「そうめん」と「冷や麦」、違いは何なのか
冷たい「そうめん」がおいしい季節になってきた。近所のコンビニエンスストアに買いに行くと、店頭には「そうめん」のそばに「ひやむぎ」も並んでいる。どちらもおいしそうだと迷っていたら、おかしなことに気付いた。両者の包装に書かれたキャッチコピーが「どちらも同じ意味なのでは?」と思えてしまうのだ。考えてみると、そもそも「そうめん」と「冷や麦」の違いは何なのか。もやもやを解消すべく、調べてみた。
■特徴は「な
冷たい「そうめん」がおいしい季節になってきた。近所のコンビニエンスストアに買いに行くと、店頭には「そうめん」のそばに「ひやむぎ」も並んでいる。どちらもおいしそうだと迷っていたら、おかしなことに気付いた。両者の包装に書かれたキャッチコピーが「どちらも同じ意味なのでは?」と思えてしまうのだ。考えてみると、そもそも「そうめん」と「冷や麦」の違いは何なのか。もやもやを解消すべく、調べてみた。
■特徴は「なめらかさ」?「こし」?
気になったキャッチコピーは、セブン―イレブン・ジャパンのPB(自主企画)商品である「そうめん」と「ひやむぎ」の包装に書かれたもの。「そうめん」には「なめらかでコシが強い」と書かれており、「ひやむぎ」には「コシが強くなめらかな」とある。これで消費者は両者の違いが分かるのだろうか。
同社に聞くと、こんな答えが返ってきた。商品の違いを前面に打ち出そうという狙いはなく、むしろ「PB商品としての統一感を持たせるようなパッケージにしています」(セブン&アイ・ホールディングス広報センター)。包装に書かれた表示を改めて見比べてみると、内容量も価格も同じで、100グラムあたりのカロリーもほとんど差がない。
実は同社だけでなく、他社のPB商品でも、「そうめん」「冷や麦」という商品名が書かれていなければどちらがどちらなのか分かりにくいようなものが多くある。
本当の違いは何なのか。全国乾麺協同組合連合会の安藤剛久専務理事に尋ねると、「現在では、単純に『麺の太さ』だけで区別している」と教えてくれた。
■0.数ミリレベルのJAS分類
日本農林規格(JAS)は、主原料に小麦粉と塩を使い乾燥させた「乾めん類」について「機械製麺の場合、長径1.3ミリメートル未満が『そうめん』、1.3ミリメートル以上1.7ミリメートル未満が『冷や麦』」と規定している。
では太さ1.7ミリメートル以上の麺は? JASの分類では「うどん」。さらに、4.5ミリメートル以上になると「きしめん」となる。太さ0.数ミリメートルから数ミリメートルの間で、呼び名が異なる様々な麺に分類されるのだ。ちなみに「そば」には太さによる定義はなく、JASでは「重量比でそば粉の配合率が30%以上」なら分類上は「そば」、生めん類の表示に関する公正競争規約でも「そば」は「そば粉が3割以上」となっている。
| 手延べ | 機械製麺 | |
|---|---|---|
| そうめん | 長径1.7mm未満 | 長径1.3mm未満 |
| 冷や麦 | 長径1.7mm未満 | 長径1.3mm以上、 1.7mm未満 |
| うどん | 長径1.7mm以上 | 長径1.7mm以上 |
| きしめん | 幅4.5mm以上、 厚さ2.0mm未満 | 幅4.5mm以上、 厚さ2.0mm未満 |
(注)日本農林規格(JAS)による
これには理由がある。200年の歴史をもつ徳島県名産の手延べ「半田そうめん」は、太さが1.7ミリメートル前後で他のそうめんより太いという特徴がある。JASにそのままあてはめると、冷や麦に分類されてしまう。これを回避するため2004年にJASが改定された。その結果、伝統の「半田そうめん」は連綿と続いている。
JASは主に麺の太さを分類基準としているが、安藤専務理事によると、そうめんと冷や麦は「もともとは製法が違った」。そうめんは手で延ばしてつくり、冷や麦は延ばした生地を切ってつくっていたという。
歴史をさかのぼってみよう。そうめんの起源は、7世紀頃に中国から伝わった「索餅」というのが定説だ。索餅は小麦などを練って延ばしたものだったとみられる。14~15世紀に入ると、記録に「索麺」「素麺」の文字が登場。「室町時代にそうめんということばが普及していったのだろう」(石毛直道著「文化麺類学ことはじめ」)。
一方、冷や麦の起源とされる「切麦」という言葉も室町時代に登場し始める。年中行事や各種事物の話題を集めて、往復書簡の形式にまとめた室町中期の往来物「尺素往来」には「索麺は熱蒸(あつむし)、截麺(きりむぎ)は冷濯(ひやしあらい)」と書かれていることから、後に、細めの切り麺のことを冷や麦と呼ぶようになったことがうかがえる。
■機械製麺の普及、分類法に影響
ところが、明治時代に入り製麺機が発明されると、そうめんと冷や麦の製法による違いが曖昧になってくる。製麺機は切り刃のついたローラーで生地を切断するため、そうめんでも冷や麦でもうどんでも、刃の間隔を調整するだけで作れるようになったからだ。
機械製麺が普及するにつれ、細い冷や麦や太いそうめんなどが出回るようになり、両者が区別しにくくなってしまった。こうした基準の曖昧さを解消しようと、1968年に太さを基準とする前述のJAS分類が定められた。
食品需給研究センターのまとめによると、昨年の全国生産量は、そうめんが10万1340トンだったのに対し、冷や麦は2万2650トン。そうめんの5分の1程度だ。たった0.数ミリメートルの太さの違いでなぜこうも大きな差がつくのか。
細いそうめんの方がゆでる時間が短くてすむため、暑い夏にも調理しやすく、のどごしも良く食べやすいという理由もあるだろう。手延べそうめんの生産量でシェア4割を占めるトップブランド「揖保乃糸」は「温度や湿度をはかりながら手で延ばしていく手延べそうめんは熟練した技が必要」(製造・出荷業者でつくる兵庫県手延素麺協同組合)。麺を延ばす過程でたんぱく質のグルテンの形成が緻密になりこしが強くなる。機械でつくった麺とは喉越しなどの食感も全く異なるという。
さらに見逃せない理由は、手延べそうめんが中元商品の主役の一つとなったことだ。「昭和50年代ごろに、手延べそうめんは中元ギフトとしてビールに次ぐ人気商品に育っていった」(安藤専務理事)。特に1980年代に入りバブル景気に向かうと、「少し高くてもおいしいものを」という当時の消費トレンドにマッチし、急激に広がっていったのだという。
たかが麺、されど麺。製法や太さなどに思いをめぐらせながらそうめんや冷や麦を食べてみると、きっとこれまでより深い味わいが感じられるはずだ。(神宮佳江)
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