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第83~86話 海賊の噂と赤旗の幽霊船
感想ですが、後で纏めて返信させていただきます……時間見つけて。ご容赦を。
とりあえず、第83話、どうぞ。
ミナト達が『チャウラ』を訪れて3日目。
彼らはたった数日にして、様々な意味で有名人となっていた。
漁師や海女に対しては、二日連続で極上の、それも危険度が大きい貴重な食材を宿の厨房に持ち込んで、隣人や厨房の職員たちをも笑顔にする宴会を開く大物。
商人や冒険者に対しては、1日のうち午前中に、信じられない量の『蒼海鉱石』を乱獲して帰っていく商売敵。
そんな噂が広まっている中、人々がミナト達に対して抱く感情はやはり多様だった。
冒険者や商人は、あれだけの量を一度に獲られるとあっては、実力主義の領域とはいえ、やはりいい感情は抱くことはできていなかった。
2割3割程度、収穫量に差があるくらいなら、運が悪かった、相手の腕がよかった、程度の思いで諦められるだろうが……さすがに数十倍、数百倍の差となっては、という所だ。
中にはミナト達の成功をねたんで、横取りや儲けの強奪をたくらんで襲ってくる者もいたが、嬉々としてそれを待ち構えていた『赤虎』に迎撃されてキレイに掃除された。
おまけにどうやら、バックにはあの『マルラス商会』がついているとなっては、荒事にしても得を出来るとは思えない。
程なくして、今回の『蒼海鉱石』ラッシュは運が悪かったのだと、あきらめる者が大半になった。その中でもたくましい者は、次のラッシュには何としても自分たちが『黒獅子』を雇うと心に決めて。
一方、海女や漁師の反応は逆だった。
普段から鍛えている自分達でもうかつに近づけない、『スパイダークラブ』や『バイパーイール』といった危険生物を苦もなくしとめ、食材として宿や食堂に提供してくれる彼らに対して、地元民達は純粋に感心して好意的な感情を向けていた。
だからといって、人の良さにつけこんで日々の仕事を手伝ってもらおう、などと考える者はいなかったが。彼らにも、矜持やプライドというものがあるのだろう。
が、ある意味それよりもやっかいなことに、ミナト個人やその周りの女性達に目をつけた者はいた。犯罪的な意味ではなく。
露出多めの服装で少し大胆に体を見せてみたり、あるいは接客にかこつけて遠まわしに誘ってみたり、と。露骨過ぎないような切り口で、ミナトに対して。
町のもっと中心部には、海女と娼婦を兼業している者が集まる酒場などもあり、そこにいけばもっと露骨、というか直接的な営業もあっただろうが。
またミナトのみならず、エルクをはじめとした他のメンバー達にも、言い寄ってくる男女はいた。海女はザリーに、漁師やその嫡男達は、エルクやシェリー、ナナに。
思惑は極めて単純。『嫁、婿にこないか』それだけである。
ウォルカに比べてやや『田舎』といっていい位置にあるがゆえか、外からきた優秀な若者を見つけたら、婿や嫁という形で町村にとどめておきたいと考えるのは土地柄だった。
それゆえに、いつもより少し度胸を出して、積極的にミナトと話してみたり、時にはスキンシップを試みるものもいるのだが……これが見事に暖簾に腕押し。
異性らしく戸惑いは見せるもののそこで終わりで、その後に持って行くことに興味を閉める様子がまるでないため、やや脱力しつつ別れる以外の終わり方を導けた者がいなかった。
エルクたち女性人に対しても同様。軽くあしらわれて歯牙にもかからない。それでいて、一応は礼節をわきまえた断り方をされるあたり、人格がうかがえる。
そして、彼女らに襲い掛かった冒険者達の末路を多少なり噂で聞いていることもあり、逆切れを起こすような輩もいなかった。
そして、女性陣でもミナトでもないザリーはというと、以前自分でも言っていた通り、言い寄ってくる女性への対処……言い換えれば『ハニートラップ』の回避はお手の物、というだけあった。女性陣同様軽くあしらうか、近寄られる前に姿を消していた。
そして、
ミナトとエルク限定だが、海女や漁師達が婚活出来なかった、もしくはしづらかった理由が、
「あんたはもう……ほら、また寝癖できてるって。あーもう、湿度高いとこにいるとできやすいって言うけど、ホントね。加えて、あんた寝相悪いから……」
「もー、そんな毎日気にしなくてもいいでしょーに……てか、そんなに僕寝相悪い?」
「いや、悪いって言っても一晩に何回かごろごろ寝返り打つ程度ではあるけどね。でも多分そのせいもあるわよ、朝あんたの頭が壊滅的なの。ほら頭下げて、すいたげる」
「どもども。でも、何でそんな夜のこと知ってるの? エルクちゃんと寝てる?」
「何回かそのせいで起こされてるんですー。ああ、でも別に気にしなくてもいいわよ? 私寝つきいいから、その後すぐ寝れば翌日の仕事に支障もないし、私が嫌がると何気にきちんと止まってくれるしね、寝てるあんた」
「そっか、それならまあ、よかったかな。僕が言うのもなんだけど、寝相とか、気をつけて直せるもんでもないし……」
「だからその分朝気を使いなさいっての……ほら、できた」
「ありがと。じゃ、行こっか」
「ええ」
(((……何、あの空気……っ!!)))
漁師や海女どころか、シェリーやナナも含めた心の声である。ちなみにザリーは、乾いた笑いを浮かべるのみ。
そして、当人たちだけがその空気に気付いていないのであった。
☆☆☆
今日もまた、午前上がり。
船の上で、僕らのここ3日での『蒼海鉱石』合計採取量が1tを超えた、という衝撃的な事実をナナさんから聞きつつ採取を終えた僕らは、『ウナギ』の一件がない以外は昨日とだいたい同じように1日を過ごした。
もっともそのウナギは、隣近所におすそ分けしてもなおあまる量だったので、今日の朝食にも出たのに加えて、サービスで昼のお弁当まで作ってもらえた。
その弁当を受け取る際、昨日のお礼ってことでシェーンが腕を振るってくれたことが明かされ、さらにその、一旦仕事に入ると外に出てこないことで有名なシェーンが直接届けに来たことから、ちょっと誤解されそうになって焦った。シェーンも焦っていた。
ただ、今までならそういう場面に出くわすと機嫌が悪くなっていたエルクが、今回は『やれやれ』って表情を浮かべるだけだった。
今思うと、エルクがこういう対応するようになったのって、こないだの『恋人その他全部』の会話の時からだな……。
そしてその隣のシェリーさんが『これが正妻の、勝者の余裕だとでも言うの……!?』とか言ってたけど。
まあ、灰皿や椅子が飛んでこないのは助かるけどね。
ただ、なぜか周りの人が遠慮(?)して寄ってこない中でも、物怖じせずに普通に話しかけてくるような知り合いも出来た。
ミュウちゃん、そしてシェーンである。
性格なんかから考えるとちょっと意外だけど、『チャウラ』の漁師さんや海女さん達いわく、大の仲良しであるらしいこの2人。
とある事情で、数年前からこの『マリアナ亭』で住み込みで働き始めた2人は、そのころから仲がよかったそうだ。お互いがお互いを助けながら、仕事を覚えていったと。
シェーンは、海女の技術と料理。
もっとも、その2つとももともと高いスキルを持っていたらしく、少しコツをつかむだけで爆発的に上達したそうだ。今では海女の方は『チャウラ』でもトップクラスの潜り手で、料理にいたっては、ご存知『マリアナ亭』の『料理長』。年齢を理由に引退を考えてた当事のシェフから、直々に任命されたってんだからすごい。
そしてミュウは、各種雑用と事務仕事。あと、どこで覚えたのか知らないが……やたらよく当たると評判の、占い。
外回りとかはあまりしないらしいけど、彼女けっこう頭がいいらしく、たまに仕入れなんかについていったりするらしい。あと、まれに毒舌だったりする。
そんな2人と、1人とは害獣駆除、1人とは占いとご飯で仲良くなったわけだけど、人当たりのいいミュウちゃんはともかく、シェーンちゃんも普通に接することの出来る知り合いが出来るなんてのは珍しいらしく、感心した(?)様子の海女さん達から色々と話してもらえた。前述の、2人が仲がいい話とか。
あんまり昔のことを話したがらない2人らしいけど、どうやら孤児の類らしい、というのが、長年一緒に暮らしてきた町の人達の予想。
だから、自分達もあまり突っ込んで詮索したりしないようにしている。だから僕らも余計な詮索はできれば……とついでに頼まれもしたので、よしておくことにした。
普通に友達として付き合えるだけで、十分楽しいし。
その夜。
今日は残念ながら、特に何も狩ってこなかったんだけど、それでもやっぱり美味しい漁師宿の料理を堪能しながら、僕らが雑談に花を咲かせていたときのこと。
毎度おなじみ、ザリーの不吉な噂のコーナーが始まった。
「やめてね、人を勝手に不名誉かつ不吉なコメンテーターみたいな立ち居地に立たせるのは。純粋に知っておいた方がよさそうな情報を持ってきたんだから」
はいはい。
で、その内容が何かっていうと、だ。
「「「海賊???」」」
「そ。なんだかここ最近、この『チャウラ』や、周辺の港町、あとは、遠征や演習に出た海軍から、目撃情報が上がってるんだよね」
と、ザリーは皿の上の貝のソテーを口に運びながら言った。
何気に爆弾発言だけども、周囲で酒飲みしながら騒いでる連中は気にもせずに宴会を続けている。何人かは聞こえたみたいで、ちらっと視線を感じたりもしたけど、すぐにもとにもどった。
そして僕らも、そんな周囲の様子を気にすることもない。別に、僕らにとって重要な秘匿情報でもないし……ザリーも言ってたけど、あくまで噂話だ。
それにザリーなら、本気で秘匿した方がいい情報なら、こんな所でなく、きちんと部屋で、それも盗聴防止効果のあるマジックアイテムか何かを使った上でするだろうし。
だからせいぜい、窓枠に乗っかって僕らのテーブルの上の魚料理を虎視眈々と狙っている野良子猫の方をむしろ警戒するくらいで……あ、逃げた。
……? でも今の猫、どっかで見たような……気のせいかな?
それはそれとして、だ。
この世界、ファンタジーだけあって、なんと海賊というものも存在している。
それも、ドクロマークの旗を掲げて、帆船に乗ってサーベル持った、けっこう昔の、カリビアンな感じの海賊だ。
まあ、世界観的に似合うっちゃ似合う。……いないに越したことないけどね、そんな物騒な連中は。
当然、国の平和を守る軍隊には追いかけられる立場であり……危険度が認められれば指名手配され、首に賞金がかかることもある。
そして、軍のみならず賞金稼ぎや、僕ら冒険者の標的にもなる、っていう感じ。
ちなみに、この『チャウラ』の町やその近海は、普段は海賊なんてめったに出ないらしいんだけども……
「『蒼海鉱石』の鉱脈の話でも聞いて、ひと稼ぎしに来たのかな?」
「ありうるわね。自分達で採るような、勤労意欲がある連中だとも思えないから……町の倉庫なんかを襲って、冒険者が採ったそれを奪う、とか?」
「そのついでに、金目のものや美人も頂いていこう、って腹かもね」
出るわ出るわ、物騒な予想。
戦って奪うのが仕事な海の野蛮人連中は、剣と魔法の世界でもやっぱり捉えられ方は同じの様子。市民に恐れられ、憎まれる悪人、ってか。
まあ、中には悪人からしかそういうことをしない『義賊』ってのもいるらしいけど、一般市民にそんな見分けつけらんないだろうしね。
けどまあ肝心なのは、この町に海賊がやってくるかもしんない、って点なんだけど……
「いあ、それについてはあんまり心配してないよ。今言ったけど、この町今『蒼海鉱石』の採掘ラッシュで冒険者がいっぱいいるからね。それってつまり、町の防衛戦力がたくさんいる、ってことでしょ? それに……」
「それに?」
「ここに、おそらくはその頂点に立っているであろう3人がいるから」
ちらっ ← ザリーの視線
その先にいるのは……
僕(ランクAAA)、
シェリーさん(ランクAA)、
ナナさん(推定ランクAA)、
以上、3人。
「むしろ、海賊の方がかわいそうよね」
「特にミナト君とか、船一隻3分くらいで沈めちゃいそうだよね」
んな、人を人間兵器か何かみたいに言うんじゃないよ。
……まあ、多分出来るけど。
3分は厳しいけど……乗組員の生死問わずで、ただ船沈めることに集中・特化した作戦でいいんなら……10分くらいで。はまれば5分かからないかもだけど。
「ま、今更驚かないけどね、出来ても」
「あ、そう」
最近、慣れてきたらしいエルクのツッコミが少なくなっちゃって、少しさびしい。
しかし、そこでザリーの話は終わらなかった。
「ま、そういうわけなんだけど、さ……僕、そこまで考えて、ちょっと思いついたことがあるんだよね」
「? というと?」
と、そこでザリーは僕の質問に答える前に、こころもち前に体を乗り出して……僕と、隣に座っているエルクの2人を、真正面から見据えた。
そして、
「ミナト君とエルクちゃんが2人でやってる『特訓』さ……あれ今度から、僕らも参加してみたらどうかな、と思って」
……ほわっつ?
☆☆☆
ザリーがそこに至った過程は、至極単純。
海賊目撃の情報を、入手したザリー。
しかしその1秒後、僕らの存在を思い出して不安になるのを回避……したところで、ザリー、はっとする。
無意識のうちに、自分が僕の力を当てにしすぎていることに。
別に、仲間に助けを求めることに関しては、ザリーとしてもおかしく思ったりはしない。しかし、頼りすぎはさすがによくない、と思い至る。
同時に、自分は僕……ランクAAAの『黒獅子』の仲間であり、一緒にいると言う事は、それ相応の困難がこの先何度も待ち構えている可能性が高い、とも思った。
もっとも、ザリーはその点は別に気にしていないらしい。僕と一緒に冒険者をやるのは自分で決めたことだし、そこで必須となる、困難を乗り越える努力はするつもりだったらしいから。最初から。
だったら、何でもかんでも『ミナト君が強いから心配ない』じゃなくて、そこに行き着かなくても自分で何とかできる強さを手にする努力が必要だ、と思った。
で、ザリー、ここんとこ自主的な鍛錬の時間を延ばしたりしてたらしいんだけど、それに限界を感じてた所だったから……ってなわけで、最初に戻る。
「うん、すごい主人公的向上心だね、ザリー。チャラ男なのに」
「……例によって意味のわからない言語が多い点は、あえてつっこまないでおくね」
どうも。
なるほど、ね。それが、ザリーが僕とエルクの『特訓』に参加したがった理由、か。
そして同時に、いっそ僕ら全員でそれに参加すれば、ますます自力も上がって冒険者活動にいい影響がバッチリ出てくる、と。
なるほどね。でも……
「でもザリー、それは別に構わないんだけど……僕ら、何も特別なことやってないよ? ただ、僕の好奇心と探究心その他もろもろの赴くままに、オリジナル魔法という名の劇薬でエルクとアルバを魔改造してるだけで」
「あ、自覚あったのね、一応」
「それだよ、それ。ミナト君。僕が目をつけたのは」
最近、使える魔法の数が両手足の指の数より多くなったエルクから、乾いたツッコミが入ると同時に、ザリーから核心に至ったかの様な言葉が出た。
「上達速度に関してはまあ、エルクちゃんの謎の才能のせいもあると思うんだけど……ぶっちゃけ、ミナト君とエルクちゃんの実力の一角は、間違いなくミナト君のオリジナル魔法なんだよ。既存の常識に真っ向からケンカ売って粉砕してる、非常識魔法の」
エルクの努力による上達幅を否定する意味じゃない、と一応前置きした上で、ザリーは続ける。
僕が開発した魔法の数々。その中で、ザリーが目にした、もしくは実際に体験したもの。
『他者強化』
『マジックアーツ』各種
『ダークジョーカー』
エルクの『ネットシールド』
『オープンチャンネル念話』
その他もろもろ……
どれをとっても、革新的なんて言葉で片付けるのは不可能に近い超絶術式の数々。
しかもそのうちのいくつかは、即興で考えた術式。
この中には、1つ国に報告して提供するだけで、何年も、下手すれば一生遊んで暮らせるような大金を褒賞としてゲットできるような術式もあるという。
……って自己評価してるわけじゃなくて、ザリーの評価なんだけど、なんか前に母さんにも似たようなこと言われた覚えがあるから、そうなのかな?
まあ、母さんはすぐに気にしなくなってたけど。慣れて。
エルクも最近はあんまり気にしなくなったけど。慣れて。
で、そんな僕のオリジナル魔法の恩恵に、自分達も預かれないかと考えたのがザリーだったんだけども、
「もちろん、虫のいい話だってことはわかってるつもりだよ。本来なら僕ら自身が、長期のたゆまぬ鍛錬によって解決すべき悩みだからね。それなりのお礼だってさせてもらうつもりだし……当然、嫌なら断ってくれていい」
「ザリーってさ、見た目の割に考え方真面目だよね、いつも思うんだけど」
「ごめん、真剣に話してるだけにホントにちょっと泣きたくなってきた」
一瞬目を逸らすザリー。……からかいすぎたか、こりゃ失敗。
しかしたくましくも、数秒で気を取り直して僕らに向き直る。
よし、今度こそきちんと対応を
「それでシェリー、ナナ、あんたらはどうなの?」
エルク、エルク、空気読もう。
ザリーが『だからミナトく……』って口開きかけて固まっちゃったよ。聞いてあげようよ。聞くべきだよ。聞くべきだったよ。もう手遅れだけど。
「私は……うん、いいと思うわよ? まあ、他人の力で強くなるって感じが否めなくもないけど、最終的にはそれを習得するための自分達の努力で強くなるわけだから。それに……ぶっちゃけ興味あるしね。だって、私だけのオリジナル魔法でしょ?」
「私も同意見ですね。まあ、またミナトさんのお世話になるのはちょっと心苦しいですが、巡りめぐってミナトさんや皆さんのためになれるようですし。それにミナトさんはこの『ワルサー』に造詣が深いようですから、どんな術になるか楽しみです」
ザリーが立ち直る間に、女性陣からはそんな意見が。なるほど、2人も賛成か。
まあぶっちゃけ、僕も特に反対意見は無い。今までのやり取りの中で、ザリーたち3人のことも信頼してるし、お望みなら魔法の1つ2つは教えてあげても、もしくは考えてあげてもいい。
というかぶっちゃけ、普段から『ザリーとかこういう魔法似合いそうだなー、使わせてみたいなー』とか思いつつ考えてたネタがノートに結構あるので、実は渡りに船。
ふっふっふ……いいじゃないか、今までは常識人であろうとあえて押さえ込んでた探究心と好奇心を開放するきっかけを、まさか向こうから持ってきてくれるなんて……
「押さえ込むの失敗してるけどね、普通に」
「エルク、心を読まないように……もしかしてまた声に出てた?」
「いや、今回は何か……大体わかったの、あんただったら考えてそうだなって」
そりゃすごいな、マジで。
だんだんエルクの察知能力が鋭敏になってきてるのを感じる。
ま、ともかく、だ。
「そういうことなら全然OKだよ、ザリー。役に立てるかどうかわかんないけど、全力で魔法考えて提供させてもらうから楽しみにしてて」
「ありがとう、ミナト君。あ、でももう1つ注文つけるなら、おおよそでいいから常識の範囲内で……」
「あえて断る」
「……あ、そう」
そして、
そんなやる気は出るけど力は抜けるやり取りの後、僕らはご飯を食べ終わって解散……する前に、ザリーがもう1つ報告を思い出した。
というか、さっき海賊のくだりで言い忘れた情報らしいんだけど、
「その、目撃された海賊船の中にね……ちょっと気になる海賊旗を掲げた船があったらしいんだよね」
「気になる、って?」
「うん、ポピュラーなドクロマークのデザインは有名だよね? その頭蓋骨と、後ろで×の字にクロスしてる骨に……水かきみたいなのが描かれてるデザインだったらしいんだ。しかも、布地は赤色だったって」
瞬間、ザリーの言葉に反応したのは……ナナさんだった。
「赤い布に、ドクロマークに水かき? まさか……『カーンネール海賊団』?」
「似てるよね? あの……一時期、この近海で最凶最悪を謳われた、海のならず者連中が掲げた旗に」
「? 何それ? ナナ、あんた知ってるの?」
「ええ、元軍人ですからね……海軍に在籍した経歴もありますし。その時には、よく耳にする名前でした」
ナナさんによると、
その『カーンネール海賊団』っていうのは、数年前までこの海で猛威を振るっていた海賊団らしい。当事の海軍が、もっとも手を焼いていた相手。
卑劣かつ残虐な連中で、片っ端から町や商船、客船を襲って略奪を繰り返していた。船長の『ゼペッド・カーンネール』は、その首に金貨200枚の懸賞金がかかったほどの大物首で、しかしそれを狙う賞金稼ぎや冒険者をことごとく返り討ちにしていたらしい。
赤色の布地に、水かきつきのドクロの海賊旗が特徴的で、それを見かけたら生きては帰れないと船乗りの間では恐怖の対象だった。
ここで豆知識。
海賊旗って、前世でもそうだったんだけど……デザインによって色んな意味がある、海賊達のある種のアピールアイテムだったらしい。
黒い布にドクロマークが一番一般的。
そこに色々と、描き足してあることが多かった。
砂時計なら、『お前らの命が尽きるのは時間の問題だ』。
天秤なら、『金目の物を渡すか死ぬか選べ』。天秤には心臓が描かれてることが多い。
とかまあ、こんな意味合い。
一番怖いのは、ドクロマークすら描かれていない無地の赤い旗。
意味は『交渉の余地なし、皆殺し』。
で、その『カーンネール海賊団』は、その一番怖い赤旗にさらに自己主張を重ねてたわけだ。水かきが何を意味してたのかは知らないけど。
しかしそいつらは、ある時を境にぱったりと姿を見せなくなったらしい。
敵船と戦って敗れたか、それとも内輪もめで解散したか……色んな噂が流れたけど、真相はわからないまま、数年が過ぎた。
で、結局最後には、軍も彼らを死んだものと考え、懸賞金すら取り消された。
その『水かきドクロの赤旗』が、彼らの船としてこれまた有名だった巨大戦艦『オルトヘイム号』と一緒に目撃されてるらしい。何度も。
……ほー、そりゃ不思議。
「まあ、噂だって一笑に付す人も多いんだけどね……けど、その船の船長、ゼペッド・カーンネールには、軍の実力者も何人もやられてるくらいなんだ。だから、向こうさんも油断はするつもりないみたいでね、念のため、各所の皆泊まりに兵をよこすことになったらしいんだよ。で、その派遣部隊の、この『チャウラ』の担当がなんとね……」
「呼んだかな? オレンジ色」
「「「!」」」
と、
唐突にそんな声が聞こえたかと思うと……おそらくは今正にザリーがその名前を出すつもりだったのであろう人物が、柱の影から姿を現した。
『青色』こと、スウラさんが。
うわ、何だこの偶然? 結局こないだの『トロン』での、キャドリーユ家以外のメンバーがそろっちゃった。すごいなコレ。
まあでも、ここまでそろうとホントに怖いものなくなる感じだから、むしろ心強いけど。何が起こってもたいがいのことなら対応できそうだ。
……いや、待てよ?
でもこの状況……何が起こっても対応できそうな状況って、なんか逆に、確実にコレから何か起こるようなフラグになってるような気も……い、いや、気のせいだよね? そんなことないよね?
その可能性を考えた時点で、フラグがむしろ別個に立ったような気がしたけど……気のせいだよね!?
☆☆☆
「海賊、ねえ……」
スウラさんが途中参加した夕食の、その翌日。
寝起きの僕は、ベッドでまだ眠っているエルクを起こさないように注意しつつ、机に向かっていた。
何をしてるかというと、
「まあ、一応その可能性も考慮して作っとくべきなのかな? そうなると、必要なのは広域攻撃系の技と、攪乱系の補助技……バリア系は、今んとこ使えるのがアルバ以外にいないから保留。そうなると有望なのは、やっぱシェリーさんとナナさんあたり……」
とまあ、魔改造プロジェクトの骨子作成中です。
さっきの海賊云々発言は、まあそれも一応気になるけど、だったらそういう連中との戦いでも役に立ちそうな技を使えたら便利だな、と思ってのものだったりします。
加えて、今日からは仕事の後の訓練を皆一緒にやることになった。
そこで、僕が考えた技にあった訓練メニューを経て技を体得してもらうわけなので、きちんと理想的な結果を導き出せるような訓練を組み立てなきゃいけない。
そして何より単純に、やる気が出る。
エルクはいつも通りに進めるとして、だ。
アルバは、隣にいれば勝手に覚えるだろう。というか、今正に僕の肩に乗ってメモ帳を覗き込んでるので、今この瞬間も学習中だ。
さて、そうなると、問題はザリーとシェリーさん、そしてナナさん……か。
ザリーに必要なのは、探索とか諜報に有用そうな技だろう。そして本人が得意なのは、地属性の魔法。加えて、身軽さや敏捷性、とっさの判断力はエルク以上……か。
土壁なんかに魔力を浸透させて音を拾う魔法はすでにあるし、ザリーなら放っといても自力で覚えるだろうから、他に何か……そうだ、さらさらの超細かい砂に魔力を含ませて相手に大量にぶつけて、逃げられてもそれをたどって追跡出来る、とかいいかも。
いつでもどこでも、即興の発信機を作り出せる魔法だ。しかも、見た目はただの汚れだから、せいぜい不快感をあおるだけ……水で洗われたらアウトだけど。
シェリーさんは、他の分野に手を出すよりも、純粋に戦闘力を底上げできるような魔法を考えた方がいいと思うし、本人も喜ぶだろう。
炎系は、前世で大好きだったヒーロー物でも、1番組に1つ以上必ずと言っていいほど扱われてた系統だし、アイデアにも事欠かない。
つか、ぶっちゃけ試してみたいことが山盛り。
熱エネルギーを細かく操作した超威力の炎の大剣とか、空気抵抗を下げて飛距離と発射速度を重視した円盤型の火炎弾とか……『ダークジョーカー』の真似事で、炎の魔力を制御&増幅する炎の翼なんてのも……。
……なんか色々とやばい結果になりそうだけど、まあいいや、面白そうだし。
そして、そのシェリーさん以上にやる気になるのが……ナナさんだ。
なんたって、銃だもん。武器が。
今まで剣だの槍だのにはけっこう触れてきたけど、モロ近代兵器っぽい武器がファンタジー世界に出てきたとあれば(犯人僕だけど)、そりゃそこに僕の持てる全ての銃撃系スキルをつぎ込みたいと思うこの僕の好奇心は異常では無いはず。
黙ってても、アイデアが湯水のように湧き出してくる。
改良を兼ねて、詳しい内容や術式は後で考えるとして……えーと、思いつくだけ書き出してみようか、うん。
えーと、ナナさんは水属性が得意なんだっけ。だったらまずは、水の切断魔法『ウォーターカッター』に、速度と直進性とちょっとの悪意を混ぜ込んで、と。
『ウォーターカッター・ブラスト』
『ウォーターボウガン』
『ウォーターマシンガン』
『ウォーターライフル』
『ウォーターショットガン』
『ウォーターバリスタ』
『ウォーターバズーカ』
『ウォーターミサイル』
『ウォーターロケットランチャー』……
「あと、やっぱ『ウォーターアクセ』あぶっ!?」
「うるさいっての……朝からあんたは……」
と、横から声が。同時に、何かやわらかいものが飛んできた。
あちゃ、エルク起こしちゃった。ていうか、また声出てたのか?
眠そうな目もかわいいエルクは、ベッドの上で体を起こすと、諸事情により乱れている寝間着をさっと整え、メガネを装着。
その間に僕は、今しがた投げられた枕を拾って、ベッドの隅に投げて返しておく。
そして、僕が最近愛用しているメモ帳を机に広げている光景を見て、だいたいの事情を察したらしい。二度寝する気は無いのか、ベッドを降りてこっちに来た。
「昨日も結構夜遅かったってのに、朝っぱらから精が出るわね……何コレ、今度はナナ達を……魔改造?しようって魂胆?」
「人聞き悪すぎでしょ、その言い方……ちょっと、ミナト印の必殺技を考えてただけだよ。使いこなせば、みんなの憧れの的になれること間違いなし」
「それと同じくらい、憧れどころか引く人が増えんのよ、あんたの技は。まあ、私みたいにそのへん気にしなくなれば、普通に便利な技なんだけどね」
「……こないだ自分でも言ってたけど、エルク結構染まってきたね」
「おかげさまでね。これもこないだ言ったけど、責任取りなさいよ?」
「そりゃもう、喜んで。あ、染まったついでに、もうちょっと常識にケンカ売ってみる?」
「……もう十分売った気もするんだけど……ま、いいか。どんなのよ?」
いつの間にか僕の肩の上から、エルクの肩の上に場所を移したアルバが、ため息をついたように見えたのは……気のせいだろうか?
☆☆☆
さて、いきなり飛びます。
そんなやりとりを、早朝の部屋でエルクと交わしてから、数日。
期限である2週間を待たずして、早くも海底鉱脈で『蒼海鉱石』が見られなくなってきました。
無論犯人は僕だ。
朝食の後、部屋に全員集合して今日の作戦会議。
「さて、と。今日までに我々が採掘に成功しました『蒼海鉱石』は、依頼終了時に予定していた量のおよそ2倍となっております。具体的にはこのくらい」
そう言ってナナさんが卓上に載せたのは、クリップボードにとめられた1枚の書類。
それは、昨日までの僕らの成果を記した、いわば『中間発表』。
そこにかいてある数字は、ちょっと洒落にならないことになっていた。
覗き込んだエルクが、眉間にしわを寄せて、
「総採掘量、237kg……ああ、乾かした状態で、ね」
「ええ。今朝一番で、測定結果が商会の支部から届きました。ちなみにこの量なら、濡れた状態の総量なら……こんな愉快なことになってます」
なるほど。あの石、濡れると重くなるっていう謎な性質あるからね。
しかしまあ、この1週間ちょいでそんなに採ったのか、僕ら。
「で、その売却価格は、市場相場で……わぉ、すごっ」
「あらら、とんでもないことになってるわね……」
ザリーとシェリーさんの言葉どおり、商会が弾き出した『蒼海鉱石』の流通予想価格は、かなりとんでもないことになっていた。
「ま、まあ、この量だしね……けどそれにしても、売値が相場より高くない?」
「え、そうなの?」
「うん。相場は、精製した後で、1kgあたり金貨5枚前後だったはずだけど……」
「そんなに!?」
「うん。ちなみに、加工・研磨すればもっと高値がつくよ?」
「うへー、そんな、貴金属みたいな値段になるんだ、あの石……」
なんちゅう値段だ……まるで宝石、いや、下手な宝石より高いかも。純度次第で金と同じ値段で売れるっていう話、誇張じゃなかったんだな。
いやまあ、加工するとキレイな水色の輝きになるらしいから、装飾品兼護身用マジックアイテムとして加工されて貴族に売られたりもするらしいけど。
「物理的・魔力的両方において優秀な性能を持つ武具の材料になる上に、他の金属に混ぜ込んで合金にしても十分な性能を発揮する、超優秀な素材だからね。その分、少量でも高値がつくんだよ。けど、コレ見ると……それよりさらに予想売却価格が高い、ね」
「ホントだ……何で?」
書類を見てみると、確かに、今ザリーが懇切丁寧に説明してくれた相場価格より高い。何でだろ?
そこに答えを返してくれたのは、ナナさんだった。
「それは多分単に、需要と供給のアンバランスと、それによる当商会の利益の割り増しを予想した結果ですよ。それもまあ、私達のせいですけど」
「……っていうと?」
「この町で鉱脈が見つかったっていう話は、方々に広まってますからね。軍や貴族をはじめ、色んな所から、予約注文がすでに殺到しているんですよ、各商会には」
「あーまあ、それはそうかもね。貴金属として扱われるくらいだし、武具の素材としても優秀だし……で、それがどうかしたの?」
「ここの『蒼海鉱石』、私たちがほとんど独占する勢いで採掘してしまったでしょう? 現に今、採取開始から10日も経っていないのに、すでに『蒼海鉱石』は枯渇気味です。当然、他の商会の取れ高は予定よりも大幅に減りました。さて、どうなるでしょう」
「……ああ、なるほどね」
そうか、そういうことか。言われてみれば簡単だ。
要するに、『マルラス』以外の採取チームが採取できた『蒼海鉱石』が、予約で取った注文に応えるのに圧倒的に足りなくなった、ってわけだ。
自分たちが30日かけて採るはずだったものを、数日で僕らが採り尽くしたから。
もっともそれは、雇うことが出来た冒険者および採掘屋の腕による結果であり、単に『マルラス商会』が他よりも迅速に、かつ十二分に優秀な冒険者(身内なんだけど)を雇ってことに当たらせることが出来た……いわば経営手腕とか対応力の結果である。
なので、そこはもう『仕方ない』。こういう時にいつも企業間で生じる、時に五十歩百歩の、時に雲泥の、当然に生まれる『差』である。
しかし、その言い分が客に、それも際限なくいいわけとして通用するかというと、それはさすがにNoなのである。
客はそれぞれの商会から、注文した分だけの『蒼海鉱石』、もしくはその加工品という素晴らしい品物を、当然買えるつもりでいる。
当然、予想より入荷量がすこし少なくて、一部店側からキャンセルを出さなければいけないとか、逆に大量に入荷できて余分に売れる分ができたとか、そういう予想と現実の『差』もまた、こういう時には起こりうること。
だが、今回はあまりにもそれが、それも『足りない』方向に多かった。『マルラス商会』以外のほとんどの商会にとって。
そうなれば当然、事前に注文を入れた客の中からキャンセルを出さざるを得ないんだけど、あまりにそれが多い場合、収支もそうだけど、商売人にとって何より大事な『信用』を大きく損なう事態につながりかねない。
お得意様の貴族や軍、傭兵団なんかの注文を『ダメでした』なんて言った日にゃ、なおさら。
そこで商人達はどうするかっていうと、よその『余ってる』商会から『蒼海鉱石』をわざわざ購入して、不足分を少しでも補填するのだ。当然、市場価格より割高で。
そして今回、その購入先は、おそらくほぼ『マルラス』一択。
そこでの売却価格も、ほとんどマルラスの言いなりになるしかない。あまりにも法外な値段をふっかけられでもしない限りは。
当然、過剰な独占をして方々から恨みを過度に買えば、姉さんの商会も少なからず恨みを買うことになるから、姉さんはちゃんと売るだろう。法外でない、ほどほどの価格で。
しかしそれでも、『マルラス』が得る利益は膨大なものになるに違いない。
「ミナト君以下、僕らへの信頼が生んだ結果か……さすがは敏腕商人。こりゃ、僕らにも特別ボーナスが入るかもね」
「短期間で予定の倍採ったものね。そのへんの見積もりとか出ないの?」
「あー、そればかりはノエルさんに聞かないと……」
「でしょうね……でも、ホントに私達、大量に独占したわよね。こんだけ集中させちゃうと、ろくでもない連中が沸いて出たりしないかしら?」
「ろくでもない連中、っていうと……姉さんの商会を襲撃して、『蒼海鉱石』強奪しようとか考える連中、ってこと?」
「あーまあ、ここに集まってる商会は全部が全部クリーンってわけじゃないしね、ありそう。そこんとこの対策はしてあるの、ナナさん?」
「もちろん、抜かりありませんよ。ノエルさんが『パシレイア』雇ってました」
「まさかの身内!? ブルース兄さんの傭兵部隊じゃん……」
「ていうか、ホントにバリエーションに富んでるわねあんたら兄弟の職業は。身内でほとんどの用事が解決できるって、どんだけ便利なのよ?」
確かに、だいたいの面倒ごとは他の兄弟を頼れば何とかなりそうである。安心感がハンパない。
「けど、この分だと……予定より早く戻ることになるかな? 採るもんがないんじゃさ」
「そうね。せっかくだし、ここまできたら最後のひとかけらまで全部頂戴して帰りましょ。もしかしたら、いくらかおすそ分けもらえるかもしんないわ」
「姉さんなら、頼めばもらえるかもね。普通の商品ならともかく、採ったの僕らだし」
方針が決定した所で、じゃあ今日も頑張りますか……と思ったその時、
――バタン!!
「た、大変だぁっ!! 海賊が……海賊が出たぁっ!!」
「「「……!?」」」
……やれやれ、
今回も……無事には終わらないのか? 僕らの旅は。
っていうかもしかして、こないだのフラグ、見事に回収した?
☆☆☆
あの後、
『マリアナ亭』に飛び込んできた男は、相当パニックになっていた様子で、過呼吸じゃないのかってくらいに乱れた息で早口で話す。自らが叫んだ、その報告の詳細を。
しかし聞き取れない、っていうか単語が意味を成していない感じなので困ってたら、少し遅れて頼りになる青色のお方が到着。
野次馬を掻き分けて現れたスウラさんは、他には目もくれず真っ直ぐに僕のところに歩いてきた。何度か見たことのある顔色で。
多分、この前までと同じく『協力してほしい』って要請だろう。
町のチンピラとかならともかく、1つの海賊団ともなれば、さすがに軍の1個中隊でもきついものがあるだろうし、借りられる手は借りたいんだろう。
ちょっと周囲に頼りすぎ、甘すぎ……って感じがしなくもないけど、基本的に僕は身内には激甘かつ、自覚しつつもそれを直さない派である。
なので、まあ仕事も暇になりつつあるし、おそらく戦いと聞いて張り切るであろう赤い虎もこっちには居るし、新技各種を試す機会でもあるし、とりあえず受けてもいいんじゃないか……と思ったら、
その予想、半分正解なんだけど、半分外れていた。
「調査……ですか? 討伐じゃなくて」
「うむ。昨日の夜遅くに入った情報なのだが……その目撃された海賊団について、どうもおかしな情報があってな……。それに関して、一抹の不安があるのだ。ゆえに、協力を頼みたい」
協力要請、って点では、僕の予想は当たっていた。
ただ、その内容は違った。
海賊の『捕縛』や『討伐』でなく、『調査』。戦う前に、前情報が欲しいんだそうだ。
そもそもスウラさん、今回は最初から自分達は『対海賊』という目的で派遣された部隊ということで、別に僕らに頼るつもりはなかったらしい。
いつも、いつまでも頼ってばかりじゃ情けないし、僕らの仕事の邪魔にもなるしで申し訳ないから、と。頭がさがる。失礼な感想抱いてごめんなさい。
しかしそれを念頭に置いても、『昨夜入った情報』とやらがよほど気になるらしい。
それを聞いたスウラさんは、『すぐに動くべきではない』と判断し、その情報の真贋を主として情報を集めるつもりだったらしいが、翌朝、つまり今日、いきなりそれに関連する海賊の目撃情報が上がった。
悪名高き『カーンネール海賊団』の目撃情報が。
ただし、スウラさんが慎重になったのは……その海賊が『カーンネール』だったからではなかった。
その『カーンネール』の船に関して、という形で上がってきていた、眉唾物の、しかしスウラさんの経験と直感から、無視できなさそうな類の『懸念』。
それを払拭するのには、僕らの協力が必要だ、と思い至ったんだそうだ。
……で、
その『懸念』の内容を聞かされた僕らは、スウラさん同様その突拍子もない『内容』に驚きつつも……その調査を承諾。
きちんと冒険者として『依頼』を受け、あとで報酬も貰うという契約(エルクとナナさんに全部任せた)のもと、僕が先行して海面を駆けている。
突拍子もなくても……無視できる内容じゃなかったのだ。ホントに。
……あ、誤植じゃないよ? 泳いでない。海面を『駆けて』いる。
水上歩行ぐらい、地上と同じような感覚で出来るのだ。今の僕は。
泳ぐより早く動けて便利なコレができるのは、今のとこ僕とエルクとアルバだけ。しかも僕とエルクの移動速度は倍近く違う上に、戦闘力的な不安もあったので、僕1人で来た。
そして、そのエルクと……アルバには、例によって別の役目を担っていただいている。
勘の鋭い人なら、この2人の組み合わせって時点で気付いたかもしれない。
そう、『マジックサテライト』である。
あれから更に進化したこの魔法人工衛星モドキ『マジックサテライト』。新たにいくつかの機能が加わった。
そのひとつが、『MGPS』。
訳さず言うと、『マジックGPS』。
……『GPS』の正式名称を忘れたのは内緒だ。生まれ変わってからの16年という年月が悪いのだ、全ては。
ともかく、その『MGPS』、前世での『GPS』とそのまんま同じ。
衛星役ごしに、術者の位置情報を把握できるシステムだ。港町に待機して海図とにらめっこしてる、エルクが。
その、僕の位置を遠隔で把握してるエルクが、海図を見ながら僕に『どう進んだらいいか』指示を出し、その通りに僕が動いて海賊船を探す。
方向音痴の僕が『調査』に出るにあたり、正に救世主的な魔法である。これで、探索の便利さもさることながら、帰りの心配もしなくていい。最高だ。
……ただし、
使用中、エルクから長距離念話で『北に行って』という指示が来たときのことだが、
『北ってどっち? こっち?』
『そっちは西』
『あ、そっか。じゃこっちか』
『そっちは南!! あんた東西南北も頭に入ってないの!?』
なんてやり取りがあったり無かったり。
いや、ド忘れしただけだよ? 知識としてはちゃんと覚えてるよ? いくら僕でも。
僕が行動するに際し、最早必須と言っていいエルクの遠距離ナビゲートの恩恵にあずかりつつ、目撃情報から推測した海賊船の予想出没区域を回る。
本来なら危険を冒して船を出して行う偵察も、僕1人という個人であり、しかも水面を走ってるので見つかりにくい。そして船より移動速度も速い。
なので、途中何度か迷子になりかけてはエルクに怒鳴られて、というのを繰り返しつつ候補地点をめぐった結果、何箇所目かの予想地点にて……『おっ』という光景を遠目に確認できた。
見つかるといけないので、目と鼻だけ出して後は水の中に潜る、という忍者みたいな隠れ方で様子をうかがう僕。
僕の眼前には、2隻の船。
しかも、その両方が、ドクロマークの帆を掲げた……海賊船だった。
おそらく同じマークが、掲げてある旗にも描かれてるんだろうけど……さすがに遠いし小さいしで見えないな。
そして、まだ遠距離ながら、『ドォン』『ドォン』なんて音と共に、雄叫びや悲鳴みたいなのも聞こえてくる。
なお、僕が今見ている光景や聞いている音は、改良された『マジックサテライト』の機能の1つである『視覚共有』により、エルクも見ている。
そして、それをエルクが『オープンチャンネル念話』の応用で、仲良しメンバー全員の頭の中に送っている。シェリーさん、ザリー、ナナさん、スウラさんの脳内に。
最初驚かれて、呆れられて、諦められて受け入れられた、僕らの新技である。
そこから考えたらしい、スウラさんの考察。
『……帆に描いてあるマークが違う。つまり、別な海賊船……どうやら、互いに敵船とみなして戦闘に突入したらしいな』
『『チャウラ』狙いで集まってきた海賊船同士の小競り合い、ってこと? まあ、勝手に潰しあってくれる分には都合いいわね』
『それよりも、船の片方が掲げてるマークに注目した方がいい気がしますね……ごく最近、話題に上った覚えのある特徴が見て取れますよ』
と、やや緊張感に欠ける声でナナさんが言った直後、
今の今ままで、大海原に響き続けていた怒号が、悲鳴が、刃物同士がぶつかる金属音が、
およそ『戦闘音』と言ってよさそうな音の全てが、やんだ。
同時に……併走していた船のうちの一隻が停止し、もう一隻がその船に近づき……並んで止まった。
最初に止まったのは、特に何の特徴もない、普通のドクロマークを掲げた船。
念話の向こうのナナさんとスウラさんの予想だと、おそらく無名の海賊だろうと。
そして、もう一隻。
掲げていたのは……赤地の布に、水かきのついたドクロマーク。
話題に上がったばかりの……この近海で最悪の名を取った海賊団のシンボル。
露骨過ぎて見間違えることもできない、『カーンネール海賊団』の海賊旗だ。
その船が、もう一隻の没個性的な海賊団の船に隣接して止まったってことは……戦いは『カーンネール海賊団』の勝利で終わり。戦利品(財宝だろうか)の回収のために、乗組員が敵船にGO、って所かな?
にしても……ここからだと、さすがに僕の目でもあんまり様子が見えないな。もうちょっと近づくか?
あんまり近づくと気付かれるかもだし……いや、気付かれても返り討ちにする自信はあるんだけど。
スウラさんの話から推察するに、その『カーンネール海賊団』の戦力も、多分僕が苦戦するほどでは無さそうだから。一番強い船長も、Aランクの中堅レベルらしいし。
ただ、船を沈めないように配慮して戦うのが難しそうなんだよね。
なので、ここはひとつ……僕が洋館時代に考えた面白魔法を使ってみる。
まず、手の人差し指と親指で輪っかを作る。
次に、その輪っかの部分に『水』と『光』の魔力をこめて、魔力のレンズをつくり……そこでの光の屈折をいじくる。
数秒後、調節完了。
そこには、僕の自由意志で倍率を変えられる指望遠鏡ができていた。
覗いてみると、その向こうに……遠くの拡大された景色が見えるわけ。
……わけ、なんだけど……
それを通してみた景色は、どんなものかというと……だ。
ちょっとばかし絶句するような光景が、脳内に飛び込んできた。
『『『…………!!!』』』
「……おあー……マジか、あれ」
『視覚共有』でこの景色を見ている皆の驚きが、なんとなく伝わってくる。
もっとも、僕も負けないくらい驚いてる自信はある。
眼前に広がる(ってほど近くじゃないけども)、この異常な光景に。
一応、スウラさんから噂として、懸念として聞かされてた内容ではあるんだけど、実際に目の前にすると、こう……何ていうのか。
で、それが何なのかというと、だ。
☆☆☆
20分後。
『カーンネール』の船が、敵船からの略奪を終え、乗組員全員が引き上げてその場を後にしたのを確認した後……僕は、哀れ全てを奪われたであろう、敵船に乗り込んだ。
まあ、甲板に広がってたのは……大体予想通りの惨状。
この船のクルーだったであろう海賊達の、無残な死体。
刃物で斬られたものや、弓で射られたもの、『カーンネール』の船に魔法使いがいたのか、魔法攻撃の痕跡が残った死体もあった。五体満足でない死体も少なくない。
というか、船に近づくにつれて、海に落とされた死体がいくつかぷかぷかその辺に浮いてたし。海、そのせいで微妙に赤かったし。
しかし、
ちょっと食後とかには見たくないその光景の中に……ちょっとばかり、異様なものが混じっていることに、すぐに気づいた。
数多の死体に加え、切り落とされた海賊の腕や足、首や小さな肉片に混じって……骨が落ちている。
戦闘中に肉をそぎ落とされた形になった、海賊の骨……ではない。
まるで、最初から肉なんかついてなかったかのような、表面のやけにきれいな骨。
太いのから細いのまで、さらには頭蓋骨まるごと落ちてたりもする。これはおかしい。
戦闘で出来たわけでもないように見える骨が、さっきまで戦場だったこの甲板に落ちているのは、おかしい。
海賊が海の上で、サバトか何かやってたわけじゃないんだから。
そして僕は、普通の肉眼ではもう豆粒くらいにしか見えないところにまで行ってしまった、『カーンネール』の海賊船の方へ目を向けると……さっきまでと同じように、指望遠鏡を作って―― 一応『フィンガースコープ』って名前はある――覗き込んだ。
拡大され……戦勝の喜びに沸いているらしい『カーンネール海賊団』の船の甲板の光景が、よく見えた。
……何十体ものガイコツが、サーベルやら財宝やらを手に、動作だけなら普通の人間のように、踊ったり騒いだりしている……異様な光景が。
数十分前、遠距離から船を見たときには、ホントに驚いた。
まさか、ガイコツの魔物『スケルトン』が、2隻の船を行き来して戦利品を運んでる光景がいきなり視界に飛び込んでくるとは、思わなかったから。
まあ、スウラさんから『乗組員がガイコツだったという目撃情報がある』っていう話は聞いてたけど、突拍子ないにしても限度ってあるし、さ。
一度、甲板に目を戻す。
死体と一緒に再度目に飛び込んでくる、骨。
多分、この船の海賊達の決死の抵抗の結果として、奴らのうちの数体、数十体を砕いた結果なんだろう、この骨やその欠片の散乱具合は。
しかしながら、事態は変わらずわけがわからない。
何なんだあの船、何なんだあのガイコツ軍団。天下の『カーンネール海賊団』に一体何が起こったんだアレは。
……しかしこの状況下、ただひとつ、確かだと言えることは……
「……海賊船ってより、幽霊船って言うべきだな、アレは」
『……そうね』
驚きゆえか、いつもよりエルクのツッコミは弱かった。
☆☆☆
海賊船改め、幽霊船騒動。
あまりにも突拍子もない事実のため、スウラさんおよび元キャリア軍人のナナさんいわく、軍への報告および説明は時間がかかるだろうとのこと。
実際、報告に行ったスウラさんはまだ戻ってきてない。
ちなみに僕は、幽霊船『オルトヘイム号』(『カーンネール』の船の名前らしい)が見えなくなるまで待った後、念話の向こうでナナさん(軍時代、船の操縦経験あり)に指示を貰いながら、負けた方の船を操縦。
証拠品の保全と回収の目的もかねて、船ごと港町に戻ってきた。
が、その途中、ちょっと厄介なことがあって……。
「死体が魔物になった?」
「うん。操縦してる途中に襲ってきてさ、ちょっとびびった」
毎度おなじみ『海の家』にて。
砂浜に停泊させてある、負けた方の海賊船のせいで、驚いた町の人たちは野次馬と化した。そのせいで昼時だというのにガラガラな食事スペースで料理を待ちつつ、報告会。
その佳境。僕の、海の上での恐怖体験。
もう少しで『チャウラ』が見えるかな、ってとこで、何だか甲板から物音が聞こえてきてみると……そこには、ホラー映画顔負けの恐怖映像が。
そのへんに転がってた死体が、ゆら~り、って擬音が似合いそうなアクションで起き上がり……白くにごった目であたりをうろきょろ。
そして、ちょうど船内から顔を出した僕を見つけると、一斉に襲いかかってきたのである。正直、かなり怖かった。
「え? ミナト君ってアンデッド系の魔物怖いの? どう考えてもミナト君のほうが強いのに」
「意外ですね……『視覚共有』で見てましたけど、そこまで動きも早くなかったですし、ミナトさんなら100体いっぺんにこられても片手間で倒せるでしょ?」
「むしろミナト君のほうが怖いわよね、いろんな意味で」
「いや、まあそうだけどさ……別に強さ的な心配は僕もしてないよ。アンデッドなら前にも相手したことあるし。でもほらああいうのって何か……根源的っていうか、本能的な恐怖を誘うじゃん。そしてシェリーさん、最後のいくらなんでも酷くない?」
何で僕、比較対象にされてんの? それも、よりによってアンデッド相手に。
「だってさあ、あいつら『アンデッド』なんて大層な名前ついてるけど、普通に倒せば死ぬでしょ? でもミナト君、なんかこう、殺しても死ななそうだし……」
「それに、戦いになったら何してくるか……っていうか、何やらかすかわかんないです」
「っていうか、死んでも生き返りそうだよね、ミナト君の場合」
「ねえ何なの!? みんなの中での僕の定義何なの!? ちゃんと人間でいられてる僕!?」
シェリーさんだけでなく、ナナさんやザリーまで!?
「「「…………」」」
何も帰ってこなかった。
沈黙が帰ってきた。
と、
ぽんぽん、と肩を叩かれて振り返ると、そこには……女神のように優しい、慈愛の笑みを浮かべたエルクが立っていた。
哀れむような笑みと共に、彼女は、
「……わかってたはずよ? いつか、こういう日が来るって」
あ、味方いないんだ、ここに。
☆☆☆
数分かけて立ち直りました。
「いいよいいよ、どうせ僕は死ぬとこも想像できない人外だよーだ……」
「子供かっ。あんたは強さは人外なのになんで一部のメンタルは5歳児以下なのよ」
「成長するつもりないからかも。偉い人が、男は死ぬまで少年の心を忘れないもんだ、って言ってたし」
「うわーぉ、激しく将来が心配な発言。そんなんじゃ嫁来ないわよ?」
「えー。別にいーよ。その時はエルクにきてもらうから」
「別にいいけど、だったら今の10倍しっかりしてもらうよう徹底するけど?」
「……ごめん、ちょっと考えさせて」
「……ほっほぉ……本人を前にして随分なこと言うじゃないのよコルァ……」
「はいはい、そのへんにしてよバカップルタイムは。ミナト君もいじけないで、別に僕らミナト君のことゾンビだとか思ったりしてないから」
「そうですよ。黒魔術やネクロマンシーじゃないんですから」
「それはわかっ……ネクロマンシー? それって確か、死人呼び起こして動かしたり戦わせるっていう、あの?」
あー……そういや、母さんの書斎にそれ関連の知識がちょこっとだけ載ってる本があって、それでちらっと見たかも……?
たしかあれって、魔力を媒介にしてどうにかこうにかして擬似的な魂を作り出して、白骨死体や肉体に定着させて、アンデッド作る術だっけ。
んで、肉体もしくは骨……術の『器』の方にも何か手を加えるとか書いてあったけど、そこまで詳しい記述じゃなかったんだよなあ……
しかし、中途半端な知識しかないけど、あらためて見つめなおすとなかなか興味深い技術だよなあ……何かこう、応用的な魔法を「ちょっと待った!」はい?
「ミナト、あんたまた変に興味持ってるでしょ!? ダメよ!? やめときなさいよいくらなんでも!? 死霊術なんて世間じゃ完全に禁忌認定なんだからね!?」
「……えー、だめ?」
「だめだっつのよ!! てか、やっぱり何かする気だったわねこの大っきな子供は! あーもー本ッ当目離せないわね!! 割と本気で一生そばにいる必要があるかしらこれは……」
「ちょっとエルクちゃーん。愛人(予定)としては、正妻さんの将来設計はもうちょっと色艶がある感じで進めてほしいなー、と思ってるんだけどもー……」
「黙ってなさいシェリー。今、私の頭の中には、いつものよくわからん身体強化を応用して作ったアンデッドの軍団にかしずかれてるミナトっていう最悪のビジョンが浮かんでて、これを否定するので手一杯なのよ」
「は、ははは……ま、まさかそんなことしないよ、ね? ミナト君!」
「さすがはエルク、僕が考えた面白魔法を早くもお見通しか。……アンデッドはアンデッドでも、ゾンビじゃなくてスケルトン限定だけども、僕の場合」
「やっぱりかこの問題児っ! そしてその2つ大差ない!」
「……監視役として、ノエルさんに報告した方がいいんでしょうか?」
「した方がいいと思うよ。色々手遅れになる前に叱ってもらおう」
「頭の中はすでに手遅れな気がするけど、ね。常識とか色々大切なものを管理する部分が麻痺してるんじゃないかしら?」
「常識もいいが、マナーにも気を配れ。他の客がいないから今回は見逃すが……食堂で騒ぐな」
「「「!」」」
と、
一石を投じる感じで響いたそんな声。
見ると、そこには……両手に大きなお盆を持ち、その両方に大量の料理を乗っけた――まあ当然、全部僕らが注文したもんだけども――ため息混じりのシェーンがいた。
今日もきりりと細い目が素敵です。
……って、あれ? 何で『マリアナ亭』の料理長のはずのシェーンがこの海の家にいて、しかも料理作ってんの?
それに何で、おそらくは料理を作った張本人であろう彼女自ら持ってきてくれてるの? ウェイトレスさんは?
さっき、僕らが注文する時まではいたのに。
「今日私は夜番でな、昼は海女として海にもぐろうと思っていたんだが、ここの店長に会って、急に来れなくなった料理人の代わりを頼まれたんだ。店員は、例の海賊船の噂を聞いてすぐ、夫を心配して全員家に戻ったよ。漁師を夫に持つ海女がほとんどだからな」
「あ、なるほど……シェーンは? 行かなくてよかったの?」
「日雇いとはいえ、厨房を任されている者として、ここを空けるわけにはいかん。信頼されている証であるし、何より客にこちらの都合で帰ってはもらえんだろう」
おおう……すごい責任感。まるで武士か何かみたいだ。
言いながらシェーンは、料理をテーブルに並べる。
聞けば、僕らが注文を伝えたウェイトレスさんには、『心配でしょう、客は私が相手をするから、帰ってあげてください』と言って帰したらしい。やさしい。
「あの騒ぎだ、客もしばらくは来んだろう。唯一の客が、無愛想な私の接客でも気にしないお前達だったのは、私としても好都合だ。ああ、注文の品は以上でいいか?」
「お客様にずいぶんと言ってくれるじゃない……ま、悲しきかな当たってるけど。あ、注文はうん、全部そろってるわね」
「あ、シェーン、僕の肉野菜炒め大盛りになってるよね?」
「問題ない。しかし……それを注文したのはミナト、お前だったか。凄惨な死体の山を目にした後で、よく肉が喉を通るな? さすが冒険者というか、神経が太巻きらしい」
「目にしただけじゃなくて、一戦交えてきたけどね。しかも死体と」
「死体と……? まあ何でもいいが、冷める前に食べろよ。どこぞの泥棒猫に横取りされる前に、な」
「え? 泥棒猫って……お」
と、シェーンがちらっと視線を向けた先を見ると……窓枠にちょこんと座ってる、小さなクリーム色の猫がいた。
確かに……なんかあからさまなまでに、テーブルの上の料理に視線が向いてる。
っていうか、あれ? この猫、こないだもこうして僕らの料理をじっと見てた猫じゃ……
「……見覚えがあったか? こいつに」
「え? ああ、うん、まあ……この猫、この店によく出るの?」
「店というか、この町のあちこちに出没するんだ。毛並みの色が珍しいから、この町ではほとんどの人が知っている、ちょっとした有名人……もとい、有名猫だな」
「へー……で、どうする? 追っ払う?」
「その必要は無いだろう。さっきはああ言ったが、そいつは賢いからな。人様の食事を横取りしたりはしない。それに、狙っているのかしらないが、あちこちの家を回ってエサを貰っているようだし……食べ物には困っていないだろう」
「あ、そうなんだ。ふーん……名前とかあるのかな?」
「そこまではわからん。が、エサをやっている人間の数だけあるかもしれんな」
そんな会話が聞こえているかしらないが、シェーンの言うとおり、ちょっとの間僕らの料理を見てた猫だけども、隙を見て飛び掛るようなことはせず、とことこと素通り。
別の窓枠……より日の光が入る、あったかそうな所に場所を移して、後ろ足で頭をくしくしと掻いていた。
ちなみにその窓枠、アルバが一緒に止まってるんだけど……そのクリーム猫は、ちらっと一瞬だけ視線を向けただけで、またくしくしと。
ほっ、よかった……アルバって見た目は鳥だから、狩猟本能とかで飛びかかるんじゃないかと思った。
もしそうなったら……アルバがちゃんと加減して追っ払えるか心配だった。
最悪、食堂に真っ赤な花が咲くような事態に……やめよう、食欲が失せる。
シェーンの言うとおり、賢いのかも、なんて感想を抱きながら……僕らはさめないうちに料理を頂くことにした。
☆☆☆
その夜。
一度戻ってきたスウラさんから、宿の部屋で『また力を借りるかもしれない』と、少々申し訳無さそうに言われた。
まあ、なんかここんとこ頼られること多いなとは思うけど……別に最初から当てにしてるとか、便利屋として利用しようとかそういう魂胆は特に見えないし、別にいい。
この人は、職務に責任感きっちり持ってるし、極力は軍の、自分達の力で物事を解決するべくきっちり動ける人だ。僕らを頼るのは、事件がどうしても手に余りそうな時だけ……そう、今までの経験則で僕は理解している。
それに今回ばかりは、他の人の力を頼っても、文句言われないだろう。
何せ相手は『幽霊船』なんていう、超がつくほどわけのわからない存在だ。
おそらくは大量のアンデッドモンスターとの、かなり大規模な戦闘を前提にして動かなきゃいけないこの状況だし……本職の冒険者の手を借りたいと思うのは必然。
そして、普通の軍の人だと、しょうがないから手伝わせてやろう的な上から目線があったり、くだらない面子とかが理由で動きが鈍ったりするらしいんだけど、スウラさんはそういうこともほとんどないので好感度高いのです。
だから僕らとしては、依頼さえ入れば、スウラさんに手を貸すことに別に異論はないのです。はい。
エルクいわく、緊急性がない限り、一応ギルドを通して正式な依頼にしてもらうと後々楽だそうなので、今回はそうするけども。
しかし、それならそれで、僕らとしても相応の準備が必要になる……と思う。
何せ、単に魔物が攻めてきた『真紅の森』や『花の谷ミネット』、悪徳商人……と、迷惑な冒険者というれっきとした人間が相手だった『トロン』の時と、今回は勝手が違う。
さっきも言ったが、今回の相手は『幽霊船』。
一言で言うと、謎過ぎる。すごく判断に困る相手なのだ、すべてに置いて。
まず、敵に関しては……昼間見たし、おそらく相手取るのは、武装したガイコツの魔物『スケルトン』の軍団だ……っていうのは予想がつく。
やつら以外の種族がいる可能性も、まあ否定できないけど。
けど、そいつらが何だってまとまって行動してるのか、しかも海の上で、船になんて乗ってるのか。アジトであり移動手段である、あの船の中はどうなってるのか……などなど、疑問は尽きない。
っていうかあの船、本当に『カーンネール』の船なのかな? 旗掲げてるのは確かに見たけど、仮にそうだとして、何で幽霊船になってるのかがまず謎だ……一体どういう経緯であんなホラーの権化に? あのスケルトンは、乗組員たちの成れの果て、とか?
単なる魔物の巣とは、また違ったカテゴリーになることが予想される、『幽霊船』。
それについての情報が、いろんな意味で、明らかに不足している。
今現在、ザリーは情報網を生かして、ナナさんは商会伝手に、スウラさんは軍の各所に問い合わせて、それぞれ情報を集めてくれている。
幽霊船もそうだけど……ついでに、『カーンネール海賊団』や、その船に関する情報も、集められるだけ全部。船の構造とか、攻略時に割と重要かもだし。
ちなみに、そこでかかったザリーとナナさんの経費は、後で精算してくれるそうだ。
その他細かいことは、エルクに頼んだ。契約関係で頼もしすぎる、僕のパートナーだ。
で、僕はできることが無くて暇なので……僕なりのやり方で情報を集めている。
集めているっていうか、調べている。
この『ネクロノミコン』で。
この本、目次も索引もないんだけど、ある程度似ている内容はけっこうまとまって記されているので、アンデッドとかについて書いてある部分を片っ端から読み漁り、『幽霊船』に関する記述がないか調べている。
すでに読んだ7000ページ少々の中には、そんな記述はなかったので、あるとすればそれ以降だろう。目を皿にして、見逃さないように探ってるけども……うーん……
役立ちそうな知識はいくつかあったけど……
アンデッド相手には、光属性の攻撃が効果が抜群だとか、
強力なアンデッドは『瘴気』を発していることがあり、それにあてられると弱い生き物なら死ぬことがあるとか……死体がアンデッドになることもあるとか。
……ああ、あの船の上で起こった恐怖現象、これか。
強力なアンデッドモンスターの中には、自らの眷属たる下級アンデッドその他の魔物を生み出すことが出来るものがいるとか……
うーん……役立つ知識は多いけど、でもやっぱりそこまでピンポイントなのは……と思ったら!
「……あった! 『幽霊船について』!」
――ぴーっ!!
「ひゃっ!? び、びっくりした……何いきなり大声出して? 何か見つけたの?」
「あ、ごめんエルク、アルバ……いや、コレ探してたら、あったんだよ、『幽霊船』に関する記述っていうか、知識っていうかが」
言いながら、ようやく見つけたお目当ての情報に、僕は目を走らせつつ……発見したページ数を、エルクにメモしてもらう。
ページが何らかの魔法で出たり消えたりするせいだろう、この本しおり挟めないんだ。
えっと、何々……結構詳しく書いてあるな、さすが伝説の魔法書物。
『幽霊船』
無人で、もしくはアンデッド系の魔物を乗組員として乗せて海をさまよう船の総称。
海において、強力な瘴気にさらされる、特定の魔物に襲われるなどした船が変化したもの。その際、乗組員は死ぬか、アンデッド系の魔物に変異する場合が多い。
定義としては、『幽霊船』に変異した船はそれそのものが魔物であるとされている。が、明確な意思・自我を持っているかどうかは確認されていない。
風や潮流などの気候条件なしに移動が可能。瘴気を発し、損傷は自動で修復される。乗組員であるアンデッドを自ら生み出す力を持つ場合もある。
また、船が発する瘴気は人間や普通の生き物にとっては有害であり、生身の人間がその船に乗った場合、何もしなくとも通常数時間で死に、さらに数時間でアンデッドとなる。
逆に一部の魔物などにとっては心地よい環境であり、周辺にいるアンデッド系や悪魔系、魔法生物系の魔物を引き寄せ、その内部に定住させることも珍しくない。
条件次第では他の船や町などを襲撃することもある。そういった行動は、もともとの船が海賊船や軍艦だった場合に多く見られ、逆に客船などが変異した場合は何もせず海をさまよっていることが多い。
また、前述した特徴ゆえに、『幽霊船』の襲撃を受けた船もまた『幽霊船』になることがある。襲撃時の環境や規模、死者数、襲撃した側の『幽霊船』の瘴気濃度などによる。
なお、これは『幽霊船』の魔物としての個体差であると呼べる事項であるが、襲撃した敵船から金品を強奪して溜め込んでいたり、纏っている瘴気の量によって船足や損傷回復速度、乗組員の魔物の強さが異なるなどの例も過去に報告されている。
……マジか。こりゃすごいな。
まさか、船そのものが『魔物』だとは……ホント、この世界は驚くべき事実が多い。
横から覗き込んでいたエルクも、目を丸くしていた。
……しかし、僕らこんなのを相手にしなきゃいけないわけか……。
こりゃ今回の任務、相当てこずるかもしれないな。
魔物の強さはともかく、『幽霊船』っていう『フィールド』が厄介だ。
襲われた敵船のクルーたちがきっちりアンデッド化してた所からして、幽霊船『オルトヘイム号』はかなりの量の瘴気を生み出し、それを纏っていると考えていいだろう。
瘴気の量は、魔物としての幽霊船の能力を測るパラメータになる。敵船を変異させるレベルの瘴気なら、かなり高い能力を持っていると考えていいかも。
アンデッド乗組員生産の能力や、修復昨日、船足……それらの能力が、だ。
特に『アンデッド生産』は、有無からして問題になる能力だが、もっていると仮定すべきかもしれない……と思う。
そして何より、船全体に立ち込める瘴気のせいで、普通の人は長時間立ち入れない……この条件が一番厄介だ。
おそらく、その船に入ってまともに動けるのは、メンバーの中では僕と、『ネガエルフ』であるシェリーさんだけだろう。
僕は才能上、闇属性の魔力に強力な耐性があるし、瘴気なんかの有害な『毒性魔力』も、『EB』のおかげでほぼ完全に無効化できる。ちょっとくらいは不快感とか感じるかもしれないけど。『数時間』という制限時間もないだろう。
一方シェリーさんは、エルフ系種族の特徴として『毒性魔力』に強力な耐性を持つ。しかも、ダーク系最強ランクの種族『ネガエルフ』なんだからなおさら。
僕ほどじゃないだろうけど、それでも数時間暴れるくらいは余裕で出来るはずだ。
しかし、他はそうはいかないだろう。いくら鍛えてると言っても、エルクもザリーも、ナナさんもスウラさんも、普通の人間だ。瘴気による悪影響を受ける。
魔力系統も強化されてるはずだから、すぐ死ぬとか極端に弱体化するとかはないだろうけど……どうにかして、瘴気を散らすか弱める方法を考えとかないとな。
ホント、厄介な相手だよ、今回のは。
……ミュウちゃんの占い、当たりそうだなあ。
……そういや、今日ミュウちゃんみてないな……?
☆☆☆
ミナトが『幽霊船』について見識を深めているその頃、
砂浜には、『幽霊船』と交戦して破れ、それ自体もアンデッドのはびこる幽霊船になりかかったという船が停泊しており、その周辺は……スウラの部下の兵士達によって警備されていた。
今は、適切な処置が施され、死体も処分されて一応は安全である。浄化処置もしてあるため、病原菌などが発生することもない。
こうして自走せずに停泊している所を見ると、『船』まで幽霊船になってはいないのだろう。その意味でも一応、安全と言っていい。
それでもこうして厳重な警備体制が敷かれているのは、この船が『海賊船』であり……財宝などがつんであると予想されること。
そしてそれを狙って、盗賊の類が忍び込む可能性があったからだ。
実際には、金目のもののほとんどは『幽霊船』に奪取されていたのだが。
そこに、スウラは足を向けていた。
一応、現場の視察と……もう遅い時間にも関わらず、任務についてくれている部下達を労おうと、来る途中に買ってきた差し入れを持って。
今の『ウォルカ支部』で一番の出世頭として名が知れているスウラにそのように気を使ってもらって、警備兵は恐縮そうにしていた。それを見て、苦笑するスウラ。
夜も更け、野次馬もいなくなった。しかし、真面目な彼らは油断をしない。
何人か怪しい者が見に着たりしたこともあったが、警備兵が厳重に警戒しているこの状況下で、忍び込もうとするような輩もいないようだ。
と、いうような報告を、スウラも今受けていた……その時だった。
「!? おい、誰かいるのか!?」
「「えっ!?」」
警備兵の話を聴いていたスウラの、その視界の端。
夜の闇に溶け込んで、ほんの僅かに見えた程度だったか……一瞬、暗闇の中で何かが動いたのを、スウラの目がとらえた。
それも……コウモリや鳥といった、小動物の類ではない。
それなりの大きさの体を持っていたし……布のようなものがはためくのも見えた。
すぐさま指示を出し、兵を数人集めて確認に向かうスウラ。手には、ギミックつきの弓矢もきっちり持っている。
(火事場泥棒か? 出没を予想しないではなかったが……よくこの警備の中で忍び込めたものだ。手練の可能性も否定できんな……くっ、この大変な時に!)
真っ先に出口をふさぎ、逃げられないように、姿の見えない侵入者を追い詰めながら探していくスウラ達。
夜の闇が現状の不気味さを増し、一様にその顔には、緊張感が浮かんでいる。
さらに、この船は昼間、アンデッドの軍団と交戦した船であり……この船の乗組員の一部もそのあとアンデッドになった、ということをスウラも兵士達も知っている。
もしかすると、その生き残りがまだ……という考えが一同の頭の中をよぎった、次の瞬間、
物陰から、ゆらりと……月の光による何かの『影』が出てきたのが見えた。
反射的に、全員が武器を構える。
が、
――にゃ~お
「「「……?」」」
「……猫?」
そんな、のんびりした声と共に、その物陰からゆっくりと現れた、影の主は……なんともかわいらしい、小さな猫。
それも、毛並みがクリーム色という、ややめずらしい子猫だった。
もし、彼らの中にこの町に本籍を置くものがいれば、有名猫だと気付いたかもしれないが……あいにく、全員がスウラが連れてきた『ウォルカ支部』の兵士だった。
まあ、いたからどうにかなるようなことでもなかっただろうが。
周囲を探り……この猫以外に、気配らしい気配がないことを確認したスウラは、ふぅ、と息をつき……兵士達もそれにならって脱力した。
「……随分とかわいらしい侵入者だな……いつの間に迷い込んだのだ?」
「さ、さあ……申し訳ありません。気付きませんでした……」
「まあ、入ってきてしまったものは仕方がない……首輪がないところを見ると、野良猫のようだな。とりあえず……あ、こら!」
『捕まえておくか』とスウラが言おうとした所で、その猫は突如駆け出し、スラロームよろしく兵士達の足の間をすり抜けて、窓から外へ出て行った。砂浜に面している窓だ。
ほんの数秒のことだったので、誰かが何かしらの反応をする前に全てが終わっていた。
静かになった船内で、最初に再起動したのはスウラ。
ほおをぽりぽりと掻き、ため息混じりに指示を出す。
「……まあ、猫でよかったな。これがならず者の類だったらもう少し厄介だった。アリ一匹通すなとまでは言わんが、緊張感を持って警備に当たるように。いくら小さいとはいえ、見逃す大きさでもなかったはずだぞ?」
「「「はっ!」」」
気持ちのいい返事を全員から聞いたスウラは……ならず者がいなかったことに一応安堵しつつも、
(……見えた影は、確かに人間のものだったと思ったのだが……?)
少しの懸念を、胸中に残していた。
そして、考え事をしていたがゆえに、だろうか。
こっそりと隙を見て、猫が出て行った反対側の隙間から外へと姿を消した、『もう1人』の存在に気付けなかった。
……そして、その『もう1人』はというと、
兵士に見つからないよう、船の外に出るやいなや、波の音にまぎれて静かに入り、潜り……そのまま離れた所にある岩場まで潜水で泳いでいった。
そしてそこで浮上し……岩の上で、まるで待っていたかのようにそこに鎮座し、にゃあ、となく猫を見て……
「……すまんな、助かったよ。しかし、見つかるとは……私も、なまったらしいな」
シェーンは、そう、自虐気味に言った。
☆☆☆
さて、
時刻は午後7時30分。
僕は今、夜の海に来ています。
目的はイカ釣り。
海女さんに聞いたら、夜の間だけ獲れる魚ってのも結構いるらしい。その中でもおいしいのが、子供ほどの大きさのあるイカの魔物。
体は白く、所々ライトグリーンの模様があって、夜はそれが光るらしい。
そこだけ聞くと幻想的だけど、れっきとした魔物であるそいつのランクはE。
下から2番目とはいえ、油断していると大怪我する恐れもある獲物である。
そもそも警戒心が強いらしいそいつは、なかなかエサに食いつかないし、水中では馬力もあって釣り上げるのも楽じゃないらしいんだけど……味は絶品であるとのこと。
カニ、ウナギ、と来て今日は……イカか。悪くない。
前に持ち込んだ2つに比べればちょっと高級感で見劣りはするけど、まあいいだろう。僕、イカ好きだし。フライとか、げそ天なんかにしたら美味しいと思う。そこにマヨネーズが加わると、僕的にはサイコー。
ひょっとしたら漁師宿特有の美味しいアレンジ料理なんかも出るかもしれないしなあ、と、上がったテンションそのままに、僕は夜の海を歩いていった。
……あ、表現別に間違ってないよ? 表面張力で海面歩いてるから。今。
☆☆☆
「……で、その結果持ち込んできたのがこいつなのか?」
「うん。なんか……ごめん」
……意気揚々と出かけたイカ釣りから、1時間ちょっと。
釣竿調達するの忘れたので、いつもの物干し竿風の棒と、鉄球付きの鎖を組み合わせて、これ以上ないなってくらいに物々しい『釣竿(笑)』でイカ釣りをしてた僕は、獲物を引っさげて『マリアナ亭』に戻ってきていた。
……大きさにして4mほどもある、シュモクザメと小型の鯨が合わさったような、おっそろしいビジュアルの魚を。
「……『ハンマーヘッドホエール』か……またとんでもない魔物をしとめたな」
「いや、ホントびびったよ僕も。イカ釣りに行ったらサメがつれたんだもん。しかも、今正にエサに食いついたばっかりのイカがさらに『エサ』になってさ」
「いや、厳密にはコイツは鯨なのだが……まあ、いいか」
海面に立って、エサになる小さな魚を適当にその辺で熊風にバシャッと獲って、針……の代わりのカギにつけた。
ロープとかの先端につけて投げ縄風にして、引っ掛けて壁上ったり高い所から降りたりするときに重宝するってことで買ったんだけど、んなもんなくても僕はたいがいの壁は自力で登れるし、数十mくらいなら飛び降りても平気なので見事に使わなかった一品。
それも組み合わせて作った『釣竿(笑)』で釣りしてたら、始めて数分、意外とまともにイカがヒットした……と思った次の瞬間、
そのイカを狙って、この……ハンマーヘッドシャークの形をもった鯨、っていう表現がふさわしい巨大魚が食いついてきた。
イカは哀れ、そいつの腹の中に納まり……しかし、うまいこと『カギ』が、今度はその魚にの口腔内に引っかかってくれたのはフィーバーチャンス。
一気に『フィーッシュ!!!』して空中にまで引っ張り上げた後、水面に落下してくるまでに3発ほど蹴りを叩き込んだ。延髄を砕いて絶命させ、お持ち帰り。
僕の勘が言っていた。こいつはきっと美味い、と。
あ、でもちなみに、本来の目的だったイカも3匹ほど獲りました。何か悔しかったし。
……で、意気揚々と『マリアナ亭』に持ち込ませてもらったんだけど、
シェーンによると、たしかにこいつ……先の2種類よりも希少な巨大魚『ハンマーヘッドホエール』は、この海でも有数の美味な食材だという。
しかし、特定の縄張りを持たない魚である上、危険度Aランクの魔物であるため、漁師であっても一生に数えるほどしか食べられず、むしろ逆に食べられることも多い危険な獲物だそうだ。
しかしその分美味いらしいので、こりゃ期待できるなと思ったら『臭みを取るのに一晩かかるから今日食べるのは無理だ』とのこと。
……ちょっと残念だったけど、まあ、明日に楽しみを持ち越したと思うことにしよう。
で、この大きさなので、宿の男衆が集まっても運べない。
なので、僕が手伝う形で宿の裏に運んでいた……その最中。
「しかし、最近のうちの厨房は大変なことになっているな……めったに食べられないはずの獲物が、ここ一週間あまりでもう3度も食卓に並ぶとは」
「あははは……今回の料理も楽しみにしてるね、シェーン。僕のワガママも入ってるし、なんだったらこれからもじゃんじゃん持ち込むから」
新鮮な海の幸なんて、『ウォルカ』に戻ったら中々食べる機会ない。今のうちにじゃんじゃん食べておきたい。せっかく身近に、持込OKなんて便利なルールの厨房もあるんだし。
するとシェーンは、
「……まあ、腕を買ってくれるのは嬉しいが……一応、持ち込み食材の調理はそれなりに大変なんだぞ? 組んでいた献立を一旦リセットして組みなおす必要もあるし、その食材の調理に必要な調味料も用意しなくてはならんのだからな」
「あ、そっか……え、もしかして僕、迷惑かけてた?」
「ああいや、そういう意味で言ったわけではない。私としても、客に喜んで、笑顔になってもらえるというのは嬉しいし……調理しがいのある食材というのは望む所だしな。ただまあ欲を言えば、材料の調達などの関係もあるし、持ち込むなら夕方になる前に、というのが理想的かもしれん」
今回はどの道下準備に時間がかかるから構わんさ、と付け足すシェーン。なるほどなるほど、こりゃ浅慮だったな。気をつけよう。
ちょっと申し訳無さそうな表情でも浮かべていたのだろうか、元気出せとでも言うように、シェーンは僕の肩をぽんぽんと叩きながら、
「まあ、そういうわけだ。とりあえず運ぶとしようか。魚のにおいにつられて、野良猫がある待ってくる前に」
「だね……って、あら、すでに1匹いたよ」
「ん? ああ、奴か……」
斜め前方、10mちょっと。
そこにはあのクリーム猫が、とことこと塀の上を歩きながら、僕が担いでいる『ハンマーヘッドホエール』を凝視している所だった。
おーい、前みろー? 落っこちるぞー?
数秒、なんだか微妙に目を大きく見開いて、驚いたような表情になっていたかと思うと……なんか、にやりと笑ったように見えた。
そして、塀の向こうに飛び降りて消えた。……何だ今の?
「やれやれ、これは明日は奴も来るかも知れんな……」
「ははは、まーいーじゃない、こんだけでかいんだし。エサ用の余りなんていくらでも出るでしょ?」
「それはそうだが……まあ、一番いい部位を切り始めたあたりで狙ったように現れないのを祈るばかりだ」
いや、さすがにそんなことないでしょ。いくら賢いからって。
まあとりあえず、力作になるであろう明日の晩御飯を楽しみにさせていただこう。
「しかし……鯨ってたしか、魚じゃなくて哺乳類に分類されるんだったような……どんな味なのかな?」
鯨なんて前世でも食べたこと……あったようななかったような。小学校の給食でたしか1回出た……かな? 覚えてないや。
ま、記憶にないなら食べたことないのと同じってことで。ホント楽しみだなあ。
「ほう、博識だなミナトは。まあ、味の方は期待してくれていいと思うぞ。こいつの肉は、市場に出回ると争奪戦が起こりかねんほどに絶品だからな、味がいいだけでなく、栄養価も高い。個人的な感想としては、豚肉や牛肉よりよほど美味だ」
「え? シェーンってこいつ食べたことあるの?」
希少な超高級食材なのに? 前に誰か採ってきたのかな?
「いや、以前に一度……な。随分前のことだが……っと、ところで、今日の食事はどうするんだ? こいつを持ち込むつもりのようだったが……」
「うん? ああ、そっか……晩御飯まだなんだけど、食堂、まだ時間大丈夫だっけ?」
「ああ、問題ない。ただ、他のお客はもう全員済ませてしまったから、昼と同じようなさびしい状態になっているがな」
「そうなの? 何で?」
「おそらくは……昼のアレが原因だな。これから騒がしくなることを悟ったんだろう。夜遅くまで食べて飲んでる場合ではなくなった……という感じだったな。やれやれ、本来今日私は非番だったのだが、昼のアレとコレのせいで、むしろいつもより忙しい」
『コレ』の部分で、僕が担いでいる巨大魚をチラ見。ははは、ごめんね。
でも大変だな、昼もそうだったけど、結局シェーン、今日フルで働いてるんじゃん。今自分でも言ってたけど、本気で普段より忙しそうだ。
それでも、愚痴っぽくいいつつも嫌そうじゃないのは、もともとの性格が真面目で面倒見がいいからなんだろうか。他のウェイトレスの海女さんとか、よく言ってたな。
「あ、そだ。随分部屋空けちゃってたけど……エルクたちもうご飯食べてた?」
「ああ、済ませていた。というか、ミナトが『先に食べてて』と言い残して出かけたんだろう? エルク達はそう言っていたが」
「うん。まあ、イカ釣りに行ったのは完全に僕の気分だし、待っててもらうには遅い時間だったしね。それに僕、釣りは素人だから、釣れるかもわかんなかったし」
「……よそで言うなよ? 素人がなんとなくで海に繰り出して、幻レベルの巨大魚を捕まえたと聞いたら、泣く漁師が大勢出る。それにそうでなくても、今この町でミナトの知名度は鰻上りだ、跡継ぎ目当てで本気で狙っている若い海女も何人か知っているぞ」
「あー、見込まれるのは光栄だけどそりゃ困るね……」
そんな話をしながら、裏から『マリアナ亭』に入って、食材貯蔵庫に4m超の巨体をおろす。
その足で、晩御飯がまだな僕は食堂へ。シェーンちゃんが何か作ってくれるそうだ。
するとそこには、先客が。
「失礼しまー……おろ? ミュウちゃんだ」
「おやおや、お兄さんですか。珍しいですねえ、こんな時間にお食事ですか?」
食堂の、一番厨房に近い位置のテーブル。
そこにちょこんと座っている、ちっちゃな姿。
入ってきた僕に気付いたミュウちゃんは、ちょっと驚いた風な顔になって、しかし一瞬間を置いて、なぜか納得したような顔になった。
「ひょっとしてお兄さん、またこの店に何か持ち込んだのでは?」
「あれ、何でわかるの?」
「いえ、実は今日の占いでですね、今夜このくらいの遅い時間にここにくればいいことがある、という結果が出たので来てみたんですが……ふふふ、これはラッキーですねえ」
「はー……ホントによく当たる占いなんだね、自分でも信じてるんだ?」
「過信はしてませんよ。当たるも八卦、当たらぬも八卦……と思ってます。それはそうと、料理長さんもいらしたようですね? シェーンちゃーん?」
「……やれやれ、相変わらず機を見るに敏なやつだ。どこでかぎつけて来るんだか」
厨房へつながる扉が開き、エプロン装備のシェーンちゃんが姿を現す。
今正に料理始める所だったらしいが……おそらく僕らの会話は聞こえていたんだろう。ため息なんかついて、呆れたような疲れたような表情。
にっこりと笑うミュウちゃんは、その言葉を気にした様子もない。
もっとも……シェーンも、別段とがめるような口調で言ってはなかったし。手のかかる子供を見るような目だ。
……ここ最近、時々エルクが僕に向ける目と似てるのは、気のせい……だろうか?
「褒め言葉ですねえ。それはそうと、今からいいですか? ずうずうしいことは承知なのですが、諸事情で晩御飯を食べ損ねまして。ぜひともご相伴に預かりたく」
「ならミ生産者に許しを取れ。今からさばく『ステラスキッド』も、明日出す『ハンマーヘッドホエール』も、例によってミナトの獲物だ」
へー、あのイカの名前『ステラスキッド』って言うんだ?
「ほう! それはまたビッグネームが出ましたね~……いいですかお兄さん?」
「もちろんいいよ? あ、そうだシェーン、調理法は任せるけど……なんかサラダとか野菜炒めとか、野菜が食べたい気分なんだけど、追加で作ってもらえたりしない? 材料ある?」
「あるにはあるが、多いとは言えんな。そうだな……昼と同じような、肉野菜炒めでいいか? 味付けは変えておくが」
「おっけー、よろしく。ミュウちゃんもそれでいい?」
「もちろんですとも。いやあ、しかしまさか『ハンマーヘッドホエール』……生きているうちに、嬉しいですねえ。本当に、お兄さんが来てから食生活が充実しすぎて怖いです」
「ふーん……やっぱ、珍しい食材なんだ?」
「ええ、それはもう。漁師や海女の間では、一生に一度でいいから食べるのが夢、と言われるほどの激レア食材の1つです。多くは一度も姿を拝むことなく生涯を終えますが」
ふーん、そうなんだ?
やっぱり運がよかったんだなあ……そんな魚を釣って持ち込めるなんて。まあ、料理長にはちょっと苦労かけるけど。
「そういうわけですから、シェーンちゃんに急遽献立組みなおしてもらってでも食べる価値はあるお肉なのですよ。調理のしがいもあるそうですからね、がんばってもらいましょう。噂に聞くそのお肉、どんなお味なのか楽しみです」
「おーぅ……これまた見事に他人事」
またちゃっかりした感じでミュウちゃんはそんな風に…………あれ?
「って、ミュウちゃん食べたことないの? あの鮫鯨」
「? そりゃ、ありませんよ? 幻の食材ですから……私みたいな、親戚の脛かじってる自立できないちびすけには縁のない高級食材で……」
「でも……シェーンは食べたことあるって言ってたけど?」
「……え?」
ミュウちゃんとシェーン。この2人、すごく仲がよくて、仕事の時以外はほとんどいつも一緒にいる。
町の人に聞いても、100人が100人、仲良しだって答えるくらいに。
そして、その片割れであるシェーンが食べたことあるんだから、ミュウちゃんも当然食べたことあるんだとばかり思ってたけど……
そのミュウちゃんは、僕の言葉に少し驚いたような、戸惑ったような反応を見せた後……数秒後、『あ』とつぶやくと同時に、
ちょいちょい、と僕を手招き。え、何?
そして、耳に口を近づけて、小声で話し始めた。
「えっとですね……すいません、嘘つきました。食べたことあります」
「え、そうなの? じゃ何で嘘なんて……」
「いや、その入手経路が問題で……実は、数年前に海でおぼれてた冒険者の人をシェーンちゃんが助けた時に、お礼にって分けてもらったんです。その時のはまだ子供でしたけど、『ハンマーヘッドホエール』のお肉。食べたのはその時で……」
「? そのどこが問題なの? 普通に善意の報酬って奴じゃ……」
「いえ、貰った行為そのものは問題ないんですが……その冒険者の方が、その獲物を獲った過程が……」
「?」
「……密漁、って知ってます?」
あ、そういうことか。
うん、理解した。そりゃおおっぴらに言えないわ。
ということは、嘘をついたのはミュウちゃんだけど、ミスしたのはむしろ……
「ええ、口止めしてたんですが、シェーンちゃん口を滑らせたようですね……。あ、このことなんですけど、町の人達にも秘密なんです。なので、他言しないでもらえますか? シェーンちゃんには、私からよーく言って聞かせますから」
「あー、うん、おーけー。でも、町の人達にも秘密って……いいの? 一応その冒険者、密猟者でしょ? ってことは漁師や海女にとっては敵なわけだし……」
「ご心配なく、その人達、その翌月お亡くなりになりましたので。……一度くらい密漁が上手くいったからって、危険海域でそう何度も上手くやれるはずないですよねえ」
おおう、ブラックな結末。
と、ちょうどミュウちゃんのオフレコ話が終わったそのタイミングで、シェーンが皿いっぱいの野菜炒めを持ってきたので、ありがたく頂くと共に……そのことについてお話しするためだろう。ミュウちゃんはシェーンをつれて厨房に行って、数分で帰ってきた。
口止めは完了したらしい。
☆☆☆
少し遅めの食事を終えた僕は、シェーンにきちんとお礼を言って食堂を後にした。
ミュウちゃんは、もう少しシェーンと話してから行くそうだ。
「……なるほどね。あんたがその大量のイカゲソと共に帰還した理由はそういうわけか」
「うん、そゆこと。だから明日の夕飯は期待してね」
言いながら、袋に入った大量のイカ足のフライを差し出す。
お土産に貰ったんだよね。酒のつまみにもいいから、ってことで。
漂ういいにおいに反応してか、すでに手に酒瓶をスタンバイして目を輝かせてるシェリーさんが視界の端に移る。はいはい、ちゃんとあげるからあせらないあせらない。
どうやらこの世界でも、ゲソ天はおつまみの定番の1つらしい。
「それでエルク、スウラさんから何か連絡とかあった?」
「いや、特に何も。でも、軍が動くのにあと数日かかるかも、みたいなことは言ってた気がするわね。私たちが動くことになるとしたら……それと同時かもしれないわ」
「それとですね、これは対私達に限ったことではないんですが、軍から冒険者・漁業関係者各位への、海上航行自粛勧告が出ました。理由はもちろん、海賊船および幽霊船が出るからですが……時すでに遅く、他の港町から出た船が何隻か、被害にあった模様です」
「……被害って、どっちの?」
「今の段階では、判別はなんとも」
「……そっか。幽霊船じゃないといいね」
海賊の被害ならともかく(いや、いいってわけじゃないけどね?)、幽霊船に襲われると、最悪幽霊船が増えるからなあ……。
さっさと見つけてどうにかしないといけないよなあ、幽霊船……ま、情報が集まらないことには、動きようがないけどさ。僕らも、軍も。
……いっそ、ミュウちゃんに占ってもらえたりしないかな? 幽霊船の現在地とか。
なんか、案外それで見つかりそうな気がしなくもないんだけど……。
☆☆☆
所変わって、ここは軍の屯所。
そこでスウラは、部下達からの報告を受け取っていた。
「ここ一週間で襲撃された船は5隻、行方不明を合わせると7隻になる……か」
「はい。襲撃を受けた船は5席ともほぼ壊滅状態、そのうち3隻は海賊船でした。なお、ミナト殿が昼間持ち帰ってきたあの船はカウントされていませんので……あわせると全体で8隻ですね。そして……」
「襲撃が確認された5隻ですが、少なくともうち2隻が『幽霊船』によるものと思われます。船内の調査中に、死んでいた乗組員がアンデッドになって兵達に遅いかかったと」
「……こちらに使者が出なかったのは、不幸中の幸いだったな。しかし、これを見る限り……」
言いながら、スウラは机の上に広げてある書類を一枚一枚手に取り……再度目を通す。
その眉間にしわを寄せさせているのは、報告書に示されている、そのあまりにも凄惨な船の状態……ではない。
襲撃を受けた船。その『痕跡』から類推した、敵の『数』だ。
要約すると……1枚1枚の内容は、こんな感じになる。
被害船その1。海賊船。乗組員全滅。幽霊船にはならず。現場の死体に刀傷や魔法殺傷痕あり。金品はもちさられていた。
被害船その2。客船。乗組員全滅。幽霊船に変化。現場の死体に刀傷や魔法殺傷痕あり。金品はもちさられていた。
被害船その3。海賊船。乗組員全滅。幽霊船に変化。現場の死体に刀傷や魔法殺傷痕あり。金品はもちさられていなかった。
被害船その4。客船。乗組員ほぼ全滅。幽霊船にはならず。現場の死体に刀傷あり。魔法殺傷痕なし。金品は持ち去られていた他、船底に隠れていた生存者数名が海賊の襲撃によるものと証言。
被害船その5。海賊船。乗組員全滅、ただし別に生存者あり。幽霊船にはならず。現場の死体に、刀剣によるものではない殺傷痕多数。魔法殺傷痕なし。金品は持ち去られていなかった他、部屋などの破壊が他に比べて過度。魔物の襲撃の可能性あり。
行方不明船その1。客船。
行方不明船その2。客船。
そして、被害船その6(ミナト回収)。海賊船。乗組員全滅。幽霊船に変化するも、調査・回収のため乗船していた冒険者により討伐済。金品は持ち去られていた。幽霊船による襲撃の様子および、その乗組員が金品を持ち去る様子を同冒険者が目撃している。
今一度目を通したそれらを見て、スウラはううむ、と唸る。
「……どうやら、襲撃者は1つではないようだな。魔物の襲撃の可能性がある5番目をのぞいても……手口から判断するに、最悪4つ以上いる。その内訳が、いくつが幽霊船で、いくつが海賊船かは、はっきりせんがな」
「厄介ですね。方針としては、海賊船および幽霊船の討伐になるのでしょうが……時期が時期だけに、集まってきたのでしょうか?」
「海賊船はそうかもな。いずれにせよ、我々だけで動いてどうにかできる事態ではないのは確かだ。相手は、こう言っては何だが、戦闘が本職の野蛮人どもだ。そこに魔法使いまでいるとなっては、油断など絶対に許されん」
「一応、近隣の基地に応援を要請しましたが?」
「……それでも、短期間で十分な戦力が集まるかどうかは微妙な所だ。しかも、相手は魔物……はぁ、仕方がない。また、彼らの力を借りる事態になるかもしれんな」
その言葉に、疲れた様子を見せるスウラだが……その部下達のうち何名かは、『彼ら』が誰のことを指すのかを知っていた。
ゆえに、部外者の助けを借りることを申し訳なく思いつつも……もしかすると途轍もなく強力な味方がつくやもしれない、という期待がうっすら顔に浮かんでしまっていた。
そんな部下達を、しかし自分もそういう感情を覚えていることを自覚しているスウラは、やれやれ、といった感じの目で見ていた。
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