最新記事

中国

天安門事件から27年、品性なき国民性は変わらない

2016年6月3日(金)17時16分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)


「革命、反革命、不革命。
革命者は反革命者に殺される。反革命者は革命者に殺される。不革命者は、革命者と見なされて反革命者に殺されるか、反革命者と見なされて革命者に殺される。あるいは、何でもないものとされて革命者、もしくは反革命者に殺される。革命、革革命、革革革命、革革...」(『魯迅評論集』竹内好編訳、岩波文庫、1981年)

 中国の革命とは、動乱によって古い支配者が倒れても、次に登場するのはまた同じような支配者にすぎない。清朝時代の小役人は肩書をすり替えただけで、相変わらず同じ地位に居座っている。新たな支配者はまたぞろ汚職にまみれた官僚社会を形作った。なんと浅ましい姿だろうか。「革命」とは、いったいどういうことなのかと、魯迅は思ったのである。

 平和で進歩的な国家をつくるにはどうしたらよいのか。魯迅は悩んだ末に、ひとつの方向性を見出した。

 国民性の改造――である。

 国家と国民の関係は、表裏一体のものである。国民に品性がなければ、国家にも品格など備わるはずがない。品性下劣な人間は汚職にまみれた支配者だけに限らず、抑圧されていると信じこむ者のなかにも、他力本願と自己愛の精神構造がしみ込んでいる。

 平和で進歩的な国家を創出するための努力をするのと同時に、健全な心を持つ国民を育成することこそ大切なのだ。魯迅はそのために数々の小説を書き、辛辣な言葉で国民のえげつなさを告発し、社会に警鐘を鳴らした。

 今年は魯迅が没して80年がたつ。だが、今、国民性は改善されたのだろうか?

 その答えはおおいに疑問だ。国家権力の関与しないはずの社会問題で、人間性を疑うような残虐な事件は後を絶たない。有毒物質入りの食品販売や偽ブランドの数々も目に余る。マナーの悪さは世界中から指摘されている。

 国民性の改造は、100年前の辛亥革命の時代も、27年前の天安門事件のときも、そして21世紀をむかえて経済発展した現代でも、中国の宿命的な課題のひとつなのではないだろうか。

《筆者の過去の記事》
2000億ドルもの中国マネーがアメリカに消えた?
だから台湾人は中国人と間違えられたくない
それでも中国はノーベル賞受賞を喜ばない

[執筆者]
譚璐美(タン・ロミ)
作家、慶應義塾大学文学部訪問教授。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書に『中国共産党を作った13人』、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(ともに新潮社)、『中国共産党 葬られた歴史』(文春新書)、『江青に妬まれた女――ファーストレディ王光美の人生』(NHK出版)、『ザッツ・ア・グッド・クエッション!――日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、その他多数。

ニュース速報

ワールド

日本からの武器輸入が容易に、米国が規制撤廃

ワールド

シンガポールで日韓防衛相会談、閣僚間のホットライン

ワールド

中谷防衛相、中国軍の副参謀長に訪中を打診

ワールド

南シナ海問題、「海洋秩序を著しく逸脱」と中谷防衛相

MAGAZINE

特集:中国 方向転換を迫られる巨龍の行方

2016-6・ 7号(5/31発売)

この40年近く成長を謳歌してきた中国が直面する内憂外患。政治、経済、外交で岐路に立つ習近平政権はどう舵を切るのか

人気ランキング (ジャンル別)

  • 最新記事
  • コラム
  • ニュース速報
  1. 1

    自撮りヌードでイランを挑発するキム・カーダシアン

  2. 2

    荒れる米大統領選の意外な「本命」はオバマ

    共和党の醜い舌戦のおかげで人気回復のオバマがい…

  3. 3

    「国家崩壊」寸前、ベネズエラ国民を苦しめる社会主義の失敗

  4. 4

    サンダースが敗北を認めない民主党の異常事態

  5. 5

    「オバマ大統領27日広島訪問、原爆投下謝罪せず」ホワイトハウスが発表

    伊勢志摩サミットで来日時に現職の米大統領として…

  6. 6

    米大統領選挙、「クリントンなら安心」の落とし穴

    アウトサイダー待望論が吹き荒れるなか消去法で当…

  7. 7

    【動画】ドローンを使ったマグロの一本釣りが話題に

  8. 8

    歴史を反省せずに50年、習近平の文化大革命が始まった

  9. 9

    全国の企業で遅れるエアコン点検義務への対応

    担当者も対象機種や具体的な実務を理解していない…

  10. 10

    オフィスエアコンの定期点検で省エネ・省コストを実現

    メンテナンスなしで使い続ければ消費電力は急増す…

  1. 1

    安田純平さん拘束と、政府の「国民を守る」責任

    シリアの反体制組織に拘束されていると見られるフリ…

  2. 2

    レイプ写真を綿々とシェアするデジタル・ネイティブ世代の闇

    ここ最近、読んでいるだけで、腹の底から怒りと…

  3. 3

    嫌韓デモの現場で見た日本の底力

    今週のコラムニスト:レジス・アルノー 〔7月…

  4. 4

    オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由

    ジョン・ケリー米国務長官は今月11日、G7外…

  5. 5

    現実味を帯びてきた、大統領選「ヒラリー対トランプ」の最悪シナリオ

    共和党に2カ月遅れて、民主党もようやく今週1…

  6. 6

    「フジ子・ヘミング現象」の何が問題なのか?

    ピアニストのフジ子・ヘミング女史のリサイタル…

  7. 7

    安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

    <オバマ米大統領の広島訪問に対応する形で、安倍…

  8. 8

    共和党と民主党どこが違う

    米大統領選挙は共和党、民主党いずれも党大会を…

  9. 9

    トランプ「大統領選撤退」に見るティーパーティーの凋落

    そう言えば、ティーパーティーという言葉をあま…

  10. 10

    パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

    <【前編】はこちら> トランプ人気は否めない。…

  1. 1

    中国戦闘機2機が米機に異常接近、南シナ海上空で=米国防総省

    米国防総省は、南シナ海上空で17日、中国軍の…

  2. 2

    米テキサス州、地震急増の原因はシェール採掘か=研究

    米テキサス大学オースティン校の地質学者クリフ…

  3. 3

    パリ発のエジプト航空機が消息絶つ、海に墜落か 66人搭乗

    エジプト航空の乗員・乗客66人を乗せたパリ発…

  4. 4

    行儀悪い売り方やめた、「白物家電の二の舞い」懸念=スズキ会長

    スズキの鈴木修会長は10日に開いた決算会見で…

  5. 5

    米テスラ、株式発行などで2200億円調達へ 「モデル3」開発加速で

    米電気自動車(EV)メーカーのテスラ・モータ…

  6. 6

    訂正:三菱自、相川社長が6月引責辞任 益子会長は新体制発足まで続投

    三菱自動車は18日、相川哲郎社長と中尾龍吾副…

  7. 7

    焦点:南シナ海仲裁裁判に台湾が横やり、裁定遅延の恐れも

    台湾の当局に近い団体が、南シナ海の領有権をめ…

  8. 8

    ECB追加措置の検討は秋に、必要なら新規買入可能=リトアニア中銀総裁

    リトアニア中央銀行のバシリアウスカス総裁は、…

  9. 9

    訂正:三菱自の燃費不正は経営陣の圧力 国交省、スズキには再報告要請

    会見内容などを追加しました[東京 18日 ロイ…

  10. 10

    インタビュー:トランプ氏、核阻止へ金正恩氏との会談に前向き

    米大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナル…

定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

0歳からの教育 育児編

絶賛発売中!

コラム

パックン(パトリック・ハーラン)

パックンが広島で考えたこと

辣椒(ラージャオ、王立銘)

中国が文革の悪夢を葬り去れない理由

STORIES ARCHIVE

  • 2016年6月
  • 2016年5月
  • 2016年4月
  • 2016年3月
  • 2016年2月
  • 2016年1月