甘利氏ら 嫌疑不十分で不起訴 東京地検特捜部

甘利氏ら 嫌疑不十分で不起訴 東京地検特捜部
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甘利・前経済再生担当大臣の事務所がUR=都市再生機構と補償交渉をしていた建設会社側から現金を受け取っていた問題で、東京地検特捜部はあっせん利得処罰法違反などの疑いで告発されていた甘利氏と元秘書2人を嫌疑不十分で不起訴にしました。
この問題は、甘利氏の事務所が平成25年から翌年にかけてURと補償交渉をしていた建設会社の元総務担当者らから現金を受け取っていたもので、東京の弁護士の団体などがあっせん利得処罰法違反などの疑いがあるとして甘利氏と元秘書2人を東京地検特捜部に告発していました。
特捜部は先月、URなどを捜索したほか甘利氏や元秘書から任意で事情を聴くなどして捜査を進めてきましたが、31日、甘利氏と元秘書2人をいずれも嫌疑不十分で不起訴にしました。
あっせん利得処罰法は国会議員や秘書などが権限に基づく影響力を使って口利きし見返りに報酬を受け取ることを禁じています。
甘利氏の元秘書らはURの担当者と12回にわたって面会し、補償交渉などについてやり取りしていましたが、特捜部は「甘利氏側がURに対して不正な口利きをした証拠は見つからなかった」と判断したものとみられます。
また元秘書が受け取った500万円のうち、300万円は政治資金収支報告書に記載されず元秘書が個人的に使い込んでいたことが明らかになっていますが、特捜部は政治資金規正法違反の疑いについても不起訴にしました。
これについて特捜部は「300万円は元秘書が当初返す予定で事務所の入金伝票などに『返却済み』と記載されていたため、政治資金にはあたらない」と判断したとみられます。特捜部は今回の捜査について、「必要と思われる捜査は十分に行ったが、起訴するだけの証拠がなかった」としています。

「あっせん利得処罰法」とは

「あっせん利得処罰法」は、元建設大臣が公共工事を巡って多額の賄賂を受け取っていた受託収賄事件などをきっかけに、平成13年に施行されました。
国会議員や秘書、それに地方自治体の首長や議員がその「権限に基づく影響力」を行使して口利きし、見返りとして報酬を受け取ることを禁じています。
平成14年には国会議員の私設秘書による口利きが問題となったことをきっかけに法律が改正され、処罰の対象が公設秘書だけでなく、私設秘書にまで拡大されました。
口利きを巡っては、議員や秘書などがほかの公務員に「不正な行為」をするよう働きかけた見返りに賄賂を受け取った場合に適用される「あっせん収賄罪」がありますが、「あっせん利得処罰法」では口利きによって不正な行為が行われたかどうかに関係なく処罰の対象になります。

不起訴の理由は

【影響力を行使したか】
今回の捜査では、甘利氏や元秘書にURへの権限や影響力がどの程度あったのかや、実際に大臣や議員としての影響力を使ってUR側に圧力をかけ建設会社にとって補償交渉が有利に進むよう口利きした事実があったのかどうかが焦点になりました。
これについて特捜部は、建設会社と補償交渉をしていたURは国土交通省が所管する独立行政法人で当時、経済再生担当大臣だった甘利氏にURの予算や人事などへの直接的な影響力はないが、大臣や議員としての権限はあったとしています。
そのうえで、URに対する大臣や議員としての影響力を使って不正な口利きをした証拠はなかったと判断したとみられます。
問題の補償交渉では甘利氏の元秘書らがURの担当者と12回にわたって面会し、「甘利事務所の顔を立ててもらえないか」などと発言していたことがわかっています。しかし複数の検察幹部は「甘利氏にURへの直接的な権限がない以上、影響力をほのめかす程度の発言では不正な口利きとまではいえない。例えば、『閣議でURの統廃合を話題にする』などといった具体的な発言をしていなければ起訴するのは難しい」と話しています。

【補償交渉に影響を与えたか】
次に元秘書とUR側との面会が補償交渉に影響を与えたのかという点です。
URが公表した資料などによりますと、甘利氏の事務所は平成25年6月にURの担当者と初めて面会し、その2か月後に2億2000万円の補償金を建設会社に支払う契約が結ばれました。そして、その2週間後に元秘書が500万円を受け取っていました。
これについて検察幹部の1人は「URと建設会社は県道の建設工事を巡ってトラブルになり、県道は長年にわたって未開通の状態が続いていた。UR側には多額の補償金を支払ってでも工事を早く進めたいという思惑があり元秘書らとの面会が補償交渉に影響を与えたとまではいえない」と話しています。

【収支報告書への記載は?】
そして政治資金収支報告書に正しい記載がされていたのかという点です。
元秘書が受け取った500万円のうち300万円は政治資金収支報告書に記載されず、元秘書が個人的に使い込んでいたことが明らかになっています。これについて特捜部は「300万円は元秘書が当初返す予定で事務所の入金伝票などに『返却済み』と記載されていたため政治資金にはあたらない」と判断したとみられます。

甘利氏「説明受け止めてもらえた」

不起訴になったことを受けて甘利前経済再生担当大臣は31日、コメントを発表し「私自身のことについてはまさに『寝耳に水の事件』でありあっせんに該当するようなことは一切したことがない旨を丁寧に説明してきました。きょう、不起訴と判断されたことで説明を受け止めてもらえたのかなと思っております」としています。
また元秘書が不起訴になったことについては「元秘書らについては建設会社の総務担当者から接待を受けるなど、違法でないにしても不適切な面があったと報じられています。今回のようなことが2度と起こらないように事実関係をきちんと把握しておく必要があると考えました。捜査への配慮などから中断していた調査を再開するよう弁護士にお願いし、事実関係について最終的な報告があれば、適切な時期にお約束通り説明をさせていただこうと考えております」としています。

「影響力の行使考えにくい」

元検事の高井康行弁護士は「あっせん利得処罰法では甘利氏や元秘書が『権限に基づく影響力』を行使していたのかがいちばんの問題になるが、経済再生担当大臣だった甘利氏に国土交通省が所管するURに対して影響力を行使できるような法令上の権限があったとはなかなか考えにくい」と指摘しています。
そのうえで、「甘利氏は非常に強い政治的な影響力を持っていたと思うが、それはあくまで政治力でありURへの法令上の権限ではない。例えば甘利氏が国土交通大臣で元秘書が『頼み事を聞いてくれればURの予算を増やしてあげるよ』と言っていれば、法律違反になるが、『俺の顔を立てるつもりでなんとか頼みを聞いてよ』と言ってURがある程度その頼みを聞いたとしても影響力を行使したことにはならないのではないか」としています。
そして「政治家は国民からいろいろ陳情を受けて行政に反映させていくことも1つの仕事なので、『政治力』を使った口利きをすべて処罰するということになれば、大半の政治家が対象になる可能性がある。このためあっせん利得処罰法は成立の要件がかなり絞られていて、もともと適用が難しい法律になっている」と話しています。

「一般感覚からすれば納得できない」

元検事でロッキード事件の捜査にも関わった堀田力弁護士は「元秘書は何度もURの担当者と会ってその謝礼の名目で現金を受け取っており、典型的なあっせん利得処罰法違反にあたるのではないか。例えば『言うことをきかないとURの予算を削る』などと露骨なことを言わなくても、担当者に何度も面会するなどしていれば権限に基づく影響力を行使していると考えられる。不起訴というのは一般の感覚からすれば納得できない」と指摘しています。
そのうえで、「今回のような問題が起訴できなければ政治や検察に対する不信感が国民の間に広がってしまうのではないか」と話しています。