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享楽のカユラ ~最強武具にはリスクが付き物~ 作者:恋夢
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1話 出会い (1)

次話は2週間以内に更新します。
「つまんねぇ‥‥」

学校からの帰り道、道端に転がっている小石を蹴る。こんこんと跳ね茂みに消えていく小石を目で追いながら高遠(たかとお) 直哉(なおや)は呟いた。

「刺激が足りない」

日常というものは基本同じ行動の繰り返しだ。さすがに単調な繰り返しになると飽きが回ってくる。今まさに俺がそうだ。刺激を受けることで一度リセットしまたの繰り返しに備えるのだ。だが、最近はそのリセットが出来ていない。俺は苛立ちを露にし頭をガシガシ掻き乱す。原因は至極簡単なもの高校三年生、受験が控えている。

「いっそのこと、死んじまおうかな‥‥」

遠くから聞こえる踏切の音に耳を澄ませながら心にもないことが口から漏れる。そこそこ良いと思っていた成績は学年が上がる度に下がっていき、部活もレギュラーの座を奪われやる気をなくしサボるようになった。結局俺は何をやっても中途半端なんだよな。勉強もそこそこ、部活もそこそこ、目標があるわけでもない、夢があるわけでもない。褒めてくれるような人、格好をつけられる人がいるわけでもない。だから、努力する気も起きない。

「トラックに撥ねられれば異世界にでも行けねぇかなぁ」

異世界に行っても俺は無双したいわけではない。救済だの冒険だの覇道などはまっぴらごめんだ。
もちろん、魔王を倒したり世界を救う救世主になるなんて以ての外だ。俺は細々と料理屋を経営したり鍛冶屋にでもなって勇者の後ろ盾をしたり、そして異世界少女と結婚する。そんなささやかで実現できそうなものでいい。

「異世界だってのに‥‥」

高望みしないのが実に俺らしいが異世界だというのにこれはどうしたもんかと自嘲気味な笑いが溢れる。結局俺はどこまでも逃げるんだな。自分は表立ってはやらない大事なことは全てを押し付ける。面倒くさがりで弱虫だ。

「いつからこんな逃げるようになったんだ‥‥」

大きなため息を吐き茜色に染まりつつある空を見上げる。そういえば1度だけ世界が変わって見えるような出来事があった。こんな俺を好きになって告白してくれた、でも、俺は逃げた。怖かった。微笑みかけてくれたのに俺はそれを踏みにじったのだ。

「くそっ !!!」

俺はいまだに後悔している。あの時手をとっていれば世界の見え方は変わり面白くなっていたはずだと歯噛みしている。

「ああああああ !!! もう、いっそのことまじで異世界にでも行けねぇのか !!!!」

行けたらこんな思いもしないで済むはずだ。そんな有り得もしない希望に縋った時

『願いを叶えてあげるよ』

そんな声が聞こえた。

気がした。

背後から聞こえるエンジン音、法定速度をかなりオーバーしてそうな車が迫る。振り返ったと同時に全身の骨が砕けてもおかしくない衝撃が走る。口から息が全て吐き出され、血の味が口いっぱいに広がる。

(なんだよ‥‥これ‥‥寒ぃ‥‥)

走馬燈を見る暇などない、一瞬、感じたのは寒さと痛み。高遠直哉は絶命した。



―― ―― ――



目を覚ますと俺は白く広い空間に立っていた。混じりけのない純白の空間に思わず目を細める。果てなく続く空間に俺は慣れてきた目を見開く。

「‥‥どこだここ」

あまりの出来事に思考が追いつかない。地面があるかすらわからないこの白い空間。ただ足裏に伝わる感触が地面ということを認識させた。

そして、この異様な空間にもう1人いる。校長室にでもありそうな大きな机に足を立てて座りにっと笑いながらこちらを見ている。その手には紙の束が握られている。

「お前の願いを叶えてやるぞ」

「は ?」

何を言っているんだこいつは。床につきそうな長い髪の少女は表情を崩さずそう言った。

「さて、お主の願いは‥‥なんだ、変わってるな。鍛冶屋になって勇者の後ろ盾をしたいとな。あっはっはっはっ、実に変わってる。だが面白い」

にィィィと口角を釣り上げ笑うと紙の束を後ろに放り投げ机からジャンプをするように下りると愕然として立っている俺の前まで歩いてくる。

「願いを叶えてやる。ほら、行くといい」

ドンッと肩を押されると俺はどこかに転落していく。謎の少女の姿が小さく遠くどんどん離れていく。

「素材さえあればその素材からできる。最強装備が作れる。だが、最強にはそれなりのリスクがある作り出す時は気をつけろ。最初はサービスだ、好きな装備が1度だけ作り出せる。うまく使え」

高遠 直哉は白い空間から黒くどこまでも続く空間に転落していった。



―― ―― ――



自慢の雪のように白い髪を自らの鮮血で赤く染めながら震える手でボロボロになった剣を構える。

見上げるほどの体躯に獰猛な瞳を光らせている(ドラゴン)

インフェルノドラゴン。

「ガァァァァアアアアアッッッ !!!!」

ボロボロになった少女をさらに威嚇するように雄叫びを上げる。口から出る炎の息吹は触れたもの全てを焼き尽くす。少女の鎧、剣も焼かれ溶けている。

(私はこんなところで‥‥死ねない !!)

ふらつく身体に鞭を打ちインフェルノドラゴンに立ち向かおうとした時カっと目を思わず覆いたくなるほどの光が空から落ちてくる。

「な、何 ?! 雷 ?!!」

雨雲なんて出てない。じゃあ、あの光は何 ?

「何だここ‥‥ うおっ !! ドラゴン !!! いきなり死亡フラグかよぉおおおおおおお !!!!」

少女の思考は見たこともない出で立ちの少年の声にかき消された。

「え ?! あの光の中にいたのは人だったの ?!! た、助けないと」

少女の顔がどんどん青ざめていく。助けに行きたいが間に合わない。ドラゴンが口の中で赤いを炎を揺らめかせ今まさに口を開き少年もろとも焼き尽くそうとしている。

必死に足を動かしても前に進まない。やっと動かした足は非常に重い。間に合わない‥‥

「えっ、武器ってどう出すんだよ !?」

少年は慌てた声を出しながらパタパタと自分の身体を触る。

「くそっ、もう念じるとかか ?!! 」

少年の手元に光る粒子が集まりはじめる。粒子は一つの剣を形成する。

「オラァッッ !!!」

荒々しく振り下ろした剣から衝撃波とも呼べる斬撃を飛ばしインフェルノドラゴンを縦に切り裂いた。
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