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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第5章 『正義感』と『正義観』

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第75~78話 顛末と色んな衝撃

ふと思いついて、完全な気まぐれで『アルファポリス』に登録してみました。
たくさんの方に読んでもらえて、感想などいただけたら幸いです。

それと、もしかしたら近々、最初の方の話を一部修正するかもしれません。
具体的には……最初の方にちょこちょこあった、ミナト以外の一人称を三人称に変えようかなと。最近ではとんと書かなくて、最初の方だけ変かなと思いまして……どうしようか……

ともかく、第75話更新します。色々伏線回収(?)な話です。どうぞ。

 明けて翌日。

 後始末を全部、スウラさん達率いる警備隊に任せて退散した僕らは、朝一番でスウラさんにことの顛末を、
 具体的に言えば、この事件の最終的な決着の仕方がどうなるのかを聞かされた。

 まず、奴隷の大量誘拐や、非人道的な人体実験への利用をもくろみ……というか、今まで裏で実際にやっていたモンド・ハックとその父親は、当然のように逮捕された。

 僕とナナさんが持ち帰った鍵で開けた金庫から、証拠となる書類もわんさか出てきたので、言い逃れは不可能だろうとのこと。

 その他数名の幹部も含め、財産没収の上、死刑はまず確定したようなものらしい。

 続いて、過剰正義の化身ことリュート達『ブルージャスティス』。
 といっても、シェリーさんが1人処分したので、残り2人になっちゃったけども。

 アニーとリュートは、それぞれ魔力封印効果のある拘束具を装着させられた上で、独房に放り込まれている。
 2人一緒にするとうるさいし、傷の舐めあいから増徴につながる恐れがあるので、別々に、だ。

 もっとも、どっちにしろアニーの方はぎゃあぎゃあうるさいんだけど。
 留置所(正式名称は違うらしいけど、便宜上こう呼ぶ)に連行されてきたリュートがボロボロで、しかも右腕の肘から先なくなってたから、なおさら。

 逆にリュートの方は色んな理由で静かにしている。けど、仮に抵抗して暴れようとしても、そんなことは出来ないようにしてある。実は今、リュートは、仮に魔法封印器具がない状態でも、ろくに魔力が使えない状態なのだから。

 僕が最後に使った技……『アンチマジック・ウイルス』の効果によって。

 あの紫色の瘴気。あれの正体は、体外に漏出した大量の魔粒子である。僕はあの一撃の瞬間、修行でやった『聖水いじり』の要領で、リュートの体内に、大量に『闇』の魔粒子を叩きこみ……彼の体内の水分に溶かして調和させた。繊細に。

 今、彼の体は体中の水分が『聖水』状態である。ただし、『闇』の。

 そして僕が修行時、『聖水』に乱雑に『闇』の魔力を流し込んだ結果、何が起こったか覚えているだろうか。
 聖水に溶けている『光』とは真逆の『闇』を流し込んだ結果、どうなったか。

 今リュートが、聖水レベルの繊細さで『闇』の魔粒子が溶け込んだ体で『光』の力を扱おうとすると……あれと同じことが起こる。恐ろしいことに。
 使わなくても、使おうとした段階で激痛が走って集中どころじゃなくなる。

 そういうわけで、『光』限定ではあるものの、魔力封印状態なのだ、彼は。

 そんな感じで絶対に逃げられない状態になっている2人には、追って司法機関と冒険者ギルドの両方から沙汰が下るだろうとのこと。あとは専門機関に任せるとしますか。

 そして、だ、

 僕はあのあと、息子のモンド・ハックの方はきちんと捕まえたんだけど、予想に反して屋敷の中に親の方……グロンド・ハックという名前らしいが、そいつがすでに出発した後で、屋敷にいなかった。

 しかしさっき言った通り、そいつもしっかり捕まっている。

 何でかっていうと、それは昨夜、スウラさんの部隊にモンドの連行と敗残兵(死体含む)の処理を頼んでた時、エルクから念話が入った時にさかのぼる。

 グロンド・ハックが、船を使って湖の反対側に、そしてそこに用意されてる馬車その他に乗って逃げるつもりだ、と。

 はい、ここから回想。

 
 ☆☆☆

 
 高みの見物をしていたブルース兄さんから、『フォルムチェンジ』についての呆れその他混じった賞賛をいただきつつ、2人で湖に向けて疾駆。

 僕らぐらいだと普通に屋根の上走るので、建物が間にあろうが問題無しで、直線コースで湖畔まで行った。

 そこにたどり着いてみると、大型、とまでは言わないけど、湖に浮かべるにしては十分に大型の船が、湖の真ん中よりすこしこっち側かな、ってあたりを航行していた。

「……なんであんなもんが?」

「大方、手に入れた大量の奴隷を運ぶのに使おうと手配してたのかもな。そいつらを実験台にして研究をやる『研究所』とやらも、湖の向こう側にあんのかも知れねえ」

「用心深いことで……さて、みすみす逃げられるわけにも行かないし、追いかけますか。もしかして兄さん、コレも僕の『課題』に込み?」

 だとしたらまずいな、もう時間そろそろないはず……速攻であの船に乗り込んで全滅させて黒幕生け捕りにしないと。

 船の上で逃げ場がないのだけは幸いだ。追いつくのなら水面走ればわけないから……とか考えてたら、ブルース兄さんが『いや、いい』と待ったをかけた。

「お前の実力確認その他はさっきので十分だ。今日はお前もいろいろあってつかれてるだろうし、時間かけてもいられねーし……あれは俺がやるわ」

「兄さんが?」

「おう、新しい弟にいいとこ見せてやるのも悪くねえしな。ちょっと離れとけ」

「?」

 言うなり、兄さんは背中に背負ってた長いロッドを手に持った。

 それを、水晶っぽい宝玉がついてる方の端を上にして持って、なんだか雰囲気ありげに目をつぶってええええぇえええええ!?

「さ、寒っ!? ちょ、ちょっと兄さ、何コレ……寒っ!?」

「バカ、離れてろっつっただろ。凍るぞお前でも」

 ブルース兄さんが精神を集中したその瞬間、とんでもない量の『氷』の魔力がロッドに収束していった。すごすぎて、余波だけで凍えそうになるほどに。

 ちょっ……マジか!? 集め始めてから3秒くらいで、僕が一撃のキックに載せられる限界量の魔力軽く超えたんだけど!?

 あわててそこから飛び退る僕の足元からは、ざくっ、という不穏な音。
 さっきの忠告、虚言にあらず。信じられないことに、周囲の地面に霜が降りてきてる。

 そのまま、たっぷり20秒近く使って魔力を集め、練り上げ……

 見れば、ロッドの先端に……青白い光を放つ魔力の塊が形成されていた。

 その周囲はすでに、真冬の北海道かってくらいの冷気。恐ろしい通り越して幻想的にさえ思えてきた。何せ、草とかほぼ瞬間冷凍されてオブジェ化してるもん。

 そして次の瞬間、

 
「ん、こんなもんか……『コキュートス』」

 
 スタングレネードでも爆発させたのかってぐらいの閃光とともに、魔力の光が前方に射出され……その青白いビームは、湖岸と、グロンド・ハックが乗っているであろう船の中間あたりに着弾して……炸裂した。

 で、1秒後。

 
「どうしよう兄さん、僕、目が悪くなったみたいだ。湖が半分くらい氷結してるように見える。いい眼科医紹介してくんない?」

「あー、すまんミナト、しかし安心しろ、現実だ。兄ちゃんが弟の前だからってつい調子乗ってやりすぎた結果だ。あと医者なら俺が知る限り腕はダンテが一番だ」

 
 なんじゃそりゃ。

 
 ☆☆☆

 
 その後、

 駆けつけた姉さんとダンテ兄さんに『何しとんのやこのバカ兄が!!』って雷落とされてたブルース兄さん。

 そして、続きは後でやからな、と言い残して、姉さんとダンテ兄さんが、湖の真ん中で立ち往生してる船に向かって走っていった。黒幕が凍死する前に、と。

 しかし、船の数十m手前で姉さんが突如跳躍した。

 何事かと思ってみてた次の瞬間、
 その手に持っていた剣――名刀『朱星あかぼし』だったっけ?――がひらめき、炎の刃が船の周囲の氷を切り裂いて、船ごと正方形に切り出した。

 その後に、収納マジックアイテムからすごく長い、そして頑丈な鎖を出したダンテ兄さんが、なぜかそれをぶん投げて船に巻きつけたかと思うと……『どっこいせっ!!』の掛け声と共に……何したと思う?

 答え:切り分けられた氷ごと船を引っ張り上げた。

 そして、そのまま氷上を、船を引っ張ってこっち側の岸まで戻ってきた。

 まるで、行商人がリヤカーで商品運んでくるみたいに、『よいしょ、よいしょ』って大型船を引っ張って。さも当然のように。

 船の上には姉さんが残り、『動いたら斬るで』と睨みを利かせていたので、逃亡者0。

 そのまま船を接岸し、『いい運動したぜ』と額の汗をぬぐうダンテ兄さんと、『余計な仕事増やしよって……』と呆れる姉さんと、『すまん』と謝るブルース兄さんの3人を見てて……僕は、あらためてこう思った。

 
 ……大丈夫だ、僕はまだ普通だ、と。

 
 さて、そんな感じで黒幕含めて全員お縄になったわけだけども、

 僕らにはあと2つ、どうにかしなければならない、というよりは純粋に気になる問題が残っていた。

 その1つが、
 今正にこれから、目の前で解き明かされようとしている。

 僕、エルク、ザリー、シェリーさん、ノエル姉さんにウィル兄さん、ブルース兄さんにダンテ兄さん、そしてスウラさんとまあ、訓練メンバー+αの視線が集まる中で……

 張本人である、ナナさんによって。

「さて……皆さんおそろいのようですので、私の方からお話させていただきます。まずは、こんなどこの馬の骨とも知れない女を助けるために動いていただいて、本当にありがとうございました」

 ぺこり、と一礼。

 表情は、いつも通りの笑顔だけど……すこしうれしさがにじみ出ているのか、口元がいつもより数ミリつりあがっているように見えなくもなかったり。

 しかしまあ、このことに関しては……昨夜既に、『ナナさんはもう僕ら全員一致で身内だと思ってるから』と伝えてある。

 ナナさんも、恐縮そうにして吐いたけど、一応そのことを受け入れているんだろう。一言挨拶しただけで、二の句を継ぐことなく顔を上げて向き直る。

「私は明日、予定通り『オークション』に出品され、誰かに買われる予定ですので……そこで付き合いが終わるか、その後も続けられるかどうかはわかりません。ああもちろん、この中のどなたかにお買い上げいただけるのであれば一番嬉しいですが」

「最後までぶれないわね、あんた」

 くすっ、と少し笑いを含ませながらいうエルク。

 かしこまっててもいつものナナさんだとわかるそのセリフに、場の空気が少しだけ揺らぐ。うん、いい感じだ。湿っぽいのはこのメンバーには似合わない。

 それをナナさんもわかってるからだったのかな、今の発言は。
 まあ、その思惑は別にきっちり本気で思ってそうだけども。

「まあ、そういうことですので、皆さんにこれ以降お会いできなくなる可能性も考慮した上で……そうなる前に、私のことで、まだ話していなかったことを話しておこうかと」

「? ……ああ、そういや記憶戻ったんだっけ?」

「はい、まだ全部じゃないですけど……大体は。おかげで、ミナトさんの役にも立てましたし、本当によかったです」

「そうそう、聞いた聞いた! 大立ち回りだったんでしょ? すごいじゃない、いったいどんな経歴もってんのか気になってたのよねー……ね、そこは思い出したの?」

「はい。もちろん、お話させていただきます。改めまして……」

 すると、急にナナさんは……ぴっと背筋を伸ばし、足をそろえて、『きをつけ』の姿勢。

 顔も、真顔……とまではいかないが、さっきより、というかいつもより真面目そうな、引き締まった感じの表情に。

 加えて、なぜか5本指をそろえた右手をびしっと額に……『敬礼』?

 そして、

 
「元・ネスティア王国軍中央総司令部、王族直属護衛騎士団第2部隊副隊長、ナナ・シェリンクスと申します。以後、お見知りおきを♪」

 
 最後の一言だけ、ちょっと茶目っ気が付け足されたそのカミングアウトは……見事にその場を唖然とさせた。

 
 …………は?

 
 ☆☆☆

 
 ネスティア王国……ってのは、今更ながら、この国の名前。

 軍中央総司令部ってのは、言葉通り、軍部の本拠地。

 その王国軍は、町のおまわりさん的な側面が強い『警備隊』とか、国防のために戦ったりする、普通の『師団』とか『旅団』とか、スパイ的な役割が主の『隠密部隊』とかにわかれるんだけども……その中に『騎士団』ってもんがある。

 一般的には、華々しい部隊なんかでの要人の護衛を勤めたりする義杖兵的な役割が強い、と認識されてるんだけども……その実態はそんなかわいいもんじゃない。

 確かにかなり高位な人達が多く所属するエリート部門、って意味で言えばそうなんだけども、そこに見かけや家柄、過去の経歴だけのお飾りは1人もいない。

 要人警護を任されるだけでなく、時には部隊をまとめる司令官や隊長格として戦地にも出向く、SPと武将と指揮官と官僚がごっちゃになったような存在なのだから。

 必然的にその任を任されるのは、相応の実力者だけである。

 そして、その『騎士団』の中でも頂点に立つといわれる超エリート集団。
 それこそが、『直属護衛騎士団』。

 全4部隊から構成されるそれは、1隊あたり8人、隊長と副隊長をあわせても10人という少数精鋭の部隊であり、全員が冒険者ギルドにしてAランク級以上のの実力者集団。
 隊長・副隊長にいたっては、それ以上だという。

 志願者は毎年数百人から数千人――もっとも、実力不足で大半が書類審査の段階で落とされるが――にもなる、競争率数千倍の超・狭き門。
 紛れもなく、あらゆる意味で王国最高の騎士団。

 ……そのうちの1つの隊のNo.2が、目の前にいるナナさんだというのだ。
 正確には、『元』だけども。

 そこに裏づけを足したのは、意外にも……いや、必然的と言うべきなのだろうか?
 現役の軍人である、スウラさんだった。

「……っ! そうか、思い出した!」

「へ、何?」

「どこかで見たことがあると思っていたのだ、ナナ殿のことは……そうだ、私が一度、任務で王都に行った時……」

「ああ、一時期、新人の騎士団員の指導も担当していましたから……その時かもしれませんね。軍部の人なら、私のことをその時に見かけていても不思議は無いです。なるほど……以前会ったことがあると言っていたのは、そのことだったんですね」

「な、なるほど……っ! も、申し訳ありません、知らなかったとはいえ、大変なご無礼を……」

 そのことに気付いて納得した途端、慌てたようにスウラさんが片膝ついた。

 ああ、そりゃそうか。
 直属騎士団ってことは、位はスウラさんよりずっと上らしいから……そのことに気付いて慌ててかしこまったわけだ。

 打算とかそういうのはなく、普通に偉い人だったから礼節的な意味で慌てただけみたいだけど。

 すると、むしろナナさんが少し慌てて、

「ああ、いえ、いいんですよそんな、私はもうすでに退役した身ですから……」

「し、しかし……」

「あー、悪い、ちょっと待ってくれるか? それ聞いて、色々と整理しなきゃいけねえことが出てきたんだが……」

 と、
 相互に慌て気味のナナさんとスウラさんをさえぎったのは……ブルース兄さんだった。

 頭を抱えて『また厄介なことに……』とでも言いたそうな感じだ。
 って、よく見ると僕以外のキャドリーユ兄弟全員がそんな顔を。え、なぜ?

「整理、ですか?」

「ああ……色々あるがまず、何よりも……そんな過去を持ってる娘を、はいそうですかって聞き流して奴隷オークションに出せるかって話が出てくる。つか、何でまた奴隷になんてなっちまったんだ?」

「ああ、それはですね……すごく単純です。私、実家がそこそこの貴族の家系だったんですけど……最近、色んなドロドロした策略に巻き込まれて没落しまして」

「予想しないじゃなかったが、さらっと言うな、オイ」

 その策謀のせいで、家柄に財産に、何もかもなくして、
 その当事いた、将来を約束した婚約者にも見限られて、

 で、そのあとなんやかんやあって身売りルート。奴隷身分になって、オークションにかけられる予定が……輸送船が海難事故に会い、海に放り出された。

 で、海に流れ着いて拾われて……ってわけか。

 そういえば、地下迷宮で水が迫ってきたとき、何だか唖然としたようにナナさんの思考が止まって立ち尽くしてたっけ。その時のこと思い出したのかな?

「まあ、女の子が生き地獄に至るルートまっしぐらだったわけですけど、幸運なことに、何かいやらしいことされる前に今の商会の人のところに来れました。ですので、幸いにしてまだキレイな体のままで……あ、よかったらミナトさん、確認してみます?」

「いや、いいからそんなの」

 シリアスな話の次に何てこと言い出すんだ、この元超エリート。

「それより兄さん、さっき変なこと言ってなかった? このままオークションにかけられないとかどうとか」

「ああ。まあ、世間的にはもう退役してるってことで問題ないかもだが……王族直属護衛隊ともなると、色々と内部事情とか機密情報も知ってんだろ? そんな奴を、いくらなんでもさらっと奴隷身分に出来るかって話だ」

「あー、確かに……情報漏えいの可能性、ってことね」

「そういうこっちゃ」

 と、ノエル姉さんも加わっての説明。

 すると、エルクが何か疑問に思ったのか、

「でもそれなら、なんで最初に『没落』して奴隷にさせられた時点でそういう待ったがかからなかったのかしら? 理由は同じよね?」

「その没落、裏に色々策謀があったんだろ? おおかた、ナナちゃんの実家に恨みでも持ってた貴族が、一族郎党に地獄見せてやろうとして隠蔽したんじゃねーのか? もしかしたら、ナナちゃんの家は公的には夜逃げした扱いとかになってるかもな」

「あー、ありえますね……まあ、私は、父や母がどうなろうが別にいいんですけど……」

「え、そうなの?」

 そこは普通、心配する所じゃ……なんでそんなドライ?

「はい。先代が築いた地位に胡坐をかいて偉そうにしてるだけの、中身無しの人達でしたから。方々からうらみも買ってましたし、ある意味こうなるのも必然かな、って正直思ってたんです。詳しくはいえませんけど……私の退役理由も、実家の不祥事でして」

「うわ……」

「そらまた、不憫やな……。けどそれでも、表立っての競売で、しかも事態がはっきりした……となると、見逃すわけにいかへんし……」

 と、姉さん。そして続けてブルース兄さんが、

「だよな……つかコレ、思いっきり兄貴達の管轄だぜ……」

「? 兄貴?」

 兄貴の管轄、って……どういうこと?

 や、それ以前に、次男であるブルース兄さんが『兄貴』って呼び方をするってことは……

 すると、僕が何を考えてるのか察したらしいダンテ兄さんが、

「おぅ、お察しの通りだぜミナト、俺らの一番上の兄貴のことだ」

 やっぱり、長男か。
 でも……なんで、その、長男の兄さん(名前知らん)が、今回の一件に絡んでくるんだろう? もしかして、騎士団の関係者なのかな?

「関係者っつーか……元締めっつーか……」

「はい?」

「あれ、でも兄貴、一応部外者いるけど……話していいのかこんなとこでおおっぴらに」

「構うかよ。一応、ここにいる面子は信頼できる、ってのが俺の見立てだ。それに、ナナちゃんに関する事情を知っちまった以上、もみけすにも流すにも、ここにいる全員共犯で対処に当たらなきゃいけねえしな……特に、軍部にいるスウラちゃんは」

「っ!」

 思わぬ所で名前があがってドキッとしてるスウラさんをそのままに、ブルース兄さんの口からは、次の瞬間いきなり結論が飛び出した。

 

「ともかく、野郎共および女性諸君、ここで聞いた件は絶対他言無用。俺はこれから、王都に戻って兄貴と姉貴に……キャドリーユ家長男兼、王国騎士団総帥・ドレークと、長女兼、王国魔法部門統括・アクィラに、このことを報告して指示を仰ぐ。以上、解散!」



「「「……!!?」」」

 ……あえて、言おう。

 実力も、地位も……どうなってんだ!? うちの家系は!?

 
 ☆☆☆

 
 その、1時間くらい後。

 僕が、自分でも自覚してるくらい非常識な腕力を振り回してる時、エルク達はこんな風に胃が痛かったのかな、なんて思いながら……僕は、

 ブルース兄さんについて、町外れの教会に来ていた。

 理由は、聞かされていない……けど、予想はついている。

 聖堂に入った所で出くわした女の子に、ブルース兄さんが何事か用件を継げている間、僕は窓の外を見ていた。

 ここ数日は恒例であったらしい炊き出しは、今日は行われてない。

 理由は言わずもがな、あんなことがあったから。
 そして、モンドの家からカモフラージュとして寄せられていた、多額の寄付金が途絶えてしまったから、だろう。

 証拠品扱いで、隠していた財産まで全て差し押さえられたモンド家は、破産が確定したとの知らせも受けている。これ以降の収入はまず見込めなくなった。

 今までに貰った寄付金はまだいくらか残っているだろうが、それも、これからの収入激減に対処するために使わなければいけないだろうし……潤沢に炊き出しを行えるほどの貯蓄は残らなかったんだろう。

 そこで精を出していたリュート達3人は、今は2人になり……相応の野罰が下るのを待つ身となっている。そのことを聞いたためだろうか、教会内のシスター達の顔色が、どこか暗いように見えた。

 ……まあ、これに関してはリュート達が悪いとは言えない。

 善意『だけ』は本物だった連中だし……それに、モンド氏が町を捨てる事態になっていれば、今日でなくとも、いつかは収入は途絶えていただろう。

 その前に、今までにもまして多額の寄付金を残して、自分達への印象を更によくするよう上塗りをかけた可能性もあるけど。

「おーい、ミナト、こっちこい」

「あ、はーい!」

 呼ばれて振り向くと、そこには……予想通りの人物が。

 おそらくは、さっきブルース兄さんが話してたシスターの娘が呼んできたんであろう、その人……昨日の昼にも夜にも会った、シスター・テレサさんがいた。

 長い藤色の髪に、グラマラスな体。100人が100人美人と評するであろう顔。

 相変わらず、なんというか、大人の色気を醸し出すたたずまいの美人だが……昨日の夜の出来事が邪魔をして、素直にそういう評価にとどめられない。

 昨日そのことを聞いたら、兄さんは『何者かは後で本人に聞け』って言ってた。

 もしかすると、ここにつれてきたのはそのため……ってさっきから考えてたけど、今、この人が出てきたことで確信できた。

「おぅミナト、気持ちはわからんが惚れるなよーこの人にゃ。俺やお前じゃ一生手のとどかねえ高嶺の花だ」

「あらあら、お上手ですねブルース君。でも、男の子ならもうちょっと野心をもってもいいと思うわよ? 強引な人が好きな女の子だっているもの」

「そらそうですけど、さすがにテレサさんは自分みたいなのには眩しすぎます。ともかく、昨日はどうもありがとうございました、急な頼みごとをしてしまって」

「いえいえ、あのくらいなんでもないわ、気にしないで?」

 頼みごと……って何だろうか?

 僕とあったことに何か関係が……あるとは考えにくい、かな? 昨日、僕があの迷宮から、教会裏に出てきたことは、偶然だし……あ、でも昼間にもあってたし……。

 すると、僕の、何か考えてる風な視線に気付いたらしいテレサさんが、にこっと微笑んで、

 

「だって……個人的にも、興味ありましたもの。あのリリンの新しい、それも、何だかすごく期待を寄せられてるらしい子は、どんな子なのか、って」

 

 ……ちょっと、今何言ったこの人?

 え、『リリン』!?
 それって……母さんの名前……しかも、呼び捨て、ってことは……

 いや、あの母さんを呼び捨てに出来るような人……っていうかそもそも、あの母さんの存在を(実力その他含めて)知ってる人って、そういないはずじゃあ?
 現に僕、該当する人今のところ1人しか知らない!

 そして、表情にも表れたのであろう僕の困惑を、次の一言でテレサさんは解消してくれた。

 

「改めまして……私はテレサ。本名、テレサ・クランシオン。元『女楼蜘蛛』のメンバーで……あなたのお母さんとは、何度も共に死線をくぐりぬけた中です。もっとも……今は1人の、教会所属のシスターですけど、ね。よろしく、ミナトくん」

 

 ……ナナさんの身元。

 ……一番上の兄さんと姉さんの職業。

 ……そして、この人の正体。

 

 ……何なの? 今日のこの、衝撃の事実発覚の多さ。

 

 ☆☆☆

 
 「……証拠の書類がおかしいだと? どういうことだ?」

 ある日の午前中。
 『トロン』で起こった大捕り物の後始末関連の仕事を片付けていたスウラ。

 そこに入ったのは、そんな報告だった。

 部下の兵士によって届けられた、どちらかと言えば凶報……モンド・ハックの自宅の隠し金庫を調べて押収した書類に、どうもおかしな点があるというのだ。

 「はっ。応酬した書類各種を担当課の方で分析していたのですが……いくつかの書類が、紙やインクの質、劣化具合などから見て、微妙ながら他の書類との差異が見受けられました。同じ内容の偽者を用意して、本物と摩り替えた可能性があります。ただ……」

 「? ただ、何だ?」

 「はあ、実は……そのすりかえられた書類なのですが、別段、モンド達にとって得になったり、証拠能力をなくすような細工はされていないようでした」

 「……? どういうことだ、それは?」

 おかしな報告だった。

 証拠書類のすり替え。それはすなわち、隠された真実が闇に隠蔽されかねない状態にあるという大問題を表す。

 しかし、その後付け足された内容が……スウラの頭の中に、疑念を湧き出させていた。

 その『細工された後』の書類が、別に証拠能力を失うように手が加えられたりはしておらず、普通に証拠として採用可能だ、という点が。

 「……なら、何だ? その書類を摩り替えた意味というのは?」

 「さあ、そこまでは……」

 書類の偽造、隠蔽。
 それは通常、明らかになったら困るような事実を隠すために行われること。

 しかし、偽造の疑いがあるそれらの書類には……きちんと、モンド親子の罪を追求するのに十分な証拠能力が残ったままだった。本来の目的に照らし合わせると、意味がない。

 だとしたら、その『偽造』は一体何のためになされたのか。
 調べられて困るような事実はそのままで、一体何を『偽装』したのか。

 「それと、もう1つ気になることが……ハック家の裏帳簿は、発展を始めた十数年前の分から漏らさず見つかっているのですが……ここ2年、外部との取引額、取引先の企業の数が共に激減しています」

 「? 製品に不具合でも出たか……それとも、商売敵でも現れたのか?」

 「後者のようです。実はここ最近、全種類ではありませんが、王都周辺の都市のいくつかの商会でも、彼らが作っていたものと同様の効能を持つ薬品が販売されるようになったようです。技術の流出によるものかどうかは不明ですが」

 「……なるほどな。顧客と売り上げを取られたわけだ。それによる業績不振も、ここを出て新天地を目指す理由の一つだったか……しかし……」

 そこで一拍置いて、

 「……偽造書類の方は、少し気になるな。引き続き検査を。起訴に差支えがないのなら、下手人共の裁判手続きも並行して進めてくれ」

 「はっ!」

 敬礼して、部屋を後にする兵士。
 それを見送った後、スウラは顎に手を当てて……誰にともなく、つぶやくように言った。

 「一体、何を隠すために、書類に得にもならん偽装を……? もしかすると、書類に手を加えたのはモンド親子ではないのか? しかしそうなら、一体誰が、何の目的で……」

 
 問いに答えを返してくれるものは、そこにはいなかった。

 
 ☆☆☆

 
 「まあ、結論から言って……実力的にも心構え的にも、合格と言っていいでしょう」

 「だそうだ、よかったなミナト」

 「ごめん、事前説明が丸々すっぽり抜けてる点について」

 僕がツッコミにまわるという異常事態。

 何なんだ? この異世界には、強い人がボケで実力で劣る人がツッコミに回るのが必然っていう法則でも成立してるのか?

 
 ☆☆☆

 
 「……今、どこかで誰かが、日ごろの私の苦悩を少しだけ理解してくれたような気配が」

 「え、いきなり何言ってんのエルクちゃん?」

 
 ☆☆☆

 
 簡単に言うと、ブルース兄さんはテレサさんに、僕の内面を見定めるための『試験官』を依頼していたらしい。

 現在、商隊を隠してるわけでもなく、テレサさんは正真正銘『シスター』であり、教会に勤めて迷える子羊や恵まれない人達やらを救済する立場にある。……いやまあ、経歴は一部、というか思いっきり隠してるけども。

 『今だから言うんだけどな?』という前置きで始まったブルース兄さんの言葉によると、

 今回のこの『合同訓練』(……だったな、そういえば)は、僕らを鍛え上げるのと並行して……『見定める』という裏目的が遂行されてきていたらしい。

 いわく、予想以上に速いペースで強くなり、もうほとんど最強クラスの領域に足を踏み入れつつある僕や、

 僕ほどじゃないものの、普通の冒険者から見れば十分に異常な速度で成長しており、またなんだか正体不明の才能をいくつも死蔵しているエルク。

 Aランクの魔物すら余裕で屠る、武術と魔力両面の超実力者であるシェリーさん。

 シェリーさんほどじゃないものの実力は只者でなく、また隠密や情報収集などその他の方面においてはかなりの怪物なザリー。

 とまあ、僕らのチーム(って言っていいくらい一緒に活動してるなあ)には、かなり常識にケンカ売ってる面子が並んでおり、僕を含めて、そういう『力』を持ってる人には、それ相応の『心構え』を持っていてもらう必要が性あった。

 自分の力に溺れないため、良識や道徳を忘れないため……理由は色々ある。

 そして、そういった、人道をきっちり、最低限でも重んじつつ、自分の力を上手くセーブして付き合っていくことを知らないと……リュートみたいなのが出来上がるわけだ。

 間違った感覚や心構えで大きな『力』を持っていることは災いしか招かない。そうなる前に何らかの対処をするっていうのが、ノエル姉さんがこの『訓練』を企画した本来の目的であり……僕の面倒を見るに際して、母さんに頼まれたことだった。

 そして今回、完全な偶然ではあるんだけど、この町に来ていた母さんの昔なじみ……テレサさんにもその判定をお願いしたわけだ。眼力は兄さん達も認めるところらしいので。

 結果は、さっき聞いたとおり『合格』。

 ちなみに、この訓練で僕の精神に『問題あり』と判断された場合、合宿中に姉さん自ら叩きなおしてくれる予定だったらしい。よかった……認められて。

 「それとな、何でこのことをノエルでなく俺がお前に伝えてるのかっていうと……あのバカが面と向かってそういうこと言うの恥ずかしいからって押し付けられたからだ」

 「あ、そう」

 余計な(?)付加情報と共に、全ての説明を終えた兄さんは、ふぁ、と大あくび。

 無理もない……のかな? まあ、昨日徹夜だし。僕もだけど。

 「ま、そういうことだ。お前は今回の試験できちんと合格できたわけだが……テレサさん、何か他に、講評とかあります?」

 「そうですね……リリンの子だけあって、随分と自由な思想を持っているな、というのが一番の印象です。人として必要な良識や道徳心は保ちつつ、型にとらわれない、固定観念を捨てた発想ができるのは長所だと思いますよ? 今後、更に伸びが期待できるかと」

 「ほー、そりゃ頼もしいお言葉を……だそうだ、がんばれよミナト」

 「あー、うん……なんかもう超展開過ぎて色々とついていけなくなりつつあるけど、とりあえず褒め言葉は素直に受け取っとこうと思うよ」

 はぁ、とため息。

 そんな僕を前にして、相変わらず大人の笑みを浮かべているテレサさん。

 温厚な雰囲気とは裏腹に、その正体は、その気になれば瞬きするより早く僕を殺して死体を塵に出来るような、超の上にさらに超が5つくらいつくであろう実力者だ。
 アイリーンさんや母さんと同じように、その実力は衰えていないらしいし。

 戦闘スタイルなんかは明らかにされてはいないけども、知った所で僕がすがりつけるはずもなし。

 「うーん……まあ、こういう雰囲気になってからは別に珍しくもないのだけど……ひょっとして今私、怖がられてるかしら? それとも、警戒されてる、とか?」

 「え!? あ、いや、その……そんなつもりは特になくもなくもなくなくなかったり……」

 「落ち着け愚弟。まあ気持ちはわかるが、アイリーンさんと同じで、この人も基本ゆるいから、そんなに怖がるこたねーから」

 「あらあら、こっちはこっちで遠慮ない物言いだこと。お姉さんちょっと傷ついちゃうわね」

 なんて具合に、軽口の応酬をするブルース兄さんとテレサさん。

 うん、まあ……一応感づいてはいたけど、兄さんも言ってたけど、アイリーンさん同様、けっこう話しやすい人みたいだ、テレサさんって。

 冗談にも付き合うし、人との間に壁を作らない。それが、実力から来る余裕なのか、はたまたもともとの人間性なのかはわかんないけど……母さんやアイリーンさんと仲良くやれてたって部分から創造するに、後者、かな?

 まあでもどちらにせよ、遠慮気配りはしつつも、そんなに過度に緊張なんていらない感じのお姉さんだと認識して間違いでは……

 
 「ははっ、いやテレサさんあんたもう『お姉さん』なんて歳じゃ『キュボッ!!』……な……あー……えっと……」

 
 ……ない、と判断するのは早かっただろうか?

 
 ブルース兄さんを間に挟んで、テレサさんの反対側にあった巨木。
 幹の太さ4mはゆうにあるであろう、歴史を感じる、教会周辺の静かで厳かな景観の1つであったであろう、そんな木の……半分くらいから上が消失していた。

 まるで、巨大な円筒形の『何か』によって消し飛ばされたかのように。

 おそらく、木の中腹部分に『何か』が命中して、その周囲が消失したのだろう。木の上側の、消失に巻き込まれなかったらしい部分の枝が数本、1テンポ遅れて落ちてきた。

 そして、
 笑顔がすっかり引きつってしまったブルース兄さんの正面で……親指と人差し指で『ピストル』をつくり、

 そして、先ほどと見た目は変わらなそうなのに……その背後に般若の幻が見えそうな、威圧感バリバリの『いい笑顔』を顔に貼り付けたテレサさんが。

 「うふふふふふ……ブルース君ったら、そういう、大事なことをすぐに忘れるおっちょこちょいな所も変わってないのねぇ?」

 「は、はは……すんません、ホント、マジで、心の底から」

 滝のような冷や汗をかくブルース兄さんのおかげで、テレサさんの逆鱗が発覚。

 ……あの『ピストル』、たぶん、対戦車ライフルより危険なんだろうな……。

 前言撤回。やっぱ……色々と気遣いは忘れちゃいけないものだ。

 

 それにしても、と、思いついたように言うテレサさん。

 「ブルース君から聞いてはいたけれど、本当に驚異的な成長速度ね。まだ16歳なのに、もうS間近のAAAだなんて……」

 「あー、今回の修行でもうちっと強くなったかもしれないんで、おそらく今こいつ完全にSランクですよ、多分」

 「あらあら……また、すごい原石ねえ。リリンの子供達の中にも、そこまでのは……いや、リリン自身だって、Sランクに手が届いたのは、私の記憶が正しければ、20歳を過ぎてからだったはずなのに……これでまだ成長期で、伸びしろがあるなんて」

 「でしょ? それなのにもっと強くなりたいとか、おかしいんすよコイツ」

 「ちょ、酷くない? そこは向上心あふれる弟に惜しみない賞賛を送る所じゃないの?」

 「黙れ。本来なら一週間以上かけて兄の威厳と共にみっちり指導するはずだった練習メニューを四日で消化されたお兄さんのやるせなさと逆切れをなめるな」

  ……とりあえず、思ったより兄さんは尊敬しちゃいけない人種だな、ってことだけがわかった。

 まあ、あんまり認めたかないけど……自分がどれくらい普通から外れてるかどうか、ってことについては、何度か経験した戦いの中や、日ごろのエルクたちの反応南下からわかってるつもりだ。

 この上まだ強くなりたいなんて言ったら、嫉妬されるか怒られるか呆れられるか、だいたいそのへんの反応されるんじゃないか、ってことも。

 現に約1ヶ月前、姉さんにそんな感じの反応されたしね。

 それでも、だ。

 「まー……ホントに必要な時に足りないよりかましかと思って」

 極端な話、僕は可能な限り『失敗』とか『後悔』とかとは無縁な人生を送りたいと思っている。

 無論、人間が失敗から学んで大きくなる生き物だってことは知ってるし、『失敗は成功の母』なんて諺も知ってる。
 ……あれ? 『失敗は成功の元』だっけ? 忘れた。

 けど僕の持論は、『失敗すらしないならそれにこしたことはないじゃん』である。

 人生2回目の僕は、前世がダメ人間だった分、失敗も後悔も多分人より多く経験してきた自信がある。

 しかしそれを、後々に生かすことが出来ないまま人生を終えてしまったってんだから、どーしようもないな、と思っている。悔しい思いも、悲しい思いもした。なのに、そのかいが全然ないまま終わったよこんちくしょう、と。

 とはいえ、未だにそんなほぞを噛むような悔しさが残ってるわけじゃない。
 生まれ変わってすでに16年だ。もうほとんどそれは忘れてる。っていうかなんなら、前世の時点ですでに吹っ切ってた思い出だっておおい。

 ただ、その当事……もう二度とこんな思いはしたくない、って、下唇をかんで思ったのは、はっきり覚えてるんだよコレが。

 ましてや、今生きてるこの世界は、剣と魔法のファンタジー世界。
 『後悔』の内容もしゃれにならないものになりかねないのだ。それこそ、命とかも絡んでくるような類の。下手を打てば、誰か知り合いの墓の前で泣くような。

 んなことになるのは死んでもごめんこうむる。

 なので、そういう心配を……0とは言わないが、限りなく小さく出来るくらいには、
 周りにいてくれる大切な人を、いざとなれば力ずくででも守れるくらいには、『とりあえず』僕は強くなっておきたい。

 ……無論、その強さを振るわずに、この一生を終えることが出来ればそれが一番いいんだけどもさ、極論。

 「ふふっ、なるほど……力がほしいのは、大切な人を守るため、か。優しいのね」

 「いや、そんな褒められたもんじゃないですって、所詮はただのわがままですし」

 「謙遜しちゃダメよミナト君、とっても素晴らしい心構えなんだもの。ふふっ……友達や仲間は、冒険者にとっては何よりも大切な宝物なのよ。ちょっと子供っぽいセリフに聞こえるかもしれないけど、君ももうちょっと長生きすればわかるわ」

 肩に手を置いて、諭すように言ってくれるテレサさん。
 顔が僕の顔から10cmくらいの所にあって、ちょっと近いんだけど……なんだろう、妖艶さよりも母性が勝るというか、そんな感じの雰囲気のせいで……ドキドキするというより、その言葉がじんわり心に染み入るのを感じた。

 これが、『本物』の余裕、もしくは貫禄、ってやつなんだろうか?

 「おー、さすがテレサさん。年の功っていうか、やっぱ年長者のいうことは『キュボッ』本当に申し訳ございませんでした」

 ブルース兄さんの背後の巨木が更に半分になってしまった。

 と、同時に、ふと思い出したことが。

 「あ、そうだ兄さん、『宝物』で思い出したんだけどさ……ちょっと後で相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど、いい?」

 「? かまわねーけど……午後からな? 俺、この後用事あるから」

 「了解。じゃ、先に帰ってるね」

 『それじゃ』と兄さんたちに一声かけて、僕はその場を立ち去ることにした。

 そうだそうだ、すっかり忘れてたよ……昨日から今日にかけて、すんごく忙しかったせいで。

 昨日、騒動の中で見つけた……『宝物』のことを。

 
 ☆☆☆

 
 「……さて、と。んで、ホントのとこどうでしょ、テレサさん?」

 「言ったとおりよ? 才能も信じられないくらいあるし、向上心も同様。発想力はそれ以上……そして性格もいいし、心構えの方も、甘すぎず厳しすぎずちょうどいい具合、ってとこかしら? 本当に……」

 一拍、

 「……本当に、200年前を思い出すわね。そっくりよ、彼、リリンに」

 「……ですよね。俺も、アイツの指導するたびに、お袋の影がちらついて……興味示したことに向かって一直線なとこなんか、特にですよ」

 「そうよね。もうちょっと正確に言えば、リリンに……誠実さと謙虚さを足して、あと草食系にしたら、あんな感じになるのかしらね」

 「……けっこう遠いすね」

 去っていく弟の背中を見送ったブルースと、昔に思いをはせるテレサ。

 2人の視線は……ほほえましい、前途有望な若者を見るそれだけではなかった。
 将来に大いに期待……したいと思いつつも、一抹の不安をぬぐいきれていないそれだ。

 「……まあ、酒もタバコも女もNGっていう、今時珍しい謙虚な若者ですけど……きちんと自分の価値観ももってますし、良識もあります。きれいごとだけじゃ世界が回らないこともしってますし、必要に応じて非情にもなれますし……」

 「冒険者になって半年未満とは思えないわね……メンタル面で言えば、成熟の速さはリリン以上かも」

 「そのお袋から直々に教わってたからじゃないですか? 心構えとか。……そのせいでもしかしたら伝染したのか、とか思えなくもないですけどね」

 「そうね。あのタイプは、普段はきちんとしてる分……一旦怒らせると、手に負えないことが多いから……」

 「……ちょっとまだ、付き合い浅いんで想像できないですけどね。あいつが、マジギレしてとんでもない勢いで大暴れする様とか」

 ブルースも、テレサも、懸念は共通していた。
 ミナトとその母、リリンの姿を重ねて……そのリリンが過去に見せた、ある種『暴走』ともいえる憤怒。それに伴う、未曾有の大災害。

 なにも『暴走』とは、怒りを起源とする激情のみをトリガーにするわけではないが……それが一番手っ取り早いきっかけであることもまた確かである。

 真っ先に思い出されるのは、150年以上前の、あの時の記憶。

 

 まだ『女楼蜘蛛』が現役、それもまださほど有名でもなかった時代……急遽都合が悪くなった冒険者仲間の代わりに、ある依頼を受けた時のこと。

 内容は、ある富豪が所有する孤島に、依頼主である某国の調査団(依頼履行の代行については承諾済みであった)に同行して、生態調査を行うというもの。リリン達の役目は、その護衛。

 その『調査』には、裏があった。

 その調査には、裏があった。
 金持ち達による、人の命を弄んだ道楽……マンハントという、裏のイベントが隠されていたのである。

 監獄の囚人や、罪人ですらない、罪もない一般人や、何も知らない冒険者など……色々な人間を島に放ち、その時その時の気分で方法を変えてその者達を狩る。

 ならず者を雇って殺させることもあれば、魔物を鼻って食い殺させ、その様を遠方からマジックアイテムで鑑賞して楽しむ……など。

 ちなみにリリン達の回は、服役中の囚人達を使って(看守を金で買収して用意した)、方法を任せた上で狩らせる、というものだった。囚人の性格によっては、暗殺や強襲、強姦殺人やバラバラ殺人など多彩な手口が拝めて楽しめるという、悪趣味なもの。

 そんな狂気の遊びの招待客として、調査団と『女楼蜘蛛』は選ばれて島に来てしまった、というわけである。

 といっても、そんな程度の障害は、全盛期にはまだ少し及ばないとはいえ、すでに全員SSランクの実力者だった『女楼蜘蛛』には、障害ですらなく……それが発覚した時点で、別に恐怖もなく『何じゃそりゃ』という呆れと面倒くささの中で、さっさと片付けようという結論に至っていた。

 問題だったのは、調査団の中に、リリンと仲がよかった若い女の子がいて……その女の子の顔なじみが、
 しかも、無実の罪で服役させられていた恋人が、選ばれた囚人の中にいたこと。

 富豪達は経歴だけを書類で見て選んでいたため、冤罪の有無についてまでは知らなかったのだ。

 その囚人の彼と、調査団の彼女は、運命のごとく再会し……2人は協力して、囚人の彼が知る内部事情や抜け道などを生かして(そんなものがなくともリリン達は正面突破で平気なのだが)、全員での脱出を試みた。

 しかし、それを他の囚人達および富豪達にそれを悟られ……2人は捕まった。

 純粋に気に食わないと、そして、この島の外に事情を知る者を出すわけにはいかないと考えた、富豪達の手のものによって。

 幸いにも、他の囚人を全員返り討ちにし、さらに別の場所でそれぞれ監視していた別な何人かの富豪も片付けた後、それを察知したリリンが駆けつけ……間一髪、2人が殺される前に助けることが出来た。

 が、その時に、今のこの状況(目の前に最強がいる)をわかっていなかった富豪たちは、島の外に出すわけにはいかないだの、我々は軍にもコネがあるから何をしても無駄だし罪にも問われないだの、どうせなら女は楽しんでから殺してやろうかだのと、想いあっている男女に向かって無遠慮にも言いきったことで。

 挙句の果てに、仲間の富豪が捕まったり殺されたことを知った途端、『ただのゲームだったのにお前達なんてことを!』なんて外れたセリフを吐いたことで……もともと彼ら2人に好感を抱いていたことで怒り心頭だったリリンが、ついに切れた。

 富豪がまだスピーチを続けている中で、テレサさんやアイリーンさんなど、離れた場所にいた他の『女楼蜘蛛』メンバーすら恐怖を覚えるほどの殺気が突如として席巻。

 その場に居合わせた、囚人と調査団の男女2人の証言によると、その時にリリンが、つぶやくように、しかし威圧感を多分に含ませて言っていた言葉というのが、

 

 『……もういいや、めんどくさい。勝手な都合押し付けるあんたらみたいなクズのこと、考えるだけ無駄だったわ……。島の外に生きて出られたり、証拠とか持ち出されたりすると困るんだっけ? せっかくだから、証拠隠滅に協力してあげるわ……』

 一拍、

 『……島ごと、ね』

 

 翌朝。

 いくつかの岩礁を残して、その島は忽然と姿を消した。
 島にあった自然や、隠して建設されていた富豪達の施設……そして、逃げる術も、というか暇もなく、骨の欠片すら残さずに消し飛んだであろう、富豪達と共に。

 その後、軍内部による、どこかとの内通者の粛清が厳粛に行われたり、地図が僅かながら書き換えられることになったり、色々とあったらしいが……その当事の正確な事実を把握している者は、あまりにも少ない。

 

 「……まあ、あの時みたいなことになることなんて、そうそうないでしょうけど、ね……それくらいの精神状態に至る可能性も、冒険者という荒事に富んだ生活の中ではあるでしょうし……」

 「そしてその時、ミナトのタガが外れたとして……果たしてどうなるか、って考えると、薄ら寒いもんがありますね」

 彼の……ミナトの人格や道徳心に、なんら問題があるわけではなかった。

 しかし、全くないわけではなく……本当に怖いのは、その僅かな『隙間』をぬって、逆鱗に触れられた時……何ひとつ遠慮することなく、その力を破壊に使う時、どれほど想像を超えた災厄がもたらされるか、ということ。

 「……デイドリーマー、か」

 「あら、また懐かしい単語が。ノエルちゃんが言っていたんですか?」

 「それと、お袋が……ってミナトが言ってました。……おふくろ以外で、この単語がこれほど当てはまるやつってのも、珍しい」

 妄言すら現実に出来てしまう、強大な実力。
 そしてそこからくる、現実乖離。

 その2つ、両方の意味を表すものとして、皮肉のこめられたリリンの呼び名『デイドリーマー』。その意味を知っている2人は、やれやれ、とため息をついた。

 「まあ、でも、仲間思いのいい子だったわ。あれなら、道を踏み外すようなこともないでしょうし……信じて見守ってあげましょう。それに……」

 と、テレサは一拍置いて、

 「……かつて、キャドリーユ家で『デイドリーマー』と呼ばれた人は、他にもいたでしょう?」

 「あー、確かに。……うちの『三大問題児』のことですね」

 再びのため息まじりに、嫌な記憶でもよみがえったかのようにつぶやくブルース。

 「あらあら、実の弟妹をその呼び方はひどいんじゃない? お兄ちゃんでしょう?」

 「……まあ、そうですけど……3人のうち1人は一応まともになったとはいえ、残る2人は未だに問題児ですよ。イオは相変わらずの無法ぶりだし、ミシェルは未だに行方不明……まあ、あいつのことだから死んじゃいないでしょうけど」

 「その彼らだって、前よりはましになった、って聞いているわ。それに残る1人は、あんなに立派に、自分の『商会』まで持ってきちんと切り盛りして、しかも弟思いで後進の育成にも熱心なんだもの。本当に、いい娘にそだったじゃない」

 「そうっすね……今度、テレサさんから褒めてやってください。あいつもそのほうが嬉しいでしょーし」

 「ええ。……人は、誠意を持って応対すれば、きちんと受け入れてくれるし、本心から向き合える仲間がいれば救われる。道を踏み外すのだって踏みとどまれる……ミナト君には、いいお仲間もいるんでしょ?」

 「ええ、そこに関しては太鼓判を押しますよ、俺ら雇われの講師陣としても、非常に教えがいのある、将来性申し分なしの優等生達でしたんで」

 修行中の、ミナトを含んだ4人……ナナも含めると5人の、たのしそうなやり取りを思い出し、自然と口元が緩むブルース。だらけ気味の表情がほとんどの彼にしてみれば、なんというか新鮮な顔。

 それを見て、よほどいい友達に恵まれているのだと悟り、こちらも微笑む。

 ミナトすら凌駕するものの、その力を後進たちのために使うことに。ある種の爽快感を、そして育ちつつある新しい世代に、何だかんだで不安よりも期待を抱くことができているブルース達は、笑顔のうちに密談を終え……

 

 「……ただ、約一名……気になる才能を持ってた生徒がいましたけどね」

 

 ……られたらよかったのだが。

 「……? 気になる才能?」

 「ええ。あー、テレサさん、ちょうどいいんで、ちょっくら俺の疑問というか質問に答えを出しちゃくれませんかね? ボケ無しで」

 「と、いうと?」

 「ええ。実は、俺もノエルから聴いた話で、しかもそのノエルも、詳しい話はミナトから聞いたっていう、二重伝聞のちょっとあいまいなもんなんすけど……」

 一拍おいて、
 今日一番の、ブルースには非常に珍しい……本当に真剣なまなざしになって、

 「……『ドライアド』の念話を自然体で傍受できて、常人じゃ考えられないレベルの魔力感応力があって、魔力による肉体・精神への負荷に対して強力な耐性を持ち、植物性の毒性魔力の影響を一切受けず、精霊種の魔物のごとく自然の魔力の恩寵を受けることができる、メガネの女の子って……何だと思います?」

 一息に言い切られたブルースのセリフ。
 それを、きょとんとして聞いていたテレサは……少しの間、考え込むようなそぶりを見せ、時間を置いた。

 そして、10秒ほど思考の海に沈んでいたかと思うと、まだ悩んでいるような『うーん……』という仕草と共に、口を開く。

 「最後の、アクセサリー的な条件は意味がわからないけれど……そんなことができる人が実際にいるとしたら……」

 「いるとしたら?」

 「……まず、人間ではないわね」

 そう、真面目な目で言い切った。

 「ほう」

 「『ドライアド』……精霊種の魔物の念話は特殊で、魔物自らが認定して送信するか専用の道具を使わないと、性質の問題で人間に傍受は絶対不可能。さらに、植物性の……というか、自然由来の毒性魔力が効かないというのも、精霊種の特性の1つ」

 「ふむふむ」

 「魔力感応力や、魔力負荷への耐性は、個人差があるのでどうとも言いづらいけれど……自然の、大気中にある魔力の恩恵を、人間の領域以上に受けられるとなれば……先ほどと同じように精霊種のそれのような、一部の魔物や亜人の特徴と合致するし」

 「その上で、さっき言った2つの要素も、明らかに人間じゃ考えられないレベルだとすると、どういう種族が思い浮かびます? あ、ちなみに、得意な魔力は風、姿形は、人間型から大きく逸脱しない種族と仮定します」

 「うーん……そうね……」

 また一拍置いて、しかしさっきと違って数秒とかからずにテレサが出した答えは、

 

 「……そんなの、『ハイエルフ』くらいしかいないんじゃないかしら? それも、限りなく『純血統』に近いレベルの」

 

 「……ですよね……」

 「…………?」

 
 ☆☆☆

 
 『さァー始まりました、1年に1度の大イベント、トロン地方・奴隷オークションっ! トロン地方に所属する町や村から集められた奴隷は今年も大量・多種多様! お好みの奴隷が見つかるか、競り落とせるかはあなた次第! 奴隷、いつ買うのっ!?』

 

 『『『今でしょー!』』』

 

 「……流行ってんの、コレ?」

 「さあ?」

 すんごい、観客席の声そろったんだけど。

 というわけで、

 僕らは今、奴隷オークションに来ています。
 言うまでもなく、合法なオークションです。

 今言ってた通り、1年に1度開催されるこのオークションは、トロン地方から集められた色々な種類・様々な境遇の奴隷達、実に数百人もが集められ、売られていくイベント。

 この派手さゆえに、奴隷を売るという目的以外にも、自分の商会の宣伝にもかなり有効なイベントである。

 そのため、これに参加する奴隷商たちは、自分達の商会の名前をよりいい印象と共に覚えてもらうため、用意できる最高の奴隷を出品する、というわけだ。

 そして、その最高の奴隷の中の1人が……

 「ザリー、ナナさんの出番はいつ?」

 「前半と後半の間に休憩があるんだけど……たしか、その直前あたりが、ナナちゃんの所属する商会の順番だったはずだよ」

 と、ザリー。

 その手に持ってるのは、今回のオークションのパンフレット。
 会場に入るときに、有料で購入できるもので……詳しい出品内容までは書かれてないけど、出品する商会の順番や人数なんかが記されているものだ。

 そして今言ったように、僕らのお目当ては……もちろん、ナナさんである。

 ナナさんの正体が判明したあの後、ブルース兄さんが王都に戻り次第、ドレークという名の長男の兄さんの指示を仰ぐ、って方針は決定したけど……それまでナナさんをオークションに出品しないでくれ、なんて頼めるはずもない。

 なんせあの時点で、オークションの前日だったんだから。

 事前に買い取ろうとしても、申告した数のの奴隷を保持できなかったってことでバンズさんの商隊の印象が悪くなる恐れがあるので、それはちょっと無理。

 なので、僕らがとることにした手段は……単刀直入。単純明快。シンプルイズベスト。

 ナナさんを……誰かが競り落とす前に、僕らで競り落とす。

 図らずも、ナナさんのセールストークの内容のとおりになったわけだ。

 ちなみに、ナナさん以外の奴隷を買う気は無いので、それまで暇なんだけど、

 「今、午前9時。休憩は午後12時から13時だから……たぶん、ナナちゃんが出てくるのは、3時間弱くらい後だね。数分程度、前後するかもしれないけど」

 
 「それまで暇ね……買う気もない奴隷なんて眺めてても、つまんないだけだわ」

 「まあまあ、いいじゃないのよその辺は。一種の社会勉強だと思って見とけって。人の欲や業がってやつが、これでもかってくらいに如実に現れるイベントだしな」

 「せやな。まあ、時間近くなったら呼ぶさかい、それまで外で時間潰すか、寝とってもええけど……心象悪くなるから、寝るのはやめた方がええかもな」

 「だね……まあ、見学ってことでいいかな。大体の相場って奴もわかるだろうし」

 「それもええやろ。ま、どう転んでも、ナナのことはウチがきっちり競り落としたるさかい、心配せんでもええよ」

 と、ノエル姉さんの頼もしいお言葉。
 そう。今回のオークションでは、おそらくこの中で財力No.1であろうノエル姉さんが、ナナさんを競り落としてくれることになっている。

 それが一番確実だし、自然だからと。

 「ありがとね、姉さん。えっと……僕からも出した方がいい? いくらか」

 「ええよ、そんなん。ドレーク兄がらみの、放置できん案件やしな。それに……」

 「それに」

 「昨日、思わぬプレゼント貰ってもうたしな」

  あー、あれね。

 「たしかに……ありゃそうそうあるもんじゃない。つか、プレゼントの範疇に治めていいもんじゃないしな、そもそも」

 と、ブルース兄さんも。
 その声には、若干の呆れや諦めが入っている。

 昨日、何があったのかというと、だ。
 はい、回想。

 
 ☆☆☆

 
 「と、いうわけで、これが、地下迷宮で見つけた宝物庫……っぽい場所で見つけた、お宝……っぽい何かなので鑑定とかお願いします。以上」

 「うん、エルクちゃん、通訳よろしく」

 「……あの、ブルースさん? 私の立ち位置、なんか著しく変な風に勘違いしてません? ……まあ、やりますけど」

 「「できるんかい」」

 ブルース兄さんとノエル姉さんが声をそろえて突っ込むその眼前で、なぜか理解してもらえなかったらしい僕の言葉の真意を、一番の理解者といっていいエルクが語り始める。

 というか、理解とかそういう以前に……エルクには、ないようそのものをリアルタイムで話してたんだけど、ね。あの時。

 今どういう状況かっていうと、言ったまんま。
 僕が、あの地下迷宮で取ってきた『お宝』を、みんなの目の前に並べて披露して……しかし、わからなすぎる品物が多かったので、鑑定をお願いした次第である。

 教会で、ブルース兄さんに頼んだ『お願い』ってのは、これのことだ。

 

 発端ってのが、昨日の、さらに昨日……つまり一昨日。
 騒動の中、僕1人が水没した『地下迷宮』に取り残されて、その中を『左手法』という必勝法で進んでいた時のこと。

 通路を進んでいた僕の目の前に、ふと、奇妙な光景が広がった。

 そもそも、僕は迷路で通った通路の通路の右や左を覚えていられるほど記憶力よくない、っていうか方向感覚がよくない。

 けど、
 そんな僕でも……迷路の通路、その天井に、今までにはなかった、吹き抜けみたいな大穴が開いてたら……そりゃ気付く。

 通ったことのない通路、って可能性も考えたけど、なんか、今まで通った通路とは……あまりにも造詣違うんだもの。

 もしかしてこれ出口かな、と思って、上へ上へ泳いで行ってみると……そこにあったのは、出口ではなく、10畳くらいの広さの小部屋。

 そしてそこにあったのは、金貨銀貨が入ったいわゆる『宝箱』や、なんか重要な文献っぽい見た目の、本のようなバインダーのような何か。

 とじてあるのは紙じゃなく、セロハンのようなすべすべした手触りの、シートみたいなもの。しかし透明ではなく、にごった白色。
 劣化している様子は見られない。もともと、保存用の素材とかなのかもしれない。

 そして、何だかよくわからないものも多数。
 コレに関しては何だかわからないけど……持って帰れば姉さん達に見てもらえるんじゃないか、と思った。

 

 ……で、
 とりあえずってことで、収納リュックにそこにあったもの全部入れて持って帰ってきたものを、姉さん達に鑑定してもらおうとしているわけだ。

 しかし今思うと、あの天井……もしかして、水に浮く素材で作られてたんじゃないだろうか? 迷宮が水で満たされた時だけ、いけるようになるフロアだったとか。

 ……なんでそんな仕組みにしてあったのかわかんないけど、気分的にはダンジョン攻略した主人公だった僕なので、全部持って帰ってきたわけなんだよね。

 ……なんてことを考えてたら、ブルース兄さん達から返事がもらえた。 

 ☆☆☆

 
 「いやしかし、びっくりしたよな……あの古文書(仮)に書いてあったあれ、多分、壁画見てモンド親子が研究してた理論の、完全版だぜ」

 「それ以外にも、薬草関連の未発見の情報・理論がわんさか……いやいや、先代の知恵っちゅうんは偉大なもんやね」

 「それを一瞬で解読したウィルもすごいけどな。ま、そんなわけだし、あいつらがあの文献を引き取ることになったのは、適材適所だろうよ」

 「せやね……そんで、あの文献の研究結果から作った薬の販売権もうちの商会がもろたし。アレ、経済効果、金貨1000枚や2000枚じゃおさまらへんで?」

 「それをわかってんのかね……ん? 弟よ」

 「わからないこそ全部姉さん達に丸投げする僕なのでした」

 「何を偉そうに言うとんのや」

 びしっ、と姉さんのツッコミが僕の脳天に命中。

 とまあ、今言ったとおり……僕の予想を超えて、あの『宝物庫』にあったものは宝の山だった。

 金貨銀貨はもちろん、そこで発見できた文献、
 それらは、あれらの『壁画』と同様、様々な種類の薬草の利用方法を記したものだった。

 しかも、より多く、より完成度の高い情報が記されていた。

 ……って、ウィル兄さんが言ってた。

 ちなみに、その研究のために、ウィル兄さんとダンテ兄さんはこの場にいない。ブルース兄さんとノエル姉さんに保護者を任せて、あの資料を存分に研究中だ。
 好奇心に忠実な人たちだ……人のこと言えないじゃないか。

 そして今言ってた通り、色々とめんどくさいので、権利とかそういうの一切合財、姉さんに任せて……っていうかあげてもいいかな、って聞いたら……なんか怒られた。

 そして、僕にこういった事柄を話してもムダだと悟ったらしいノエル姉さんは、諦めて僕の保護者であるエルク「誰が保護者だ!」……失礼、相棒であるエルクに相談。

 金勘定はこの中でノエル姉さんの次に得意な彼女に相談しつつ、僕に対しての分け前は、収益の2割、ってことで話が付けられていた。知らないうちに。

 ちなみにその間、僕は同じく宝物庫で発見した、『何だかよくわからないもの』(そのまんま)を弄くるのに夢中だった。

 見たところ、何かのパーツっぽいんだけど、姉さんに見せてもよくわからなかった。
 けど、何かのマジックアイテムの残骸とかパーツっぽい、ってのはわかった。

 しかし、経年劣化でほぼ機能を喪失していたため、修理しても使用は無理だろうとのことで……せいぜい、組み立てて遊ぶパズルみたいな使い方しか出来なさそうだった。

 まあでも、前世で、たまーにプラモデルとか作ってたし、ジグソーパズルも割りと好きだった僕は、暇つぶしにはちょうどいいかな、と思って、それは一応貰った。

 ほかにも色々、すごいのからすごくないの、そしてよくわからないのまで多種多様あったんだけど……それらに関しても、適材適所で分配した上で、必要に応じて発見者である僕へ『分け前』って形でお礼が出ることに。

 それらを合計した所、数年遊んで暮らせるくらいの額になったので、ちょっとびっくりした。しかも……例の『2割』とかでこれから入ってくる分を含めないで、だ。

 そんな感じでお宝を分配し終え、ブルース兄さんとノエル姉さんに感謝され、

 そして僕は、手元に残った用途不明のガラクタ軍団をいじくって遊んでいたんだけども……昨日、気がついたら深夜までそれを続けてて、

 で、気がついたら机に突っ伏して寝てた所を、エルクのチョップで起こされた。

 その時、『そこはだまって毛布とかかけてくれるところじゃないの?』って聞いたら、『あんた風邪なんかひかないでしょうが』ってばっさり。

 ……いいじゃん、夢見たってさ……

 とまあ、だいぶ話が脱線したけど……そんなわけで、僕が地下迷宮の『宝物庫』……おそらくは、そこを管理してたモンドすら存在を知らなかったであろう場所から持ち帰ったもののおかげで、後々巨額の収益を期待できることとなった姉さんは、機嫌がいい。

 なので、ナナさんの購入費用を全額出してくれる、と言うのだ。

 加えて、自分は商人だから奴隷を買っても不思議は無いし、話題に事欠かない冒険者の僕の噂に余計な尾ひれが更につくよりはましだろう、と。

 たしかに、言われてみればその通りなので、お言葉に甘えることにした次第である。

 
 そんなことを思い出している間に、オークションは中盤にさしかかり、どんどん盛り上がってきていた。時間を見ると、1時間が経過しようとしている。

 ステージ上には、入れ替わり立ちかわり、色んな奴隷が商人と共に上がる。

 とりたてて特徴もも無さそうな、おそらくは貧民上がりであろう男。

 力仕事が得意そうな、屈強なマッチョ。

 露出の多い、踊り娘風の女性。

 戦奴隷、なんてのもいた。総じて屈強だったり、体中傷だらけだったり。

 そして、あらかじめ渡されていたらしいメモを司会者が読み上げて奴隷を紹介し……その場その場で、奴隷が自己アピールをしたり、といった具合で進んでいく。

 例えば、戦奴隷なら剣術を披露したり、肉体労働系なら重いものを持ち上げたり……ちょっと言葉に出しづらいけど、その、女の奴隷で、夜のお勤めを主にしたりしそうな人は……衣装の露出が多かったり、モデルっぽくポーズ決めてたり。

 それらを見てて僕は、なんか思ってたより、悲壮感とかそういうもんを感じないな……っていう感じの感想を抱いた。

 だって、奴隷オークションだよ?
 エロゲーなら鬱ルートまっしぐらな可能性すらある、人間社会のダークサイドだよ?

 奴隷にしてみれば、どこのどんな奴に、今後の人生を丸ごと拘束されるかもわからない、それが決まるイベントなのに、普通に自分のこと『買って!』ってアピってんだよ?

 これもう、『オークション』っていうか、『オーディション』じゃないのかな……?

 

 そのまましばらくオークションは続き、午前中ラスト、大トリも大トリってところで、いよいよもってその時は来た。

 「さあさあ皆様、次は午前の部最後にして、バイズ商会一押し、最大の目玉商品でございます! 容姿端麗、頭脳明晰、おまけに意外や意外、腕っ節もそこらの傭兵涙目という、奴隷にしとくにゃもったいない超優良株! ナナちゃんの登場ですっ!」

 そんな商会と共に前に進み出てきたナナさんは……いつもきていた質素な服ではなく、おそらくはオークション用に用意されたのであろう、結構上質な服を着ていた。

 ナナさんの濃い青色……藍色と言ってもいい髪色によくマッチする、しかもどこか凛とした雰囲気を漂わせるあの服は……

 ……なんか、婦警さん?

 いや、まあ、似合ってるんだけどね?
 似合いすぎてむしろ、逮捕されたい人が大量発生するんじゃないかってくらいの婦警さんになってるんだけどね? 今のナナさん。

 しかもナナさん、超ノリノリで、東京なんちゃらコレクションか、ってくらいに堂々とステージ上を歩いて、ポーズなんか決めたりしてるし。

 そして、
 その途中……一瞬、目があった。

 しかしナナさんは、何事もなかったかのように、そのまま普通にステージアピールを続けていた……けども、
 僕やエルクは、気付いた。

 本の一瞬だけだけども、ナナさんがこっちに気付いて、視線をこっちに向けて、

 そして……何の合図だか、ぱちっとウインクを飛ばしてきたことに。

 おそらく、他の客には、今もやっているアピールとの区別はついてないだろうけど。

 「……やれやれ、緊張感ないわね」

 「記憶戻ったから余計に、かもね。僕らがこれから何するかも、予想ついてるのかも」

 「かもね。……まあ、別に特別なことするわけでもないんだけど。じゃあ、よろしくお願いします、ノエルさん」

 「おぅ、まかしとき」

 
 そして、数分後。

 
 ひょっとしたら、劣情に染まった下卑た視線の金持ち連中と、ナナさんをめぐって競り合いになったりとか、そういう展開があるかと思ってたんだけど……結構普通に、ある程度値段が上がった所で、姉さんに追随できる人がいなくなり……落札決定。

 落札価格、金貨9枚……日本円にしておよそ900万円という、本日最高級の価格で、

 しかし、ナナさん本人の経歴や、真の戦闘力から考えれば破格も破格と言うほかない値段で……ナナさんは、僕らのものになった。

 
 ☆☆☆

 
 さて、
 湖畔の発展途上の町『トロン』での日々も、いよいよ終わりを告げ……今日は、その最終日である。

 今日の午後をもって僕らは、この町からウォルカに馬車で戻る予定だ。
 新しく加わった仲間……ナナさんと共に。

 そのナナさんだけども、今、彼女の首もとに『首輪』はない。

 奴隷の首輪は、自分の意思でははずせないマジックアイテムであり……主人に服従させるためのさまざまな機能がついている。

 そしてこの首輪、主人の自由意思ではずすことが出来る。
 購入時に奴隷商人から渡される鍵でその解錠が出来るんだけども、それはすなわち、奴隷身分からの開放を意味する。

 主人にメリットがないから、奴隷として扱い続ける限りは普通やらないんだけど……僕らの場合、奴隷扱いする気はまったくないんで、購入したその場でカチャッとはずした。

 そしてそのナナさんだけど、今後どうするかって点については、まず町を出てから決めることにした。
 開放したはいいけど、そのまま自由に生きていってもらうわけにもいかないし……そもそも、先立つものも何もないんだから無理だろう。

 しかしそれに関しては、何やら姉さんに考えてる案があるらしいので、それが発表されるのを待ってみようかな、と。

 そして、ナナさんに関することで、もう1つ。

 

 ただいま、僕らにとっては最早日課になってしまった、魔法訓練の最中です。

 より繊細なコントロールが出来るようになった魔力で、ノエル姉さんが用意してくれた的用の人形を攻撃してるところ。

 と、いっても……全員の魔法がきっちり威力を持つようになった今では、人形はほぼ例外なく、真っ二つになったり黒焦げになったり木っ端微塵になったり、っていう末路をたどってるのを含めて、いつも通りだ。

 違うのは、そこに……僕らの仲間になったナナさんが加わっていること。

 もともと、エリート中のエリートとして超ハイレベルな戦闘訓練を受けていたナナさん。

 記憶を取り戻した今、魔力コントロールも修行後の僕らレベルだったので、普通に僕らと同じ訓練についてこれている。ちょっと嫉妬したけど、素直にすごい。

 けどまあ、考えてみれば……それも一応、当然なのである。

 何せナナさんは、『直属護衛騎士団』の副隊長だった女性。それだけでも十分に、この国でも最強クラスといって差し支えない戦闘力を持ってる理由になる。

 そして、それに稽古を付けていたのは、そのナナさんの上官。
 王国騎士団総帥……ドレーク・ルーテルス。キャドリーユ家長男にして、兄弟26人の中でも最強の戦闘力を誇る男……って姉さんが言ってた。

 そしてその姉さんに戦闘を叩き込んだ、師匠でもある。
 つまり、姉さんが師匠である僕にとっては……師匠の師匠にあたる人。

 そんな人から、ナナさんは直々に指導されていた……そりゃ伸びるわ、うん。

 まあ、母さんの息子である時点で、もれなく母さんの弟子でもあるから……兄弟皆、実質兄弟弟子だといえばそうなんだけども。

 ところで、

 もう1つ、違うというか……決定的に違和感を感じる点がある。

 それは何かと言うと……ナナさんの手元。

 そこに……どう見ても、『拳銃』にしか見えない、
 しかしその正体は立派な、ロッドとかに類する『魔法発動体』……があること。

 その銃口(っぽい部分)から……ナナさんお得意の魔力弾丸が、『ドドドドドド――』と、秒間何発だよってペースで撃ち出され、木偶人形を一瞬で蜂の巣状態にした。

 ……うん、説明するから待って?

 
 ☆☆☆

 
 突然だが、『ワルサーP38』という銃を知ってるだろうか?

 僕も、アニメとかで見て、大体の形と名前を知ってるだけなんだけど……たしかドイツ製の軍用拳銃だったと思う。それもかなり古いタイプの。

 銃口までの銃身が細くて、リボルバーなんかもついてない形。よく言えばシンプル、悪く言えば、味気ないというか地味というか。

 記憶の中におぼろげにあるその銃に、今ナナさんが持っている魔法発動媒介が、すごくよく似ているのだ。

 あれの正体は、こないだちらっと話した……僕が『地下迷宮』の宝物庫で拾った、なんか組み立てられそうな部品各種を組み合わせた結果できたもの。

 もちろん銃なんかじゃない。銃身に見えるのは……杖だ。

 この世界で、魔法の補助道具として使われる『杖』には、大きく分けて3種類ある。

 両手で持ったりするような大型の、『ロッド』的なもの。
 片手で軽々持って、手首で振り回せる、指示棒に近い、いわば『タクト』的なもの。
 そして、腕輪型とか指輪型とか、そもそも杖の形をしてないもの。

 そしてアレは、『タクト』系の細くて小さい杖。
 そこに、拳銃のそれのような取っ手がついている。安定させるための金具と共に。

 多分、コレを造った昔の人は……杖の先端を常に敵に向けて使用できて、しかもそれを安定させられるように、取っ手という形に行き着いたんだろう。
 その結果、奇しくも拳銃ワルサーみたいな形になった、と。

 それにに、銃身に見えるこの『杖』、これの材質が『木』じゃないみたいだ……触った感じ金属に近いな。頑丈で、魔力方面の性質も上質。もともと中々のマジックアイテムだったんだと見た。
 それに対して、取っ手は普通の金属だから……なんかアンバランス感が否めない。

 ……このへん、後で改造したいな。もしかしたら、まだ性能上がるかもしんないし。

 
 ☆☆☆

 
 「……で、組み立てて錆とってからノエルさんに見せたら……かなり強力な古代のマジックアイテムだった……と」

 「うん」

 「あ、そ……で、なんでそれをナナにあげたのよ?」

 「んー……姉さんに見せたら、経年劣化とかもなくて、暴発の危険もなさそうだ、って太鼓判押されたんだよね。まあ、一応ウォルカ帰ってから専門の人に詳しく見てもらうけど。で、僕が持ってても宝の持ち腐れだから、どうせなら必要な人に、と思って」

 ナナさん、魔法発動装置もってなかったからね。

 そもそも、杖や指輪なんかの『魔法発動体』とは、人間など、種族特性的に魔法の制御が少し苦手な人が必要とする、言ってみればお助けアイテムである。

 別に、持ってなければ魔法が使えない、ってわけでもないけど……それらを使った方が、楽だし、魔法そのものの威力や、魔力の運用効率なんかも格段に上がるので、実質のところ、魔法使いの本気バトルにはほぼ必須なアイテムだ。

 それに、種族によっては魔力の収束や使用を特性として苦手としており、魔法を使う際にそもそも補助が必要だったりする種族も多い。人間もその一つだ。

 もちろん、これも才能の問題、個人差であって……人間でも補助アイテムが要らないくらいに魔力使用が上手い人もいる。

 それに逆に、種族的な特徴として、親魔力性が高く、そういうのをむしろ必要としないような種族も当然存在する。『エルフ』とか『夢魔』とか、その代表格だ。

 現に僕は、体に宿っている『夢魔』の力のお陰もあってか、発動補助を必要とせずに魔法を使っている。『ネガエルフ』のシェリーさんも同様だ。

 ピクシーの『先祖がえり』の力を持っているウィル兄さんも同様。『エクシア族』だかっていうよくわからん種族のブルース兄さんにいたっては、むしろ邪魔だという。
 よくわかんないけど、魔力方面に関して最強クラスの才能を持つ種族らしいのだ。

 しかし逆に、純粋な人間であるザリーや、亜人であっても魔力と近しくない『ドワーフ』のダンテ兄さんや『獣人』のノエル姉さんは発動体を必要とする。

 ちなみにダンテ兄さんの発動体は腕輪型で、姉さんやの場合は指輪型。よく思い出すと、確かにしてた。
 で、ザリーのはピアス。あれ、マジックアイテムだったんだよ。

 そして、エルクは『ダガー』があるけど、ナナさんだけ自分専用のそういったアイテムを持ってない。あの騒動の夜は、ザリーから借りたのを使ってた。

 だから丁度いいと思って、あの銃型(形だけね)の発動体を渡したわけだ。

 しかも幸運なことに、ばらばらだったそれを組みなおしたのはただの素人である僕にも関わらず、もともと複雑な構造ではなかったためか、不具合もないようだし。

 そんな感じで、自分専用の武器も手に出来たナナさんが、訓練に参加したりして、よりいっそう僕らチームになじんできたなあ、と感じていた。まあ、もともとマネージャー的な立ち居地で関わってたからだけど。

 それでもまあ、

 
 ……隣にいる少女からの、なんだかいつもより深い、何かしらの感情のこもってそうなジト目の視線を感じながら。

 
 ☆☆☆

 
 その日の、午後のこと。

 「じゃ、やるよアルバ」

  ――ぴーっ!

 全体での『訓練』が終わったので、僕は町外れの空き地に来て……アルバと一緒に『自主トレ』を行っていた。

 何の? 『合体技』の。

 姉さんにもらってきた、ターゲット用の木偶人形。

 それを、広場にいくつも整列させて並べた。

 それを、アルバと僕で両側から挟むように見えるような位置取りで立つ。
 わかりやすく言うと、

      僕
 木偶木偶
 木偶木偶
      ア

 ……って感じの位置取り。

 そして、深呼吸して、精神統一して……直後、

 僕の手と、アルバの足の爪の先の間に、僕の新技であるあの『エレキャリバー』が、まるでスタンガンの両極のように、火花の帯になってバチチッ、と走る。

 まるで、僕とアルバでゴールテープの両側を持ってるみたいな見た目になる。……つないでるもんは、この上なく物騒なルックスなんだけども。

 そしてその状態を保てることを確認した僕らは……次の瞬間、一気にダッシュ(アルバは飛翔)し……その電撃の帯の部分が、木偶人形軍団のいる部分をちょうど通過するように走り抜けた。

 つまり、

   ←← 僕
 木偶木偶
 木偶木偶
   ←← ア

 これが、

 僕 ←←
  木偶木偶
  木偶木偶
 ア ←←

 こうなるように。

 で、その僕とアルバの間にあったのはあの切り刻む電撃『エレキャリバー』なんだから、間にあった木偶人形君たちがどうなるかなんてのは決まりきった、わかりきったもんで。

 一拍置いて……黒焦げの上にバラバラになった人形たちが、ことごとく崩れ去っていくのを、目の端で確認した。

 「……よし、成功」

  魔法関係の才能が洒落にならないレベルのアルバにかかれば、少し修行するだけで、『エレキャリバー』の会得も可能だった。

  そして、僕と魔力をあわせて発動し、それらを連結させることで、帯状にして間を走らせて……それを使った、広範囲殲滅攻撃が可能なんじゃないかと思って、試してみた。

  結果は大成功。これなら、相手が多くても、大きくても、十分対抗できる。
  ただの人間や小型・中型の魔物なら、この状態でダッと走るだけで一気に片付けられるし……大型の、例えば『トロピカルタイラント』みたいな魔物もスパッといけそうだ。

  弱点として、僕とアルバの『エレキャリバー』を同調させるのに数秒の精神集中が要るけど……それを差し引いても、うん、いい武器が出来た。

 さて、名前何がいいかな……なんてことを考えてたら、

 「……相変わらず、とんでもない魔法や技を次々作るわよね……」

 と、
 広場の端っこで見学してたエルクから、そんなお言葉。

 うん、今日もそのジト目が素敵です。

 

 エルクと一緒に始めた、この秘密特訓。

 今日に至るまで、数々の技が、魔法がここで生まれ……僕やエルクの飛躍的な戦力アップに大いに役立ってきた。

 特にエルクってば、僕もびっくりするようなスピードで上達してくんだもんな……ここに来て、死蔵されていた才能が一気に開花し始めたか?

 そして、そのエルクなんだけど、

 なんか今日、様子がおかしいというか……ちょくちょく、何かに思い悩むような、考え込むようなそぶりが見られるというか……どうかしたのかな?

 今も、いつも通りのジト目で僕らの合体技の訓練を見てたと思ったら、なんだかやっぱりため息混じりな感じで目を伏せて考え事してるし……。

 ……正直、気になった。

 なので、何か悩んでるのかと思って、聞いてみようとしたら……唐突に口を開いて、向こうから話しかけてきた。

 「……なんか、実感わかない……わけじゃないけど、正直、戸惑うのよね」

 「? 何のこと?」

 「いや、だって私……ほんの4、5ヶ月前まで、Eランクだったのよ? それが今じゃ、Cランクって……そりゃ、戸惑うでしょ。いくら自分のことでも」

 あー……今、僕がチラッと思ったこととほぼ同じことを考えてたわけね。

 たしかに、繰り返しになるけど……4ヶ月ちょっとでEランクがCランクってのは、天才どころじゃない伸び方だと、僕自身ちょっと思う。

 そして、僕がそう思うってことは、けっこうなレベルで常識を逸脱してるんじゃないか、ってことも……最近、自覚できるようになってきた。

 以前、ノエル姉さんから聞いた話によれば、見た目にわかりやすい目標として掲げられている『ランク』を上げるのは、当然ながらゲームみたく簡単ではなく、至難の業である。

 ゲーム画面の中の世界はゆるくても、現実は厳しい。
 この世界では、胸いっぱいに夢を抱えて冒険者になった人達の中で……最初の最初のランクである『F』から上に上がれずにリタイアする人も、決して珍しくない。

 まあ、一応上に上がれる人の方が多いけど、夢破れてFのまま引退する人や、分不相応なバカやって死ぬ人も多い。

 そして、仮に『上』に上がれたとしても、そこに待っているのは2つ目の厳しい現実。

 ほとんどの冒険者は、老いて引退するにせよ、途中で死んだり、その他様々な理由で引退するにせよ……ほぼ『E』もしくは『D』より上に上がることなく、その冒険者人生を終える。普通に努力したとして、の限界成長ラインが、だいたいそのへんだ。

 もっと上……限界まで努力した一般人の、限界成長ラインが『C』。

 才能がある者の成長ラインが『B』。天才レベルになると『A』。

 その上に、天才かそれ以上が、更に極限まで努力した領域『AA』『AAA』。

 そして……比べるだけムダといえる『S』『SS』。

 言ってみればこれまでだが……単純な話、今のエルクは、『常人の限界』といっていい実力を、この若さで修めている。しかも、実質たった5ヶ月たらずで。

 少なくとも、普通に修行して、年単位で時間をかけてCになった30代、40台のベテランさんが涙目になること間違いなしである。

 もっともそのエルクは、今回の修行と僕の魔改造修行で……間違いなくB、下手したらAくらいにはなっただろうなあ……

 ……もう10個くらい、実はエルクに覚えさせてみたい魔法がある、とかぶっちゃけたら、泣く人が増えそうだなー……

 すると、いつものジト目……とは、なんだかまた違った風な視線を感じた。

 なんというか、ジト目+口元に笑みが浮かんでるその表情は……前に見覚えがある。
 ただし、見たのは最近でもなければ前世でもないし、浮かべてたのはエルクじゃない。

 あれは……洋館時代、母さんから幾度となく向けられてきた視線だ。
 何もかもお見通し、とでも言わんばかりの、いたずらっぽい『若干上から目線』。

 そして、

 「……ま、あんたにも不思議がられるぐらいに順調すぎる成長できてる、となれば……私も大概、まともじゃない部分に来ちゃった、と見ていいのかしらね」

 ……こんな風に、ホントに頭の中を見抜いてくるから怖い。

 何だかというか、やっぱりというか……エルクと母さんには、どこか似通ったところを感じる。感じ始めている。

 母さん見たくハチャメチャなわけでも、僕を圧倒できるくらいに強いわけでもない。

 ……けどなんだか、別な部分で……エルクは母さんに、そして僕に、近いんだよなあ。

 エルクがすっ、と手を前に差し出すと、僕の肩に止まっていたアルバがぴくっと反応したかと思うと、一瞬間を置いて飛び立ち、差し出されたエルクの手にとまった。

 そのまま、差し出される豆(魔力あり)をかじる。
 こいつは僕の次にエルクになついているので、こんな感じの光景は最近よく見る。

 そのまま、エルクは僕の隣に腰掛けてきた。

 「やれやれ……人間、慣れるもんなのね。初めてあった時は、最初の1週間で一生分驚かされるくらいの勢いだったのに……今私、多少なりそれについてってるもの」

 「それ、僕のこと?」

 「他に誰が当てはまんのよ。こんな風に私が常人の領域から逸脱しちゃったのもあんたのせいなんだから……責任、ちゃんととってよね」

 「…………」

 えっと、それ、こないだも聞いたけど……どういう意味ですかね?

 解釈を僕に任せてもらえるなら、思いっきり都合がいいというか、僕の願望に乗っ取った受け取り方させてもらいたいんだけど。具体的には、エルクくらいの美少女なら即座に首を縦に振らせていただくような。

 ……と、そこまで考えて、ふと思い出した。

 そういえば最近、ちょこちょこ気になってたことがあったんだっけ……この機会に(機会かどうかわかんないけども)、確認させてもらおっかな?

 「……あのさ、エルク、ちょっと聞いていい?」

 「? 何、話題転換?」

 「いや、そういうわけじゃないんだけど……っていうか、どっちかっていうと、僕が下手な回答した場合にエルクからいじられるであろう方向の延長上の話になる」

 「……?」

 首をかしげて、頭上に疑問符を浮かべてそうなエルク。

 そんな彼女に僕は、こないだからずっと気になってた、というか……エルクと親密な関係になった当初から、実を言うとちょっとずつ気になっていたある事柄について、

 そして、ともすれば、僕の最大の悪癖……現実乖離癖とも関連があるかもしれない、あつ事柄について、
 思い切ってたずねてみることにした。

 
 「あのさ……僕とエルクって、どういう関係なのかな?」

 
 「は?」

 どういう意味? とでも言いたげなエルク。
 しかし僕は驚かない。この反応は、ある意味想像できてたから。

 っていうか、今のたった一言で理解してもらえるとはさすがに思ってなかったし。もともと。

 だから、一応ちゃんと詳しく意味を説明するつもりなんだけど……説明するとなったらするで、ちょっと不謹慎というか、そういう内容が混ざってくるんだよなあ……。
 それだから、今までエルクに聞けなかったってのもあるんだよなあ……。

 「私とあんたの、関係……って?」

 「んっと、さ……冒険者としての『仲間』なのは、もう言うまでもないと思うんだけど……それ以外の、例えばプライベートな時間とか、そういうのも全部ひっくるめた上で考えると、僕とエルクってどういう関係だって言うのが一番なのかな、って」

 例えば、だ。

 僕にとっては、樹海の洋館を出てから初めて出会った存在で、その後色々とあった末に仲良くなれたエルクは、人生(前世除く)で最初の友達だ。

 と同時に、色んな基礎知識を、一切面倒くさがることなく僕に教えてくれた恩人で、

 さっきも言ったけど、冒険者として行動を共にする仲間で、

 戦闘訓練や魔法の稽古をつけさせてもらってる、師弟関係で、

 そして、ちょっと18歳未満お断りな領域の、いわゆる男女の関係でもある。

 「とまあ、こんな感じだから……なんていうか、ややこしくって。まあ、さすがに『他人』ではないと思ってるけど、結局のとこ何なんだろう? って」

 「そりゃまあ、私だってただの『他人』に教えを請うたり、一緒に寝たりしないわよ」

 「ああ、うん、それはわかってる。もちろん」

 けどまあ実際、前世でも一部そうだし、この世界でも『花街』なんてもんがあるくらいだから、性に関して奔放な世界観で……もしかしたら、コミュニケーションの一環としてそういうのをやる考え方の人がいてもおかしくは無い、とは一時期思った。

 けど、すぐにエルクは違うな、とも確信した。
 自分や相手のことをきちんと考えて、勢いだけで行動するようなことのない人間だ、って、付き合っていくうちにわかっていったから。

 まあ、最初に出会ったときは一部流されてた部分があったかもだけど(追いはぎ未遂とか)、そこは仕方ないだろう。色々事情もあったし。

 それを一通り、失礼にならないように言葉を選びつつ説明した。

 あくまで自分がちょっと気になって、ひっかかっているだけであって……別に、厳密に決定しとかないと困るようなこっちゃない、ということは織り込んだ上で。

 聞き終えたエルクは、一応こっちがそれなりに真剣に考えてることは伝わったらしく、うーん、と顎に手を当て、眉をひそめて考えてくれている。

 「……質問に質問で返す形で悪いんだけど……ミナトはどうあってほしいの?」

 「え、僕?」

 「そう、あんた自身。例えば……私とあんたは『友達』だ、って私が断言したら?」

 「そりゃまあ、嬉しいね。普通に」

 「そう……じゃあ、『仲間』は?」

 「それも嬉しい。うん」

 くりかえしだけども、今一番近いのはそれだと思ってるし。

 「そっか。じゃあ、『他人』は?」

 「んー……泣く、かも」

 「あっそ。じゃ……『恋人』は?」

 「……超嬉しいけど、翌日から挙動不審になる可能性大。どんな顔して会ったらいいのかわかんなくて」

 前世、思いっきり『彼女いない歴=年齢』だったし。

 「あ、そう……」

 最後の質問だけ、ちょっと顔を赤くしていたのがかわいかった。

 しかし、実際こうして整理してみると(できてない気がするけど)、本格的にわかんなくなるな……冒険者仲間としての付き合いってことで双方納得してたし、最初にそういう関係になって以降、この部分に触れてこなかったからなあ……。

 別に触れるのが怖かったわけじゃない。ホントに、ナチュラルに忘れてたんだよね。関係をはっきりさせるってことを。

 ちょっと不謹慎な言い方になるけど、その必要性を感じなかったから。

 いや、別に今も『必要性』は特に感じてはいないんだけど、一回気にすると、こういうのっていつまでも気になるというか。

 すると、さっきの最後の質問を終えてから、しばらく、まだ若干赤みの残る顔で考え込んでいたエルクが、ふと、何か思いついたように顔を上げた。

 「……だったらさ」

 一拍、

 「……『全部』でいいんじゃない? この際」

 「……はい? 全部?」

 「そう、全部」

 あっさりと、そんなことを。

 
 続けてエルクが話してくれたことには……実を言うとエルク自信も、僕らの『関係』について、何かこう、明確に捕えられるものとして意識したことはなかったんだそうだ。

 僕と同じく、なあなあでトラブルを解決して、なんだかんだで仲良くなって……気がつけば、親しい仲に。

 信頼し会える仲間になってからはホントに早くて、さらにそこに師弟関係までオプションでついてきた。

 今ではすっかり、虎視眈々と僕を狙ってるシェリーさんに敬われる始末だ(いろんな意味で、皮肉込みで)。僕と一番長い付き合いの『パートナー』として。

 そんな風に、いつの間にか、互いが互いの隣にいるのが当たり前なものとして進んできた日常。そこに、今更解釈を付け加えろなんてのは、よく考えれば無茶というか、大して意味もないであろうことで。

 だったら確かに、いいか。『全部』で。

 実際エルクは、僕にとって……遠慮とか無しに仲良く付き合える友達で、冒険者として全幅の信頼を寄せることのできる仲間で、互いに教えて教えられて切磋琢磨し、実力を高めていける師弟関係で、男女の関係にまで進んだ恋人で……その他もろもろ。

 どう呼ぼうがその事実に変わりは無いんだ。今までも、これからも。
 だったら今更そんな細かいこと気にしなくていいじゃん。僕は僕で、エルクはエルクで、そして……『僕ら』は『僕ら』だ。

 「そういうこと。まあ、最近は私もわかってきたのよね。あんたっていう非常識の塊の隣に立つんだもの。細かいこといちいち気にしてたらやってらんないわ」

 「……はははっ、すごい言われようだね僕。別にいいけど。しかしまあ、たくましくなったねエルク。色々と」

 「あんたのせいよ、全部。言ったでしょ? 順調に毒されてきてる……って。そしてコレも繰り返しだけど、きちんと責任とってよね?」

 「おーおー了解。任せといてよ、これからもじゃんじゃんオリジナル魔法プレゼントさせてもらうから。……その段階で色々と人間やめる方向に行くかもしれないけど、そんな細かいことは気にしないよね?」

 「いや、するわ。さすがに。てか、そういう意味で言ったんじゃないっちゅーに」

 びしっ、と僕の額にいい角度で入る、エルクのチョップ。

 うん、これ食らうと実感する。
 今日も、僕とエルクは平常運転だ。

 

 ちなみに、

 その話が終わったタイミングぴったしで、いつのまにかどこかに消えていたアルバが飛んできて、僕の肩にとまった。

 まるで、それを待ってたみたいに……いや、多分こいつホントに待ってたんだろう。話が終わるまで、わざと、空気読んで。

 ……頭よすぎだろ、こいつ。まあ、ありがたいけどさ。

 
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