インタビュー
[COMPUTEX]「GeForce GTX 1080」のプロダクトマネージャーに,発表直後の「Radeon RX480」についてアレコレ聞いてみた
お互いの弱点を指摘し,それを改善したら,相手が持つ別の弱点を見つけて指摘し返すといった具合に,1990年代から続く終わりのない戦いであるが,両社が戦い続けることで,リアルタイムグラフィックスの進化が加速されてきたというのも事実である。
古い話になるが,有名な事案に「ピクセルシェーダの演算精度問題」というのがあった。ATI Technologies(当時,以下 ATI)のRADEON 9000シリーズでは,32bit精度の浮動小数点データを扱っていても,最大24bit精度に丸め込まれてしまうという問題をNVIDIAが指摘したことがあったのだ(関連記事)。
それに対してATIは,GeForce FXシリーズではレンダリングパイプラインの本数よりも,実行ユニットやテクスチャユニットの数が少ないため,実効性能が低いことを指摘し返した(関連記事)。当時のATIは,「(アソコの)24パイプはパイプドリーム」(※Pipe dreamには空想,夢物語という意味がある)という英語ダジャレのTシャツまで作り,NVIDIAをいじり倒したものだ。
両社の喧嘩は昔話ではなく,今でも続いている。近年における喧嘩の事例としては,AMDが「NVIDIA GPUでは,Direct X12のAsync Compute機能が正しく動作していない」と批判していた(関連記事)。
それに対してNVIDIA側は,「それは仕様ですけど何か? 改善は次期モデルで行うんで」と事実上完全スルーして,2016年5月には,その改善を取り入れた「GeForce GTX 1080」を発表している(関連記事)。
一方がどこかの会場で技術説明会をやると,翌日にはもう一方が,向かいのホテルでネガキャンイベントを開催するというところにまで行き着いてしまったのだ。GeForce GTX 1080の技術説明会では,NVIDIAがイベント開催場所のウソ情報を事前にリークして,AMDが近所でネガキャンイベントを行えないようにするといった騒動にまで発展している。
そのとばっちりを喰っているのは,筆者のようなジャーナリストで,イベント開催直前まで,具体的な開催場所どころか渡航先の都市すら明示されないため,渡航手段の確保に支障をきたす有様だ。「君たちは,いったい何をやっているんですか?」と問い詰めたい状況になってきている。
GTX 1080のプロダクトマネージャーに聞く
Radeon RX480登場の影響
渡航の件はともかく,筆者としては,両社の喧嘩に対して,「火に油を注ぐ」ことに義務感を感じている。そこで,AMDのイベントがあったその日のうちに,NVIDIAでGTX 1080のプロダクトマネージャーを務めるJustin Walker氏に取材を申し込み,話を聞いてみた。
COMPUTEXメイン会場のNVIDIAブース。ここでの主役はGTX 1080だ |
Justin Walker氏(GeForce Senior Product Manager,NVIDIA) |
「AMDのプレスカンファレンスをすべて見たわけではないけど,まぁ,いくつか語れることはある」とWalker氏。氏が,まず強調したのは,「GTX 1080が,世界最速のGPUであることに変わりはない。ここはいいよね」ということ。たしかに,この事実をAMDも否定はしていない。なにしろ,「Radeon RX480を2枚使って,GTX 1080と同じ性能になる」と,AMD側がプレゼンしているのだから。
仮想現実(以下,VR)は,グラフィックスに対する性能要求の厳しいアプリケーションなので,GPUの性能は,高ければ高いほどいい。AMDのRadeon RX480は,あくまで「VRに適応できる性能を有している」のにすぎず,GTX 1080とは違って性能に余力がない,というのがWalker氏の主張だ。
PC用VRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)の2大巨頭といえば,HTCの「Vive」とOculus VRの「Rift」であるが,映像の解像度はどちらも2160×1200ドット(※片眼あたり1080×1200ドット)である。GPUレンダリング解像度としては,およそフルHD(1920×1080ドット)+α程度にすぎない。この解像度を90fps程度で描画できる性能があれば,VR対応と謳えるわけである。
また,氏は「Riftが要求する推奨GPUは確認したかな? NVIDIAのほうは『GeForce GTX 970』(※単精度浮動小数点演算性能は約3.5TFLOPS)以上だが,AMDのほうは『Radeon R9 290』(※同約5 TFLOPS)以上となっている。NVIDIAの場合,先代のGTX 970でも十分なVR対応能力があるということだ。そして我々はGTX 970の後継的製品である『GeForce GTX 1070』(※同約6 TF
Radeon R9 290の公称性能値は約5 TFLOPSで,新製品のRadeon RX480も5 TFLOPS以上だから,演算性能に大きな差はない。ただし,Radeon RX480の想定売価は199ドルなので,Radeon R9 290の399ドル(※発表時点での税別想定売価)に比較すれば安くなっている。きつい言い方をすれば,Radeon RX480という製品は,アーキテクチャの変更によって性能を維持しながら,想定売価を引き下げただけの製品といえなくもない。
「価格に視点を移そうか。現在の店頭売価だと,GeForce GTX 970(以下,GTX 970)は279ドルで,Radeon R9 290よりも1つ上位クラスの『Radeon R9 290X』(約5.5TFLOPS)は,249ドルくらいかな。Radeon RX480とRadeon R9 290Xの価格差は,50ドルちょっとという感じだろう。もっとも,GTX 970は事実上の製造終了となる製品なので,今後,継続販売することはないけどね」
「さて,VR対応のPCを自作しようとすれば,最低でも1000ドルはかかる。VR HMDはさらに600ドルくらいだ。これだけの予算をやりくりする中で,50ドルをGPUで節約するよりは,50ドル高いGPU(=Radeon R9 290X)を選択したほうがいいと僕は思うね」(Walker氏)
このようにWalker氏は,VR対応のPCを自作したり購入したりするならば,VR HMDを動かすのに最低限必要なだけの性能を目指すのではなく,より高い性能を目指したほうがいいと,繰り返し強調していたのが印象的であった。
ついでにWalker氏は,もう一言付け加えている。「すでにレポートが上がっているみたいだけど,彼ら(※AMD)がプレゼンテーションで使っていた『Ashes of the Singularity』の性能比較を見た? 右側にあるGTX 1080のほうが,ディテールが細やかだったのに気が付いたかい。たぶん,GTX 1080のほうがグラフィックスオプションの設定は高いと思うね(笑)」
VRに興味のある人やコンテンツ開発者は,
「VR Funhouse」を体験してほしい(Walker氏)
GTX 1080のFounders Editonは,メーカー想定売価が699ドルだったが,実際の店頭売価は,日米のどちらも想定売価よりもだいぶ高い。この点についても聞いてみた。
「初物価格ということだね。実勢価格が高騰していることは,我々も把握している。これは市場のダイナミクスだから,我々にも制御しきれない部分がある。ただ,量産はうまくいっているので,いずれは適正価格に落ち着くとは思うよ」(Walker氏)とのこと。当面は高値が続きそうである
最後にWalker氏から,日本のNVIDIAファンに向けたメッセージを預かってきた。
「VRに興味がある人は,ぜひ『VR Funhouse』を試してみてほしい(関連リンク)。VRの楽しさは,仮想世界とインタラクト(相互作用)できることが大きい。VR Funhouseは,仮想世界に登場するさまざまなキャラクターや道具と,非常に近づいてのリアルタイムなインタラクションが楽しめるので,VR入門にはもってこいだ。さらに,開発者の諸君。VR Funhouseは,オープンソース化してあるので,自身のVRコンテンツ制作に向けて役立ててほしい。ゲーム本編はSteamで無償提供するし,オープンソース版は『VRWorks』にて提供するので,ぜひチェックしてみてくれ。それと,Insomniac Gamesが開発したVRゲーム『The Unspoken』もお勧めだ。対戦型のVRゲームには,新しい楽しさがあるね」
NVIDIAのCOMPUTEX TAIPEI 2016特設ページ(英語)
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