ネットの影響力を感じる出来事
炎天下の5月28日、沖縄のメーンストリートである国道58号線。沿道にはプラカードを手にした米軍人や軍属、関係者が大勢現れ、車を運転中の日本人に向かって頭を下げていた。プラカードに書かれているメッセージは「沖縄のためにお祈りしています」。
女性の遺体を遺棄した疑いで元海兵隊員の軍属が逮捕されたことを受けた動きだ。
これがネット上で話題になり、拡散した。ツイッター上では写真付きの「炎天下の中アメリカ人が頭を下げて来た。胸が痛みますな。いい人もたくさんいるのに」という投稿は5万6000回以上リツイートされた。
翌々日の30日、私は身をもってネットの影響力を感じた。その日、早稲田大学ジャーナリズムスクールで8人の大学院生を前に講義をした。「頭を下げる米軍人」の話を知っているかどうか聞いてみたところ、何人もの院生が「知っている」と答えた。主要メディアはそろって無視していたのに、である。
実際、29~30日の3日間について全国紙5紙のほかNHK、共同通信、時事通信を調べたところ、「頭を下げる米軍人」の記事はどこにも見当たらなかった。各社とも那覇支局を置いているのに、取材した形跡がないのだ。
例外は沖縄の地元紙である琉球新報で、29日付朝刊の30ページに記事を掲載(http://ryukyushimpo.jp/news/entry-287997.html)。同記事によると、地元の教会「ネイバーフッドチャーチ沖縄」の呼び掛けに信徒のほか米軍人・軍属らが応じ、最大100人が沿道に集まって頭を下げた。
なぜ主要メディアは「頭を下げる米軍人」を無視したのか。「被害者の沖縄、加害者の米軍」の側面を強調するうえで邪魔だと判断し、意図的に無視したのか。だとしたら報道機関としての王道を踏み外している。報道機関は物事には常に両面あるという認識に立ち、複眼的にニュースを捉えなければならない。
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