あす川崎市内で予定されていたヘイトデモに、行政と司法の双方から待ったがかかった。

 「不当な差別的言動は許されない」と明記したヘイトスピーチ対策法が成立して1週間余。ヘイト行為の根絶にむけて、意義ある一歩が刻まれた。

 デモを申請したのは、在日コリアンに差別的言動を繰りかえしてきた団体だ。これに対し川崎市が先月末、市の公園を使うことを認めない決定をした。

 続いて今月2日、外国人と日本人の交流施設などを営む社会福祉法人の訴えに基づき、地裁川崎支部がこの団体に対し、法人事務所の半径500メートル以内でデモや街宣をするのを差し止める仮処分決定を出した。

 「自らの民族や出身国・地域への心情や信念は、人格形成の礎をなし、個人の尊厳の最も根源的なものとなる」「他の者もこれを違法に侵害してはならず、相互に尊重すべきだ」

 決定理由の中にそんな指摘がある。日本を大切に思うのであれば、相手の国も大切にする。当然の理である。

 ヘイト対策法がこうした判断を支え、市や裁判所の背を押したのは間違いない。施行日はきのう3日だったが、その前に踏みこんだ対応がとられたのは、社会全体が抱える危機感のあらわれといっていいだろう。

 差別的言動をする人々は、表現の自由を持ちだして行動を正当化してきた。憲法が保障する大切な基本的人権のひとつで、権力が安易にこれを規制するのはもちろん認められない。

 しかし表現の自由とは、個人が表現・言論活動を通じて人格を発展させ、互いに意見をかわすことによって、より良い民主社会を築くためにある。在日外国人らに聞くに堪えない罵声をあびせ、その存在を根底から否定するような行為は、憲法がめざすところの対極にある。

 差し止め決定が問題の団体のこれまでの活動を詳しく認定したうえで、「違法性は顕著で、集会や表現の自由の保障の範囲外であるのは明らか」と断じたのは、当然といえよう。

 今回、規制の網がかかったのは、公園と事務所という「点」だ。こうした団体は過去に裁判所の禁止命令を無視したことがあるし、道路の使用までは不許可にならなかった。

 あすの動きを注視しつつ、この「点」を「面」にひろげて、人として恥ずべき差別的言動をなくしていくことが必要だ。

 教育、啓発といった地道なとり組みが欠かせない。その際、地裁支部の決定文は格好の教材のひとつになるだろう。