱり最初に(ガリガリ!)手つけるなら『召喚術』かなー、応用も効きそうな(ガリガリガリガリ!!)感じだし……」
「あんたどっから出したそのペンとノート!? しかもそれ、あんた愛用のあのオリジナル魔法考案用ネタノートじゃないのよ!? ってわあああ!? すでに2、3個ミュウ用の魔法のアイデア書きなぐられてるし! まさかの始まる前から手遅れ!?」
「あらあら、生き生きしちゃってミナトったら。さっきは似てないなんて思っちゃったけど、よくよく見ればこのはしゃぎ様、獲物を見つけたときのお母様にそっくりですね」
「前情報を聞く限り凶報でしかない!? てか、獲物って何獲物って!?」
「……占いでも、私の個人的な感情でも、お兄さんと一緒に行くのがよさそうだとは思ったんですが……何だか別な不安を感じます……」
むしろ倍忙しそうなエルクを見てか、なんだか額にでっかいマンガ汗を浮かべるミュウちゃんを尻目に、僕の頭の中のテンションはどんどん上がっていった。
するとそんな中、
唐突に姉さんが『あ』と何か思いついたような感じになって、表にまでにじみ出るエルクの疲労感を盛大にスルーし、視線を僕からミュウちゃんに移して口を開く。
「まあ、こんなわけですのでミュウちゃん、お互いに悪い気はしていないようですし……どうでしょう? お試し的な意味ででも結構ですし、うちの愚弟と少しの間行動を共にしてみては? ブルースの報告を聞いて推察する限り、おそらく損になるような経験はさせませんし……今ならもう1つ、あなたにとって好都合なこともついてきますよ?」
「? と、言いますと?」
? 好都合な点? ミュウちゃんに対して? 何だろう。
姉さんは僕らからの疑問の視線を受け、再び自分の視線を僕に戻すと、
「ええとですね、盛大に脱線したせいで忘れていたんですが……私、あなたに用があったんですよ、ミナト。それをまず話さないといけませんね」
「僕に用?」
「はい。ええと、どこだったか……あったあった、これこれ。ミナト、あなたにコレを届けて、用件を伝えて返事を聞いてくるために私が来たんですよ」
すると姉さん、手提げカバン(たぶん収納系)の中を少し漁って見つけ出したのは……封筒詰めにされている、一通の手紙だった。
A5くらいのサイズの、横長の封筒。色は上品な白で……いわゆる『封蝋』って奴で封をしてあるあたりが、なんだかファンタジーちっくな感じがする。
そしてもう1つ、封の部分に、何やら金色のインクで押された紋章みたいなものが……
そしてそれを見た瞬間、視界の端にいたナナさんがぎょっとしたのが見えた。えっ、何そのリアクション? どういう意味? 何がわかったの?
その答えは、ナナさんが口を開くよりも早く、もともと説明するつもりだったらしいアクィラ姉さんによってなされた。
それは……
「あなたへの『召喚状』です、ミナト。近いうちに、王都に来るように……と」
「……『召喚状』?」
「ええ。さ、どうぞ開けて確認してください、ミナト。姉さん、返事も貰って帰らなきゃいけないですから」
姉さんに急かされ、言われるままにそれを明ける僕。
すると、その中には……2つ折りにされた手紙が入っていた。
髪質もかなりいい上、細かくて美麗な絵がわざわざ描かれた、見た目一発高級品とわかるその便箋には、黒いインクで、僕への『用件』が簡潔に書かれていた。
『ミナト・キャドリーユ殿
礼もそぞろにこのような突然の通達になることをお許し願いたい。
下記日程において、一度会談の場を設けたい。
了承の場合は、この手紙を持ってきた使者にその旨を伝えた上、王都ネスティアへ参られたし。
なお、了承の場合、本件の準備と認められる内容においてかかる経費は、全てこちら側が負担するものとする。
アーバレオン・ネストラクタス
ドレーク・ルーテルス』
簡潔な、見様によってはちょっと偉そうな文面の手紙の最後には――いや、実際に偉いんだろうけど――2人分の連名が。判子まで押してあるし。
ドレーク……一番上の兄さんはわかるけど、その上に名前が書いてあるこの人、誰?
って、聞こうとしたら……僕の後ろから手紙を覗き込み、その結果珍しく驚きと動揺を全面に押し出した表情のザリーとナナさんが。
「あ、あの……アクィラ、さん?」
「はい?」
「えっと……僕の記憶が正しければ、この、ミナト君のお兄さんの上に書かれてる名前って……」
一拍、
「……ネスティア王国の、現国王様じゃ……?」
……え゛!?
ちょ……何それ!? マジ!?
え、何、それってつまり、僕この国の王様に呼び出し食らったってこと!? 何だってそんなビッグネームから!?
「……国王陛下に、騎士団総帥『天戟のドレーク』の連名の手紙って……私でも見たことありませんよ、こんなの」
「うわちゃー……マジで? これ、一応断ってもいいみたいなこと書いてあるけど、ほとんど命令よね?」
ナナさんとシェリーさんまでそんなことを。
いや、言ってること全面的に正しそうだけども。
これ確かに、断るって選択肢が最初から無いに等しい手紙だよ。そんな権力者が、わざわざこんな格式ばった書面まで用意してんのに、断れるはずないじゃん、僕みたいな一市民が。
ていうか、まずそれ以前に、何で!?
長男である兄さんが、顔を見たいとか会っておきたいとかの理由で呼ぶor来るならわかるけど、何で僕みたいな一市民を、国のトップが呼び出すなんてことになってるの!?
「もしかして……また母さんがらみ?」
「まあ、率直に言えばそうですね。お母様とそのチームはこの国でも、けっこうな武勇伝を残してらっしゃいますから。……中には、一部権力者層が必死になって隠してるものなんかもいくつか」
「またっすか……」
アイリーンさんの時の前例があるから、まさかと思って聞いてみたら、ドンピシャだったよ。尊敬はしてるけど、つくづく面倒ごとを呼び込むな……あの人の身内って立場は。
いや、そのおかげで助かってる部分も、遠慮なくその恩恵にあずかってる部分も多々あるから文句は無いんだけど……いつもいつも心の準備をする暇もなくいろんなものが突如目の前に現れるこのパターンはどうにかならないもんかね。
いや、今回は厳密に言えば、一応準備期間はあるのか。王様に会うまでに。
「これってさ……実質強制だよね?」
「そうですね。まあ、断ろうと思えば断れますが、心象ちょっと悪くなっちゃうかもです。お母様ぐらいの戦功と実力があれば、そのへん力ずくで無視できちゃうんですけど……」
ってことはあの人は断ってたんかい。相変わらず底知れない人だ……。
が、僕にはそれも無理……と。まあ、わかってたけどね。
「はぁ……わかったよ、行くよ」
「はい、そう伝えますね。日程はその手紙の通り……今から1ヵ月後ですので、準備はその間にお願いします」
「へーい……」
こらえきれないため息をつきながら、どうせなのでさっき疑問に思ったことについて聞いておくことにした。
「でもさ、姉さん……いくら母さんの身内だからって、わざわざ王都に呼んで、これまたわざわざ王様が自ら面会する、なんてことあるの?」
母さんの『身内』、ムダに多いんだけど……もしかして全員呼んでたのかな?
まあその他に、王国軍の超高官の身内、っていう肩書きも一応あるけどさ。
けどそれにしたってなあ……。
「そうですね、まあ確かに、お母様の身内だから、というだけの理由ではないでしょうけど……けど、注目されるのは仕方ないと思いますよ? そのお母様だって、冒険者になって半年たたずにAAAランクになるなんて滅茶苦茶な経歴、持ってませんでしたし」
「あ、なるほど……。まさかとは思うけど……強制的に冒険者辞めさせられて、軍に取り込まれたりなんてこと、ないよね? さすがに嫌なんだけど」
「その点は大丈夫でしょう。陛下は寛大な方ですから、そのような横暴なことはなさいません。ましてや、お母様の身内に対して、反感を買うようなことは極力避けるでしょう。だからといって下手に出たり、腫れ物扱いはしないでしょうけれど」
「あ、よかった。それ聞いて安心した」
「ただ……」
ただ?
「貴族の中には、そういうことを考える人達も多少なりいますから……そこは注意が必要かもしれませんね。そのあたりの対応は……」
そこで姉さんは、ナナさんの方に視線を向けて、
「彼女に聞けばいいでしょう。お久しぶりですね、シェリンクス元副隊長」
「は、はいっ、ご、ご記憶いただけているとは光栄です、大臣!」
「ふふっ、そのように緊張なさらないで下さい。ご覧の通り、少々世間知らずで頼りない弟ですから……よろしくお願いしますね」
にこっ、と笑って穏やかに言う姉さんとは対照的に、ナナさんは死ぬほど緊張しているようだった。まあ、軍属時代で考えれば雲の上の上司なんだし、無理ないけど。
しかしなるほど……自分自身も元貴族であり、『直属騎士団』として日常的に貴族その他に接していたナナさんなら、そういう対応にも明るいか。こりゃ頼りがいがある。
「まあ、そういうわけですから。むしろ、観光にでも来るくらいの気持ちでいらしてみるといいですよ」
「観光って……まあ、王都の中だけならまだしも、お城までそんな気で来ちゃダメでしょ」
「そんなことはないですよ? お城の中、見たことないものとか色々あるでしょうし……亜人の兵士だとか、騎獣として飼育してる珍しい魔物だとか、色々いますから」
「あ、そ」
聞けば、種族で差別しないっていう基本方針に加え、人材に多様性を持たせてあらゆる状況に即時対応できる軍隊を作る、っていう方針があるらしい。
純粋な人間が一番多いらしいが、『獣人』に『ドワーフ』、『マーマン』に『エルフ』、さらには『古代種族』なんかも混じってるらしい。豪華だなそりゃ……。
すると、それを説明している最中、ふと姉さんが『あ』と気付いたような顔になって。
「ああ、でもそういえば……『夢魔』はいないんですよね。その意味でも、もしかしたらミナトは興味を引かれて、軍に誘われるかもしれません。もちろん、形式的にですけど」
「あ、そうなの……うーん、嬉しくない……」
「「「え?」」」
と、
その場にいた複数の人間の口から、そんな声が唐突に出た。
何だ? と思って視線を上げると、ザリー、シェリーさん、ナナさん、ミュウちゃんの4人が、きょとんとした表情でこっちを見つめ返していた。
何だろ、その目……って、ああ、そうだ。
僕、エルク以外に話してなかったんだっけ。
僕が突然変異の『雄の夢魔』だって。
「ああ、ごめん。実は……」
かくかくしかじか。
「へー……そうだったんだ? 知らなかったよ」
「まあ、確かに……進んで他人に話すようなことじゃないわね。私も『ダークエルフ』だって言って素性隠してたし、それはわかるわ」
「それを私達にも話してくれたってことは……その、自分の秘密を打ち明けるくらいに私達を信頼していただけた、ってことでいいんでしょうか?」
「いや、ごめん、話すの忘れてただけ」
「「「……あ、そう」」」
「……気苦労の多そうなチームですねー……」
「慣れるわよ、じきに」
そんな、力の抜けるような会話の中で、僕がこの数ヶ月(結果的に)秘密にしていた新事実は、あっさりチームメンバー全員の知るところとなった。
……そしてどうでもいいけど、なんでそこで姉さんは笑いをこらえてるんだろうか?
この人のツボ、いまいちわかんないな……。
にしてもさあ、とシェリーさんが口を開く、どこか不満げに。
しかしそれは、僕がこのことを秘密にしていたことに対してではなく、
「私の村の伝承でも時々見た記憶あるけど……『夢魔』の男版って要するに『淫魔』よね?」
「かもね。まあ、実際は夢魔の雄ってのは、伝説だけの存在で実在はしないっぽいけど。僕の場合、ただの突然変異らしいし」
「だったらさあ……男だとは言え、いや男だからこそ、そんなお色気担当みたいな存在のミナト君が、身近にこんな美女美少女がいるのに手をつけないのって、間違ってると思うのよ、やっぱり」
「あんたは結局そこに帰結すんのかい、この色ボケ女」
「何とでも言ってちょうだい。お義姉さまはそのあたり、どうお考えかしら」
「あらあら、聞いてはいたけど、随分と積極的なんですね。色恋ごとは本人達の自由意志ですから、姉弟であれ口出しする気はありませんよ? ただ……」
すると姉さん、そこでなぜか一旦区切って、
こころなしか、ちょっとだけ真面目な目になって、
「……『夢魔』という種族について、ちょっとだけ補足をしておきましょうか。今後のことを考えると……正確に知っておいたほうがいい事柄ですし」
そう言って、僕ら全員の顔が見えるように、そして僕ら全員から自分の顔が見えるように、座りなおした。何だろう、突然。
「? どゆこと?」
「その前にミナト、あなたは、『夢魔』という亜人種族をどう認識していますか?」
どう、っていうと……うーん……
一言で言うと、ファンタジー世界における夢魔といえば……シェリーさんも今言ってたけど、ぶっちゃけ『お色気担当』って印象があるかな。第一に。
あとは、あらゆる種族との間に子供を作れるとか……魔法関係の能力が他よりもかなり優秀だとか……エルフほどじゃないけど耳が尖ってて長いとか……ああ、絶滅危惧種レベルに数が少ない、ってのもあったっけ。
「とまあ、そんなところだけど……」
「まあ、そうでしょうね。ではミナト、その知識にもう1つ、私が今から話す内容をプラスしておいてください。『夢魔』について、世間では最も知られていない……しかし、知っている人ならば、『夢魔』を特別重要視する最大の理由になる特性です」
真剣なその目と口調に、自然と場の空気が張り詰めたのがわかった。
そして、全員の視線を受けながら、姉さんが告げたのは、
「……『夢魔』というのはですね……世界最強の戦闘種族になりうる存在なのです」
☆☆☆
突然聞かされた、そんな突拍子もない告知。
『世界最強』だとか、今日び少年漫画でも中々聞かない文句なんだけど……姉さんの目は、見た感じ冗談を言ってる風ではなかった。
そして、そのことを詳しく語るにあたって……今さっき僕が言った、夢魔の特性の1つが密接に関わっていた。
『あらゆる種族との間に子供を作ることが出来る』
この項目に付け加えて説明すると、あらゆる種族との間に子供を作ることが出来る上に、その子供は遺伝的に何の問題もない状態で、正常に生まれてくる。父親もしくは母親(夢魔)の種族として。
多種族との間に子供を作ることが出来る種族は、他にも存在する。
最も代表的なのが、人間だろう。
『エルフ』と交われば『ハーフエルフ』が生まれるし、『吸血鬼』と交われば『ダンピール』が生まれる。
ただし、人間の場合……今述べたように、父親もしくは母親の純粋な種族として生まれることは少ない。多少なり血が薄まり、不完全な種族となってしまう。『エルフ』と人間が交わっても、純粋な『エルフ』は生まれないのだ。
結果、純粋なエルフなら当たり前に使える魔法を使えなかったりして、差別の原因になったりする上、異端の存在として、人間にもエルフにも受け入れてもらえないこと多々。
混血っていうのは、そういう負の遺産を最初から持って生まれてくる場合が多い。
ただし夢魔の場合、そういったことが一切ない。何と交わろうが、純粋な親の種族が生まれてくる。無論、魔法や技能を使うにも全く問題ない状態で。
仮に、人間や他の種族だったら、生物学的な理由で遺伝しえないような種族であっても、全然全くこれっぽっちも問題無しなのだ。
しかし、問題なのはその体質の便利さや都合のよさではなく……そんなことができてしまう理由そのものの方。
姉さんいわく、ある大昔の研究資料によれば、夢魔は体の中に、いかなる種族と交わっても不都合なく肉体を成長させられるような、特殊な物質を持っているらしい。
それが現代科学で言う、ホルモンにあたるのか遺伝子にあたるのかはわからないけど、その謎の物質のおかげで、子宮の中で子供を育てる間も、その子が産まれた後も、
さらには、自分自身が夢魔とそれ以外の種族との交わりで出来たにもかかわらず、夢魔として何の問題もなく成長できるという。
その非常識なまでの適応性を発揮させる物質のおかげで、生まれてくる子供がどんな種族の子供だろうと不都合は全くない。
魔法が使える種族だろうが、使えない種族だろうが、
外見的に人間と違う顕著な特徴があろうがなかろうが、
種族特有の魔法・能力を持っていようがいまいが、
『火』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『水』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『風』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『土』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『氷』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『雷』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『光』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
『闇』の魔法が得意な種族だろうが、使えない種族だろうが、
どんな種族でも、それに対応した才能を持った子供を作れる。
それはすなわち、その体内の謎の物質が、どんな種族のどんな特徴をも、夢魔の胎内において忠実にそれを再現することを可能にしているということだ。
その物質さえあれば、どんな特異な能力であれ適応・再現できるのだ。
そして、
はたしてその『再現』は、子宮の中でしか、生まれてくる次の世代を作る時にしか不可能なのだろうか?
もしそれを、子宮の外で使えるならば、
もしそれを、自分が魔法を使うときに、自分で使えるならば、
夢魔は、肉体の形状的な問題が発生するもの以外であれば……どんな種族のどんな魔法・技能をも使えるのではないか。
もしそうだとすれば、つまりどういうことかと言うと、
夢魔は……訓練次第であらゆる属性、あらゆる種類の魔法を使いこなすことができる。
……自他共に非常識を認めている僕でも、これがどういう意味かってことぐらいわかる。魔法関連において、反則と言ってもいいくらいの能力だ。
とすれば、夢魔の魔法関係の高い能力や、全属性の魔法を使えるという特性は……その残照のようなものなんだろうか。
その仮説の真贋や、浮かんでくる疑問の正確な答えは姉さんもわからないらしいけど、姉さんの経験上、全くのデタラメでは無いだろうという。
実際、母さんにはその兆しが見られたそうだ。
技量以前の問題で、人間だろうが夢魔だろうが使いこなせないような種類や規模の魔法をいくつも習得し、当然のように使っていたとか。
記録に残っている限り、他の夢魔にはこういった特徴は見られなかったらしいから、母さんだけが特別だったのかもしれないけど。
しかし姉さんいわく、
むしろその傾向が見られるのは……僕の方。
『エレメンタルブラッド』に『魔緑素』、『ドラゴンブレス』に『ダークジョーカー』etc……およそ人間とも夢魔とも結びつかない能力を次々開発してる僕の方が、読んで字のごとく『無限の可能性』を持っているようで、この仮説によほど当てはまる、とのことだった。
そしてもしかしたら、
僕を王都に呼んで、王様とドレーク兄さんが直々に会うのは……ひょっとしたら、僕がそうなる可能性を見定める意味も、ほんのちょっとあるかもしれない、と、最後に付け加えられた。
そんな、当事者なのにどう受け止めたらいいのかわからない事実と……もう1つ、ある特大の懸念事項を突きつけた後、姉さんは帰っていった。
会談に応じる、という僕の返事を持って。
あーもう、ムダに重荷増えたなあ……何をどう重荷と感じるかは、人それぞれなんだろうけど。
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