とても納得できる説明ではない。安倍首相のきのうの記者会見はそう評価せざるを得ない。

 アベノミクスは順調だ。しかし新興国の経済が陰っている。だから来年春の10%への消費増税は延期し、この秋に大胆な経済対策をまとめる。財政再建の旗は降ろさない――。発言を要約すればこうなる。

 納得どころか、「アベノミクスのエンジンを最大にふかす」と強調されては、その危うさがさらに膨らみかねないと不安が募る。

 リーマン・ショックや東日本大震災のような経済混乱が生じない限り、10%への消費増税は必ず実施する。前回、消費増税の延期を表明した14年11月の記者会見以来、首相はこう繰り返してきた。

 きのう首相は「リーマン・ショック級の事態は発生していない」と認め、熊本地震を理由にするつもりもないと述べた。一方で、雇用の増加や所得の上昇を挙げ、アベノミクスの成果に自信を見せた。

 ならば、財政再建と社会保障財源充実のために、消費増税を予定通り実施するのが筋だ。

 首相が引き合いに出したのが、中国をはじめとする新興国経済の不安である。

 先の伊勢志摩サミットでは何度もリーマン・ショックに触れ、英独両国の首脳らから異議が出た。今回はリーマン・ショックとは異なることを認めたものの、海外経済の不透明感を増税延期の理由にするのは、新興国への責任転嫁に等しい。

 首相は2年半の先送りについて「20年度の財政健全化目標を堅持するギリギリのタイミングにした」と言う。

 健全化目標は、消費増税を実施し、毎年度3%を超える経済成長を達成してもなお及ばない遠い目標だ。不断に予算を見直し、地道な努力を積み重ねることが不可欠なのに、経済対策というカンフル剤による税収増を当て込むばかりでよいのか。

 首相はこの新たな判断について「参院選を通して国民の信を問う」という。

 増税の必要性は理解してもそれを歓迎する国民は少ない。朝日新聞の世論調査でも、10%への引き上げを「延期すべきだ」とした人は59%で「すべきではない」の29%を上回っている。

 不人気な政策の先送りを問うことで自らの公約違反にお墨付きを得ようとする。これは、国民感情を逆手にとった有権者への責任転嫁でもある。

 参院選で問われるべきは、むしろこうした首相の身勝手さではないか。