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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第5章 『正義感』と『正義観』

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第73~74話 The Showtime

今回、たぶん今までで一番長いです。
土日2日とも使って書いたのに終わらなかった……

なので、いつかみたいに途中で切って先に『前半』投稿します。次の話は、いつもよりは早く更新できると思います。

では、ミナト君大暴れその1。どうそ。
 

 場所は、『トロン』の警備隊の屯所。

 そこには、スウラの采配によって動かされた兵達によって捕えられた、モンドの手下たちが捕縛され、集められていた。

 そして、そこから少し離れた位置に……手錠で動きを封じられているアニーと、それを見張りつつ事情聴取を行っているスウラ。隣にはエルク。

 もっとも……何か言うたびに、罵詈雑言を含んだヒステリックな怒声が飛んでくるこの状況を見て、事情聴取になっているかと問われれば、返答に窮するところではあるが。

「……なるほどな。つまり、今日に至るまで、君達『ブルージャスティス』は、迷惑行為・違法行為その他諸々……わかっているだけでもこれだけの実績か」

「頭が下がるわねこりゃ。よく今まで捕まらなかったもんだわ……ま、力技で何とかしてたからでしょうけど」

 そんな言葉と共に、エルクは呆れを含んだ視線を彼女に落とす。

 彼女を拘束している手錠は、ただの手錠ではない。屯所の備品であり、対魔法使い用の特殊装備。魔法封印効果を持つ、マジックアイテムだ。

 しかし、それの装着によってほぼ無力化されていると言っていい今の状況でも、アニーの気迫に配点の曇りも見られない。その部分に関してだけは、エルクやしいらも素直に感心していた。

「ふんっ、何とでも言えば? 別に私達が何言われた所で、その影で確かにリュートが救った人たちがいることには変わりないんだもの、恥じる所なんて何もないわ!」

「……ダメね、これ以上は何も得るモンないわ。やめましょスウラ」

「同感だな……まあ、彼女と、シェリー殿からの証言で、大方の事情はわかった。あとは、ミナト殿が連行してきてくれる、リュート殿とモンド氏から話を聴ければ、それで十分だろう」

 ごく自然につぶやかれたその言葉に、ぴくっ、と、不機嫌さを隠そうともしないアニーが反応し、何を考えたかにやりと笑った。

 彼女の見た目は、かわいらしい美少女、そう言って差し支えないものだというのに、そのエゴや独善がにじみ出た笑みに、エルクは嫌悪感を禁じえなかった。彼女の本音や性根、価値観に触れている分、余計に、だ。

「ふん……何をいうかと思えば。リュートを捕まえる? そんなこと、あんたらみたいな正義を持たないクズにできるはず無いでしょう? リュートは負けないわ」

「『リュート=正義』の狂信者のセリフじゃ、そこに説得力は生まれないわね……ていうか、正義のあるなしで勝敗が決まるんなら、世の中相当平和でしょうし」

「当然それだけじゃないわよ? あんた達は知らないでしょうけどね……リュートは、私やギドよりずっと強いのよ? 実力だけなら、すでにBランクの領域にない。Aランクの魔物だって1人で相手取れるくらいの実力……剣術も、魔法も、彼はAランクなの!」

 ギドを殺したくらいで調子に乗るな、と得意げに言い放つアニー。
 盲信するリュートの勝利を微塵も疑っていない目に、エルクは呆れつつも、ある意味感心を覚えた。

「おまけに、彼の得意な属性は、魔法の才能の中でも、闇と並んで特に希少な『光』! それを極限まで練磨し、極め、剣術とのコンビネーションで彼は戦える。わかる? あんたらみたいなハンパな連中に負ける理由ないの!」

「ふーん……そりゃすごいわね。ま、大方、問題行動やクレームの多さのせいで昇進させてもらえないんでしょうけど」

「何とでも言えば? どの道、あんた達は根本から間違ってるわけ。あのミナトとかいう奴がAランクでも、それはリュートに勝てる理由にはならないわ。リュートに逆らった愚か者の末路……あんた達はあの男の死体の前で悟ることになるでしょうね!」

「……すごい、けど、今のでむしろ逆に確信しちゃったかもね。あんたの態度で、リュートが間違いなく『Aランク』の実力だ、ってわかったし」

「……?」

 と、
 意味ありげなエルクの言葉の意味がわからず、不審げに、しかしいらだちも織り交ぜて眉毛をぴくりと動かすアニー。

 一方エルクの隣で聞いていたスウラは……少しはその意味を理解しているようだった。直接、彼の実力に触れているがゆえか。

 と、エルクはふと思い出したように。

「……そだ、あんた魔法使いなのよね? 『念話』とか使えないの? それ使って、リュートに現状でも聞いてみたら? 気分が乗れば、投降するように警告入れてほしい所だけど」

「はっ、誰が! 話聞いてなかったの? 実力なら間違いなくAランクのリュートが、あんたのあの腑抜けた連れに負けるわけないって……」

「いや、それはもうわかったんだけどさ……」

 一拍、

 
「いくらAでも正義でも……やっぱ推定AAA以上は遠すぎると思うけどね……」

 
 ため息混じりにつぶやかれたそんな言葉は、果たして彼女に届いたかどうか。

 
 ☆☆☆

 
 脳裏をよぎるのは、特撮ヒーローの一場面。
 もしくは、時代劇の大一番。

 どちらも、『出あえ出あえ』の後、雑魚敵大量集合、殺陣直前のシーン。

 その向こうでは、黒幕という名のラスボス・モンド氏がにやりと笑って立っていて、

 どうでもいいけど、敵が目の前にいるってのに余裕だな、部下を間に挟んだ程度でよくそこまで安心しきれるもんだ。

 さらに、僕に少し近い、同じようにザコ軍団に囲まれた位置には、リュート。
 この立ち居地は、大量の敵に立ち向かうために一時共闘するか、それとも三つ巴の大混戦になるか、っていうのがテンプレートだけど……今回は後者だ。

 向こうは一応共闘する気だったらしいんだけど、残念ながら彼も僕の捕縛対象なのである。というか、個人的な意見として、彼と共闘したくなんてないし。

 と、いうわけで……モンド勢力(なんか館から更に出てきたから、ざっと100人ちょい?)、僕、リュートの三つ巴となった、っていうのが……この状況。

 そんな中、

「……ミナト、この際だから、先に聞いておきたい」

 と、リュート。

「何?」

「モンド氏が、さっき言ってた。君の仲間が、ギドを殺したって。……本当なのか?」

「……ああ、僕も仲間から念話で聞いただけで、確認はしてないけどね、そう聞いてるよ。まあ、そうなってもおかしくない組み合わせだったらしいし、多分本当だと思う」

「……っ……よくも……っ!!」

 ぎり、と、
 リュートの奥歯がきしむのが聞こえる。

 その手に持っている剣――飛ばされたときよく失くさなかったな――の柄が、あまりに強く握り締められて、ぎしっ、と音を立てたのも聞こえた。

「どうしてっ! どうしてギドを……仲間だったのに! 今までずっと、正義のために一緒に戦ってくれた、心強い戦士だったのに! どうして君の仲間は彼を殺したんだっ!?」

「……そりゃまあ、敵だったからじゃないの?」

「彼はっ! 奴隷達の、貧民街の人達の幸せのために、正義の目的のために戦っていたのに! それを敵だったからって……!」

「まあまあ君達、その辺にしておきたまえ」

 と、傍観を決め込んでいたモンドが、どうどう、という仕草を交えて割って入った。

「仲間の命が絡んだトラブルだ、つもる話もあるだろうし、心ゆくまで言い合うのがいいだろう。けど、何分今は時間がない……悪いが、続きはあの世でお願いしよう」

 言うなり、さっと手で合図を出して、手下全員を構えさせる。

 100人弱が持っている、剣、ナイフ、棍棒など多種多様な武器が、一斉に僕とリュートのほうを向いた。

「『黒獅子』君、君も運がないねえ、同情するよ。今日一晩、大人しくしていてくれれば、君は何のトラブルにも巻き込まれずに済んだだろうに……せめて君のことは、暴走したリュート君を止めるために我々に加勢して戦い、名誉の戦死を遂げたと報告しておこう」

「ご心配なく、死ぬ予定はありませんから。それより、あんたこそよくそんな余裕で笑ってられますね? ちょっと自画自賛入りますけど……高ランク冒険者2人相手にたかだか数十人じゃ、殺すにはちょっと頼りないように見えますけど」

「問題ないさ。彼らはただの護衛じゃない……審査を潜り抜けて選びぬかれた精鋭達だ。しかも、薬剤投与による肉体改造によって、通常の人間よりも優れた身体能力を手にしている集団だ……全員、君ら冒険者のランクにしてCくらいはあると思うよ?」

「ぅおう、改造人間ってこと?」

「そんな大層な名前をつけるほど大げさじゃないがね。ただ、定期的な薬の投与によって、身体能力全般や治癒力、反応速度を高め……さらに、痛覚と恐怖心を押さえ込んでいるのさ。しかも、気分もよくなる。すごいだろう?」

「ほー……それも、遺跡の壁画にヒントがあったわけ?」

「ああ、そういうことだ。全部じゃないがね」

 ……どっかで聞いたような話だな。前半はともかく、後半。

 前世のテレビドラマだか、学校の授業だかで聞いたことがある。
 戦い……主に戦争の時に用いられた、身体能力の向上なんてのはないものの、恐怖心を薄めて気分をハイにさせる薬。

 ぶっちゃけて言うと、なんだかっていう麻薬の一種なんだけどね。戦場で、兵士に死に対する恐怖心をなくさせるために使われたっていう。

 身体能力の強化が本当かどうかは知らないけど、その『定期的に投与することで』って多分、もう全員依存症になってるからじゃないんだろうか。身体強化作用を隠れ蓑にして、やばい薬だってことを自覚させずに使わせてるのかな。

 なんというか、とことんこいつら、マフィアというか自由業ちっくな集団だな。

「ま、そういうわけだ……安心して、逝ってくれたまえ」

 そしてモンド氏は、もう話すことは無い、とばかりに……掲げた手を、ばっ、と前に振り下ろ――

「――やれ、お前達「先手必勝ォ!」何っ!?」

 ――すよりも先に、収納ベルトから取り出した棒で半円状に前方を一閃。
 もちろん、伸ばしてリーチ広げながらだ。10人くらいいったかな。

 これは殺し合い。わざわざよーいドンを待ってやる義理は無い。
 ……だから、そこであっけに取られるなリュート。どこのバカ正直な勇者系主人公だ。

 ――さて、じゃ、始めようか。

 
 ☆☆☆

 
「……始まったわね。相手はざっと100人ちょっと……あとはリュートか」

「? エルク殿、念話か?」

「いや、ちょっと違うんだけど……後で説明するわ。しかしどうやらミナト、この修羅場を新技実験用のステージに有効活用するつもりみたいね。そういうことなら直接見て見学してみたいけど、さすがに邪魔になるかもだし……ん?」

「…………?」

 先ほどから要領を得ないというか、意味のわからないことを言う……というか、しているエルクを、スウラは頭上に『?』を浮かべて見ている。

 エルクはと言うと、いつも『念話』を使うときに似た仕草を見せている。そのことから、何らかの魔法を使っていることは確かだと思われるが、やはりその正体は不明だった。

「んー……やっぱまだ未完成、ってとこが痛いわね。贅沢言うようだけど、視覚情報の共有も、近いうちにどうにか……あれ? これって、ブルースさんと……ナナ? 何で?」

「…………???」

 疑問符を浮かべるエルク。
 それを見て更に疑問符を浮かべるスウラ。

 この『何か』の正体が何なのかを

 そしてそれが、一緒にいたはずのアルバの姿が見えなくなっていることと関連があるということを、スウラや他の者が知るのは……まだ少し先のことである。

 
 ☆☆☆

 
「――っしぇァア!!」

「はああぁああっ!!」

「何をしている! たった2人だろう、さっさと片付けろ!」

 ただいま、絶賛戦闘中。
 物干し竿風の棒を振り回し、近づく端から沈めている。

 しかも、振り回してるのはただの棒じゃない、

 どうなってるかっていうと、棒の先端に水の渦が出来てて……しかも、その水が帯電してる。あれだ、ブルース兄さんも言ってた、『雷』の魔力を溶かした水である。

 棒に『雷』と『土』で磁力を持たせ、さらに、水に溶かした魔力を磁力に見立ててひきつけることで、危険な『電気水』を棒が渦状に纏った状態にしてある。

 そして、その『纏っている』状態でも、振った勢いとか打った衝撃で、水が多少なり飛散するから恐ろしい。帯電した水が、相手に降りかかるわけだ。

 しかもその水、棒から離れても、こめた『雷』の魔力が尽きるまでは帯電し続ける。地面に落ちようが、敵の体に降りかかろうが。

 そんな危険な電気水が、渦状になって棒の先端にくっついてるんだから、まさに僕の攻撃は一撃一殺。棒に当たろうが避けようが、水が当たれば感電する凶悪な攻撃だ。

 闇夜に渦潮状の光が浮かび上がっているビジュアルも手伝って、自分で言うのもなんだが威圧感出てるし……個人的にかっこいいんじゃないかと思ってたり。

 横に一閃、2人撃破。

 スピンしてもう一閃、棒のもう片方の端で一発。こっち側は水は纏ってないけど、威力は十分あるのでよし。今ので3人撃破。

 さらに、棒を長く持って、斬り上げの要領でもう一閃。これでまた1人。

 縦に、横に、斜めに……素早く踏み込んだり、サイドステップやスピンも組み合わせて、来た奴から沈めていく。まあ、来なくてもこっちから行くけど。

 たまに、特攻覚悟で棒をかいくぐって懐まで飛び込んで来る奴がいるんだけど、蹴るなり、棒の反対側を使うなり、拳に同じ電気水の渦を纏わせて殴るなりして迎撃。

 ふと横をチラッと見ると、リュートはリュートで、愛用の剣(エクスカリバーとか言ったっけ?)を振り回して敵を倒している。10人くらいはやったか。

 僕は20人くらいやったはずだから、残り70弱、ってとこかな。
 なら、そろそろ……次の技、試すか。

 棒を持つ手に念じて、電気水の渦を解除する。
 そして……ここからがいよいよ、僕の趣味全開のショータイムだ。

 
『……おーいミナト、技がすげえのは認めるが、遊んでないでさっさと終わらしてくんね? お兄さんそろそろ眠いわ』

『……ってお兄さんが言ってるけど、どうすんの?』

『あえて断る方向で』

 
 エルクの『多人数念話』で届いたブルース兄さんの抗議は流して、いざヒーロータイム!

 渦だけじゃなく、棒も『収納』して消し……その代わりに、ってわけじゃないけど、今、僕の体を内外から覆っている魔力が、徐々に変質していく。

 身体強化は『エレメンタルブラッド』で十分だけど、それとは別に魔力を(もちろん『エレメンタルブラッド』級の繊細さで)めぐらせることで、さらに強化できる。その場合、体をめぐる魔力が多くなりすぎて、いくらなんでも負担が大きくなるけど。

 それをある程度形にしたのが、『ダークジョーカー』。
 大きな反動と引き換えに、戦闘力を激増させる、超濃密な魔粒子によるドーピング。

 しかし、
 姉さんの一連の修行で、魔力をより繊細にコントロールできるようになった僕は、能力アップ幅の増大と同時に、術式の改良、さらに体にかかる負担の軽減にも成功した。

 ――で、
 それで調子に乗って開発したのが……今から見せる、びっくり人間ショーだ。

 名づけて……『フォルムチェンジ』。

 ……さて、もう、僕の厨二病頭の中で何が考え出されたか、わかった人も多いんじゃないだろうか。

 体をめぐる魔粒子の一部が……外部に影響を及ぼす部分が、ゆっくりと発光し始める。魔力が自然に放つ、その特性としての色を。

 色は……赤。
 すなわち、『火』。

 ……その名は、実に安直。

「じゃ、行きますか……フォルムチェンジ……『ファイヤーフォルム』!」

 そう、僕が言った瞬間、
 僕の両手両足から、轟、と音を立てて炎が燃え上がった。

 
 ☆☆☆

 
『……おいエルクちゃん、何だ一体ありゃ?』

『びっくり人間ショー?』

『……いや、限度ってあるだろ。何なんだあの姿?』

 砂時計片手に、ミナトの戦いを遠くから観察しているブルース。
 彼の目的は、この戦いにおけるミナトの動きなどから、実力を見極め、修行の成果が現れてるいるかどうか採点すること。

 本当は、その他にもいくつか目的があったりするのだが、今は省略することとする。

 しかしながら、ブルースは……そのあたりの事情がすっかり頭から抜け落ちるほどに、目の前で繰り広げられている光景に唖然としていた。額には、汗がたらり。

 視線の先には……燃え盛る炎のともった拳足でもって、夜の闇を押しのけながら乱舞している、弟・ミナトの姿。

 ただ燃えているだけではない。一発一発の攻撃に、きちんと炎の魔力が乗っている上……命中の瞬間に、炎が爆ぜて何倍もの大きさになる。文字通り『爆発力』の乗った拳だ。

 結果、その一撃をくらった敵兵は、ほぼ全員、焼け死ぬか消し飛ぶかして、原形を残さずデッドエンドしていた。

 おまけに最悪なことに、攻撃の際に燃え移った炎が、なかなか消えないときている。

 これは、打撃の瞬間に飛散した『魔粒子』が相手について、魔力を発し続けるせいで、それが尽きるまで継続して燃え続けるからという理由だった。

 これは偶然の産物でもなんでもなく、ミナトの計算どおりである。

 拳打と同時に着火剤をばら撒き、相手に追加ダメージを与える手段として考えられた技。
 その名も『インセンディアナックル』。訳すると『焼夷弾の拳』。

 といっても、継続して燃やし続けることでダメージを継続して耐える程度の技なら、ブルースも百年以上の人生の中で何度か見ているし、いくつか知っている。

 ……ブルースが驚いていたのは、もっと別の所だった。

(……あんな滅茶苦茶な技発動させてんのに……なんでアイツ、あんなに魔力の動きが滑らかなままでいられるんだ……?)

 魔力による身体強化とは、本来魔力をまとうことのない物質や肉体の部位に魔力を纏わせることで、全能力の底上げを図るものである。

 しかしその際、やはり普段は魔力がほぼ通わない部位に多量の魔力を充填するということになり……どうしても、その部分の魔力収束は荒々しく、粗雑なものになるのだ。

 魔力の性質が『水』や『光』などに変化などしていればなおさらである。コントロールは難しくなるし、充填できる限界量も、性質を変化させない時に比べて少なくなる。『火』や『雷』など、完璧にコントロールしなければ、暴発して自分もダメージを受けるような危険性があるものなら、なおさらだ。

 しかしそれは、本来、強度的に限界がある人体やその他の物体である以上、当然のことであり……訓練によって少しずつ改良していくしか対処法がないものである。

 しかし、ブルースが今見ているミナトの、纏っている魔力の流れは……その法則を根本から無視しているものだった。

 ブルースの魔力感知能力が感じ取ったのは……ミナトの体の内外を、全くよどみなく、滑らかに魔力が流れているという……基本法則を無視した異常な状態。
 肩から腕へ、腕から手へ、手から体外へ……水が流れるように、滑らか。

 しかも、上手く扱わないと人体に害を及ぼす可能性すらある、攻撃性の高い『火』の魔力が、だ。まるで、そこには魔力以外存在しないかのようにスムーズ。
 ミナトの肉体という『異物』が、まるで邪魔になっていないのだ。

 ブルースの知る限り、こんな芸当が出来るのは、『エクシア』を含めたいくつかの特定の種族だけであり……決して人間が気軽に出来るようなことではありえない。

 しかし、

 目の前の弟は……それを苦もなく実行しているのだ。

「……そういや、言ってたっけな、ノエルが。ミナトの場合は、魔力方面にも所々異常さが見られるから、注意して見といてくれ……って。まさか、コレのことか?」

 普通に考えて、こんな状態を実現できるとすれば……肉体が限りなく魔力に近い物質に変化しているか、限りなく肉体の親魔力性が高まっているか……あるいは、その両方か。

 いずれにせよ、人間の体がそういう状態になっているというのは……只事ではない。

 その状態が、ミナトの『エレメンタルブラッド』という名の、体内にごく自然に魔力が存在する体を作り上げる魔法によるものであり……理由としてはどちらかと言えば後者であると言える、ということを……ブルースは、当然知らなかった。

 驚きのあまり、その可能性が頭に浮かんでこなかったためと……

 ……次の驚きが数秒後に訪れたせいで、落ち着いて考える余裕が皆無だったために。

「さて、燃えるように……ってか実際燃えてて熱いのはこのへんにして……次はちょっとクールにいってみようか? 続きまして……『アイスフォルム』っ!!」

 次の瞬間、
 今まで荒々しく燃え盛っていた炎がふっと消え……そしてその更に一瞬後、

 今度は、ミナトの体を、先ほどの赤色とは対照的な、涼しげな水色の光が覆い……数秒後、僅かではあるが、ブルースのいる所まで冷気が漂ってきた。
 もっとも、氷系を得意とするブルースだからこそ気付けるような、僅かなものだったが。

(……っ!! 一瞬で性質を変化させた!? しかも、体に纏ってる部分まで同じように一瞬で……何の反動も負担もなく!? ありえねえ……『火』と『氷』、真逆の2つだぞ!?)

 ブルースの困惑を余所に、ミナトは氷の魔力に覆われた拳をふるい……それが命中した相手が、着弾箇所から白い煙を上げて倒れた。

 そして、倒れた男は……殴られた部分が、氷付けになっていた。

 ミナトの手には、見た目こそ違えど……先の炎の拳、『インセンディアナックル』と、非常によく似た魔力構成の光が纏われていた。

 すなわち、先ほど同様……『氷』の魔粒子が飛散して敵に付着、その冷気が牙をむいた結果だと考えられる。

 ちなみに、技名も『フローズンナックル』といい、似ているのであるが、当然それをブルースが知る由もない。

 それ以前にブルースの頭の中は、今ミナトが見せている、先ほどまでと全く違う性質の魔力を一瞬にして充填し使いこなすという離れ業のことで占められていた。

 そしてその後も、

 
 オレンジ色の光を纏い、拳の一振りで骨を粉砕し、上空100mにまで相手を投げ上げて墜落死させるなどの離れ業を見せる、膂力と力技の『ランドフォルム』、

 緑の光を纏い、体の回り数十センチの風を操り、空気抵抗や滞空時間を操作してトリッキー&スピーディな動きで敵を翻弄する『エアロフォルム』、

 全身を帯電させ、触れただけで相手を丸焦げにし、そして電気刺激で体を強化することにより、全フォルム中最速のスピードを誇る『サンダーフォルム』、

 
 ――とまあ、題名に偽りなしのびっくり人間ショーを、観客ともいえるブルースに惜しげもなく次々披露し、毎度度肝を抜いていた。

 これこそが、様々な属性の魔粒子を体に高密度かつ緻密、しかし負担にならない程度に充填・循環させて戦う戦闘技能『フォルムチェンジ』。攻撃全てに、属性効果がつく。

 言ってみれば、『ダークジョーカー』の簡易&改良版。出力は『ダークジョーカー』には及ばないが、修行の成果もあり、ほぼ無反動で使える超強化だ。

 そして気がつけば、

「……あら、もう10人いないじゃん。シリーズまだ残ってんのに」

 開戦からわずか10分少々。
 ショーの間に、もはやモンドの戦力は壊滅と言っていいところまで来てしまっていた。

 『サンダー』状態の手で首根っこを締め上げられ、電気椅子よろしく一瞬でショック死した手下を投げ捨て、あっさりと言うミナト。

 見渡してみれば、先ほどまでよりもだいぶ通りの見通しがよくなっていた。
 立っている人数が――生きている人数が、と言い換えてもいい――減ったために。

 そしてところで、今回ミナトは今までに比べて随分と容赦なく戦っていた。

 エルクの一件や、『花の谷・ミネット』の一件……そのどちらも、それなりに容赦なく戦い、襲ってきた悪漢の全員を病院送りにして勝っていた。が、『殺す』ことを前面に押し出したような攻撃は行っていなかった。

 しかし今回は、ほぼ致死確実の攻撃をも遠慮なく使い、数十人単位で数えて差し支えない死人を出していた。その割合は少なくとも、半分は超えているだろう。
 取り巻き共のうち、リュートが相手をして死んだものを含めればもっと増える。

 その理由としては、いくつかあった。

 まずミナトは別に聖人君子でもなんでもなく、好んで殺したいとは思わなくとも、別に死なないように配慮して攻撃する理由もない。人数がかなり多いこともあったわけだし。

 次に、先ほどからのリュートとのやり取りや、ナナを巻き込まれたという事実のせいで、それなりにいらだっていた。

 そして最後、三つ目。
 モラルハザードなこの世界らしいその『頼み』は、エルクの多人数念話によってスウラから正式に、モンド捕獲の『依頼』をされた際に、付け足されたもの。

 ひとこと付け足された程度の、非情な、しかし合理的な、内容に対してあまりにもあっけない注文。

 
『それとミナト殿、情報によれば、敵の雑兵の数が数百人単位になるらしいのだが……連行する馬車にも限りがあるし、人間性などから奴隷刑に向かない者も多い。すまんが……少し絞っておいてくれるか?』

 
 暗に、『あまり大人数生かしてあっても困るから、殺して人数を絞れ』という指示。

 リュートに言わせれば、『非人道的なありえない言葉』だろう。まあ、減らされる側も問題のある者達であるし、あくまでスウラの方向性の非難にとどまるだろうが。

 しかし、ミナトからすれば……仲のよい友人であるスウラと、俗に言う『悪人』にカテゴライズできる他人。どっちを優先するかを悩むこともなかった。

 結果、さらについでに『新技テスト』を織り込んだミナトの攻撃は、容赦ない乱舞となり、現在に至る。

「さて、だいぶすっきりしたねこの辺。で、どうするの、えっと……モンドさん? ご自慢の護衛部隊、9割引ぐらいになっちゃったけど」

「……っ! ちょ、調子に乗りやがって……笑っていられるのも今のうちだぞ小僧! 私が定刻までに港に来なければ、自動的に別の部隊が応援に駆けつけるようになっている! もうそろそろ、先ほどまでに倍する人数の護衛が……」

 モンドからは、先ほどまでの、余裕を滲ませた口調がなくなっている。
 額には冷や汗も浮かび、こちらは先ほどまでよりも開けた視界がそのまま不安の大きさにつながってしまったようだ。

 ミナトとリュート、2つの威圧感を浴びて、強がる余裕はすでにないはずだが、そこは最後の意地なのか、弱気な部分をあくまで見せないように言い放った。

「来ても変わんないと思うけどなー……」

「……諦めろ、モンド・ハック。お前はもう、ここで終わりだ!」

 と、ミナトに続く形で(不本意であろうが)言うリュートは、びしっ、と愛剣の切っ先をモンドに向けて構える。

 言うことやること、何から何まで幼稚な子供の夢物語、モンドがそうバカにしていたリュートであるが、その実力は、アニーも言っていた通りのものだった。

 通りに転がっている、モンドの部下達の死屍累々の惨状。このうち3割強は、リュートの仕業なのだから。

 口では強がったものの、やはりこのレベルの敵2人あいてに、残り10人を割った護衛では勝ち目などないとわかって焦っていたモンド。

 しかし、その視界の端にあるものが映り……モンドは冷や汗が引いていくのを感じた。

 それは……見知った顔の、自分の私兵。
 それも、今さっきまで自分を囲んでいた者たちとは、別の部隊の。この町の別の場所で待機させていたはずの兵士だ。

 それがここに来ている。それすなわち、その部隊が自分の救援に駆けつけてくれたことを意味する。

 先ほどモンド自身が言った言葉。あれは正真正銘、本当だった。ただ、間に合うかどうかが問題であり不安だったのだが、今、それが一気に解消された――

 
 ――かに思われた、が、

 
「……ほ、報告いたし、ます……モンド様……。事前の指令、により、こちらへ向かっておりました、2番隊……ぜ、全滅いたしまし……た……っ!」

 
「――っ!?」

「「?」」

 
 唐突にその場に現れた1人の兵士。
 『何だコイツ』的な視線を向けていたミナトとリュート、そして、期待のこもった視線を向けてきていたモンドの耳に届いたのは……そんな報告だった。

 前者の2人に関しては『何を言ってるんだ?』といったテンションだが、それを聞いたモンドはというと……最初は意味がわからず、しかし徐々に表情に困惑が浮かんできた。

 ……が、浮かびきるより前に、

 
 ――ドキュン、と、

 
 突如として兵士の背後から飛来した、ピンポン玉大の魔力弾が……まるでライフル弾か何かの一発のように超高速で直撃し、兵士の胸を貫いて一瞬で絶命させた。

 そして、
 すでに事切れたであろう兵士の体が崩れ落ちたその背後、

 そこに立っていたのは……

 
「あ、ごめんなさいね皆さん、お騒がせしまして。いやいや、全員逃がさずに仕留めるつもりだったんですが……やっぱりだいぶ鈍ってるなぁ」

「……ナナ、さん?」

「あ、はい、ご無事で何よりですミナトさん。こちらの方々はミナトさんが?」

 
 この死屍累々の惨状を目の当たりにしながらも、いつものまんまのテンションで平然としているナナさんがそこにいた。

 ただし、いつもの明るく元気で一生懸命なだけの彼女とは、違う箇所があった。

 それは、その手に……1本の短い『杖』が握られていること。
 そして、その周囲に……濃密な魔力が、勢いよく渦を巻いていることだった。

 そのたたずまいは、自然体のようで隙がなく……また、先ほどの魔力弾は彼女が放ったものであろうと言う事が、容易に想像できた。

「えっと、その……あの、何? ナナさん、ですよね?」

「あー……すいません、詳しくは後でお話しますので、今は」

 少しだけ気まずそうに首をかしげるナナ。
 ミナトの戸惑いは察するが、今は時間もないので、ということだった。

「とりあえず、微力ながら加勢させていただきます、ミナトさん。説明させていただくためにも、この騒動をまずはどうにかしましょう。……あ、それと、モンド氏のもう片方の部隊はすでに私が全滅させてきましたので、ご心配なく」

「「「は!?」」」

 さらりと、今自分で言ったセリフのうち、『微力ながら』の部分が欠片も説得力がなくなるようなとんでもないことを言ってのけたナナ。
 次いで、くいっ、と親指で後ろの方を指差す。

 その示す先には……湖の近くに建っているやや大きめの建物が、銃火器を多数使用した銃撃戦の後のように、半壊状態になっているのが遠目に見えた。所々、火の手が上がっているようにも見える。

 それを見たモンドが顔を青くして、先ほどまでに倍する冷や汗を流していることから考えると、おそらくはアレもアジトの1つだろう。

 そしてつまり、それが示すのは……ナナの言葉は、冗談でも何でもなく、事実。

 目の前でにっこりと笑っているこの少女は、たった1人で、おそらくは今自分とリュートが相手をしたのと同等の人数を相手に戦い、壊滅させたということだ。

「……あの、ナナさん?」

「はい」

「……あなた、何者?」

「ですから、それも全部後で。ほら、ちゃんと最後までまずは後始末しないと」

 言うが早いか、ナナは手に持っている杖を構え……た、と思ったその瞬間、

 魔力が練り上げられ、杖の先端に収束していく。
 それは弾丸となり、形成されると同時に発射され……不意打ちを狙って近づいてきていた1人の私兵の頭に風穴を開けた。

 向こう側が見えるくらいの大きさの豪快な穴だ。
 しかも、着弾の際にえぐり取ったであろう血肉は、高密度の魔力の激突に耐え切れずに消し飛んで霧散しているため、脳のかけらがその変に飛び散ってる、などということもなかった。凄まじい威力である。

 そして、威力以上に驚異的なのは……この一連のプロセス(準備開始→私兵死亡)が、わずか0.1~0.2秒ほどの超短時間の間に行われたことだった。

 おそらく、撃ち抜かれた私兵は、今何が起こったのかすらよくわからなかったと思われる。自分の死を認識する前に命を手放したことだろう。

 ミナトはまるで、魔法というより……西部劇などで見る、ガンマンの早撃ちのような印象を、今の魔力弾の発射に抱いていた。

 ミナトを含め、その場のほぼ全員があっけに取られている中で、ナナはさらに動く。

 ――ドキュン、ドキュン、ドキュン、
 ――ドキュン、ドキュン、ドキュン、

 無機質に響いた、6発の音。
 要した時間はやはり短く……わずか5秒たらず。
 6人のうち2人は、遅れながらも反撃の剣や魔法を繰り出していたにも関わらず。

 一発の弾丸につき1人が命を散らし、これをもって……モンドの私兵は今度こそ全滅した。

 やはりミナトは、その光景に同様の印象を抱く。

 敵の攻撃をかいくぐり、手に持った銃から鉛玉を放ち……百発百中で敵の急所をとらえ、死屍累々の中、悠然と目標を達成してその場を去る。
 まるでそんな、ガンアクション映画のような、流麗な動きだった。

 先ほどは無機質に、といったが……態度だけを見れば正にそうではあるものの、ナナは動きも常人のそれでは明らかになかった。

 素早く3発打ち込んで3人しとめ、

 我に返った1人が斬りかかってきたものの、それを回避して至近距離から1発、

 屍になったその1人を残る2人のほうに蹴飛ばし、その2人は迫る仲間の死体に戸惑った所でもう1発。これで残り1人。

 やけになって無茶苦茶に魔法を放ってきた最後の1人は、それらを全てかわしたナナに、恐怖を浮かべた顔のまま、心臓を撃ち抜かれて息絶えた。

 洗練された動きと、殺すことに何の迷いもためらいもない魔法攻撃、
 日ごろ見てきたナナのイメージとはあまりに違う、しかし不自然さや邪さといったものを感じない空気を、ミナトもリュートも感じていた。

 十数分前まで彼女自身すら知らなかった、その過去が一体どのようなものなのか……ミナトがそれを知るのは、もうしばらく後のことである。

 
 ☆☆☆

 
 ナナさんの乱入から1分ちょい。
 もともと決定的だった戦場が更に決定的になったところで……とうとう耐え切れなくなったんだろうか。

 黒幕ことモンド氏は、ナナさんの魔力弾が最後の1人の頭を打ち抜いた所で……精神的に限界が来たらしく、勝手に気絶してぶっ倒れた。

 何だ、あっけない、とか思わないじゃなかったものの、手間が省けてよかった。

 すると、身柄回収を試みる僕やリュートより先に、ナナさんがその身の傍にしゃがみこみ……何を思ってか、懐を探る。
 手馴れた様子で、ポケットをひっくり返しながら、何かを探している。

 30秒ほどもそれを続けていたかと思うと、『あった』という声と共にナナさんは手を引き抜いた。その手に握られていたのは……。

「? 何それ、鍵?」

「多分、金庫の鍵です。モンド氏の経営する商会のエンブレムが入ってますから、重要書類がわんさか見つかると思いますよ?」

「お、もしかして、一連の事件の証拠品になりそうな類の?」

「はい、研究資料とか、裏金とかの帳簿とか、人材の使用用途なんかを記した書面なんかももしかしたら。後は、合法・違法が多分ごっちゃになった、奴隷契約の証文とか、借用書とかもあるかもですね」

 さも当然のように言いながら、僕に鍵を投げてパス。落とさないようキャッチする。

 なるほど、コレを探して、ナナさんはボディチェックを施してたわけなのか。
 すごいな……着眼点が、なんかこう、抜け目がないというか、なんというか。

 こういう発想といい、手馴れた感じの手つきといい、さっきの動きといい……本気でナナさんの過去が気になるところだ。
 さっきエルクから『記憶戻ったんだって』と連絡もあったので、後でゆっくり聞けたらいいな、と思う。

 ……まあ、それは後でやるとして……

 今は、残った最後の問題に対処するとしようか。

 
 ……さっきから、僕の背後から遠慮ない感じの視線やら殺気やらバリバリ投げかけてくる、この勇者君に。

 
 モンドとその私兵が全滅したその場でしかし、いまだ剣を鞘に収めないリュート。

 『エクスカリバー』とかいったその剣の切っ先は、今は僕の方を向いてるんだから、たまったもんじゃない。

 ……予想しないじゃなかったし、むしろ戦闘中にこうならなかっただけ嬉しい誤算なのだが、やっぱ気分悪いもんは悪いのだ。

「……で、何? 僕今から、このおっさんの身柄とこの鍵持って帰って、知り合いのそこそこ偉い軍人さんに提出しなきゃ行けないんだけども。立派な証拠品だから全部」

「……モンド氏の身柄については、そうするのがいいだろう。その人は許されない罪を犯した……罰せられるべきだ。けど……もう1つの方は、ちょっと待ってもらいたい」

 そら来た。
 嫌になるくらい予想通りだよ。嫌な予感的中だよおい。

 多分このあと、リュートはこう続けるだろう。
 その鍵を、こっちに渡せ、と。

 理由は、この鍵を使って開けられる金庫の中には、スラムの貧民層の人達や、今現在もすでに奴隷身分に身を落としている人らに関係する、借金の証文や奴隷の契約書なんかが色々と眠っているからだ。

 それらの書類も当然、裏の帳簿なんかと合わせてスウラさんが押収し、証拠品として調べるっていうのが本来の道筋なわけだけど……

 おそらくこの正義の味方は……

「その鍵で開く金庫……その中にある書類があれば、今この瞬間も苦しんでる、スラムの人達や奴隷の人達の多くを救うことが出来るはずだ! だから、それは……軍に提出しないでほしい、こっちに渡してくれ」

 うん、
 今世紀最大の案の定である。

 リュート・ファンゴール。どこまでも予想の域を出ない人だよマジで。
 いや、突拍子もない部分はどこまでも突き抜けてはいるけどね?

「……あのさ、話聞いてた? その金庫の中の書類も、証拠品なんだってば。スウラさん……軍の偉い人に提出しなきゃいけないの。おわかり?」

「もちろんわかってるさ。けど……それじゃあ、救えない人がいるんだ」

 リュートの言うとおり、彼らスラム民や貧民層を借金で縛ったり、奴隷身分として縛ったりすることに使われた証文は……彼らの解放の切り札と言っていい。

 おそらく、数の多さや相手の身分の低さなんかもあるし、魔法による契約強制効果のある証文(姉さんに聞いたところ、そういうものもあるらしい)などはないだろうから……契約書の破損や紛失など、強引な理由でいい。
 貧民層の人達の、借金のほぼ完全な帳消しが可能となる武器だ。

 そして、リュートの狙いは言うまでもなくそれである。

 もしこのまま、証拠書類をスウラさんに提出すれば、書類関係は全部検査にかけられ、不正な書類などなどの処分はその後決定される。正当な書類のその後の取り扱いについても、だ。

 しかし、何もそれは、真実全部が飲み込まれて何もわからなくなる、とか言ってるわけじゃない。
 むしろ、明らかにされるべき真実はきちんと白日の下にさらされるだろう。

 偽の証文とか、違法な金貸し方法とか、そういったものを示す書類は更に精査され、どういった対応を取るのがいいか、法律や規則に照らし合わせて議論されたうえで対処される。払わなくてもいいお金は戻ってくるだろうし、違法な奴隷は解放されるだろう。

 しかし、それはあくまで『違法』な部分の話。
 そうでない場合……ドライな話だが、今度は法律は、規則は、味方してはくれない。

 たとえば、以前のエルクのケースがそのままいい礼になるだろう。
 法定金利なんてもんが存在しないこの世界では、手続きさえプロセスに不正なく成立しているならば、それは『合法』である

 どれだけ法外な金利だろうと、その他の部分で著しく非人道的であるようなことがない限りは等しく『合法』。その結果、奴隷に身を落としたり、色々なものを差し押さえられて失ったりする結果になっても、誰も助けてはくれない。

 仕方なくとはいえ、それに納得して『正式な』契約を結んだのは、自分だからだ。

 毎度おなじみ奇特な優しさその他を持つことで定評のあるリュートは、それすらも我慢できないらしく……言い分はこう。

 今ここで、自分がその鍵を使って金庫から書類を持ち去り、処分してしまえば、それに縛られている奴隷や借金苦の人達を根こそぎ開放できる。
 だから、軍に渡さずに自分に渡せ。その他の証拠書類は全部持っていっていいから。

 ……さあ果たして彼、交渉が成立していないことに気付いているだろうか。

 この一件の説明には、彼が処分しようとしている奴隷関係の書面はむしろメインで必要なのであり、渡せるわけがないし、普通に違法行為だし、

 僕らに得ないし、リスクしかないし、

 そもそも交換条件がどこにも、何一つない。

 おまけに、スウラさんは僕の友人であり、書類の不備のせいで彼女に迷惑がかかるかもしれないなんていう可能性を僕が許容するはずもないのである。

 それに、契約上問題が『ある』人達は、少なくとも軍できちっと保護してもらえるだろうし、問題がなくても情状酌量の余地があれば、何らかの救済措置は出るだろう……っていうのが、現場を知ってるスウラさんからの念話。たった今、エルク経由で届いた。

 法律にのっとって可能な限りの救済もしてくれるんだから、書類持ち去ったりなんかしたらこれ以上、余計に事態がややこしくなっていくだけ。

 だから、諦めて普通にこれらは軍に提出する……って、目の前で、手のひらを上にして突き出して『鍵よこせ』的な態度のリュートにきっぱり言った。

 ……そして、

「……そうか……残念だよミナト、僕と君はどうやらやっぱり、最後まで分かり合うことは出来なかったみたいだ……」

「…………」

「けど、だからといって僕は引くわけにはいかない! この決断に、何百人もの人々の明日がかかってるんだ……ミナト、今回ばかりは、何を言われても僕は絶対に譲らない!」

 そして一拍、

 

「勝負だミナト! 僕は必ず君に勝つ! そして……この町で貧困に、理不尽に苦しむ人達の全てを、救って見せるんだ! 誰に避難されても……僕の信じるやり方で!」

 

 ……全く、

 どこまでも予想通りな奴だよ、ホント。

 
 ☆☆☆

 
 この数日間の『特訓』で、エルクがミナトから学んだ魔法は、20個超。

 そのうち、形になって実践で通用するレベルなのは、11個。

 一般常識を考えば信じられない数と上達速度である。

 もっとも……覚えた内容も内容で、さらに信じがたい魔法が羅列されるのだが。

 全員参加での相互連絡を可能にする『多人数念話』。

 攻撃を受け止め、反射する能力を持つ障壁『ネットシールド』。

 魔力と風を自動装填して弾丸を連射する『エアバレット・オートマチック』。

 周囲の酸素濃度を低下させる広域制圧技であり、炎系の魔法に対しては強力な防御手段にもなる『オキシゲン・ロスト』

 他にもあるが……それらに比してなお異質かつ異常な技、
 それが、今現在エルクが、現状の把握のために使っている魔法だ。

 彼女単体ではなく、アルバとの協力魔法……その名も『マジックサテライト』。
 意訳すれば……魔力式の人工衛星である。

 アルバを人工衛星に見立ててはるか上空を飛ばせ、媒介になってもらって広範囲・多数地点の状況を同時に観測しつつ、同等の広範囲においてタイムラグやノイズなしの念話を可能にする技。

 本来、ミナトの予定なら、視覚・聴覚情報などを共有してより高度なネットワークを構築できたり、衛星(役)を媒介にもっと色々とやることができる魔法なのだが、そこまでは実現できなかった。

 それでも、衛星役になってもらっているアルバのハイスペックさもあり、エルクは離れた場所にいながら、そこ――『サテライト』に接続しているミナトの周囲――にいる魔力の反応・大きさ、さらに生存している人数なども把握できるようになっていた。

 ちなみにミナトは満足しておらず、前述の視覚共有などに加え、最終的には、媒介となる人物が特定の地点にいなくとも、アルバ――衛星のスペックが許す限りの広範囲をカバーし完全把握できるようなシステムを構築できないかと画策中だ。

 もし実現すれば、ザリーなど、諜報稼業の者が泣きそうになるような魔法である。

 その『サテライト』(未完成)で、ミナトの周囲の状況を把握していたエルクは、すでにその周囲に100人以上いた敵兵が全滅していることも、ナナが乱入したことも、いよいよリュートとミナトの戦いが始まるであろうことも感じ取っていた。

 そして、

 その結末は……観測するまでもなく、彼女は予想できていた。

 「……さて、と……びっくり人間ショー、第2幕ってとこかしら」

 
 ☆☆☆

 
 ――ひゅん、と、

 どう考えても殺す気満々の一撃が、一瞬前まで僕の首があった部分を振り抜かれ……さらに、一歩後退してそれを回避した僕に追撃として襲い掛かる。

 リュートが『エクスカリバー』と呼ぶその剣は、大剣と呼べるほど大きくは無いけど、普通の剣よりは長いし、刃の幅も広い。

 重量は見た目よりは小さいみたいだけど、それでも軽くはないだろう。

 おまけに、魔力と相性のいい素材でも使ってるのか、リュートの『光』の魔力が刃を包んで強化してるので、結構な威力の一撃になってると予想できる。

 そんな剣を遠慮なく振り回して僕をしとめようと立ち回ってるリュートだけども……今現在、ただの一回も僕の体に命中させられていない。

 エルクから聴いた話だけど、推定実力Aランクと呼ばれるだけはある。常人じゃあ反応できない速さとタイミングでの攻撃だ。

 さっきまでの殺陣の中でも、一度も攻撃を受けることなく向かってくるモンドの私兵達を全滅させてたわけだし、実力は本物だったってことだ。

 だからこそ、偏った正義と感情に任せて、この武力を振るってきたのかコイツは……と考えると、皮肉も何も抜きにしてぞっとする。

 「戦いの最中に考え事か……余裕だなっ!」

 「ん、実際余裕だしね」

 鋭く踏み込んで、脳天から僕を真っ二つにするコースの一撃が斬り込まれる。

 が、それも一歩横に避けるだけで、何もない空間を素通り。
 僕の顔の30cmほど横を、むなしく通り過ぎた。

 その瞬間、手入れだけは入念にされているようで、くすみの一つも見られない銀の刀身が目によく見えた。
 一体この刃は、リュートの『正義』の名のもとに、どれだけ血を吸ってきたのやら。

 「っ……さっきからよけてばっかりで……真面目に戦う気はあるのか!? いい加減攻撃してきたらどうなんだ! ふざけてるのか!」

 「そういうセリフは僕にその剣かすりでもさせてから言った方がいいんじゃない? 君が惨めに見えるだけだし……それに、理由もなく逃げ回ってるわけじゃないんだから」

 「……っ! どこまでも人をバカにして……!!」

 熱血系勇者のテンプレに漏れず、挑発に弱いことで。

 今リュートが言っていたように、さっきから僕は攻撃せず、ただリュートの剣や魔法をかわしてばっかりいる。

 時々、リュートの得意系統であるらしい『光』の魔法が飛んでくるんだけど、それらに関しては、僕は殴って砕いたり、握りつぶしたりして、防御。

 とにかく、こっちから仕掛けていないのだ。

 しかし勘違いのないように断っておくと、別にリュート相手に攻めるのを躊躇しているわけでも、苦戦しているわけでもない。

 ……ってことを、視界の端で不思議そうな顔をしているナナさんにも言いたいんだけど、そんなこと声に出したらまたこいつが加熱しちゃうしなあ……

 さっさと終わらせるしかないか、『実験』を。

 そうこうしているうちに、また切りかかってきたリュートの剣をかわし、バックステップで距離をとる。一瞬で、10mくらい。

 すると、リュートの手に魔力が収束していき……数秒と立たずに、その手に光の玉が形成される。

 名前は忘れたけど、たしか『光』属性の攻撃魔法だったこの技は、魔力を高密度で圧縮させて飛ばすだけの、原理としてはわりと簡単な魔力弾丸。初心者向けながら、鍛え上げれば上級者同士の戦いでも十分通用する魔法だ。

 というか、そういう魔法って、どの属性にも1つや2つはあるものなのだ。エルクとかザリーも使うし。……僕は使えないけど。

 ちなみにこの魔力弾丸を、おそらく極限まで密度と速度を高めてはなった結果が……さっきナナさんがやってた、あの拳銃乱射みたいな魔力弾丸の乱舞だと思う。
 ホントあの人、あそこまで魔法を鍛え上げてるって只者じゃないよな……。

 とか考えてるうちに目の前に魔力弾が飛んできたので……今度はちょっと趣向を変えてみるか。

 目算で、魔力弾の大体の魔力量を測り……それとつりあうだけの『光』の魔力を手に充填する。『光』はそんなに得意じゃないんだけど、このくらいなら簡単だ。

 そして、弾丸が僕に命中するかに思われた……その瞬間。

 
 「ほっ、と」

 ――ぱしっ!

 「「!!?」」

 
 普通に、キャッチボールの要領で、
 飛んできた魔力弾丸を、握りつぶすでも、弾き飛ばすでもなく……『キャッチ』。

 そして、そのまま投げ返した。

 
 「――っ!?」

 あっけに取られて反応が遅れたリュートは、ギリギリのところでそれを避けると――諸事情から、わざと避けられるように投げたんだけど――しかしそれでも今の出来事が信じられなかった様子で、目を見開いていた。

 視界の端では、ナナさんもぽかんとしている。

 そうそう、この反応が見たかった。

 『悪趣味』

 『うるさい』

 念話で適確に突っ込んできたエルクはスルー……って、あれ? 心読まれた? うそ、エルクもしかして遠隔で読心とか出来るように!?

 『いや、私さっきから『サテライト』であんたの状況把握してんだからわかるわよ。それに、あんたならそういうこと考えてそうだし……そもそも訓練中に私の『エアロスラッシュ』同じようにキャッチして、そんな感じの顔してたしね』

 『…………』

 最近、エルクの理解力が嬉しい通り越して怖い。

 いや、単に僕がわかりやすいだけなのかもしれないけど。

 まあ、確かにその時といい今といい得意げになってたかもしれないけど、今の技別に、難しいことしてるわけじゃない。

 ただ、向こうの攻撃が内包してる魔力量と、手にこめる魔力量を同じにして、
 手に着弾すると同時に、衝撃を緩和する絶妙な量の魔力を放出して、相手の攻撃が崩れないように優しくキャッチ。

 そしてあとは、投げ返すだけ。

 ちなみに、キャッチするって言っても相手のは『攻撃』なので、飛んでくるときにはそれなりの物理的な威力が伴っている。

 多分だけど、今のリュートのやエルクの風の刃を、普通の人が同じことやってキャッチしたら……魔力のクッション自体は完璧に出来たとしても、技の持つ勢いそのものは殺しきれず、ふっ飛んだり切り裂かれたりってオチだろう。

 ……まあ、平たく言えば……この攻撃魔法キャッチ、相手の魔法を崩さないテクニック以外は、純粋な力技なのである。

 しかしそれでも、相手に当たると同時に炸裂してダメージを与えるはずの攻撃魔法を、受け止めて投げ返すなんて行為は、十分に相手へのけん制とかそのへんには使えるけど。

 そうこうしてる間に……ようやく、さっきから進めていた『準備』が整った。

 まだ『キャッチ&リリース』の驚きから立ち直っていないリュートだったけども、僕が始めて、回避や防御以外の行動を取ろうとしていることに気付き、はっとして身構える。

 その目の前で、僕はと言うと……右足に魔力を集め、それを膝の高さまで上げていた。

 必然的に、今僕は左足一本で立ってるわけだけども、そのくらいじゃバランス崩したりはしないので平気。

 リュートおよびナナさんはどうやら、僕が蹴りか何かで攻撃するんだと思って身構えてるようだ……が、

 残念、はずれだ。

 その、魔力のこもった足で……僕は思いっきり、だん、と地面を踏みつけた。

 その瞬間、

 
 ――ドカァン、と、

 
 今、僕とリュートが戦ってた屋敷前の大通りの地面が、派手に爆発した。

 
 「「!!?」」

 
 当然ながら、爆発に巻き込まれるリュートと僕。
 ナナさんは範囲外にいたので無事。まあ、驚いてはいるけども。

 そしてその巻き込まれた2人だけども、僕はその程度じゃびくともしないので無事……っていうか、自分がセットした『魔力地雷』でダメージ受けたら、そりゃ笑い話だよ。

 何をしたかっていうと、簡単。

 さっきから、僕は……リュートの攻撃を避けながら、『闇』の魔力で作った魔粒子を、普段よりも高密度に圧縮して、周囲に散布していたのだ。

 修行によって、体外にも安定した、大量の魔粒子を出せるようになった僕は、前世知識である『粉塵爆発』というものを思い出して、この技を考案した。今現在手裏剣以外にない、僕の遠距離攻撃手段として。

 とはいうものの、ばら撒いた魔粒子に手動で魔力衝撃を加えて暴発させるだけのアナログかつ物騒な原始的手段なので、とても技とは呼べない、未完成品なんだけどね。

 なんせ、火薬をばら撒いてるのと変わらない。敵味方の区別も出来ないんだから。今後、改良の余地大ありだ。

 ちなみに、さっきからリュートの攻撃のうち、剣は避け、魔法は叩き潰してたのは、地面に着弾して暴発するのを防ぐためだったりする。

 とまあ、長々と説明させてもらったけども、そんなことを知る由もないリュートは、突然周囲が爆発するという奇天烈な現象に驚きつつも、派手な爆発の見た目ほどダメージはなかった様子。
 若干ふらつきつつも、剣を構えて油断しない姿勢を見せている。

 ただ、さっきよりちょっとだけ視線に憎憎しげなものがこもってたけど。

 「……っ……こんな罠を準備してたなんてね……すっかり騙されたよ。これが君の、奥の手だったわけかい?」

 「いや? ちょうどよかったから試してみただけの新技。あ、まだ3つくらいあるからもうちょっと付き合ってね?」

 「ふざけるな!」

 言うと同時に突っ込んでくるリュートだけど……今度は僕は、避ける、というかリュートの攻撃に気を配る理由がないので。

 ガッ、と、
 普通に受け止めた。

 手甲で、ではない。
 脚甲で、でもない。

 そこを断ち切るためにリュートが剣を振り下ろした、首筋で、だ。

 いや、単純な話……このくらいの斬撃なら、それなりに魔力こめて強化すれば、避ける必要も防ぐ必要もないんだよ。警戒されるといけないから、さっきはやらなかったけど。

 「……は……?」

 鎧どころか布切れ一枚挟んでない、人間の『肉体』で剣を止められるという、ちょっとありえないであろう状況に、唖然となるリュート。
 何度か思ったけど、こいつ結構不測の事態に弱いタイプだな。

 「……さて、もう周囲に気配る理由なくなったわけだ。さっきは避けるばっかりでイラつかせて悪かった。お望みどおり、こっからは殺す気でいくから……夜露死苦」

 ずんっ、と、
 リュートの反応よりも早く、僕のボディブローがその体にめり込む。鎧ごと。

 「かっ、は……!?」

 「そら、次」

 あまりの威力に、清潔感ただよう白と青の鎧が無残に変形し、さらにはリュートの体が宙に浮く。
 そこに追撃。浮き上がった先に回りこんで、後ろ回し蹴りを、今度は反対側のわき腹にジャストミートさせる。

 10mほど吹き飛んだリュートは、うずくまって苦しそうに咳き込んでいた。今の一撃で、肺の中の空気がほとんど出て行ったと見える。
 血反吐も出てるし……肉体強度はそういうレベルか。

 まあ、『リトルビースト』一撃で殺せるレベルの威力の拳叩き込んだのに、ガクガク震えてるとはいえ存命なんだから、人間としては頑丈な方なんだとは思うけど……最近、身の回りに非常識な強さの人が多くて、僕自身感覚麻痺しつつあるな……。

 「……がっ、はぁっ……く……そ、それが、君の本気、ってわけか……徒手空拳で戦うっていう噂も、嘘や誇張じゃなかったわけだ……」

 「……推測はご自由に」

 ちなみに本気で殴ってたら、あんたの体くらいなら貫通します。

 適当にそんな風に返しつつ、次の『新技』を左手にスタンバイ。

 手に『闇』を充填しつつ……手の内側に『光』をこめて増幅させていく。
 2つが接触して混じり、暴発しないように、線引きに気をつけながら。

 そして、

 「それでも、僕は……負け」

 「はい、それアウト」

 リュートのセリフの終了を待たず……その左手をばっとリュートに向けると、練っていた光と闇、両方の魔力を混ぜる。大量に、乱雑に。

 結果、相対する性質の魔力の混合は暴発を引き起こし……ちょっと洒落にならん規模の、白と黒の光の爆風が、僕の手元から放たれ……リュートを含む前方数mを吹き飛ばす。

 反応するよりも早く、またリュートが飛んだ。さらに数mを吹き飛ばされ……館の周囲を囲んでいる石塀に激突する。

 しかし、一応『マーブルインパクト』と名づけたこれも、射程距離や破壊力はいい感じではあるものの、技と呼べるようなものじゃない。
 何せ、今度こそ本当にただの『暴発』だ。

 結果的に『攻撃』にはなってるものの、これは魔粒子の操作以外は全部力技。それも、多分僕にしか出来ないようなレベルのムチャクチャな術式である。
 もしこれを一般人がやったら、爆発の反動で腕が消し飛ぶだろうし。

 ま、僕の肉体強度なら……飛んでくるボールを野球のグローブでキャッチした程度のもんだけど。

 「殺し合いの最中だよ? 出すなら口より手……基本でしょ?」

 「……っ、君は、どこまで人をバカに……」

 「してるのは君だろ、いつも。人の話聞かないし、自分の見解や価値観は押し付けるし……正義の味方気取るのは結構だけど、その実やってることは100%自分のわがまま。しかも、それを自覚してないからたちが悪い……なんて説教も今まで何度もされてきたんだろうけど、そのたびに全部無視してたんだろーね、君らは」

 「……正しいことを、しようと、する時に……向かい風があるのは、当然だ! それでも、負けないでやり抜けば、いつか絶対にみんなわかってくれる! 皆、笑顔で……」

 「……いつも同じことしか言わないよね、君ら。もう……話す意味無さそうだ」

 さっきの『魔力地雷』はともかく、『マーブルインパクト』は結構応えたらしい。
 一応構えてはいるものの、わずかに足なんかが震えているのがわかった。

 「リュートのその性格、何か根っこに理由があるのか、はたまた単にあの2人が甘やかしすぎて増徴したのかは知らないけど……もういいや。そのへんはスウラさんに任せることにして……終わりにしようか」

 言うと同時に、僕の右手から……バチバチバチ、と、つんざくような音を立てながら、どういうわけか墨のような漆黒色に、若干紫がかった電撃がほとばしる。

 そして左手には……こちらも同様に若干紫がかった漆黒の魔力が、より禍々しい、煙というか、立ち上る瘴気のような見た目となって、渦巻いていた。

 さて……最後に残った2つ、試させてもらおうか。

 ……死ぬかも知んないから、加減、気をつけなきゃ。

 
 ☆☆☆

 
 「『エレキャリバー』……?」

 「そ。ミナトがここ1週間で開発した魔法の中で、一番危険な技」

 アニーへのこれ以上の事情聴取を諦めて場を離れたエルクとスウラ。
 そこに、上下が分かれたギドの亡骸を持ってきたシェリーが合流し……その場で話題に上ったのが、エルクの成長。

 そこから、ここ1週間のミナトとの訓練に話がシフトし……その中でエルクが言ったのが、その技の存在だった。

 いわく、ミナトが使える最も危険な技の1つだろう、と。

 「ふむ……名前から想像するに、強力な電撃か何かだと思うが……?」

 「そうだけど、危険な部分は根本的に違うのよね。……あの技、加減ほとんどきかなくて、当たった相手マジで殺しかねない技だから」

 「そんなに凶悪なの? ミナト君がそんな技作るなんて、ちょっと意外かも……」

 「……あいつ、好奇心とか興味が向いた事柄を何より優先するから。要するにガキなのよ、一旦思い込んだら一直線で、ある意味リュートより厄介かも」

 訓練中に何度もその非常識を目にしたのだろう。エルクはため息混じりになっていた。

 「それで? 結局、どういう技なの?」

 「そうね、一言で言えば……物理攻撃力を持った、切り刻む電撃、ってとこかしらね」

 「切り刻む、電撃?」

 本来は、あまり一緒に使われることのない単語。
 その組み合わせに、スウラもシェリーも、頭上に『?』を浮かべる。

 その反応もなんとなく予想で鍛える下ったが、どう説明したものかと少しの間頭をひねって考える。

 「えっとね、私も、ミナトから聞いただけだから、あんまり質問とかされると答えられないかも知れないんだけど……」

 
 興味と好奇心に任せてミナトが作った凶悪極まりない技『エレキャリバー』。
 その正体は、『真空』と『電撃』、そして『魔粒子』を組み合わせた多段攻撃だ。

 ミナトの前世知識の中に『カマイタチ』というものがある。

 何もない場所でいきなり手に切り傷が出来たりする現象であり、古来から妖怪や悪霊などの仕業として恐れられてきた。

 しかしその実態は、空気中に何らかの要因で発生した『真空』による裂傷である。

 真空というのは、空気がない状態であり……人の皮膚などがそこにさらされると、傷つけられてしまう。そんな話を、ミナトは聴いた覚えがあった。

 ミナトは攻撃魔法の開発に際し、その天然の刃を利用した。

 原理は簡単。
 まず、電撃をほとばしらせるわけだが……その際、大量の『魔粒子』を電撃に乗せる。そうすることで、擬似的に電撃に実体に近い密度を持たせる。

 そして、その魔粒子の密度と、電撃が本来的に持つ高熱を利用して、電撃の中から空気を蒸発させ、押し出し……そこに、ごく小さな規模ながら『真空』を作る。

 しかしその真空は、意味的に若干矛盾するが、何もない空間ではない。
 『物質』ではない、魔力を……魔粒子を多分に含んだ真空だ。周囲を包む電撃のせいで行き場を失った魔粒子が暴れている、内側から押し広げられている状態の『真空』なのだ。

 結果、その『真空』は、空気の流れで簡単に消滅する普通の『真空』よりも存在感があり、簡単には消滅しない。消滅できない。
 すなわち、触れたものにより大きな傷を刻む、強力な刃と化している。

 そんなものが、電撃と同時に叩きつけられればどうなるか。
 そしてそれが、電撃の中に遍く存在しているというのは何を意味するのか。

 それほど難しい問いかけではない。

 電撃が叩きつけられ、相手の体が焼かれる。そしてそこに間髪射れず、電撃が通った後の部分を刃が通過して肉が断ち切られる。

 簡単に言えば、散った火花の数だけ切れ味抜群のカミソリが発現し、触れるもの全てズタズタに切り刻むのだ。

 そんなものを、人体にぶつけたら果たしてどうなるか。

 八つ裂き? そんなものじゃない。
 ミンチ? まだ生ぬるい。

 飛行機のエンジン。その内部で高速回転するプロペラに、生身の人間を投げ込んだ所をご想像いただこう。そんな感じになる。

 もっとも、ある程度手加減は可能だし、相手の肉体強度や魔力による防御などで結果は変わってくるが……魔粒子で強化されたそれは、本気で放てば鉄の鎧くらいなら砂鉄にも等しい粉々具合にしてしまえる威力がある。

 当てる箇所を選ばなければ、まず致死確実の最悪の一撃となる。

 『ディアボロス』など、自分の拳がろくに通じない相手への対策としてミナトが考えた攻撃魔法だが……それを聞いたシェリーもスウラも、説明したエルクもあらためて、その威力に、そしてそれを簡単に考えてしまうミナトに、戦慄していた。

 

 ……そして、そのミナトはというと、

 今正に、それを実演している所だった。

 
 ☆☆☆

 
 「……! そん、な……!」

 正面からぶつかりあった、互いの刃。

 リュートの愛剣『エクスカリバー』と、ミナトの手刀。

 ただし、リュートの剣は光の魔力を纏っただけだったのに対し……ミナトの手には、エルクが『最悪』と評した黒い電撃が。

 結果は、ある意味必然。
 切っ先同士が激突した瞬間から、『エクスカリバー』は粉々になり……まるでミナトが豆腐に手刀を入れているかのように、リュートの手元からあっけなく消失し、

 その勢いのまま、剣と共に突き出した腕があった場所を……剣の時以上に、無抵抗に通過した。

 そして、リュートは目の前の現実を受け入れられずに……肘から先が消失した自分の利き腕を見つめていた。
 激痛が走っているはずだが……それにすら気付いていない様子だ。

 そして、ついにそれに気付く前に、彼が現実を認識するより前に、

 「今世紀最大の名前負けだったね……その剣も、君達も」

 ミナトのもう片方の……闇の黒い瘴気を纏った手によって、顔面から地面に叩きつけられ、意識を手放した。

 

 
 
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