米国のリッパート駐韓大使は1日、韓国シンクタンク・世界経済研究院主催の講演会で、外交部(省に相当、以下同じ)や産業通商資源部、企画財政部の高官を前に「米韓の自由貿易協定(FTA)の完全な履行を急ぐべきだ」と述べた。「韓国は依然としてビジネスが難しい」とも述べ、通商の不満を隠そうとしなかった。5月31日には、世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関で最終審に当たる上級委員会のチャン・スンファ委員(ソウル大法学部教授)の再任が、米国の反対で事実上、不可能になったことが海外メディアに報じられた。チャン委員が担当した案件の大半で、米国に不利な決定が出たというのがその理由だという。
韓国国会が今年初め、韓国と外国の法律事務所が合弁する場合の外国法律事務所の出資比率を最大49%に制限すると、リッパート大使は自ら国会議事堂のある汝矣島に出向いて抗議した。また、米商務省の次官補は非公開で韓国公正取引委員会の副委員長と会い、オラクルなど米企業の調査に善処を要請した。
4月末には、米財務省が韓国を中国、日本、台湾などと共に為替政策の「監視リスト」に入れた。「対米貿易黒字が多すぎる」というあからさまな警告だった。今回の大使の講演とWTOの人事をめぐるいざこざも、こうした動きの延長線上にある。さらに、ルー米財務長官が2日に韓国を訪れ、3日に柳一鎬(ユ・イルホ)経済副首相兼企画財政部長官と会談することになっている。対米貿易黒字と為替の問題があらためて取り上げられる見通しだ。
こうした状況にもかかわらず、韓国政府は「米国の立場は以前と何も変わらない」とのんびりした態度で傍観している。米国大使の講演も表面的な不満表示にすぎず、韓米の財務担当相会談も特に問題なく終わると踏んでいる。日増しに強まる米国の通商圧力に緊張する素振りさえない。もし、米大統領選で共和党指名が確定した実業家のトランプ氏が大統領になれば、韓米の外交・安全保障関係はもちろん通商関係も激変せざるを得ない。トランプ氏の外交・安保政策のアドバイザーを務めるセッションズ上院議員は先日、韓米FTAにより「貿易赤字が240%増えた」と述べた。韓国の対米貿易黒字は、韓米FTAが発効した2012年の12兆ウォン(現在のレートで約1兆1000億円、以下同じ)から昨年には30兆ウォン(約2兆8000億円)に膨らんだ。
米国の有権者の多くは、韓国など東アジア諸国が多額の対米黒字を出していることに不満を抱えている。トランプ氏が大統領になれば、こうした不満が一気に噴出するに違いない。米国の警告を「何でもないこと」と無視している場合ではない。米国の大統領選後を見据えた通商戦略を立てるべきだ。