29/197
第79話 顛末と『チーム』の構想
今回が第5章最終話です。
次回から第6章……の前に、人物紹介入れるかもですが。
ともかく、どうぞ。
ある日の昼下がり。
ネスティア王国の王都。
その中心部に聳え立つは、当然のごとく王城。それと並ぶ形で、そこに住む、あるいは出入りする者たちを守護するために建てられた、ある建物が存在した。
名を、『王国軍中央総司令部』。
警備隊から騎士団まで多様な種類の部隊が存在し、この国の治安を守っている公の巨大組織、王国軍の中枢。
同時に、王国の中でも有数の手練が、将官あるいは官僚として勤め、兵達を指揮して王都の防衛を担っている、最強最後の砦。
一説には、即時にでも他の国家と戦争できるレベルの戦力が常駐しているとか、不用意によそ者が入ったら二度と出て来れないとか、怖い噂も存在している。
しかし何よりも、あながちただの噂でもないからたちが悪かったりする。
その建物の中の一室。
普段、会議などに使われる、広くも狭くもない部屋に……スウラ・コーウェンは呼び出されていた。
そしてそこで、通常ならば絶対に、スウラ程度の者ではお目にかかることなど出来ない2人の女性が、テーブルを挟んでスウラと向かい合う形で座っていた。
2人の視線にさらされているからだろう。普段冷静なスウラは、緊張からか若干呼吸を乱しており、額には汗も浮かんでいる。口を開けば、焦って噛むくらいはしそうである。
しかし仮にそうなったとしても、スウラを責めることなど誰も出来ないだろう。雲の上の存在――地位的にも、そして実力的にも――である2人の上官を前に、緊張するなと言う方が無理だ。
……むしろ、
「……おい、呼び出しておいてうとうとと寝るな、アクィラ」
「……はっ、寝てませんよ?」
「寝とった奴は大体そういう。それとせめてよだれ拭いてから言うんじゃな」
「……すいません。昨日遅くまで面白い読み物を読んでいたものですから、仕方なく」
「いや、やむをえない理由があったみたいな言い方をするでないわ。どう考えてもおぬしの単なるバカじゃろうが。……すまんな、若いの、こんなのが上官で」
……むしろ、こんなやり取りを、部下とはいえわざわざ遠方から呼び寄せた客人の前で繰り広げる2人こそ、ツッコミ所があると言えるだろう。
(……素、か? それとも、緊張をほぐしてくれようとわざと?)
そんなことをスウラが思っていると知ってかしらずか、おほんっ、と咳払いをして、今しがた意識を覚醒させた女性は、あらためてスウラを正面から見据えた。
「えー、お見苦しい所をお見せしましたね、スウラ・コーウェン大尉。あらためて自己紹介……は、必要ですかね?」
「形式的に、でいいからしておけ。一応初対面じゃろ、わしら」
先ほどから天然漫才を繰り広げているこの2人、力の抜けるやり取りとは裏腹に、実はとんでもない高官である。自己紹介するまでもなく、当然スウラが知っているほどの。
1人は、王国軍大将、イーサ・コールガイン。
薄いパープルブロンドの長髪に、色黒の肌、女性的で豊満な体つき。そしてそれに似合わないジジイ口調が特徴の、妖艶な女性である。
その階級……『大将』という肩書きからもわかるように、軍部において限りなく頂点に近い権力をもつ高官である。
彼女の上には、王族や一部の大貴族を除けば、王国全軍における総大将である『元帥』1名をはじめ、3名しか『上司』というものが存在しない。
……そして、その3名のうちの1人が、何を隠そう、隣に座っている彼女である。
ショート以上、セミロング未満といった、女性としては若干短めの、そしてこの世界では珍しい黒い髪。顔はやや童顔で、おっとりした雰囲気、つぶらでやや眠そうな目。イーサに負けない程度には豊満な体だが、肌は対照的に、かなりの色白だ。
見た目からも中身からも実年齢が絶対に想像できないこの女性、何を隠そう、この国の魔法部門の頂点に君臨する存在『魔法大臣』。彼女自らも魔法に携わり、それを行使する人間であろうことを、その胸に抱えるようにして持っている杖が物語る。
名を、アクィラ・ヨーウィー。
ネスティア王国魔法研究部門および王国軍魔法関連部隊の最高責任者にして……キャドリーユ家『長女』である。
先ほどから直立不動の姿勢を貫いているスウラとは、あまりにも対照的にリラックスした雰囲気を纏っている2人は、本日、最近起こったある案件について、間近でそれに関連したスウラに事情を詳しく聞くためである。
……である、が、
「でも、本当に面白かったんですよ、イーサさん。ほら、コレ。イーサさんも読んだでしょう? 私、もう3回目なのに、時間も忘れて読みふけってしまいました」
この女の奇行がまだ終わらないのを悟り、だんだんスウラの頭の中に『緊張するのをやめる』という選択肢が浮かびつつあった。
「あのなアクィラ、いい加減に……ん?」
と、イーサは、先ほどから脱線しかしない同僚の態度に、額に青筋が浮かぶ一歩手前の苛立ちと共に鋭い視線を向けるが、その目が、アクィラが突き出して指し示した『面白いもの』を捉えた途端、きょとんとして、
続いて、疲れたような表情に変わった。
「……アクィラ? わしの目がおかしくなっていないのなら、その『読み物』とやら、『ミナト・キャドリーユに関する調査報告書』って書いてあるように見えるんじゃが」
「? 正にそう書いてありますけど……それが何か? すっごく面白かったでしょう? 何度読んでもあきないんですよ。ホラここ、ころころ姿が変わる特殊な強化魔法のくだりなんて傑作ですよね。あ、ちなみにイーサさんが最近老眼なのは否定しませんけど」
「最後の余計な一言を撤回せんか、殺すぞ小娘。というかおぬし、諜報部に調べさせた自分の弟に関する報告書見てそういう感想を抱くんかい」
「はい。上手く隠れてたと思ってた諜報部隊が実はとっくの昔に気付かれてて、デート中にまでついていこうとしたら『さすがに邪魔なんで帰ってもらえます?』って言われて、菓子折りもらって追い返されたくだりとか爆笑ですよね」
「……もうええわい。スウラ・コーウェン、重ね重ねすまん。こいつは空気か何かだと思って気にせんことにして、報告を始めてくれんか」
「は、はあ……」
☆☆☆
一向に始まる気配を見せなかった事情聴取。
その本来の内容は、先日『トロン』で起こった事件についての聴取。
あの後、表面上は、大富豪の私利私欲にまみれたどす黒い陰謀と、その結果、何年にもわたり大量の奴隷が非人道的な実験の犠牲になっていた、という事実が明らかになったことで、一応の決着を迎えた。
その結末は、モンド親子が全財産没収の上死刑、管理していた山々などは公的機関によって管理されることになり、一族郎党が同様に財産没収の上、国外への永久追放刑となった、というところまでは公開されている。
しかし、もう2つ。
公に発表まではされていないものの、王国上層部の耳にもきちんと入ってきていることがらが存在した。
1つ目は、最近方々で問題視されており、迷惑な信念の元、利用される形でそのたくらみに加担し、結果壊滅したある冒険者チームの存在。
これに関しては、『以前から問題視されていた連中が、とうとうやりすぎて何らかの形で処罰された』といった程度の情報しか発表されていない。
実際は、メンバーの1人が死亡、残る2人のうち、1人は追放処分となり、もう1人は……獄中で死亡している。
「たしか、生き残った方は、リュートという名前でしたね? 罪状は……多いから省略するとして「おい!」処分は、冒険者ギルドの除名・永久追放。加えて財産の95%の没収と、王国からの永久追放、か。これはまた、中々に絶望的な状態で放り出されましたね」
「たしか、王国北西部の田舎町の出じゃったな。報告では、交戦の末隻腕になってしまったとか。まともに剣も振れなくなった上に、故郷に帰ることもできん、か……隻腕では、襲ってくる盗賊の撃退もままならんじゃろうし、野垂れ死にがせいぜいかのう? そして、もう1人……」
「お仲間のアニーさん、でしたか、スウラ大尉? 獄中で死亡したとか」
「はい。護送を翌日に控えた夜でした……」
リュートの末路や、ギドの死亡は、調べようとすればわりと簡単にたどり着ける話であったが……ここから先は、オフレコであった。
もう1人の生き残る『はずだった』仲間、アニーの結末だけは。
ことの重大さゆえに、護送用に用意した馬車では罪人を監禁するには足りず、下っ端まで含めて数十人――ミナトが『減らした』結果の数字だ――の罪人達は、リュート達も含め、トロン支部の留置施設に監禁してあった。
そして、方々から大きすぎる、そして多すぎる恨みを買っていたアニーに、そこで悲劇が起きた。
簡単に説明すると、アニーを閉じ込めていた女性用独房の看守が、その日に限って『偶然』居眠りをしたり、同じ時間に用を足しに行ってしまい、監視がいなくなった。
その隙に、そこに忍び込んでくる男達がいた。
容貌は、薄汚い浮浪者風であったり、ある程度整った身なりであったり、冒険者風の装備であったり、様々だった。
彼らは、突然の侵入者に驚くアニーの目の前で、『寝ている』看守の机の上に、これまた『偶然』無用心にも置かれていた、アニーの独房の鍵を取り、その独房を開けて中に押し込み……
……翌朝、
体中に、暴力的な意味と性的な意味、二重の意味で酷い乱暴を受けた痕跡が見られるアニーが、おそらくは自分でやったと思われるが、舌を噛み切って死んでいた。
この事件の実行犯たちが、自ら名乗り出て捕まるのと、彼ら全員が、過去に何らかの形で『ブルージャスティス』による被害を受けていたことが明らかになるのに、時間はかからなかった。
「因果応報、とでも言うのかの……罪人とはいえ、さすがに女として同情するわい」
「ええ。気持ちはわからなくも在りませんが……罪は罪です。もっとも、誰一人、逃げようとも言い逃れようともしていないようですが。居眠りをした衛兵含めて。でしたね?」
「はい。彼らの処罰もじきに決まるとのことですが……方々から、免罪や減刑を嘆願する声が届いていまして、司法機関としても扱いに困っているようです。見通しとしては、ほとんどの加害者が労働奉仕刑や罰金刑、追放刑になるものと」
「……やれやれ、ある意味、そやつらよりも世の中の方が残酷かも知れんの」
ためいきをついたイーサはしかし、それ以上何か続けることはしなかった。この話はこれで終わり、確かにかわいそうだが余計な感情移入はしない、とでも言うように。
そしてその直後、思い出したように言った。
「ああ、そういえば……その事件について、何やら気になる報告が、おぬしとは別の部署から上がってきとったな……一応教えておくか」
「? と、申されますと?」
聞き返すスウラに向きなおり、イーサは『うむ』と話し始める。
「いや、ちょっと引っかかって気になっとる程度なんじゃが……2つほど、な。まず、今回の一件の主犯……グロンド・ハックとモンド・ハックの親子を取り調べたんじゃが、一部供述の裏が取れんところがあっての? 具体的にいうと……奴らの提携先なんじゃ」
「提携先?」
「うむ。奴らは闇の商売……いわゆるブラックマーケットにも手を出しとったんじゃが、そこで協力関係にあったグループを吐かせた中で……1つだけ、いくら探しても存在すら確認できんグループがあったんじゃ」
モンド親子への尋問の結果、闇でつながっていたグループがいくつも判明し……そのうちのいくつかはすでに検挙に成功している。
しかし、尋問で出てきたものの中で、ただ1つ、尻尾すらつかめないものがあった。
それが、協力的な供述によって少しでも罪を軽くしようとするモンド親子のはったりなのか、はたまた本当に尻尾すらつかめない、陰に隠れた組織なのかはわからないが……現在もまだ、その1つだけが見つかっていない。
そして、イーサが気になっているのは……もう1つ。
「モンド親子なんじゃがの……どうも奴ら、薬の研究をどこかと提携して進めとったようなんじゃ。調査させた連中の分析によれば、奴らが扱っとった薬は、モンド親子のお抱えの研究チームだけでは、到底完成にはこぎつれられん技術レベルの代物だと」
「……? それは、つまり……裏でつながっていた連中と共同開発を?」
「ところがおかしなことに、どの書類にもそんな事実は記載されておらんかった。モンドらが単独で開発に成功した、という内容のものばかりだったんじゃ」
その瞬間、スウラの頭を……最近あった、よく似た報告がよぎった。
『改ざんの痕跡があるのに、内容的には問題ない書類』
細工されたと思われるにも関わらず、モンド親子にはなんのプラスにもなっていない、普通に考えておかしな書類。
今聞いたのは、『共同研究されたはずの薬の手柄がモンド親子単独になっている』というもので、こちらは逆にモンドらに得になっていて、協力者に損になっているものだ。
可能性としては、モンド親子が手柄の独り占めを狙って書類に細工した……いや、これは考えにくい、とスウラは思い直す。
手柄と言っても、それは裏の業界だけに限ったもの。書類自体、人の目に触れることも少ないであろうものなのに、それをわざわざ改ざんしておく必要性は無いのだ。
だとすれば、先ほどの例もあわせて、考えられる可能性は
……モンドらの共同研究者だった何者かが、モンド親子の逮捕から自分達のもとに捜査の手が及ばないように、書類に手を加え……自分たちがいた痕跡を消していった、というもの。
そう考えれば……色々と説明がつく。
モンドに特にならない『改ざん』。あれは、自分達の痕跡だけを消して、モンド親子の所業はそのまま変えずに書類に残しておいたため。
薬の研究がモンドらだけの手柄になっていたのは、これもさっきも言ったとおり、自分達の痕跡だけを消して……モンドらを隠れ蓑に利用したため。
さらに、今この場には出てこなかった話だが……以前受け取った、モンドらの薬の技術が流出し、他の都市で類似品が多く出回っているという報告。
これは……その共同研究者たちの仕業ではないのか?
彼らは、モンドらを巧みに利用し……利用されているという事実にすら気付かれずに裏で利益をむさぼり、限界を悟ると気付かれずにまんまと逃走したのではないか?
そしてそれこそが、王都の捜査チームがいくら探しても見つけることの出来なかった、その謎の『提携先』ではないのか?
そんな疑問が、スウラの頭の中に次々浮かんできていた。
(となると、この一件……まさか、『黒幕の黒幕』がいたとでも……?)
「……まあ、これは今は、頭の片隅にでもとどめておいてくれればよい。確かめようのないことを今色々と類推しても栓無いからの」
と、スウラの頭の中に数々の懸念を残したままではあるが……イーサはそこで話に区切りをつけた。
他にも話すべきことはあるのだ、と言って。
スウラも、やはり気にはなったものの……それに従い、続きは後で自分の頭の中で行うことにした。
そしてイーサは、今度は、
……先ほどアクィラが最高のコメディ図書であるかのように評していた、その事件の軍外部での功労者の報告書を手に取る。
そして、これから彼女達が話題にすることこそ、発表まではされていない、その事件におけるもう1つの裏の真実。
ミナト・キャドリーユという、途轍もない非常識の存在と、その将来性という名の危険性についての確認と、対処法の議論だった。
「あ、話の前にスウラさんもコレ読みませんか? 面白いですよ?」
「いえ、あの……その報告書は私が書かせていただいたものですので……」
☆☆☆
「ってな会議が王都で開かれたらしいんだよね。兄さんの話だと」
「……ふーん」
驚くことをやめたエルクの眼は、やはり三白眼。
その視線の先には、僕が……正確には、僕が持っている、その会議というか事情聴取の『議事録』がある。こないだ来た兄さんが、王都からお土産に持ってきてくれたやつ。
思いっきり内部文書だと思うんだけど、いいんだろうか、コレ?
「はぁ……いやあ、まさかそんな大物が出てくる事態になるとは、私も予想外ですね。魔法大臣のアクィラさんに、軍部の『大将』なんて」
と、僕の隣に腰掛け、獲物である『ワルサー』の手入れをしているナナさんが、つぶやくように一言。
あ、ちなみに今僕ら、ウォルカ郊外のいつもの空き地である。
朝練がちょうど終わったとこ。
最初はエルクと2人きりで始めたこの『朝練』も、ずいぶんとにぎやかになった。
参加者は、僕、エルク、シェリーさん、ザリー、
そして新たに僕らの仲間になったナナさんと……
……向こうで、今日も元気に魔物を焼き払ってるアルバの、5人と1羽だ。
しかし、アルバ楽しそうだなー……見てアレ、縦横無尽に攻撃魔法が飛び回ってる。
しかも、驚くのは……その魔法の『動き』だ。
普通、『ファイアボール』や『エアロスラッシュ』は、簡単に言って、飛ばせば終わり、の技である。発動させ、前方……だったり側方だったりするが、敵または目標物に向けて発射してしまえば、あとはその火炎か風刃が相手を切断するのを待って終わりである。
だから、
あんな風に……飛んでいって『ウルフ』を一体倒した『ファイアボール』が、戻ってきて残りの火力で別な一体を再び攻撃したりなんかは、普通しないし、
ウルフ2体を切断して飛んでいった『エアロスラッシュ』が、ブーメランよろしく戻ってきてもう1体、背後から真っ二つにしたりするなんてことは、普通ありえない。
……うん、当然僕が犯人なんだけどね?
「いやー、ここまで上手く使いこなしてくれると、考える側としても嬉しいなホント」
「……あんた、アレを見て頭の中に感動以外の感情は何か浮かんでこないわけ? 危機感とか、後悔とか」
ごめん、そういうのはだいぶ前に捨てた。
教えた端から、そして考えた端から僕のオリジナル魔法を吸収していくアルバは、今や自重という言葉から大きくかけ離れた存在にまで成長している。
現在、生後5ヶ月と少々。たぶん、今のアイツにランクをつけるとしたら、Aじゃまず足りないだろうと思われる。
行く先々で色んな魔法を見て、魔物を相手にそれを試して、さらにそこに僕が色々とやばい魔法を教え込む。それだけならまだよかった。
しかし先日、とうとうとんでもない進化を見せた。
何度もこいつを肩に乗せて『エレメンタルブラッド』や『他者強化』を使っていたからだろうか。
なんとこいつ、身体強化魔法を……『他者強化』を体得しやがったのだ。
ただし、何も『EB』を体得したわけではない。
あれは、色んな理由でそんな簡単に体得できるようなものじゃないし。
こいつが体得したのは、いわば、普通の強化魔法と『EB』の中間だ。
体を、普通の強化魔法より多く、濃密かつ繊細な魔力で覆い、緻密かつ滑らかに魔力を充填して体を強化するという、『EB』の基本原理を、劣化版ながら普通の強化魔法で実践しているのである。
結果、魔法使いタイプなのに、肉弾戦も強い『ネヴァーリデス』がこの世に生誕した。
具体的には、ランクCの魔物『リトルビースト』の突進攻撃に、正面から頭突き気味の体当たりで突っ込んでいって、楽勝で競り勝って相手をふっ飛ばせるくらいに。
加えて、使える魔法は更に増えた。
こないだエルクに聞いたら、今現在191個らしい。よく覚えてるな……。
……あと9個で200個か。ふむ、そっちの方がキリいいな。
「自重しなさいバカ! あいつこれ以上強くしてどーすんのよ!」
飛んでくるエルクのチョップ。
……何だか最近、キレがよくなってきた上に、威力も上がってる気がする。
「全くもう……あんたはホントに、興味持ったら何もかもかなぐり捨てて一直線になるんだから。アルバといい、ナナといい……」
と、呆れながらつぶやくように言うと、ちらっ、と、その視線をナナに、
正確には、ナナが手に持っている銃(の形の魔法発動体)に向ける。
さっきも言ったとおり、その名を『ワルサー』。
正式には『ワルサーN64』。
『トロン』の地下迷宮、その宝物庫から持ってきたガラクタ……だと思ってたものをくみ上げたら出来てしまった、というか復活させてしまった、超強力な魔法発動体。
ほぼ『ワルサーP38』そのものの見た目に、杖の元々の色である白銀の銃身が特徴的な、立派なマジックアイテムとして再生。
ちなみに名前は……ナナさんに頼まれて、僕がつけた。
……一応弁明させてもらうと、夜中眠くてテンション変になってる時にこういうの考えると、ろくなアイデアが出ません、とだけ。
僕がうっかりぽろっと言ってしまった『ワルサー』って単語に、ナナさんの名前の頭文字である『N』、そして、ナナさんがオークションで出品された順番である『64』を組み合わせた名前……だったはず。
名前付けたとき、『何で数字とかアルファベット入れる必要があるんですか?』とかナナさんがもっともな質問してた気がするけど……なんか厨二的なバカな理論で反論した気がする……思い出したくない。
そしてその名前……長いので結局略して『ワルサー』になってるけども。
そしてそれを振りかざして戦うナナさんは、魔法使いってより、完全にガンマン。
それも、狙撃するタイプじゃなく……大量のゾンビとか相手に大立ち回りしそうな、立体的でアクション性の強い動きの。
もともと、発動の速さと狙いの正確性、そして一発一発の、ピンポイントながらも必殺と言っていい威力の攻撃が自慢だったらしいナナさん。
サイズの小さな、しかし速くて強い魔力弾を主に攻撃手段に使うのだ。
そのせいで、見た目完全にハンドガンな『ワルサー』は、いろんな意味でこの上なくナナさんにマッチしている。
0.1秒以内に魔力弾をつくり、先端部分……すなわち銃口から発射。
しかも、弾切れなんてものは存在しない。彼女の精神力と魔力が続く限り。
それを手にしたナナさんはというと、『今まで遣ってきた武器の中で一番使いやすいです!』と大喜びしてくれた。
それが、お世辞混ざってるのかどうかはわかんないけども、少なくとも、それを使うナナさんの実力は、紛れもなく本物。
どの程度かっていうと……戦闘力にして、おそらくAA相当。それも、AAA寄りの。
僕以外で唯一、シェリーさんとの戦闘訓練がまともに勤まるレベルなのだ。
さっきチラッと言ったけど、ここ数日、シェリーさんと何度も組手(武器あり)してるし……その戦跡は、6:4でシェリーさんに軍配、ってとこ。
体術や剣術なんかの接近戦ならシェリーさんに分があり、中・遠距離の攻防ならナナさんに分がある。その意味では偏りはあるが、かなり拮抗した実力だ。
しかもそれは、『試合』という、戦略とかあまり考えない、1対1での真っ向勝負に限った話。色んな要因が絡んでくる実戦、それも、ゲリラ戦法も場合によっては得意だというナナさんであるから、そのあたり考慮するとまた違うんだろう。
戦略戦やゲリラ戦が得意、か……さすが軍人、考えが現実的。
真っ向勝負好きな武人タイプには好かれない考え方らしいけど、僕はむしろ、こういう容赦ない感じが好ましく映る。大事なのはやっぱ、結果だよ結果。
結果さえ出せれば、その過程はやっぱある程度どうでもいいんだよ。真正面から正々堂々と挑もうと、狡猾で卑怯な手使おうと。
更に言えば、ふざけてようが、油断してようが、よそ見してようがも含めて。
それで負ければ自業自得だし、勝てばそれだけ強かったってことだ。
ま、そんな感じで僕らの仲間に加わったナナさんであるが……実は彼女、冒険者になったわけではない。別な所に『就職』した。
なんと……ノエル姉さんの『マルラス商会』に。
彼女を競り落とした姉さんは、どうやら最初からこうするつもりだったらしい。
姉さんから言いつけられている彼女の仕事は……ずばり、僕の監視。
こないだ……2ヶ月前の一件で、姉さんが僕に対する教導・監視役だとカミングアウトして以降、姉さんは僕に対して隠さなくてよくなった。
なので思い切って、身近に監視要員を置いてしまおうと考えたらしい。
僕らの『仲間』としての位置づけは確定的な上、過去の経歴からその実力も申し分ないナナさんは格好の人員だった。
そのため、奴隷から開放した彼女に頼んで、僕らの仲間として共闘しつつ、僕が何かいらんことしでかさないように監視し、報告する役目を言いつけたのだ。
それ以外は基本、普通に仲間なので、僕も他のメンバーも、ナナさん自身も気にしていない。わざわざ気にするようなことでもないし……気にしなきゃいけないようなやばいことしてる自覚も……あんまりない。
まあそれに、それだけ心配してくれてるんだと思えば、むしろありがたい。ナナさんの配備にしても……王都でスウラさんが参加したっていう会合にしても。
「お気楽ね、相変わらず……軍上層部から危険視されてるかもしれないってのに、平気なの? ナナも、その出席者の人達、かなり偉いって言ってたじゃない」
「まあ、ちょっとは気になるけどさ。でも、どの道自分じゃどうにもならない部分で何か話されてた所で、気にしても仕方ないでしょ? だったら、問題にならないように暮らしとけばいい話だし……逆に考えれば、ホントにやばいこと僕がしでかしそうになったら、殴ってでも止めてくれるって言ってるようなもんだから、むしろありがたいよ」
「相変わらず大物ですね、ミナトさん……」
あははは、と乾いた笑いを見せるナナさんは、ちょうど愛銃の手入れを終えたところだった。
その背後では、満足感を顔に滲ませて、ナナさんと戦って今日は黒星だったシェリーさんが、仰向けに大の字になって寝ていたのだが、
「……あ、そうだミナト君、ちょっといい?」
ふと、何かを思いついた様子で、飛び起きて立った。
あの、体をばねにして勢いつけて思いっきり跳ねて、寝てる姿勢から直に立ち上がるアレ。……下着が見えそうになるからやめた方がいいと思うんだけど。
「何ですかシェリーさん? 勝負なら今日はもう1回やったからダメですよ?」
「それも捨てがたいけど、違うから安心して。いやね? 前々から思ってたんだけど……私達さあ、そろそろ『チーム』組んだ方がいいと思わない?」
「……ああ、なるほど」
その言葉に、僕のみならず、その場にいたエルクとナナさん、それにザリーも反応した。
そっか……そういや、そんな話、前にも出たな。
冒険者の『チーム』。『パーティ』と呼ばれることもあるが、定義は厳密ではない。
それについて、あらためてここで説明しておこうと思う。
といっても、別に説明することなんて多くないんだけどね。ただ、行動を共にすることの多い複数の冒険者が、自分達をチームとして登録するだけだから。
登録はギルドに申請するとできるけど、登録したからって、チームでの仕事しか請けられなくなるわけでも、チームのメンバー意外と組めなくなるわけでもない。
ただ、集団で受けるようなクエストがある場合や、指名での依頼とかの時に便利だったりするだけだ。依頼側にとっても、こっちにとっても。
それでも、冒険者にとっては、この先一緒に依頼をいくつもこなしていく仲間を作るということなわけだから、そりゃあ気を使う。
登録そのものにじゃなく、チームを組む、ということに。
だいぶ前、エルクと知り合った頃にも言ったとおり、信頼できる仲間を探すって言うのは、冒険者にとってマジに死活問題だから。
それをきっちりクリアした仲間達が、今後、互いに助け合って冒険者ライフを生きていくために組むのが『チーム』である。
そして当然、チームの名が売れてくれば、結構大口の依頼なんかも集まるようになる、ってわけだ。
ちなみにその最たる成功例が、言わずと知れた『女楼蜘蛛』。史上最強最高のチーム。
『夜王』リリン、『魔王』アイリーン、『聖王』テレサ、他に『冥王』『覇王』『牙王』の3人がいた、無敵の6人。ちなみに、二つ名はブルース兄さんからの情報。
とまあ、そんなふうに、信頼できる仲間がいるなら、組んでおくと色々と便利な『チーム』だけども、それをこの際僕らも組んじゃおうか、って話だ。
メンバーとしては、僕にエルク、ザリーにシェリーさん、か。
ナナさんは……どうしよう、冒険者じゃないんだけど。
ギルドへのチーム登録は基本、ギルドに登録してる冒険者だけだったはずだけど。
「だったら、外部での協力者、ってことで、備考欄にでも名前載せとけばいいんじゃないかな? そういうやり方取ってる所も、結構多いみたいだから」
「あ、そういうのもできるんだ? よかった、ナナさんだけ仲間はずれとか嫌だし」
「ふふっ、ありがとうございます、ミナトさん。私も、そうですね……商会で何か仕事を任される時以外は、基本、ミナトさんたちに同行しているように、ってノエルさんに言われてますし、いいと思います」
「バランスもそこそこいいしね。ミナト君とシェリーさんは前衛で、僕やエルクちゃんやナナさんは、後方支援や中距離での遊撃が出来るし。ちょっと全体的に前衛よりな気がするけど……」
「いや、大丈夫じゃないの? ほら、そこにいるじゃない。特大の遠距離攻撃要員が」
「……ああ、確かに」
その言葉がわかったのか、僕の肩に止まってるアルバが、若干胸を張ったように見えた。
確かに、こいつなら後衛として申し分ない。遠距離での攻撃魔法だけじゃなく、障壁系や回復系の魔法まで使えるし。
ちなみに、ナナさんも基本的な回復魔法とかなら使えるらしい。さすがエリート軍人。
うーん……本格的に、チーム組んだ方がいい感じがしてきた。
ていうか、渋る理由ないな……もうこれは組んじゃうか?
おそらくはこれ以降も、僕らは一緒にやっていく仲間であり続けるんだろうし……
しかしそうなると、だ。決めなきゃいけないことが2つほどあると思うんだけど……
「ところで、さ。チームって言うからには、リーダーとか要るよね? どうすんの?」
と、僕が言った瞬間、
なぜか、僕以外の全員の視線が『え、何言ってんのコイツ?』的なものに変わった。え、ちょ……何、その目? どういう意味?
「……? あの、何?」
「……いや、何を決まりきったこと聞くんだろうと思ってね? 多分、僕ら全員」
「決まりきったことって、リーダー?」
「あのね……そんなの、あんた以外にいないでしょうが」
「……え゛っ!?」
僕!?
ちょ……マジで言ってんの? 僕がリーダー!?
こんな、世間知らずの常識知らずのちゃらんぽらんが!? てっきり、シェリーさんかザリーか、ナナさんあたりがなるもんだとばかり思ってたんだけど……
「いやいやミナト君……身内にAAAランクがいるのに、それより弱いAランクやAAランクがリーダーやるのっておかしいでしょ?」
「そうそう。ま、よっぽどの能無しならともかく、ミナト君なら、実力的にも人格的にも全く問題無しよ? というかこのメンバーってもともと、君を中心にして集まったようなもんじゃない」
「そうね。最古参の私も含めて、全員」
ザリーにシェリーさん、エルクまで加わって畳み掛けるように言う。
しまいには、
「そうですねー……強さだけがリーダーたる条件では無いとはいえ、ミナトさんがこの中では一番だと思いますよ? 能力的にも、カリスマ的にも」
ナナさんまで加わった。
「足りない部分は僕らがフォローしていけばいいしね。もともと、その為の仲間だし」
「そういうことー♪ ま、わかってたことだけど、満場一致ね。よろしくね、ミナト君」
「まあ、リーダーっていっても、記入欄に名前書くだけの簡単なお仕事ですから。交渉ごととかは、エルクちゃんがいますし、事務仕事なら私がいますし」
「ま、そういうことね。……っていうかあんた、もしかして嫌なの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……意外だったから。単に」
だって僕、この中で間違いなく一番人生経験に乏しいよ?
何せ、樹海の洋館の中でずっと育ってきて、つい半年前くらいに世に出てきたんだから。
……あ、でも一応、前世18年分足せば……この中では一番年上、か?
しかしそれにしたって、数年単位での冒険者キャリアがあるザリーやシェリーさん、とんでもない役職について兵隊の指揮経験まであるナナさんなんかとくらべたら、僕の人生経験なんであってないようなもんだ。
この中で僕よりキャリアに乏しいのって、おそらくアルバだけだよ? 生後半年の。
新人を自負してるエルクだって、冒険者として2年以上のキャリアがあるんだし。
というか、集団を纏めるっていうんなら、なんとか騎士団の『副隊長』だったナナさんが一番いいんじゃ?
「あのですね……元奴隷の女が、将来有望な冒険者パーティのリーダーとか、根本的におかしいでしょう?」
「いや、そんなの僕気にしない……っていう話は通じないんだよね?」
「そういうことです。おまけに、さっきザリーさんも言ってましたけど、私はAA(推定)で、ミナトさんAAAなんですから、そのへんも考えてください」
あー……言われて見れば、まあ、そうかも知れない。そういう立場も絡んでくるのか。
そして、さっきからちょくちょく出てくるけど、僕らのランクが『トロン』の一件でだいぶ変わったことを、遅ればせながら報告しておく。
エルクは、『トロン』での修行&自主トレが身を結び、CからBに。
ザリーも同じように、BからAに。シェリーさんはAからAAに、それぞれランクアップした。
そして僕はAAA。以前の『ディアボロス』関連の功績も合わせて考察された結果だ。
ちなみにナナさんは、しつこいようだが冒険者では無いので、そういった評価はくだらなかったものの……以前在籍していた軍では、AA相当だという評価を貰っていた。
そこに『ワルサー』が加わった今は……ぶっちゃけAAAに届きかねない実力だろう。
様子を見ていたブルース兄さんに聞いてみても、『ん、多分そんくらいだろーな』との評価だったので、彼女は『AAAに近いAA』として扱っている。
さて、そんなわけで、
名前の決定や手続きその他は後々やるとして、この5人でチームを組んで、僕がリーダーに就任することが決まったわけだけど……
「……ねえエルク? このこと、ノエル姉さんあたり通して、王都のブルース兄さんに報告した方がいいかな?」
「は? 何で?」
「だってホラ、僕らがチーム組んだってことまでは、報告としてアクィラ姉さんにまで伝わってないわけでしょ? 後付でも報告文は充実してたほうがいいと思うし」
「……いや、まあ、あんたがよければ、いいんじゃないの?」
その数日後、
王都・中央総司令部にて、追加で回ってきた報告書の中の、『観察対象が、AAA1人、AA2人、AとBが1人ずつの構成でチームを結成。正式な届出はまだの模様』という一文を読んで、なぜか爆笑する魔法大臣の姿が目撃されている。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。