今から遡ること10年以上前。今で言う「オン専活動」といえば、同人サイトが全盛期だった時代があった。
あの頃はホームページ(今でこそ死語に近いが、当時はウェブサイトをそう呼ぶのが主流だった)は誰でも立ち上げられるものではなく、
HTMLやFTP、CGIからJava Scriptに至るまで、あらゆる知識と時間が必要で、コンテンツの配信よりも己が城を築くことに意義があったように思う。
実際、日記は頻繁に更新されるのに、肝心の「イラスト」や「小説」などのコンテンツは貧相なもので、下手をするといわゆる「工事中」なものも多かった。
当時の交流はBBSが主流で、そのサイトの管理人さんと仲良くなるには
じりじりとにじり寄り、乙女ゲームのように着実に好感度を上げていく作業が必要であり、
今のように簡単につながることも、まして気軽に会話をすることも出来なかった。
「亀レス」を自称する管理人さんのレスがいつカキコされるのかと、朝起きてからすぐにPCの前にすっ飛んでいき
朝の短い時間の中でBBSにアクセスしたのもいい思い出である。
当時を振り返ると、よくオフラインでの出来事を「現実」と言っていたように思う。
オンライン(こういう言い方もしなくなったが)はあくまで仮想現実で、現実とは地続きではなかった。
11時から8時までというテレホタイム縛りがまた、その現実逃避感を加速させていたのかもしれないが、
四苦八苦して自分の城を開設し、たいしたコンテンツもないのに頻繁に「改装」をし、あらゆる検索サイトに登録してアクセス数の伸びに一喜一憂してたあの時間。
オンラインこそオタク活動の全てだったように思う。
今はスマホなどの普及で、どこにいても、何時でも気軽にオンラインにアクセスできること、
当時と比べ、圧倒的に即売会参加などのオフ活動へのハードルが下がったこと、
そして、カフェイベントや各種コラボイベントなど、オフラインで楽しむオタク活動が増えたことにより、
オンラインはオタク活動の手段のひとつとなってしまった。
当時は信じられなかったが、オンラインで知り合った人とも気軽に会って、すぐに旧知の友のようになれる時代だ。
ここでタイトルの話になる。
2ちゃんねるには、「ヲチ板」というものが存在する。
多くの作家が恐れおののくそれは、開けば心臓が冷え固まるような他人の悪口で埋め尽くされている。
誰が書いたか、そしてどれだけの人が見ているのかを知る術はなく、目にした人の中に疑心暗鬼を産み、創作意欲を急激に萎縮させる。
一方住人にしてみれば、人に話したいが共有するのが難しく、だが黙ってみているにはあまりにもこそばゆい、いわゆる「痛い人」「厨」などをニラニラ観察できる場所である。
放置している分にはストレスだが、誰かと共有して観察する分には楽しい。
「晒しあげの火種は基本知り合い」と言われるヲチ板は生まれるべくして生まれた場所でもある。
オンライン活動に死力を尽くしていたあの頃、ヲチ板に書かれることほど恐怖なものはなく、
書かれて叩かれてしまえば、人生の終わりのような気分だった。
飾り程度にある「おさわり、凸禁止」などのルールなどはどこへやら、
苦労して作った城であるサイトは荒らされ、ウェブ拍手には嫌がらせのコメントが相次ぎ、「晒された者は何をされてもしょうがない」という状態になるのだ。
私が「ショックで食事も喉を通らない」を経験したのは、後にも先にも自分のサイトが2chに吊るしあげられた時だけだ。
現在、古い友人らと飲みながら、2chの話になる。
「そんなことしたら書かれちゃうよね」とか「叩かれるの嫌だからムリ」とか
同人者同士の会話ならばふざけ半分で、当たり前のように出てくる会話だ。
自分が叩かれたときの話や、自ジャンルでアイドル化した厨ちゃんの話。
そして口にした後、決まって今までとは違った恐怖や寂しさを感じる。
「2chに書かれるのが嫌だ」という抑止力で、痛い行動や言動を抑えてきた私達ネット中年。
毒舌ネットマナーにマナーを学び、半年ROMって初めてカキコしたものの名前をsageでageてしまったあの頃。
SNSが主流の現代において、気軽にアカウントを変え別の人として生まれ変わることが造作でもない。
逆に、荒らす行為自体のハードルも格段に上がった。
いちいちアカウントを登録したところでブロックが容易にできる安心感が、
おそらく二次創作をサイト文化からSNS文化に移行させた要因の一つでもあるのだろう。
規約違反であるそれを率先してやるほどの私念をもたれない限り、
「荒らされる」ということ自体が無縁で、興味の移り変わりも早く、例え炎上をしてもすぐに沈下する。
それに加え、ネットが居場所ではなくただの手段になってしまった現在、
もはやヲチ板で何を言われていようが、ネット中年ほど気にする若者はいないのかもしれない。
あの恐怖を全く知らず、ネット社会を生きる現代っ子達が羨ましくもある。
「今はあまりにアイドルが多すぎて、スレの2から先がもう似たような箇条書きのようだよ」と友人が笑っていた。
もう中年にさしかかろうと言う私達が、恐れおののき、また無理やりリテラシーを刷り込まれた天敵2ちゃんねるは、私達と共に衰退していくのだろうか。
こうして整理して書いてみれば、あの漠然とした恐怖が薄まることにもう少し安堵感があるかとおもったのだが、
慣れ合いと自己顕示欲にまみれたタグだらけのTLを覗いて、倦怠感が薄い膜を張った。
>当時は信じられなかったが、オンラインで知り合った人とも気軽に会って、すぐに旧知の友のようになれる時代だ。 そうかなあ。逆に気軽に会える分、旧知の友のようになりにくい...