挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第6章 幽霊船と大海賊の秘宝

31/197

第80~82話 海と占いと海女と冒険者達

今回から新章スタートです。
舞台は……海! 何かいきなり移動してますけども。
 

 夏! ……じゃないけど、海!

 白い砂浜! 青い海! 水着の美女! なぜか美味い、海の家の焼きソバ!

 恋の季節、僕らは青春まっしぐらにひと夏のアバンチュールへ!!

 ……んなもんはこんな異世界にはないし、そもそも要らないから平常運転でそのへんで野良魔物討伐でもしてたかった僕の、意味もない現実逃避でした。以上。

「世迷言はいいから。ほら、さっさと潜る」

「へーい……」

 
 ……というわけで「どういうわけよ」僕らは今、海に来ています。

 

 きっかけは、ナナさんが……というか、姉さんがナナさん経由で持ってきた、僕らへの名指しでの『依頼』。

 なんかここんとこ、半分姉さんのお抱え冒険者みたいになってる気がするな、とか思いつつその内容を聞いたところ、また変わった内容のクエストだった。

 いや、変わったっていうか……不思議っていうかなんていうか。
 クエストの『中身』は普通なんだけど、その他の部分が色々と『さすがファンタジー』ってな感じなんだよね。

 内容ってのは、『希少素材の採取』。

 その名も『蒼海鉱石』。海でしか取れない、不思議な……それでいてかなり貴重で、各種アイテムの素材として非常に優秀な激レア鉱石。

 6日前、その新しい鉱脈が見つかったという情報が入った、という話が、ナナさんとザリーの両方から入り、さらにナナさんからは、姉さんからの『依頼文』も一緒に届いた。

 『他の業者も冒険者雇って収穫に乗り出すやろから、できるだけ急いでや』という内容の通り、このビッグニュースに飛びつく商売人は多かった。

 察知したザリーがあらかじめ馬車を予約していなかったら、そこにたどり着くのも一苦労だろう、というくらいに。

 何せ、その『蒼海鉱石』とやら、質によっては黄金と変わらない値段で売れるという、色々とデタラメな素材なのだ。
 その希少さと……発見および採取の難しさのせいで。

 
 ☆☆☆

 
「と、いうわけで、私達は今、こうして船に乗って洋上にのりだしているわけですね」

「……ナナ、あんた最近ノリがミナトみたいになってきてない?」

「あら、そうですか? それは嬉しいですねえ」

 と、
 マルラス商会が手配した、クルーザーサイズの素材採取用の船の上で、いつもながら緊張感に欠ける会話を、ナナとエルクは交わしていた。

 その脇には、海図を片手に海流などを簡単に予測しつつ、おかしそうに笑いながらその様子を見ているザリーと、退屈さゆえにだるそうにしているシェリー。

 そして、その船の上に、ミナトはいない。

 どこにいるかというと、だ。

「……お、来るか」

 と、
 ナナと話しつつ、船の淵から下……すなわち、海の中をのぞいていたエルクが、何かに気付いたようにつぶやくと、乗り出していた身をさっとひっこめた。

 そして、ワンテンポ遅れて、

 ――ばっしゃあっ、と、

 大きな水しぶきと轟音を立てて、突如、海中から、人の頭ほどもある大きな石が飛び出してきて……放物線を描き、エルクたちの船の真上まで飛んで、落下し始める。

 それを見据えてエルクは、あらかじめ用意していた『ネットシールド』……衝撃吸収型のバリアを出現させ、船底に穴を開けかねない勢いで落下してくる『石』を受け止めた。

 びよん、びよん……と、ネットの弾性が勢いを殺し、やがて無事に、その『石』はエルクの、エルクたちの手に収まる。

 弾まなくなったそれを、ネットの上からシェリーが受け取り、船の後方に備え付けられたかごに、ごとっ、と音を立てて入れた。

 そしてすでにその籠には、数十キロにはなろうかという、大量の『石』が積まれている。

「ふー……これで30個目ね、けっこういいペースじゃない?」

「いやいやいや、いいどころじゃないってコレ。とんでもないハイペースだよ」

「まあまあ、ターゲットがこんなに大量なのはいいことですよ。あ、でもシェリーさん、ちょっと後ろの籠に多すぎですね……前後でバランス取らなきゃですから、前の籠にももっと入れましょう?」

 額の汗を拭くシェリーと、海図を手にしつつ乾いた笑いを浮かべるザリー。

 そして、何やらクリップボードのようなものを手に記録作業を行っているナナはというと、船の前後に用意された籠の、そこに入っている石の量の差を見比べて、ううむ、と考えつつ指示を出す。

 そして、もう言うまでもないことかもしれないが、

 この、たった今海中から飛び出してきた石こそ、今回の彼らのターゲットである『蒼海鉱石』であり、

 そして、それを海中から『投げ上げた』のは……

 
「―――っぷはっ。どう? 結構採ったと思うけど……まだ続ける?」

 
 たった今、数十分にも及ぶ潜水から上がってきた、この少年である。

 
 ☆☆☆

 
 『蒼海鉱石』が超のつくレア素材である理由は、2つかある。

 まず、鉱脈が少なく、またどんなところに出来るのかもわかっていないこと。

 いやまあ、『海の中にしか出来ない』っていう共通点は、あるにはある。
 けど、数年に一度大規模な鉱脈が見つかったりした場合、過去のデータと照らし合わせてみても、その発生した位置なんかに統一性は無い。

 なので、どんな場所に発生しやすいとか、いつ発生するとかなんていう研究が進まない。
 そのため、ごくまれに偶然見つかった場合、そこに殺到するわけだ。

 そしてもう1つの理由。こっちがむしろメインかもしれない。
 採取するのが、とんでもなく大変なのだ。

 この鉱石、原石の段階から様々な特性を持っている。その数々の特性が、困難さの理由。

 まず、蒼海鉱石の鉱脈は、金や鉄鉱石、ダイヤみたいに穴を掘って掘り進んで見つけるものではなく、地表……というか海底にぽつぽつと湧き出る形だ。そのため、穴を掘らなくても、見つけて岩を砕いて掘り出すだけでいい。むしろ逆に、深いところにはなぜか出来ないらしい。

 だがこの鉱石、原石の段階では普通の意思と判別がつきづらく、注意してみないと見逃してしまうのだ。

 研磨すると、青水晶のような透き通った輝きを見せるんだけど、産出しただけの状態のそれは、僅かに青いきらめきを放つ、ほんのり青いただの石。しかも、発行しているわけでは無いので、夜暗い中で探すなんてことも無理。海中で目を皿にするしかない。

 次に、重い。

 加工後は別だが、加工前の『蒼海鉱石』は、水中において質量が数十倍になるという、厄介どころではない特徴がある。この特性のせいで採取する際は死ぬほど重いし、水の中でなくても、濡れているだけで重さは数倍になる。

 そのため、海中で見つけても、自力で抱えて上がるのは不可能。船からロープ……でも無理なこともあるので、鎖か何かを籠をつけて垂らして上げる。
 純度なんかにもよるが、握りこぶし大のそれを、大の大人数人がかりで引き上げる、なんてこともあるのだ。

 そしてさらに、硬い。

 まあ、有用な防具素材になるくらいだからその方がいいんだろうけど、研磨・加工する前の段階でも、鉄の剣やハンマー程度じゃそう簡単には砕けない頑丈さを誇っている。

 この特性のせいで、品質の低下や、仲買その他に値切られるのは覚悟の上で、海中から砕いて運ぶ……っていう方法すら難しいという鬼畜仕様。

 硬い・重い・見つからない。この3つの理由が、『蒼海鉱石』を激レア素材にしている要因なのである。

 そのため、並大抵の冒険者には、採取は不可能。というか、探す段階で長時間息を止めて海底に潜り、目を凝らさないといけないので、そもそも人間には無理に近い。

 なので、この鉱石の仕入れを画策する大手の商人・商会は、『半漁人』のような類にカテゴライズされる亜人を雇い、その力を借りる。

 エルフやドワーフと同様、『マーマン』なんてのもいるのだ。この世界には。なんかこう……耳の辺りにヒレっぽい飾りがあったり、手に水かきがあったり、肌の色が独特だったり……個人差というか、個体差は様々だけども。

 なお、世界のどこかには、下半身が魚の『人魚』もいるらしいんだけど……その辺はくわしくわかっていないとのこと。

 彼らは水中で呼吸が出来る上、種族特性として人間よりも力が強く、泳ぎも上手い。なので、『蒼海鉱石』の探索・採取にはもってこいの人材。

 彼らを雇い、海底を探させて蒼海鉱石を見つけさせる。そして、時間はかかるが手ごろな大きさに切り出して(『砕き』出して、か?)、船に回収する……というのが、普通の商人の主なやり口だ。

 
 ……まあ、僕はそのへんガン無視で、相変わらず滅茶苦茶なやり方やってんだけど。

 
 まず、僕は目がいいので、集中すれば僅かな色の違いなんてものも見分けられる。
 あればマシ、程度の差でしかないが、他の連中よりは一応有利だ。

 次に、僕には『トロン』でも使った『魔緑素』があるので、溺死の心配は無い。
 例え肺が海水で満たされようが、『エレメンタルブラッド』で強化された肺組織は痛まないだろうし、別な所から酸素はいくらでも入ってくる。

 ……前にも言ったように、一応怖いから息とめるけど(口呼吸的な意味で)。

 そして、『硬さ』と『重さ』だが、コレはもう力技である。

 鉱石を見つけたら、力任せにバキッと引っこ抜く。

 続いてアルバに、重力魔法で一時的に岩を軽くしてもらう。

 え、何でいきなりアルバが出てくるのかって?

 いや、こいつ例によって、『魔緑素』覚えやがったんだよ。

 僕と違って、『EB』の応用で体の中で作り出したんじゃなく、僕が使ってる『魔緑素』をコピーしてそのまま再現した、って感じなんだけど。僕の『魔緑素』が『アルラウネ』のコピーだから、いわばコピーのコピーだ。
 性能は大差ないけど。ちくせう、才能め。

 ともかくそのおかげでこの鳥、水中でも活動できるデタラメさ加減になってしまった。
 羽……羽毛に作ってるのか、ほんのり緑色になっており、そこから気泡がぷくぷくと。

 水の中を当たり前のように、飛ぶように(動き的な意味で)すいすい泳ぐフクロウ。言うまでもなく、シュールどころではない光景である。想像してみ?
 てか、鳥なのになんで泳げてんだろうこいつ?

 そんなアルバに、水中で軽くしてもらった鉱石を……小さくて軽ければ、力任せに、船に向かってぶん投げる。砲丸投げか何かの要領で。
 で、船の上で待ってるエルクが『ネットシールド』で受けとるわけだ。

 逆に大きくて重ければ、アルバに念動力系の魔法で運んでもらうか、『登って』届ける。
 足の裏に冷気を集めて、海水を凍らせて氷塊を作るのだ。それを、海底から徐々に伸ばしていって、柱状の、氷の階段を作る。場所とるから、螺旋状に。

 ちなみに、『届ける』場合は直接手渡す。シェリーさんあたりに。
 何でって? 僕を除けば、この中で一番腕力強いから。ザリーより。

 この繰り返しで、僕らは荒稼ぎ中。
 普通の『蒼海鉱石』採取が、船一隻につき1日数キロ(濡れてる状態の重さで)取れれば上等な所、僕らはもう、大小30個、重量にして300キロ以上は確実に取ってる。
 これ以上は、ちょっと船が心配になるくらいに。

 ただいま休憩中。
 船の上で、ナナさんお手製のお弁当を食べているところで……その製作者のナナさんはというと、何やら書類にカリカリとペンを走らせている。

 一応、彼女の所属は『マルラス商会』なので、その関係の報告書だそうだ。

 その顔には、笑み。どうやら、胸を張って報告できるだけの収穫と見てよさそうだ。

 ……ってなことを言ったら、エルクとザリーとナナさんに『いやいやいやいや』ってな感じのツッコミを同時に返された。

「さっきも言った気がするけど、ちょっとどころじゃないってコレ。蒼海鉱石の希少価値全否定してる感じだよね」

「ま、ミナトだし……しょうがないんじゃない? 私はもうこのくらい気にしないわよ」

「さすが最古参、強靭な精神をお持ちで……。まあでも、これはホントに予想外の大漁ですね。質は調べないとわからないですけど、これだけの量と大きさの蒼海鉱石なら、えーと、相場で……このくらいですかね?」

 姉さんのところで勉強したらしい目利きに基づいて、さらさらとペンを走らせて売却価格の見積もりを出すナナさん。

 こちらに見せてきたその数字は、だいたい……元の世界に換算すると、マグロ(一本釣り)数匹分くらいになりそうなお値段だった。

 船一隻で一回海に出て、一年働かずに遊んで暮らせるくらいの収入とは……マグロ漁師もとい、蒼海鉱石目当ての商人がこぞって海に出る理由もわかるってもんだ。

「いや、こんなに取れるのミナト君だけだから。間違いなく。……っていうか、あれ? アルバ君はどうしたの? 一緒に上がってこなかったけど」

「ちょっと休憩するって伝えたら、おやつ食べに行った。この辺、魔力持ったエビみたいな魔物いたじゃない? それ、セルフで狩りに行ったみたい」

「……何でもありだねー、ホント。」

 探してる最中とか時々、そのエビもどき見つけると、水の抵抗ないのかってくらい素早く動いて飛んでいって、ぱくっと行ってたから。

「さて、じゃあアルバちゃんが帰ってきたら、今日はもうおしまいにして帰りましょうか」

「え、もういいの? まだ昼前だけど」

「ノエルさんが想定してた量の三日分がすでに取れましたから問題ないですよ。ホント、ミナトさんにはいつも驚かされてばっかりです」

「あ、それでもノエルさんやっぱり予想してたんだね、そのへん」

 さすが姉さん。『うちの弟は一日あれば10日分くらいは採るやろ』とは、なんとも豪快というか思い切った予想を立ててくれる。
 まあ、半日かからずにその3倍いってやったけど。

 そしてその結果として、もういいだろってことで、今日午後からフリーになってしまいました、と。

 ナナさんはこれから、商会の『チャウラ』支部(あ、今更だけどこの町の名前ね?)に行って、今日の成果を提出&報告するらしい。

 姉さんの『マルラス商会』は、主要な都市にはけっこう『支部』がある。
 そのため、その都市では姉さんからの依頼なら、採集した素材を即時納品できるため、手荷物がかさばらない上に、内容によってはその場で報酬を受け取れるのである。

 ただ今回の場合、姉さんからの依頼は酷く適当というか、大雑把。

 何せ、急いでいたのか依頼内容は『採れるだけ採ってき』というもの。
 期間は『2週間』(ただし片道5日の移動含まず)。その間に採れるだけ、とのこと。
 というか、過去の記録から察するに、鉱脈発見から1~2ヶ月くらいで、取れる鉱石はほぼ枯渇するらしい。

 ただし、これは『いつも』の場合。
 今回、僕というスーパー採掘マシーンが参戦することから考えて、それを待たずして枯渇するであろうことは明白らしい。姉さんいわく。

 実際その『一ヶ月』という期間には、『多分10日くらいでなくなるけど、一応3,4日くらい余裕を見てから帰って来い』という意味がこめられている……と、この『チャウラ』という名の漁師町に来る道中、ナナさんに聞いた。

 そんなわけでナナさんはここで一時離脱する。まあ、宿が同じだから夜にはまた会うけど。
 残りのメンバーは、今日はもう自由時間だから好きに行動していいそうだ。

 ……メンバーって言えば、結局まだ『チーム』の名前決めてないし、登録もしてないなあ……なんて、岸に向かって進む船の上で僕が思っていると、

「いや~それにしても、ここいいわね~。普通に依頼のつもりで来たんだけど、なんか見渡してみた感じ、中々楽しめそうな雰囲気じゃない?」

 船から身を乗り出し、周囲を見渡して、シェリーさんがそんな一言を。
 にやり、と笑うその視線の先には……船に乗っていたり、海岸をあるいていたりする、屈強な男達。中には女連れも何人か。

 まあ、海っていうのは僕の前世でも、ナンパの定番スポットだった。
 心が開放的になるのはこの世界でも一緒だし、そりゃ、男が女に、また女が男に声を書ける光景だって、珍しくは無い。

 現にさっき出港前にも、ひと夏、もしくは一夜のアバンチュールを求めてか、エルクやシェリー、ナナさんに声かけてきたチャラそうな男たちがいたし。僕とザリーをキレイに無視して。どこの世界でも、ああいうのの頭の中は一緒ってことだ。

 ……けど、

「ん? 何だシェリーさん、逆ナンでもする気? ミナト君にお熱だと思ってたけど」

「違う違う、しないってそんなこと。お察しの通り、私の今のターゲットは彼1人だから、ね♪」

 ザリーの疑問に、さらっとそう返したシェリーさんは続けて、

「ほら見てよ、あそこもあそこもあそこも、皆冒険者か盗賊って感じの、しかも荒っぽそうな連中ばっかでしょ? アレきっと、こんだけ大量の『蒼海鉱石』持って帰ったら、難癖つけて絡んでくるわよ~♪」

「……なるほど、ちょうどいいエサを見つけたわけか」

 んなこったろうと思った。
 ホントに、この戦闘狂は……。何を絡まれるの楽しみにしてんだ。

「そういうあんたはどうなのよ、ザリー? せっかくの自由行動なんだし、女の子引っ掛けにいかないの? 見た目はあんた、あのへんの連中と変わりないじゃない」

「いや、見た目で話しないでよ……んー、僕もやめとくよ。ていうか、僕もともとそういうことしないようにしてるしね」

「え、そうなの? 意外ね、かわいい女の子見つけてついていきそうなのに」

「それも見た目判断? しないってば、相手がいくらかわいくても、そんな軽率なこと」

「軽率? 軽薄、じゃなくて?」

「そ、『軽率』。こういう、ナンパや逆ナンが自然に出来るような場所っていうのは、裏を返せば、ハニートラップを仕掛けるには絶好のスポットなの。ホラ、僕一応情報屋でしょ? だから、そういうのには気をつけてるから、こういう場所では逆に冷静になるってわけ」

 ほー、なるほど。そういう見方もあるのか。

 何だか2人ともどっちもどっちっていうか、海という場所の楽しみ方から見事に外れた感じだ。

 まあでも、

「ちなみにあんたはこの後どうすんの?」

「海の中にいるとさ、そこで役に立ちそうな新しい魔法のアイデアが次々と……」

「あーはいはい、開発あそびたいのね、魔法で。そんで私はそれに付き合えばいいのね。わかります」

 僕も大概だと思うから何も言わない。

 前にエルクが、魔法関連で何かを思いついた僕の目はいつもよりキラキラしている、といっていた(嫌な輝きだ、とも)。おそらく、今もそうなってるんだろう。

 そして、そのたびに何だかんだいって付き合ってくれるのである。
 具体的には、才能の関係で僕じゃできないこととか、色々と。

 ああもちろん、危険な実験なんかは絶対させてないので、誤解のないように。

 おかげでここの所、エルクの使える魔法のバリエーションは、1ヶ月前の3倍くらいになってる。

 ……けど、前にザリーが言ってたけど……普通の魔法使いは、1角魔法を習得するのにも、1週間から1ヶ月、難易度次第でそれ以上の時間をかけることも珍しくない、って。

 エルクの場合、長くても1週間、短くて数時間で、僕が考えた魔法を次々習得してくれるんだけど……。
 今更だけど、これ、才能……で片付けていいんだろうか?

 いや、思いついた端から形にして言ってる僕が言うのもなんだけど、さ。

「あ、でもミナト、その魔法研究、どうせいつも通り、人気のない場所でやるのよね?」

「え? ああ、うん。海辺の岩場とか、そのへん行こうかな、と」

「そっか……なら、帰りに釣りでもして、魚でも取って帰らない? 私達がノエルさんに紹介された宿屋、漁師宿でしょ? なんか、魚とか持ち込むと、それを料理して夕食とかで出してくれるらしいのよ」

「ホント!? うわ、それ楽しみ!」

「あらあら……ミナトくんったら、子供みたいに喜んじゃって。かわいい♪」

「そうだね。でも……」

 
「確かこの辺、食べられる大型の水生の魔物とかいるんだよね? 巨大魚とか、巨大エビとか、巨大ガニとか……あー、狩りかー、洋館時代思い出すなあ」

 
「……獲ってくる獲物は、ちょっとかわいくないラインナップになりそうだね」

「……ま、いいんじゃない? 美味しけりゃ」

 

 ――そして、夕方。

 思う存分実験と研究を済ませた後、適当に潜って捕まえた獲物を、漁師宿……というか、見た目ほぼ完全に『海の家』である、僕らが泊まっている宿に持ち込んだところ、

「ちょっ、これ、兄さんがしとめたのかい!?」

「はい、そうですけど……やっぱ大きすぎましたかね?」

 宿の従業員の、小麦色の肌のお姉さんから、尋常じゃないぐらいに驚かれた。

 まあ、獲ってきたのが、体長2m以上、八本足の、エビとカニをあわせたみたいな巨大な魔物だったから、無理ないけども。

 いや、エルク情報だと、食べられるらしいからさ、こいつ。

 
 ☆☆☆

 
 その夜、
 僕らが泊まっている『マリアナ亭』は、飲めや歌えのお祭り騒ぎになっていた。

 理由は、僕が昼間持ち込んだ、あの巨大ガニが、急遽今晩の夕食メニューに加わることになったから。

 その名も『スパイダークラブ』。
 前長2m以上の、カニと蜘蛛を合わせたような形の魔物。木製の船の船底くらいなら、そのはさみや太い足で容易く破壊する。水中での動きも俊敏で、浅瀬ではかなり危険な魔物の1つ。しかし意外にも、その肉は極上の美味。

 そんな、『食材』でもあり『駆除対象』でもある魔物を狩って持ち込んだ僕は、漁師宿の経営者であり、現役の海女でもある女将さんにひとしきり感謝され褒められた後、この巨大ガニを今夜の夕食で振舞ってもいいか聞かれたので、承諾。

 ……で、こうなったわけだ。

 急遽メニュー変更になったため、宿の食事が30分遅れたことに、不満たらたらの冒険者達も多かったけど、その豪華さを目にした途端、一瞬でそれも霧散。

 そしてそこに、今回の功労者として僕のことを大々的に(無断で)食堂中に告げたため、宴会中ずっと『ありがとよ!』ってな感じで絡まれながらの食事になった。

 悪い気分じゃないんだけど……騒がしい宴会より、静かな食卓が好きな僕なので、ちょっといきなりすぎで戸惑いながらの食事になった。

 まあ、料理はホントにおいしかったけど。特に、『スパイダークラブ』は。

 
 ☆☆☆

 
 で、その翌朝。

 久しぶりのご馳走とあって後先考えずに騒いだ結果、食事に来てる宿泊客の3分の1ほどが二日酔いでグロッキーになっている現状を横目に見つつ……ただいま朝食中。

 二日酔い勢があっさりしたものを頼んで、それすらも咀嚼・嚥下に苦しんでいる中、僕は朝からガッツリ、フライの盛り合わせである。
 新鮮な魚介がさっくりとした衣に包まれていて、美味し。

 おかわりしようかな、なんて考えながらサクサクといい音を口の中で立てて堪能していると、ふと、何やら食堂の外が騒がしくなっているのに気付いた。何だろ?

 すると、きょとんとした顔になっていたっぽい僕の様子に、ちょうど飲み物のおかわりを持ってきてくれた海女さんが気付いたらしい。

 ああこの宿、漁師宿だからか、従業員の人達みんな漁師さんか海女さん。
 これから海に潜るからなんだろうけど、朝っぱらから皆さん結構露出激しい感じの服装なので、最初はちょっと戸惑った。

 で、その海女さんが、テーブルにアイスティーを置きながらニヤニヤと笑って、

 「おや、どうしたんだいお兄さん? 口ぽかんと開けて。外にかわいい女の子でも見つけたかい?」

 「え? ああいや、そういうわけじゃないんですけど……何です? あの人だかり?」

 外に見える、人だかりっていうより行列って感じの人ごみを指差してたずねる。
 っていうか、僕口開いてたの? うわ、はずかし。

 すると海女さんは、僕の指の先に見える人ごみを見て、『あー、あれ』と納得したようにつぶやくと、

 「あれね、占いだよ、占い」

 「占い?」

 「そ。この辺じゃそこそこ有名なんだよ、ミュウちゃんの占いは。よかったらお兄さんも、仕事行く前にでも行ってみたらどうだい?」

 と、まるで自分の身内のことのように自慢げというか、嬉しそうに話す海女さん。ふーん、意外な名物があったもんだな、港町に。

 というか、ミュウちゃんって誰だろ……と、思ったその時、

 人ごみの一角が少しだけ開いて、一瞬だけ、その向こうにいる人物が見えた。

 見えたのは、椅子に座って、おそらくお客さんであろう男の人と笑いながら話している、小さな女の子。

 年齢は、12,3歳、ってとこだろうか? 背は低くて、顔も、まだ幼い感じ。美少女といっていいくらいに整ってはいるけど……どっちかっていうと、むしろ美幼女だろうか?
 金色、というよりは黄色とか、レモン色といった方がいい、色も手触りも柔らかそうな長い髪。長さ的には、腰の辺りまでありそうだ。
 で、その顔だけども……何だか眠そうな、半開きの目。そう、ある種のジト目。

 そんな、僕的な好みの基準で行くと、かなりかわいいというか、将来が楽しみといって差し支えない美幼女は……やはり一瞬で、人垣の向こうに見えなくなってしまった。

 え、何? 今の一瞬でよくそこまでわかったな、って?
 いやあ、あんまりにもかわいかったもんだから、一瞬で目に焼きついて頭の中に飛び込んできて、って感じかなあ?

 ……っていうのは冗談である。かわいかったのはホントだけど。

 いや、あの娘実は、昨日見てるんだよね。

 いつ見たかっていうと、あの宴会の最中。
 食堂をせわしなく、料理や空いたお皿を持ってとことこと駆け回ってたのである。僕のところにも、何度か『お待ちどおさまです~』って料理持ってきてくれた。

 他の従業員さんが皆、色っぽい海女さんか屈強な漁師風のおっさんだったから、彼女1人だけ浮いてた。だから、よく覚えてる。

 で、聴いた話だと、あの女の子はここの経営者さんの遠い親戚で、居候させてもらう代わりにお店を手伝ったりしてるんだとか。

 「お兄さんもどうだい? 冒険者らしいし、仕事運でも占ってもらったらいいんじゃないかい? さっきも言ったけど、あの子の占い、ホントによくあたるからね」

 「へー、そんなになんですか?」

 「ああ、もちろん。かくいうあたしも、最初は子供の遊びだと思ってたんだけどさあ……よく獲れる漁のポイントとか、今日の天気とか海の荒れ具合とか、ホントに当たるんだよこれが。今じゃ、漁に出る前に必ずミュウちゃんに占ってもらうやつもいるくらいさ」

 ほー、職人に当てにされるくらいの精度だと? そりゃ大したもんだ。

 見ると、エルクたち他メンバーも、そりゃすごい、と感心したような目をして、ミュウちゃんの方を見ていた。まあ、人だかりのせいで、ミュウちゃんは直接は見えないけど。

 「まあでも、それも一部だけどね。漁師や海女には職人気質も多いから、占いなんかより自分の経験や直感を信じるって奴も多いのさ」

 「あーまあ、そうでしょうね。でも……」

 話題づくりとか、暇つぶしにはよさそうかな?

 ちょっと好奇心を刺激された僕は、視線はその人ごみの方に固定したまま、皿の上に残っていたカキフライを口に放り込んだ。

 
 ☆☆☆

 
 「そろそろ行くわよミナトー? 準備できてんのあんた?」

 「できてるよー。っていうか、準備するほど荷物無いし、僕」

 朝食を済ませた後、本日の仕事のために部屋に戻った僕ら。

 身支度の最中なんだけど、僕の場合、携行する荷物や装備はほぼ『収納ベルト』に入れてるから、そういうのほぼ必要ない。
 だから実質、エルクの準備を待つだけなんだけど……

 「ホントにぃ~? 装備持ったの? 手甲と脚甲」

 「ベルトにしまってあるよ」

 「探索用の装備は? 耐水ロープとか、固定用の鈎針とか」

 「それもベルトの中だってば」

 「……じゃ、昨日新しく市場で買ってた、水中用望遠鏡は?」

 「……あ、机の上に置きっぱ」

 「水筒に水補充した? 昨日の夜も飲んでたけど」

 「……してない」

 「昨日、魔力もちの魔物の肉使って作ってた、アルバのエサ用のつみれ団子は?」

 「……もってない……あいたッ!」

 「ほら見なさい、あんた肝心なとこ抜けてんだから」

 エルクのチョップと、アルバの『何してんだよ』というツッコミであろう嘴の一撃が頭にヒット。

 やれやれ、またやっちゃったよ。時々こういうドジやるんだよなあ、僕。
 そのたびにこうしてお母さんに叱られ「誰がお母さんだ、誰が」また声に出てたか。

 「全くもう。さっき言ったのに、寝癖も直ってないじゃないの……ほらちょっと頭下げて、なおしたげるから」

 「えー、いいじゃんコレくらい。別に僕気にしないよ? それに、どうせこれから海入るんだから……」

 「い・い・の。私らのリーダーなんだから少しは身だしなみにも気ぃ使いなさいっての。いつどこにどんな人の目があるかわかんないでしょ?」

 そう言うとエルク、自分のブラシを持ち出して、僕の髪の毛をとかしてくれる。「しょうがないわねあんたは」とかぶつぶつ言いつつ。

 僕はこういう事には、前世から通して無頓着だったので、正直面倒なだけなんだけどな……ブラシもくしも、一応持ってたけどほとんど使わなかったし、整髪料なんて持ってもいなかった。

 せいぜい、大事な式典とか、受験の面接の日ぐらいしかそういうののお世話になったことなかったし、転生してからも、依頼人と会う時に少し気を使うぐらいだったんだけど……エルクは最近『常日頃からきちっとしときなさい』と世話焼き気味である。

 まあ、かわいい女の子に気にかけてもらえるのは嬉しいので、一応なすがままになってるけどさ。

 「さっとでいいよ、さっとで。あんましこると時間かかるし。なんなら、貸してくれれば僕自分でやるし」

 「あんたに任せるとほんとに『さっ』と髪の毛撫でただけで終わっちゃうでしょうが……よし、出来た」

 ちなみに、前にこんな感じの光景をシェリーさんに見られて、『どこの新婚夫婦よ』ってからかわれたのも、まあ今となってはいい思い出である。

 

 今度こそ支度を済ませて下へ降りると、そこには、というかそこでは、

 「え、ホント!? やーん、もしそんなことになっちゃったらどーしよーかしら? 一応正妻はエルクちゃんなのにーぃ」

 「いや、シェリーさん? 何か展開予想が飛躍しすぎてない? 別に、具体的な個人名が出てきたわけでもないんだし……」

 「ふふふっ、そうでもないかもですよ~? 結局こういうのは、最後には自分の度胸と行動がモノを言いますからね~」

 「わ、やっぱそう思う? よーし、こりゃ今日はお姉さんがんばっちゃおっかなー♪」

 なんだか、さっきまで人ごみがあった場所に、椅子に腰掛けて幼女と向き合って謎のハイテンションになっているナナさんと、その斜め後方に立って対応に困ってるっぽいザリーがいた。

 ……なんだ、アレ?
 いや、まあ、なんとなく予想はつくけど。

 おそらく……

 と、階段を下りてくる僕に気付いたらしいシェリーさんが、『あっ』と声を出して僕達のほうを向いたかと思うと、手を振って『こっちこっち』と僕らを呼ぶ。

 後ろのザリーと、向かい合って座っている幼女……ミュウちゃんも、それに続いてこっちに気付いた。

 そして、シェリーさんとミュウちゃんの間に置いてある小さめのテーブルの上には、水晶玉が置いてあった。占いの道具……かな?
 てっきり、カードとか使った簡単な占いかと思ってたんだけど、意外と本格的?

 そしてやっぱり、シェリーさんは僕らを待つ間の暇つぶしに、ミュウちゃんに占ってもらってたらしい。

 それはまあ、このテンションからして、どうやら好ましい結果が出たらしいなってとこまで含めて予想つくんだけど……。

 「と、いうわけでミナト君、今日私と一緒の部屋で寝ない?」

 一体どんな結果が出たら、朝っぱらからこんなせりふが出て来るんだコラ。

 背後でマンガ汗を流すザリーの存在を完璧に忘れたシェリーさんが、こっちにぐいっと身を乗り出すその光景に呆れたのか、はあ、とため息が後ろから。

 「おい、そこの色ボケ女。いきなり何を公然と卑猥なこと口走ってんのよ」

 「だってだって、聞いてよエルクちゃん。わたしこれから数日、恋愛運超絶好調なんだってさー! やーん、まいったなもー! こりゃいつも以上に積極的に行くしかないわね!」

 「あっそ、やっぱ占いか。でも意外ね? あんた、占いとか信じてるんだ?」

 と、エルク。

 それを聞いて、シェリーさんは一瞬、ちょっときょとんとした目に。

 「あー、うん。私の故郷って、そういうの結構大事にする風習根強かったのよねー。何だかんだいって私もそういうの楽しんでた気もするし、そのせいかも」

 「ふーん……ザリーは?」

 「僕はパスしたよ。あんまりこういうのに興味ないから……っと、コレは失礼、ミュウちゃん。別に、ミュウちゃんのこと否定するつもりは無いんだけど……」

 「いえいえ、お気になさらず。冒険者の方は、ほとんど皆さん、占いなんかよりも自分の経験や直感、仲間の方からの情報を信じますからね~。むしろ、女性と仲良くなるための話題づくりに利用されるの方が多いくらいで」

 あ、そうなんだ?

 話題づくり云々はともかく、まあ、理由としてはわかる気がする。冒険者なら、時に命がけの冒険に、占いなんて不確かな要素を持ち込みたくはないだろうし。
 一挙手一投足に気を配る、ザリーみたいな人種の人間なら、なおさらだ。

 そしてミュウちゃん、シェリーさんが満足げに席を立ったところで、

 「ところで、いかがですか? 黒いお兄さんに緑色のお姉さん。一つ、このミュウの幼稚な占い遊びに付き合ってみるというのは。今なら特別に、代金サービスしておきますよ? 昨日の夜は、私もおいしい賄いを食べられましたからね~」

 そう言って、ミュウちゃんは僕とエルクを見て、にっこりと笑った。

 
 ☆☆☆

 
 「へぇ~、それで、占ってもらったんですか?」

 「ん。タダだっていうし、せっかくだから、ってことでね?」

 ただいま、海の上。
 港で合流したナナさんも一緒に、昨日と同じ5人と1羽(あと、商会のスタッフの漕ぎ手の人何名か)で、今日も『蒼海鉱石』の乱獲目指して、あんまり他の冒険者がいないスポットを探して爆進中。

 移動中の時間潰すために、さっきの宿でのことをナナさんに報告中だ。

 ちなみにさっきナナさんがいなかったのは、一足先に港へ行って、商会のスタッフと段取りを確認していたからである。ホント助かるわ。

 「まあ、別に鵜呑みにするつもりないよ。ただ、1つの助言として心の中にとどめとくだけ。忘れるかもしんないけど」

 「でしょうねー、ミナトさんって、占いとか信じて無さそうですもん」

 と、ナナさん。あれ? 僕、そんな風に見える?

 「ええ、なんとなくですけど。いや、信じてないっていうより……いちいち占いの結果なんて気にするのもめんどくさがる、って感じですかね?」

 ……おお、当たってるよ、すごいなナナさん。

 ご明察。僕、占いとか全ッ然信じてない。前世から通して。

 朝、色んな番組でやってた占いとかも、暇つぶしとかで見て、その場のテンションだけが一喜一憂した記憶はあるけど……ラッキーアイテムもラッキーカラーも、家出るころには忘却の彼方だったっけ。

 信じてないって言うより、気にしないんだ、僕。そういうの。
 たとえ星座占い最下位でも、早くて1秒後には忘れた。遅くとも1時間はかからなかった。

 だから最初、どうせ忘れるしってことで、僕もエルクも遠慮したんだけど、あんまりにも熱心に、っていうかテンションMAXでシェリーさんが勧めるもんだから、ちょっとくらいならいいかってことで、やってもらうことに。どうせタダだし。

 で、その結果が……ちょっと意外というか、予想外だったのである。

 
 ☆☆☆

 
 テーブルの上の水晶玉を挟んで、エルクとミュウちゃん(ジャンケンで僕が負けたためこういう順番)が向かい合って座る。

 まあ、水晶玉占いとしては、おそらくオーソドックスなものなんだろうけど……

 「……むむむむ~」

 「「「…………」」」

 (たぶん)真剣そうな表情で、ミュウちゃんが……水晶玉を超至近距離で覗き込んでいる。
 具体的に言うと、もうほんのちょっと前かがみになれば鼻の頭が水晶玉の表面に触れて皮脂がついちゃうんじゃないか、ってくらい。

 「むむむむむむ~……」

 本人はおそらくどこまでも真剣。しかし、傍から見るとほぼギャグな光景。

 あの……ミュウちゃん? 本も未来も、あんまり至近距離で見てると目悪くするよ?

 いや、未来はどうなのかしらないけど、映像とかで見てるなら悪くなるかも。

 なんというか、逆に緊迫感というか、空気が張り詰めるような感覚すらしてきた。どこまで真剣なんだこの子、自分の未来の視力を犠牲に僕らの未来を明るくしようとしてくれてるのか。なんかお金払いたくなってきた。

 するとふいに、ミュウちゃんが水晶から目を離し、ついでに顔も離し……ふぅ、と一息ついた。

 疲れた目を休めるように、しばらく目を閉じて目頭を押さえてたけど、数秒でもとのキュートな半眼に戻る。

 そして、エルクに向き直ると、

 「さてさて、エルクさんのお望みは、冒険者としての今後の展望でしたね~?」

 「ええ、そうだけど……」

 ミュウちゃんは、エルクに占いの内容を確認すると、横に置いてあった水筒(ミュウちゃんのマイ水筒)からお茶を一口飲んでから、

 「さてさて、では早速結果を発表いたします~。拍手」

 ぱちぱちぱち。

 「まずですねーエルクさん、一言で言うと、今後の冒険者人生ですが~……中々に前途多難というか、波乱万丈なようですね。身近にいる誰かさんのせいで」

 「……あ、やっぱり?」

 おい、やっぱりって何だやっぱりって。

 いや、具体的な個人名を出されたわけじゃない。ない、けど……ミュウちゃん含む、僕以外の全員が、その瞬間チラッとこっちに視線をよこしたのには気付いたぞコラ。

 「まあ、そう感じつつも甲斐甲斐しくお世話してあげながらついていっちゃうエルクさんは幸せ者というか天邪鬼だなあだと……」

 「ちょ、ちょっと!? 何いってんのあんた!? 変な、っていうか余計なこと言ってないで、結果だけ聞かせなさいよ!?」

 なんか少し嬉しいフレーズが混ざってた気がするミュウちゃんのセリフをさえぎる、一瞬にして顔を赤くしたエルク。むぅ、なんか残念。

 ミュウちゃん、『仕方ないなあ』って感じの表情になると、またさっきみたいに至近距離で水晶玉を覗き込みながら、

 「はいはい~。まあでも、これから先しばらくは、波乱万丈と順風満帆が混ざり合ったような感じの日々になりそうですね~。色んな理由から山あり谷ありですが、その分ためになることがたくさんあって色々と身についていく、といった感じでしょうか~」

 「へ、へー……そうなんだ」

 ふーん? なんか、最初こそツッコミ所が多かったけど、だんだん結構まともな感じになってきたかも?

 けど、言ってることは占いとかにはよくありがちな、誰にでもそこそこ当てはまるような内容だ。これってやっぱり、いんちきとは言わないまでもただの……

 「けど、その困難も、自分の力を信じて全力で取り組めば、ほとんどは乗り越えていけるものばかりのようですね~。ふむふむ、どうやら最近、いろんなきっかけから大きく成長なされたようですね? しかしまだ、その力を十全に使いこなすための修行中、と」

 ……お?

 なんだ? 今のちょっと、当たってるというか……具体的で適確だったような?

 「う~ん、これは中々難儀な……今まで自分が『見る側』『呆れる側』だった領域に踏み込みかねない、といった道筋も見えますねえ。けど、エルクさん自身は、そのことを自覚しつつも気にしない、むしろ悪い気もしないし肯定的……と。その心根は……ほうほう?」

 ……なんだ? ホントに、えらく具体的になってきてない?

 今まで『呆れる側』だった領域に、って……もしかして最近エルクが自虐気味に言ってる、『私もすっかりあんたに毒されてきてるわね』っていう感じの意味か?

 「『むしろ望む所』ですか……ふっふっふ、愛されてますねえ、パートナーさん」

 「へ?」

 「んなっ!?」

 「まあどうやらエルクさんの未来は明るそうです。さっきも言ったとおり山あり谷ありですが、自分の気持ちに正直になってガンガン進めば、期待以上の結果が望めるでしょう」

 と、そんな感じで、顔を赤くしたままのエルクを放置してミュウちゃんの占いは終了。

 感想。
 ……なんだか、ただのお遊び、って感じじゃない……かも?

 
 ☆☆☆

 
 そんな感じで、僕もその後占ってもらったわけなんだけど……おっと、今日のポイントが近づいてきた。

 
 ……でも僕の、あんまり当たって欲しくない結果だったなあ。

 
 なんてことを考えながら、今日も激レア素材を乱獲すべく、僕は海に飛び込んだ。

 
 ☆☆☆

 
 『うむむむ……また、中々に大変な運命というか、アレな星の下に生まれてらっしゃいますね、お兄さん。特に女運と家族運あたりが壊滅的ですね……いや、これはある意味恵まれてるとも言えるような……』

 『……わー、すごーい、あたってるー(棒読み)』

 『生気を全く感じないお言葉をどうも。その分だと心当たりがある、当たってるものの、素直に喜べない、といったご様子ですね~』

 『……読心術でも使えんの? 君』

 『質問に質問で返すのは心苦しいのですが、わかりやすい、って言われたことは?』 

 『……いいや、続けて』

 『はいはい。しかし、本当に珍しいですね、お兄さんの運勢は。トラブルや困難、壁には事欠かないんですが、そのほとんどを正面から踏み潰して歩いていく様子が見えます~……ある意味順風満帆ですねえ、才能に恵まれているようで、何よりです~』

 『喜んでいいのかな? それ……』

 『何を自分にとっての幸福と考えるかは、あなた次第ですよー。ですがまあ、ここまで前だけ見てれば何とかなる人生をお持ちの方も珍し……ぉ?』

 『? 何?』

 『ほうほう……どうやらそんなお兄さんにも、近々かなり大きな壁が立ちはだかるようですねえ。一般人なら乗り越えるどころか、目にした瞬間に挫折するか死ぬかしそうなレベルの……お兄さんの人生には珍しく、かなり壁らしい壁、になりそうですねえ』

 『……? ほぉ……』

 『しかも、一枚じゃない……小さいのが2つ、大きいのが1つ。乗り越えるための鍵は、ひらめきと……お仲間を大切にすること、ですかねぇ。まあ、いつも通りに、しかし気を抜かずに頑張っていくのが吉かと。……こんなところですかね~』

 『ふ~ん……ありがと、参考にしてみるよ。けっこう具体的だったし』

 『はいはい~。さっきも言いましたとおり、お代はけっこうですよ~、お仕事、頑張ってくださいね~』

 

 ☆☆☆

 
 さて、と。

 「今日も午前中上がり?」

 「はい、例によって船の積載重量ギリギリですので。いや、ホント予想の斜め上ですよ」

 前にも言ったけど、僕ら……もとい、姉さんとこが用意した船は、小さめのクルーザー、ってくらいの大きさだ。
 その、前と後ろに、採取した『蒼海鉱石』を入れるための籠が置いてある。

 何で前後両方にあるかっていうと、言わずもがな。アホほど重い『蒼海鉱石』を積み込むことで、前後どっちかに重心が偏るのを防ぐため、両方に入れるのだ。

 しかし、それで船の姿勢は一応安定しても、最大積載重量ってもんはやっぱりある。
 それも、僕らクルー(僕らメンバー+舟漕ぐマルラスの職員)の分の重量を考慮した上で決める必要がある。

 が、しかし、姉さんおよびマルラス職員の見立てでは、この大きさの船なら、1日ずっと海に出て集めてるくらいで、ようやく限界重量になるだろう、って感じだった。

 だからこそ、必要に応じて着岸しなくても海の上にいたまま作業続けられるように、ナナさんが気を回して弁当作ってきたんだけど……昨日も今日も、その期待は裏切られた。
 や、まあ、一応……いい意味で、ね?

 普通の取り方(マーマン系の亜人を雇って採取)で一日に取れる量の数日分、最大で10日分以上もの量が乗せられる、姉さんチャーターの船。

 その船の籠、昨日も今日も半日にも満たない時間でいっぱいになってるけど、ね。

 クリップボードに挟んでつけた紙に、色々さらさらと書き込んでいるナナさんが、前後両方の籠に山積みになっている戦利品を見ながら、うーん、と唸る。

 「これは、うーん……逆にちょっと、まずいかな?」

 「? っていうと?」

 「いや、ちょっとですね……取れ方が予想以上過ぎまして。収穫量は申し分ないんですが、加工が間に合わない可能性が。あと、この量を一気に売りに出すと……」

 「……あ、もしかして値崩れ、とか?」

 「ええ。まあ、そんなに一度に市場に流さず、こっちでセーブすれば大丈夫でしょうけど……一応、入荷と供給のペースは要検討ですね」

 「なら、普通に取れる分は取っちゃって構わないかな? このままのペースだと僕ら、この新鉱脈の蒼海鉱石の半分以上採るかもよ? いや、割と本気で」

 「そもそも貴重な鉱石だってのは変わらないですからね、別にいいでしょう。けどどっちみち今日は、もうおしまいですね」

 携帯式のインク瓶の蓋を閉めでペンについたインクをふき取ったナナさんは、職員の人達に合図を出して船を出させる。

 碇を上げた船は、来る時よりもかなり遅いペースで、岸に向かって進んでいった。

 
 ☆☆☆

 
 昨日も午前上がりだったからか、今日はナナさんの弁当がなかったことにちょっとがっかりしつつ……しかしせっかくなので、今日は『海の家』で食べることに。

 といっても、前世であった典型的な『海の家』みたいな、観光客目当てなファンシーな感じの飲食店ではない。ここは、漁場や採掘場ではあっても海水浴場ではないので。

 たまにだけど、水棲系の魔物だって出現する湾なんだ。そもそも観光客なんかがくるはずもない。

 よって、ここに来るのは傭兵や冒険者であり、『海の家』もまた、そういう客層をターゲットにした、普通に酒場っぽい飲食店である。

 だがそれでも、どうやら『焼きそばの法則』は適応されるらしく……異世界だというのに、そして水着の美女も別にどこにもいないのに、焼きそばは美味かった。
 まあ、美女・美少女なら周りにいるからいいけど。

 というか、名前は違ったけど、焼きそばっぽい麺料理が普通にあったのには驚いた。スープはなく、たっぷりの野菜や肉、そして海鮮と一緒に、焼くというか炒めるというか、な作り方。香ばしくて、繰り返しになるが、美味かった。

 エルクたちも、思い思いの品を注文してぱくついてるけど、様子を見るに、だいたい同じ現象が起こってると見てよさそうだ。

 これは是が非でもおかわりすべきメニューだ、と僕が心の中で確信していると、

 「お! 誰かと思えば、昨日の宴会の立役者じゃないか! いい食べっぷりだね!」

 と、給仕兼ウェイトレスの海女さんが、僕を見つけるなり、そんな軽い感じで声をかけてきてくれた。なんか既視感あるな?

 まあ、無理ないか……この町、そこらじゅうに海女さんいるから。

 この『チャウラ』の町、漁師宿とか海鮮料理屋に、海女さんがそのまま従業員になってるとこが相当多い。まあ、効率的ではあるんだろうけど。産地直送どころか、ちょっと歩けば産地だし。こういうの、地産地消、っていうんだっけ?

 そして、その海女さん達はほとんど皆さん、にたような格好をしている。

 具体的にいうと、日焼けのせいか肌は全体的に褐色で、露出も多い。下半身はほとんど普通の服だけど、上半身はビキニ水着みたいに面積小さい服、って人が大多数。

 下さえ脱げばすぐにでも海に飛び込めそうな服。もしかしたら、ズボンの下には水着でも着てるのかも。

 そんなセクシースタイルな海女さんはと言うと、一緒にきたもう1人の海女さんと一緒に、さっき追加注文した料理をテーブルに並べながら、

 「いやあ、昨日は『マリアナ亭』はすごい騒ぎだったねえ?」

 「そうそう、近所って理由で、私たちまでおよばれしちゃったもんね? いやー、ホントにおいしかったー♪」

 うれしさが昨晩からまだ続いてるかのように言う海女さん。
 そうらしい。昨日の晩、僕が捕ってきた『スパイダークラブ』の料理、あまりの量なので、宿の経営陣と中のいい、近所の海女さんや漁師集めて振舞っていたそうだ。

 まあ、それでようやく、完食出来たらしいけど。
 当然っちゃ当然、か。熊以上のサイズのカニだし……しかも足が早いらしいから、その日中に食べようと思ったら、そういう規模のパーティになるわな、そりゃ。

 けどまあ、結果的に結構な人数の海女さんや漁師さんが、思いもかけないご馳走にありつけたとあって、今日は朝からご機嫌(ただし、二日酔いになった人以外は、だが)。

 それにあいまって、それを提供した僕の人気が何気に上がってるらしいことを、テンション高めの海女さんから聞かされた。

 「調子いいこと言わせて貰うけどさ、もしよかったら、うちの店にもなんか獲ってきて持ち込んでおくれよ。腕によりをかけて上手い料理に仕上げるからさ」

 「そして、その夜の私達のまかないも絶品になるのでしたー♪ あはは」

 何かこう、壁を感じないっていうか、フレンドリーな雰囲気の人が多いな、海女さんって。見た目の大胆さといい、そういう性格なんだろうか?

 すると、そんな海女さん達の背後……店の入り口から、

 
 「失礼します。店主……ラシア殿、いらっしゃいますか?」

 
 そんな声と共に、扉に付けられたベルのカランコロンカラーン、という音色。

 その音に反応して入り口を見ると、そこに、1人の海女さんが立っていた。

 ただ、他の海女さんとは……ちょっと雰囲気が違う部分がある気がするけど。

 普通(?)の海女さんが露出の多い服装なのに対し、今そこにたってる彼女は、上下一体の水着っぽい服に身を包んでいる。簡単に言えば、ビキニじゃなくて、ワンピースとかみたいな感じ。

 年のころは、僕と同じくらいかな。肌は褐色。ひきしまったスレンダーな体つき。
 顔は、美女とも美少女とも言えそうなそれ。目はきりっとして鋭く、気が強そう。ほどいたら少し長いかもしれない、紫色の髪の毛を後ろで束ねている。

 その少女は、なんだか微妙にかたかたと揺れている、網籠のようなものを脇に抱えていて……と、ウェイトレスの海女さんがその姿を確認するや、

 「おや、シェーンちゃんじゃないか? どうしたんだい、こんな時間に?」

 そう言って、僕らに一礼してから、その、自分が『シェーン』と読んだ海女少女のもとへ早足で歩いていく。

 「いつもは日暮れ前まで戻らないのに、珍しいね? 何かあったかい?」

 「はい。実は先ほど西の岩場に、潮流に乗ってこやつらが大量にきているのを見つけまして。とりあえず獲れるだけ獲ってきましたので、おすそわけにと」

 「ほぉ? おすそわけとはうれしいね……って、こいつは……!」

 蓋を開けて、籠の中を見せる海女少女……シェーン。
 それを覗き込んだ途端、どうやらウエイトレスだと思ったらここの店主だったらしい、ラシアさんという名の海女さんが驚愕していた。

 気になって僕らも、後ろからそーっと覗き込むと、

 そこには、

 「……ウナギ? 蛇?」

 「これ……『バイパーイール』?」

 「おっ、正解だよ緑色のお嬢ちゃん、よく知ってるね?」

 『バイパーイール』。
 そう、エルクおよびラシアさんが呼称したウナギもどき。

 見た目はウナギなんだけど……色は紫色で、しかも大きい。太さは10cm弱、体長は1m以上はありそうだ。

 そして、顔がかなり凶悪だ。蛇とウナギを足して2で割ったかんじで、口の中には鋭い牙がびっしり。……舌先なんか2つに分かれてるし、完全にこのへん蛇寄りだな。
 活け締めにでもなってるのか、動かない。

 そんなのが数匹籠の中にいて、ラシアさんは『はぁ~』と感心した様子だった。

 「たまげたねこりゃ……よくこんなにいたもんだと思うけど、それを捕まえたってのもまたすごい。さすがはシェーンちゃんだね」

 「? ひょっとして、珍しい獲物なんですか?」

 「珍しいし、見た目どおり凶暴で危険なんだよこいつら。まあ、本来はずっと沖の海にしか出ない魔物なんだけど、潮流に乗ってたまにくることがあるんだ。あとは、産卵の時期だけ、生まれ故郷の川に戻ってきたりね」

 普段は海、産卵は川、か。ホントにウナギか、鮭みたいだな。

 「でね、水の中で見つかったら最後、って呼ばれるぐらいに危険なの。雑食で何でも食べるし、かなり凶暴で好戦的だから……だからめったに『獲物』としてはお目にかかれないんだけど、これがまた美味しいんだよね~♪」

 そのへんで、海女さんその2の目が、だんだんと恐怖から歓喜に変わってきていた。
 なんか、食欲が前面に出てきてるな……これわ。

 「ま、こいつの言ってることももっともだ。なんせその『バイパーイール』も、昨日兄さんがとってきてくれた『スパイダークラブ』と同様に、貴重な食材だからね」

 「それがこんなに……うはっ、今夜はご馳走だ! そしておすそわけってことは、お兄さんのとこも今夜はこれなんだよね?」

 「はい?」

 「そりゃそうだろ? シェーンちゃんは『マリアナ亭』の……あー、そっか、あんたたしかほとんど厨房から出ないんだったね、夜は」

 「ええ、まあ……信条ですので」

 ぺこり、と会釈程度の礼を返してくれる。

 「あー、お兄さんも知らなかったんだね。このシェーンちゃんさ、お兄さんが泊まってる漁師宿の料理長なんだよ? 昨日の料理も、3分の1くらいは彼女が作ってたの」

 「そうなんですか?」

 「ああ。もっとも、本人は一旦仕事に入ると、なかなか厨房から出てこないから、客にはほとんど顔を覚えちゃもらえないがね。もっとホールとかにも顔出せばいいのに。器量はよしなんだからさ」

 「いえ、私はこの通り無愛想ですし、そういう仕事は得意なものに任せます。では、私はこれで」

 そう、眉一つ動かさずに言うと、シェーンちゃんは扉を開けて出て行……こうとして、

 「あれ? もういくのかいシェーンちゃん? せっかくだし、もう少しゆっくりしていけばいいのに。おやつくらい出すよ?」

 「いえ、急ぎますので。急いで漁師を集めて、残りのバイパーイールを狩らないと」

 「『残り』?」

 「ええ。私が狩ってきたのは、ほんの一部です。岩場にはまだ、大量にバイパーイールが」

 「「!!?」」

 その瞬間、海女さん2人の顔色が変わり、目が驚きに見開かれた。

 「そんなにかい? 確かに、そりゃ大変だね……」

 「でも、産卵の時期でもないのにどうして!? い、いや、そんなこと言ってる場合じゃないか……死人やけが人が出る前に、対処しないと!」

 「あの……話が見えないんですけど……?」

 
 「ではご説明いたしましょう」

 
 「「「おわぁっ!?」」」

 
 突如として聞こえたそんな声。な、何だ!?

 僕らや海女さんどころか、今まさに店を出ようとしていたシェーンちゃんまでもが驚いて、声のした方を見ると……そこには、

 今朝ちょうど言葉を交わしたばかりの、金髪幼女が、にこにこと笑って立っていた。

 驚きのこもった僕らの視線を浴びながら、至極当然のように歩いて店内に入ってくるミュウちゃんは、シェーンちゃんの前に立って、『どうもー』と軽めに一言。

 「探しましたよー、シェーンちゃん。ここにいらしたのですねー」

 「ミュウか。珍しいな、ほとんど外を出歩かないお前が。何か用か?」

 朝と同じ服装に、方からポシェットっぽい小さな小物いれを下げているミュウちゃんを見て、シェーンちゃんがそんな一言を。

 相手がミュウちゃんだとわかると、とたんにさっきの驚いたような表情はひっこんだ。そして、もとのクールフェイスにもどる。

 「ええ。お隣さんの船が今日大量だったようで、おすそわけにロブスターを6匹も頂いたのです。今晩の献立はコレをメインに組み立ててもらおうと思いまして……ですが」

 そこでミュウちゃんは、籠の中を覗き込んで『バイパーイール』を見ると、

 「これはメイン交代ですねえ……ここに持ちこんだところを見ると、『マリアナ亭』にも報告&持込済みですか?」

 「ああ。もっとも、もっと増えるだろうがな……岩場にまだうようよいた。早急に駆除しなければ、浅瀬の生き物が食い尽くされる」

 「……おぉ、そうでした。そのことについて説明するために、わざわざタイミングを見計らって登場したのでした」

 「「「おい」」」

 言われて気付いたけど、危うく僕も、すっかり忘れるとこだった。
 さっきこの子、明らかに狙ったタイミングで登場なさったっけね。

 ぽろっともらした本音で確信犯が決定付けられたところで、おほん、とわざとらしく咳払いをしたミュウちゃんは、

 「あー……『バイパーイール』という魔物はですね、雑食な上、その凶暴性と食欲の赴くままに周囲の動植物を捕食します。それは、大海原で暮らす通常時でも、産卵のために川に戻ってくる時でも変わりません。ですので、万が一、潮流に乗って浅瀬などに来た場合、かなり危険な上に、漁業関係者には蛇蝎のごとくやっかいな存在となるのです」

 「なるほど、漁師や海女さんの獲物……魚だけでなく、貝や甲殻類なんかも食べちゃうと」

 「さらに海草も食べますけどね。ともかくそんなわけで、漁場や浅瀬に彼らが迷い込んできた場合、即刻駆除すべき対象なのです。ま、美味しいのはおまけみたいなものです」

 なるほど、そういうことね……。

 彼女はこれから、他の漁師のとこに行くって言ってたけど……それは、岩場にまだ残ってた連中を駆除するためだったわけだ。潮の流れに乗って迷い込んできたと思しき、大量の『バイパーイール』を。

 放っておけば、漁の獲物を食い荒らす上、漁師や海女にとっても危険。だから、早急に駆除するべき。

 それも岩場という、人間が陸上から攻撃もしくは捕獲できる領域にいる今こそが絶好のチャンスである。……というのは、漁業関係者ならば誰でも考え至るところ、か。

 「今は、潮の流れの影響からか、連中は岩場からは動かずあそこにとどまっている。奴らがどこかの漁場に移動する前に、漁師を集めて駆除を……」

 「……ん? ちょっと待ってシェーンちゃん」

 と、
 ふと、シェーンちゃんのセリフでふと気になる部分があることに思い至った僕は、彼女の話をさえぎって割り込んだ。

 「? 何か?」

 「さっき『西の岩場』って言ったよね? それって、あの、こう……全体的に遠浅な感じで、その中にぽつぽつ小さめの岩が、海面まで出てきて足場代わりになってる場所?」

 「ああ、そうだ、ですが……それが何か?」

 「……ねえエルク、そこってもしかして……」

 「ええ……そうね」

 ……昨日、僕らが魔法の練習やったとこだ。

 
 ☆☆☆

 
 「いや、別にミナト殿とエルク殿がここで何をやったからといって、このウナギ共の大量発生につながる理由になったわけでもないだろうし、わざわざ来て頂かなくてもよかったのだ……です、が……」

 強気クールなせいなのか、ちょっと敬語が苦手っぽいシェーンちゃん。
 ああ、いいのいいの気にしないで、僕らが勝手についてきたんだから。

 ……いや、その……昨日、けっこう好き勝手にやったから、案外ホントに原因になってるかもしれないし。

 この景色を見慣れてる地元の漁師さんなら気付くかも知れないが、実は昨日と比較して、その景観から大きめの岩が3、4個消失していたりする。

 ……しかたないじゃん。静かな海の中に長いこといたら、なんかこう、インスピレーションが働いて、新しい魔法がわんさか思いついたんだもん。

 そしてそのうち、エルクが実践可能な魔法も僕が実践可能な魔法も、アルバが実践可能な魔法も多かったから、試してみた結果なんだもん。

 具体的には、

 風の刃の中に砂や高圧の水を混入させて飛ばした、カマイタチとウォーターカッター(水圧でダイヤとか切るアレ)が合わさった切断魔法『ネイチャーカッター』とか、

 砂や水を巻き上げた竜巻で攻撃or妨害する……と見せかけて、実はそれただの目くらましで、ワンテンポ遅れて、竜巻内で加速した魔力の刃が障壁貫通級の威力で無数に飛んでくる『キリングトルネード』とか、

 水中限定の技だけど、手のひらに一瞬で1000度を超える熱を生む『炎』の魔力と魔粒子を収束させることで、水を沸騰させて水蒸気爆発を起こしてその衝撃で相手を粉砕、しかも周囲半径数mの海水が沸点近くの熱湯になる追い討ちつきの『ボイルスマッシャー2』とか……まー色々と。

 それらを試したんだから……ちょっとくらい生態系が被害をこうむっててもおかしくないし、ちょっとくらいボランティアやった方が精神衛生上僕らも……ごにょごにょ。

 ちなみに『ボイルスマッシャー』の『1』は、洋館時代の魔法。手のひらに水を溜めて、それを相手に押し付けながら同じことをやる、陸上用の技だった。

 ……が、それだと別に水蒸気爆発がなくても、っていうかその前に熱で燃えるから意味ないな、と判断してボツになった。

 今の『2』だって、魔力コントロール修行があったから使えるようになった。

 とまあ、そんな背景もあって、気合入れた練習しちゃったんだけど……その、少しばかり痛々しい痕跡がそこかしこに……。

 具体的には、磨かれた鏡面のごとく見事な切断面の岩とか、細かく切り刻まれて砕かれて四散してる岩とか、根元から跡形もなく吹き飛んでる岩とか。

 そんなわけで、精神衛生上の問題から助太刀に来ました。

 あと、今後もここ使って訓練したいし。
 ここ、無茶やっても誰にも迷惑かからない(はずの)場所ってことで、わざわざ地元の人に聞いて見つけた訓練スポットだから、さ。

 「さて、そんなわけでウナギの駆除に来てみたわけだけど……こりゃすごいな」

 「ホント。昨日はこんなにいなかったのに……一晩でこんなになるもんなの?」

 「いや……ここまでの規模で、しかも産卵場所ですらないこんな岩場に現れるのは、前例がないことだ……です」

 「……あのさ、さっきから気になってたんだけど……もしかしてシェーンちゃん、敬語とか苦手? 別に、楽なしゃべり方でしゃべってもらっていいけど」

 「……すまない、なら、お言葉に甘えよう。昔から、どうも苦手でな、感謝する」

 「職場の同僚や上司には、敬語使ったりしないの? あ、私もタメ口でいいわよ」

 「普段から一緒に暮らしたり、働いている方々に対してならなれているのだが、初対面やそれに近い人物の場合はだめなんだ。どうも、習慣というか癖というか、でな」

 仲のいい人になら敬語使えるけど、知らない人には使えない、ってこと?

 前世が日本人の僕からしたら、何かむしろ逆みたいに思えるけど……そういうもんなんだろうか? 実際僕、仲良くなったらタメ口で、それ以外は基本的に敬語だし。今も。

 ただ例外的に、初対面時から『敬語使う必要ないな』って思う奴はいるけど。年下の人とか。あと、ザリーとか。
 ……敬語使う気が起きなかった、とも言うか。奴の場合は。

 シェーンちゃんに対しても、なんとなく敬語使ってなかったんだけど、あらためてシェーンちゃん自身から『敬語でなくていい』という申し出と、できれば『ちゃん』づけはやめてほしい、呼び捨てでいいっていう申し出があった。
 聞いたところ、年1コ下らしいし。

 なので、以降はそうしようと思う。呼び方、『シェーン』に変更。

 「しっかし、見事に浅瀬いっぱいに……100匹くらいいるんじゃない?」

 「みたいね。シェーン、こいつら売ったらいくらぐらいになるのかしら? 食べきれない分はお金に変えたいんだけど……ああ、もちろん分け前出すわよ?」

 「1匹あたり、大きさにもよるが銀貨1~3、といったところか。ただこれは漁業市場の相場価格で、ギルドの買い取り価格まではわからん。それと、分け前は結構だ。魔物専門と言っていい冒険者に、しかも『黒獅子』に依頼できるのだ。欲張ってはバチがあたる」

 「おろ、気付いてたの?」

 「容姿が特徴的だと聞いていたからな。若くしてAAAの超新星の話なら、この町にも届いている」

 ほー……僕も有名になったもんだ。いまだ世間知らずの本人を差し置いて。

 「それで、こいつらどうするの? 何でか知らないけど、今はまだ都合よくこの岩場にとどまってくれてるみたいだし……今のうちに何とかした方がいいんじゃない?」

 「何でここにきたのかがわからない以上、何がきっかけになってまた大移動始めるかわかんないもんね……で、どうやって取るかだけどさ、エルク」

 「何?」

 エルクのそばに飛んでいって、ごにょごにょ、と耳打ち。
 それを聞いて、エルクは『なるほど』という顔になって、

 「引き上げはアルバに頼めばいいかしら?」

 「アルバ、やってくれる? 念動力を使えば出来るでしょ?」

 ――ぴっ!

 どこで覚えたのか――ナナさんかな?――羽を器用に動かして『敬礼』でOKサインを出すアルバ。最近のこいつのマイブームである。

 多分このやり方でいいと思うけど……なんか、ちょっとだけ疎外感感じるような、そうでもないような。いや、まあ、上手く行くに越したことは無いんだけど、ね?

 だって、この作戦……僕、要らないんだもん。

 そんな僕の隣から、ちょうどいい高さの岩へと飛び移ったエルクは……ちゃぷ、と水の中に手を入れて、浅い海底面に手をついた。
 もちろん、ウナギがこないような浅さの部分に、だ。

 その手から、ほんのり緑色の光が漏れ出して、

 「じゃ、早速やるわね。『ネットシールド』広域展開」

 言うと同時に、海底面に沿って『ネットシールド』が展開されていく。

 まるで、丸められていた絨毯を広げて敷くように滑らかに、それでいて『面』にぴったりとそった形。傍から見てると、海底面に模様が刻まれたようにも見える。

 燐光を放つ緑の魔力の網がいきなり自分達の下に現れたからだろうか、ウナギ達は驚いて、ばしゃばしゃと水面を荒げている。

 程なくして、ウナギたちどころか浅瀬全体を覆うまでの広域『ネットシールド』を作り出したエルク。さて、次だ。

 「アルバ!」

 ――ぴーっ!

 言うが早いか、アルバは能力を発動させ……エルクが海底に敷いたその『ネットシールド』を、正に『網』のようにして持ち上げる。端の方から、ぐいっと一気に。

 結果、必然的に超巨大な『網』によって掬われる形になった大量の『バイパーイール』たちは、まさに『一網打尽』。空中に持ち上げられてあえなくとっつかまったのであった。

 ……ね? 僕要らないでしょ?

 「………………」

 「? どうかしたの、シェーン?」

 「いや、その……こいつらは普通、大怪我も覚悟の上で駆除するものだというのが漁師や海女の間での常識なのだが……こうも簡単に、あっけなく終わるものなのか、と思ってな……少々、驚いた。冒険者というのは、皆こうなのか?」

 「や、それはない。これはあくまで非常識な例。主に、こいつに関わった奴限定の」

 と、シェーンの疑問に対し、エルクが一応内容は自慢なのにどう聞いても自虐にしか聞こえない説明をしてる中で、僕は、この量のウナギどうやって運ぶんだろ? と考えていた。

 同時に、どんだけ広範囲におすそ分けしたらなくなるんだろ? とかも考えていた。
 あと、こんだけあるなら今夜は久しぶりに宿にも財布にも遠慮なく暴飲暴食できるかな、とも考えていた。

 ……そして、

 そんなことを考えている僕の視界の端に……ふと、小さな、しかし動く何かが映ったので、そっちを見てみると……

 (……猫……?)

 遠目だからわかりにくいけど、おそらく肩に乗るくらいの大きさであろう、クリーム色の毛並みの小さな猫が、とことこと歩いて茂みの中に消えていく所だった。

 野良猫、かな? まあ、いいけど。

 なんとなく気になったその猫の尻尾が茂みの中に消えたタイミングで、おそらくシェーンが事前に読んでいたのであろう、漁師仲間の人達が、大きなリヤカーをいくつも引っ張ってこっちにきたのが見えた。

 おっ、問題解決。

 

 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ