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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第6章 幽霊船と大海賊の秘宝

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第95話 ミュウとウェスカー

今朝書き込まれた感想で、この小説が今日で1周年を向かえたという事実に気付きました。
そんなに長いことかいてたんですねー……完璧に忘れてた。なんか感慨深いなあ。

ここまで続けてこられたのも、ひとえに感想その他で励ましてくれる読者の皆様のお陰です。
気の利いた文句なんて言えませんが、どうもありがとうございます。そして、これからもよろしくです。

でわでわ、ミュウちゃんの謎が一部明らかになる第95話です。どうぞ。
 

 ……逃げるのは無理そうだな。

 自然体でありながら、たたずまいに隙がない。経験上、それ相応の実力者の証だ。

 加えてこいつは……船でも見たけど、『転移魔法』とかいう、単純にして強力極まりない魔法を使えたはずだ。
 その瞬間移動の距離がどれほどか、どうやって場所を指定して跳ぶのかはわからないけど……僕1人ならともかく、ミュウちゃんがいる今、逃げられる可能性は低い。

 いや、そもそも……こいつはなんでここにいるんだろう?

 隠れて僕らを見てたわけだから、警戒したけど……さっきから敵意・殺意なんかは特に感じない。

 だからって安心は出来ないんだけど、少なくとも早急に何かしらの対応が必要なわけではない……のか? いや、片割れのバスクとか言う奴がいないから、そう決め付けるのは……と、思ってたら。

「ご安心を。警戒は当然ですが……害意はありません。今日はただ、少しあなたがたとお話がしたいと思って来ただけですよ」

「……あっそ。ま、鵜呑みにはしないけど……一応返答として受け取っとくよ」

「十分です。ああ、付け加えるなら、私1人で来ましたので。どこかでバスクが見張っているわけでも、あなた方の仲間のところに言っているわけでもありません」

 思考を先読みしてわざわざ懸念を払拭する白コート。ああ、さっきウェスカーって名乗ってたっけな。

 まあ、それに関しても鵜呑みにはしないけど……いざとなったらアルバとエルクが『サテライト』で対処しつつ連絡してくるだろう。

 だから、今はひとまず……こっちに集中するか。
 こっちのこいつも、舐めてかかっていい相手じゃないのは明らかなんだから。

 めったにないシリアスな作戦会議を心の中で実行してる僕に対し、ウェスカーは先ほどまでと同じくあくまで自然体。余裕の笑みを崩さない。

「さて、まずは素直に感服したと述べさせていただきましょうか。船の中での体裁きや気圏などから、かなりできるとは思っていましたが……推定Sランクとされる『クラーケン』をも倒すとは思いませんでした。正直、甘く見ていたと反省しています」

 そんなウェスカーのそんな言葉から、もうすぐ夕暮れ時になろうという時刻の、町外れでの会談は始まった。

「そりゃどうも。まるで、いずれ戦う相手への賞賛だね、上から目線の」

「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。できればあなたとは、一生敵対したくなどありません……戦いになどなったら、私も無事では済みそうにないですし」

「あ、そ」

「挑発的な物言いになってしまうのは、性分なのでご容赦くださいね、『黒獅子』殿。何分こういう商売についていると、相手に舐められるようなことは絶対厳禁ですから」

 ……やりづらいな。

 目先の欲望や感情でしゃべったりしない、きちんと考えてしゃべるタイプだ。
 一にも二にも『計算』ありき、その上で言葉を選んでる。

 威勢だけで口からでまかせの連中ならただ聞き流すだけなんだけど……こういう油断ならない奴と話すのは、正直疲れるんだよな……。

 感覚としてはザリーやノエル姉さん、ナナさんなんかに近い。軽口でカモフラージュしつつ、きちんと計算して情報を引き出す話術。僕には無理な、器用なやり方。
 今のところそういうのは見られないけど、おそらくそういう系統の人間だ、こいつも。

 それはそうと、コイツ今『商売』って言ったな……

 ……バスクという、シェーンにとっての裏切り者と一緒にいたことから考えると、もしかしてこいつが?

「……ちょっと聞いてみていい?」

「どうぞ? まあ、大体内容の予想はつきますがね……私とバスクの関係と、『カーンネール海賊団』との関連、ではないでしょうか?」

「ああ、私もそれは聞きたいですねー」

 と、横から会話に加わるミュウちゃん。

「ぶっちゃけ気になってましたからねえ、あなたのことは色々と。もしかして、あの全てが壊れた夜……いえ、それ以前から、海賊団に接触していたのは……」

「……なるほど、当然の疑問ですね。当事者であるあなたからしても」

 横を見ると、いつも通り半開きの目なミュウちゃんだけど、その目の奥に、何かぎらついてるような光があるのが見えた。眉間に、ごくごく僅かにしわもできてるような……

 よく見ないとわからないくらいの違いだけど……これがミュウちゃんのシリアスモードだろうか?

 ウェスカーは、その様子すらも面白そうに見ると、意外にもあっさり回答した。
 ただし……内容は、肯定ではなかったけども。

「結論から言いますと……確かに、その裏取引一切に関わっていたのは『我々』です。ですが……私はそれには関わっていません」

「……どゆこと?」

「部門や係分けが違うんですよ。武器の取引、という点から、その当事も暗躍していたわれわれが一体どういう組織なのかは、大体ご想像いただけたと思うのですが……」

 探るような目。当ててみろってか?

「……武器商人、ってとこ? それも、表社会で営業できない類の」

「半分正解です。我々は確かに、武器『も』取り扱っていますが……他にも色々と、それこそ注文されれば何でも取り扱っているのですよ。まあ、有り体に言えば……『闇の商人』とか『死の商人』とか……そのあたりがわかりやすい表現でしょうか」

 例えば、と言葉と間を挟んでウェスカーが次に口にしたのは、僕にとっても意外というか、驚きの大きい内容だった。

「……『ブラッドメイプル』のような、取り扱いに規制のある食品や、奴隷は老若男女も合法・非合法も問わず……それに薬剤等も豊富に取り揃えていますね。一部商品は販売に限らず、自分達で研究開発、またその援助なども手広く……っと、気付きましたか」

 ……気付くも何も、答えじゃないか。わざとらしい。

 『ブラッドメイプル』?
 『奴隷』?
 『薬剤』? 『研究開発や援助』?

 ……見事にまあ、僕らが関わってきた事件に関連してるじゃないか。

 『真紅の森』でバカ騒ぎになったあの違法食品とか、奴隷を実験台にして研究が進められてた『トロン』とか……裏にはこいつらがいたのか!

 そして、同時に……コイツが言いたいのは……

「僕の……それらの『事業』をことごとく邪魔した『黒獅子』のことは、すでにあんたらにはきっちり認知されて敵視されてる、ってことでいいのかな?」

「ご心配なく。まあ、多少迷惑ぐらいには思われているかもしれませんが、特別に敵視しているようなことはありませんよ。軍や賞金稼ぎ、他の組織のスパイ……商売の邪魔なんてそこかしこにいますからね、いちいち気にしていられません」

「あっそ……やれやれ、喜んでいいのやら」

「だから言ったでしょう? 今日はお話をしに来ただけだ、と。単に、私個人のあなた達に対する興味ですよ。……伝説の女傑、リリン・キャドリーユの血族さん」

「……!」

 ……へぇ、
 そんなとこまで調べてたのか……その口ぶりだと、母さんがきちんと生きてることとかも知ってそうだな。

 やれやれ……思ったより恐ろしいもんだな、やっぱり。こういう、大きな組織の情報網ってのは……

「まあ、隠す気も無かったようですがね……『キャドリーユ』の名を堂々と名乗っている所を見ると。実際調べるまでもなかったですし……どうしました?」

 ずっこけそうになりつつも踏ん張った自分を褒めてやりたい。

 前言撤回。そうだよ。そりゃそうだよ。
 普通にわかるじゃん、苗字同じだもん。

 いままでは、母さんのことを知ってる人がそもそもいなかったから気にならなかったけど……母さんのこと名前だけでも知ってりゃ、僕の苗字聞いて『うん?』ってことになるじゃん。調べるとか云々以前の問題だよ、思いっきり。

 いや、まあ別に隠そうとも思ってなかったから、普通に名乗ってたんだけど、さ……ぶっちゃけ僕、母さんがビッグネームだってこと知ったの、結構最近だし。

 もうちょっとで崩壊させる所だったシリアスな空気の中、動揺を態度に出さないように必死になっている僕を、ウェスカーは少し不思議そうな目で見て続ける。

「そういうわけで、私はあなたと敵対するつもりはないのですよ。少なくとも、積極的にはね。わざわざ寝ている怪物をつつき起こすようなことはしたくないですし……下手に手を出すと1人の怒りですまないのが、あなたがたキャドリーユ家の怖い所だ」

「そりゃよかった……っていうか、僕以外の兄弟のことまで知ってるの?」

「あらかじめ把握していた兄弟にあなたが加わった、という順番ですがね。お亡くなりになった方も含め、ほぼ全員、あるていどの情報は把握していますよ」

 ……前言撤回を撤回だな、これは。
 やっぱり、こういう組織ってのは怖い。

 僕ですら知らない家族の情報を、よく知りもしない他人が把握している……か。気味が悪いなんてもんじゃないな。

 しかも、とウェスカーは続ける。

「お仲間がまた豪華だ。『赤虎』に『忠猫』とは……まあ、あなたとはやや実力に開きがある面子ではありますが、やはり手は出しづらいですし……」

「ん? ちょっとまって? 『赤虎』はわかるけど……もう1コは?」

 『赤虎』はわかる、シェリーさんだ。
 けど……『忠猫ちゅうびょう』? 誰だそれ?

「? ご存知ありませんか? 藍色の彼女の、現役時代の呼び名ですが……」

 色だけなのに、誰のことなのかはっきりわかるのがすごいな、うちのメンバー。

 っていうか、そうなの? ナナさんにそんな二つ名あったんだ? 知らなかったな……いや、聞かなかったからかもしれないけど。

「……さて、まあ、警戒するなというのは無理でしょうから、あえて言いません。ですが、もし何かご入用の際はお気軽にお申し付けを。報酬と情報秘匿さえきっちりしていただければ、何事にもビジネスライクで対応させていただきますので」

 そう言ってウェスカーは、『オルトヘイム号』の中でやったのと同じように、ムダに優雅な仕草で一礼。

 やっぱりというか、つかみどころのない奴だ……探ろうとするだけムダ、かもね。

 
 ……それはそうと、

 さっきコイツ、あなた『達』に話がある、って言ってたな?

 それって、僕以外にも用がある奴がいるっていうことだよね。
 そして、それを今さっきここで、このタイミングで言ったってことは……

 そこまで考えた所で、その『興味がある』相手の方から、話が切り出された。

「それでは、お話も終わった所で……今度は私の方から、色々と質問などしてもよろしいですかねえ、ウェスカーさん」

 そう、びしっと手を上げて言うミュウちゃん。

 口調と見た目はのん気な感じだけど、目は相変わらず真剣である。

 どうやら以外にも一方的でなく、ミュウちゃん自身……何かしら、ウェスカーに対して話したいこと、聞きたいことなんかがあるみたいなんだけど……?

 と、思ったら、そもそも向こうさんはそれを承知だったようだ。

「ええ、だと思っていましたよ、ミュウさん。あなたに関しては、むしろ……『私があなたに』ではなく、『あなたが私に』用があるわけですからね」

「……なるほど。その口ぶりだと……私の用件もわかっているのですね?」

「大体は」

「……では、単刀直入にお聞きします。ウェスカーさん、あなたは……」

 そこでミュウちゃん、一拍置いて、

 

「私の、『同類』なのですか?」

 

 と、そう聞いた。

 

 実の所、僕も、心のどこかでなんとなく引っかかってはいた。

 『浄化』や『認識阻害』、といった、使う魔法の一致。

 ウェスカーの隠遁を見破った時に感じた、『初見じゃない』という感覚。

 そして……ウェスカーとミュウちゃんが、互いに互いの魔法を観察し、その正体を直感的に把握し、それがきちんと当たっていたという事実。

 もしかしたら、とは思っていた。

 

 この2人……同じ『種族』か、それに類する区分なんじゃないか、と。

 

 そして、僕とミュウちゃんで共通していたその予想は、

「……ご明察。その通りですよ」

 どうやら、当たりだったようだ。

 
 ☆☆☆

 
 『ケルビム族』。

 ウェスカーがまず最初に口にした、自分とミュウちゃんの『種族』の名が、それだった。

 僕やミュウちゃんの予想通り『亜人』種族の1つなのだが、その中でもまた特に異質。

 はるか太古の昔から存在しているとされる『古代種族』の1つであり、すでに絶滅したといわれている幻の種族。
 一説には、少数がどこかで細々と暮らしてる、って情報があるらしいけど。

 そしてその『ケルビム族』には、色々とすごい感じのうわさと言うか伝説がついている。

 それによれば、『ケルビム族』は、魔法方面において、独特にして秀逸な能力および才能を持つ種族であり、その道の最強クラスとまで言われる『ハイエルフ』や『エクシア』、『サキュバス』などと並ぶ能力に加え、種族固有の魔法をいくつも持っているという。

 アンデッドなどの闇の存在を打ち祓う『浄化』。しかも、光属性の魔力によるものでなく、ホントに魔法そのものが『浄化』の力を持っているバージョン。

 力量にも左右されるが、成功すれば問答無用で動きを止めることができ、しかもほとんど詠唱などの予備手順を必要としない『金縛り』。

 相手の精神に直接作用して感覚を狂わせる『幻覚』。

 その応用で、相手の認識をずらして隠れ、見つからないようにする『認識阻害』。

 『幻覚』のように見かけだけでなく、体を……骨格・筋肉・内臓・体毛の全てを本当に変化させて動物などに姿を変える『変身』。

 一瞬にしてはなれた場所に移動する『転移』。

 そして、ある特定の手順を踏んで『契約』を行った相手を召喚獣として使役し、呼び出しや送還、肉体の再生や改造までを自在に行う『召喚術』……etc

 高位と呼ばれる魔法使いの中には、これらを模倣して作り出された魔法を扱えるものもいるが、『ケルビム』の使うそれは正真正銘、全ての『オリジナル』であるという。

 そして、
 これらの能力を……ミュウちゃんも、ウェスカーも、使える。

 『召喚術』と『転移』はミュウちゃんが使ってるのは見たことなかったけど、そう言ったら、目の前で小さな小鳥みたいな魔物……ミュウちゃんが契約した『召喚獣』を呼び出してくれた。

 しかし、『転移』はさすがに出来ないそうだ。使ったことも無いし、そもそもどうやるのか想像もできないとか。

 またその逆に、ウェスカーも僕の目の前で、船では確認できなかった『変身』をやってみせた。一瞬にしてその姿を……蛇に変えて。

 他の魔法……『転移』『召喚術』『認識阻害』はモロに使ってたし……あの幽霊船の中にいて平気だったこと事態が『浄化』を使える理由だろう。
 『金縛り』や『幻覚』なんかは……試すのが怖いのでスルーするか。

 どうやら……間違いないみたいだな。
 ミュウちゃんとウェスカーが同族……『ケルビム族』だってことは。

 そして、それを知ったミュウちゃんは……何というか、微妙な顔をしていた。

 同族に会えて嬉しそうなわけでもなければ、露骨に嫌悪感を出してるわけでもない。
 どういう反応していいのかわからない……って感じだ。それも、素直になれないとかそういうんじゃなく、本気でどうしたらいいのか、どう感じるべきなのか『わからない』。

 けどまあ、ある意味当然だろう。いくら自分と同じ種族だからって、いきなり目の前に、しかも半ば敵として現れた奴相手に、親近感なんて抱きようもないだろうし。
 かといって、徹底的に嫌悪するにも、やや材料が少ないし……少なくとも、同族ってことで多少なり興味を抱いてるのも事実、か。

「……とまあ、こんな所ですね。私があなたに、我々『ケルビム族』の特性として話すことが出来るのは。お役に立てましたか?」

「ええ、正直な所、予想以上に。まあ、今のお話全てが真実かどうかは、これから検証などして確かめていきますが……思っていたより有意義なお話でした」

「それは重畳。実は私も、思いがけず同族に出会えて少し舞い上がっていましてね、ついついサービスしてしまっていましたよ。情報料の請求も忘れて、ね」

 軽口同士、笑顔同士の、しかし双方目がマジの会話。
 あくまで隙は見せず、互いの反応をきちんと観察してる、って感じだ。

 僕にはちょっと難しい芸当だな……忍耐強さとか、思慮深さとは縁遠い人間だから。

 すると、ふいにウェスカーは空を見上げて、何かに気付いたような反応を。

「……ふむ、すっかり話し込んでしまいましたね……。申し訳ありませんが、この後予定がありますので、このあたりで失礼させていただきますよ」

「そうですか。それではまたいつか……いや、別に会いたいとも思いませんか」

「おやおや、これは手厳しいですね。あなたも同様ですか? ミナト・キャドリーユ」

「さーね」

 まあ、進んで会いたくは……ないかな。
 なんか、相手にすると疲れそうなタイプな気がするから。

 ま、見せてくれた魔法の数々は興味深いけど……油断できない上に敵になる可能性がある、っていうか大きい奴と仲良くするほど、僕はおおらかじゃないから。そんな、神経すり減らしそうな友人関係は嫌だから。

 とても本気には見えないリアクションで『それは残念』なんて言っているウェスカーは、そのまま踵を返して、ホントに何事もなく僕らの前から去ろうとして……

 ふいに立ち止まり、思い出したように振り向いて言った。

「そうそう、そういえば言い忘れていましたが……あなた、普段『占い』をしてお小遣い稼ぎをしているそうですね?」

「? それが何か? まあ、なんとなく予想はつきますが……」

 と、ミュウちゃん。
 その意味は、僕にもわかった。さっきからの話をずっと聴いてたから、簡単に連想できた。……もしかして、『それも』なのか?

「いえ、大したことでは。ただ、『ケルビム族』には『予知能力』というものを持つ個体がまれに生まれるんですよ……その力の程度や正確性に差はありますが、ね」

 やっぱりか。
 あのミュウちゃんの、よく当たる占い……あれ占いじゃなくて、大まかでぼんやりした『未来予知』だったらしい。

 もっともミュウちゃん、そんなすごい能力が自分にあったことに、一応驚きはしているようなんだけど……うすうす気付いてたのか、リアクションは薄い。

 それも一応、自然といえば自然か。彼女、不確かで直感や運の要素が大きい『占い』じゃなく、自分でもその正体がよくわからない『能力』で未来を感じてたんだから、彼女にしてみれば、その正体がわかったってだけのことだ。

「能力の強弱や程度には個人差がありましてね。どの程度具体的に未来を予見できるか、どの程度後の時間の未来まで見ることが出来るか……おそらくあなたのは、具体的ではないものの、イメージとして中々に先の未来までを見通せる力だったようですね」

 そう言うと、ふいにウェスカーは『どれ、物は試しに……』などといいながら、額にかけていたサングラスを下ろしてきちんとかけ、その目で僕をじろりと見始めた。

 え? 何しようとしてんだコイツ、まさか……?

「ああ、ちょっと私も『占い』に挑戦してみているだけです。お代なども取りませんからご心配なく」

 言いながら、じろりとこっちを見てくるウェスカー。
 時間にしてほんの数秒ほどだったけども……なんかやたらと長く感じた。

「ふむ……残念ですがやはり、彼女のような未来示唆的なアドバイスが出来るほど、私にこの能力の才能は無いようですね……」

「へー、そう」

「まあ、わかってはいたことです。それに私の『予知』は、もう少しジャンルが違う形ですし……私はそっちの能力が気に入っていますから、別にうらやましくもありませんがね」

 ウェスカーは『では、またいずれ』と言い残すと、その場を去った。今度は、振り返らずに。
 普通に歩いて去っていって、すぐに曲がって建物の影に入って見えなくなった。

 てっきりまた転移とかで帰るのかと思ってたけど……ま、どうでもいいか。

 ……しかし、ただの散歩のつもりが、思いがけない人物から思いがけない話がいろいろ聴けたな……。

 そして話自体は面白かったけど、やっぱりあいつに関してわかったことは少なかったな。ウェスカーって名前と、闇の商人の一味だってことだけだ。
 よくわからない要注意人物だって点は、変わらないし。

 また会う、ようなことがあっても困るけど……そうなった時のために、もしくはそうならないために、一応色々と心にとどめておくくらいはした方がいいかも。

 
 ☆☆☆

 
 ……が、

 宿に戻った僕らを待っていたのは……そんな、奇妙な会談の不思議な後味をも吹き飛ばすほどの、とんでもない来客だった。

 海から吹く風に潮の香りを感じながら、暗くなる前に僕とミュウちゃんは『マリアナ亭』に戻ったんだけども、帰るなりフロントの人に『お客さんですよ』と聞かされた。

 『黒獅子』の噂を聞いてやってきた野次馬やミーハーなんかは、適当に言ってシャットアウトしてもらえるように事前に言ってある。

 そうならないってことは、それ相応のお客さんなんだろうけど……聞いてみたら、詳しい話はわからないらしいけど、軍関係者らしい。

 面倒ごとじゃないといいな……と思いつつ、ミュウちゃんと伴って部屋に戻る。

 するとそこには……会ったことのない、
 しかし、一見して只者ではないとわかる『だれか』がいた。

 女性だ。背は僕より少し高いくらいで……この世界では珍しい、僕と同じ黒髪。

 法衣みたいな服を着てて、装飾は派手じゃないけど、どことなく威厳とか上品さを感じる感じに仕上がっている、立派な服装だ。おそらく、この人の階級にあったものを着ているんじゃないか……と、想像できてしまう。

 さらに、抱えるように持っているのは、けっこう大き目のロッド

 それなりに豪華な装飾が施されてるけど、見た目だけじゃなく、おそらく性能がきちんと伴っていそうだ、ってあたりまでなんとなくわかってしまう。

 女性らしい体つきに、やや童顔だけど、美人と言っていいその顔立ちは、にこりと笑えば結構な人数がクラッと来るであろう魅力を秘めている。

 服装といい、一目見てあっけに取られそうな、見事な存在感と美貌、と言っていいだろう。

 

 ……ただし、

 
「…………すー……」

 

 困ったような視線を向けるみんなの中心で、よだれ垂らしてうとうとと寝そうになっているという、お客さんとしてはちょっと信じがたいその様子をのぞけば、だが。

 

「……誰?」

 

 このある意味大物なお姉さんが、ある用件で僕に会いに来た……ネスティア王国魔法大臣にしてキャドリーユ家の長女、アクィラ・ヨーウィーであると知るのは、数十秒後、

 『はっ! 寝てませんよ?』というすンばらしい説得力のお言葉と共に彼女が覚醒し、本人の口から事情を聞いた後のことであった。

 

 
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