「コレ、子どもの教科書に載せてもいいの!?」トラウマレベルの国語物語5選
2016.05.24
読書が好きな子も嫌いな子も、国語の授業ではみ~んな平等にたくさんの物語を読んできましたね。みなさんの心には、どんなお話が印象に残っているでしょうか?大人になって振り返ってみると、教科書に載っているのは決して楽しいお話ばかりではありませんでした…。
今回は「あの衝撃的な展開が今も記憶から消えてくれない…」というトラウマを、現役の学生さんや保護者の方々の声を交えつつ、思い切って紐解いてみましょう。この世の闇にスポットを当てることも、教育の使命なのだと信じて…!
蘇るモヤモヤ!蘇る悪寒!いざトラウマの海へダイブ♪
“一字不明”って、何があったんだ/宮沢賢治『オツベルと象』
「去年習ったばかりなんですけど、結末がよくわかりませんでした。奴隷にされちゃった象が仲間を呼んで助けてもらう話なのに、なんかスッキリしなくて…特に最後の1行は何が言いたいんですか!?」(中2男子/10代)
まずはこちら、宮沢賢治の短編童話『オツベルと象』です。オツベルは、16人の百姓を雇えるほどの地主なのですが、ある日、彼の小屋に白い象がやってきます。疑うことを知らない性格だった象をオツベルは言葉巧みに騙し、あれこれとこき使うのですが、彼のイケイケな人生はそこまで。白い象を救いにきた仲間の象たちに押し寄せられ、家ごと潰されてしまうのです…。
さて、これは動物の力を甘く見てしまったオツベルの誤算なのでしょうか?実は「仲間へ手紙を書いたらいい」と白い象にアドバイスしたのは月ですし、象のために筆記用具を提供したり手紙を仲間のもとへ届けたりしたのは、何の前触れもなく現れた子どもなのです!こんな急展開、オツベルじゃなくてもショック死してしまいかねません。
そして、最後の最後にトラウマが待ち受けています。労働からやっと解放されたはずの白い象は「ほんとにぼくは助かったよ」と「さびしくわらって」言い、締めくくりは「おや(一字不明)、川へはいっちゃいけないったら」という意味深かつ不気味な1行…。象はどうして素直に喜ばないの!?「川へはいっちゃいけないったら」って、誰が誰に向かって注意してるの!?”一字不明”っていうのは本の編集中に起きた事故なの、それとも演出なの!?う~ん、モヤモヤしちゃいますね…ただの勧善懲悪ストーリーではなさそうです。
友情も恋愛も、大切にできたらいいのにね/夏目漱石『こころ』
「高校1年生の教科書で読んだのが最初だったと思うのですが、“K”の自殺で気分がず~んと沈んだのを覚えています…。『精神的に向上心のないものは馬鹿だ』って言葉、耳が痛くなりますよね。文学ってこういうものなのかとゾッとしてしまいました」(小5男子の母/30代)
夏目漱石の『こころ』では友情と恋愛のジレンマが描かれています。“先生”と、その友人である“K”は同じ家に下宿しており、そこには美しいお嬢さんが住んでいました。学問に打ち込みながらも、だんだんお嬢さんに心惹かれていく若い男2人。やがてKは先生にお嬢さんへの恋心を相談するのですが、Kにお嬢さんを奪われたくなかった先生はこう言い放ちます…「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と!
これを受けて「僕は馬鹿だ」と絶望するK。なぜならそのセリフは以前、Kが先生に対し発した言葉でもあったからです。まさかブーメランになって自分に突き刺さるとは、さぞかしダメージの大きかったことでしょう…。
このやりとりをきっかけに先生はKを出し抜き、お嬢さんとの結婚を取りつけたものの、孤独に追いつめられたKは自殺を選んでしまいました。Kの死は当然、先生の心に暗い影を落とすことに…。せめてみんなはKみたいにカウンターを食らっちゃわないよう、自分の発言には日頃から注意するんだぞっ!先生との約束だからなっ!…な~んて明るくまとめようとすると違和感が凄いですね、ごめんなさい。
ああ、極限に陥った人間の心理よ/芥川龍之介『羅生門』
「主人公の抱える迷いですとか、おばあさんが死人の髪の毛を抜く様子ですとか、リアルに想像できてしまって怖かったです。『下人の行方は、誰も知らない』というラストにも唸らされました…」(中1女子の母/40代)
芥川龍之介の『羅生門』は平安時代の京都を舞台にした物語。地震や火事といった災害が続き、すっかり荒れ果てた街で、1人の若い男が困っていました。「仕事をクビになった、どうしよう…このままじゃ腹が減ってくたばっちまう!いっそのこと盗みを働くしかねーのか?いや、しかし勇気が出ないぞ…」と、まるで現代にも通ずるような悩みですね。
男は羅生門にて、死んでしまった女性の頭から髪の毛をブチブチ抜いているおばあさんを発見します。「ばーさん何やってんだ!そんなことしちゃダメだろ!」と飛びかかった男に、おばあさんは「これでカツラを作って売ろうと思ってのう…よくないことだとは思うんじゃが、この女だって死ぬ前は生きるために悪いことしてたんじゃ。わしだって許されるじゃろ」と言い訳しました。するとどうでしょう、正義感に燃えていたはずの男は「ククク、じゃあオレがドロボーしたって恨むなよっ!オレだって餓死寸前なんだからっ!」と、おばあさんの着物をはぎ取って夜の闇へと走り去ってしまうのです。
これを書いた芥川龍之介は何を訴えているのでしょうか…?生きるか死ぬかの窮地に立たされたなら悪事さえ肯定せざるを得ないという、人間のエゴイズムですかね…?とりあえず「あらやだ、この男ったらおばあさんのハダカが見たかったのね」などと解釈するのは大間違いでしょう(悔しいことに、そちらの方がまだ救いがありそうですけど)。
鮮やかすぎるオチは夏が来るたび思い出す/山川方夫『夏の葬列』
「戦争を題材にしたお話は他にも習いましたが、この作品は自分の中で別格です…。オチがとにかく憂鬱でしたし、『ヒロ子さんが、まるでゴムマリのようにはずんで空中に浮くのを見た』という強烈な比喩も忘れられません」(小3男子の父/30代)
続いては山川方夫の『夏の葬列』。ある小さな町を十数年ぶりに訪れた主人公は、その町に学童疎開をしていたという戦時中の体験を思い出します。終戦前日の8月14日、同じく疎開児童だったヒロ子さんと主人公は艦載機に襲われました。早く一緒に逃げようと言ってくれたヒロ子さんを主人公は突き飛ばしてしまいます…なぜならヒロ子さんは白いワンピースを着ており、2人でいたら銃撃の目標にされてしまうと考えたからです。
ヒロ子さんがどうなったのかを知らずに町を離れた主人公でしたが、月日は流れ、再び戻ってきた町では1人の女性のお葬式が執り行われていました。柩に置かれた写真を見ると、そこには30歳近くになったと思われるヒロ子さんの顔が!ヒロ子さんは自分が突き飛ばしたせいで撃たれ、それが原因で死んでしまったのではないかと長年苦しんできた主人公は、ヒロ子さんが今の年齢まで生きていたのなら自分は関係なかったのだとホッとします。
しかし!「そこで安心しちゃうのもどーなのよ」とツッコミを入れた読者&主人公に、とてつもない真実が明かされるのです。主人公が遭遇したのはヒロ子さんのお母さんのお葬式で、どうやら若い頃の写真しか使えるものがなかったとのこと。お母さんは戦争で娘を亡くし、それからずっと悲惨な人生を送っていたのだとか…。「結局、ヒロ子さんを殺してしまったのは自分だったんだ!さらにお母さんまでっ!」と、主人公は罪悪感に見舞われます。このミステリー仕立てで容赦のない構成に、みなさんは耐えられますか…?
それはキレられるよりもツラい一言/ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』
「エーミールの『そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな』ってセリフは、しばらくクラスの流行語になってました。クラスのみんなで読めば少しは笑い話にできますけど、そうじゃなかったら精神的にキツいストーリーだと思います」(高1男子/10代)
最後はドイツの作家、ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』です。主人公は昔、趣味で蝶と蛾をコレクションしていました。コムラサキというレアな蝶を捕まえたので、隣に住むエーミールという少年に披露したのですが、こいつが憎らしい!「確かに珍しい蝶だね。でも標本の作り方がよくないし、他にも…」とダメ出ししてくるのです。プライドを傷つけられた主人公は「もうエーミールには何も見せない!」と決めるのでした。
ところが2年後、エーミールがクジャクヤママユという超レアな蛾をゲットしたと話題になります。これだけは見せてほしいと主人公はエーミールの部屋を訪ねるものの、彼は留守でした。勝手に入り込むと、そこには本当にクジャクヤママユの標本が!余りの美しさについつい盗んでしまう主人公。「やっぱり返さなきゃマズいぞ」と改心した時にはもう手遅れで、パニック状態だった彼は標本を雑に扱い、壊してしまったのです。
主人公はエーミールに正直に謝罪しました。怒鳴られてもおかしくなさそうですが、エーミールは「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と冷ややかな声で軽蔑するのみ!主人公は帰宅すると、自分の集めた蝶と蛾を全てつぶしてしまいます…自分への罰なのか、もう自分はコレクター失格だという決別なのか?これが国語ではなく道徳の教科書だったなら、きっと2人は仲直りできていた!?
トラウマを嘆くだけ嘆いたら、思い切って乗り越えよう!
以上、5作品のトラウマをお届けしてまいりました。名作文学は、どうしてこうも一筋縄ではいかないのでしょう?こんな重いお話がどうして国語の教材に選ばれているのでしょう?
もしかしたらこの世界は綺麗事だけでは成立しないのだという、いずれ誰もが直面するであろう現実を、子どもたちに先取りさせてくれているのかもしれませんね。トラウマを教訓に変えられた時、私たちは人として成長できるはず…!