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第45~47話 赤虎と『北』と最悪の魔物
この話は書籍発売に伴う差し替え版になります。
どうかご了承ください。
ここは……『花の町』から少し離れた、丘陵地帯。
その、岩陰に入り口を構える、洞窟の中。
薄暗く空気も悪い、しかし外敵には見つかりにくいという……狩猟民族である『彼ら』にとっては好ましい環境にある穴ぐらだ。
先祖代々、口伝によって受け継いできた、遠征狩猟用のアジトの1つである。
そこに十数人集まった男達は、たき火を囲んで、しかしやはり薄暗く、数m先も見えづらい中で何やら話し合っていた。
「あのバカ2人は? やはり死んだのか?」
「さあな。だが戻ってこない。そう考えてよさそうだ」
「ちっ、これだから雇われのゴロツキは……やっぱり俺達だけでやればよかったんじゃないか?」
「そう言うな、あいつらだって、人攫いに関しちゃ手馴れてたんだ、手管を聞き出せただけでも収穫だった。……あとは残りを俺達でやればいい」
「ああ、ノウハウさえわかれば、狩猟が生業の俺達にゃ簡単なこった。俺達『北』は……ぬるま湯につかりきった、『南』の連中とは違うんだからな」
保存食である干し肉をかじって空腹を満たしながら話す彼らは……ミナトたちが予想した通り、かつて『移住派』とたもとをわかった『残留派』を祖父や曽祖父の世代に持つ、今の時代の狩猟民族たちだった。
昨晩ミナトが仕留め、しかしその後、謎の襲撃者によって惨殺されたあのゴロツキ2人の雇い主であり……その2人から、人攫いの手管を学ばんとしていた者たち。
彼らの狙いは、ドライアドたちの誘拐。
しかし、売り飛ばして金に換えようなどと考えているわけでもなければ、辱めて慰み者にしようとしているわけでもなかった。
全ては……現在の『北』の実情に起因することだった。
狩猟や焼畑農業(厳密には違う名前なのだが)といった、昔ながらの、ストイックと言ってもいいような生活様式を営んでいた彼らは、獲物にはそこそこ恵まれつつも、厳しい環境の中で生きてきた。
それだけあって、人々は力強く、たくましく、今まで生きてこられた。
しかし、そんなストイックな生活を90年もの間、それ以前を含めれば数百年続けてきた彼らに対して、大自然が出した答えは厳しいものだった。
焼畑による農業は、前世の知識を持つミナトならば知っていることだが、適切にローテーションを定めるなどの手段をとらなければ、いたずらに森を減らし、環境を破壊するだけである。それを知らなかった彼らに、彼らの土地に、とうとう限界が来た。
消えて行く森、痩せていく土地、そして去っていく獲物たち。
どれも、狩猟民族である彼らにとっては、生活に関わる一大事……それが、長年にわたる自然破壊がたたって一度に起こり、ついに彼らの生活基盤を蝕みだした。
中でも最も深刻なのが、木の実やキノコ、獲物の肉などの豊かな恵みをもたらしてくれる、森の消滅である。それも、この十数年で急速に進んでいた。
そしてつい最近、彼らはそれが、単に自分たちが焼いているからという理由だけでは無いと言う事に気付いた。
もう1つのある理由で、急速なスピードで進んでいったのであると。
それが……『ドライアド』の存在である。
魔物でありながら、精霊種族であり、森の化身・守り神とも言われるドライアドは、森の植物と魔力から生み出される存在だが、ただ生み出され、森に守られるだけの存在ではない。
妖精の力を持っているドライアドやアルラウネは、森の空気中に漂う魔力その他に干渉し、それらを浄化して森のためになるような状態に改善してしまう能力がある。
意識せずとも発動し、いるだけで周囲に自動的に作用するような力が。
簡単に言ってしまえば、ドライアドが生まれる森は、キレイで豊かな自然・環境の森であり……そして、ドライアドが生まれることで、よりキレイで豊かになるのだ。
かつては北側の『グリーンキャニオン』にまで広がっていた森にも、南ほど多くはなかったために、住民達はほとんど知らなかったものの、ドライアドたちが住んでいた。
しかし、そこに……北の大地に住む人間が、自分達の森を焼き払い、蝕む存在であると悟った『北』のドライアド達は、ここ数十年の間に、友好的な人間を近くに持ち、豊かな環境で暮らすことが出来る『南』へと移り住んでいくようになった。
『森』としては同一だったため、それにむしろ自然としては南側の方が豊かであったために、生命力の枯渇なども起こらず、問題なく移動することが出来ていた。
その一方、北の森では、ドライアドが生まれること自体なくなりつつあった。
そしてついに、十数年ほど前。
北の森には、ドライアドは一体もいなくなった。新たに生まれもしなくなった。
それを境に、森が急激に衰退を始め……今では、獲物の数は減少の一途をたどる。
煮ても焼いても食えない、害獣でしかない種類の魔物ばかりが増えつつあった。
それに気付いた『残留派』の民達だが、もはや後の祭。
自分達の手では、どう頑張っても修復不可能なほどにダメージを受けた森は、あと数年も今までと同じ生活を続ければ、完全に死んでしまうことは明白。
しかし、ここを出て生きていこうにも、『南』と違い、今まで外部との接触を絶って生きてきた自分達では、茨の道どころではない。
そう考え、もう後がない北の一部の者たちが結託し、実行しようとしている解決策。
それが、南に住んでいるドライアドの誘拐である。
彼らは、南からさらってきたドライアド達を北の森に放し、その力で、自分達には最早不可能な『森の再生』をさせようとしていたのだ。
また以前のように、豊かな自然の恵みが得られるような森に戻してもらおうと。
御伽噺に近い言い伝えを頼った作戦だったが、結果的には方法は正しい。
そして何より、他に手段は無い。藁にもすがる思いで、実行に移された。
「人の姿してたって、魔物だろ? 問題ねぇさ、へへっ。なぁ?」
「ああ、住む場所がちっとばかし北側に変わるだけだ。必ず成功させるぞ」
「しかし、問題がある。あのゴロツキ2人の失踪と関係あるかはわからないが……護衛として雇われで『南』に来た冒険者の中に、Aランクの奴がいる。その1人が、どうも南のドライアドと接触した可能性があるんだ」
「ホントかよ?」
「ああ。あいつの情報をもとに推測したんだが……可能性は高そうだ。もしかすると感づかれて、ドライアドの誘拐を邪魔されるかもしれないな……」
「確かなのか? 南側のあの野郎の情報だろ?」
「何、自分が置かれてる状況がわからない奴じゃないさ……今、嘘なんざ言うまいよ」
「けどまあ、それはそれで厄介だな……冒険者のAランクなんざ、ほとんど化け物と一緒じゃねえか」
「何、心配するな……手は考えてある」
と、男達の中の一人が言ったのを聞いて、全員の視線が集中した。
「くくくっ、目には目を……Aランクには、Aランクだ」
☆☆☆
あの襲撃の日から数日。
この数日は、特に何か事件が起こったりすることもなく、平和に過ぎていった。
ノエル姉さんのとこの商人さん達の商談は順調に進んだ。
誘拐事件だの、魔物使った襲撃だの、物騒な予測が飛び交ってる状況だから、てっきりこの後何かまだ物騒なことが起こるんじゃないかと思ってたけども、何も起こらない。
一応色々と警戒しては……といっても、何に対して警戒すればいいのかわかんなかったから、エルクを介してネールちゃんと定期的に通信――完全にエルクが『念話』をマスターして、発信も受信も自在と来たもんだ――しておくにとどまったけども。
ザリーはザリーで、情報屋としての仕事もしつつ、変な奴がいないか気にかけるくらいのことはしてくれるらしい。
基本的に、君子危うきに近寄らず地で行く奴ではあるけども、小さい子がさらわれるのを黙ってみてるのをよしとするほどドライではないとのことなので。
また、僕らと同様にこの事態に不自然さを感じていた彼女、シェリーさんに関しては……一応気にはしてるけど、その程度。何かあれば動く、っていうスタンスのようだ。
まあ、普通だろう、僕らも彼女も、警察とかじゃないんだし。
ちなみに、シェリーさんには……ドライアドたちのことまでは話してない。人攫いみたいな連中が現れたこともだ。
いや、彼女を疑ったりしてるわけじゃないんだけど、何もかも打ち明けられる所まで信頼しきったわけじゃないし。情報のやりとりに関しては、細心の注意が必要だ。逆に、彼女の方だって僕らのことを、仲間として完全に信頼したわけじゃないだろうしね。
この対応は、エルクと話し合って決めた。
ついでに言うなら、ザリーに対しても、あいつが盗聴なんて真似してなくて、ネールちゃんらドライアド(ネールちゃんはアルラウネだけど)の存在を認識してなければ、あいつに対しても秘密にしてたとこだ。
……そういえば、あの後、長老のおばあさんに妙な話を聴いた。
ドライアドやアルラウネといった精霊種の『念話』は、一般的に人が使う念話とはちょっと違うシステムで作られる魔法であるらしい。そのため、ドライアド同士で使われる念話は、普通の人間には聞こえないそうだ。
精霊種と念話で更新できるのは、亜人の中でも、エルフとか、種族的に精霊に近い力を持っている種族のみなんだとか。
例外的に、ごくまれに、そういうのをキャッチでき、交信できる才能を持ってる人間もいるらしいんだけど……もしかしてエルク、そういう才能持ってんのかな?
ザリーはマジックアイテム持ってたからだろうけど、エルクはそんな道具なんて持ってないし使ってないし、自分の固有の才能であるとしか思えないからなあ……。
そんな風に、最低限の警戒心は保ちつつ、この町での観光を楽しむという器用なやり方で持って、僕らは、この谷に滞在する最終日を迎えたわけである。
商人さんから聞いた情報によれば、あと数日以内には、ウォルカを含む町や村から来た、他の商会の仕入れの商隊たちが多く到着するらしい。そして、それに先駆けてこの町にやってきた僕らは、一足先に帰って新鮮な花をお届けできると。
このあたりは、情報収集力と護衛集めの手際の差だそうだ。『時期』で出回る花にも、収穫のタイミングにはさらにばらつきがあるから、売れ筋の『花』の収穫が始まったっていう情報を手に入れてすぐ出発できた姉さんのこの商隊が、他を出し抜いた形だと。
姉さんの商会の情報収集能力の高さに感心しつつ、どうやら僕らの取り越し苦労のまま、このクエストも無事に終わりそうだ……
……とか思った時期が僕にもありました。
「魔物だぁーっ、また魔物が襲ってきたぁ――っ!!」
「ミナト!! ネールちゃんから念話入ったわ、例の人攫いよ!!」
「うん、嫌な予感はしてたけどできればどっちか1つずつにしてほしかった!!」
ホントにこの2つの事件、関係あるんじゃないかと思える今日この頃。
とりあえず、どっちも放っとくわけにはいかないので……エルクはドライアド達の方に、僕は魔物たちの相手をしに。といっても、さっさと魔物片付けて、大丈夫そうになったらエルク達の方に合流するつもりだけど。
アルバはエルクのほうに行ってもらった。
あいつ、何気に最近、バリアまで張れるようになってきたから、攻撃と防御の両面で戦えるんだ。
魔物の方は、CやBの魔物程度なら、人の目を気にしなければ僕が瞬殺できる。まあ、アルバがいれば、広範囲の攻撃が使える分、楽かもしれないっていうのはあるけども。
なので、エルクやドライアドちゃんたちの安全を考えて、向こうに回ってもらった。
けど実の所、今のエルクなら1人でも、盗賊相手くらいなら大丈夫だと思うけども。
まあ、心配なのは……アルバが使う魔法の選択ミスって森林破壊になったりしないかだけ、かな。
そんなことを考えながら、僕が村の入り口に行くと……この前見たような、狼やら牛やら、羽毛つきの蛇やら、鱗ゴリラやら、色々襲ってきていた。
ほとんどは、ウォルカの近くでも見た、EとかFの雑魚ばっかりだったけど、中には何匹かDやCの手ごわそうなのもちらほらと。他の人に任せたら、苦労しそうだった。
なので、時間かけてるのもバカらしいし、他の護衛や冒険者の皆さんの制止は丁重に振り切った上で、拳、蹴り、棒、鉄球全部使って、30秒くらいで割かし手ごわそうな魔物を纏めて全部仕留めておくことに。
「お、おいまてボウズ! あんな数1人で何て無茶だぞ!」
「そうだ、見栄張るな! ここはお互い冒険者同士、きっちり協力して戦って(ばきばきどか!)……あー……その……」
終わってみると、何だか他の人達から、少年スポーツ大会に乱入して子供達相手にボロ勝ちして喜んでる大人を見るような視線が飛んできた。なぜだ。
……まあ、いいか。
ちょっと本気で暴れたら半分くらいは片付いたので『半分片付けてやったんだからあとはあんたらでやってね♪』と遠まわしに言って伝える。
正論言ってるようで、実際にはただの押し付け論でしかないんだけど、そこは冒険者・用心棒の皆さんのプライドが後押ししてくれたっぽい。
見るからに年下の僕がこんだけやったのに、自分たちが何もせずに終わっちゃうのは、年長者として面白くない部分が合ったようで、快く残党の魔物たちの討伐を引き受けてくれた。
残ってるのFとかEの奴がほとんどだし……DやCがけっこうそろってるこの面子(ザリー談)なら、死人すら出ずに無事に終われるんじゃないかな?
なんてことを考えてた僕だけど……この時、あることに気付いていなかった。
数日前の襲撃では、先陣を切って戦っていたある人が、あの場にいなかったことに。
そしてその人は、僕が大急ぎで突っ走って、エルクたちが戦っているであろう森の中へ入ろうとした所で……目の前に、姿を現した。
「はぁい、お兄さん……ちょっと私と遊んでいかない?」
いつものバトルドレスのような軽装ではなく……上半身をきっちり覆う鋼の鎧に、腰にいつも提げていた剣をすらりと抜いた、見るからに完全武装と言っていい姿で……シェリーさんは、森に入ろうとする僕の前に立ちはだかった。
☆☆☆
その日、
『北』の計画は、実行に移された。
今日を逃せば、明日以降は新たな商隊が――マルラス商会よりも一足遅く情報を入手し、いっせいに花の町に『仕入れ』に来る連中――訪れる。今いる冒険者達よりも、さらに多くの腕利きたちが谷に来るのだ。
もしも、その者たちに感づかれて邪魔されるようなことになれば、今よりも更に不利。ゆえに、今この時をおいて実行のタイミングは他にないという判断だった。
そして、彼らには……お節介な冒険者以外にも、障害が存在した。
それが、森に住む魔物たち。
ドライアド……というよりも、森と共存関係にあるそれらは、ドライアドを襲うことはない。しかも一部の魔物などは逆に、ドライアドに危害を加える存在に襲いかかってくるものもいるくらいだ。
そうでなくとも、人間である『北』の彼らは、普通に魔物に襲われる存在。
単に危険なだけでなく、その騒ぎを聞きつけたドライアドに逃げられては困る。
そこで彼らが取った手段は……北の森で取れるある花から作った薬を使い、一時的に魔物達を大人しくさせ、その間にドライアド達を誘拐し、町の冒険者達に気付かれないうちに全てを終わらせる、というもの。
しかし、その『薬』には副作用があった。
焚いて使う、ほぼ無色無臭のお香のようなタイプの薬なのだが、一時的に魔物を鎮静させる代わりに……その後、魔物は極端な興奮状態になり、周りの生き物に見境なく襲いかかるようになる、という、恐ろしい副作用が。
先日の、そして今回の襲撃は……鎮静している間に誘拐を終えられなかったために、魔物が凶暴性を倍加して取り戻したために起こったもの。
先日の襲撃の際に魔物の牙についていた血は、町の警備隊のものではなく……薬が効いていると油断していた『北』の連中のものだったのだ。
そして今回、その方法で性懲りもなくドライアドの誘拐に着手した『北』は……ドライアド達に味方しかねないお節介な冒険者がいる可能性を考え、逆にその魔物たちを誘導して、町の防衛をさせることで拉致の邪魔をさせない作戦に出た。
……そして、もう1つ。
魔物では相手にならない可能性がある、『Aランク』への対処も考え、実行していた。
……同じ『Aランク』同士をぶつけて戦わせ、自分達の邪魔をさせない、というやり方で。
それがどういう結果を生んだかは、今のこの光景が物語っている。
「……僕が、黒幕?」
「そ。町長さんから聞いたわよ? あの夜……魔物が最初に襲ってきた夜、あなた、暗がりで何人かの男達と会ってたらしいわね? そいつらが、この町に魔物をけしかけた犯人で……あなたはその協力者じゃないか、って、町長さんは疑ってたのよ」
「いや、いきなりそんな突拍子もないこと言われても……全く身に覚えがないですよ」
森に入ろうとするミナト。
しかし、虚偽の証言と疑いを吹き込まれ、その前に立ちはだかっているシェリーが、それを許さない。
今のミナトの言葉にも、大した反応は返していないように見える。
「町長さんの見間違いじゃないんですか? 僕はホントに……や、まあ、あの夜シェリーさん達と一緒に防衛には参加してなかったのは事実ですけど、そんな得体の知れない男の人達と会ったりしてませんよ?」
「ふーん……」
すると……少しの間、シェリーは口をつぐんだ。
その顔色や表情は変えず、視線をミナトに向けたままで。
まるで……ミナトの嘘を見抜こうと、じっと反応を見て待っているようにも見える。
ミナトの方も、数秒何も返事が返ってこない状況の中、目を細めていた。
……そして、
その様子を……周囲で隠れて、ミナト達に気付かれないよう見ている者たちがいた。
言わずもがな、『北』の者たちである。
「……おい、どうだ、上手くいってるのか?」
「ああ、見た限りじゃ……今んとこ、な。女の方はきっちり男の方を疑ってるみたいだし……そうすんなりとは解決しねえ雰囲気だ」
「そうか、ならいい。……『南』の町長の奴、きっちり仕事はしてくれたらしいな」
そんな会話を交わしつつ、対峙する赤と黒の男女を見据える、数人の『北』の男達。
「しっかし、女の方……色っぽい体してんなあ、おい」
「そうだな……あんなの、俺達の村にも1人もいねえぜ? 人攫いなんて商売が成り立つ理由がわかるってもんだよなあ、へへっ」
「おいおい、手出す気ならやめとけ。Aランクなんて、ほとんど化けモンだろうが。襲ったって返り討ちにされるのが関の山だ」
「わかってるって。だからこうして、同じAランク同士で潰しあってもらうんだろ?」
そんな軽口を叩いている間に……いつの間にか、2人の間に漂っている空気が、何か変わっていることに、見ていた男達は気付いた。
「……気のせいですかね?」
「何が?」
十数秒ものたっぷりの沈黙の後、互いが口を開いた。
「シェリーさん……僕を疑って、義侠心から止めようとしてる、っていうより……僕を止めるというか、僕と戦う口実が手に入って、むしろ喜んでるように見えますけど」
「……ふふっ、鋭いわね」
途端、
今まで、普通の女の子のそれだったシェリーの笑みに……誰が見てもわかるような、勝気強気を通り越して、好戦的な気配を全面に押し出した凶悪な色がさした。
対するミナトの眉間には、僅かにしわが寄る。
「別に……あなたが怪しいのはホントでしょ? だったらこうして私が、森に入って他の魔物を呼びにいくかもしれないあなたを『止める』のは……人的被害を抑えたい冒険者としては、何も不思議なことじゃないわ」
「……だから、さっきから知らないって言ってるでしょ」
「それを信じろって? 無理よ、根拠も何もないのに」
一見、質疑応答が成立しているように見えなくもないが……その間に漂う空気は、明らかに『話し合い』の場に流れるものではなかった。
何せシェリーが、どこからどう見ても……『我慢』しているのだから。
「あなたが戦いたくないのなら簡単よ? このまま戻って、防衛戦に参加してちょうだい。私も行くから。それができない理由がなければ……可能よね?」
「……無理ですよ。僕、この先の森に用があるんですから。詳しくはいえないですけど」
「あらら、何も言ってもらえないなんて悲しいわね。何か事情があって、それを話してくれるほど信用されてないのか……はたまたホントに何か後ろ暗いことがあるのか知らないけど……ま、どうでもいいわ。交渉は……決裂だもの、ね」
そして、
ちゃきっ、と、
その返事を心から待っていたかのように……シェリーは、ただ手に『持っていた』剣を……今度は、明らかな戦意と共に『構えた』。
「あなたがど~しても、この先の森に行きたいって言うんなら……私、その邪魔をしなきゃいけないわね? あくまで、冒険者として、その判断は何も間違って……」
「……もういいですよ? 気にしないですから、本音出してもらっても」
「あらそう、じゃ、お言葉に甘えて」
一拍、
「嬉しいわ……ようやくあなたと、今まで私が会った中で一番強いあなたと、こうして真剣勝負で戦えるんだもの……!! 正直、あなたが敵か味方かなんて、どうでもいいしね……さあ……お互い悔いの残らないように、全力出して戦ろうじゃない!」
本当に、何の遠慮もなく『本音』をぶつけてきていることが傍から見てわかるシェリーの、その言葉に……ミナトは、ハァ、とため息をつく。
そして、その顔に、見るからに不機嫌そうな、いらだった表情を浮かばせて、
「……コレだから嫌いなんだよ……戦闘狂ってのは……!」
吐き捨てるように、そう言った。
普段の彼を知っている者が見たら驚くであろうほどに、見るからに嫌悪感むき出しな様子で、シェリーを睨みつけながら。
そして、もう何を言ってもムダだと悟ったのか……ミナトも何も言わず、両の拳を胸の前に構え……シェリーをにらみつけた。
そして、
「へへっ、こりゃ……思いもよらねえ、面白い余興になりそうじゃねえか?」
「ああ……怪物同士の殺し合いなんて、見れるもんじゃねえしな!」
そんな、『北』の監視役達の視線を受けながら……ほぼ同時に、Aランクの2人は地面を蹴り……ガギィン、という、耳障りな金属音と共に、激突した。
☆☆☆
そしてその頃、
森の深部で……森の各所が騒々しくなったのに触発されたかのように、動き出そうとしているものがいた。
森の内外に響く、戦いの音、戦士の怒号。
風に乗って漂ってくる、血風の匂い。
それらに呼び起こされたかのように、ぬぅっ……と、人知れずその緑色の、大きなトカゲのような形状の体を起こす。
そして……寝起きだからだろうか、もともとそうなのかはわからないが……やや鈍重ともいえる動きで、地面を踏みしめながら……その飢えをみたすエサたちがいるであろう方角へ……ゆっくりと進んでいった。
誰にも知られずに目覚めたその怪物が、冒険者と魔物が、『北』と『南』が入り乱れ、それぞれの思惑が交錯する戦場にたどり着くまで……いくばくもない。
☆☆☆
「この、女っ……邪魔すんじゃねえ!」
「関係ねえ奴は引っ込んでろ!」
「ヤっちまうぞコラァ!」
「うっさいこの下衆共!!」
ばきばきどか!
「「「あがぁっ!?」」」
手に持ったダガーと、最近錬度が上がってきた体術、そしてまだかじったばかりの、死世的な身体強化魔術でもって……エルクは、ドライアドたちを守りながら、襲ってくる『北』の猟師達を返り討ちにしていた。
特に、女としてかなり不快なセリフを浴びせられた3人目の猟師に対しては……確実に気絶する威力の蹴りを2、3発余分に叩き込んで昏倒させていた。
しかも、
(……こいつら、動きが遅い……)
ドライアド達を守りながら、複数人数を相手にしてもなお、余裕があるまでに研鑽された自分の実力。
3ヶ月前までは考えられなかったその感覚に、エルクはあらためて新鮮さを感じていた。
いつも組み手に付き合ってもらっている、ミナトと比べ……動きは遅く、隙は大きく、ムダな動きが多すぎる。攻撃の軌道も、次の手も読みやすい。……つなぐ次の手が考えられていないことすらあった。
戦いの中エルクは、いつもミナトが彼女に、『今のエルクはもうきちんと、ランクC相当の実力持ってるよ』と言ってくれていたのを思い出す。
てっきりいつもの甘さとお世辞だと思っていたエルクだが……仮にも『猟師』である(と予想される格好をしている)彼らを圧倒できている自分の実力に驚いていた。
しかし、長々と驚く暇は決してなく、その奥に控えていた、残る2人の『北』の仲間が、忌々しい蛇蝎を見るような目をエルクに向けていた。
(……ミナト達だって、今戦ってるんだ……ここは私1人でなんとかしてみせる!)
「畜生っ……何だってテメェ、俺達の邪魔をしやがるんだ!」
「そうだ! 余所者はすっこんでろ! 大体さっきから、何でそいつらをかばってんだよ! そいつらは魔物なんだぞ!? お前らが守る義理なんかねーだろうが!」
「何で、って言われると……」
と、
その瞬間、自分が言おうとしていた言葉に、いつかミナトが言ってくれた言葉が重なって……一瞬、エルクは少し可笑しくなってしまった。
しかし結局、
「……まあ、仲良くなったし、放っときたくないし……気まぐれよ、気まぐれ」
いつだったか、ミナトが自分に言ってくれたそれに似た言葉を……軽口で言い放った。
「……っ!? ふざけんな! 俺達はこの先の生活がかかってんだぞ!」
と、エルクの軽口で一気に頭に血が上ったらしい男の1人は、自分たちの目的が、『北』の森の再生のためのドライアドたちの誘拐であることを早口で、吐き捨てるように告げた。
正当な理由があるのだから、邪魔するな、と。
しかし当然、エルクの背にかばわれているドライアドたち――アルラウネはここにはいない。ドライアド達の避難誘導のために動いている――は、冗談じゃない、とばかりに反論する。
「ふざけないで! 私達は、そんな所に行きたくありません!」
「森を焼いたおじさん達が悪いのーっ!」
「そーだそーだっ!」
「あぁ!? たかが魔物風情が騒ぐんじゃねえよ、黙ってろ!」
筋骨たくましい猟師が、額に血管を浮かび上がらせて叫ぶ。その迫力は並ではなく……思わず、『ひっ』とドライアド達はたじろいでいた。
「ちっ、らちがあかねえ……おい、お前応援呼んでこい!」
「ああ、わかった。くそっ、見てろよ緑女! 仲間が集まれば、お前なんざ……」
「……私今、なんか変な名前で呼ばれたわね……」
否定は出来ないとうすうす感じつつも……身近にいる『真っ黒男』の例が一瞬頭の中にフラッシュバックし、エルクの顔は微妙に歪んだ。
そして、今にも襲いかかってきそうな憤怒の表情の男の攻撃を、今までと同じように迎撃して地に沈めようとした……その時、
「な、何だおま……ぎゃあああぁぁああっ!?」
「「「!?」」」
突如聞こえた、さっき仲間を呼びに走っていったはずの、片割れの男の悲鳴。
そして同時に、『ザクッ』という……何かを鋭い刃が斬り裂くような、不吉な響きの音が……その場にいた全員の耳に届いた。
(……何? 魔物……?)
と、エルクが考えた直後、
この場に残った男の背後の茂みがガサッとゆれ、その中から、『何か』が姿を現した。
振り返った男は、『な、何だてめぇっ!』と驚いて、手に持った剣で切りかかろうとして……
剣を振り上げたと同時に、横薙ぎに振るわれた『何か』の一撃で、胸の上下で真っ二つになった。
「……か……ぁ?」
断末魔すらあげられない……おそらく、自分の死を認識する暇もなかったのではないかと思えるほどの、刹那の出来事だった。
その様子を見ていた……はからずも見てしまったドライアド達は、一応に震え上がり、
そして、エルクは、
(……2本足の、大きな……トカゲ……!?)
とっさに、その魔物(だと思われる)に剣を向け……るのではなく、
後ろにいたドライアド達をかばうように、両手を広げて立った。
しかし、それ以外には、何も出来なかった。
目の前にいる、この……ミナトと一部のドライアド達が言っていたような『2本足の大きなトカゲ』に見える何か……しかし、聞いていた特徴と若干違っているような、なんとも微妙なその生物に、視線は釘付けだった。
たった今、猟師の男を一撃で葬ったその爪に、視線を逸らせば、その瞬間切り裂かれるのではないかという恐怖観念に、体が動いてくれなかった。
そのまま、ドライアド達をかばうエルクと、『何か』がにらみ合いを続けること……数秒、
すると、『何か』は不意に、エルクに興味をなくしたかのように、ぷい、とあらぬ方向を向くと……振り返ることなく、その場を去った。
見えなくなるまで、数秒とかからなかった。
「……助、かっ、た……?」
そんな言葉を、腰を抜かしながらエルクが喉から搾り出したのは……それからさらに数秒たってからだった。
☆☆☆
一方その頃、
こっちの戦場では……魔物との戦線とも、猟師たちとの戦いとも規模の違う戦いが、その周囲を茂みの向こうから取り囲む『北』の猟師たちの目の前で展開されていた。
「はぁぁぁああああっ!!」
雄叫びと共に、矢のような速度で突進したシェリーが、大上段から剣を振り下ろす。
それを、手甲で受け流すようにしてかわしたミナトは、カウンター気味の左ストレートを放つ。
とっさに体をひねったシェリーだが、肩口にわずかにかすっただけで、着ていた鎧がガゴン、と嫌な音を立て、あたった部分がへこんでいるのが見て取れた。
衝撃も回転で流したはずだというのに、この威力。まともに食らっていたらどうなっていたかなど、傍から見ていてもわかる。
しかし、その様子にもシェリーは、恐怖など全く浮かべることなく……むしろ嬉しそうにして、再度その剣を横薙ぎに振るう。
しかもその剣は……今度は、一瞬魔力の赤い光がともったかと思うと、次の瞬間、燃え盛る炎に包まれ、その強烈な熱気と共に剣撃が放たれた。
さすがにそれに驚いたらしいミナトだが、軽やかかつ俊敏な動きで後ろに跳んでそれを避けると、拳を構えて追撃をけん制する。
一歩踏み込んで2太刀目を斬り込もうとしていたらしいシェリーは、隙が見て取れないことで足を止めた。
しかし、剣には轟々と燃える炎がまとわりついたまま、顔には獰猛な笑みが張り付いたままである。
「……またすごい剣持ってるんですね。始めて見ましたよ、そんなの」
「すごいでしょ? 私の家に代々伝わる家宝なんだけど、大昔に私のご先祖様が倒した、太陽の虎『ソレイユタイガー』とかいう魔物の牙から作られてるんだってさ。魔力を流すことで、鉄も軽々焼き斬れるくらいの温度の炎をまとう魔剣よ」
「……今更ですけど、なんちゅうもんで模擬戦を提案してたんですかあんたは」
数日前、『訓練用の模造刀じゃ壊れるから』という理由で、真剣での手合わせをしつこく要望してきたシェリーの姿を思い出してか、呆れるミナト。
しかし、当のシェリーに悪びれる様子は全く見られなかった。
「けどさあ、こっちも驚いてるわよ? この剣で斬って傷もつかない、変形もしない防具なんて、今まで見たこともないもの。その手甲と脚甲、何で出来てるの?」
「『ジョーカーメタル』って言ったかな……まあ、詳しくは僕も知らないですけど。僕がどんなに酷使しても変形もしないんで、すごく助かってますよ」
「へー、そう。ふふっ、ますます楽しい戦いになりそう……ねっ!」
直後、
剣のまとう炎を一掃強く燃え上がらせ、シェリーは地を蹴って突貫した。
射程圏内まで接近するやいなや、上から下から、右から左から繰り出される、炎の刃の猛ラッシュ。
凡人には軌道すら見えない、近くにいるだけで焼け死ねそうな灼熱の連続攻撃。
仮に『北』の猟師たちが相手だったなら、1秒で八つ裂きの上に丸焼きになっていたであろう攻撃。
しかし、その全てをミナトは避けるか、手甲・脚甲で受ける。
呼吸すら難しいはずの熱にも全くひるむ様子は見られず、顔には苦悶の表情の欠片も浮かばない。ほぼ無表情で、しらけた様子すら見せて、連撃をさばききっていた。
その様子は、逆に猟師達を戦慄させていた。
「お、おいマジかよ、この戦い……」
「ホントに化けもんじゃねえか……あんなの相手にしたら、死ぬだろ普通に……」
「コレが……Aランク……」
「ほらほらほらほらほらぁ! どうしたのよ黒獅子君っ? 逃げて守ってばっかじゃ私には勝てないわよ!?」
「……はぁ」
「何ため息ついてるの? 戦いの最中に無粋ね! 私は強い奴は好きだけど、そんな風に戦いに集中できないような人は嫌いよ! 男なら女性を失望させちゃダメでしょ? もっと! お互い! 楽しい戦いになるようにちゃんと……っ!?」
と、
今までよりいくらか大振りの一撃をかわした直後、ミナトの拳が空を切り……中下段からシェリーの腹を襲った。
タイミングの絶妙さも手伝って、常人にはまず見切れないであろう一撃だったが……シェリーはギリギリで反応し、無理矢理に体勢を変えて後ろに跳んだ。
しかし、やはり避けるには遅すぎたらしい。
ミナトの黒い拳は吸い込まれるようにシェリーの腹……を覆う鎧に叩きつけられ……
『ガゴォン!!』という凄まじい音と共に、粘土の塊を殴ったかのように大きく変形した。
鋼鉄製の、剣や矢の一撃も完璧に防ぐであろう重厚な鎧が、だ。
鎧を通して腹まで伝わったのか、その威力にシェリーが……そして、周りで見ていた猟師たちが目を見開いた。
着地したシェリーは、咳き込んで膝をつく。
「かっ、は……! こ、これは……予想以上、ね……。さすがね、黒獅子君……」
立った一撃で形勢が逆転したようにすら見える、その光景。
吐血こそしていないが、シェリーは少なくないダメージを受けているように、周囲には見えた。
「全く、バカ力は知ってたけど、ここまでなんてね……。食らった感じ、一発でもマトモに受けちゃったら終わりかな、君の一撃は……ふぅ、勉強になったわ」
「……それはよかったですね。じゃ、ついでにもう1つ教えてあげますよ」
「……?」
そう、淡白に言うミナトの目は、先ほどまでと同じく、どこまでも『しらけて』いた。
その表情や態度からは、シェリーと違って、この状況に微塵も楽しさなどというものを感じ取っていないことが明確にわかる。
「僕って、基本子供なんで、もともと他人の好き嫌いは激しい方なんですよね……。で、中でも一番嫌いな、こういう人だけは許せないってのがいるんですよ」
「へー、そう……もしかして、戦闘狂?」
「いえ……『他人に価値観を押し付けるような人』です」
そう言うと、ミナトは……振り切った形のままだった拳を、もう片方の拳と打ち合わせてガチン、と鳴らし、より冷たくなったようにも見えるその目をシェリーに向けた。
「他の人が、どんな風に物事を捕えて、どんな価値観やら主義やら持ってようが、別に僕は、僕に害がなければどーでもいいんですよ。けど……それを周囲に、迷惑も構わずに押し付けてくるような人は……どうしようもなく嫌いなんですよ、僕」
『戦闘狂とか』と付け足して、その直後、
今度は、ミナトの方から地を蹴ってかかっていった。
その勢いに、わずかながら虚を疲れたシェリーの左肩を狙い、拳が飛ぶ。
かわそうとしたが遅く、肩部分に当たったその一撃が、鎧の肩部分をバキッと砕いて吹き飛ばす。
しかし攻撃はそこでは終わらず、先ほどのシェリーの攻撃を髣髴とさせるラッシュが襲い掛かる。さらに先ほどの攻撃よりも早く、小回りも効いている攻撃が襲う。
かわすか剣で受けるつもりでさばくが間に合わず、拳が放たれるたびに鎧が砕け、へこみ、部品がはがれて噴き飛んでいく。
何発か剣で防いでいたが……その剣の方は、刃こぼれもなく無事であった。
シェリーの表情に余裕は最早ないが……それでも、その顔に浮かんでいる笑顔から、この状況すらも楽しんでいることがうかがえた。
むしろ、さっきまで防戦一方だったミナトの攻勢に、戦闘狂の血が刺激され、嬉しくなっているようにすら見える。
ラッシュの中の一瞬の隙を見て離脱したシェリーの姿は、わずか数秒前から大きく様変わりしていた。
きらめきも何もかも新品同然だった鎧は見るも無残な姿になり、形状が無事な箇所はほとんど残っていない。所々、砕けて弾け飛んでいる。
肩で息をしているその姿は、傍から見ている者なら、もはや満身創痍と言ってもいい有様であり……そもそも、今の攻防から、両者の力量差もきわめて明確だと思われた。
しかしそれでも剣を構えているその姿からは、まだ戦いを続けようという、否、楽しもうとしているという意思が、周囲に伝わってくるようだった。
「いいわ、君、本当にいい……! 今まで会った中で、間違いなく一番強い! 勝ち目が見えないぐらいに! これよ……私はずっと、こういう戦いがしたかった……!」
「……ボロボロなのは、鎧だけじゃないでしょう? 中も相当ダメージが通ってるはずですけど……これ以上はホントに死にますよ?」
「あははははっ! 何言ってるのよ? こんな楽しい戦いなのに……途中でやめるなんてもったいないことできるわけないでしょ? 逆に聞くけど君、目の前に最高においしそうな料理や、無抵抗な女の裸があるのに、色々我慢できるの? 男として」
「……それらが魅力的なのは認めますけど、欲望は我慢してこそ理性の意味があるってもんでしょうが。第一僕、こう見えても好きな娘には一途な方なんです」
「あらそう? じゃ男なら……もっとがっつくことを知るべきね!」
最早話では解決しない、どちらか死を持ってしか結末に至らないと思われてしまうその戦い。狂喜の剣と嫌悪感の拳の戦いが、今正に再びまじえられようとした……その時、
「……ん? お前何ぐはっ!?」
「「「!?」」」
周りを囲んで2人を監視……もとい、見物していた、『北』の猟師たち。
そのうちの一人が、突然茂みから飛び出した。
否、ある人物により、蹴り出された。
そして、いきなりの出来事に他の猟師たちが驚いている、その視線が注目する中、その人物はというと……
「はいはい2人ともストーップ! 任務完了、救助終わった。演技もういいよー?」
と、
オレンジの髪をなびかせて、軽口で……ザリー・トランターは、激突寸前のミナトとシェリーに対して言った。
するとその直後、
「遅っっそいよザリーっ! こっちもう何回かひやひやしてたんだから! もうちょっと急げなかったの!?」
「えー、もうおしまい? なーんだ、もうちょっと戦ってたかったのにぃ」
「ほらぁ! この人こんな感じなんだから、大変だったんだよホントに!」
「「「……!?」」」
さっきまでの剣呑な空気が嘘のように、フランクな空気を醸し出すやり取りをいきなり始める、ミナトとシェリーの2人の様子に……猟師達は、盛大に混乱させられた。
☆☆☆
まあ、結論から言うと、全部演技。
シェリーさんが登場して、あの、傍目から見たらちょっと長い沈黙があった辺りから……もう丸々演技。猟師の皆さん騙して……その間に、『人質』救出するための。
まず第一に、シェリーさんが鎧で重武装してたところがそもそも違和感大だった。
彼女は、素早い動きで攻撃をかわしながら戦うのがそもそものスタイルである。普段の装備も、動きの邪魔にならない大きさと軽さの軽鎧なんだ。一緒に護衛してた数日間の戦いぶりからも、それは明らか。
あんなの着てたら戦えないってのは、一目見てわかったし、そもそもあまりにも似合ってなかったから……最初は『え、仮装?』とか思っちゃったくらいである。
そう思ってたら、頭の中に、エルクとシェリーさんから同時に『念話』が届いて……そこで、今回の裏事情を全て知った。
発覚の一因は、シェリーさんが町長さんから、これはホントに『ミナト殿が怪しい』って吹き込まれたこと。
その時点でシェリーさんは、『町長さんを』疑った。
話があまりに突拍子もなかったのと……それ以前に、『あの夜』、町長さんが言ってた不自然なセリフに気付いてたから。
数日前の魔物襲撃の夜、
町長さんは会話の中で……襲撃が人為的なものの可能性がまだ出てないのに『一体誰が』って言っていた。まるで、襲撃は原因がどこかの人間にある、と知ってたかのように。
ただ、これはもちろん言葉のあやって可能性もある。だから、僕も気付いてたけど……その場で強く追求したりはしなかった。
けどもう1つ、町長さんの言葉には、不自然な箇所があった……と、シェリーさんがあの晩教えてくれた。
あの晩、町長さんはこう言っていた。
『しかし……『ウイングボア』に『リザードコング』に『ライノセラス』……この近くでは見たこともない魔物ばかりです。いったい誰がこんな……』
町長さんは、全部魔物の死骸とかの片づけが終わった後にここに来た。
なのに、どんな魔物が襲ってきたのか、その種類まで、さらにはどれも『北部』にすむ魔物だと、いかにも知っていたかのような口ぶりで話していた。
すでに片付けられた後で、死骸は見ていないはずなのに、だ。
死骸を片付けた先は町長さんの勤め先とは全くの別方向。しかも夜で暗い。来る途中で偶然見えた、という可能性はまずない。
それをシェリーさんがさりげなく聞いたら、ちょっとどもって、襲撃を知らせに来てくれた部下が、魔物の種類まで教えてくれたからわかった、と答えてくれたらしい。
まあ確かに、そういう可能性も考えられる。
しかし、それでもおかしい。むしろ、今の証言で余計に怪しさは増した。
なぜなら、町長さんがさも当然のように言っていた、魔物の種族の1つである『ウイングボア』だが……実は、あの晩襲ってきた魔物の中に、そんな魔物は存在しない。
シェリーさんに聞いた。羽毛が生えていたあの蛇は『フェザースネーク』という種族で……渡り鳥のような習性を持ち、一定の地域にとどまったりしない魔物だという。
しかも、高い警戒心のためなのか、渡るルートは毎年違い、一度使ったルートはその先何年も使わないとまで言われているらしい。そのため、冒険者でも中々その姿を見ることは出来ない、非常に珍しい魔物の1つだそうだ。
そして『北』に住んでいる『ウイングボア』は、このあたりには出ないとはいえ、その特徴は書物なんかでけっこう広く知られている魔物。
体の一部が広げた翼のような形状になっている蛇。しかし名前とは裏腹に、翼は形だけの威嚇用で、飛べない。イメージとしては、前世の世界のキングコブラなんかの、あの首もとの広がってる部分が翼みたいに大きい蛇だと思ってくれればいい。
仮に『フェザースネーク』の名前を部下の人が知らなかったとしても、『ウイングボア』として町長さんに報告するようなことはありえない。
同じ蛇の魔物とはいえ、この2つは間違えられるほど似ていないからだ。
つまり、部下の人から町長さんへ、魔物の種族の情報までは渡っていない。
にも関わらず、町長さんは襲ってきた魔物の種類を、全部ではないが把握しており……しかも『もっと北』に住んでいる魔物だと断定した。
なぜ、そういう考えにいたることが出来たのか。
さっきの言葉のアヤとあわせて考えると、事前に何らかの事情を知っていた、と考えられる。もし『誰かの』襲撃があった場合、『何が』攻めてくるか、を、大まかに。
それらの、1つ1つでは弱いが、無視もできない確かな疑念。
そこに、その怪しい『密告』が加わってより疑いを増したシェリーさんは、ひそかに町で聞いて回った結果、ある事実を耳にした。
町長の娘さんが、数日前から流行り病で寝込んでいると。
そしてその寝込んだっていう日から、一度も人前に姿を表してないってことも。
その主治医だっていう人を問い詰めた結果、そんな事実は無いことが判明し……シェリーさんは、確信を持った。
『ああ、さらわれてるな』と。
町長さんは、娘さんを『北』に拉致されて人質にされ、連中がやろうとしてる何かに協力させられてる。その一環として、シェリーさんに嘘情報を流し、僕と敵対させようとしたんだろうな、と、シェリーさんは完璧に気づいた。
それ全部承知の上でシェリーさんは、直前にザリーにその事情を話し……『正直気に食わないんだけども何とかなんない?』『OK探してみる』とのやり取りの末に、僕の前に立ちはだかったのだ。
で、その時、やっぱりダークエルフの彼女も使えたらしい『念話』で、僕にもちかけてきたのだ。ザリーが人質を救出するまで、猟師たちの目をなるべく多くこっちに引きつけておくためのショー用員として、協力してほしい、と。
ていうかそもそも、周りに連中がいて、隠れて見てるの、僕もシェリーさんも普通に気付いてた。
こいつら隠密下手すぎ。ザリーを見習え。
そこらの冒険者や頭の悪い魔物ならともかく……自画自賛になっちゃうけど、僕やシェリーさんレベルの使い手からみたら、とても隠れきれてなかった。
茂みを間に挟んだ程度で、僕らが気づかないわけないだろうが。屋外で尾行するなら、せめて100mは離れろっての。
で、テレパシーで聞いたそれを承諾した僕は、ドライアドの警護をエルクとザリーに、さらにザリーには人質の捜索も任せて、シェリーさんと演技でのバトルに臨んだわけだ。時間稼ぎのために。
ちなみに、シェリーさんの鎧は、バトルを演技だと悟らせないため、より激しさを出すためのもの……まあ、早い話が『小道具』だったのだ。
僕なら、鋼鉄くらいは素手で粉砕できるだろう、と。
そんな風に、随所に工夫を織り込んでの……演技。
そう、あくまで演技……だったんだけども。
途中から、そう、思えばあのあたりだ。
あの、シェリーさんが剣に炎を纏わせたあたりから……『あれ?』と、僕は思い始めた。
『目が、マジだぞ?』と。
そして始まったのが、僕じゃなきゃ絶対に死んでたであろう猛攻撃。
実はあそこから先、この戦闘狂娘、かなり遠慮なさげにやってきやがったのである。
『いいわ、君、本当にいい……! 今まで会った中で、間違いなく一番強い! 勝ち目が見えないぐらいに! これよ……私はずっと、こういう戦いがしたかった……!』
『……ボロボロなのは、鎧だけじゃないでしょう? 中も相当ダメージが通ってるはずですけど……これ以上はホントに死にますよ?』
『あははははっ! 何言ってるのよ? こんな楽しい戦いなのに……途中でやめるなんてもったいないことできるわけないでしょ? 逆に聞くけど君、目の前に最高においしそうな料理や、無抵抗な女の裸があるのに、色々我慢できるの? 男として』
『……それらが魅力的なのは認めますけど、欲望は我慢してこそ理性の意味があるってもんでしょうが。第一僕、こう見えても好きな娘には一途な方なんです』
『あらそう? じゃ男なら……もっとがっつくことを知るべきね!』
そんな、ノリノリ&クレージー感漂う会話があの時は展開されていたけども(もちろん鎧壊しただけで、シェリーさんにダメージは無い)、実際の所は、
『ちょっとシェリーさん!? あぶっ、危なっ! 熱っ!? いや、コレ演技、演技でしょ!? ちょっとマジになりつつあ……っていうか目がマジですよっ!?』
『え、何? 何でもいいけど、集中しないと怪我するわよミナト君?』
『いやだからちょっと落ち着いてくださいってあなたはもう! 演技のレベル超えてるじゃないですか! 燃えますよコレ!? 僕じゃなかったら怪我じゃすまないですよ!?』
『大丈夫なんだからいいじゃない! それにこのくらい本気……じゃなくて、鬼気迫る感じでやっといた方が楽し……じゃなくて、リアリティ出るでしょ?』
『言ったな!? 今明らかに『本気』そして『楽しい』って言ったなあんた!? っていうか、ホントに殺気出てるし剣速マジだしそもそも燃えなくても普通に熱いからぁあっ!?』
……水面下でこんな『念話』が繰り広げられていたことを、僕らだけが知っている。
そしてそれを裏付けるかのように、今もまだシェリーさんの目はギラギラしている。
一つ今日は大切なことを学んだ。演技でもこの人とは戦いたくない。
ま、まあそれはともかく。
ザリーがここに来たってことは、もうすでに人質は……
「ああ、もう全部終わったよ? 町長の娘さんは救出済み、さっき町長さんに届けてきたとこだ。だから、もう演技は終わりでOK」
「よーし、でかしたザリー。ってことですシェリーさん」
「うーん、もうちょっと遅く来てくれてもよか……」
「はいムダ口STOP! さっさと周りのギャラリーの皆さんから、見物料いただかないとでしょ?」
強引に会話を断ち切って、連中が隠れてる茂みの向こう側を睨む。
全く、化け物だの最高の見世物だの好き勝手言ってくれたなこんにゃろう。悪いけど全部聞こえてるんだよ。
整理体操にはちょうどいい、もうひと暴れさせてもらおうか!
☆☆☆
数分で終わった。
後に残ったのは、死屍累々の惨状。
やけになってかかってきた奴もいれば、逃げ出した奴もいたけど、かかってきた奴はバリバリ僕ら殺す気で来たので、遠慮はしなかった。
証言用の人員はほしいので、リーダー格と思しき奴を何人か僕が迅速に仕留めた。
一応、そいつらは命は残しておいてあるけど……縛る縄とかがないので、ちょっと両手両足を脱臼とか骨折とかごにょごにょ。
わざわざ『迅速に』やったのは、シェリーさんにかかっていくと、まず間違いなくその刃にかかって死ぬからだ。
シェリーさんは、こういう殺す気で来る連中には基本容赦というものがなく、普通に目には目をでバッサリしとめる。というのは、来る途中の盗賊討伐で知ってる。
けど別に僕は、それに関して何か言おうとは思わない。
向こうは殺しに来てるんだから、殺されても文句は言えない。ひどいだのやりすぎだの、そんなことを言う権利は誰にも無いし、誰に言われる筋合いもない。命狙われてるんだから、実力的にその危険があろうが無かろうが、どうしようとこっちの裁量だろう。
僕にしたって、極力殺さなかったけど、必要ならきっちり仕留めてただろう。どんな時に『必要』かって聞かれると、ちょっと即答は出来ないけれども。
もちろん、盗賊じゃなくて猟師だとか、そんな点に関しても言い訳にはならないし、故郷に家族がいるんだとか言われても知らない。気の毒とも思わない。遠慮もしない。
ただあくまで、証言してもらう人員にまで死なれちゃ困るから、僕も急いだだけだ。
それと、かかってこずに逃げた奴らは、ザリーが担当したから、逃げられてはいないだろうと思われる。どうなったかは知らんけど。
そしてちなみに、ついでだからとちょっと脅して事情を聞いたところ、やはり町長さんは娘さんを人質に脅されて協力していた。自分達の誘拐計画に邪魔にならないよう、冒険者を遠ざけるとかのサポートをさせるように。
脅迫の際に、恐怖心をあおるためか、『俺達は魔物を飼いならすことだってできるんだ、平和ボケしたお前らの村を襲ってもいいんだぞ!?』とか言って脅迫されていたことも。
ご丁寧に『南』でも知られてるような魔物の名前……『ウイングボア』を初めとするそれらを並べて脅していたらしい。けどあくまでこれらは脅しで、そんなことはできないらしいけど。
そして、あの夜の襲撃は、奴らが飼いならした魔物じゃなく、鎮静剤とやらの副作用で興奮してた魔物だったんだけど、町長さんは脅しのために本当に『北』の連中が、調教した魔物を何匹か差し向けたのかと思ってしまったんだろう。偶然が重なったわけだ。
……さて、
やることは終わったんだから、さっきからまた感じる、欲求不満バリバリの視線は極力無視して、こいつらを連行して、その後森の中にいるこいつらの仲間をひっとらえるなり始末するなりして、残りの魔物共を全部片付けて一件落着と……
『ガオオオオオォォォォオオオッ!!!』
「「……!?」」
……と、行きたい所だったんだけど……
どうやら、そうもいかない事態になったらしい。
なんか、聞こえた。
向こうの、魔物たちが出没して冒険者達が戦ってた辺りから、嫌な咆哮が。
ちょっと……修羅場が1つやっと終わった所だってのに、これからまた、よっぽど厄介そうなのが待ち構えてる気配がするんですけど……っ!!
☆☆☆
タイミングよく様子を見に来た村の警備要員達に、証言用に残しておいた『北』数人を引き渡してから、僕とシェリーさんはダッシュでさっきの雄叫びが聞こえた場所へ向かった。
その際、
「ちょっと何々!? ミナト君足速っ! えー、エルクちゃんいつもこんな快適な移動方法であちこち行けてるの!? やーん、うらやましいっ!」
「いやー、本人は嫌がってますけどね、酔うって。っていうか、しゃべってると舌噛みますよ?」
と、
時間短縮のため、エルクにはおなじみ、『他者強化』+おんぶでダッシュ、車以上の速度で急がせてもらったんだけども、
えっと……エルクよりもだいぶ大きい、胸に2つついてるパーツがその、意図せずして背中に当たるというか……感触からして、けっこう変形してるのがわかるというか……
今思うと、少々からかわれるとしれなくても、お姫様抱っこ的なやり方で運んだ方が理性的には楽だったかもしれない今日この頃。
まあ、数分かからずに目的地にはつくので、我慢我慢。
それに……のんびりしてられる状況じゃないってのは、本当なんだから。
そして、
冒険者や用心棒たちが並び立ち、『北』が使った薬のせいで凶暴化した魔物たちを相手取ってる地区に行くと、
そこは、ベテランの戦士たちが集っているとは思えないほどの大パニックに陥っていた。
そこにいたのは……巨大な、緑色の、トカゲのような『何か』。
二本足で立ってのっしのっしと歩き、その進行方向上にいる者を、魔物・人間の区別なく襲って薙ぎ倒し、その口の中に放り込んでいる。見上げる高さが10mほどにも届こうかという、巨大なトカゲのように見える『何か』だった。
草木が薙ぎ倒されているその光景から見て、おそらく森の中から出てきたんだろう。
「またすごいのが出てきたわね……アレ何? トカゲ? 龍かしら?」
「いや、あれ多分……植物です」
たしかに、二本足で立って、尻尾(のように見えるもの)を引きずって歩いてるその光景は……さながら、獣脚類の恐竜か、怪獣映画のモンスターのようだった。
けど、よく見ると……まだ遠いから見づらいけど、形以外は完全に『植物』だ。
手足は、木の根がまとまってそれらしい形になっているもの。尻尾も同じだ。
口(に見える)の中も、並んでるのは牙じゃなくて、尖った根っこみたいなもの。あれ、食いちぎるんじゃなく、噛み潰して栄養を吸収する感じだろうか? というか、口からじゃなくても吸収できそうな感じだな。
そして、体を覆っている緑色は、鱗じゃなくて葉っぱだ。びっしり鎧みたいに覆ってる、重厚なイメージすら届く厚手の葉っぱは、下手な鎧より頑丈そうに見える。
……いや、実際にそうである可能性も否定できないんだけども。
しかしその動作は、見た目ほどの鈍重さではなく……ぶぅん! と空を切って振るわれ、魔物をなぎ払うその根っこの一撃は、『当たらなければ云々』なんて甘っちょろいことを言っていられるようなちゃちな迫力じゃなかった。
そして『植物』だし……やっぱりアレか? こないだの夜、長老さんから聞いた、森の破壊神もとい護り神様が、北の蛮行に怒って目覚めてああなったのか?
しかしまあ、何が正解なのか確認できないことを考えても無駄なので、まず考えないことにした。
ところで、逃げ惑っている者の中には、村の者たちとは違う服装や雰囲気のものも。もしかして『北』の工作員?
襲われてだろうか、怪我してる連中もいるけど……気にしてる場合でもない気がするので、今は放っておこうと思う。自業自得って部分もあるし。
すると、
視界の端に、ちょうど今さっき森からでてきたのであろう、エルクとネールちゃん、それにザリーがいた。アルバも一緒だ、エルクの肩にとまってる。
そして、僕とシェリーさんがいるのに気付いて駆け寄ってくる。
お互いの無事を確認し、まずはひと安心。
「ミナト、そっちもう片付いたの?」
「うん、エルクも無事でよかった。まあ、今のエルクなら心配はしてなかったけどさ」
「ははっ、信頼されてるねえ、エルクちゃん。さて、シェリーさん、情報提供どうも、おかげでこっちも面倒ごとは全部解決できたよ」
「どういたしまして情報屋さん。それと……そっちの子が、ドライアド? いや、赤い髪だから、アルラウネかしら?」
「は、はいっ! え、えっと……ダークエルフの方なんです、か?」
「よろしくね? けどまあ今は、あんまりのんびり自己紹介してられる雰囲気じゃなさそうだから、後でゆっくり皆で話しましょ」
そう言うと、全体の会話を切り上げて、再び、魔物の群れの中で猛威を振るっている、巨大な植物怪獣に向き直る。
怖いのはそうなんだけども、こいつに町まで来られてはたまらないので、冒険者達が弓矢とか魔法を使って遠距離から攻撃しているのが見える。
が……効果は芳しくない。
それなりの数の矢や、植物にはよく効きそうな火属性の魔法も飛び交ってるけど、その鱗のごとき葉っぱにこげあともろくについていない。ホントに頑丈だった。
逆に、刺激になって怒らせちゃうんじゃないかと心配になる。今は、意にも介さずに大暴れ&食事してるけども。
その光景を見ていたザリーが、ポツリと一言。
「なるほどね。あれか、『緑のトカゲ』っていうのは。確かに『トカゲ』だし……ドライアドちゃんたちが怖がるだけじゃなく、ミナトくんまでが警戒するだけのことはあるね」
「え、何、あなた達アレ知ってたの?」
「いや、話に聞いてただけだよ。実際に見たことあるのは、ミナト君だけ。そのミナト君が『あれはヤバい』って警戒してたし、正直そんなのがホントにいるのかな、って思ってたんだけど……確かにアレは納得だよ。だよね、ミナト君?」
「……違う」
「「「?」」」
と、
僕から帰ってきた、予想外だったんであろうその言葉に、一瞬きょとんとするザリー。シェリーさんとネールちゃんも。
顔に『え、否定しちゃうの?』って書いてある。
けど……残念ながら、否定せざるを得ない。
僕が言っていた『緑のトカゲ』は……あれのことじゃないから。
「え? あの怪物じゃないの? ミナト君が警戒してた奴って」
うん。違う。
たしかにアレも、見た目は『緑色の大きなトカゲ』だし、見た目からして危険な雰囲気だけど……僕が言っていた奴とは違う。
森の中で死んでいたゴロツキ2人。
かれらの死に様は……鋭利な刃物か、それに匹敵する爪か何か、で一瞬にして八つ裂きにされたという形だった。
あの植物怪獣は、確かに圧倒的かつ凶悪な攻撃力だけども……そこまで鋭いパーツは見て取れない。
そもそも、あの巨体が森の中で動き回ってたらさすがに気付くし、動いた後もムチャクチャになってるはず。
確かに、何かが暴れたようなあとはあったけど……あいつが森の中を動いたら、周りの木々は根こそぎ薙ぎ倒されるだろう。形を変えて狭い部分も進めるとか、そういう特徴を持ってない限り。
その現場を見てないシェリーさんはともかく、ザリーもネールちゃんも、『なるほど』という表情になった。いつも何気に鋭いザリーが、気付かないなんて珍しい。
そもそも、あいつがドライアドちゃんたちが目撃してた『トカゲ』なら、けっこう前からこの森にいたってことになる。
だったら、いくらなんでも町の人たちが気付くだろう。森も滅茶苦茶になるだろうし。
と、
3人と違い、さっきから『え?』っていう反応を返さなかったエルクの様子が、何だかおかしいことに気付いた。
あの現場を見てるわけだから、違和感を覚えるのはまあわかるけど……何だろう?
何だか、体が強張ってるというか、表情がひきつってるというか……
しかも、目の前にいるあの植物怪獣にびくついてる感じじゃない……もっと怖い何かを思い出してるような、そんな雰囲気。
すると、
「ミナト、あんたが言ってた奴ってさ……『緑色の大きなトカゲ』だったわよね?」
「? そうだけど?」
「それってもしかして、大きさは大柄な人間くらいで、腕が長くて、鞭みたいな尻尾持ってて、凶暴そうな顔で、体にうろこがびっしり生えてる奴だったりする?」
…………!?
「エルク、まさか……見たの!? 森で!?」
「……ええ。『北』の連中と戦ってたら乱入してきたの。そのまま猟師連中惨殺して……私が腰抜かしてたら、興味なくしたようにどっか行っちゃったけど」
「……マジ?」
「マジ」
……それは、また……
うかつだった。アレが森の中にいるのに、エルク1人に行かせるべきじゃなかった……アルバが一緒だったとはいえ、あいつの危険度は尋常じゃないんだから。
あーもう、頭の回りが悪い自分が嫌になる……!
けど、何でかしらないけど見逃してくれたらしいし……結果的にはよかった、か。
その点はきっちりエルクに詫びつつ、しかし、そいつがこの辺をうろついているという、油断が微塵も許されない今の事態をどう…………
…………
「ねえ、ミナト君? その……アレとは違う、君が危険視してる魔物って、つまりこの近くに今来てるってこと?」
「……近くっていうか……」
一拍
「……そこに、今、来たっぽい」
「「「!?」」」
と、言って、
僕がすっ、と指差した方角……植物怪獣がいる方向とは違う、一見何もないように見える森の方を一斉に見る3人。
その木立の向こうから、ぱきぱきっ、と枝を踏むような音がしたかと思うと……
茂みをかきわけて、そいつは現れた。
体中にびっしりついた、鎧よりも重厚そうな鱗。
姿形は、人に近い体つき。しかし中腰の前傾姿勢で、腕がかなり長め。その先にある手は人間のような5本指にわかれていて、指先には長く鋭い爪がついている。
2m近くありそうな、鞭のように強靭そうな尻尾は、先端付近の鱗が硬質化しているのか、研ぎ澄まされた槍みたいな形になっている。
凶悪な顔は、トカゲどころか恐竜を思わせ……蛇のように舌をのぞかせていた。額には、金色、というよりも琥珀色の角のようなものが生えている。見ると爪も同じ色だ。
まるで恐竜人間のような見た目のそいつは、成人男性よりも少し大柄と言った程度の大きさでありながら……醸し出している威圧感は尋常じゃない。
その姿は……紛れもなく、僕が警戒していた、名前も知らない『あの魔物』だった。
ただ、1つ、僕の記憶と違う所があった。
(鱗が……黒い?)
僕がかつて見たことがあるものは、鱗は緑色だった。間違いなく。そして角や爪は、血のような赤色だった。
けど、目の前にいるこいつの鱗は……少し藍色がかっているものの。紛れもない黒。そして角や爪は、琥珀色だ。
それが余計に威圧感や凶悪さを際立たせているようにもみえるけど。たしか、黒と黄色の組み合わせって、警戒色だったはずだし。
……まあ、やばそうなのは変わらないし、今そこ気にしても仕方ないか。
「……ミナト、やっぱりあいつが?」
「うん、僕が話した『トカゲ』」
「へー、アレがミナト君が言ってた奴か……。やっぱり強いの?」
「そりゃまあ、強いよ? 何たって……」
……ちょっと、自画自賛入っちゃうけど、
……樹海での修行時代、唯一僕が勝てなかった魔物だから。
☆☆☆
今から、だいたい4年くらい前だったと思う。
当事すでに、樹海最強である巨大な蛇の魔物(名前知らないけど)を複数同時に相手にしても戦えるレベルだった僕は、その日、いつも通り、修行兼夕飯の食料調達のために樹海に入って……『アイツ』と出会った。
見たこともない、緑色の恐竜人間みたいな……いや、どっちかっていうと人間恐竜、って感じだったけども、そんな奴がいて、樹海の魔物たち相手に戦っていた。
樹海でも有数の強さを誇っていた、角の生えた熊の魔物を一方的に痛めつけ、切り裂き、叩きのめしていたそいつは、僕に気付くと、問答無用で襲いかかってきた。
とっさに応戦した僕だったけど……相対した瞬間にわかっていた。
こいつは、ヤバい、と。
そしてその、推測とも呼べないような直感が正しかったことを、その数秒後に知った。
今まで見たことも、出会ったことも無かったそいつは、樹海の他の魔物が笑えてくるぐらいの、とんでもない戦闘力を持っていた。
スピード・パワー・テクニック……それら全てが尋常じゃなく、油断なんて一切しないで全力で挑んだのに、ほとんど手も足も出なかったのを覚えている。
筋肉の引き締まった肉体から繰り出される強力な攻撃の数々は、疾さも威力も桁違い。強化した視力でも、軌道を見切ることすらろくにできなかった。
そして防御力も高く、全力で殴って蹴ってるのにほとんどひるまずに反撃が飛んできて、腕や尻尾を叩きつけられたり、爪で引っかかれたり、本当に散々だった。
幸い、その頃から防御力は高かったので、骨折なんかもなく、爪で五体不満足になるように引き裂かれたりはしなかったけど、無事とはとてもいえない怪我が体中に。
このままじゃ絶対死ぬな、と直感して、全力で逃げた。
途中でとっさに閃いて、お気に入りの狩場でもある大蛇の縄張りを突っ切った。そして、侵入者を排除しようとして襲ってくる大蛇達に、トカゲを襲わせた。
やはりというか、圧倒的な戦闘力のトカゲに一方的にやられてたけども、その間に距離を稼いで逃げて身を隠し、逃げ切ることに成功した。
その後で母さんに手当てしてもらいながら聞いた話だと……驚いたことに、母さんもこの樹海でそんな魔物は見たことがなく、心当たりもないらしい。
つまりあいつは、特定の縄張りをもたない流浪の魔物で、たまたまこの樹海に来ていて、たまたま僕に出くわして襲ってきた、っていうのが母さんの見解。
おおむねあっていると思う。根拠とか、ないけど。
その後数日、その一件を警戒した母さんは、しばらく僕の訓練は母さんとのスパーリングだけにして、時間を見つけて森を見回り、そいつをさがしてくれていた。
僕は基本、その間は屋敷から出ず、周囲には必ず1体か2体、母さんのペットが護衛役としてついてくれていた。主にストークとか、そのへんが。
しかし結局、それ以後僕はあの謎の人間恐竜……母さんも、種族にすら心当たりがないということだったので、名前がわからないため、仮に『アンノウン』と呼ぶことにしたそいつに、二度と出会うことはなかった。
……今日までは。
☆☆☆
そいつが森から出てきた瞬間、
そのあまりの存在感に……一瞬だけ、そこにいた全員の視線が、そのアンノウンに釘付けになった。動きを止めてしまった者もいた。
魔物の大半が植物怪獣に襲いかかっていっているこの状況じゃなければ、今の数秒で1人か2人死人が出てたかもしれない。
もちろん僕らも全員、地面を踏みしめて歩いてくるその黒い大トカゲから目を逸らせないでいる。
ザリーは驚愕と困惑、シェリーさんは驚愕と興奮、そしてエルクとネールちゃんは恐怖が、それぞれ顔に浮かんでいるのがわかった。
「……えと……何、あれ?」
「さあ? 名前は知らないし、その他の情報も全然。けど、強いよ……とんでもなく」
「見たらわかるわよ、そのくらい……明らかに、ね」
確認するように各自そんなことを言う中、
何匹かの魔物が、森から出てきたアンノウンに気付き、いきなり向かっていった。
植物怪獣より襲い易そうだとでも判断したのか、はたまた単に興奮状態でどうでもよくなってるのかは知らないけども、数匹の狼型の魔物と、こないだもいた鱗ゴリラが2匹。たしか、『リザードコング』とか言ったっけか。
しかし次の瞬間、
ほとんど見えないくらいの速度で、ひゅん、と、その鞭のような尻尾が、飛び掛ってきた狼達をはらうように振るわれた。
その結果、
狼達は、弾き飛ばされて地面や木々に激突……したりはしなかった。
かわりに、尻尾の命中した体の前半分が弾け飛んで飛散し、血と肉塊と骨の欠片になって、地面にびちゃびちゃと飛び散った。
一瞬にして狼達は全滅し、後に残った後ろ半分が、慣性の法則で前にちょっと飛んで……力なく墜落し、動かなくなった。
そして、その光景にもひるまず、一拍遅れて飛び込んできた鱗ゴリラのうちの1匹が、直後に拳を振り上げ、アンノウンに殴りかかり……
次の瞬間には、目に見えない速度で振るわれたアンノウンの爪で、振り上げた腕を斬り飛ばされていた。
更に次の瞬間には、もう片方の腕の一閃がゴリラの頭部に直撃。
5本の爪で切り刻まれた結果か、それとも単に腕力で吹き飛んだのかよくわからなかったが、首から上がなくなった。
そしてもう一匹は、今の首狩りと同時に閃いた尻尾の刃に、心臓を貫かれていた。
この間わずか3秒足らず。魔物たちは、断末魔すらあげられずに全滅した。
あまりに一方的な暴力・蹂躙……その光景に、そこにいた人達は、僕らも含め、声も出なかった。
『リザードコング』はCランク。その鱗は、鉄にも匹敵する硬さを持つことで知られる。訓練をつんだ一人前の冒険者でようやく相手が出来るレベルの魔物だ。
それを、目にも止まらぬ動きで歯牙にもかけずに一蹴したアンノウンは、すでにあの植物怪獣と同等かそれ以上の警戒対象になっていた。
そのアンノウンは、尻尾や爪についた血をぱっぱっと払うと、こっちをキッとにらみつけた。斬れるような視線。しかし、襲いかかってくる様子は見られない。
その視線を、言葉も何も発せずに受け止めている、僕らを含む冒険者・用心棒陣。
しかし、今彼らが静かなのは……ただ驚いているからだ。絶句しているのだ。
けどこの後、我に帰った彼らがどうなるかを考えれば……
「う、うわああああぁぁああっ!!」
……こうなる。
恐慌状態。パニック。言い方は何でもいい。恐怖で逃げ出すか……やけになって、殺される前に殺そうと、魔物にかかっていくか。大概はその2択だ。
そして、何人かが後者を選んで、武器を構えてアンノウンに突っ込んでいく。
それを見たアンノウンは、『次の獲物か』とでも言わんばかりに目を少し細め、先ほど狼達をミンチにした尻尾に、力をこめようとした……その瞬間、
戦場全体に、僕が、『真紅の森』の時以上に全力で放った『マジックフェロモン・威嚇』が一気に広がった。
「「「――っ!!?」」」
「……おっと、失礼」
いきなりの衝撃に、恐慌状態だった冒険者達も、僕の周りにいるエルクたちも、さっきまで暴れていた魔物たちも、そしてアンノウンも、一瞬動きを止めた。
そしてアンノウンは……今まさに迎撃しようとしていた冒険者達からは目を離し、ゆっくりと、今の、威圧感に似た『何か』の元凶である僕のほうを見る。
その視線は、数年前のあの時を思い出させる、相変わらず強烈な威圧感を含んでいた。
体の色は違うし、そもそも同じ個体であるはずがないんだけど……何と言うか、懐かしい感じがするから不思議だ。
ただし、冷や汗がじんわり出てきて呼吸が乱れそうになる懐かしさなんて、ありがたくも何ともないんだけど。
喉の奥から『グルルル……』と唸り声を出すアンノウンのその視線には、僕を見定めようとする観察の他に、不思議と何か意思がこめられているように思えた。
問いかけられているようだ。『お前が相手か』と。
……よーしいいだろう、上等だ。
「エルク、ザリー、それとシェリーさん」
「「「……?」」」
「あのトカゲは僕が相手します。なので、向こうの植物怪獣はシェリーさん達でどうにかお願いします。エルクとザリーは援護と、負傷者救出の手助けお願い」
「……いいけど、あんたは大丈夫? 勝てるの?」
「まあ、負けるわけにはいかないでしょ、まだ16年しか人生エンジョイしてないんだし」
「いつになく神妙っていうか何ていうか……ミナト君にしては随分自信控えめな言い方じゃないの? コレが最後にかわした言葉だった、なんてことにならないよね?」
「不吉なこと言わない。……ヤバいのは自分でもわかってるんだから」
「ねえミナト君。もし私が、あのトカゲと戦いたいな~、とか言ったら、どうする?」
「……死にたいんですか?」
「……冗談よ、冗談……興味はあるけど、さすがにアレ相手は、戦いになってる光景すら、ちょっと今の私じゃ想像できないかもだし、ね。今回は、お願いするわ」
「ご理解、どうも」
三者三様、話はついた所で……後のことは任せることにして、ゆっくりと、過度に刺激しないように、しかし相手は僕だってのはきちんと明確に主張するように、歩いてアンノウンに近づいていく。
歩きながら、こっちに向けられるそのアンノウンの視線に……やはりどこか、知性のようなものを感じた。
同時に、さっきエルクから聞いた話を思い出した。
アンノウンに出くわし、『北』の漁師達は殺されたのに、エルクとドライアド達は見逃された、と。
さっきからの、獲物はいくらでもいるのに、全然襲いかかってくる様子の見えない態度といい……こいつもしかして、襲いかかってくる奴しか相手にしないのか?
だとしたら、シカトしてれば無害ってことになるかもだけど……断定するのは危険だ。襲ってくる奴を『優先』してるだけかもしれないんだし。
と、そんなことを考えながら歩いていた時、
『ガオオオォォォオオオッ!!』
横から咆哮が聞こえたかと思うと、自分に襲いかかってきていた魔物たちをあらかた片付けてしまったらしい植物怪獣が、ずしんずしんと歩いてくるところだった。
次の獲物だ、とばかりに、手近にいた僕とアンノウンに、根っこで出来た手から触手のように根を伸ばし、捕えてエサにせんとする。
しかし、はっきり言って邪魔なので、蹴りでも入れて破砕しようかと思った次の瞬間、
後ろの方から、強烈な魔力が膨れ上がるのを感じたと思ったら、いきなり、強烈な熱と炎を纏った矢が飛んで、伸びてきていた根っこに命中。
そのまま焼き尽くす……どころか、貫通して次々に爆砕し、伸びてきていた全部の根をまとめて粉々にした。
驚いて振り返ってみると、どこに持ってたのか、はたまたそのへんの冒険者から借りたのか知らないけど、弓矢を構えたシェリーさんが、矢を放った後と思しき姿勢で残心している所だった。
え、シェリーさんって弓矢も使えたの? っていうか今の、魔力の矢だよね?
「まあ、色々あってね。今じゃなくて後で話すわ。それより、こっちは私たちがきちんとやるから……そっち、よろしくね」
そう言うと、シェリーさんの手元で魔力が練り上げられ……一瞬後には、魔力で出来た燃える矢が握られていた。
やっぱり、スウラさんと同じ魔力の矢だ。氷じゃなくて炎だけど。
シェリーさんは接近戦も強いし、これなら大丈夫かな。
でも念のために、
「アルバ! シェリーさんやエルク達の援護頼むよ。状況が状況だから……本気で」
――ぴーっ!!
そう言うと、アルバは了解と言うように一鳴きすると、飛んで舞い上がった。
よし、これでOK。アルバはまだ子供(生後1ヶ月強)だけど、けっこう強いし、何気に最近、バリア系の魔法まで使えるようになってきてるから、頼りになると思う。
……さて、じゃあ気を取り直して僕は……
「さて……待たせたな。名前何て呼んでいいのかわかんないけど……こっちはこっちで、さっさと初めてさっさと終わらせようか?」
しゃべってる間、一応意識は向けて警戒してたけど……意外にも普通に待っててくれていたアンノウンは、やっとか、とでも言いたげにまた喉を鳴らす。
かかってくる相手だけに云々の推測は正しいみたいだけど、それ以上に何だろう、こいつには何か……理性とか知性を感じる部分がある。……不思議な奴だ。
まあでも、
これから始まるのは、そういうのがおよそ関わってこなそうなヤバいバトルだろうから……あまり関係もないか。
屋敷出て以来、久々の強敵。
今回は……油断してると死ねるな。気、引き締めて、きっちり本気で行くとしよう。
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